IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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六時投稿遅れたけどセーフか?(不安)


第53話 ルクーゼンブルク公国

「────到着しました。ようこそ、我が祖国。ルクーゼンブルクへ」

 

 

空港から降り立った一同を前に、丁寧にお辞儀して見せるクローズ王子。IS学園の空港から自家用機らしき飛行機で飛んできた龍夜達は、軽く頭を下げて応じた。

 

そんな彼が先頭に立ち歩こうとしていると、空港の入り口の方から慌てて走ってくる人影が何人か見える。

 

黒スーツの、端から見ればSPのようなメイド達。サングラスも掛けている故に、メイドの要素から欠け離れている。そんな彼女達を率いるように、軽装鎧の女騎士らしき人物がクローズの顔を見て、即座に膝をついた。

 

 

「クローズ殿下!御無事で何よりです!」

 

「大丈夫だよ、ジブリル団長。戦争に行ったんじゃあないんだ。怪我を負う心配なんて不要さ」

 

「そう言われましても!クローズ殿下に怪我があっては、我等近衛騎士の面目が立ちませぬ!」

 

「………ははは、ホントに真面目だね。怪我なんて有り得ないから、安心してくれ」

 

 

しかし、と不安そうな顔で食い下がる女騎士 ジブリルにクローズ殿下が笑い掛ける。その彼の笑顔の意図に気付いたらしく、ジブリルはすぐさま大人しく引き下がった。

 

 

「殿下、此方の方々は………」

 

「IS学園の客人だ。くれぐれも、丁重に出迎えるように。万が一にでも何かがあれば─────第五王子の名に泥を塗ると思ってくれ」

 

「───ハッ!承りました!」

 

 

クローズの言葉を承けたジブリル団長が一礼し、地面に敷かれたレッドカーペットの両脇に並ぶ男装のメイド達の合間を通り、龍夜達はその先に鎮座していた車の前に立つ。

 

 

「この車は………?」

 

「今からこの車で、城に向かう。私の兄妹達と、君達の先輩が待っているからね」

 

「…………は?先輩?」

 

「おや、話してはいなかったな?」

 

 

案内され、高級な黒い車の後部座席に乗せられる龍夜達。一段前の座席に一人座ったクローズ王子は振り返り、自信に満ちた笑顔で答えた。

 

 

「少し前に、協力を仰いでいたのさ。君達IS学園の先輩、学園最強にね」

 

 

瞬間、龍夜の顔が歪む。嫌そうな、苦手な相手の姿を思い出した彼は、苦々しい思いを口に含み、舌打ちとして吐き捨てた。

 

 

◇◆◇

 

 

「………ここが、ルクーゼンブルク公国か」

 

 

高級車が空港から発ち、田舎道を抜けたところで、ようやく首都が見えてきた。自然の緑と合わさる町並み。レンガ造りの街の向こうには、一際大きな城が見えている。

 

 

 

ヴィアルハーデ城。かつて公国の原型であった大公国の君主の住んでいた城、ヴィアンデン城を模して建造された城。新たに生まれ変わったルクーゼンブルク公国、その君主となったトワイライト一族の居城として利用されたものである。

 

かつて大公国とは違い、王族となったトワイライト家が本来王となるのだが、事情により、今のルクーゼンブルク公国には王がいない。

 

その代わりに、六人の王子王女がルクーゼンブルクを統治している。其々の王子と王女が自分達に適した形で国の運営に携わり、ルクーゼンブルク公国を強くしてきたのだ。

 

六人の王族の中で最も王と呼ぶべき存在がいるとすれば、それは国の中核を統べる第一王子(ファースト・プリンス)なのだが、彼等にとっては『王』はまだいないものらしい。

 

王を決めるため、兄弟同士でいがみ合っているのか。或いは、王に相応しい者の為に椅子を空けているのか。その真意は彼等にしか分からない。

 

 

車の窓から外の、街の光景が見える。一見見れば賑わった街中であり、何ら変わらない光景だ。しかし、見る人によれば即座におかしいと思うものであった。

 

 

「────男女が、普通に生活している?」

 

