IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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戦闘回が、予想以上に筆が乗る(感嘆)


後、皆様。評価いただきまして誠にありがとうございます!


第4話 白銀鎧・蒼銀刃

それから数日。

約束されていたクラス代表決定戦当日になり、第三アリーナに多くの生徒が観客として集まっていた。

 

 

そして、アリーナのピット内にて。

 

 

 

 

「─────正気か?お前ら」

 

 

目尻を揉んだ龍夜の疑問が空気に溶け込む。返答はこない、投げ掛けられた二人は沈黙を貫くしかなかった。その様子に龍夜は溜め息を吐き────、

 

 

 

 

「本当に、ISの事を訓練してないのか?」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

頭を抱える。

自分も訓練機に乗るクラスメイト達の、ある程度の動きについては独自に学習していた。一夏もそれをしていると思えば、彼はISについて全然教えて貰ってないらしい。

 

 

「これに関しては、一夏にも箒にも非があるな。一夏は自分で見学したりもするという点もあったし、箒も剣道の稽古に熱中し過ぎたな」

 

「………おっしゃる通りです」

 

「その通りだ………すまない」

 

 

まぁ、言わなかった自分にも非はあるか、と思う。結局のところ、一夏は実質的な実戦という事になる。だが、問題はもう一つだけ存在していた。

 

 

「…………あの、先生。まだ来ないんですか?」

 

「そ、それは………っ、あと少しで届くらしいんですけど…………」

 

 

困惑する山田先生に、龍夜は顔を露骨にしかめた。一夏の専用機はまだ届いてない。数日も前から届いていた龍夜の専用機とは違い、ここまで時間が掛かるとは思わなかった。

 

 

 

「失礼するぞ」

 

 

そんな事を思っている間に、ピットにやってきたのは織斑千冬であった。しかし、彼女一人ではないらしく、もう一人知らない女性が入ってきた。

 

 

黒髪ロングヘアーにスレンダーな体格をした女性。スーツを着込んだ彼女は千冬や真耶とは違う、独特な雰囲気を醸し出している。

 

 

呆然としている一夏を見た女性は、クスリと笑う。

 

 

「なるほど、織斑少年は私とは初対面だったね。私は霧山友華、一年二組の担任と一年の歴史を務める教師さ。よろしく頼むよ、織斑少年」

 

 

緊張しているであろう一夏に不適にほくそ笑む女性。ふと、沈黙していた筈の箒が鋭い目線を一夏に向けているのに気付いた。本人もそれ気付いたらしく、抗議の眼差しを向けるが、箒はふんと鼻を鳴らして無視をする。

 

 

それが面白いのか笑い出す女性教師、霧山はその二人に呆れたような視線を向けるもう一人の青年に声をかける。

 

 

 

「そして、蒼青少年。入試の(あの)時は見事だったね。我ながら、あそこまで負けるとは思わなかったよ」

 

「───冗談を。手加減していたクセに」

 

「それでもだよ。最初でISを扱いきれたヤツなんて数えられる程しかいないさ…………ねぇ?」

 

 

両手をヒラヒラを挙げる霧山は視線を別の方へと向けていく。千冬から、一夏へと。その僅かな視線に、含んだような意思を感じ取った龍夜。

 

 

しかし、疑問に思う前に、大きく咳き込んだ千冬が話を引き戻した。

 

 

 

「霧山、御託は良い。本題に入れ」

 

「はいはい─────織斑少年、君のISだが先程届いたよ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「勿論。まぁ、すぐには使えないがね」

 

 

その言葉に首を傾げる一夏に、霧山先生は話を続ける。初期化(フォーマット)最適化処理(フィッティング)等、時間が掛かる作業がまだ残っている。順当に行けば最初に参加するのは一夏であったが、実戦でそれらを行うのは流石に酷だろうと考えた結果、結論は決められた。

 

 

「蒼青」

 

「はい、何か」

 

「お前とセシリアの対戦が最初になる。その戦いに勝った方が織斑の相手をする。それで構わないな?」

 

「問題ない。どうせ勝つのは俺だから………いえ、です」

 

 

何時もの調子で宣言しようとして、すぐに敬語で言い直す。まだまだ慣れさせるべきか、という様子の千冬に半ば戦慄を感じ取りながら龍夜は座っていた椅子から立ち上がる。

 

