IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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第55話 悪竜/零号/紅蓮

時は数十分前、アルターマグナの封印された区画。

 

 

「………………」

 

 

そのエリアの通路を防衛する小規模の基地。鍛え抜かれたドイツ軍の兵士達が居座っていたその基地に、彼らの姿は無い。

 

周囲には、黒いヒトらしき影が蠢いている。ドロドロと粘り気のある液体で構成された形を保つそれらは、近くにある装備に意識を向けることすらなく、立ち尽くしている。

 

 

ふと、その形が崩れた。原形を失い、液体のようにその場に崩れ落ちた黒が、一点に集まっていく。中央に立っていた、黒コートの青年の足元に、彼へと収束する。

 

 

ズ、ズズズズズ────!

響き渡るのは、排水溝に一気に水を流したような音。文字通り、黒い液体を吸い尽くした黒一色の青年────イヴは自身の口元に、機械的なマスクを被せた。

 

 

「─────もう終わった?」

 

 

基地内のソファーで呑気に寝転がっていた少年が、欠伸を漏らしながら聞いてきた。イヴと同じ組織の人間、立場的には上司であるが、イヴはそんな彼を前に顔をしかめる。

 

 

「…………ミフル様、少しは手伝って欲しいですね」

 

「えー、やだ」

 

 

肩をすくめ、少年────ミフルは不平不満を平然と口にする。

 

 

「ボク、あくまでも『指導者』だしー。雑魚を狩っても大した経験値貰えないし、ボクがやるとしたらある程度強い奴の相手くらいなんだよね」

 

 

ヘラヘラと言ってのける少年に、イヴは露骨に苛立ちを見せた。この組織のトップの四人は、殆どがイカれている。イヴが個人的に忠誠を誓えるのはその内の二人、エーゼルとレギエルだけ。他の二人、目の前にいるミフルとヴォルガは、嫌悪しか感じていない。

 

 

「なら()()()()()は果たしてください。貴方が来たのは、それが目的でしょう」

 

「分かってるよ。ホント、めんどくさくてヤになるけどさ」

 

 

そうして、二人は最新部─────アルターマグナの前へと辿り着いた。人類を滅ぼすべき人工知能も、生体ユニットも既に引き剥がされ、アルターマグナは動くことすら有り得ない鉄の塊と化している。

 

 

アルターマグナの頭部ユニット、コクピットのような空間。そこにある座席────ドイツ軍が、この兵器を人間で動かせるか試したのだろう。座り心地のある座席に腰掛け、ミフルは満足そうに笑う。

 

 

「ダルいけど、これもボクの理想のためだから。一働きしないと、ね」

 

【────生体リンク、接続───】

 

 

周囲の壁から、無数のケーブルが伸びる。それら全てがミフルの首や腕へと突き刺さり、紫の光が伝播していく。それでも、アルターマグナが動くはずがない。

 

ドイツや世界各国すら知らない事実─────界滅神機を動かせるのは、『リゾネーター』という生体ユニットだけ。大戦で無人機達に殺された少年少女が、再利用する為に生き返らされたモノでしか、界滅神機を操ることが出来ないのだから。

 

 

しかし、起動した。アルターマグナは、ミフルを生体ユニットとして受け入れた。機体内部に少年を取り込んだアルターマグナは蒸気を噴かし、轟音を響かせる。

 

 

【────それじゃあ、ボクは今から()()を果たしてくるよ。キミもその為に、足止めは任せたよ】

 

「………………分かってます」

 

 

動き出すアルターマグナ。近くの壁をぶち抜き、巨体が前身を始める。トンネルの通路へと戻った巨大重量戦車が目的の方角へと突き進むのを見届けたイヴは、静かに呟く。

 

 

「ドイツの戦力を抑えてから、現地に合流する」

 

 

瞬間、彼の体が崩れる。イヴだった黒い液体はどろりと溶けていき、床の隙間へと滑り込んでいった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

『────此方、ユニオン部隊。現在大西洋を通過中、フランスの空域への通行の許可を求める』

 

 

海の上を飛行する凹凸の無い航空機、俗に言う全翼機と呼ばれる造形の輸送戦闘機 AuB-64。世界でも知らぬものはいないとされ、アメリカであれば子供すら知っている大規模な企業、エレクトロニクス機社の開発した兵器の一種である。

 

 