 

外の世界、というよりも、日本やイギリスにいる龍夜やセシリアからすれば、驚きを隠せない光景であった。彼等の視線の先では、街中を歩く女性や男性が仲良く過ごし、女性だけが優遇されたようなことも見られない。

 

自分達の国であれば、間違いなく女性が優先され、道を歩くだけで女性が男性に強く出ることが多いのだ。龍夜自身、見ず知らずの女性から因縁をつけられたこともあった。だからこそ、目の前の景色が異様に見える。

 

 

「……………皆さんの言わんとしていることは分かります。このご時世では我が国の光景も珍しいものでしょうね」

 

 

釘付けのように見つめていた彼等に頷いたクローズは外の景色を見ながら、平然と答える。

 

 

「我が国は小国、あまり外部の影響が強く届いていないですからね。争いも特になく、他国に挟まれた形ですので。それに、兄妹達がそうならないように頑張っていますから」

 

 

上の立場の者達を見て学ぶ、ということか。

少なくとも、ルクーゼンブルクの民達は、男や女など関係なく、互いに協力し合うトワイライト家の王子王女達に感化されたらしい。

 

そんなものか、と思いながら龍夜はその街並みに視線を向ける。ヒッソリと、誰にも悟られぬように呟いた。

 

 

 

 

「────世界がこんな風なら、姉さんは────」

 

 

後悔、失意、そして一握りの憧憬を込めて。

窓際の景色を見ていた龍夜は、決して自分自身では気付かない感情を秘め、それをより深い奥底へと沈めた。

 

ただ、蒼青龍夜はその光景を素晴らしいものだと思ってしまった。だからこそ、思ってしまったのだ。自分の姉を襲った悲劇は、理不尽に近いものであった事を。陰謀などではない、世界そのものが引き起こした不運だった、と。

 

噛み締め、思い馳せる龍夜の心境を悟ったのは、二人の大人だけであった。セシリアは遠い目をする龍夜に、ラウラは感情を変化させた彼に、各々の違いを読み取ったが、何も言わなかった。彼自身に配慮したのだろう、気遣いが容易い少女達に、感謝しかない。

 

 

 

「…………?アレは────」

 

 

その空気を変えるためか、或いは純粋に気になったのか、反対側の窓から街を見ていたラウラが声を漏らす。彼女の見ている先に視線を向けると、確かに異様なものが見えた。

 

 

城に近づくにつれて、発展していく街並み。その道や大通りに、2,3メートルの甲冑騎士が何人か歩いている。槍に盾を装備した重装の騎士は、まるで重さを感じてないように進んで─────いや、進まされている。

 

 

自律人形(オートマタ)…………ッ、まさかアレが?」

 

「ええ、お察しの通り。我が国の戦力、天壊機 『金属の騎士団(フルメタル・ナイツ)』です」

 

 

八神博士が開発した無人兵器の極致、生命を殺すことに特化した戦争のためだけの、界滅神機の原型。究極の無人兵器のプロトタイプと呼ばれる天壊機。八神博士の死後、第三次世界大戦を果てに、博士の意思の元に多くの生命を奪った天壊機を含む殆どの兵器は処分された。

 

だが、それも大義名分に過ぎず、大国の多くは自己防衛のために八神博士の兵器を処分せずに残し続けた。戦争に一番役に立ったISが普及した今でも、八神博士の開発した無人兵器は世界で運用され続けている。

 

 

だが、ルクーゼンブルクは例外であった。他の他国のように、鹵獲した兵器を再利用しているわけではない。ルクーゼンブルク公国が所有する天壊機は、大戦前に博士から譲渡されたものであり、十年間変わらず運用され続けている。

 

 

「………しかし、それを素直に話していいのか?」

 

「どういう意味か、御伺いしても?」

 

「ルクーゼンブルク公国にとって、天壊機は自国を守護する力の一つ。そんな簡単に情報を話しては、国にとって損害がある、と思ったので………」

 

「……………なるほど、お気遣い感謝します」

 

 

軽く顎を擦りながら、納得したように頷くクローズ。対応を間違えたかと少し気を引き締めるラウラに、彼は優しく笑いかけた。

 