 

「試合は今からですか?」

 

「そうだな、これ以上待たせるのはオルコットにも生徒達にも悪いだろう」

 

「了解しました。今から出ます」

 

 

上着を脱ぎ、黒いISスーツを着込んだ龍夜はピット・ゲートへと歩いていく。そんな彼に、一夏はある疑問を口にした。

 

 

「?龍夜はISを纏わなくても良いのか?」

 

「必要ない。アリーナでも纏えるからな」

 

 

そう言い、片手に持つケースを軽々と見せる龍夜。ゲートの前に立ち、開くのを待ってある間。真後ろから声が聞こえた。

 

 

「龍夜!」

 

「何だ?」

 

「────頑張れよ!」

 

 

 

 

 

「言われずとも」

 

そう言い切ると共に、開いたゲートからアリーナへと降り立った。ほぼ同時に、姿を現した相手の姿を捉えながら。

 

 

◇◆◇

 

 

 

一夏達とは対面する位置にあるピット。

その中で、ISを纏ったセシリアは静かに瞑想をしていた。彼女が今も見据えている敵は、織斑一夏────ではない。

 

 

(…………蒼青龍夜)

 

 

冷徹な顔とは裏腹に、内側に何らかの熱を秘めた青年。圧勝する、という自信は確実ではない。

 

 

相手は入試主席を掴み取った人物。その強さがどれ程のものか、セシリアには未だ分からない。もしかすると、自分よりも格上なのではないかという不安も脳裏に過る。

 

 

(いいえ、そんな筈ありませんわ─────男が、女よりも強いなどと)

 

 

男は女よりも強い。

身体の構造や体格からして当然である事実は、ISという兵器によって変化した。

 

 

それに伴うように、女達に対して弱い姿勢を見せる男達を何度も見てきた。……………自分の父も、そうであった。

 

 

強い男など、存在しない────いや嘘だ。

たった一人だけ、セシリアは知っている。父よりも偉大で、セシリアが初めて心の底から尊敬した男性を。

 

 

だからこそ、セシリアは『彼』に倣い、銃を選んだのだ。

 

 

そうしていると、少しでも『あの人』の強さを分けて貰えると密かに信じていたから。

 

 

 

 

「────見ててください、『お母様』、『叔父様』。私は軟弱な男などに負けませんわ。オルコット家の人間として、現当主として────!!」

 

 

この世で唯一尊敬する二人の姿を思い浮かべ、セシリアはピットの外へと飛び出していく。

 

 

 

同時にゲートから出てきた、相手の姿を見据えながら。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「あれだけ言ったのだから、逃げずに来るのは当然でしたね」

 

 

対面早々、青いIS『ブルー・ティアーズ』を纏うセシリアがそんな事を口にしてきた。未だ余裕は消えていない。

 

 

「当然だ。イギリスの代表候補生様の実力すら見れてないのに、戦わない訳にはいかないからな」

 

「それは結構。ですが、貴方────ISはどうしましたの?まさか、もう降参なさるつもりではないでしょうね?」

 

 

生身のままの自分を、怪訝そうに見下ろすセシリア。当然、観客であるクラスメイト達もそれに気付いたらしく、ざわめきが聞こえてくる。

 

 

 

だが、そんな訳がない。

披露するだけだ。初めて身に纏う、自分のISを。

 

 

「そう言わずとも、今から見せるさ」

 

【───承認】

 

 

音声と共に、ケースが粒子となって消える。その場に残るのは、白銀の輝きを示す宝剣 『プラチナ・キャリバー』だ。

 

 

観客席から一斉に視線が集中する。当然だ、ISの中でも異例中の武器タイプなのだから。誰もが興味を向けるのは必然であろう。

 

 

『キャリバー』の抦を確かに握り締め、大きく振り翳す。太陽の光を浴びて激しい銀の光を照らし出す聖剣を、左腕に押し当てる。

 

 

剣の刀身、いや銀装の鞘が押し当てられた腕に反応する。

 

 

 

CONNECT(コネクト)ON(オン)

 

 

鞘から伸びた固定具が接合した瞬間、機会音が周囲に響き渡る。まるでガントレットのように左腕へと固定されたされた銀剣。その鞘を撫でるように、手を添える。

 

