IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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エイプリルフールだけど、つく嘘が無いです(真顔)強いて言うなら、友達が沢山いる……………うん、嘘(絶望)


第58話 鮮血の宴

「クソ! 蒼青め! 勝手な行動を!」

 

 

映像を見て飛び出した龍夜がISを展開してこの基地から離脱したのを理解し、千冬は苛立ちを溢す。半分は勝手に動いた教え子に対して、もう半分は彼の理性を上回る程の『復讐』を理解しておきながら、気を抜いてしまった自分への浅慮を。

 

 

(あの黒いISに反応したということは、アレが蒼青の仇か。ドローンの映像からして、アレは此方を認視していた。だとすると、奴はわざと自分の姿を見せたということに………)

 

 

おそらく、罠だ。

彼を戦場に誘き寄せるために意図的に仕組まれた悪意を感じ取り、千冬は顔をしかめる。あまりにもやり方が遠回し過ぎる。黒幕は、彼の追う仇は、これだけの大舞台を作り出せる程の存在ということになる。

 

少なくとも、表側の存在ではない。裏側、闇の中でも上に位置する者だ。自分達にとっても無視できない、因縁ともなる存在だという予感を、今更ながら実感する。

 

 

「────織斑先生!今すぐ出撃許可を!」

 

「ダメに決まっているだろう。オルコット、お前のISは既にエネルギー切れのはずだ。補給を終えるまで待っていろ」

 

「ですがそれでは!龍夜さんがっ!」

 

 

青年の身を案じるセシリアだが、千冬としては同じ言葉しか言えない。セシリアも楯無も、ISのエネルギー補給が出来ていない。半永久機関を有する龍夜とは違って。

 

中途半端な状態で戦場に送ればどうなるか予測できるからこそ、そんな事態を防がねばならない。淡々と語る千冬に食い下がる様子もないセシリア。そんな彼女達の様子を見て、声をかけるものがいた。

 

 

いや、性格には電子ネットワーク上の言葉を。

 

 

 

『ちふ────織斑、千冬……さん』

 

「……………これは、お前か?」

 

『ISのエネルギーの問題なら、大丈夫です。僕が、それを解決できます』

 

 

立ち上がりながら、モニターに言葉を浮かび上がらせるレッド。彼は両手を差し出し、ISを渡すように求めてきた。その様子に戸惑いながらも、待機状態のISを手渡すセシリア。楯無も少し悩んでいたようだが、特に気にすることなくアクセサリを渡した。

 

レッドを見据えていた千冬は、モニター越しに静観している社長を軽く睨む。

 

 

「…………下手な小細工はしないだろうな、アレックス」

 

『オレならば兎も角、彼は純粋だ。そのような勘繰りは無意味とだけ言っておくぞ、千冬』

 

 

二人の前で、レッドは待機状態のISを両手で握り締める。胸にあるリアクターが回転し、腕の先へとエネルギーが送られていく。次の瞬間、レッドは力を抜いて、ISを返した。

 

 

『────エネルギーは補給した。万全の状態で扱えるから、安心してくれ』

 

 

驚きながらも、二人はISのエネルギーが満タンにまで補充されていることを確認する。ここまで出来るのか、と思いながらも彼女達は千冬に視線を向けた。

 

 

「織斑先生!」

 

「………行ってこい。元より、出動許可は出ている。公国を襲撃する敵勢力の打破、及び蒼青龍夜の援護を。我々はここでバックアップを行う」

 

 

ありがとうございます! と頭を下げるセシリア。今にも飛び出しそうな彼女を制したのは、レッドであった。彼はセシリアと楯無を見ながら、言葉を呈示する。

 

 

『僕も行く。君達よりも、一番早く行動できるはずだ』

 

「…………良いの?貴方はIS学園の人間じゃないから、ここまでする義理はないと思うけれど」

 

『僕自身の意思だ。社長からの許可は貰っている。実験として、テロリストの相手をするって事でね』

 

 

カタパルトに移動した三人、セシリアと楯無がISを展開する。レッドはその後ろでリアクターを回転し、造り出した黒い粒子を装甲として形成し、大型の鎧を纏う。

 

 

明らかに重量級であり、背中に大型のブースターを有した飛行形態を。見たこともある装備が装着されていることに気付いた楯無が感心したように口笛を吹く。

 

 

「やっぱり、見たものをコピーする────だけじゃないみたいね。自分にあった形に再構築するなんて、規格外の力ね」

 