 

「心配は無用ですよ?ラウラ・ボーデヴィッヒ大佐」

 

「…………っ」

 

「たかが漏洩した情報如きで、揺らぐような国弱ではありません───────ルクーゼンブルクは、ね」

 

 

不敵な笑みである。

自信に満ちた彼の言葉は、まるで実際にそうであると体現するかのように、強固なものだ。歴戦の戦士に近い雰囲気を示す王子に、ラウラを含む三人が疑念を抱くが、そんな視線もいざ知らず「おや」と王子が声に出した。

 

 

「ようやくだ、我が城も目前だ。そろそろ降りる準備をしてくれよ、皆」

 

 

そんな風に話すクローズの言う通り、目的地───ヴィアルハーデ城は既に目の前まで近付いてきていた。城の入り口に着いた高級車から降りたクローズに続いていく龍夜達。

 

表口とは違う、裏口からであるにも関わらず、レッドカーペットは丁寧に敷かれている。王族専用の通路だからか、ちゃんとしているな、と素直に思ってしまった。

 

 

そんな裏口の階段を歩いていると、人影が見えた。見たことある人物に露骨に眉をひそめる龍夜。彼の前を歩くクローズは、穏やかな顔で手を振った。

 

 

「やぁ、まさか迎えに来てくれるとはね。ゆっくりしてくれても良かったんだよ、サラシキさん」

 

「いえ。これも当然のことです。クローズ王子とは色々お世話になっておりますので」

 

「フフ、お目当ては私じゃあないでしょう?君が待っていたのは、可愛い後輩だと思うけどなぁ」

 

 

まるで対等であるかのような態度の王子、謙遜しながらもその態度を受け入れる少女。その顔立ちが日本人のものであると気付いたセシリアとラウラは、記憶に残った顔を思い出し、あっと口に漏らす。

 

そんな反応に気付いた少女は、セシリアとラウラへと視線を向け、龍夜を見た途端、クスリと笑う。IS学園の制服の後ろから取り出した扇子を開き、『再会』の文字を見せた。

 

 

 

「久しぶりね、元気にしてた?蒼青龍夜くん♪」

 

 

水色短髪、真っ赤に染まった瞳の少女。名を、更識楯無(さらしきたてなし)。IS学園の生徒会長にして、学園最強の名を欲しいままにするIS学園の現最強。

 

 

彼女の登場を目の当たりにした龍夜────露骨に顔を歪める。会いたくなかったと言わんばかりの顔で、彼は堂々と舌打ちを漏らした。不愉快という気持ちを隠さぬ苛立ちを込めて。

 

 

 

◇◆◇

 

 

「…………露骨に態度に出されると、おねーさんショックだなぁ」

 

 

城の内部に入った廊下で、歩きながら楯無はそう漏らした。確かに失礼が過ぎたかと思った龍夜だが、再び開かれた扇子に『残念』の文字が刻まれているのを見た途端、思考を改めた。

 

本当に、苦手だ。猫というよりも蛇に近い。飄々とした態度でありながら、自分を見え透いたような眼を向けてくる。何より手玉に取られているようで、苛立ちが拭えない。

 

 

彼女と対面した直後、セシリアとラウラは不安そうな顔で問い詰めてきた。一体どういう関係なのか、と。楯無と龍夜は、ほぼ同時に答えた。

 

 

『可愛い後輩クン』

 

『敵』

 

 

冷えた眼で断言した龍夜に、楯無はひどーいと拗ねたように(明らかに演技)呟いていた。本当にやりにくい。だから苦手なのだ。こういう相手は。

 

 

「それで………どうして、更識生徒会長がここに?」

 

 

龍夜の言い分に納得はしたものの、警戒を隠さないセシリア。ここで素直に受け取らないことを感心する龍夜だが、彼は知る由もない。セシリアが更識楯無を恋路の障害となるライバルか見定めていることには。

 

一夏程ではないにしろ、そういうことには疎い────自分に好意があるとは到底考えない龍夜には、難しい話であった。

 

 

