「アンタは────
「………ああ、私のことを覚えているのか。前に顔を会わせただけなのに、よく記憶しているものだ」
今更と言わんばかり、プロフェッサー────その素顔を現した、
だが、違う。一夏が聞きたかったのは、そんな言葉ではない。胸に弾ける激情を抑え込み、目の前の疑問を確かめることしか出来ない。
「何で、何でだよ…………何でアンタが、こんなことしてんだよ!?」
「────短絡的な小僧だ。理由がなければ、納得も出来ないようだな。
だが、舞台を作ったのは私だ。貴様らには、少しばかり語らいをしてやろう」
狼狽することしか出来ない一夏を見下しながら、それでいて満足そうに海里浩介は嗤う。持ち上げた片手で、頭を抱えて蹲るシルディを指差した。
「さっき言ったことを覚えているか。シルディ・アナグラムは、八神三琴であると。あの八神の息子だと」
「シルディが…………八神博士の!?」
海里浩介の存在によって混乱していた状況が、正確に理解できた。
シルディ・アナグラム、彼の本当の名前は
その真実は、一夏達にとっても衝撃的なものであった。だがしかし、それによって新たな疑問が生じる。
「────待て、それは有り得ないはずだ!八神博士の家族は既に死んでいるはずだ!大戦が始まる前から!」
「生き残りなんだよ、そいつは。策謀と隠蔽の中で、偶然生還した…………いや、してしまった憐れな存在だ。憐憫すら覚えるね、生きていることすら疎ましく思われて─────国連が血眼で始末しようとするくらいなんだから」
どういうことだ、と叫ぼうとした一夏だったが、箒が息を呑む様子によって、何とか立ち上がったシルディに気付いた。
「シルディ!?大丈夫なのか!?」
「…………あ、あ。オレは、何とか────それよりも、
「───ああ、本物さ。君も、見違えた訳じゃないだろう」
途中からの叫び。それは、一夏や箒に向けられたものではない。プロフェッサー、もとい海里浩介に差し向けられた問いであった。
アレとは、プロフェッサーが見せてきた人間の腕のことだろう。錯乱した際、シルディはそれを見て『かあさん』と呟いていた。そして、理解した直後に発狂したのだ。
では、今までの話が事実なら─────彼は忘れていたのだろう。自分の出生や記憶を、トラウマとなった出来事のせいで。そして、彼の存在自体が国連にとって忌むべきものであり、抹消しようとするほどのものだと。
シルディは全身から汗を滲ませながら、海里浩介を睨む。真っ青になり、荒い呼吸を繰り返す彼の肩を支えようとする一夏と箒。しかし、二人を制したシルディは、頭を押さえながら、気丈に振る舞った声で問い掛ける。
「…………貴方はッ」
「?」
「貴方は今更、何が目的だ………ッ!オレ達を、IS学園を利用して、一体何を企んでいる─────!!」
その疑問に、海里浩介は沈黙するや否や─────腹の底から、大声で笑った。両手を広げ、天井を見上げる男の表情は分からない。己の中にある感情を吐き出した海里浩介は、肩を揺らしながら、笑みを口の中で咀嚼して、語る。
「私が何のために、己が死という隠れ蓑を作ってまで生き延び、今まで暗躍してきた理由など、簡単だ。────私は、世界が欲しいのだ」
「世界が、欲しい………?」
「いや、世界だけではない!全てが欲しい!世界征服という奴かな! あの天才、八神ですら世界には勝てなかった! 奴の技術、全てを使っても尚、人類を越えられなかった! だからこそだッ! 私はその全てを奪い、手に入れ、我が物としたいのだ!!」
全てが欲しい、俗な願いだ。しかし、それは傲慢でもある。世界を、全てを手に入れることなど有り得ない。歴史上、どんな偉人も全てを手に入れたことはない。世界全てを支配したことなどない、出来るはずがない。子供の夢として、一蹴されるべきその目的は、純粋な欲望に満ち足りていた。
世界は、人は、全て己の所有物であるべきだと。その瞳が、ギラギラと煮え滾る激情が、男の真意を体現していた。
「────しかし、あの日。十年前のあの日が、私の全てを変えた!」
一転して、海里浩介は顔を歪めた。歯軋りを鳴らし、彼は両手で己の頭をかきむしる。血が滲む、痛みを痛感することで、激情を緩和しようとする。興奮に染まっていたその表情には、怒りだけが充満していた。
「戦争を終わりに導き、世界を変革させたIS。私はそれを求め、全てのISを掌握しようとした。国連の議員の若僧を唆し、あとは簡単に事が進むはずだった!」
「…………」
「だが!あの小娘は、篠ノ之束は私に従わなかった!ISの独占はおろか、ISのコアの情報すら開示しなかった!脅しも通じず、最終的に人質を使ったさ!
