ヴァルサキスによる暴走────後に機神事件と呼ばれる事件は幕を下ろした。これはその後処理と結果報告の話になる。
まず国連はこの騒動を、末端の暴走として処理した。ヴァルサキスの力に溺れた愚か者が人為的にヴァルサキスを起動させ、その結果暴走した、と。
そして、現場の基地の人間達とその場に居合わせたIS学園がヴァルサキスを破壊し、事件解決に尽力した。そのような事実としてこの一幕は終わった。
国連の暗部───『
問題であったシエル────ヴァルサキス計画の消耗品であった少女だが、彼女は正式にロシアに保護され、代表候補生へと繰り上げられた。
篠ノ之束博士が興味本位で改造した新型IS『クローム・オスキュラス』を有する彼女を、自国のISパイロットとして迎え入れたのは、ロシアとしても事態を大きくしたくなかったのだろう。
今回の騒動で死亡した将軍とその側近に代わり、IS学園との連携を取っていたイレイザ中将が功績を受け、将軍へと昇格した。その事により、彼は候補生達で構成されたロシアのIS部隊を管轄することを許され、シエルもその一員へと抜擢されたのだった。
しかし、問題が残されていた。
機神事件と関係しているプロフェッサーなる人物の存在、一夏達を助け出した黒いIS モザイカ。そして、事件の後に一夏達に知らされたあるニュース─────とある事故を報せた情報であった。
◇◆◇
IS学園の校舎とは違う、理事長が管理する透明な建築物『虹彩の塔』。その一部、控え室で龍夜達は待機していた。
機神事件が解決し、学園に帰国した彼等の顔色は優れない。その場を包む雰囲気が重く、淀んだものになっているのだ。誰もが声に出せない中、険しい顔の鈴音がソワソワとした様子で足踏みをしている。
そんな沈黙に耐えかねたのか、龍夜が目元を揉みほぐしながら、落ち着かない鈴音へ口を開いた。
「…………うるさいぞ、鈴」
「うるさいって、何?あたし何も喋ってないんだけど?そもそも変なのはアンタの方でしょ。自分が相手を取り逃がしたからって、あたしに当たらないでくれる?」
「……………あ?」
地雷────肉親の仇を知る者に逃げられた事実を指摘された龍夜が怒りを剥き出しにする。当然、鈴はその事を知らない、あくまでも嫌みとして吐き捨てたまでだ。いつも活発的だが人なりには優秀な(尚一夏の前では頭が蕩ける)彼女が、そんな風な言い方をすること自体が、彼女の焦りや不安を意味している。
「鈴さん、落ち着いてください。喧嘩している場合では無いでしょう」
「龍夜もだ。何があったのかは分からんが、感情的になるのは良くないだろう?」
そんな二人を、セシリアとラウラが諫める。実際に対応が悪いと自覚していたであろう鈴音と龍夜が、互いの顔を見合い頭を下げた。
「ごめん、龍夜────あたし、頭に血上ってた」
「………俺もだ。さっきは悪かった」
それから、静寂がその場を支配した。何人かが困った顔をするのを見ていた龍夜は、彼女達が気になっていることを口に出すことにした。
「なぁ、鈴音。こういうことを聞くべきか、悩んでたが…………」
「暁のことでしょ。大体予想できるわよ」
「…………どんな奴か、聞いてもいいか?」
そんな彼の疑問に、鈴音は答えなかった。だが、黙っているつもりはないらしく、近くのソファーにドカッと座り込んでから、口を開いた。
「一夏の幼馴染みってのは知ってるでしょ?ま、箒もみたいだけどさ。あたし小五の時に、一夏と一緒に仲良くなって、中二にまで一緒だったわね」
「…………小五?中二?」
「は?いや、龍夜日本人でしょ?分かるもんじゃない?学校行ってるんだし」
「学校は行ってない。小学校も中学校も」
「─────ウソでしょ」
自分よりも頭の良い天才の真実を知り、愕然とする鈴音。その理由として『学校そのものが、子供も大人も含めた人間が嫌いだった』という龍夜の言い分に何故か納得してしまう。
そんな風なことを言っていたが、すぐに話は戻された。
「どういうヤツかって言われると………気弱でウジウジとしてて引っ込み思案。正直初対面の時は普通に毛嫌いしてたわ」