 

 

その上で、力強く、その名を告げる。

 

 

「キャリバー、装着」

 

 

キィン、と鞘に組み込まれた丸いコアが発光を始める。その瞬間、鞘からバキン!と装甲が分離するように剥がれる。

 

 

 

鞘から解放されたように飛び回る装甲は、次第に黒いISスーツを着ている龍夜の周囲にピタリと固定される。

 

 

瞬間、装甲から放れたレーザーが重厚な装甲を形成していく。それらは龍夜の腕、足、胴体へ次々と接合されている。金属と金属が重なり合い、身体に纏われていく度に、彼の姿が覆われていく。

 

 

全身を包むのは、白の甲冑。彼の身を包み込む鎧を作り出した銀の装甲は、甲冑の複数の部位へと装着される。

 

 

両肩、両足、胸部、背中。

 

銀色の装甲が重なり、装着された瞬間、白の鎧に銀光が生じていく。完全に装甲と装甲が接着し合い、隙間から蒸気が噴き出す。

 

 

そして────最後の銀の装甲が、龍夜の顔を覆い被さる。それは変形していき、彼の頭部を包み隠すように後方に金属の留め具が交差していく。

 

 

フルフェイスの装甲の隙間、本来ならば目線を把握するべき空洞の線に────光のラインが灯る。

 

 

全身の間接と装甲の隙間に青い光の軌跡が走り、全身に行き渡る。完全に装着された事を示すように、白銀の鎧がゆっくりと動き出す。

 

 

手首、そして首を回した青年は鎧の内側から再現された音声を放つ。

 

 

『────ナイトアーマー(N.A)フォーム、完了』

 

 

 

 

 

 

 

「な、何あれ!?」

 

「アレが、IS───?あんなの、見たこともないわ!」

 

 

アリーナの観客席の女子が、明らかな困惑を示す。見たこともない、未知のIS。誰もがそれを新型としか形容できない、それ以外に形容しようがない。

 

 

驚愕に包まれていたのは、ピットにいる一夏達も同じであった。その明らかな異様さに驚きを隠せない彼等だが、唯一千冬だけがそのISを静かに睨んでいた。

 

 

白い甲冑に包まれた龍夜が、硬直するセシリアに向けて告げる。

 

 

 

『─────行くぞ』

 

 

その一言に、セシリアが反応した瞬間。

 

 

白銀の鎧が、凄まじい勢いで飛び出す。それは見た目の重圧さからは欠け離れた動き。いくら背中や脚部のブースターで加速していたからと言っても、見た目から連想するより明らかに速かった。

 

 

地面を滑るように突撃する龍夜は、左腕に固定した剣の抦を掴み取る。ギュイン! と引き抜いた剣の刀身に銀色の刃が装着されていき、銀剣の本体を覆うほどの大剣が姿を現す。

 

 

大剣の剣先を真後ろに置き、突っ込む龍夜。大剣が届く範囲内にまで近付く直前に、片腕に込められた力と共に大型ブレードが斜めに振り上げられる。

 

 

 

「────くッ!」

 

 

しかし、セシリアのISの方が速力は明らかであった。スラスターを噴かし、回避行動を取るセシリアのいた場所をブレードが切り裂く。渾身の一撃を放ったであろう龍夜は大して悔しいという感情すら抱いていない。

 

 

上空へと飛んだセシリアは二メートルを越える大型ライフル《スターライトmkⅢ》を構える。空中で行われた準備行動は手慣れたもので、数秒で狙撃体制を取れていた。

 

 

 

躊躇いもなく、引き金が引かれる。それ同時に、狙撃の閃光が龍夜目掛けて放たれていた。

 

 

 

しかし、龍夜の動きも速かった。

左腕に固定された鞘のコアを手で触れ、短く告げる。

 

 

「────『銀光盾(プラテナ・シールド)』」

 

 

声に反応するが如く、鞘のフレームが大きく変形していく。腕一本を隠す程度だった鞘を覆うのは、銀色の装甲。左右上下に展開されていく最高質の金属。

 

 

それは巨大な盾として形を露にした。その大きさは、分厚い重鎧を纏う龍夜の姿すら隠すほどである。内部には鞘が取り付けられており、剣を納める機能は現存している。

 

 

そして自らに迫るレーザーに目掛けて、盾を前へと振りかざした。

 

 

 

キュィィンッ!!

