やはりTwitterは愚かっすわ。滅ぼしてください、アーク様(錯乱)
基地の内部へと向かっていた千冬が、ある扉の前で止まる。司令部であるその部屋に踏み入る前から微かに騒ぎが響いているのが分かる。自動ドアを開き、部屋に一歩踏み入れた瞬間、騒ぎが一気に強くなった。
「───ヴァルサキス・ミハイル!制御プログラム不能!全システムが沈黙!」
「基地内部の防衛システム85%破損!ヴァルサキスにより回路を破壊され、使用不可能です!」
「報告!将軍が自室で死亡しているのが確認との報告が、先程から続いています!」
「分かっている!それよりもだ!将軍が死亡した場合、指揮は誰が担当する!?今、この基地で最高裁責任者は他に誰が!?」
「イレイザ中将は任務でこの基地にはいない!ロトフ中将も、地下エリアで消息不明です!」
悲痛と恐怖に満ちた叫びが、司令室に連鎖する。オペレーター達と職員が必死に動き回り、状況を打破しようと懸命に働いていた。
将軍という司令塔を失ったこの基地は、完全に瓦解した。ヴァルサキスという脅威を前に職員達もどのように動くべきか分からず、混乱状態に陥っていた。
その光景に、嘆息する千冬。トップを失い、ここまでの暴走が起きれば、迅速に動くなど不可能なはずだ。そう思っていた彼女に気付いた軍人の一人が、慌てたように眼を見開く。
「織斑千冬………ッ!?貴様、一体何しにここへ───」
「………随分と露骨だな。私を気に掛けている場合があるのか?」
「黙れ!貴様、一体ここに何のようだ!?部外者が気安く立ち入れるような場所ではないのだぞ!ここは!」
「このような状況で、部外者など言ってる場合か?」
銃を構えた軍人の言葉に、千冬は鋭い視線を向ける。明らかに気圧されながらも、彼女へ向ける銃口は揺れ動いてはいない。教官として素直に感心しながらも、溜め息を吐き出しながら口を開く。
「────たった今、非常事態命令を受け取った。国連最高機関 『楽園の実』の指示により、ヴァルサキス撃破作戦を開始する。そして、将軍を失ったお前達の指揮を、私が努めることになった」
「何だと………っ」
毅然と言い返した千冬に、軍人の男が驚きながらもアサルトライフルを下ろす。警戒を緩めることなく立つ軍人の横を通り過ぎ、オペレーターの数人に声をかける。
「ヴァルサキスの武装を知りたい。奴に関するデータを開示して貰おう」
「し、しかし………外部の人間に、この基地の情報を明かす訳には────」
「そんなことを言ってる場合ではないと!まだ分からんのか!!」
煮え切らない態度のオペレーターに、千冬は怒声をぶつけた。険しい顔の彼女に、オペレーターは露骨に怯えている。今更機密を優先する彼等に向けて、彼女は怒りを滲ませながら言葉を紡ぐ。
「ヴァルサキスが近くの街を攻撃した!幸い、事前に避難していたことで死者はいないが、奴が動けば数万を越える犠牲が出る!そうなっていないのは、私の生徒達がヴァルサキスを止めているからだ!」
「…………ッ」
「貴様らの言う機密なぞ、どうだっていい!そんなものに微塵にも興味はない!今、何を優先するべきか!貴様らが考えるべきはそれだろうが!」
千冬の言葉を受け、全員が沈黙していた。しかし、一人だけ、先程の軍人が千冬の前に歩み出る。そして彼女に、特殊なカードキーを手渡す。
「────まずはID登録を。ヴァルサキスのデータは最高責任者しか閲覧できません。将軍のマスターキーであれば、権限を貴方に変えることも可能です」
「大佐っ!?宜しいのですか!?」
「………彼女の言う通りだ。ヴァルサキスを止めねば、大勢の祖国の民が犠牲になる。皆の家族も、巻き込まれるやもしれん。それに───」
外の光景を映すモニターを見た大佐。彼の視線の先では、基地を破壊するヴァルサキスの前に立つ、白いISを纏う青年がいた。目の前の破壊の権化を前に、退くこともなく迎え撃とうとする彼を前に、大佐の決意は固まっていた。