だがそれを、奴等────織斑千冬、そしてモザイカと名乗る奴、奴等のせいで全て台無しになった!お陰で私は己の死を偽装しなければならなかった! あの小娘どもによって傷つけられた私の顔も、治すのに十年も費やしたのだ!!」
それが、仮面で顔を隠して己の死を偽装した理由か。海里浩介は自身の顔を撫で、あるはずのない傷痕が疼く中、怒りに震える。
今まで一度足りとも収まったことのない、感情を爆発させる。
「屈辱ッ!
結果的に、男は妄執と狂気に囚われていた。世界を支配するという欲望と、己の邪魔をしたものを絶望させて殺すという憤怒。或いは、それ以外の感情。それらが、海里浩介をここまで狂わせたのだ。
一夏達から見ても、正気とは思えない程にまで。
「その為に!お前達を呼び寄せたのだ!この場所にな!あの二人の大切な存在である、お前達二人を!! 私が味わった屈辱と憎悪を少しでも和らげ、奴等への報復の糧とするために!!」
「千冬姉を、殺すだって………っ!? ふざけんな! そんなことさせるわけねぇだろ!」
「────横暴だ!貴様の話が本当だとしても、それは単なる逆恨みに過ぎない!」
海里浩介の宣言に、一夏と箒は感情のままに弾劾する。当然だ。あまりにも身勝手、横暴なことだ。ISの独占など、絶対に許されてはならない。そうならないように、国連すらも条約を設立しているのだ。ただ一人が全てを独占し、支配者になることなど認められない。
しかし、二人の言葉は、海里浩介には届かない。表面上はおろか、内面にすらも。
「逆恨みだと? 違うな、正当な報復だ。 世界の支配者となるべきこの私に逆らうなど、それだけで万死に値するのさ」
傲慢、それ以外の言葉はない。まるで自分こそが絶対であるとでも言わんばかりの口調と態度に、一夏と箒は嫌悪しか感じなかった。ここまで自分以外の他人を見下した大人がいるのか、と。
しかし、怒りに身を震わせる二人の肩を、シルディが掴んだ。思わず振り返り、心配した二人に彼は言葉を紡ぐ。
「────逃げるぞ、二人とも」
「な、何を言っている!?奴はお前も追っていたのだろう!見逃すというのか!?」
「何でアイツが、平然と話していると思う!? 奴は十年も暗躍してきたんだ! 今ここでも、オレ達を対処できる切り札を用意しているはずだ!」
感情的になっていた二人とは違い、錯乱から落ち着いたシルディは冷静になれていた。海里浩介が生身でありながらこうも堂々としていられるのは、自信からだ。ISが相手だろうと問題ないという、確固たる自信。
───恐らく、先程から海里浩介の近くにいる機械の竜とは違うナニかを隠している。戦場で鍛え上げられた第六感が、シルディにそう囁いていた。
極力冷静であるシルディの言葉に、二人は落ち着きを取り戻した。その様子を見た海里浩介は面白くないのか、舌打ちを口の中で飲み込む。不愉快そうに一夏達を睨んでいた海里浩介は───────ふと、何かを思い出して、醜悪な笑みを刻んだ。
「……………ああ、君達を見て思い出した。確か、子供の頃仲良くしていたよなぁ。────だが、あれ? 可笑しいなぁ、一人足りない気がするぞ?」
「───ッ」
「ああ、思い出した。
彼等の幼馴染みであり親友、そして浩介にとって実の息子。なのに、男の言葉に海里暁への思いやりはない。それどころか、『アレ』と呼び、つまらなさそうに吐き捨てる始末。
その様子が、一夏の逆鱗に触れた。
「お前────アイツに何かしたのかッ!?」
「止めろ一夏!挑発に乗るな!」
「────何も。何一つしてないさ。確か、殺されたんだろ?アレは。まぁ、少しは残念さ…………その程度の感情だよ」
「ッ!アンタ、暁の父親だろ!?アイツが死んだことに何も思わないのかよ!?」
「何も思わないのか…………何をだ?」
必死に咎める一夏に向けられたのは、嘲笑だった。愛情なんてものを感じさせない。言葉の端から端まで侮蔑を乗せ、海里浩介は己の子供を思い浮かべながら、口を開く。
「本当に、使えない奴だよアレは。私の才能を継いだ訳でもなく、軟弱で無能な子供だった─────私が生み出したものの中で、アレは一番の出来損ない。失敗作だな」