工事に使う部品や兵器、ISであろうとも開発する。エレクトロニクス機社は兵器の開発に尽力してきた会社なのだ。本来であれば、アメリカを含む世界中に売り捌かれる兵器であるが─────何も全ての兵器を売っている訳ではない。

 

 

アメリカの現在大統領とも繋がりのある社長 アレックス・エレクトロニクスは、多くの戦力を有している。自身が開発した兵器もあるが、私兵も存在している。

 

 

この戦闘機に搭乗している特殊部隊『ユニオン』もそうである。殆どが、ISの適正もない女性達で構成された部隊。彼女達はアレックスの手足のような役割を持ち、彼の意思に従い動く、エレクトロニクスの尖兵でもあった。

 

 

『ユニオン部隊へ、フランス政府から空域の通過の許可を設けました。フランス領を通り、目標のポイントへと向かってください』

 

『了解、これより作戦実行段階へ移る』

 

 

オペレーターからの通信を終えた隊長らしき女性。輸送機にいる数人のメンバーを見渡し、彼女はヘルメットバイザーを展開し、自分の部下達に言葉を掛けた。

 

 

「ユニオン総員に告ぐ。我々の目的は、ルクーゼンブルク公国に突撃する界滅神機 アルターマグナの破壊である。現在防衛ラインでの戦闘を行っているIS学園が動きを止めている間に、我々はレッドと共に「新兵器」を落とす」

 

 

振り返った隊長の先に─────それはあった。

大型の装置に連結された、人間らしき存在。頭部を隠すように無機質なフェイスマスクが。胴体に特殊なスーツを纏う彼の両腕と両脚には機械の装備らしきものが装着されていた。

 

そして、背中と首筋に連結した何らかの装置。露出した脊髄のような金属の骨格。その一部と背中と肘に、特殊な液体を内包した複数のチューブが結合されている。

 

それが放つ異様な存在感は、多くの特徴などではなく、心臓のある部位に別のものが嵌め込まれている。円形の深紅のコアリアクター。ISコアとは違う、複雑な構造のそれは未だ呼応するように稼働していた。

 

置物のように鎮座したそれを見ながら、隊長の女性は部下達に事前に確認していく。

 

 

「皆も理解している通り、この作戦の本来の目的は『試作零号機』の実験である。アイザック社長が造り出した新兵器、その機能を試すための実戦。もしレッドが戦闘不能状態になった場合、我々が回収を行う」

 

 

了解、と隊員達が応える。左右の座席で待機する部下達を見渡した隊長は背を向け、人間らしき存在の近くに寄り添った。

 

身動きもしないそれの肩に手を添え、諭すように言葉を掛ける。

 

 

「────レッド、分かっているだろうが、無理はするな。お前も万全じゃない。社長も言っていたが、リアクターは強すぎる。お前に適合したとはいえ、簡単に扱い切れる代物じゃない」

 

『──────』

 

「分かってるならいい…………死ぬなよ、レッド。アタシはお前をこんな風にするために、こんなことをさせるために助けたんじゃないんだからな」

 

 

コクリ、と。

レッドと呼ばれた存在は、ひきつったように頷いた。信じてるからな、と軽く肩を叩いた隊長は自分の席へと戻っていく。

 

 

周囲の回線から情報を回収していたのか、突然レッドが何かに反応したように顔を上げた。ギチギチと震える全身が、何かに駆られたみたいに小刻みに揺れている。

 

 

か細い、掠れた声で、レッドは何かを呻く。

 

 

 

『────ィ────ゥ───』

 

 

呪うように、恨むように、憎むように、ある単語を呟き続ける。

 

 

 

◇◆◇

 

 

そして、今に遡り。

 

 

【自己紹介は良いよね?─────じゃ、死んで】

 

 

可変した界滅神機 アルターマグナ。先程までの、装甲列車のような形状の戦車とは違い、破損したはずのキャタピラーを胴体から分離させ、直立するための脚として運用している。

 

砦のような形になったアルターマグナの側面にある装甲が開く。内部から展開された重火器の数々が、一斉に火を吹いた。

 

周囲の、山に並ぶ木々が一瞬で抉られる。直筒状の胴体の全面にある砲台が、まわりの空間ごと敵を一掃するために連射されている。破壊の規模が、桁違いであった。

 

 

 

「────!舐めるな!」

 

 