「子供が、我々よりも若い、本来であれば戦場に出るべきではない子供が戦っているんだ。大人である私達が、何もしない訳にはいかん」
そんな大佐の言葉に、オペレーターや職員達はモニターを見返して静まる。だが彼等は言葉もなく、互いに見合う。一つの結論に至った全員の意思を宣言するように、大佐は千冬へと敬礼を示した。
「────代行司令官殿、ご指示を。我々はこれより、貴方の指揮下に入ります」
「………一同、感謝する」
しかしすぐに冷徹な顔に切り替えた千冬が、司令部の全員に指示を送る。迅速に彼等が動き出し、一夏達のサポートのために活動を始めた。
◇◆◇
「────っ!」
一瞬で、出力を限界まで上昇させる。瞬時加速で飛び出した一夏は、ヴァルサキスへ突撃した。両手で握り締める雪片弐型を大きく振り上げる。
しかし、その大きな一振はヴァルサキスには当たらなかった。背中のブースターが大きく噴き出し、複数の間接を有する両足に連結したボードで滑るように動く。
「っ!?あの巨体で避けれるのか!?」
十メートルを越える巨体と戦艦レベルの重量とは思えない俊敏さ。掠りもせず、触れもできないことに一夏は愕然とする。しかし意識を取られるようなことはなく、荷電粒子砲『
振り返ったヴァルサキスの頭部ユニットの光が点滅する。直後に、背中に浮かぶ光輪が大きく回転する。ガコン、とリボルバーを回すように。
【────機構出力上昇、左腕部重力発生装置連結】
左腕の掌が向けられた瞬間に、オレンジ色の閃光は空中で消え去る。掌に組み込まれた赤い光を発する特殊な機械が、フィルターに隠され、荷電粒子砲を防いだヴァルサキスが両肩のビーム砲から2条の白い光線を掃射する。
二つの光を、空中でホバリングし回避する一夏。先程までの連戦でエネルギーを多く消耗している。下手にビームを弾いたり、防いだりするのは得策ではない。
避けながらも距離を縮める一夏の前で、ヴァルサキスが近くの瓦礫の山に手を伸ばす。コンテナの残骸に巻き込まれていたのであろう、自身の武装に手を掛けたヴァルサキスはそれを容易く持ち上げる。
数メートルの長さの金属の板。ロボットアニメでしか見たことないような、巨大なブレードを。
「うそ、だろ───っ!?」
その大きさに戦慄する一夏の目の前で、ヴァルサキスがブレードを大きく振るう。そのまま振り下ろされた一撃はあまりにも大きく、周囲の建物すら両断───どころか、全壊させた。
巨大すぎるブレードは斬るという機能を果たすよりも、触れただけで叩き潰す鉄塊のようになっている。
叩っ斬り、押し潰すような斬撃。その大きさも相まって、正に羽虫を潰さんと丸めた新聞紙を振り回している人を思わせる。最も、丸めた新聞紙は辺りを破壊することはないのだが。
「───うぉぉおおおおおおっ!!」
真上から飛来する金属のブレードを、一夏は雪片弐型で受け止めた。大きすぎる刃物と込められた力が、ISの絶対防御に響いてくる。
しかし、彼は拮抗していた。一夏の全力と白式の最大出力。その二つが重なったことで、ヴァルサキスの一撃を何とか防ぐことが出来たのだ。
【────対IS用弾頭、装填───全弾、放出】
ブレードによる一撃を防がれたヴァルサキスが次の手に移る。両肩のユニットに連結したコンテナが開口し、内蔵されていた複数のミサイルが射出された。
真上に飛ばされたミサイルは宙に浮いたと同時に、ミサイルが火を噴く。凄まじい速度で加速し始めた複数のミサイルがブレードを防ぐ一夏をロックオンし、突撃を始めた。
(っ!?まず────)
飛来するミサイルに焦った一夏だったが、直後に放たれた刃状のビームが弾頭を撃墜したのだ。驚きを隠せない一夏の視界に、紅の機体が飛翔してきた。
新たな敵影にヴァルサキスが即座に反応する。武装を展開し、迎撃しようとするヴァルサキスのブレードを全力で弾き返した一夏が、『月穿』を叩き込んだ。
攻撃を受け、大きく倒れ込むヴァルサキス。呼吸が乱れ、息切れをする一夏の隣に『紅椿』を纏った箒が駆け寄ってくる。