それは、一夏にとって地雷だった。
親が子供を愛さない、それどころか道具として利用することが許せない。子供の生きる意味を、勝手に決める親が、誰よりも嫌いだった。────彼の父が、自由を認め、一夏自身を受け入れてくるような親だったからこそ。
何より、一夏にとって暁は唯一無二の親友だった。臆病で気弱でありながらも、芯の強さは一夏以上だ。一夏が無意識に女子を泣かせてしまった時には彼を責めずに叱り、仲直りするように尽力してくれた。
誰よりも大人しく、誰よりも臆病だが、本当の彼は強いのだ。決して自分の間違ってると思うことを違えず、一夏以上の頑固さと熱意を有する男だ。織斑一夏は、彼を弱いとは思ったことはない。何度も自分を支えてくれた、大切な親友なのだ。
それを、でき損ないと嗤った。
あの男は、自分の子供の本質すら見ていない。外側だけで判断し、自分勝手に失望しているのだ。
自分達の大切な友達を─────失敗作としてしか、モノとしか見ていない。
「ハッキリ言おう、私がアレの死を知った時に感じたのは失望と嘲笑だ。普通に生きることすらも出来んとは、とことん世界から見放された愚図だ。神というものがいるのなら、私の汚点たるアレを消してくれたことを感謝したいくらいさ」
「黙れテメェ──────ッ!!」
直後に、堪忍袋の緒が破裂した。
必死なシルディの静止と箒の声は、今の一夏には届かない。衝動のままに『白式』を纏い、無手の拳を強く握り締める。
突き進んでくる一夏を前に、海里浩介は笑みを深める。まるで望んでいるかのように堂々とした立ち振舞いで、嘲りの言葉を続ける。
「何を怒る? ゴミをゴミと呼んで、問題でもあるのかな? むしろ、当然の権利じゃないか。満足に生きることも出来ず、あんな呆気ない最後を迎えたんだ。落胆の一つはおろか、失意すら生易しい」
「────うるさい」
「ああ、それともアレのことがそんなの大事だったのか? 随分と物好きなことだ。…………いや、それとも。アレみたいなのがいてくれた方が良かったのかな、君は。自分のことを慕う舎弟みたいなのが、お好みだったかなぁ!?」
「────黙れテメェぇぇええええええええッッ!!!」
腹の底から響いた咆哮。
親友を、その名誉も尊厳すらも嘲笑われた今、織斑一夏の理性は既に弾けていた。平然と、親友を侮蔑した男の面を狙い、白式のガントレットを纏った拳を放つ。
その一撃は、綺麗な程に打ち込まれた。
─────カァァァンッ! と、反響を残して。
「………ッ!」
「────あーあ、残念だったねぇ」
ニタニタと笑う海里浩介の目の前に、半透明な障壁が展開されていた。恐らくはこのバリアを、最初から仕組んでいたのだろう。一夏を挑発し、自分から殴らせるために。
悔しそうに、唇が裂けるまでに噛み締めた一夏が拳を振り上げる。その光景を見据えながら、海里浩介は小馬鹿にするように笑うのだった。
「彼の言う通りにすれば良かったのに…………本当に君は乗せやすい」
「ッ!離れろ一夏!その位置に何か────」
「爆弾なんかないさ。─────それ以上のモノだがね。
最も、『彼』を起動させたのは君だ、織斑一夏。いや、厳密に言えば君のISか」
瞬間、地下ホールが大きく揺れた。ただの震動ではない、地震のような鳴動が、絶え間なく続いている。バランスを崩した一夏にシルディと箒が駆け寄り、咄嗟に身構える。
この震動は、脈動は真下からしている。ナニかが、地下に眠っているのだ。それが、今の出来事によって目覚めた。目覚めてしまったのだ。
大きな胎動の、震動の中、白衣の男は両手を広げる。歌うように、舞台に立つ役者のような、大袈裟な振る舞いで、語った。
「─────さぁ、震えるがいい。君達人類の敵、八神が遺した憎悪の残滓────天使が、今再臨したのだ」
海里浩介の宣言と共に、地下ホールは爆散した。地面から炸裂した、無数の純白の閃光によって。
■■■
─────八神博士が開発した無人兵器。それには厳密に二つの種類がある。
