IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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十二時どころか六時ピッタリに投稿できなかった私をスリッパで叩いて下さい。顔か尻かは、皆様にお任せします(なげやり)


第46話 鋼鉄の龍王

「アレが………もう一つの伝説幻装(エンシェントレガリア)

 

 

その名は二度、聞いたことがある。

一つは一夏達と戦闘したイルザの会話の記録で、そして二度目はその存在を詳しく示す書類によって。

 

 

伝説幻装(エンシェントレガリア)』。

ISに唯一対抗できる『幻想武装』という二十の兵器の進化形。いわば、全ての幻想武装を越えるために開発された究極の兵器。

 

その一つを纏うイルザは無限の再生能力と強力な火力を有していた。本人との適性も高く、一夏と箒のタッグを簡単に圧倒して見せた。

 

『伝説幻装』は二つだけしか無いとされている。一つはイルザのフェニックス。そしてもう一つが、今現在シルディが纏う『バハムート』であった。

 

 

ふと、ラウラが個人通話(プライベート・チャンネル)を隣の二人に繋げる。反応しないように、視線で促しながら、目の前の相手に悟られぬように告げる。

 

 

 

『────鈴、シャルロット。私が奴の動きを止める。その間の隙を作ってほしい』

 

『ラウラ?でも、危険じゃあ………』

 

『危険だからこそ、初手で仕留める。奴がイルザのような不死であれば対処が出来ん。馬鹿げた能力を使われる前にここで─────』

 

 

 

直後だった。

目の前に立っていたはずのシルディが、突然消えた。話しながら、目の前に意識を向けていたラウラは驚愕を隠しきれず、眼を見開く。周囲に視線を向けようとしたその時、ラウラの視界に黒い影が入り込んだ。

 

 

そして、突如姿を見せたシルディが、ラウラを蹴り飛ばした。メキッ! と、黒い装甲を纏う脚がラウラの腹に食い込み、彼女を吹き飛ばした。

 

 

「ラウラッ! このぉ!!」

 

 

パートナーを攻撃した相手に、シャルロットが反撃を行う。的確に撃ち込まれたはずの銃弾であったが、シルディは一瞬でその場から消えていた。いつの間にか、さっきまでいた場所に戻っていたのだ。なんてことない様子で。

 

 

歯噛みしたシャルロットだが、すぐに吹き飛ばされたラウラの元へと駆け寄る。

 

 

「ラウラ!大丈夫!?」

 

「あ、ああ………シールドが削られたが、それ以外は何とも」

 

「────悪いな」

 

 

シルディがふと声をあげる。振り返った三人は、シルディが何か巨大な黒い鉄の塊を片手で持っているのが見えた。一瞬訝しんだが、ラウラはいち早くそれが何なのか気付く。

 

 

それは、シュヴァルツェア・レーゲンの大型リボルバーカノンであった。

 

 

「貴様………ッ!?」

 

「今の俺には遠距離攻撃が無いから、遠くからチマチマ撃たれたらどうしようもないから…………潰させて貰った。一番強そうなこの武装から」

 

 

話終えた直後、シルディは引きちぎったであろうリボルバーカノンを片手で握り砕いた。無数の部品と転がった残骸を前に、シルディはニヤリと笑う。

 

 

「───さぁ?誰から来る?それとも、また俺に先手を譲ってくれるのか?」

 

「!上等じゃないっ!」

 

 

シルディの挑発に応えるように、鈴が飛び出す。両肩の衝撃砲の照準をシルディへと定め、チャージを始める。その様子を見て、呆れたような笑いが漏れる。

 

 

瞬間、シルディの姿がまた消えた。さっきと同じ現象に鈴は思わず飛び退く。直後に、彼女のいた地面にシルディが拳を打ち込んでいた。

 

 

「惜しい、あと少しでその武装も壊せたが────今度は外さない!」

 

 

踏み込んだシルディが視界から消え去る。今度こそ何が起こっているのか、見定めようとしたが、無理であった。ハイパセンサーでも捉えられぬまま…………衝撃砲の片方が、シルディの右腕にぶち抜かれた。

 

 

「っ!わざわざ近付いてくれてありがとう!」

 

 

けれど、鈴はしたり顔で笑う。もう片方の衝撃砲をシルディへと固定し、至近距離から衝撃の砲弾を撃ち込む。最大出力の砲撃を受けたシルディは大きくよろける────

 

 

 

 

「────今のが全力?」

 