「クローズ殿下は外交を担当する王子だから、仲良くするのは当然だと思うけど?」

 

「…………安全のためにね、最近何か色々と面倒事が多いから悩んでたところを、彼女が手伝いを申し出てくれたのさ」

 

 

おっと、とクローズが口を紡ぐ。彼の目の前に、大きな扉があった。クローズが扉を押すように手で触れると、ゆっくりと大扉が開く。

 

 

巨大な機械が吊るされた、異様な空間。その機械は、サナギのような形状、複数の装甲を纏う巨大な塊は呼応するようにエネルギーを高めていた。

 

 

「────待っていたぞ」

 

 

その真下に、人が立っていた。王族らしき服装とマントを着込んだ男性。金色の如くの長髪、半分だけ隠されていた顔の奥には、眼帯があった。

 

腰に複数の装飾剣を備えたその男性、王族の一人は、龍夜の姿を確かに捉えた。薄い赤のような色合いの隻眼を向け、静かに口を開いた。

 

 

「蒼青龍夜、クインテット・シスターズに選ばれた者よ」

 

 

やはり、知っていた。

思わず龍夜は手と指に力を込めた。そんな彼の変化を見据えながら、気にする素振りも見せず、その男性が静かな口調で話す。

 

 

 

「─────アーク・トワイライト・ルクーゼンブルク。第一王子だ」

 

 

堂々と、厳かな声を響かせる第一王子。ルクーゼンブルクを動かす六人の王子、そのトップ────長男にして、『国政』を担当する者。それこそが、目の前の人物であった。

 

即座にその場に跪こうとする一同。しかしそれを、いち早く察知したアークの手が制した。

 

 

「不要だ。礼儀も何も。今必要なのは、君との語らいのみだ」

 

その眼は、ただ一人───蒼青龍夜へと向けられている。他の誰もが言葉を発することなく、沈黙を貫いている。楯無やクローズすら、その光景を静かに見据えていた。

 

 

「────君に問いたいことが、幾つかある」

 

「……………何でしょうか」

 

「君は何のために戦う?強さを求める理由は、君にあるか?」

 

 

有無を言わさぬ王子の視線。返答次第ではなく、嘘偽りを許さぬという強い意思の乗せられたもの。もし生半可なものであれば、その場で切り捨てるという殺気すら感じられるのは、アーク第一王子が放つ気迫故にか。

 

当然、こんなことで一々嘘をつくほど、みみっちくはない。正直に、自分が目指す目標を口に出した。

 

 

「最強になるためです。俺が世界を変える、女尊男卑なんて下らない考えが罷り通らない────こんな世界よりも、より良い世界にする」

 

「─────」

 

 

静かに、王子が一息つく。どうやら期限を損なうものではなかったらしい。或いは器が大きいのか、第一王子アークは両目を細目ながらも、言葉を続けた。

 

 

「嘘ではないな。その通り、君はその力をもって世界の変革を望んでいる。間違いないと、判断した。

 

 

 

 

 

─────だが、それが全てではないだろう」

 

 

まただ。

同じように、目の前の男は見抜いてくる。自分の目標の裏側にある、本当にやりたいこと、彼が望むことを。どいつもこいつも、簡単に見透かしてくる。

 

平然を保とうとする龍夜を前に、アークは言葉を紡いでいく。自身が提示した疑問の答えを、自分自身で明かすように。

 

 

「君が強くなろうとする理由が他にあるとすれば─────両親を殺した者への復讐か」

 

 

もう、誤魔化せなかった。しかし分かっていても嫌気が差してくる。どうしてこの世界の強い奴等は、自分の本心を的確に突いてくるのか。龍夜には分からないが、強者には分かる一つのものがあった。

 

人間が瞳の奥底に情景。龍夜の眼に刻まれた感情は、燃え滾るマグマのように、黒い闇のように禍々しく、蠢く憎悪であった。

 

 

「何故、それを知っている」

 

「君のことは把握している。君の両親の死の真相についても、君の姉に起きたある悲劇についても。

 

 

 

 

 

 

君が人を、世界そのものを嫌っていることも」

 