「………そ、そこまで言う?」
「最初の方はね。けど普通に話してみると、中々に根性があるタイプでさ。数日で仲良くなったし、私も普通に好きだったわ。友達として」
女々しいタイプを嫌う、男勝りな鈴音がそこまで評価するとは余程良い人間なのだろう、と龍夜は思う。出来ることなら、自分も話してみたかったが、既に叶わぬことである。
「────ホント、意味が分かんない」
「………」
「何でこんな事になんのよ!ISのお陰で平和になったはずなのに、何でよりによってISとは無関係なアイツが死ななきゃいけないワケ!?」
感情的に思いをぶちまける鈴音。仲良かった友人の一人が死んだ。それも事故ではなく、他殺の可能性すらある。彼女がここまで荒れていたのも、それが理由であった。
そんな鈴音の前に、龍夜がある端末を差し出す。映像投射機であるそれを指差しながら、彼は言う。
「お前が傷の治療をしてる間、俺達が見た映像だ。例の事件の生存者の事情聴取だが、今のところは政府にも明かされてない。時雨理事長が極秘にしている内容だ」
「……………」
覚悟して見ろと言う龍夜に、鈴音は躊躇いすらしない。投射機のスイッチを押し、記録された映像を見始めた。
薄暗い真っ白な部屋が映る。無機質な机を挟んだ形で、用意された椅子に座る人物がいた。その一人、機械的なマスクを装着した白衣の男性が言葉を発する。
『────では、質問をします』
『………はい、お願い……します』
目の前でそれを聞いているのは、重傷の青年であった。顔半分や身体の大半を包帯で多い、車椅子に乗せられた黒髪の青年は、俯きながら小さな声で答える。
白衣の男性は手元にあった書類を見ながら、青年へと確認する。
『貴方は、風月大和という名前であっていますね?』
『はい………そうです』
『失礼ながら、貴方はテロに巻き込まれました。その事について、貴方の記憶を教えて欲しいのです………ご協力、お願いします』
『分かり、ました………自分に、出来ること……なら』
カチカチ、と歯を鳴らしながら首を縦に振る青年、大和。彼は机を見下ろしながら、語りだした。
『あれは、駅前の広場で………待ってたんだ、友達を。一緒に旅行に行くことにして、皆でお金を出し合って』
『………つかぬことを聞きますが、何故あの日に?』
『友達が────落ち込んでて、それで………幼馴染みの初恋を、応援したいって…………ずっと、元気がなかったら、皆で慰めようって────』
『……………分かりました。お辛いようでしたら、それ以上は大丈夫です。先程のお話を、続けてください』
興味本位で聞いたことを後悔するように白衣の男性が優しく諭す。不安定になりかけていた大和はブツブツと呟きながら、その調子で続ける。
『皆で駅に入ろうとしたら、突然真上に………何かが飛んできて、驚いて見たら─────ISが、いたんです』
『そのISについて、教えていただけますか?』
『………黒かった、です。顔の半分が、剥がれて………眼球が、覗いているような…………不気味で、イヤな感じの強いISで────晴樹も、見たことないって』
黒いISと聞いて、全員が反応する。しかし龍夜だけが違う反応を示した。彼女達が連想しているのは、魔剣士という黒いISであり、龍夜が思い浮かべているのはそれとは別の存在。
何より、情報と一致している。間違いなく、両親を殺した存在と同じであった。
『ソイツがこっちに向かって撃ってきて────何も見えなくなって、目を覚ましたら………大人の人達に、助け出されて………』
『……………』
『そこで、友達のことを………思い出して、飛び出して、探したんです……………そしたら、暁の手が見えて………』
大和という青年が、あの時の事を思い出そうとする。記憶を遡り、その時目にした最後の光景を、脳裏に再起させた。
『─────あ、あ』
瓦礫に潰されるように弾けた赤い液体と、その近くで転がっていた人の腕が。それが友人の手が千切れたものだと理解した瞬間、大和は頭をかきむしながら絶叫した。