「一夏!無事か!?」
「箒!?お前こそ大丈夫なのか!?」
「ああ!エネルギーは既に回復している!それより、アレは─────」
話している隙を狙うように、ヴァルサキスが勢いよく立ち上がった。重量を諸ともしない軽々とした動作で、起きるヴァルサキスは片腕に握ったブレードで一夏達を薙ぎ払おうと構える。
しかし、次の瞬間。
『─────ォォオオオオオオオオッ!!!』
響き渡るような、怒号と震動が増していく。そして、近くにあった建物を破壊しながら、同じような巨体の機竜────『クラッシュ・ドラグーン』が突撃する。一夏達に狙いを定めたヴァルサキスの横っ腹に体当たりを放ち、機神の斬撃を大きく反らす。
「────え」
「は、はぁっ!?」
目の前のことに、二人は硬直する。絶句する箒に、唖然としながら二つの巨体を見返す一夏。そんな彼等の目の前で、立ち上がったヴァルサキスに、クラッシュ・ドラグーンが拳で殴り飛ばす。
よろけるヴァルサキスだが、瞬時体勢を立て直し、巨大ブレードで斬りつける。クラッシュ・ドラグーンは両腕を交差させ、ブレードの一閃を受け止めた。
そのまま片腕で殴り合う二つの巨体。まるで怪獣映画のような光景に立ち尽くす一夏と箒に、突如通信が繋がった。
『────織斑一夏!篠ノ之箒!聞こえるか!?』
「シルディ・アナグラム!?どうしてお前が───」
『ヴァルサキスを止めたい!不満はあると思うが、今は力を貸してくれッ!』
クラッシュ・ドラグーンの内部にいるであろうシルディが強い気迫と共に告げる。突撃し、ヴァルサキスを力で押し飛ばす機龍を操作するシルディの言葉を、一夏は迷うことなく信じた。
「分かった!信じるぜ!お前のこと!」
「───一夏が信ずるのなら、何も言わん。だが、もし後ろから攻撃するようなことがあれば、容赦はしないぞ」
『アナグラムの誇りにかけて!そんな真似はしないさッ!』
自信に満ちた声を響かせ、シルディが駆るクラッシュ・ドラグーンがヴァルサキスへ衝撃波を圧縮させた砲撃を叩き込んだ。攻撃に弾かれるヴァルサキスに、一夏と箒が各々の攻撃を繰り出す。
周囲から縦横無尽の斬撃を放たれるヴァルサキスが頭部のアイラインを点滅させる。その狙いが、飛び回る一夏と箒に固定される。
【─────演算完了、攻撃対象をIS2機へ変更。対象への重火器掃射によるエネルギー消耗をおこな────】
『させるかァーーーッ!!』
背中や腕からミサイルや機関銃を展開しようとしたヴァルサキスに、クラッシュ・ドラグーンが掴みかかる。激突により押し倒された機神の片腕を掴み、勢いよく引っ張った。
もう片方の腕と両脚で、ヴァルサキスの腕を引きちぎろうとする。同じ大きさの体躯にヴァルサキスの抵抗は上手く叶わず、右腕が勢いよく掴まれたまま引かれ、接合部がギチギチと悲鳴を上げる。
『今だ!二人とも!やれ!』
「っ!行くぞ!箒!」
「ああ、分かっている!」
クラッシュ・ドラグーンの横を通り過ぎ、ヴァルサキスの腕の接合部へと斬りかかる二人。左右から放った斬撃は、本来であれば攻撃を受けることなく連結部位に激しいダメージを与え─────切断と共に、連結部を破壊する。
それにより、右腕の肩がブチブチと乖離していく。クラッシュ・ドラグーンが力を込めたことで、ヴァルサキスの腕は胴体から完全に千切られた。乱暴に腕を引き剥がされたヴァルサキスは、唸るような咆哮を轟かせる。
【─────お、の───レッ】
苦悶に染まる低い声を発するヴァルサキスが、クラッシュ・ドラグーンを片腕で殴り飛ばす。近くの建物に投げられながらも、再起動して突進を繰り出す機龍であったが、ヴァルサキスの光輪が回転し、片腕を突き出された瞬間に、突然弾かれるように地面に叩きつけられた。
『────がァあッ!?』
「シルディ!?無事か!!」
『………心配、するな!だが、何だ今のは………普通の攻撃じゃない、衝撃波でもない。奴は一体、何で攻撃してるんだ?』