 

その言葉に、セシリアとラウラが思わず振り返った。事実なのかと不安そうな視線を前に、龍夜は沈黙を貫き────ガキリ、と奥歯を噛み締めた。

 

 

否定はない。

何も言わず歯噛みするしかない龍夜の態度が、それが事実であると物語っている。

 

 

「君の復讐を否定するつもりはない。両親を殺され、家族がバラバラになり、残された姉すらも自由を奪われた。そんな君が敵を激しく憎むのは、当然のことだろう。だが、憎しみのままに動き仇を討った後に、君はどうする?」

 

「…………何が、言いたいんですか」

 

「君の憎悪が、世界に向く。君を見て、そう確信した」

 

 

此方を見据える強い眼差しを、受けるしかない。龍夜にそれを強く否定する資格も理由もない。何故なら、否定できないか。

 

実際に、世界そのものを憎んだことがあったからこそ、きっとそうなるという自信があった。

 

 

「君の剣、エクスカリバーの光は強い。あらゆるものを照らす聖なる光は、君の進むべき道を照らすだろう」

 

「……………」

 

「だが、君が憎悪に囚われる限り、その光に陰りが差す。これはあくまでも忠告だ。その力を殺すためではなく守るために振るわねば、君の大切な居場所すら滅ぼすことになる。クインテット・シスターズとは、そういう兵器だ」

 

 

そこまで言った直後だった。

慌てた様子で広間に入ってきた老執事が、アークの耳元で囁く。眉をひそめた第一王子は明らかに嘆息し、龍夜達に目線を向け直した。

 

 

「………悪いが、緊急事態だ。君達にも、少し手伝って貰おう」

 

「─────それは」

 

 

どういう意味か、と問おうとした瞬間。

 

 

 

 

 

 

─────マスター

 

 

聖剣の少女、ルフェと名乗った少女の声が響いた。鼓膜に届いたわけでもなく、脳に直接流れてきたその言葉に連なるように、彼の頭脳に大きな激痛が伴う。

 

 

「─────あッ、が」

 

 

「っ!?龍夜さん!」

 

「おい!大丈夫か!?」

 

 

その場に膝をついた龍夜に駆け寄ってくれた二人。未だ心配そうに此方を見つめるセシリアとラウラに、大丈夫だと告げ、龍夜は立ち上がる。

 

まだ頭痛は響いていた。そこまで酷くはないが、流れ込んできた情報が過剰量であった故に、頭痛を引き起こしたのだ。何故そんなことが起きたのか、龍夜は自身が持つ銀剣を見下ろす。

 

問題は、その情報。

エクスカリバーの中にいる少女が自分に伝えたのは、危険信号である。ある反応を感知し、それを龍夜へと知らせるために警鐘を鳴らしたのだ。

 

 

その反応とは─────

 

 

 

 

「……………界滅神機ッ」

 

「──────」

 

 

龍夜が吐き捨てた単語に、アークは僅かに眼を見開いた。何故ならば、アークに伝えられたのは、ルクーゼンブルク公国の最新鋭の情報網が感知した、界滅神機の起動反応だからだ。

 

 

 

◇◆◇

 

 

数分前のドイツの地方。

ドイツの地下にある使い古された大規模な坑道。昔のような小さな通路ではなく、大きく開かれたトンネルが道なりに続いている。

 

 

その通路を進むのは、赤いラインの入った黒い軍服の少女達。ドイツ軍特別のIS部隊、シュヴァルツェ・ハーゼ。通称『黒ウサギ隊』である。

 

 

「…………うへー、長いですねー」

 

「そう言わない。ここの安全確認が、私達の任務なんだから」

 

「でもさ、こういうところって如何にもな感じですよね!日本でなら出ますよ!サダコとか言うヤツが!」

 

 

ヒソヒソと話す隊員達。謎の日本知識に興奮を隠せない様子で盛り上がる少女達に、先方を歩いていた一人が振り返った。

 

 

「イヨ!ネーナ!マチルダ!私語は慎め!任務中であることを忘れたか!」

 