背中のスラスターによる最大出力の超加速で、弾幕を縫って避けていく。接近していき、アルターマグナ本体に目掛けてエネルギーを帯びた剣の斬撃を振り下ろす。

 

しかし、彼の最高速度を重ねた斬撃は装甲を切り裂く直前に弾かれた。超強力な電磁防壁だろうか、一瞬だけ散った火花から、龍夜は不可視の防壁をそう判断する。

 

そんな彼に向けて、固定砲台による射撃が炸裂した。直後に形態変化を行い、銀光盾を構えた龍夜に、あらゆる火器が撃ち込まれていく。

 

 

殆んどの攻撃手段が集中する最中、龍夜は彼女に向けて叫んだ。

 

 

「────セシリア!撃て!」

 

 

直後に、セシリアは離れた空域から狙撃を行った。

無防備なアルターマグナの胴体に向けて、閃光が直進する。ブルー・ティアーズの狙撃は狙いを外れてはいない、そのまま鉄の柱のような機体を貫通するはずだった。

 

 

 

【────バカじゃん】

 

 

しかし、嘲る少年の声と共に、熱線が捻れた。直撃するはずであったビームは装甲を焼くことすらなく、弧を描くように折れ曲がった。命中すると確信した攻撃を反らされた事実に驚きを隠せないセシリアに、アルターマグナを操るミフルは楽しそうに沸いた声音を響かせる。

 

 

【気付かないと思った?最初から分かってんだよ、ボクは】

 

「っ!?」

 

【そういやさ、キミだよね?エイツーを倒したのって。どんなもんかと期待してみたけど、狙撃手としてはダメダメだよねー……………何でエイツーが飛び回ってるのか、気付かない?】

 

 

────スナイパーが位置を知られたら終わりだからだよ。

 

 

そう告げたミフルが、遠距離武装───主砲を含めた重火器をセシリアに殺到させる。迫り来る砲弾を掻い潜りながら、セシリアは何発も狙撃を放つ。

 

当然、何らかのバリアを発するアルターマグナには届かない。何発も直撃することなく、別の方向へと反らされていく。

 

 

【ハッ!やっぱバカだ!何発撃っても効かないって!言っても分からないみたいだね!】

 

「いえ────狙い通りですわ」

 

【…………あ?何言ってんの?】

 

 

 

 

 

「理解しなくてもいい────馬鹿には分からないさ」

 

 

近くからした声に気付いたミフルは、それを見た。

セシリアの狙撃を銀光盾で受け止めた龍夜の姿を。光の粒子へと変わったビームが、その盾へと吸収されていく光景も。

 

 

エネルギーを奪い、自身のものとして再利用する。彼のIS 『プラチナ・キャリバー』の能力を思い出したミフルは、次に彼がする行動を理解した。エネルギーを再利用する。盾が吸収したエネルギーは、攻撃として転用することも可能であると。

 

 

再び、ISを変形させた龍夜は、鞘から銀剣を抜刀する。至近距離からの一撃、それを受け止めるために電磁バリアを展開するアルターマグナであったが─────

 

 

 

ザンッ!! と。

 

光の粒子を帯びた剣の一振に、装甲を切り裂かれた。

 

 

【───っ!?】

 

「…………攻撃の際にバリアを展開している。しかも、ビーム兵器と俺の剣では別々だった。物理を防ぐ電磁バリアと、ビームを歪ませる電磁バリア。おそらく出力を変化させることで、それぞれの効果へと切り替えているんだろう。

 

 

 

だが、種が分かればやりやすい。人間らしい思考で助かる」

 

 

界滅神機ではこうも上手くいかなかった。相手が此方の力に気付いているからこそ、引っ掛かってくれたのだ。それを理解していて敢えて、龍夜は挑発を投げ掛ける。

 

 

すると、面白いほど簡単に受けてくれた。

 

 

【…………ボクを、馬鹿にしたのか】

 

「自分は相手を見下しておいて、俺に見下ろされるのは気に入らないか。底が見え透いているぞ、格下」

 

【────ッ!】

 

「あら、さっきから無視?────残念」

 

 

気を引かれたアルターマグナに、楯無がランスに内蔵された四連装のガトリング・ガンを叩き込む。チッ、と苛立った様子で防壁を展開したアルターマグナ、それを操るミフルは、楯無に標的を切り替えた。

 

 

【鬱陶しいなぁもう!まずはオマエから片付けてやるよ!】

 