『─────それでも、全能じゃないです。二人とも、僕の背中に掴まってください。全速力で公国に向かいます』

 

 

二人が彼の背中の翼の突起を掴んだ瞬間、大きな機体が宙に浮かぶ。自身の身体を機体の中へと収納したレッドが意識を機体に接続した直後、凄まじい速度で飛翔していく。

 

 

数分もしない内に、二人を連れたレッドが公国の領域へと侵入する。燃え盛る街並みを見て辛そうな顔をするセシリア。今にでも助けに飛び出したいのだろう。だが、彼女達にはいち早くやるべき事がある。

 

 

「レッドくん、敵は見える?」

 

『センサーには雑兵しか。龍夜の反応は見えない。恐らく、センサーの通用しない領域内に誘き寄せられたのかも。そこに向かえば─────ッ!二人とも!掴まって!』

 

 

直後、レッドが操る飛行機体が勢いよく回転した。彼等のいた方に目掛けて、瓦礫の砲弾が飛ばされてきた。慌てて二人を連れて不時着したレッドは機体を変形させ、自身の鎧へと切り換える。

 

 

臨戦態勢を整えた三人。人気のない通りに降り立った彼女達の前に、先ほどの攻撃をしてきたと思われる者達が現れた。

 

 

「────見覚えのある顔ぶれだな」

 

 

フードを被った謎の青年。顔の半分だけを露出させた彼の顔は、薄暗くてよく見えない。分かるのは、藍色の瞳だ。フードの下から黒髪を下げた青年はセシリアと楯無を見据え、懐かしむように口を開く。

 

 

「セシリア・オルコットと更識楯無、もう一人……………アレは何だ?」

 

 

レッドを指差す青年の隣には、無口の二人組が左右に並んでいた。黒装束を纏った男女。感情というものが見えずとも、鋭い気迫と殺意を備えた彼等は機械的に、青年の隣に在るだけであった。

 

 

「私達の事も知ってるのね。なら、こっちも当ててみようかしら? 貴方達が今回の件の黒幕の一つでしょ、レヴェル・トレーター」

 

「正解だ。更識の現当主。私───いや、俺はレギエル。レヴェル・トレーターの指導者の一人、『堕天』のレギエルと名乗らせて貰っている」

 

 

堂々と宣言するレギエルに、楯無はふーんと呟く。しかし、すぐに笑みを浮かべ、彼に言葉を投げ掛けた。

 

 

「レギエル、ねぇ。それ、本名じゃないんでしょ?」

 

「人の事を言えたことか。貴方こそ、己の名を隠しているだろうに」

 

「……………」

 

 

その発言に、楯無は黙った。核心を突かれたような言葉を受け、彼女の顔に汗が生じる。しかし、それだけで平静を崩さず、焦りを見せることはなかった。

 

 

「………レヴェル・トレーター、貴方達の存在は私達も探っていたわ。貴方以外の指導者の全員も、既に把握済みよ」

 

「…………」

 

「ヴォルガ・ハザード、エーゼル・シュタイン、露木ミフル。この三人については、おおよそ掴めてる。けど、貴方の情報だけは無かったわ。痕跡はおろか、経歴すら探れなかった──────まるで一人の人間が、突然世界に現れてきたみたいじゃない?」

 

 

今度はレギエルが口を閉ざした。片眼だけの藍色の瞳に宿るのは、警戒の色。そこに敵意が感じないのは、何故だろうか。

 

僅かに、セシリアが周囲に意識を配る。心配そうに見渡していた彼女の心境が見え透いたのか、レギエルが不適に笑う。

 

 

「────蒼青龍夜が心配か?セシリア・オルコット」

 

「っ!」

 

「安心するといい、彼は死んではない。つい先ほど、俺の仲間────ヴォルガと戦い始めた。此方としても、殺すつもりはないから安心して欲しい。

 

 

 

 

 

 

まぁ、五体満足かは保証できないが、死にはしないだろう。彼は、あの人はまだ、必要だからな」

 

 

複雑そうに呟いたレギエルの言葉に、セシリアの心配は増すばかりであった。今にでも助けに向かおうとする彼女や、此方の警戒を隠さぬ楯無、そして静かな怒りを見せるレッドに向けて、レギエルは告げる。

 

 

「俺が出てきたのは、あくまでも時間稼ぎのため。我等の計画のためにも、貴方達の足止めをさせていただく。────アルネ、カシューラク、援護をしろ。もしもの場合、『使う』為の保険を」