 

───ことなく、平然と笑い返す。全身に衝撃砲を受けたはずだが、黒い鎧には傷一つなく、ダメージすら受けてない様子であった。

 

 

「う、ウソでしょ!?近距離からぶちかましたのに、無傷!?」

 

「………残念だけど、それが事実だからな。諦めて受け入れてくれよ、なっ」

 

 

言いながら、シルディの腕が残っていた衝撃砲を打ち砕く。地面に落下した破片を踏みながら、シルディは腕を突き刺したままの衝撃砲を引き剥がそうとしていた。

 

 

「鈴!離れて!」

 

 

そう言って、シャルロットが飛び出す。真横から無防備なシルディに目掛けて、左腕部から展開した六九口径パイルバンカーを打ち込もうとする。

 

 

片腕の衝撃砲を引き剥がしたシルディは、シャルロットの追撃を避けようともせず────右手を突き出す。放たれたパイルバンカーの重撃を掌で受け止める。

 

 

ズドォンッ!! と、鈍い音と衝撃が響き渡った。しかし煙の向こうにいるシルディは、パイルバンカーを普通に止めていた。震える腕を見ながら、シルディは告げる。

 

 

「………流石に今のは、痛かったな」

 

 

大して攻撃が効いてない事に唖然とするシャルロット。そんな彼女に、シルディはゆっくりと腕を伸ばす。彼女を捉えようとしたその腕が至近距離まで近付いた瞬間、ピタリと静止した。

 

 

「………?これは」

 

 

シルディ自身も、その違和感を理解したのか首をかしげる。その現象に気付いた鈴とシャルロットは距離を取りながら、振り返った。

 

 

「ラウラ!」

 

「────今の間に、体勢を立て直せ!私が奴を引き留めておく!」

 

「違うっての!アイツ、止められてない!無理矢理動こうとしてるけど!?」

 

 

慌てて視線を直すと、AICによって全身の動きを止められたシルディがいた。しかし空間ごと固定されたはずのシルディの身体は、少しずつ、力ずくで動かされている。

 

 

「馬鹿な………!?AICを無理矢理に破ろうとしているのか!?」

 

 

ラウラの言葉に、シルディはニヤリと笑い返す。AICで静止した身体を強引に動かす敵に、ラウラは左目の眼帯に手を掛け、むしり捨てた。その奥にあった金色の左目『ヴォーダン・オージェ』を解き放ち、AICの効果を数倍に引き出す。

 

 

「これならば!どうだっ!!」

 

 

ガグンッ! と、今度こそ完全にシルディの全身が停止する。動かなくなった黒い鎧の青年はそこで完全に笑顔を消した。そこで安堵したようにラウラは、二人に指示を送ろうと視線を動かした。

 

 

 

その瞬間、シルディの鎧が可変する。胸元の装甲が展開し、熱と光を内包したコアが大きく回転する。肩や腕や脚の装甲が開閉し、深紅のエネルギーが吹き荒れていく。深紅のエネルギーに包まれたシルディの身体が、徐々に動き出した。

 

 

 

「───なっ!?」

 

 

今度こそ、ラウラは目の前の事が信じられなくなる。AICの効果はどんなものにも作用する。誰であろうと、AICの停止結界の効果を受けなかったものはいない。突然、それを自力で破った者はいない。

 

 

だが、目の前に立つシルディは力ずくでAICを破ろうとしている。実際に停止結界の中で少しずつ動いている事自体、一度もあったことはない。

 

 

「意識が────揺れたな」

 

 

瞬間、背中や腕、脚から深紅のエネルギーを噴き出したシルディの姿が視界から消える。いや、違う。凄まじい速度で飛び込んできたのだ。ラウラのすぐ近くへと。

 

 

「『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』!?馬鹿な、この出力は普通のISを超えて────」

 

「悪いが、一撃で決めさせてもらう」

 

 

シルディの腕が、ラウラの首を捉える。一瞬で彼女の首を掴み、そのまま持ち上げた。ガッシリと締め付ける指には信じられない程の力が込められており、両手で引き剥がそうにも難しい状態であった。

 

 

 

「────ドラグニック・チャージ」

 

【チャージ────ドラグニックエンジン、オーバーブースト】

 

 

カチリ、とコアに内蔵されたリアクターが稼働する。全身から凄まじい量の深紅のエネルギー粒子を収束させ、コアの部分で増幅させる。造り出されたエネルギーは全身に行き渡り、右手の拳に集まっていく。