一つは、単純なシステムによって稼働する無人機械。内部に組み込まれたコアは小型の球体であり、それが脳となり、ネットワークに提示された命令だけを遂行する。それこそが、世界各国でも使用されている無人兵器の一例である。
そして、もう一つは、人工知能が搭載された無人兵器。八神博士が開発した兵器の中で、これこそが強力であった。己の意思で判断し、活動する。本来は人間が活動できない圏内で、自己判断による作戦の為に開発されたはずの技術は、人間を効率的に殺すための兵器として利用された。
それこそが、『
当時、天壊機は人類の脅威として恐れられ、別の名で呼ばれ、人々の畏怖を集めていた。
─────鋼鉄の『天使』と。
■■■
【────神層世界樹 ユグドラシル・ネットワークに接続────】
【────ニュートラル・リアクター稼働、N.E粒子増幅。全回路への放出を開始】
【間接球部、駆動神経、良好。プラネウム装甲 エネルギー伝導を確認】
【ユグドラシル・ネットワークの接続完了。コアユニットとの連携、情報受信機構『
【対人類殲滅機構、対世界崩壊機構────疑似承認。全武装のリンク統合。
【天壊機─────『エクスシア』、起動します】
■■■
崩壊するサイロ。残骸と破片舞う巨大ホールに巻き込まれないように、一夏と箒がISと共に離れようとする。しかし、それよりも先に一帯を破壊し尽くした白い閃光が、彼等に迫っていた。
「─────『ストライカー』ッ!!」
直後、地下サイロに飛び込んできた機影────機械の
二人を胸に抱えるようにその場から移動するストライカー。二人を保護した飛龍の背に飛び乗ったシルディは、崩壊する地下工房から抜け出していく。
複雑な通路を駆け抜けていき、一夏達はストライカーと共に地下から抜け出し、海面へと飛び出した。ISによる保護で海水を飲まずに済んだ二人はすぐさま、真下から消し飛ばされた海面に意識を向ける。
地下工房は既に崩壊し、流れ込んだ海水によって藻屑となるはずだった。しかし、地下工房も流れ込むべき海水も、等しく消し飛ばされていた。
蒸発した海面一帯。奈落のように空いた大穴から、白き光が地上へと飛び出す。いや、光臨した。
純白の装甲で全身を覆ったそれは、蝶のような威容を示していた。四枚の翼を左右に二対備え、二本のアームを有した機体は、頭部に複雑な光のリングを浮かべている。
────『天使』だ、と三人は直感的に理解した。それ程までに神聖な姿をしているのだ。造形物でありながら、神秘的な雰囲気をまとうその姿だが、一つだけ違和感がある。
負の意思。
殺意や憎悪、あらゆる感情が白き天使から滲み出していた。頭部のユニットから覗く二つのライトアイは、敵意に満ち足りたものとしか見えない。
そう断言できる理由は、明白である。何故なら、白き天使のその視線は、彼等の方に向けられていたからだ。厳密には、一夏だけに。
一方で、静かに一夏達を見据えていた純白の天使。ゆっくりと全身を震わせた瞬間、
───────────ッッ!!!!
音色。
まるで祈るような聖女の歌声のような、心地よい音。しかし、前提が矛盾に満ちていた。響き渡る叫びには、強く禍々しい殺戮の意思が伴っている。
この世の全てを憎み、怨嗟を撒き散らす憎悪の化身。機神 ヴァルサキスの時とは違う、純粋な殺意の衝動体。それこそが、白き天使を象る存在感であった。
僅かに身震いを感じた一夏の思考が、ふと違和感を感じ取る。言葉にし難い感覚の正体を確かめようとした、直後の事だった。
────純白の閃光が、ストライカーを撃墜した。光の爆発と共に、一夏と箒は空中に投げ出される。海面へと墜ちていく飛龍と共にいたシルディが巻き込まれたのではないのかと、一夏は彼の名を叫ぼうとする。
その時には、
「─────ッ!」
向けられた眼差し。
選定するような無機質な眼光に、粘り着いた憎悪の激情を感じ、全身に寒気が伝わる。そして考えるよりも先に、《雪片弐型》を振り下ろした。
だが、叩きつけられるはずの一撃は空を切る。巨体にあるはずの先手が届かなかったことに、それ以上の事実に一夏は混乱するしかなかった。
(避けたのか───!? あいつ、あんな大きさなのにISの速度に匹敵してる───ッ!)
