「……………」
パチリ、と彼は目を覚ました。覚醒は何処か重苦しいものではなく、あっさりとしたものだった。倒れ伏したままの状態で首を動かした彼は、すぐ近くにいた人物に気付いた。
「────何故、殺さない」
「………殺しては聴取も出来ないだろう」
「ふんッ、殺さなかったことを後悔する────ガハッ!ゴホッ!」
深く咳き込んで、吐血する青年。過呼吸に呻き苦しむ彼の手には、ガスマスクが添えられていた。口元に装着し、呼吸を整えた彼を見下ろした一人、龍夜がラウラに呟きかける。
「…………奴はもう助からない。どれだけ処置をしようとも────」
ラグナ・デバイスとして無理を通してきた代償だろう。多くの生命を取り込んでいたが、コアにヒビを入れられたことで取り込んだ細胞の多くを失い、自己修復すら出来ずにいる。
力に取り付き、執着し続けた結果がこれだ。兵器という役割から解放されることなく、衰弱して死に果てる。それはどう足掻こうとも覆らない、この場にいる誰もが理解していた。
「────分かってたさ、ずっと。俺は、俺達は長くは生きられない。最初から、そんな風に作られてたからだ」
「…………」
「だから俺は、生命を奪い続けてきた。俺達を利用し続けてきた人間に復讐する────その大義名分の為に、俺は全てを奪った。大切な、親友の命も、名前すらも」
希薄となる記憶を忘れぬ為に、彼女の身体も取り込み、その名前も引き継いだ。残された彼はイヴとなり、闇社会の影で過ごし続けてきた。影から光を見る度に、彼の心に翳りが射し、ついには人類という種族への憎悪と侮蔑が渦巻き始めた。
そして、あろうことか同族すら自分と同じところに引きずり込もうとした。
「だが、始まりの死は俺が奪ったものではなかった。彼女は、自分から死を背負ったんだ。────他ならぬ、俺を生かす為だけに」
どうして彼女が、イヴがそんなことをしたのか。答えは未だ分からない。けど、彼女自身の意志があっての行動だというのはよく分かる。それを、自分は己の恐怖が死に追いやったものだと誤解してしまった。
彼女がずっと、自分の手を引いていたのも、狂っていく自分を止めようとしていたのだろう。今になって、気付かされた。己の未熟さ、無知さに呆れが宿る。
「─────イヴはただ、俺の願いを叶えたかっただけなのに」
黙って聞いていた龍夜は何も言わなかった。実際に無関係な自分には一々口を挟む道理はない。神妙に聞いているラウラの隣にいた彼だが、突然後ろから声をかけられた。
「龍夜さん!」
「セシリア、迷惑をかけたな。それに…………更識会長か」
フワリと降り立ったセシリアに言葉を掛ける龍夜。ポカンとしたのも束の間、少し嬉しそうに余裕の振る舞いを見せる彼女を尻目に、龍夜は続けて着地してきた楯無を見るや否や露骨に言葉を詰まらせる。
「あら、随分冷たいのね。セシリアちゃんみたいに心配してくれないの?」
「────アンタが簡単に怪我をするほど、か弱くは見えないんでね」
「フフッ、信じてくれて嬉しい♪ けどね、女の子はか弱いんだから心配も必要よ?」
「どの口で…………まぁ、覚えてはおきますよ」
呆れたように言う龍夜だったが、対面した楯無はそんな彼の振る舞いに少し驚いたような表情であった。少しして切り替えた楯無はフフン、と面白そうに笑う。
あ? と顔をしかめる龍夜だが、そこまで強く彼女に食いかかる気は無いらしい。どうせ煙に巻かれるのがオチだと、諦めたように無視した彼は、もう一人の姿を捉えた。
「………まさかアンタまでいるとはな、どういう心変わりだ」
「────奴等への報復の為だ、誤解はするなよ」
「ふん、そういうことにしといてやる」
素直ではないエイツーに対し、龍夜はどうでも良さそうに答える。そんな風に興味を失くしていた龍夜だが、ふと思い出したように話を繰り出した。
「そう言えば、相手はどうした?」
「………レギエルの事か、奴は撤退した」
「撤退した?わざわざ敵を逃がしたってのか」
「それがね、彼『やることがあるから』って一瞬で逃げたのよ。レッド君も途中で何処かに向かっちゃうし、この国にはいないんじゃないのかしら?」
「────レギエル………? ああ、思い出した。お前が、蒼青龍夜か」