「悪役発言様々ね。こんな相手なら私が勝つのも必然かも」

 

【───ウッザ!】

 

 

言うと同時に、アルターマグナの剛腕のアームが薙ぎ払われる。その攻撃に、楯無は巻き込まれたはずだった。しかし彼女は平然と、少し離れた場所に立っている。

 

先の一撃に手応えはなかったことを噛み締めたミフルは苛立たしさを隠さない。そんな彼に、楯無は槍を下ろして語りかけた。

 

 

「少し、聞いていいかしら?」

 

【はぁ?何?時間稼ぎのつもり?】

 

「いや、個人的な興味…………貴方達、レヴェル・トレーターだっけ?何が目的なの?」

 

 

ほんの一瞬。答えるつもりはないと言い切ろうとしたミフルが言葉を止める。少し考えた後に、まぁいいかという彼の笑いが聞こえてきた。

 

話したところで、何一つ支障はないという自信からだろうか。

 

 

【そりゃあ決まってるんじゃん。ボク達にとって都合が良い世界を作るのさ!その為に、暴れてるだけ。コイツを操るのも、それが理由】

 

「都合の良い世界ね………因みに、貴方の望む世界ってのはどんなもの?」

 

【────ボクが、ボクだけが最高に楽しい世界!それだけさ!どんな奴も、ボクのことを馬鹿に出来ない!ボクだけが幸せに、楽しく過ごせる世界!それが欲しいんだよね!ボクは!!】

 

 

酔いしれるような、楽しさに満ちた声であった。しかしそれを聞いた龍夜達は顔を歪めた。それだけの理由で、ミフルという少年はここまでの惨劇を引き起こしたのだ。

 

その過程で、数十人の人間を殺したにも関わらず、少年は気負う様子すらない。

 

 

「そんな………そんなものの為に、こんなことをしているんですの!?貴方の身勝手な考えのせいで、どれだけの人が犠牲になったと────!」

 

【知らないよ。犠牲?何それ?何でボクが、そんな顔も知らない雑魚のことを顧みないといけないワケ!?今までボクのことも知らずに、アホみたいに平和を謳歌してきた奴等じゃん!ボクの幸せの為に死んだんなら、それこそ本望でしょ!

 

 

 

 

 

どうせ何も為せない、ちっぽけな奴等が死んだだけのことでさぁ!一々うるさいんだけど!】

 

 

アナグラムから離反した過激派、レヴェル・トレーター。その本質を、彼等がアナグラムから排斥された理由を、龍夜は嫌悪を向けるしかない。

 

自分だけが幸せであれば良い、その為なら他の奴等は死んでも当然。むしろ殺されたことを感謝してほしい。等と、宣う奴等の人間性が、本当の意味で世界を変えたいという集まりに適応できるはずがない。

 

 

オスカー・マクスウェルのように、人間社会からも、テロリストからも排斥された自分勝手な人間の集まり。それこそが、レヴェル・トレーターなのだ。

 

 

話は終わりだ、とミフルがアルターマグナを操る。全ての砲台を動かし、自分達への攻撃を再開しようとした。

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

ゾワリ、と。

 

 

不気味な、禍々しい力を感じた。真上の空、そこにある戦闘機らしき影────そこから、力の源と思われるものが、飛来する。

 

 

 

◇◆◇

 

 

『「ヴォルガニック・ゼノリアクター」稼働率100%に到達。エネルギー増幅機関、供給量、共に規定数値を突破』

 

『冷却水、及び鎮痛剤の投与を中断。ウロボロス・ナノマシンの増幅による自己調整を確認。チューブを分離します』

 

『カタパルトレールに、固定。放下のカウントダウンを開始します』

 

 

輸送機のカタパルト、開かれたハッチの中で、レッドは見下ろすように立っていた。機械の脚を動かし、全てを見下ろす彼の顔は見えない。感情らしきものが、分からない。

 

そんな彼の元に、ある通信が届いた。

 

 

『レッド』

 

 

社長、アレックス・エレクトロニクス。彼の声に、レッドは僅かに驚いたように反応を示した。そんな彼に、アレックスは淡々と、短く告げる。

 

 

『────好きに暴れろ』

 

『─────』

 

 

その言葉に、レッドはどう思ったのか。僅かな沈黙の後に、輸送機から身を投げた。普通であればスカイダイビングだとしても有り得ない高度からの落下。レッドは上空で、敵の姿を捉えた。