 

 

カチカチ、と腕部分の装甲が開く。強く握った拳を構え、シルディはラウラの首を掴んでいた手を離した。

 

 

 

 

 

「────“インパクト・ブレイク”」

 

 

瞬間、シルディは深紅のエネルギーを纏う拳をラウラに叩きつけた。肘の部位に展開されたスラスターから無数のエネルギーが吐き出され、撃ち抜かれた拳は砲弾のような勢いで炸裂した。

 

 

「が、ッ────」

 

 

それだけが、コンクリートの建物に砕いたラウラの漏らした声であった。ISによる絶対防御は作用していた。しかし、それ以上のダメージが防壁を通過し、彼女にも届いている。その証拠として、彼女のIS────シュヴァルツェア・レーゲンは、青いプラズマと火花を放ち、機能不全に陥っている。

 

 

「これで一人ダウン、後は───」

 

「うっ、あああああああッ!!!」

 

「────二人目、いやまずはあっちか」

 

 

そう言いながら、シルディは二丁のショットガンを乱射するシャルロットから視線を外す。先程と同じように、「ドラグニック・チャージ」と告げ、片腕と片足に深紅のエネルギーを行き渡らせる。

 

自身に叩きつけられる散弾を受けながら、シルディは跳んだ。シャルロットの方に飛びかかる───ように見せ掛けて、死角から此方を狙っていた鈴の真後ろへと高速で移動する。

 

 

「ッ!いつの間に────」

 

「“インパクト・ブレイク”」

 

 

振り返る隙も与えず、背後から深紅のエネルギーを帯びた脚で蹴り跳ばす。貫くように放たれた蹴りが鈴に直撃した瞬間、凄まじい爆破と衝撃が彼女のISに炸裂した。

 

 

「二人目────最後が君だ」

 

「う、あああああ!!!」

 

 

吹き飛ばされ、近くの残骸に叩きつけられた鈴から視線を離す。悔しそうに、歯噛みしたシャルロットが叫びながら両手の銃とショットガンを乱射する。無数の銃弾と散弾を前に、シルディは爪先を叩き────正面から突破する。

 

 

深紅の軌跡が、弾丸の雨を綺麗に避けていく。すぐに距離を縮めたシルディに、シャルロットは通じないと分かっていながらもパイルバンカーを構えた。

 

 

しかし、シルディの手が打ち抜かれようとしたパイルバンカーに放たれる。深紅のエネルギーを帯びた拳が、鋭い杭を逆に破壊した。飛び散る部品を前に、シャルロットは避けることも出来ず、反動に仰け反っている。

 

 

その無防備な彼女に、シルディは両腕の拳を深く落とす。胸元のリアクターを超速で稼働させ、深紅のエネルギーを倍増させる。

 

 

「───“インパクト・デュアル・ブレイク”」

 

 

そして重ねた二つの拳を、シャルロットに叩きつけた。パイルバンカーのように重く打ち込まれた拳はシャルロットに直撃した瞬間、打ち込まれた衝撃と深紅のエネルギーを一気に暴発させた。

 

 

悲鳴はなかった。

近くの壁に叩きつけられたシャルロットは絶大な衝撃に意識を刈り取られていたのだ。絶対防御は作用していたのか、彼女の身体に目立った怪我はない。しかし彼女のISも半壊し、使い物にならなくなっていた。

 

 

辺り一帯の状況を確認し、手を開閉していたシルディは意識がないであろう少女達に優しい声音で呟いた。

 

 

「…………準備運動、には充分だったぜ」

 

 

そう言って、シルディはその場から立ち去ろうとする。地下でヴァルサキスの破壊という目的を達成するために先に向かった仲間達の援護に向かおうと考えていたシルディだったが、ふと歩みを止める。

 

 

真後ろの瓦礫が、崩れる音が鼓膜に届いたのだ。そして、その場に立っている気配も。

 

 

「────待ち、なさいよ………っ、まだ、終わってない、っての………!」

 

「…………」

 

 

ボロボロの甲龍を纏い、立ち上がる鈴。仕留めきれなかったら事実にシルディは驚きもしない。殺すつもりはなかった。三人とも、無力化する程度のダメージに済ませておいたのだから。立ち上がる余力があるなら、不可能ではないはずだ。

 

 

「止めておくんだ」

 

 