軽い情報交換の話に、倒れ伏した青年 イヴが呟く。唐突に自分の名前が会話に出たことを驚きながら視線を向ける龍夜。
しかし、彼の険しい表情はイヴが発した言葉によって更に険しくなる。
「蒼青龍夜、お前は、レギエルの何だ………?」
「…………あ?」
「奴は、お前を────必要としていた。それだけでは、ない。お前を殺すことだけは、絶対に許さない、とも言っていた」
全員の視線が龍夜に向けられるが、彼は純粋に困惑していた。レギエルという何者かが、何故そこまで自分に固執しているのか分からない。彼の語るレギエルの固執は、単に利用しようと企んでいるのではなく、本当に殺されてはいけないという強い意思まで感じる。
「どういうことだ………お前は何を知っている!?」
「…………レギエルが、お前を気に掛ける理由は……しらん。だが、奴が何者かで、奴の計画は知っている。俺は、奴の直属だったからな。────恐らく、お前を気に掛ける理由は、奴の正体と起因している、だろう」
動揺のあまり、首元に聖剣の剣先を突きつける龍夜。剣先を肌に当てられながら、イヴは僅かに乱れた呼吸を整えながら答える。その話を聞いた瞬間、龍夜はイヴの胸ぐらを掴み、自身の顔を引き寄せ、彼の両目を睨み付けた。
「────答えろ、全てを。奴の正体とやらを、俺を必要とする理由を」
「言われる、までもない………どうせ、死ぬんだ。奴の思い通りには、させない」
掴む龍夜の腕を掴み返し、起き上がったイヴは深呼吸すると共に、口を開く。
「…………レギエルは、このじ─────」
次の瞬間。彼等の足元の地面が勢いよく弾けた。爆発のような勢いに晒された全員だが、瞬時に対応したことで怪我一つもなく済んだ。
そして、地面を突き破り現れた存在を前にする。
『────』
「サマエルっ!」
突然現れた大型の機械蛇に戸惑いながらも臨戦態勢に入る一同。しかし、すぐに気付いた。倒れていたイヴがサマエルの口に咥えられていることを。
「くっ!仲間を連れ戻しに来ましたのね!」
「……………」
セシリアの言う通りかと思っていた龍夜だが、即座に感じ取った違和感から違うのではないかと考える。力なく項垂れるイヴを咥えたサマエルに、彼への配慮は見えない。連れて帰るのとは、別の意図が見えてはならない。
そして、不安に近い考えは正しかった。
バグンッ!! 、と。
口を開いたサマエルが、数秒の間宙に浮いたイヴへと食らいつく。上下左右に開いた口で飲み込んだのだ。
「─────なッ!?」
サマエルの捕食機能を知らなかった龍夜とラウラが絶句する。大口で噛みついた機械蛇は、バキッ! バキッ!と口の中で咀嚼していた。はみ出ていた青年の腕も砕きながら、彼の宿す力ごと飲み込んだ。
咀嚼を終えたサマエルの全身に、黒い紋様が浮かび上がる。ラグナ・デバイスという生体兵器であったイヴを取り込んだことで、サマエルは彼の能力すらも取り込んでしまったのだ。
冷えついた空気が浸透する中、突如として拍手が響き渡った。その相手を見た瞬間、全員が気を引き締める。
「────レギエルっ!」
「まずは感謝するよ、彼を殺さないでくれたことを。お陰で彼の力も回収することが出来た」
顔をフードで隠した黒髪の青年。これだけの戦力の差など気にしていないような余裕に満ちており、言葉の節には緊張すら存在していない。
「…………最初から、
「いや、元々は彼がラグナ・デバイスとして完全体になってから狙うつもりだったさ。その方が奪える能力の性能も高いから。だがまぁ、弱体化してもあの再生能力はピカ一だ。捨ておくには惜しい」
臨戦態勢を崩すことなく、今にでも動き出そうとしそうな一同に、レギエルは面倒そうに肩を竦めながら、制止した。
「────生憎、もうやるつもりはないさ。これで目的は果たしたからな」
「…………だからと言って、納得すると思うのか。この俺が」
「──────そんなの、よく分かってるっての」
低い声の龍夜の問いに、レギエルは小さな声で答えた。懐かしむようなその言い分を耳にした龍夜が思わず「………何?」と眼を細める。
その内容と意図に意識が逸れた結果、サマエルが転移の力を行使したことに反応が遅れる。