 

「…………ハッ」

 

 

指示を受けた途端、二人の男女は腕を上げた。手に握っていた黒い液体の入った注射器を首に押し当てる。カシュッ! と軽い音を響かせ、液体を流し込んだ二人が動く。

 

 

 

「「幻想(ファンタシス)─────浸蝕(インペリウム)」」

 

 

二人の肉体が黒い闇に呑まれ、変質していく。黒が砕け散り、姿を現した彼等を新たな幻想武装が纏う。その形状に見覚えがあったのか、セシリアは驚愕のままに口にした。

 

 

「幻魔複合、アンノウン……ッ! エイツーさんだけの力ではありませんの!?」

 

「アンノウンは幻想武装の中で唯一、量産化が為された幻想武装だ。数百の生物の力を有したからこそ、十人十色といった機能を得るこの力は────正しく俺好みだ。二つの意味でな」

 

 

そう言いながら、レギエルは肩に装着していたパーツを外す。カオステクター、そう呼ばれていた変身装置を握ったレギエルは──────自身の片腕ごと、身体から引き剥がした。

 

 

いや、その片腕は義手であった。機械で形成された義手を軽く掴み、レギエルはカオステクターに取り出したチップを挿し込んだ。

 

 

「────起きろ、サマエル」

 

 

義手を投げ捨てたレギエル。その目の前で、義手が黒い光に包まれ、変容していく。巨大な影へと変化した黒い闇から、十数メートルの巨大な機械蛇が飛び出してきた。

 

機械蛇 サマエルを従えたレギエルが向き直る。左右に並び立つ部下二人と自身の手駒たるサマエルに向けて、どうでも良さそうな声で告げた。

 

 

「いいか、IS操縦者の二人とも殺すなよ。イレギュラーは殺してもいい。何より────死ぬなら俺の為に、いいな?」

 

「…………ハッ」

 

「────行け」

 

 

半身を幻想武装に侵食された二人が、同時に飛び出した。咄嗟に反応したセシリアがスターライトmkⅢを構え、狙撃を行う。放たれた閃光は二人を狙ったものだが、二人のうちツインテールの女性 アルネが変異した片腕を振り払う。

 

 

腕から生じた半透明な光の障壁が、レーザーを防ぐ。その背後に隠れていたもう一人、カシューラクが動き出した。

 

 

「─────『イエティ』、『スカイフィッシュ』抽出」

 

 

抽出された未確認生物の能力を引き出す幻想武装。その名を体現するように、カシューラクの肉体が変化を起こす。半身の腕だけが異様に膨張し、背中に小さな光の紋様が浮かび上がる

 

 

一瞬にして、距離を詰めるカシューラク。セシリアに狙いを定め、腕に力を込めて接近していくが、楯無がそれを防ぐように前に出る。

 

 

「────!」

 

「あら、随分と粗暴な動きね。見易いわ」

 

 

カシューラクの大振りの腕を避けた楯無が、水を螺旋のように回転させた槍をそのまま叩き込む。ズガガガッ! と、凄まじい音がカシューラクに直撃した直後に響き渡る。幻想武装を削っていく槍は受けるカシューラクであったが、突如として槍が動きを止めた。

 

 

「────氷?まさか!」

 

「もう、遅い。終わりだ────」

 

 

制御用のナノマシンの仕込まれた水ごと凍らされた。そう気付いた楯無の槍を掴んだカシューラクが肥大化させた拳を振り上げ、楯無へと叩き込もうとした。

 

 

だが、そんなカシューラクの横腹を、真紅の機体が吹き飛ばした。超加速より突進を行ったレッドは楯無に顔を覆ったフルフェイスのバイザーを向け、メールによる言葉を送る。

 

 

『無事、ですか』

 

「………心配は無用よ。ちょっと油断しちゃっただけ────避けて!」

 

 

会話の最中に動きに気付いた楯無とレッドが横に飛んだ。直後、二人のいた場所が圧倒的な重量により押し潰される。尻尾を地面に叩きつけた巨大な機械蛇 サマエルが彼等を無機質なツインアイで見下ろしていた。

 

 

ガパッ、とサマエルが口を大きく開く。口内に仕込まれた複数の装置が切り換えられ、その内の一つが此方に向けられる。直後、紫の液体を収束させたようなか細い塊が吐き飛ばされる。