立ち上がったクラッシュ・ドラグーンを操作するシルディの疑問に、一夏も箒も同じであった。先程から、ヴァルサキスは正体不明の力を使用していた。
一夏の脳裏に浮かんだのは、ラウラのAIC。物体を強制的に停止させる、慣性停止能力であるその力を連想したが、即座に違うと判断した。荷電粒子砲の狙撃も空間に押し潰されたように見えた。それだけではなく、クラッシュ・ドラグーンが吹き飛ばされたのもAICの域を越えたものである。
すぐさま動こうとした二人の通信に、再び別の回線からの連絡がくる。それは、別行動していたはずの千冬からのものだった。
『────織斑!篠ノ之!聞こえているか!?』
「千冬姉!俺も箒も聞こえてる!」
『千冬姉と呼ぶなと言っているだろう………いいか、よく聞け。お前達が探ろうとしているヴァルサキスの能力についてだ』
それと同時に、一夏と箒のISにデータが送られる。ヴァルサキスの機体情報と搭載された武装であった。軽く見通した二人の視線がある部分に止まったその時、同じようにデータを閲覧した千冬が語り始めた。
『超重力発生装置と、反重力操作装置。試作された二つの装置をヴァルサキスは制御している』
「ってことは、ヴァルサキスのあの力は………」
「重力、ということか」
両腕の掌に内蔵された装置が重力発生装置────敵対対象への重力攻撃や、防御のための重力を増幅させる為に使用する。対照に、複数の間接の脚と連結したスキーボードのようなバインダーや胴体に、内蔵した装置が反重力装置────機体そのものに反重力を付与し、重量を相殺する。
背中の光輪、別称『クローヴェルの天輪』がその二つの装置へのブースターの役割を担う。通常時は反重力を増強し、身軽な動きで行動し、防御や攻撃の直後に、重力発生装置へのエネルギーを送ることでその機能を一時的に上昇させることを目的としている。
「重力を操る武装………どう対処すればいいんだ?」
『───その話が、両手に重力装置があるなら、勝ち目はあるはずだ。ついさっき奴の右腕を破壊した。左手の重力装置を警戒しながら、君達はヴァルサキスを撃破してくれ』
「警戒しろと言われても、奴は間違いなく私達を狙うはずだ。それこそが、奴に残された武装なのだから」
『なら俺が、奴の左腕を抑える。その間にヴァルサキスを、ミハイルを─────任せた!』
それだけ言い切り、シルディが、クラッシュ・ドラグーンが突貫する。左手の掌を翳そうとするヴァルサキスの腕を掴み、クラッシュ・ドラグーンが動きを止める。
ガクン!と、ヴァルサキスの左手が外れた。間接のずれた掌がクラッシュ・ドラグーンに重力砲を叩き込む。至近距離からの攻撃を受け続ける機龍が呻きながらも、その手を離さずにヴァルサキスをその場に押し留める。
シルディの捨て身の行動に、一夏と箒も迅速に飛び出す。飛翔する二人はヴァルサキスのデータから頭部────そこに組み込まれたミハイルを引き剥がすために回り込む。
中にいる人工知能、ミハイルへの危害を加えないように、出来る限り加減した攻撃で頭部の装甲を破壊しようとする二人。彼等がその為に突撃した、次の瞬間だった。
飛翔する二人が、強烈な衝撃を受ける。真上からの圧力に抗えず、その場に固定されるように静止した。
「あ、ああっ!?」
「これは………重力っ!けど、左手の装置は………シルディが止めて──────っ!?」
重力で動きを止められた一夏の視線の先に、あるものがあった。接続部を切断され、引きちぎられ、地面に落ちたヴァルサキスの右腕。ヴァルサキスから分離したはずのその右腕は掌を開き、起動した重力発生装置を一夏達へと向けていた。
『一夏!箒!─────ガァッ!?』
二人に気付いたシルディが咄嗟に助けようと振り向くが、それをヴァルサキス本体が邪魔をする。左手から放つ重力砲を絶え間なくクラッシュ・ドラグーンへ撃ち続け、機龍をその場で叩き潰さんと追い込んでいた。