だからこそ、静止した。今からでも戦いを続けようとする鈴に、シルディは掌を突き出して停止を促す。無力化する程度のダメージを与えたが、ISは徹底的に破壊した。次の攻撃で、もしかしたらISは強制解除される。

 

そして、その攻撃のダメージを守る防御は存在しなくなる。そうなれば、生命に関わるだろう。

 

 

「俺達の目的はヴァルサキスだけだ。それ以外の被害を増やすつもりも理由はない。だから、無駄な戦いは止めるんだ」

 

「…………ヴァルサキス、だけ?なら、ヴァルサキスの頭脳である人工知能も破壊するつもりなの?」

 

「────アレが、ヴァルサキスのコアならば。破壊も已む無しだ」

 

 

同じ事をさせないように、危険因子は排除すると、シルディは淡々と告げる。アナグラムのリーダーとして、アナグラムの脅威を排除するという意思は強かった。

 

 

だが、その答えを聞いて鈴は逆に笑った。そしてシルディの忠告を拒否するように、戦意を更に高める。

 

 

「なら、黙ってるワケないでしょ……っ!」

 

「───分かった。ならば、大人しくしててくれ」

 

 

諦めたようにシルディは両目を閉ざす。瞬間、全身の鎧から深紅のエネルギーを噴き出し、足を踏み込む。さっきと同じ、超加速の前兆。

 

 

しかし、今の鈴にそれに対応できる程の余力は残っていない。今も何とか立ち尽くすことしか出来ないのだ。それでも、全身の力を絞り出すように、鈴は自身の腕に力を込める。少しでも、シルディをこの場に押し留めるように。

 

 

────大切な友達を守りたいと叫んだ少女の願いに、少しでも応えるように。

 

 

 

ドッ!!!、と。

シルディが超速で距離を縮める。意識も朦朧としている鈴の意識を完全に落とすために、シルディが腕を伸ばす。あと一撃、少しでも叩き込めば彼女は完全に倒れる。そう確信したシルディの拳が、鈴の身体に打ち込まれる──────

 

 

 

 

 

 

 

直前に、滑り込んできた白い刃がそれを受け止めた。

 

 

「ッ!?」

 

 

超高速で動いていたシルディは、自分に対応したその刃に驚き、その刃の持ち主を見て更に驚いた。

 

 

「俺の仲間に────何してんだ!!」

 

 

織斑一夏。

この場にはいないはずの青年が、シルディの拳を受け止めていた。自らのIS 白式を纏いながら。

 

 

◇◆◇

 

 

時は少し前に戻る。

ロイド一人に翻弄されていた一夏と箒。少しずつ老紳士の動きに慣れてきた瞬間、ロイドはふと動きを止めた。

 

 

「…………フム」

 

「どうした、何故止まる」

 

「────止めましょうか、二人とも」

 

 

突如として銃を下げ、幻想武装を解除するロイド。その掌に持っていたクリスタルを軽く放り投げ、一夏と箒の近くへと転がす。

 

何度か地面を跳ねたクリスタルが宙に浮いた直後、

 

 

「わっ」

 

 

クリスタルの中から、シエルが飛び出してきた。『クローム・オスキュラス』を纏う彼女は慌てた様子であったが、すぐに体勢を立て直す。

 

 

シエルが無事であったことを確認した二人は安堵するがすぐに、ロイドへと身構える。突然、シエルを解放したのは何故なのか、アッサリと戦闘を止めようとしたのも理由があるのか、怪訝そうな一夏と箒に、老紳士は淡々と答えた。

 

 

「シルディ様が動かれました」

 

「っ、シルディ!?」

 

「アイツが!?」

 

 

一度対面したことのある青年の名が出たことに、一夏や箒は純粋に驚いた。

 

 

「どうやらあの御方も身体を動かしたい様子…………さて、貴方達も向かうならば早く行きべきでは?」

 

「…………シルディが動いたってだけで、俺達を見逃すのか?」

 

「当然。言葉が過ぎるようですが、シルディ様はこの場の誰よりも強い。織斑千冬がISを持って来るのであれば話は変わりますが、それ以外であれば話にならない」

 

 

丁寧な気配りに滲むのは、冷徹な決意。先程までの労りとは違うそれは、純粋に強さを評価しての言葉だ。一夏達ではシルディを止めることすら出来ない、と断言しているロイドに少しムっとなる一夏。

 

 

「急いだ方がよろしいですよ。シルディ様は三人の候補生と交戦しているようだ。…………貴方達の仲間だと思いますがね」

 