 

 

アルターマグナ。

暴走した界滅神機体。今回の自分の標的。それを認識したレッドは─────胸元のリアクターを一気に回転させた。

 

 

限界まで稼働したリアクターが、エネルギーを溢れ出す。深紅の、紅蓮のエネルギー。あまりの濃さと質量故に、可視化される程までに倍増された力の塊。

 

 

そのエネルギーが、レッドの全身を覆う。包み込まれた紅蓮の粒子が固形となり、装甲へと変わる。ウロボロス・ナノマシン。理論上、どんな物質にもエネルギーにもなれるエレクトロニクス機社の産み出した最高のエネルギー。それがレッドの全身に展開された深紅の鎧へと形成されていく。

 

 

 

エネルギーの粒子を振り払い、現れたのは紅蓮の悪魔。赤と黒の二色で構成されたその機体は禍々しさを体現したような異形である。

 

 

会社からその状況を観察していたアレックスは笑みを浮かべる。余裕に満ちた表情のまま、彼は画面に移る禍々しい機体を見つめ、告げる。

 

 

「さぁ、お前の力を存分に振るえ。レッド────いや、ISを越える新世代 U.S 試作零号『アサルト・キラー』」

 

『─────■』

 

 

形成されたバイザー、或いはフェイスマスクか。その装甲にヒビが入る。いや、元よりバイザーが割れる使用だったのか。怪物の口のように開いたバイザーの奥にはレッドの顔はない。

 

怪物そのものになったかのような造形。小刻みに震えたレッド、『アサルト・キラー』は獣のような咆哮を轟かせた。

 

 

『■■■■■■■■■■■■──────ッ!!!!』

 

 

 

◇◆◇

 

 

「…………何だ、アレは」

 

 

上空に飛来したその機体を前に、龍夜は疑問を漏らした。純粋な疑問。それに答えられる者は、この場にはいない。セシリアも楯無も、敵であるミフルすらも、突然乱入してきた謎の機体に視線を集中させている。

 

 

ハイパセンサーで確認したセシリアは、思わず口に出していた。

 

 

「……………IS?」

 

「違う」

 

 

即答だった。

割り入った発言をした龍夜は、その機体を睨み、唾を飲み込む。ISとは違う、彼がそう断言したのは理由があった。

 

 

「アレは、ISではない。────ISで、あるものか」

 

 

底知らない禍々しさ。人が造り出した厄災を体現するが如くの姿。アレはISとは違い、あらゆるものを破壊し尽くすことを目的として造られた破壊の権化だ。アレが放つエネルギーとオーラ、禍々しく変質するものが、それを言葉に出さずとも示している。

 

 

そんな彼等の前で、状況が動き出した。

 

正体不明の機体が動き出した。いつの間にか背中に大型のスラスターが展開されており、その機体は突然アルターマグナへと突貫したのだ。

 

 

【─────!!】

 

 

即座に反応したミフル、アルターマグナが全ての砲台を放出する。放たれた無数の軌跡が、上空にある機体───『アサルト・キラー』へと炸裂した、はずであった。

 

だが、アサルト・キラーは龍夜の『プラチナ・キャリバー』の最高速度に匹敵する機動力で全ての射撃を避けていく。

 

ふと、アサルト・キラーの視線が龍夜達に向けられる。いや、より正確にはセシリアか。彼女の持つ長大なビームライフルを視認したレッドが、唐突に手を掲げる。

 

 

瞬間、黒い粒子が集まる。空中で収束したエネルギーが形になったと思えば、見覚えのある漆黒のビームライフルへと変化した。

 

 

「アレは───セシリアの!?」

 

「私の武器を、コピーした!?そんなこと────」

 

 

実際は、コピーどころではない。

アサルト・キラーが片手で構え、引き金を引いた長身のビームライフルから、高出力のレーザーが放たれた。

 

たった一発の射撃が、空を割る。地面を抉りながら迫る閃光が、アルターマグナの脚の一本を両断した。撃ち抜かれた脚の断面は、あまりの熱量で熔け、ドロリとオレンジの液体へとなりかけた状態で融解している。

 

 

【何だよ、ソレ────何だよ!ソレ!】

 

『────』

 

【電磁バリアが通じないとか!貫通するとか反則じゃん!ふざけんなよレギエル!こんな奴がいるなんて聞いてないんだけど!?】

 