 

 

と、盾に直撃したレーザーが異様な音を響かせる。銀盾に傷すらなく、セシリアの射撃は光の粒子となって霧散していく─────事はなく、銀盾へと吸い込まれるように消えた。

 

 

 

「ッ!」

 

(弾かれた!?………いえ、今のは違う!一体何ですのあれは!?)

 

 

盾による防御。

容易く防がれた自分の一撃に、セシリアはふとした違和感を覚えた。

 

 

本来であれば、盾は攻撃を弾くものだろう。レーザーの射撃も、直撃すれば弾かれるのが彼女もよく知る光景だ。

 

 

しかし、あの銀盾は直撃した瞬間に、レーザーを粒子へと分散させた。自然消滅するであろうエネルギーも、何故かあの盾に吸われるように消え去った。

 

 

 

思考の中での疑問と問い掛けの結果、その答えが提示される。

 

 

 

「────まさか、エネルギーを吸収しているの!?」

 

『………正解。流石はエリート様、勘が良いな』

 

 

鎧の奥底で、龍夜が笑みを刻む。この『銀光盾』の唯一の能力こそ、レーザーなどのあらゆるエネルギー系統の攻撃を無力化すると同時にそれらを吸収し此方のエネルギーへと変換するもの。

 

 

理論上、この盾はエネルギーによる攻撃ならばどんなものも吸収することが出来る。そして、盾と鞘は変換させたエネルギーを共有することが出来る。全身の鎧に、変換させたエネルギーを補充することも可能なのだ。

 

 

手足のように動かす白銀の鎧に、龍夜は心が揺れ動くのを感じる。ISとは、これほどまでに体に馴染むものなのか。高揚が、冷徹な思考の奥底で震えていた。だが、それを抑え込んだその時、セシリアの方にも動きが見えた。

 

 

 

再びライフルを構え直すセシリアの周囲に、四つの物体が浮かび上がる。バイザーメットに映し出される画面が、それらの物体をマーキングする。

 

 

脳内の記憶から一致する情報を引き出す。アレはセシリアのIS『ブルー・ティアーズ』に搭載されたメイン武装の一つ、機体と同じく『ブルー・ティアーズ』と名称されたビットであった。

 

 

 

「お行きなさい!!」

 

 

セシリアの言葉を受け、四基のビットが空中を舞う。それらは不規則に動き回るように、だが確実に龍夜を囲むように展開されていく。

 

 

左右を通り過ぎたビットからレーザーが放たれる。銀盾と大剣を横へ振り払い、飛来するレーザーを吸収、一刀する。それだけでは終わらせない、とでもいうように。様々な方向から、そしてセシリア本人からの射撃が繰り出される。

 

 

 

銀の鎧に包まれた龍夜は、その場から動かずにただひたすら、盾と剣で光の雨を防ぎ続けていた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「…………龍夜ッ!」

 

 

ピット内で自分専用ともいえる白いIS───『白式』を纏う一夏は、アリーナ内の光景に強く歯噛みしていた。何故ISを纏っているのか、と聞かれるかもしれないが、初期化(フォーマット)最適化処理(フィッティング)、重要な行程がまだ終わっていないので、試合に間に合わせるように現時点でも行われていた。

 

 

セシリアの『ブルー・ティアーズ』による四方八方からの攻撃。四つのビットとセシリアからの狙撃に、龍夜はセシリアに接近することも出来ず、その場に固定されている。

 

 

防戦一方。

このままでは戦況は、彼の敗北に傾いてしまう。

 

 

 

「蒼青君のISの装備は、接近戦に特化したタイプです……だからこそ、オルコットさんに勝つには接近戦に持ち込む必要がありますが…………」

 

「だが、速力では龍夜はセシリアに負ける。近付こうとしても距離を取られて、ビットで撃ち抜かれてしまうな……」

 

 

真耶と箒が現状を把握し、龍夜の状況に不安しかない。一時はセシリアを圧倒すると思われていたが、これでは反撃のしようがない。勝つ方法があるとすれば、遠距離から攻撃する武器があるか、何とか接近戦に持ち込むかだが、彼の様子からしてそれは厳しいと思える。