「今回は大人しく退いたげるよ。アンタ等の勝ちも譲るし、それで満足してくれよ。…………ただ、ね」
────最後に笑うのは、この俺だ
宣言と共に、レギエルはサマエルと共に姿を消した。こうして、公国を中心として起きた争いは幕を下ろした。多くの謎と疑問、やりきれぬ気持ちを刻む形で。
◇◆◇
それから翌日。
ルクーゼンブルク公国で起きた大規模テロ事件はテロリストの撃退により終幕を迎えた。そのことで
公国に訪れていた龍夜達IS学園の一同は、当日に帰国することになった。戦場となった公国の復興作業で忙しくなるらしく、IS学園でも色々と動きがあるため、即急に戻ってくるようにとの指示があったのだ。
「……………だるっ」
自室の机の前にある原稿を前に、龍夜は呻くしかなかった。先日の一件で無駄出撃を行ったことで千冬から説教と懲罰を与えられたのだ。
半時間もの正座からの説教が終わったかと思えば、反省文の提出だ。命令違反のことは反省しているが、それはそれで文句は吐き捨てる。途中、鬼教官だの呂布だのと愚痴ろうとしたが、ニュータイプのように感知されるだろうから自制した。
心底疲れたと言わんばかりに溜め息を漏らす龍夜。そこまで面倒そうにしているのは、目の前にある難題(だるい)だけではなかった。
「─────何やら苦戦してるみたいだな、龍夜。手を貸すか?」
「…………勝手に部屋に入ってくるな」
堂々とした立ち振舞いで、自室に立ち入ってくる部屋着のラウラに頭を抱える。最近、というより部屋に入ってくることが多い。今はまだ普通に応対するだけなのでマシな方だ。当初は全裸で布団の中に入ってきたくらいだから。
「一応聞くが、どうやって俺の部屋に入ってきた? ピッキングしたワケじゃないだろうな?」
「ふっ、私を侮って貰っては困る。私は教官や大佐から手解きされてるんだ。解錠などせずとも、潜入や隠密など造作にもない」
「────今度勝手に入ったら自作のブザーを付ける。お前が誰よりも恐れる教官とやらに繋がる奴を」
凍りついたように真っ青になるラウラ。よほど効いたのだろう、今後は気を付けることを期待する。呆れながら机に向き合おうとしていた龍夜だったが、反省文を書くのは後回しにすることにした。
ふと、龍夜の部屋───発明品や部品が散らばった工作用の机やベッドを見渡していたラウラが、あるものを見つけてすぐに声を漏らす。
「………?これは何だ?」
「────アーク第一王子から、帰り際に貰ったものだ。俺に託す、って言われてな」
半透明な素材で構成された四方体のアイテム。持ち手を握り、龍夜は少し観察しながら口を開いた。
「─────『プロトコルデータキー・ヘルズ』。つまりこれは、特殊な電子回路を有した鍵だ」
「鍵?一体何の…………」
「ネットワークシステム・ユグドラシルに使う鍵だ。さっき調べてそれが判明した」
「ユグドラシルだとっ!?」
流石のラウラも驚きを隠せなかった。当然だ。何せユグドラシルと名を冠するものは、この世界で一つしかない。太平洋の中心部に位置するエリアを占拠する巨大な塔。宇宙にまで届くとされているそれは、第三次世界大戦以降から八神博士の開発した無人兵器を操り続けてきた。
そして、今も謎のネットワークを形成し続けている。かつては国連もユグドラシルに乗り込もうと大規模部隊による侵攻を行ったが、未だユグドラシルを守護する無人兵器によってそれは防がれている。
故に、ユグドラシルは立ち入りすら許されぬ禁足地に指定された。そこは人が訪れて良い場所ではない、と。人類が立ち入りにはまだ早い地獄として。
「ユグドラシルの扉を開く鍵。あと二つ存在しているのは分かっている。誰が持っているのかは知らないが、俺はそれよりも気になっていることがある」
「………気になっていること?」
「────何故、八神博士とやらはこんなものを俺に託すように残したのか。何故、エクスカリバーを造ったのか。少なくとも、世界を敵に回した凶悪な犯罪者とは思えない」
それだけではない。国連がアナグラムを恐れ、慎重かつ確実に殲滅しようとするほどの秘密、それは何なのか。これは予感だが、きっとこれらの問題は全て繋がっていると思う。今世界で起きている事件や多くの勢力の大半は、十年前の出来事に起因しているはずだ。