 

少年の焦りの声が響き渡る。誰かへの罵声を飛ばしながら、巨体を利用した突進と共に全ての武装を点火する。無数の重火器がアサルト・キラーに炸裂し、連鎖的な爆発を繰り返す。

 

 

しかし────アサルト・キラーは平然と、煙の向こうから飛び出してきた。長身のビームライフルを投げ捨てた紅蓮の怪物は無手のまま突撃する。

 

その背中が、突如弾ける。まるで内側から食い破るように、背中から解離したそれはうねり、頭部をもたげた。

 

怪物の、頭部を模したユニット。背中から展開された竜の形状をした武装は口を多き開閉し、内蔵されていた超高出力のレーザー砲を収束し、解き放った。

 

 

【──────あ、ヤバ】

 

 

放たれたのは、最早レーザーですらない。破壊エネルギーを最大限まで圧縮した球体の魔弾。砲弾のようにして放たれた一発はアルターマグナに炸裂し──────無音の爆発を引き起こす。

 

一瞬で、爆発は消失した。残されたのは、全体の八割を抉られたアルターマグナのみ。胴体と共に、搭乗していた少年も消し飛ばされたのか、アルターマグナの残骸はその場に崩れ落ちた。

 

 

「………終わった、のでしょうか」

 

 

セシリアの問いに、龍夜は答えられない。やはり、実感が湧かない。界滅神機が、それを操るテロリストのリーダーの一人が、こうも簡単に倒されるものか。

 

それ以上に、あの機体は何なのか。龍夜であっても疑問しかない。どれだけ考えても、それに対する答えは出なかった。

 

だが、考えている暇はないと理解させられる。

 

 

突如、アサルト・キラーが此方へと振り返ったのだ。生体反応を確認する程度の素振り。即座に興味を失くして、その場から離脱するのか、そう思ったのは間違いだった。

 

 

『──────ァ、ア』

 

 

アサルト・キラーの視線が釘付けになる。龍夜達を見たレッドは苦しそうに呻き、頭を抱えていた。フーッ、フーッ、という荒い呼吸が響く。顔は見えないが、そこから向けられる激しい殺意と憎悪だけは理解できた。

 

 

『─────ェ、ゥ』

 

「…………っ」

 

『────ィィィィ!ェェェェェェエエエエッ、ゥゥゥゥゥゥゥ!!!』

 

 

怒号に近い絶叫を響かせながら、アサルト・キラーは襲いかかってきた。勢いよく振り下ろされる鋭利な爪を剣で受け止め、切り払う。

 

金属と金属同士の接触で、火花が飛び散る。普通の攻撃であることに安堵する一方で、ある可能性を理解し、龍夜は青ざめた。

 

 

(まさかコイツ────生身なのか!?)

 

 

これだけのエネルギーを纏いながら、絶対防御すら存在しない。つまり鎧を纏っていても、攻撃次第では殺しかねない。一瞬だけ生じた事実が龍夜の思考を遅らせる。

 

その隙を狙うように放たれた爪の刃が、肩の装甲を切り裂く。絶対防御越しに伝わる苦痛に顔を歪めながらも、龍夜はそれを迎撃し返す。

 

 

「龍夜さん───ッ!」

 

「止めろ!セシリア!下手に手出しを────」

 

 

呼び止めようとしたが、セシリアは狙撃の姿勢に入っていた。龍夜を巻き込まず、相対しているレッドだけを狙おうとスコープを覗いていたが─────視線の先で、レッドは振り返った。

 

バックリ、と開いた口から、極太のレーザーが放出される。不意打ちとも呼べる攻撃に対応できるはずもなく、セシリアはその閃光を受けた。

 

 

「ああああああっ!?」

 

 

装甲を焼かれる程の一撃に苦しむセシリア。アサルト・キラー、レッドはそれを有効と判断したのか、そのままセシリアへと追撃を向けようとして────真後ろからの殺気に、慌てて構え直した。

 

 

 

「────死ね」

 

【OVER ENERGIE DISCHARGE!】

 

 

激情に染まった龍夜が銀光の帯びた一撃を叩き込む。真上から振り下ろされた斬撃に、レッドは受け止めた両腕を装甲ごと斬り裂かれた。

 

両腕を切断されたレッドは、呻くような唸り声と共に離れる。直後に冷静になった龍夜は、両腕を斬ったはずなのに血すら流れない事実に気付く。

 

 

(まさかコイツ────両腕とも義手か!?)