「ハッ!申し訳ありません!クラリッサ副官!」

 

 

クラリッサと呼ばれた眼帯の少女は険しい顔で騒いでいた少女達を睨み、後で仕置きだとまで言い切る。にも関わらず、頬を赤らめる少女達に呆れながら前を向いたクラリッサ。この部隊の隊長を努める少女に、気軽に語りかける声があった。

 

 

「真面目ですね。ハルフォーフ大尉、私も見習わねばなりません」

 

 

ヴァイアス・ドレイクホーン大佐。第三次世界大戦を活躍した英雄であり、昇進を望まない変人。上層部からは爪弾きにされ、現役の軍人達から敬愛されるドイツの生きる英雄が彼である。

 

この任務、地下トンネルの安全確認の為に付き添っていたドレイクホーン大佐に、クラリッサ・ハルフォーフは慌てたように気を引き締めた。

 

 

「ッ!いえ!大佐殿にもつまらないものをお見せしました!申し訳ありません!」

 

「何、別に謝ることでもないでしょう。勤勉なのは嫌いではありませんから」

 

 

軽く受け流し、両手をポケットに突っ込みながら歩くヴァイアス。初対面であったクラリッサは気を引き締めながらも、困惑した。

 

自身の敬愛する隊長、ラウラからドレイクホーン大佐の事は何より伺っている。同胞に優しく、敵に苛烈な戦闘狂。戦場で生き、戦場で死ぬことしか望まぬ軍人の鏡。曰く、昇進を蹴ったのも戦場で戦うためであるとか。

 

話した限りでは、そんな感じは見えない。普通に対面した感じだと普通の紳士にしか見えないのだが、何か間違いだろうか。

 

 

「…………あの、ドレイクホーン大佐」

 

「ん、君は確か────」

 

「ファルケであります!…………実は今回の任務で気になっていたのですが、ここは何なのでしょうか?」

 

 

何処まで続くトンネルを進みながら、ファルケと呼ばれた少女はそんな疑問を上官へと問う。

 

 

「ドイツ軍の正式な情報では、ここは使用されていないトンネルだと。危険な薬品を保管しているから安全確認が必要と言いますが、私達のしているのは通路のパトロールだけで、薬品の調査は…………」

 

「ファルケ。探るよう真似は────」

 

「ええ、貴方達の予想の通り、ここに薬品なんて保管されていません。ま、そんなもの比にならないような危険物が眠ってはいますが」

 

 

知ったような口振りで答えるドレイクホーン大佐。そんな彼の言葉に、クラリッサ達は沈黙する。少女達の何処かから、唾を飲み込むような音が響いてきた。

 

 

「そ、それは一体─────」

 

「界滅神機です。ご存知でしょう?」

 

「な────ッ」

 

 

淡々と明かされた事実に、クラリッサ達は絶句した。彼女達のその名前のものを知っている。国連が全国の軍部に明かした情報、大戦で死んだ八神博士が遺した人類と世界を滅ぼすための兵器。

 

通常の兵器を越える性能を有するとされており、ハワイ沖で起動した界滅神機は各国が誇る強力なIS四機でも苦戦する程で、テロリストと連携してようやく撃沈させたと聞く。

 

それが世界中の地下にあるかもしれないと言われた時は、肝を冷やした。その兵器が何時起動するか分からない、場所が悪ければ人の多い街の下から這い上がり、近くにいる人々を虐殺するやもしれない。だからこそ、世界中が無視できる話ではなかった。

 

 

「そ、そんなものが、何故ここに────いや、何故ドイツ軍は破壊しないのです!?世界を滅ぼす兵器であれば、一刻も早く破壊するべきでは!」

 

「…………どうですかね。上層部としては、破壊したくないんでは無いですか?なんせ、あの八神博士が開発した強力な兵器ですから」

 

 

────自分達が利用できれば、ISにも負けない強力な戦力になると。これを発見した時、軍上層部は思ったのだろう。だからこそ、隠蔽し、管理することにした。近い内、自分達の戦力として再利用できることを期待して。

 

 

「──────」

 

「………どうかされましたか?大佐」

 