 

 

 

そんな中で、一緒に見ていた霧山が口を開いた。

 

 

 

「───なるほどね、そういうこと」

 

 

納得したような口振りに、一夏と箒、真耶の視線が彼女に集中する。彼女は自分を見つめる視線に不適な笑みを浮かべ、

 

 

 

「彼のISはこの程度じゃない、そう思うでしょ?織斑センセも」

 

「…………」

 

 

隣に立つ千冬にそう投げ掛ける。当人は無言で霧山を見ていたが、すぐにアリーナへ視線を戻した。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「───そろそろ、敗北を実感してきたのでは?」

 

 

そう笑い、ビットの一つを撫でるセシリア。銀盾とブレードを下ろした龍夜は息を吐き、聞き返す。

 

 

『もう終わったつもりか?俺のシールドエネルギーはそこそこしか減ってない。むしろ盛り上がってきた所だと思うけどな』

 

「強がりますわね。理解できないなら教えてあげますけれど、剣と盾という武器しかない貴方に、わたくしを倒す手立てがあるというの?」

 

『─────ある、と言ったらどうする』

 

 

バイザーの奥から、余裕の声が響く。その言葉に耳を疑うセシリアの前で、龍夜は続けた。

 

 

『イギリスの「BT」兵器、事前に調べた通り中々のものだった。だが、お陰でパターンや欠点も把握を終了した。

 

 

 

 

何より、盾のエネルギーも充分に蓄積されたからな』

 

 

大剣の抦を握り、持ち手に仕込まれたボタンを押すと刀身に取り付いた刃が乖離していく。生身となった銀剣を、盾の内側に組み込まれた鞘へと納刀する。

 

 

ガチリ、と抦を握り横へと回す。

すると盾と連結した鞘から、機械的な音声が響く。

 

 

CONNECT(コネクト)OFF(オフ)

 

 

左腕に固定された鞘が外れ、盾ごと持ち上げられた。大きさからしても余程の重量になる筈だが、容易く彼は振るいあげる。

 

そして、内底に眠る剣へ示すように告げる。

 

 

 

「────キャリバー!装動!」

 

 

言葉と共に、鞘に納められた銀剣が背中に押し当てられる。背中の甲冑が左右に開くと共に、黒いスーツと背中に固定された小型フレームから固定具が剥き出しになる。

 

 

そして、鞘を受け止めるように固定される。瞬間、青いプラズマが散った。

 

 

CONNECT(コネクト)ON(オン)

 

 

その音声に応じるように、白銀の鎧に異変が生じる。キチキチ、と鎧を覆う装甲が変形を始め、先程のものとは違うものへと切り替わっていく。

 

 

 

重量的な騎士の姿は見る間もなく消え去り、代わりに身軽な姿へと変わる。変形した装甲は彼の黒スーツに張り付いて新しい装甲へと変化を為す。

 

 

背中の盾も、それに従うように形を変える。それは少しずつ大きさを変えていき、四対の大型バインダーへと成り代わる。

 

 

その姿は、先程と変わりなく騎士のイメージを持ち合わせていた。しかし、全身に分厚い鎧を着込んだ騎士とは違い、軽装備となったその姿は妖精と騎士を合わせたような風格を醸し出していた。

 

 

顔を覆うバイザーも失くなり、代わりというように耳に取り付けられた銀色のヘッドギアの調子を隠しながら、龍夜は変化した自らのISの姿を見せつける。

 

 

 

アクセルバースト(A.B)フォーム、キャリバーに組み込まれた二つの形態の一つ。《N.A》フォームは防御とエネルギーの吸収。そして、このフォームは─────」

 

 

話している最中にも、バインダーの内側に格納されたスラスターがエネルギーを溜め込んでいる。両足を開き、体勢を整える。

 

 

セシリアがその動きに気づいた瞬間に、動き出していた。

 

 

 

「────攻撃特化だ」

 

 

 

咄嗟に、構えたスターライトmkⅢからの狙撃が行われる。一瞬での動作は経験と慣れが感じられる。

 

 

 