 

 

更に驚愕させられることになった。

レッドの胸元のリアクターが高速で稼働し、エネルギーを倍増させていく。赤黒いエネルギーがレッドの切断された部位を覆ったと思えば─────その粒子が形となり、レッドの腕へと戻ったのだ。

 

愕然とする龍夜達を見据えるように、レッドが呻く。言葉にならない声で、何とか何かを言おうとしていた。

 

 

『ア、ア、アア─────アァ、イ、エェ……ウゥゥゥゥッ!!』

 

「……………アイエス?ISと言っているのか?」

 

『ア、イエ────ス……………I、S』

 

 

その単語を聞いた瞬間、レッドは頭を抱え始めた。かきむしるように爪を立てたレッドの機体、アサルト・キラーの形が揺らぎ始める。

 

だが、消えていくのではなく、その形は変容していく。呪詛のように呟き続けるレッドの憎悪に呼応するように、禍々しく。

 

 

『アイエス!アイエス!アイエスッ!アイエスアイエスアイエスアイエスアイエスアイエスアイエスアイエスアイエスアイエスアイエスアイエスアイエスアイエス─────!

 

 

 

 

 

アァイエスゥゥゥ──────ッ!!』

 

 

「二人とも!避けて!」

 

 

獣の如く、形振り構わず突貫してきたレッドに身構えた龍夜はとセシリアに、楯無が叫ぶ。自らの槍『蒼流旋』の掴む手を離した楯無は、再びそれを握り直す。水を帯びた斬撃を、何発かアサルト・キラーへと浴びせる。

 

 

装甲が砕けても関係ないと、アサルト・キラーは襲いかかる。至近距離まで迫ってきたレッドの攻撃を華麗に避けた彼女は、静かに敵を見据える。

 

 

『グォォォオオオオ─────』

 

(戦い方は素人、だけど強い。こういう戦術を無視した戦いをするタイプは、相性が悪い)

 

 

水の刃を受け、破壊されていたはずの紅蓮の装甲が、黒い粒子により修復されている。あれだけの攻撃をしても、瞬時に再生する目の前の存在に素直に感心する楯無。自分の攻撃が通じていないにも関わらず、余裕すらある様子を絶やさないのは、

 

 

「けど────もうチェックメイトよ」

 

 

既に勝利を確信していたからである。確信的な微笑みを浮かべる楯無にレッドが攻撃をしようとした直後。

 

 

 

 

 

アサルト・キラー、レッドが内側から破裂した。小さな、複数の爆発が、内側から鎧を破壊していく。

 

 

『───ッ!───ッ!?』

 

 

『ミステリアス・レイディ』。

彼女の操るその機体は水を操る。その原理は水に内包させたナノマシンによる操作だ。優れた使い手である彼女は、その応用としてナノマシンのエネルギーを全て熱へと変換し、水を爆発させる『清き熱情』という技能を身に付けている。

 

 

先程の攻撃で僅かな水がアサルト・キラーの装甲へ、小さな隙間へと入っていった。そして完全に鎧を修復した直後の爆発は、内側から機体を壊していく。

 

 

『■■■■■■■■■■■ッ!!!』

 

 

絶叫か咆哮か。喉の奥から迸るような叫びは、少しの間続いていた。しかし連鎖的な爆発は余程ダメージであったのか、レッドの意識は完全に途絶えた。

 

 

 

「…………やったのか?」

 

「いいや、まだ生きてるわね」

 

 

そう断言した楯無の視線の先で、レッドは僅かに身動ぎをしていた。生きているが、今は動けないという状態なのだろう。その様子を確認した龍夜が力を入れる。確実に意識を絶っておきたい、そう考えたのかもしれない。

 

 

 

 

その直後だった。

 

 

機関銃の弾丸の雨が、レッドの周囲に降り注ぐ。そして、突如として飛来してきた戦闘機が此方に銃口を向けていた。咄嗟に身構える龍夜達であったが、

 

 

『────悪いが、武装を下ろしてくれ。我々は敵ではない』

 

「貴方達は?」

 

『本日、最終防衛ラインに参加したエレクトロニクス機社。そして私は社長、アレックス・エレクトロニクスだ。これ以上の戦闘行為は本望ではない。話し合いを求める』

 

 

 

 

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