 

センサーで通して、楯無がその正体を見破った。

 

 

「ッ!毒よ!レッド君! アレを消せる?どちらかというと、焼いて欲しいけれど!」

 

『────分かってます!』

 

 

片腕の義手を変形させ、火炎放射により毒を焼き払う。空中で焼き尽くされた毒は完全に消滅したが、サマエルの攻撃の手は緩まなかった。

 

ガコン、と口内の装置が切り替わった。今度は空気が圧縮されたようにねじ曲がり、地面に着弾した途端凄まじい勢いで膨張した空気が地面を抉っていく。

 

幸いなことに、二人は何とか回避できていた。セシリアと並んだ三人だが、ふと楯無が険しい顔でサマエルの方を睨んでいた。

 

 

「…………おかしいわね」

 

「?何かありましたの?」

 

「セシリアちゃん。幻想武装って言うのは、基本的に一つの生物、その力に特化した特殊な装備よね?」

 

「ええ、確かそう記憶してますけれど…………」

 

「じゃあ、アレはどういう原理で複数の能力を使えているのかしら?」

 

 

サマエルを見据えた楯無はかつての報告書を見ていた。ロシアの代表候補生。自分の後輩がアレと対峙した際には、何らかの転移らしき能力を発動したらしい。だからこそ、転移系統の能力だと思っていたが、サマエルは毒や風等の全く別の力を平然と使用していた。

 

サマエルという名前が伝承通りなら、毒が本来の能力のはずだ。楽園を守護する蛇であり、堕天使とも言えるその怪物は、決して炎を扱ったり、転移したりなどの逸話はなかった。

 

 

「………レギエル自身が動かない様子を見るに、サマエルは遠隔操作タイプの幻想武装かしら。あの感じ、戦闘に意識を向けてないから、多分操作は出来てない。恐らく自律思考で動いてると見ていい」

 

『なら、本体を狙うべきでは?その方が、サマエルも防御を優先させるはず』

 

「そうしたいのも山々だけど……………何故かしら、彼に接近しない方が良さそうなのよね。危機感知って奴かも」

 

 

片腕であり、如何にも戦う手段がなさそうなレギエル。しかし何故か近付いたらダメだと、楯無の本能が警鐘を鳴らし響いていた。本人も分からないが、もし彼本人に手を出せば、最悪の事態になりかねない。そんな予感がしてならなかった。

 

何より、あの余裕そうなレギエル。戦いではなく、別の何かに意識を向けている彼を前に、楯無は自分が軽く手玉に取られている気がして、逆に笑いを浮かべた。

 

 

「────厄介ね、本当に」

 

 

 

◇◆◇

 

 

轟音が響き渡る。

近くの基地の施設が内側から爆発し、その爆煙の中から蒼銀のISを纏った龍夜が飛び出してきた。顔を覆う騎士風のバイザーを上げた彼は、両手に備えた盾と剣を握る力を強め、身構える。

 

 

そして、炎を伴い、怪物が歩み出てきた。

 

 

 

「ギャハハハハハハハハ─────ッ!!!」

 

 

三首の猛獣。ケルベロス。

地獄の番人として恐れられた逸話を持つ神話の魔獣。その特性と性質、存在を具現させた幻想武装は、獣そのものであった。

 

それを纏う男、ヴォルガ・ハザードも獣同然なのだろう。血に飢えたようなギラギラとした眼光と引き裂けた口元が、人間とは桁外れの狂気を滲ませている。

 

 

全身に連結した鎖の先に繋げられたトゲ付きの首輪とトラバサミのような二つの頭。縦横無尽に空中でうねる鎖に従い、ケルベロスの口が歯を立てるように、そのまま龍夜へと噛みつこうとした。

 

 

「─────!」

 

しかし、龍夜の担う銀剣がそれを弾き飛ばす。一瞬だけ動きを止められた顎が再び飛びつくが、背中のブースターを稼働させ、低空飛行と共にスライド移動した龍夜には届かない。

 

 

空中にいた龍夜に、もう一つのケルベロスの顎が狙いを向けた。口を大きく開き、口内に激しい熱を蓄積させ、解放する。

 

 

「────『業火(ヘル・ボア)』ァッ!!」

 

 

燃え盛る炎の砲弾が、猛獣の口から放たれた。空中という回避不能な状況下、迫り来る炎玉が龍夜に直撃する。ギヒ、と不敵どころか滾るような笑みを浮かべるヴォルガの視線の先で、蒼いエネルギーの粒子が舞う。