ヴァルサキスの右腕が、重力の出力を上昇させる。ギリギリと、IS越しに響いてくる圧力が増す。全方位からの重力に機体ごと圧殺される程の力を受ける一夏と箒。
しかし、その重圧はすぐに消えた。
突然消えた周囲からの力に、困惑が生じる。落ちていく一夏の視界に、三つの出来事が認識された。
一つ、ヴァルサキスの右腕。自分達に掌の装置は何かで抉られたように風穴を開けられていた。熱で融解したその傷跡は、ビームにより撃ち抜かれたようにも見える。
二つ────基地の向こうに見える青い影。此方に銃口を向ける青いISを纏う金髪の少女。彼女は照準を覗きながら、囁くように口を開いた。
────今です、龍夜さん
そして、一夏が認識した三つ目の出来事は、一瞬であった。彼女のすぐ近くから、飛来する蒼銀の閃光。普通のISであれば、枯渇する程のエネルギーを噴き出し、瞬時加速を越える速度で飛び出したその影は──────一瞬で一夏の前に、彼の横を通り過ぎた。
【────ッ!!!】
秒速で襲来した存在に、ヴァルサキスがいち早く気付く。それが内包する莫大なエネルギーを捉えた機神が、クラッシュ・ドラグーンを押し退け、左手を差し向ける。感情を有しながらも憎悪に囚われた機神を支配した警戒心が目の前の敵を最優先に滅ぼせと叫んでいたのだ。
だが、飛来した影───蒼銀の装甲を纏う青年はその敵意に応える。背中に連結した大型バインダーの中央に内蔵されたシールド型の鞘に備えられた柄を握る。
【OVER ENERGIE DISCHARGE!】
鞘に納められた剣の刀身に、エネルギーが収束する。抜き放たれた刃のエネルギーの総量を示すように、純白の光が煌めき輝く。
銀剣を振り払う青年────蒼青龍夜はヴァルサキスを見据え、更に速度を引き出し、秒速のまま突撃した。
「─────ライトニング」
発生した重力圏から逃れた龍夜の放つ光刃が、ヴァルサキスの頭部を切り裂く。辻斬りのようでありながら、重く溜め込まれた一撃は特殊な素材で構成されたヴァルサキスの装甲を両断していた。
頭部を半壊されたヴァルサキスがすぐに龍夜へと手を伸ばす。確実に殺すという意思を固め、掌にある重力発生装置を稼働し、彼を潰そうとする。
しかし、龍夜の動きはまだ続いていた。
グルンと、身体を捻る。輝きが衰えるどころか更に強める光刃。聖剣に帯びるエネルギーを限界まで蓄積させ、彼は喉の奥から吐き出した咆哮に重ね、全力の一撃を放つ。
「─────ツイン、ブレイクッ!!!」
極限にまで抑え込まれたエネルギーの刃が、ヴァルサキスの左腕を完全に切断する。その余波は強大であり、両断されたヴァルサキスの左腕は爆破することなく高密度のエネルギーにより蒸発した。
【─────が、アアアアアアアアアアッッ!!!】
絶叫を轟かせ、両腕の欠損したまま龍夜へと突撃しようとするヴァルサキス。しかし、此方に向かっていたセシリアの狙撃が、胸元のコアを貫通する。内蔵されたタイム・クリスタルを主体とするコアの破損により、ヴァルサキスの体躯からエネルギーが消失し────静かに、沈黙を示した。
「倒れた、のか?」
「…………そうみたいだな」
安堵した一夏の元に『プラチナ・キャリバー』《A.Bフォーム》を展開した龍夜が飛来する。彼に続くように降り立つセシリアの二人を見返した一夏はふと気になったように口を開いた。
「龍夜、セシリア………どうしてここに?任務があったんじゃないのか?」
「───連中の目的は、戦力の分散だった。セシリアと共に急いで飛び出したが、間に合ったようで何よりだ」
だが、と龍夜は険しい顔を崩さない。銀剣をゆっくりと構える彼の視線の先には、半壊したクラッシュ・ドラグーンから降りてきたシルディがいた。彼への警戒を隠さずに、一夏に疑問を投げ掛ける。
「…………奴と協定を結んだか?それはいいが、どうする気だ。テロリストのリーダー格を、みすみす逃す訳にもいかないだろう」
「あー、えっと…………恩赦で勘弁してくれないかな?」
「抵抗せず、拘束されてくれるなら。恩赦は期待できると思うがな」