「ッ!?まさか、鈴達か!?」

 

「やはり、御仲間でしたか。ならばこそ、急ぐべきかと。今のところシルディ様が圧勝です。制圧されるのも、時間の問題かと」

 

「────ッ!」

 

否定しようとして、轟音が響き渡る。そしてハイパーセンサーの反応が少しずつ途絶えている。いや、ISが強制的に解除される反応があった。

 

瞬間、一夏は形振り構わずその轟音の方向へと飛んでいく。箒もその後を追い、置いていかれたシエルも戸惑いながら二人へ着いていく。

 

 

一人きりになったロイドはふと、静かに息を漏らす。過ぎ去った背中を見つめ、懐かしむように呟く。

 

 

 

「直情的な子だ。昔の貴方にそっくりだ────数季様」

 

 

 

◇◆◇

 

 

「………」

 

「…………」

 

 

シルディと一夏。

二人の青年が相対する。一夏は雪片弐型を構え、何時でも斬りかかれるように呼吸を整えていた。一秒でも、相手の動きに遅れないように。

 

 

一方で、シルディは全くの真逆。一夏を前にしても、強い警戒を見せてはいない。先程の斬撃による腕の装甲の破損を確認していたが、すぐに一息つく。

 

 

瞬間、シルディの装甲の傷が塞がる。ナノマシンでも使っているのか、一瞬であった。シルディは自身の腕の軽く回し、ゆっくりと口を開く。

 

 

 

「─────どうして彼等を見逃したんだ?ロイドさん」

 

 

直後に、空間が開く。全く別の亜空間が上書きされるように浮かび上がり、そこからロングコートを纏う老紳士が姿を現す。

 

 

静かに立ち尽くすロイドは、シルディの疑問に対し、深く頭を垂れる。そして自身の胸に手を添え、彼の前に跪いた。

 

 

「───弁明はしません、シルディ様。この老いぼれ、どんな処罰でも受ける所存であります」

 

「…………ロイドさん。オレは怒ってる訳じゃない。どうして織斑一夏達を見逃したのか、と聞きたかったんだ。貴方なら、今の彼等なら容易いのに」

 

「………老いぼれの、単なる我が儘にございます。不服であればすぐにでも、責任は取りましょう」

 

「そうか、ならやって欲しいことがある」

 

 

何なりと、と口にするロイドに、シルディは冷静に告げた。

 

 

「あの三人を、安全な場所に連れていってくれ。出来るなら、IS学園の人間の元へ」

 

「────シルディ様、それは」

 

「オレの我が儘だ。それくらいは聞いてくれるだろ?」

 

「…………畏まりました」

 

 

頭を下げていたロイドとシルディが、ふと一夏に視線を向ける。それで構わないか、と確かめているのだろう。ふざけるなと叫びそうになった一夏だが───素直に、武器を下ろした。

 

 

その直後、箒とシエルが追いついてきた。彼女は倒れ伏す三人の少女達と、それに近付いたロイドの姿を見て、激しい怒りを剥き出しにした。

 

 

「ッ!三人に何を───」

 

「待ってくれ!箒!あいつらを信じよう!」

 

「一夏……!?奴等は敵だぞ!?正気なのか!?」

 

 

不安そうな箒の隣で、シエルは一夏の考えに従う様子であった。だが、箒も無言で見返す一夏を信じようと思ったのか、大人しく引き下がる。

 

 

ロイドは気絶した鈴達を地面に寝かせ、彼女達の肩に手を添える。直後、三人はキューブ状の空間に隔絶され、ロイドの掌に収まるサイズの四角形へと変換された。

 

 

そして、ロイドは足元に亜空間を開き、そこへと姿を消した。三人を保護したキューブを片手に持ちながら。

 

 

 

「────これでようやく、話が出来るな」

 

「話が出来る?何を話すって言うんだ」

 

「君達の仲間を傷つけておいて、こんな事言うのは気が引けるんだが………」

 

 

一夏達と、シルディが対立し合う。

目の前の相手に警戒を隠さず、敵意を見せる箒とシエル。複雑そうに構える一夏。気迫にひりつく空気が一帯に広がる中、シルディは本当に気が引ける様子で口を開いた。

 

 

 

「織斑一夏、篠ノ之箒。そしてそこの君も、オレ達の仲間になる気はないか?」

 

 

 

その問いに、一夏達の答えは決まっていた。

 

 

 

 

「断る、に決まってるだろ」

 