「ハルフォーフ大尉。ISの展開用意を…………どうやら一足遅かったかもしれません」

 

 

スン、と鼻を効かせたドレイクホーン大佐が感じ取った。暗闇のすぐ近くからする、異様な匂いを。それに気付き、呼び掛けたことで、いち早くその異変に気付けた。

 

 

トンネルの通路の一部が半壊していた。吹き飛ばされるように破壊された壁、そこは安全確認のパトロールで最終確認するべき区画を管理するチームのいた場所であった。

 

 

何者かに襲撃されたような破壊の痕に、クラリッサは自分の部隊へと鋭い声で指示を飛ばした。

 

 

「────総員!厳戒態勢!」

 

 

全員が、一気に態度を切り替えた。銃を身構える隊員たちが駆け足でその区画へと突入する。

 

 

入った瞬間、クラリッサはある違和感を覚えた。しかしそれが形となる前に、近くの建物の物影に潜む人影を捉え、銃口をそちらへと向ける。

 

 

「あ…………あああっ」

 

「────生き残りか、何があった?」

 

 

物陰で怯える軍人。ガタガタと震える兵士の顔には赤い液体がこびりついているが、本人のものではない。冷徹に情報を探ろうとするクラリッサが仲間だと気付き安堵したのか、軍人は震えながら話し始めた。

 

 

「黒い、化け物が…………皆、一人に…………変えられて」

 

「…………?何を言っている」

 

 

そんな風に生き残りの軍人を問い詰めていたクラリッサの真後ろに、大きな影が揺れる。ヒト型らしきものが両腕を伸ばし、クラリッサの背後から襲いかかった。

 

 

しかし、その影はすぐに倒れる。ドレイクホーンが頭部に目掛けて投擲したナイフが見事に影に直撃したのだ。気配に気付いたクラリッサが慌てて振り返った時には、全てが終わっていた。

 

 

「ハルフォーフ大尉、ご無事ですか?」

 

「────ハッ!大佐!申し訳ありません!敵を前に隙を見せるなど!」

 

「まぁ、生き残りを相手にされていたので、仕方ないでしょう。それに、部下を助けるのも上司の務めですから、お気になさらず」

 

 

軽く応酬を交わした二人は、目の前にあった影を見ようとして、直後に驚いた。その場に、影らしきものはなかった。残されていたのは、黒い炭のような粒子だけである。

 

 

「これは、一体………」

 

「ハルフォーフ大尉。話は後です、今はこの区画の奥へ向かうべき─────ですが」

 

 

言葉をつまらせたヴァイアス。そんな彼の様子に違和感を覚えたクラリッサが疑問を投げ掛けようとした途端、

 

 

「大尉、今すぐ皆さんに通達を。我々はこの場から退避します」

 

「た、大佐!?いきなり何を────!」

 

「いいから早く。このままでは我々も巻き込まれますよ」

 

 

混乱が拭えないが、上司である大佐の言葉に従い、クラリッサは部隊の引き上げ、その場から出来る限り距離を取る。襲撃された区画から離れた瞬間──────近くの壁を破壊し、巨大な影がトンネルへと乗り上げてきた。

 

 

ガリリリッ! とキャタピラーが駆動する音が多重に連鎖する。大きさの割に軽快に動く巨大な影はクラリッサ達に眼も暮れず、トンネルの奥へと突き進んでいく。トンネルの壁をぶち破っていく巨大な影を呆然と見つめていたクラリッサの横で、ヴァイアスが無線機を繋げていた。

 

 

 

 

「此方、ドレイクホーン。此方、ドレイクホーン。極秘区画に敵が侵入。区画内に貯蔵されていた界滅神機『アルターマグナ』が敵に強奪されました─────」

 

 




正直ルクーゼンブルクには情報が無さすぎて、もうオリジナルしか無いです。


界滅神機に関しては、まぁアメリカやロシアとか、色んな国が見つけても隠すよなぁって。一機でIS複数分だし、戦力して利用したがるヤツが多いと、思いますね。

まぁその結果、敵に利用されたら元も子も無いんですけど(苦笑い)

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