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!』
『────鎮静剤を!これ以上はもう駄目です!』
車椅子から転げ落ち、発狂する青年に白衣の男性が寄り掛かる。部屋の外から入ってきた重装備の兵士が、暴れる青年を取り押さえる。その間に何らかの薬を打つが、青年は錯乱を止めることはなかった。
『どうして!?どうして俺達が、俺達だけがこんな目に!?俺達が、一体何をしたんだよぉ!?俺達は────』
それで、映像は終わった。
実際は投射機のスイッチを押した龍夜が、途中で再生を止めたのだ。
映像を通して全てを理解した鈴音は静かな、低い声で聞いた。
「…………一夏や箒は、見たの?」
「………俺達が先に見ていたら、あの二人には見せなかった」
「………………二人は?」
「地元に帰った─────暁の、墓参りだそうだ」
◇◆◇
一夏と箒は地元に着き次第、事故があったという駅前の広場へと向かった。未だ破壊の影響が残ったその場は工事の予定を示す看板と、ポツリと置かれた慰霊碑だけが存在していた。
慰霊碑の前には無数の花が添えられており、それだけ犠牲者を弔う者が多かったのだろう。人がいないのは、事故から数日が経ち、殆どの人の興味が消えたからか。少なくとも、人があまりいなくて幸いだったと、一夏と箒はその慰霊碑の前に花を添えた。
「…………暁」
「………」
その慰霊碑に綴られた名前、親友の名を口にする一夏。色んな感情の込めれた言葉は空気に解けるように消える。静寂が一帯を包む。音すら消えたような空気の中、箒は静かに語り始めた。
「────私は、暁と会った」
「………」
「数週間前だ。再会して、色んな事を話した。そして、私はあの時─────」
彼の告白を断り、親友であろうと約束した。
暁の友人の話を聞いた瞬間、箒は絶望と共に激しく後悔した。あの時、少しでも考えていれば、彼が死ぬことはなかったのではない。彼があの旅行に行く理由を作ってしまった自分のせいではないか。
海里暁という親友が死んだのは、自分のせいだ、と。
「…………っ」
そんな彼女の隣で、一夏は黙って聞いていた。違う、と箒のせいではないと言いたかったが、それはあまりにも無責任で、軽い言葉であった。
意味がない、そんな言葉で慰めていいはずがない。そう叫ぶ声がある。厳しく弾劾する自分自身の声を受け止め、一夏は大きな墓標を見つめていた。
そんな最中、足跡が響く。
誰かが来たのかと気付くが、二人は振り返れなかった。意識する程の余裕が、彼等にはない。そんな風に歩み寄ってくる足音に反応することなく、慰霊碑に祈っていた二人を、
「────邪魔するよ」
宿敵、シルディ・アナグラムが通り過ぎた。突然現れた彼に、一夏と箒が理解した瞬間、即座にISを展開しようとする。そんな二人を、シルディは片手で制した。
「止めてくれ、戦うつもりはない」
「─────っ」
「オレはただ、
優しくかつ強く言い切るシルディの手には花束があった。それを見た途端、一夏と箒は待機状態のISに伸びた手を静かに下ろす。笑顔でそれを見届けたシルディは慰霊碑の前に花を供え、手を重ね合わせ、合掌した。
「…………ニュースを見た時、オレは思い出した」
「………」
「オレは、君達を知っていた。あの公園で、オレ達は出会っていた。僅かな日の中で、オレ達は友であった。それを理解したのは、彼の死を理解した瞬間だった」
機神事件から離脱したアナグラム、安堵する最中、臨時ニュースが提示した名前を認識したシルディは、再び過去を思い出し、トラウマに襲われた。だが、前とは違い、すぐに正気を取り戻したシルディは、ようやく思い出したのだ。
自分がかつて、一夏と箒、暁という友達を持っていたこと。そして彼等の記憶を、忘れていた事実を。その瞬間、シルディは組織から飛び出し、友人の一人が亡くなったこの場所へと向かった。
「海里暁、会って話したかったよ。オレの古き友達」
「…………お前は」