「何も知らない訳にはいかない。どうせテロリストどもとやり合うのは決定事項だ。その為にも、奴等が知っている世界を揺るがす真実とやらを知っておく必要があるだろ」
「………だが、どうする気だ?そのもの、簡単に調べられるものでも無いだろう。知るとなれば、国連ぐらいしか無いと思うぞ」
「────そんなことしなくても、当事者達に聞けばいい」
織斑千冬と時雨理事長、あの二人は間違いなく十年前の大戦を経験している。彼等なら知っているはずだ。迷うことなく立ち上がった龍夜は、ラウラと共に彼等の元へと向かうのだった。
◇◆◇
「────そんな馬鹿なッ!」
パリィン! 、と机の上に並べてあった貴重品が音を響かせて割れた。高級な装飾で彩られた室内で、一人の女性が憤りに震えている。
名を、イーヴェル・ハンプシャー。アメリカでエレクトロニクス機社の次に影響力の強い会社を経営している敏腕女性社長である。表では女性権利団体の幹部として動き、世界中の女性の権利を守るために活動している。
そんな彼女には、もう一つの裏の顔があった。亡国機業、彼女はその組織に所属しているのだ。無論、実行部隊などではなく、指示や命令を下す幹部会の一員である。当然、これはあくまでも裏の顔であり、世間にも明かせる訳がない話だ。
────彼女が憤る理由は、目の前にあるテレビの映像にあった。
『────ルクーゼンブルク公国の襲撃事件の国連の見解が判明しました。襲撃犯は不明ですが、この組織には女性権利団体が絡んでいるという証拠が提示され、国連は少し前にテロリストの関係者と思われる者達の国際指名手配を始めました。関係者の大半は、多くの企業の重役であったりすることから、この事件は女性権利団体の信頼を揺るがせることになるとの事です………』
どういうわけか、自分達の存在が国連の議員に漏れた。そして、議員達はその情報を明言し、指名手配を行いだしたのだ。勿論、指名手配された内の一人に、彼女の名前があった。
「…………クソッ!どうして!どうしてこんなことに!?」
まもなく、自分を捕らえようと警察が動き出す。テロに関与した責任を取らされるだろう。その結果、全てを失ってしまう。この会社も、権力も、全てを。
急いで逃げ出そうと、準備を始める。慌てて高級品をバッグに詰め込もうと動くイーヴェルであったが、突如机の上にあったパソコンが起動した。
『─────どうして?それは貴方がミスを犯したからだ。3代目ハンプシャー』
「フェイス………っ!?」
通信を介して現れたのは、亡国機業の実動部隊隊長である男だ。模様も凹凸もない、冷たい金属の仮面で顔を覆ったその男を前に、イーヴェルは思わず動きを止めて硬直する。
「………ミスを犯したとは、どういう意味かしら?」
『貴方達の必要価値が失くなった。余計な命令さえしなければ、まだ生かしておけたんだがな』
「余計な、命令ですって?」
『織斑一夏と蒼青龍夜の抹殺だ』
瞬間、イーヴェルは怒りのままに怒鳴った。経営者としてでも、幹部としてでもなく、一人の女性────女尊男卑という社会に染まった者として。
「それは、当然のことでしょう!?男がISを操縦出来るなんて、そんなことがあっていいはずがない!私達や偉大なる先人達が築き上げてきたこの社会が揺らいでしまう!」
『……………』
「貴方は知らないでしょうけど!彼等が活躍する度に、世界中で男達が希望を持ち始めている!同胞達も不安に怯えているわ!野蛮な男にISなんて持たせたくない、と!我々はずっとか弱い女性達の要望に応えてきた!だからこそ!今回もそれに応えるだけよ!」
『────笑わせる、単に奴等が気に食わないだけだろう』
フェイスの嘲笑に、イーヴェルの中で血が熱を帯びた。沸騰するような怒りの中で、フェイスの嘲りは続く。
『やはり、指揮系統と実動部隊を分けたのは間違いだな。指揮系統は立場に依存してまう。オマケに、本来の役目も忘れてしまうとは、早めに切っておいて良かった』
「………何を言っているの!?貴方は!」
『忘れていようが関係ない、本来の役目を果たして貰おう。三代目ハンプシャー。貴方の資産を全て回収する』