「………他の二人も同じようだ。残念、話し合いで解決できれば何より何だけどね」

 

「話し合い、なら俺達もしたい」

 

 

グッと握り締めた拳に力が入る。武器を下ろし、シルディに向き合った一夏は頭を下げて、頼み込んだ。

 

 

「今侵攻しているアナグラムのメンバーを止めてくれ!シエルの友達が、ヴァルサキスに載せられてるんだ!このままだと、その友達ごとヴァルサキスが破壊される!」

 

「──────ミハイル、人工知能の事か。それは無理だ」

 

「何でだ!!」

 

「ヴァルサキスが打ち上げられたら、俺達の仲間が狙われる」

 

 

その言葉を聞いて、ハッとさせられた。アナグラムがヴァルサキスの存在を無視する訳にはいかないのは、自分達の命を狙う兵器であるからだ。

 

 

「オレはオレの仲間を守りたい。お前達の事情があるのは理解するが、それはそれだ。仲間を殺すために造られた兵器の存在を、オレは許せない。それを破壊することはアナグラムの、母さんの意思だ。邪魔はさせない」

 

「それでも!ミハイルは!シエルの友達は、そんな事を望んでないはずなんだ!ミハイルさえ助け出せれば、ヴァルサキスは動けない!だから、ミハイルだけでも────」

 

「じゃあ、誓えるのか?」

 

 

悲痛そうな顔で、シルディは呟いた。

友達を助けたい、その言葉にシルディは一瞬揺らぎかけた。今すぐヴァルサキスの破壊を止めると言いたかった。しかし、それを自らの立場が許さなかった。

 

 

アナグラムのリーダー。多くの戦士の命を任されたその名が、シルディに重くのし掛かっているのだ。だからこそ、感情で答えてはいけない。

 

 

万が一。もしかしたら。

その可能性が、シルディを深く追い詰めていた。この状況で軽はずみな選択をしてはいけない、と、かつてそれで仲間を失った経験が語っているのだ。

 

 

「ミハイルって人工知能が、国連に悪用されないと。悪用された場合、そのミハイルが、オレ達を襲わないって誓えるのか?もし、それが叶わなかったら、ヴァルサキスがオレ達の仲間を殺したとしても、お前は同じことを言えるのか」

 

「そ、それは───」

 

「…………話は、これで終わりだ」

 

 

そう言い、シルディが地面を踏み砕いた。自身の覚悟を決めるために、相手の覚悟を決めさせるための行為である。

 

 

現に今のシルディに迷いはない。既に臨戦体勢へと入っていた。

 

 

「オレを止めたいなら、力ずくで止めろ。さもなくば、誰も守れない。誰も救えないぞ」

 

 

直後、シルディの姿が消える。その場から動いたであろう痕跡を確認した三人は、すぐさま飛び退いた。

 

 

その場所に、シルディが重い拳を打ち付けた。砲弾のように炸裂した重撃はコンクリートの床を砕き、一帯を破壊し尽くす。

 

その圧倒的な破壊力に、一夏は青ざめる。これだけの攻撃を鈴達は受けていたのだ。不安そうな自分を押し殺すように歯噛みし、シルディへと叫ぶ。

 

 

「シルディ!俺が相手だ!」

 

「望むところだ!!」

 

 

シルディもその意思を汲んでくれたようだ。互いに見合う二人は一気に飛び出した。相手との距離を縮めるように、突き進む二人は口を開く。

 

 

ほぼ同時に。

 

 

 

 

「────瞬時加速!」

 

「────超加速(アクセラレーション)!」

 

 

瞬間、一夏の見る世界がスローモーションになる。目の前にいるシルディへ倍速するように飛び出した一夏だが、そこでようやく見える。

 

 

 

深紅の軌跡────深紅のエネルギーを纏いながら、凄まじい速度で走り抜けるシルディの姿が。瞬時加速の感覚が戻っていく間に、その姿はやはり見えなくなる───ことはない。

 

 

超高速で駆け巡るシルディがどのように動いているかは分かった。一夏は瞬時加速により、その場から離脱する。動きを悟られたことに驚いたシルディに、一夏も困惑しながら声に出す。

 

 

「ッ!?今のは、お前の力か!?」

 

「まさか────オレの超加速が見えるのか!」

 

 

愕然としながらも、シルディは空中で体勢を切り替える。発動したであろうシルディの能力、超加速(アクセラレーション)は生半可で捉えられるものではない。

 

 