思わず振り返った一夏に、シルディは何かを投げ渡した。慌てて受け取った一夏が確認すると、それはマイクロチップであった。彼等、アナグラムが有するファンタシスのメモリアルチップとは違い、普通のメモリーカードである。
それを渡したシルディは、一夏達の横を歩いていく。ポケットに両手を突っ込みながら、二人に言葉を投げ掛ける。
「モザイカさんが見つけ出したデータだ。そこに、君達が探るべき情報がある」
「情報?何を、言ってるんだ」
「海里暁の死は事故じゃない────彼を狙い、人為的に仕組まれたことだ。恐らくは、何らかの陰謀が関係している」
「………」
「無論、オレを疑うのも間違ってはない。オレ達はテロリスト、お前らは正義側の人間。何にも不備はない、当然のことだ」
納得したように頷くテロリストのリーダーである青年は、堂々した口で語る。
「だが、オレを信じてくれるなら、その情報を頼りにするんだ。そうすればきっと、黒幕に辿り着ける。彼を死に追いやった元凶をぶちのめして、償わせるんだ」
「シルディ…………お前は」
「友を忘れていたから、オレには仇討ちと息巻く資格はない。君達にこそ、彼の仇を取る権利がある」
立ち去ろうと歩み出したシルディが、ピタリと足を止めた。振り返り、コートをひるがえした青年は、一夏が言おうとした言葉を読み解いていた。
「何者だ、という答えは決まっている。オレは、真実の代弁者。国連の、世界の罪を糾弾する者」
「………真実って、何だよ。世界の罪って、一体世界が何をしたんだよ」
「─────それは言えない。今明かせば全てが終わってしまう。世界そのものがひっくり返る。知りたいのなら、お前達の手で真実に近付け」
だが、とシルディが区切る。
「オレが何者か、強いて言うなら─────」
彼は前髪を払いながら、口を開く。僅かに吹いた風で払われた髪がなびき、耳が切断された痕が見える。それを静かに撫でたシルディは、
「────真の平和の為に戦う者だ」
決意に満ちた表情で宣言した。
◇◆◇
数日前。
ヴァルサキスによる暴走が起きた直後、地上が混乱している最中、地下深くで蠢くものがあった。
地下施設の奥にある部屋。中枢制御室。地下工場を動かす動力やあらゆる機能を制御するその部屋で、一つの影が動いた。
「黙って抜け出しちまって、
呑気に呟くエヌ。彼が踏み締める部屋は血の池に染まっていた。辺りには風穴を開けられたり、五体が欠損したトレーターの兵士達の残骸が転がっている。おそらくは、エヌが所持する武装によって殲滅されたのだろう。
両手の武装を解除したエヌはコンソールを操作する。小さな端末を挿し込み、カタカタとキーボードを叩き続けていた。ふと、何かを終えた瞬間、エヌは耳に嵌めたイヤホンによる連絡を繋げた。
「任務完了っす。『地中の星』の中枢制御室を占拠しましたよ、姐さん」
『───ご苦労様。よくやってくれたわね、
通信に答えたのは、大人びた女性の声であった。エヌが所属する特別な部隊のリーダーである彼女を、エヌは『姐さん』慕っていた。
無論、媚びているわけではない。純粋に彼女をリーダーとして尊敬し、敬っているのだ。だからこそ、彼女からの命令にちゃんと従ってきた。最も、彼女も命令される立場にいるのだが。
「そりゃあ姐さんからの指示ですもん。きちんとちゃーんと実行しますよ。あ、例のプログラムも投与済みっす」
『仕事が早いし、真面目でいいわ。あの子もアナタみたいに素直なら可愛いんだけれど』
「えー、そこが魅力的じゃないっすかー。意外と可愛いもんっすよ?」
『可愛いのは分かるんだけど、少し歯止めが効かないのも困るの。あの娘の手綱は、貴方がちゃんと取っててくれるかしら?』
「ヘヘッ、そのつもりッスよ。姐さんにも苦労掛けられませんしね」
ニタニタと笑うエヌはキーボードを叩き、何かを行う。地下の工場一帯にハッキングを仕掛け、コントロールを奪った彼は、工場を稼働させる。
───回収してきたばっかのあるものを、弄くる為に。