一瞬立ち眩みしたイーヴェルだが、すぐに鬼のような形相となり、パソコンに掴みかかる。
「ふざけないで頂戴!一体何の権限でそんなことが出来るというの!?」
『全ての幹部会は今回の件で失墜する。だからこそ、この組織の指揮権は私に譲渡される。それ故の選択だ』
「こっ、これは陰謀よ!組織を掌握しようとする、貴方のクーデターに違いないわ!」
『それは違う。情報を漏らしたのは実動部隊の末端だ。まさかあんなに簡単に口を割るとは思いもしなかったさ、私も』
「惚けるな!お前がそんなミスをするわけない!どうせ私達の情報を握らせて、喋らせるように仕向けたんでしょう!?」
『─────流石は三代目。先代よりも無能かと思っていたが、追い詰められれば少しはやるようだな』
素直に白状するのと同じであった。フェイスは何一つ気にしてすらいないだろう。淡々と、冷徹に言葉を口にした。絶句していたイーヴェルは歯軋りするや否や、目の前の裏切り者を睨んだ。
「亡国機業は、私達の組織だ!お前みたいな裏切り者が、私用していいものではない!」
『────二つ、間違いを正そう』
激昂して吼えるイーヴェルに対し、フェイスは指摘するように指を立てる。二本の指を一つずつ曲げながら、話す。
『一つ、私用していた私ではなく、貴方達の方だ。そして、一つ。
─────この組織は最初から私のものだ。貴様らのものですらない』
直後、彼女の喉に光の軌跡が走った。
怒声を響かせようとしたイーヴェルは、自分の口からか細い呼吸が漏れる。言葉が出ない代わりに、喉から溢れる生温かい感触に手で触れる。喉を押さえるように、両手で塞ごうとした。
しかし、そんな彼女の背中に追い討ちをかけるように、銃弾が打ち込まれた。何発もの銃弾に背中を撃ち抜かれたイーヴェルは崩れ落ち────そのまま生き絶えた。
『────良くやった。
「……………」
冷徹な言葉を受け、暗闇から影が前に出てきた。フードを被った小柄な少女らしき人物。彼女は血に濡れたナイフを振り払い、近くにあったカーテンで血を拭き取る。
「………一体いつまで、私はこんなことをすればいいんだ。フェイス」
『そうだな。確かに、もうそろそろ頃合いか』
自身を呼び捨てにする部下である少女 エヌに対して、フェイスは気にする素振りする見せない。突如、パソコンにデータが浮かび上がる。
『新たな任務だ。エム。イギリスで開発された新型のIS、その強奪を行え。回収した機体は報酬としてくれてやる』
「…………ようやくか、待っていた」
『基地にはエヌを向かわせる。奴と共に強奪した機体で帰還しろ。その後に、お前の願いを叶える機会を与えてやる』
そうして、通信は途絶えた。一人残されたエムは喜びを噛み締めながら、その部屋から立ち去っていくのだった。
◇◆◇
「────目的は全て達成された。組織の掌握、そして」
自身の部屋にいたフェイスは立ち上がり、白い壁を透過させる。そして、壁の向こうに広がる光景をただ静かに見据えた。
今も淡い光を灯す結晶。小さい十センチ程のサイズもあれば、三メートル規模のサイズのものも鎮座している。複数の装置に取り付けられ、損傷を付けぬように保護されているそれらの結晶体は─────十個以上存在していた。
「ルクーゼンブルク公国から奪取した
時結晶を見下ろしたフェイスは、少々感慨深そうであった。ほんの少しだけ感情を宿した仮面の男だが、すぐに無機質な表面を纏う。
これだけの時結晶、ISコアへと利用することも容易いが、忘れてはならない。価値のあるものは、常に自分が扱うだけではダメなのだ。時を見て、相手に使わせることも大事であると。
彼は、フェイスは良く熟知していた。そうやって全てを利用してきた。だからこそ彼は、この組織を支配するまでに至ったのだ。
「─────国連と倉持技研、私のために役に立ってくれよ?」
そして今も。自分以外の全てを利用するために、フェイスは暗躍し続ける。己が目的を、宿願を果たすために。
次章予告
────第3章 episode3
「……………今こそ明かそう。世界の真実、人類の愚かさが引き起こした、我々の罪を」
『アポカリプス・メモリー』編、開幕