だが、遅かった。

青白い閃光が走ったかと思えば、龍夜の姿はその場からかき消える。慌てたセシリアが照準を合わせようとするが、不可能だった。

 

 

アリーナ全体を、駆け巡るように飛び回るのは蒼白の光。しかしそれはあまりにも速すぎるらしく、生身では勿論の事、ISでも捉えきれることはできない。

 

 

すぐさま他のビットを動かして、数の差で勝とうとしたセシリアだが─────すぐに違和感を悟り、真後ろに振り返る。

 

 

 

「………自分で言うのも何だが、速いな。想像以上に」

 

 

セシリアより上、アリーナに張られた遮断シールド付近に立つ龍夜。彼の手には二つのものが握られていた。

 

 

右手には、背中の鞘に収まった抦へと。今すぐにでも剣を引き抜けるとでも言うように、握る指には確固たる力が込められている。

 

 

そして左手にあるのは────『ブルー・ティアーズ』のビットの一つであった。破壊した訳でもないらしく、ビットの機能はまだ生きている。

 

 

有り得ない、セシリアの思考が揺らぐ。

龍夜が音速の如く駆け巡る最中も、セシリアのビットは常に動き続けていた。セシリアに気付かれぬようにビットを破壊し、それをすぐさま回収するならまだ納得は出来る。

 

 

だが、機能すら失われていない無傷のビットが手にあるという事は。音速で動き回りながら、同じように動き回るビットを掴んだという事になる。

 

 

そんな芸当、簡単に出来るものなのか。呆然とするセシリアの前で、龍夜は抦に組み込まれたトリガーを指で押す。

 

 

【OVER ENERGIE DISCHARGE!】

 

 

鞘から剣へと、エネルギーが送り込まれる。引き抜かれた剣は西洋の剣に変わりない姿であった。しかし、やはりというべきか、金属風の刃が交差していくように刀身を包み一つの剣刃へと切り替える。

 

 

だがそれでも、刀身にエネルギーが込められることには変わりはなかった。

 

 

龍夜は左手のビットを軽く放った。宙へと放り出されたビットは最初、そのまま落ちそうになるがすぐさま安定を取り戻す。空中を浮遊しようとしたその瞬間、龍夜は白い光に包まれた剣をビットへと向けた。

 

 

 

そして、一言。

 

 

 

「─────“ソード・ストライク”」

 

 

一条の白熱の光線が、炸裂した。エネルギーを蓄積させた剣から放たれたそれは斬撃を通り越して、エネルギーの砲撃であった。

 

 

剣による閃光は機動を取り戻したであろうビットを貫通し、爆散させる。それだけでは飽き足らず、直線的に走る光の刃は変則的な動きで移動を続けていたビットの一つを掠め、撃墜させた。

 

 

 

「………一つ、いや二つか」

 

 

消え去るビットの反応に、静かに剣を構え直す龍夜。すぐさま手を緩めることなく、反撃の手立てを取ろうとするセシリアに、彼はすぐに動き出した。

 

 

 

光速。

たった一つのISが出せるとは思えないであろう加速は、音すら消し飛ぶとでも言うように凄まじい軌道でアリーナ内を駆け巡っていた。

 

 

スターライトmkⅢによる射撃を繰り返すが、当たる筈もない。蒼い星の光の軌跡しか当たることなく、高速で動いているISの姿はどうやっても捉えられない。

 

 

 

そして、数秒ごとに二つも残っていたビットの反応がロストしていく。光速機動による突撃か、或いは一瞬で切断されたのか。それすら把握することも出来ず、四機あったビットは全滅することになった。

 

 

そして、龍夜はセシリアへと狙いを定める。後方に回らなかったのは、敢えて回避行動などを取られないようにするためか。音速のスピードは流石に限界なのか、反応できるまでに落ち着いていた。

 

目の前で接近してくる龍夜。正面から斬り伏せようとする彼に、セシリアは光明を感じ取った。

 

 

 

「ッ!まだですわ!」

 

瞬間、セシリアの腰にある左右のユニットが外れた。それらは物量に従い、落下することはなかった。ブースターを噴かした二つの突起物が龍夜目掛けて迫り来る。

 

 

至近距離。

加速を続けている龍夜にそれは避けられない。止めるにも、減速して二つとも破壊しなければならない。それだけの時間があれば、セシリアも狙撃は出来る。

 