空中でスラスターの加速により、シルディは一夏をあらゆる角度から翻弄しようとする。これに超加速が重なれば、普通の相手ではどうしようもないものになる。

 

しかし一夏は、超速で動き回るシルディの攻撃に対応していた。振るう拳を避け、無防備となったシルディに刃を振るう。その一撃を腕で受け止め、飛び散る火花の合間に彼等は互いを見据えた。

 

 

「やっぱり!見えてるんだな!オレの動きが!」

 

「ああ!ほんの少し、だけどな!」

 

「見えるだけでも異常なんだよ、この力は!」

 

 

真横から蹴りを放ち、距離を取るシルディに、一夏は左手の『雪羅』を起動させる。展開されたエネルギーの爪が数メートルまで伸び、シルディへと迫る。

 

 

「───嘗めるな!」

 

しかし、振り返ったシルディがそう吼える。胸元のリアクターが一気に稼働し、エネルギーを蓄積させたかと思えば、コアから収束された熱線が放射される。

 

放たれた高熱の光は『雪羅』のエネルギークローと相殺し、一気に爆発する。煙の中でシルディの姿を捉えようとしていた一夏だが、煙の向こう側から飛んできたものを反射的に斬ろうとする。

 

 

「っ!瓦礫!?」

 

 

その瓦礫を半分まで斬った瞬間に、気付く。真後ろからシルディが超加速のまま移動してきたことに。幸い、シルディはすぐに超加速を解いたが、この距離では対応できない。何より、今瓦礫を斬っている状態から、シルディへ対抗する動きへ切り替えるのは不可能に近い。

 

 

「───終わりだ!」

 

 

一夏のシールドを削りきる一撃を放つため、リアクターを稼働させ、拳にエネルギーを纏う。避けられない、避けられるはずがない。そのように瓦礫を打ち込んだ。

 

 

勝利を確信したシルディだったが、視界がずれる。真横から攻撃を食らったと判断したのはすぐだった。

 

 

「ッ!?────!」

 

 

戸惑いながら、すぐに思考を動かす。すぐさま拳を真横へと振るうが、視界には誰もいない。激しい困惑がシルディを襲う。

 

 

可笑しい、先程の攻撃は確かに蹴りのようなものだった。この場に誰もいないのも、その残像すらも見えないのはおかしい。

 

 

そう思ったシルディはすぐに周囲へ広がるセンサーを切り替えた。熱源感知、エネルギー感知、どれも相手を捉えられない。だが、風の動きによって判断する感知機能を発動したことで、すぐにその正体を理解した。

 

 

「ステルスか、厄介だな」

 

 

気付いた時には一夏の姿も見えない。学園内の仲間が集めたデーテには、白式にステルス機能があるなどという情報はなかった。先月の事件の際の、セカンドシフトによる能力追加の可能性もあるが、おそらくはもう一人のISの機能という線が強い。

 

 

「だが!ステルスと分かれば話は早い!」

 

 

そう言い、シルディは後ろから迫ってきた箒の攻撃を受け止める。空気の動きを感じ取り、事前に感知していたのだ。()()()()で斬りかかってくる箒に、難なく無力化しようと両腕で刀を受け止めようとする。

 

 

受け止めた途端、腹に斬撃を浴びたシルディ。彼も予想外だったのか、思考が一気に乱れた。

 

 

(馬鹿な!?何だ今のは!?エネルギーの刃でも飛ばしたのか────いや、いや!)

 

 

腹に当たっているのが、刀であることをようやく理解した後、続いて答えを理解する。透明な刀が、シルディの胴体を斬ったのだ。当然、それを持つのは箒である。無手かと思っていた方の腕は、ステルス機能を受けた武装を握っていた。

 

 

 

(ッ!まさか、武器だけをステルスで隠すことが出来るのか!?)