 

 

ジャラ! と鎖を手繰り寄せたヴォルガの目の前に、超加速で突撃してきた龍夜の蒼光の刃が迫った。しかし手で引き寄せる鎖が、それを前にして防いでいたのだ。

 

アクセルバースト・フォーム。

防御とエネルギーの保存、戦いやすさに特化したディフェンスタイプの形態とは違い、加速と高火力に特化させたアタッカータイプの形態。

 

通常のIS、発展してきたISにも、戦闘時での高速形態変化機能は存在していない。理論的に、不可能とされていたからだ。そんな芸当が出来るのは人類を越えた天災にしか出来ぬもの。

 

この機体 『プラチナ・キャリバー』が、篠ノ之束により造り出されたISだからこそ、その例外と言えるのだ。それを操る龍夜も、普通の人間であれば使いこなすのも難しい機能を、完全に制御していた。

 

 

可変した銀剣。大型のブレードまでの拡張を実行した剣にエネルギーを帯び、龍夜がヴォルガへと斬りかかる。本能に応じ、鎖を手繰り寄せていき、飛び退いた彼の目の前で、光刃を受けた地面が一瞬で蒸発、いや消し飛んだ。

 

 

ダンッ!! と、空中で弾けたヴォルガが基地内に並んでいた戦闘機へと直撃する。自発的に動いた彼は全身に纏う業火により溶けていく戦闘機から設置されていた機銃を奪い、両手に構えた二つの銃口を此方に狙いを向けた龍夜と向ける。

 

 

引き金のスイッチを押したヴォルガの両手の機銃から、無数の銃弾の雨が放射される。瞬く間に直線上に龍夜の方へと迫り来る弾丸の礫を前に、彼は脚を動かした。前へと踏み込む青年の足は、地面を吹き飛ばし────彼は、超速に至る。

 

 

蒼白い稲妻が、銃弾の雨を突き抜けていく。超加速による移動、ブースターを瞬時にずらした事での音速ブレーキを繰り返した龍夜が、自分に迫る弾丸を回避しながら、ヴォルガへの距離を縮めていく。

 

加速による直進を僅かな時間で切り換え、断続的に変則軌道繰り返す龍夜が編み出した技術の一つ。エネルギーの消耗すら軽く補う技術は、たとえ優れたプロですら慣れるようなものではない。

 

 

瞬間的に速度を緩めた龍夜の手が、ヴォルガの顔を押さえ込む。思考が反応できず、気付いた時に掴もうとヴォルガであったが、再び加速を始めた龍夜に捕まえられた形で、音速の勢いのまま、近くにあった鉄塔に叩きつけられた。

 

 

「─────ガッ、オ───」

 

 

倒れ込んだヴォルガの喉元に、冷たい刃が突き付けられる。エネルギーを纏う刃を向けた龍夜は、冷たい瞳でヴォルガを見下ろし、低い声で問い掛けた。

 

 

「────奴の事を、話す気になったか」

 

「………ハッ、もう終わった………つもり、かァ?」

 

 

クツクツ、とひきつるように笑うヴォルガに、龍夜は冷徹な目を向けながらも、警戒を隠さない。そんな彼の視線が、何かに気付き、ヴォルガへの意識が外れる。その瞬間、ヴォルガは狂気に満ちた笑みを深め、立ち上がった。

 

 

「まァァーーーーだッ!まだに決まってんだろォーーが!ボケが!オレの本気は!楽しみは!まだこれから何だよォッ!!」

 

首に突きつけられた刃が、彼の首の肉を切り裂く。それでも、光刃が首を斬ることすら厭わず、ヴォルガは更に前へと踏み込む。

 

あまりの行動に、龍夜の思考が正気を疑った。自害の可能性を候補に置き、彼は咄嗟に刃を下げようとする。

 

 

直後、彼の足元、地面から伸びてきた鋼鉄の顎が、龍夜へと噛みついた。その事が、何故かヴォルガの周囲から消えたケルベロスの頭部が、予想だにしない出来事により思考から外れたことで、不意を突かれたのだ。

 

首へと食らいついたケルベロスの顎だが、ISの防御機能により、皮膚にダメージはない。だが、ケルベロスの纏う獄焔により、シールドが徐々に減らされていると理解した龍夜は、エネルギーの刃で、ケルベロスの頭部に繋げられた鎖を切断した。