 

 

だが、目の前にまで近付く突起物を前しても龍夜の余裕は崩れない。それどころか、小さな笑みすら含まれていた。

 

 

 

 

 

「あぁ─────それも知ってるさ」

 

ガクン! と、腰部のスラスターが後ろから前へと向き直る。そして、信じられない程のエネルギーを真上へと放出し、下へと勢いに任せて飛ばされる。

 

 

綺麗に二つの飛来物を避けた龍夜に、セシリアは咄嗟の追撃を放つ。しかし、その狙撃は分かりきってるのかあっさりと斬り払われた。

 

 

その上で、龍夜は言葉を紡ぎ出す。

 

 

「ミサイルだろ、『ブルー・ティアーズ』に組み込まれた六機のレーザービットとは違う、二機のミサイルビット。それが最後の切り札だ」

 

「…………っ!」

 

 

見透かれていた。

セシリアは口を噛み締めるしかない。あの行動は、事前に知っていなければ出来ないものだ。『ブルー・ティアーズ』というISをより詳しく調べていなければ分からない。

 

 

結局のところ、最初から対策されていたのだ。

 

 

 

 

「──────これで、終わりだ」

 

 

【ENERGIE CHARGER!】

 

 

背中の鞘に、剣を押し込む。

抦の上部にあるトリガーを引き、差し込んだまま蓄積されたエネルギーを剣へと流し込んでいく。

 

 

数秒。

その間は明らかな隙であった。

セシリアも不動の龍夜へと照準を固定し、トリガーを引き抜いた。

 

 

放たれたレーザーが、龍夜へと直進していく。

 

 

 

【OVER ENERGIE DISCHARGE!】

 

 

だが、機械的な音声が響いた瞬間。

背中のバインダーに格納された大型スラスターから、蒼白い光が解き放れた。

 

 

爆音と共に音速となった白銀の剣士が、迫り来るレーザーの真横を過ぎ去っていく。

 

 

そして、鞘から解放された光の刃。膨大なエネルギーを帯びた刀身は、蒼く輝いていた。大きく振り上げ、握る右腕に全ての力を込める。

 

 

 

スターライトmkⅢを構えたセシリアの顔が、視界に収まる。驚愕と焦り、それらを上回る一筋の覚悟。

 

 

 

 

 

 

全てを自らの脳裏に焼き付ける。そして、叫ぶ。

 

 

 

 

「ライトニング────ブレイクッ!!」

 

 

一閃。

加速を止めることなく、放たれた光刃は眼前の敵を斬り裂いた。そのまま飛び降り、地面に足を下ろした龍夜は光の消え去った銀の剣を振り払う。

 

 

空中にいるセシリアの手の中で、スターライトmkⅢが綺麗に両断されている。そして自らのISのシールドを確認したセシリアは静かに目を伏せ────────爆発が、炸裂した。

 

 

 

そして、アリーナ全体へと一つの宣告が伝達させる。

 

 

 

 

『試合終了、勝者─────蒼青龍夜』




『プラチナ・キャリバー』について説明。

『プラチナ・キャリバー』は複数のフォームへと変形する特殊なISです。現時点でフォームは二つ。防御力とエネルギーを吸収する盾を持つナイトアーマー(N.A)フォーム、凄まじい機動力と攻撃力を誇るアクセルバースト(A.B)フォームが存在します。


《N.A》フォームで相手の攻撃を防ぎ、エネルギーを吸収していき、それらを蓄積させていく。そして溜まれば、《A.B》フォームで溜め込んだエネルギーを攻撃と速度に運用させるというスタイルになります。


攻撃しなけりゃいいじゃんという話になりますが、《N.A》フォームにはエネルギー増幅機関があるので即座に倒すことがおすすめです。



・『銀光盾』

盾で受けたエネルギーを分解して吸収する。基本的に限界はない(反則)



・『ライトニング・ブレイク』

俗に言う即死技。
蓄積させたエネルギー全部を使用する代わりに、消費したエネルギーに相当するダメージを与える。普通に一撃必殺。現に作中で基本的にダメージを受けてないセシリアのシールドエネルギーを一撃でゼロにしました(反則)

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