 

 

一手遅れたことで、思考が戦闘に追いつかなくなる。ふと、一夏が雪羅の荷電粒子砲を構えている姿が見える。しかし、それが発射された瞬間に、シルディがそれを認識する。

 

 

間に合わない、そう判断したシルディの胴体に強力な荷電粒子砲が炸裂する。悲鳴も声もあげる間もなく、シルディは地面に叩きつけられた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

「や、やったか………?」

 

 

ふと、一夏がそう漏らす。何とか三人の連携でシルディを倒すことが出来た。勝った、と誰かが安堵しようとした瞬間、シルディが吹き飛んだ方から幾つかの瓦礫が薙ぎ払われた。

 

 

地面に降り立った三人に、声が響いてくる。

 

 

「やるな────今のは効いたぞ」

 

 

全身の黒い鎧にヒビが入ったシルディ。余程のダメージを受けたのか、自動再生は作用していない様子だった。

 

なのに、シルディの笑みは消えていない。余裕どころか、むしろ戦意に満ちている。戦いはこれからだと言うように、シルディはゆっくりと起き上がる。

 

 

「…………三人の連携でここまでとは。オレも流石に慢心過ぎたな。素直に反省する─────ここからは、オレも少し本気を出す」

 

 

そう言った直後、シルディは手に持っていたものを突き出す。結晶のような物体と、何らかの素材がコーティングされた妙なアイテムだった。

 

それを三本の指で挟み、シルディは淡々と告げる。

 

 

「クラッシュ、コール」

 

 

シルディの呼び声に応えるように、巨大な影が地面に浮かび上がる。空にあると三人が見上げようとした時には、その影が地面へと降りてきた。

 

 

十メートルを軽く有する巨体であった。両腕も胴体に負けず劣らず大きく、削岩機のようなドリルが先にある尻尾が長く伸びている。胴体の上にある頭部はギザギザとした歯が剥き出しになっており、二つの瞳が不気味に点滅する。言葉を発することもなく、その巨体はシルディの真後ろに立ち尽くしていた。

 

 

「何だよ…………コイツは」

 

「“クラッシュ・ドラグーン”」

 

 

シルディが巨大な機体の名を告げる。シルディはその巨体を見上げ、笑みを深めながら話した。

 

 

「万が一、ヴァルサキスと交戦する可能性を考慮して連れてきたオレの装備の一つだ。安心しろ、これで戦うつもりはない」

 

「装備、だと?なら周りを飛んでいるあの竜は───!」

 

「ああ、“ストライカー”と“ブラスター”か。アレは二つのドラグーンが融合したものでな。飛びながら砲撃できるから、オレもよく使っているんだ。ブラスターは機動力に欠けるしな」

 

「っ!じゃあ何だよ!今度はソイツと一緒に相手する気か!?」

 

「話を聞いてくれ、クラッシュを直接使うつもりはない。バハムートにはもう一つ、面白い機能があるしな」

 

 

そう言いながら、シルディは右腕の装甲を展開する。スライド式の装甲の内側にある腕輪にある窪み、先程のクリスタルのようなアイテムを差し込む。その瞬間、翡翠色の結晶の光が更に強まる。

 

 

【リンク接続────ドラグーンアーマー展開、承認】

 

 

「─────装着(ビルド・アップ)

 

 

左手のアイテムの左右のバーを押し込み、シルディは全身を広げる。直後、起動したように動き出した巨大な機体───クラッシュ・ドラグーンが両手でシルディを覆うように包む。

 

 

両手の装甲が解離し、無数のアームがシルディの全身に伸びる。更なる装甲を持ち上げたアームが鎧に上乗せするように纏わせ、装着させていく。

 

掌の中でシルディの姿が更に大きく、歪に変化していく。変形を終えたのか、掌が離れた時にはシルディの姿は前よりも変容していた。

 

 

身軽そうな黒い鎧は上から被せられた重装甲によって分厚く、重苦しく見える。両腕もクラッシュ・ドラグーンのように胴体に匹敵する大きさへと変化し、腰の方には金属で構成された骨格のような尻尾が伸びる。

 

 

口を覆うのはギザ歯の装甲。クラッシュと同じ形状となったシルディは一夏達へと視線を向ける。静かに息を吐いた瞬間、瞳に宿る戦意を高め、喉の奥から叫んだ。

 

 

 

「行くぞぉ!!第二ラウンドだ!!」

 

 

ガシャ、カシャン! と。

背中から展開された装甲が、シルディの顔を完全に覆う。二つの瞳が怪しく光った直後、大柄の体躯となったシルディが巨大な剛腕を大きく振りかざす。

 

 

 

そして、緊張感を新たにする一夏達へと突撃した。圧倒的な暴力を体現するかのような竜の鎧を纏い。




本気で暴れまくるシルディ。因みにこれでも本気であって全力ではない模様()本当は戦いなんてしたくないし、話し合いで全部解決したいというのが本音だけど、アナグラムのリーダー名乗ってるからね。仲間の命を背負ってるから、自分の意思とか主張できないんだよね。悲しいけど
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