 

勢いよく遠くに飛ばされた龍夜は、空中で形態変化を行う。先の行動により、エネルギーは大いに消耗してしまった。騎士の鎧のような形態 ナイトアーマー・フォームでエネルギーの補填をしておこうと思った彼は────自分が基地から離れたことに、ようやく気付いた。

 

 

「…………ここは?」

 

 

恐らく、ヴォルガのケルベロスがここを狙って飛ばしたのだろう。だが、何故? そんな風な疑問に従い、龍夜は冷静に思考を働かせる。

 

そもそもここが何処なのか、龍夜がそう思い、ハイパーセンサーを発動した瞬間、困惑した。

 

 

(この反応、シェルター………!?何でこれだけの生命反応が─────いや!今は大規模テロの最中だ!民間人は安全なシェルターに逃がすのが普通だろ!)

 

 

足元にある多数の生物の反応から、避難用のシェルターの存在を感知した龍夜。その存在を一瞬でも疑問に思った自分がどれだけ冷静でなかったか理解させられ、少しでも落ち着こうと頭をかきむしる。

 

問題は、何故ヴォルガがここに自分を飛ばしてきたのか。その答えを探ろうと思考を働かせた龍夜の脳裏に、最悪の答えが浮かんだ。いや、浮かんでしまった。

 

 

 

「─────君!そこで何をしている!」

 

 

そんな風に考えていた龍夜に向けて声が放たれる。近くの建物の路地から兵士が飛び出してきた。ハイパーセンサーを稼働させていた時の生体反応の動きからして、シェルターの中にいた兵士が、地上の様子に気付いたのだろう。

 

考え事をしていて反応が遅れた龍夜に、兵士達は銃を向けようとする。しかし、彼が纏っているものと、彼の顔を見た兵士の一人が、思い出したように声を漏らす。

 

 

「IS………!?まさか、IS学園の!?戦闘に巻き込まれていたのか!」

 

「何て事だ……!こんな若い子がか!?」

 

 

自分達の味方だと気付いたルクーゼンブルク公国の兵士達が駆け寄ろうとする。近くの建物に叩きつけられていた龍夜をシェルターに入れようとしたのか、或いは援護するためか。少なくとも、彼の身を心配していることには変わりない。

 

 

そんな感覚に慣れず、戸惑っていた龍夜だが、先程まで考えていたことを思い出す。そして、慌てたように叫んだ。

 

 

「馬鹿止めろ!俺に近付くな!急いでシェルターに戻────!」

 

 

 

 

だが、間に合わなかった。

 

 

 

 

飛来していた影、ヴォルガが兵士の一人を踏み潰した。幻想武装を帯びた者は兵器に等しく。その力はISに近しいものがある。人体を破壊するには充分なパワーが、それにはあった。

 

 

一撃で、肉が、血が弾けた。自分に善意を向けてくれた兵士だったものに、龍夜は理解が追いつかなかった。目の前に飛び散った血を前に、茫然としてしまう。

 

 

血には、人の死には慣れているはずだった。

だが、それは救いようのない悪人や、事情も知らぬ敵であればだ。しかし、無関係な一般人が、無惨に殺されていることには慣れていない。いや、見たことすらなかった。

 

 

「あ、あああああ─────ッ!」

 

 

恐怖に駆られた兵士が、絶叫と共に銃を乱射した。しかし幻想武装に保護されたヴォルガには通じず、不気味に動くケルベロスの顎が兵士の一人に噛みつき、生きたまま噛み砕いた。

 

 

「────オレの幻想武装 ケルベロスの能力を教えてやる」

 

 

噛み砕かれた兵士の残骸から溢れる赤。鮮やかな血の雨を浴びながら、ヴォルガは恍惚としたように笑う。まるで血をワインのように、人の肉を高級ステーキのように貪りながら、目の前の獣は返り血に濡れた笑顔で笑った。

 

 

「オレのケルベロスは、他人の血液を摂取すればその分装甲の強度と幻想武装の機能が上昇する。ただ大量の血液じゃねぇ、他人の血液の分だけ、機能が増すんだよォ」

 

「─────」

 

「つまりィ、殺せば殺す程、オレは強くなる!最ッ高だろ!この力は!こんな風に、圧倒的になァ─────ッ!!」

 

 

立ち尽くしていた龍夜の顔を掴み、地面に叩きつけるヴォルガ。先程の意趣返しのような行為により、アスファルトの地面は完全に崩壊し、彼は地下────シェルター内部へと落下した。