『ISの調整は良いけれど、出来るだけ早くお願いね。ボスからの指示が出ているわ────話に聞いていた例の機体、貴方の妹の物になるISを強奪するんだから』
「例のって………イギリスの二号機ッスか。成る程、分かりましたー。俺だけでも何とか出来るような機体に改造しときまーす!」
『そうね。よろしく頼むわよ、エヌ』
通信が切れた後も、エヌは笑顔を消さない。楽しそうに鼻唄を歌いながら、制御室の近くにあった巨大な空間へと踏み込む。その中央にある台座に辿り着いたエヌはその前で止まった。
唐突に自分の背中に背負っていたバッグを下ろし、中身を漁り出す。ようやく探していたものを見つけたのか、エヌは大事そうに取り出した。
黒曜石のように輝きを見せる球体────ISのコアを。
「そういう訳でな。俺がお前のマスターだ、よろしくな『クローチェア・オスキュラス』」
手の中にあるクリスタルに軽くキスするエヌ。柄じゃないな、と笑いながらも優しく撫でながら、台座の上へと上がった。
台座の上にISのコアを置く。平面に乗せられたコアに反応したように、台座全体にエネルギーが流れた瞬間、空間全てが動き始めた。
ISのコアが浮遊したと思えば、黒い装甲が───『クローチェア・オスキュラス』の機体がその場に顕現した。その機体に伸びたアームが機体の足や腕を固定し、空中に持ち上げられる。
鎮座した黒い悪魔のような機体を見つめたエヌは、フードの影から青紫色の瞳を覗かせながら、肩を竦める。
「一暴れしたいだろうが、まずはお前の機体を俺流に改造させてくれ。それから、俺達の妹の愛機を奪いに行こうぜ?」
無数のアームが周囲に浮かぶ光景を見渡したエヌは、満足そうにその場から離れる。中枢制御室に戻った彼は目の前に浮かんだスライドパネルを操作し、近くの床から椅子を出現させた。
腰から椅子に座り、エヌはコンソールの前に椅子を移動させ、キーボードに連結してあったケーブルを掴み、自身の首へと挿し込んだ。両手を広げ、告げる。
「─────神経接続完了。操作開始」
瞬間、制御室の前にあった空間そのものが、ISへの調整を始めた。様々な機具を連結させたアームが、黒い機体に殺到する。
工場一帯がエヌの意思に連結し、彼の望む機体へと改良を始めていた。
「───やっぱ、近接特化だよねー。強襲殲滅、たった一人で何とか出来るような最強の機体にしてーなー。………およ?でも、確か二号機ってビーム系だよな…………うん、うん」
無数のホログラムとスライドパネルを浮かび上がらせ、指先で操作していくエヌ。活気に満ちた声音の割に、淡々とした動きで彼は自身のISのコンセプトを決めようと首を傾げる。
数分間考えていたエヌ。思ったものが浮かばずに悩み果てた青年だったが、ふと彼の目がある画像を捉えた。そこに映るものを見た瞬間、エヌは笑みをより深く刻んだ。
「よし、決めた!俺達の弟と同じ武装にしよう!流石に能力は合わせられないけど、似た感じには出来るでしょ!白と相対した黒色!圧倒的な
椅子に座りながら、エヌは自らのISを改造していく。より自分が望んだ形─────破壊の権化となる機体にするために。あまりにも楽しそうに、自分が望む機体の姿をモニターに浮かべたエヌは椅子の上に立つ。自分が腰掛ける場所を土足で踏み、彼は本当に嬉しそうに笑い、顔を隠す役割をしていたフードを勢いよく脱ぎ捨てた。
彼が見ていたモニター、興奮を隠さなかった画像に浮かぶのは、白い機体を纏う青年。織斑一夏と呼ばれる青年と覚醒した白式の姿であった。それを見たエヌは、青紫色の瞳を細めて笑みを深める。
「弟の、白式のライバルになるんだから─────『黒王』、かな」
顔を隠すフードがなくなったエヌの顔は、画像に映る青年と似ている、どころではない。まるで瓜二つのような同じ顔立ち。唯一違うのは髪型と目の色くらいだが、そんなことが気にならない程彼等は同じ顔をしていた。
彼は全てのモニターの前に両手を広げ、盛大に笑う。ISを改造する音と重なる笑い声は、地上に届くことはなく、闇の奥底に響くだけであった。
次回から新章、いきます。