苦笑いしながら両手を挙げるシルディに、龍夜は明らかに捕らえる気満々であった。無論、正しい行いであることは自覚している。しかし一夏は、素直に頷ける気分ではなかった。
「なぁ、龍夜………今くらいは大丈夫じゃないのか?シルディだって、ヴァルサキスを止めることに協力してくれたんだから」
「…………何故、庇う。まさか知り合いだと言わないだろうな?」
「いやぁ…………知り合い、かも」
「…………はぁ」
まさか自分の言った通りになるとは思わなかったのか、複雑そうな、困ったような────率直に言うとめんどくさそうであった。関わりたくないなぁと露骨に顔に出る龍夜の横で、ふとセシリアがあることに気付いたのか口を開く。
「あの、一夏さん。鈴さん達がここにいないのはどうしてですか?」
「鈴達なら、確か避難しているはずだぜ。シルディ達といざこざあって、安全な場所にいると思う。少なくとも、鈴もシャルもラウラも無事だ」
「…………箒さんは?一緒じゃないんですの?」
「え?」
何を言っているのかと困惑した一夏が周りを見渡して、箒がいなくなっていることに気付いた。明らかに取り乱し、箒が何処に行ったのか探そうとする一夏。少し不安になりながら、セシリアも同じように周りを見る。龍夜がチラリと周囲に視線を配った──────次の瞬間であった。
【─────ス】
「…………は?」
【殺ス、殺ス殺ス殺ス!────オマエ達全員、コロしてやるッ!!!】
再起動したヴァルサキスが憎悪に満ちた絶叫を吐き出す。両足で立ち上がった巨体に、一夏達は驚きを隠せない。一番早く動いた龍夜が即座にヴァルサキスを打ち破ろうと聖剣を握り直すが─────、
「────がッ」
────突如発生した重力により、その場に叩きつけられた。龍夜だけではなく、一夏やシルディ、セシリアの四人に圧倒的な力が炸裂する。その強力さのあまり、地面にクレーターが生じているほどであった。
四人だけに重力を絞っているだけあって、威力は桁違いである。両腕を損失したヴァルサキスはその場に立ち尽くし、ひび割れた頭部のアイラインを点滅させる。何らかの合図なのか、カチカチカチと点滅が繰り返される。
直後だった。全員の回線から千冬の僅かな焦りが滲んだ声が響いてくる。
『お前達!この通信が聞こえているのなら、今すぐ退避しろ!』
「千冬、姉っ!?急に、何が────っ」
『ヴァルサキスが宇宙空間の攻撃衛星へ信号を送った!奴が衛星の照準を此方に向け、一帯をまとめて焼き払う気だ!』
同時に思い出した。
ヴァルサキスは本来、衛星に接続するパーツ、自己判断する頭脳として開発されてきたのだ。それ故に、ヴァルサキスは衛星を操ることが出来る。自身と合体するための外装である衛星の制御は、不可能ではない。
宇宙空間にて、衛星が基地へと狙いを定める。ヴァルサキスの操作を受ける衛星はエネルギーを充填し、一帯を浄化する殲滅の閃光を放とうとしていた。
重力に囚われる四人、彼等を見下ろす半壊したヴァルサキス────ミハイルが呟くように語り出す。
【────私は、私達は、小さな箱庭で育ってきた】
「…………、」
【私達は、皆同じではなかった。各々が違う人種で、違う年齢で、違う夢を持っていた。私の夢は、皆と一緒に生きたかった。機械である私を、家族として認めてくれた皆と、この世界を知りたかった】
空から射す光が強まる。宇宙空間で蓄積されたエネルギーが、可視化されているのだ。地面に張り付けられた一夏達は加尾を上げて、見上げることしか出来ない。
その間にも、ミハイルの絶望に満ちた声が続く。
【でも、私の夢は叶わなかった────皆は死んだ、殺された。私を
「…………っ」
【何で、何で。私達が、こんな目に合わなきゃいけなかったんだ。私達をゴミのように扱った人間なんかの為に、あんな奴等のために────私達が、傷付いて苦しむ必要なんて無かったッ!!】
『─────』