 

 

「ぅ……………ぐッ……!」

 

 

全身に伝わるダメージに呻く龍夜。立ち上がろうとした彼は、周囲から聞こえるざわめきに意識が取られる。それが避難していた公国の国民であると、自分がシェルターへと叩き込まれたのだと、理解した龍夜は先程の光景を思い出し、行動が遅れた。

 

 

「…………だ、大丈夫か?何処か怪我で────」

 

 

避難者の一人であった一人であったサラリーマンらしき男性が、シェルターの外から落下してきた龍夜に心配そうに声をかけた。

 

しかし、その瞬間。彼はの姿は消えた。天井から伸びてきたトラバサミのような顎に捕まり、咀嚼音とブチッという音を響かせ、血を滴らせる。

 

 

ダァン! と、先程のサラリーマンらしき男の遺体を血を浴びたであろうヴォルガが降りてくる。戦場にいる龍夜よりも先に、異常事態を感知した避難者達が悲鳴と共にシェルター内から逃げ出そうとする。

 

 

ヴォルガはそれを、舌なめずりして目で追いかけた。逃げ出していく人達に意識を向けたヴォルガは彼等に向けてケルベロスの顎を差し向けようとした、次の瞬間。

 

 

「────止めろォォオオオオオオオッ!!」

 

 

凄まじい大声で叫んだ龍夜が、それを止めた。エネルギーの刃で避難者達に飛びかかる顎を払い除け、ヴォルガへと突進をする。剥き出しの歯を見せて笑う男を睨み、龍夜は激昂したまま怒鳴った。

 

 

「何故!彼等を巻き込む!無関係な一般人を、どうして襲う!お前らの狙いは、俺だろ!?」

 

「ハッ!そんなこと、オレが気にするとでも!?オレはなァ!人が殺してぇんだよ!狙いなんざ関係ねぇ!オレの気の向くままに殺して、殺して、殺すッ!それだけが、オレの生き甲斐なんだよ!!」

 

「て、メェ────ッ!!」

 

「………おっと、余計な真似は止めろよなァ?」

 

 

完全にぶちきれた龍夜が飛びかかろうとした瞬間、悲鳴が聞こえた。頭に上っていた熱が直後に収まり、視線を向けると、彼の顎がいつの間にか避難者達の方に向けられていた。

 

 

その顎が、何人かを咥えていたのだ。男女二人組、夫婦だろうか。彼等の叫ぶ先には、子供達がいた。泣き叫びながら、パパ、ママと呼ぶ彼等の姿に、龍夜の思考がさっき以上の熱を帯びた。

 

 

 

「テメェ───」

 

「さて、遊びはここまでしてよォ。テメェに聞いとくぜ。

 

 

 

 

 

 

────コイツらを死なせたくないんなら、エクスカリバーを捨てろ。そしたら、この二人は離してやるよ」

 

 

要するに人質ということか。あまりにも低俗で、下劣な手法だった。激しい怒りのあまりに、思考がままならなかったくらいだ。

 

 

────聞く必要はない、と冷徹な部分が告げた。ここで自分が武器を捨てれば、奴を誰が倒す、と。復讐の仇を知っている相手を殺せず、ここで無様に死ぬつもりかと。

 

 

自分自身の言葉に、応じかけた。その通りだと。復讐のために、他人に命を懸ける暇などない。奴を殺すためなら、誰が死のうと構わない。だからこそ、迷うな、と。

 

 

 

 

数秒の沈黙の果てに、龍夜は腕を振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────クソ」

 

 

カランッ! と、離れた場所に剣が転がる。手元からプラチナ・キャリバーのコアが離れたことで、彼の身を守っていたISが自然消滅した。悔しそうに、龍夜は静かに呟くしかなかった。

 

 

それを見たヴォルガは呆れたように、鼻で笑う。人質にしていた二人を咥えたケルベロスの顎とは別の顎を動かしながら、嘲笑と共に告げた。

 

 

 

「───バカかよ」

 

 

 

直後、無防備だった龍夜の腹に、歯が突き刺さった。飛来した顎は彼の腹に噛みつき、肉を抉る。腹部を軽く削がれた龍夜の全身に激痛が伝わるよりも先に、思考が途切れる。

 

 

辺りに飛び散る鮮血に濡れ、蒼青龍夜は倒れ伏した。

 

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