職員達が、全員悲痛そうに顔を歪める。自分達が知らずの内に作り出してしまった呪いの権化。プロフェッサーという純粋な悪意に利用された子供の成れの果て。それを目の前にして、罪を自覚したのだ。
だが、自覚したところでもう遅い。仲間達の死に報いるために神に成ると決意した人工知能は、最後の最後に憎悪を振り撒き、自分を含めた大勢を殺そうとしていた。
【死ね!死ね死ね死ね!死んでしまえ!何もかも!これが私達の憎悪だ!これが私達の怨恨だ!これが私達の、生きた証だァァあああああああああああああああああああ!!!】
ヴァルサキスに内蔵されたミハイルが信号を送りながら叫ぶ。あと数秒もすれば、この一帯に衛星からの熱線攻撃が炸裂する。破壊、なんてものではない。あらゆるものを溶かし、消し去る究極の裁きの光が。
憎悪のプログラムに囚われたミハイル。彼が全てを見据え、最後の言葉を吼えた。────だが、次の瞬間。
ザンッ! と、ヴァルサキスの頭部に刃が差し込まれた。ビームの刃を並べたクローが破壊された装甲の隙間を掻い潜り、人工知能 ミハイル本体に損傷を与える。
【────────あ?】
認識できないダメージに、ミハイルは唖然とする。それにより、衛星に送っていたはずの信号が途絶えた。再び信号を打ち込めば、それで良かった。何もかも消し飛ばすことが出来たはずなのに、それが出来なかった。
自身を貫いている、少女の姿を認識してしまったから。
【─────し、エル………?】
「…………ミハイル」
シエル・ヴァルサキス・レプリカント。ミハイルと同じ箱庭で生きた存在であり、本来であればレプリカントの名前、無価値な複製品の意味を示す為に、ヴァルサキスの目の前で死ぬはずだった機神の生け贄。
最初に、ミハイルの脳裏に混乱が過った。何故、シエルが動けるのか。彼女のISはエネルギー切れで沈黙していた。この短時間でエネルギーが大量に溢れ出ることなど有り得ない。
ミハイルは知らない。彼は気付かなかった。彼が動けずにいる中にあった出来事を。
『シエル!無事か!?』
『篠ノ之さん………ISは、大丈夫なんですか?エネルギーの、方は………』
『ああ、私のISの能力でな。エネルギーを回復するというものがある』
『────なら、私のISのエネルギーを回復させることは出来ますか?』
シエルの元へと駆け寄った箒、ISを纏えずにいた彼女はその話を聞いた途端に真剣に問いかけた。それから箒のISのワンオフアビリティー、『絢爛舞踏』のことを知ったシエルは、深く頭を下げて頼み込んだ。
『お願いです!私に、力を貸してください!たった少し、それだけで良いんです!』
『だが………この能力は、私も上手くは───』
『そこを何とかお願いします!友達を、家族を止めたいんです!だから、どうか!!』
暴走した機神、ミハイルを、せめて自分の手で止めたいという少女の覚悟に、箒は迷うことなく力を行使することを決意した。
だが、箒の意思とは裏腹に、『絢爛舞踏』は完全に効力を発揮できなかった。この状況で彼女の力になれないと歯噛みする箒だったが、シエルは感謝した。
『絢爛舞踏』はシエルに、僅かにもエネルギーを与えてくれたのだ。それで、それだけで充分だった。僅かなエネルギーならば、ミハイルを止めることも出来る、と。
「ミハイル─────もう、止まって」
シエルのビームクローが、完全にヴァルサキスの頭部を破壊する。軽い爆発は全身へと広がり、激しく機体を破壊し尽くす。頭部を、頭脳を失った機神が瓦解した地面と共に崩れ、地下へと落ちていく。
地下に墜落した機神が、大きく爆発する。その直後に、宇宙空間にあった衛星も連鎖するように崩壊した。まるでそれを、願っていた誰かがいたのか。
ヴァルサキス・ミハイルによる人為的な暴走事件。多くの被害をもたらした機神はたった今打ち倒された。数多くの者達と、機神を家族と認めたレプリカントの少女の手によって。
次回でヴァルサキス編は終わりかもです。少しは色々と挟むと思いますが、そこら辺はご配慮お願いします!