見た目の巨体から見違える程の速度。少なくとも、一夏が次にエクスシアを捉えたのは、遠方に見える光の軌跡としてである。雲を突き抜けながら、四枚の翼の形をしたアーマーに内蔵された推進材により、超音速となった巨体が流星の如く突撃してきた。
(避けられない!なら、正面切って!)
「ッ!────うおおおおっ!!」
瞬時加速による瞬間的な爆発により、一気に接近する一夏。装甲により深いダメージを刻むため、雪片弐型を両手で握り締め、突撃してくるエクスシアに目掛けて斬りかかった。
─────そんな一夏の攻撃を見透かしていたように、エクスシアは胴体の胸部から収束レーザーを放出した。
「─────ぐはあっ!!?」
無防備な正面からの砲撃に対処しきれず、直撃を受けてしまう。そのまま吹き飛ばれながらも、一夏は何とか体勢を立て直す。
荷電粒子砲を展開し、エクスシアへと射撃する。放たれた砲撃はエクスシアの頭部に吸い込まれるように着弾────することなく、装甲の前に構築された障壁によって霧散した。
「っ!ビームも防げるのか!?」
驚愕する一夏に目掛けて、エクスシアの背中から無数の閃光が放出される。光粒子状のミサイル群を防ごうとする一夏だったが、突如手を引かれ、離されてしまう。
「一夏!迂闊だ!動きすぎるな!」
箒によって手を引かれ、助けられたことに感謝を述べようとしたが、状況が状況だった。即座に対応を考えていたであろう箒は展開装甲を組み替え、『紅椿』を超高速飛行モデルへと切り替える。
「乗れ、一夏!」
「おう、任せた!箒!」
背中のフレームに捕まり、超速飛行のエクスシアへと追従する箒と『紅椿』。瞬時加速を越える程の速力による飛行は、白い天使の背が見えるまでに追いついていた。
しかし、それに気付いたエクスシアは振り返るや否やそのまま二人の方へと突っ込んでくる。アーマーの下に隠されていたアームのクローが開き、掌から光の刃が展開された。敵の攻撃を理解した一夏は咄嗟に箒の背から飛び出し、零落白夜を発動し、斬りかかる。
白と青、二つのエネルギーの光が衝突し、炸裂し合う。エクスシアのビームブレードと雪片弐型の光刃が交差し、閃光を辺りに撒き散らす。
両手で何とか拮抗する織斑一夏と白式。斬撃と斬撃との鍔ぜり合いは、エクスシアの出力の方が遥かに上であるはずだった。今も続いている衝突は、一瞬で崩されても可笑しくないのに。
「…………白式?」
そこで、織斑一夏はようやく違和感の原因に気付けた。白式が、強く反応しているのだ。熱を帯びるような、不思議な感覚は白式の性能が引き出されていることを示しているのだろう。
まるで白式そのものが、目の前の敵を倒さなければならないという決意を示している。と、一夏は感じてしまった。
【─────男、か】
「っ!?」
【形が変わったとはいえ、白騎士に乗る者が織斑千冬の他にいるとはな。─────いや、貴様が織斑千冬の弟か。ということは、奴は本当に白騎士を棄てたのか】
「コイツ!喋るのか!?」
エクスシアから響く無機質な声。人の言葉を介した機械音声がオープン・チャンネルから届いていた。一夏はその声がエクスシアのものだと理解して、困惑を露にした。
ヴァルサキスの件もあるが、こうも流暢に言葉を話す兵器が多いものなのか。そんな風な疑問を振り払い、一夏は目の前の天使に問いかける。
「────白騎士って、どういうことだ!?お前、千冬姉のことを知ってるのか!?」
【知ってるも何も、私は奴と殺し合ったのだ。あの戦争の時に、何度もな。そして、今も!奴を殺すために、十年も待ち続けた!】
「っ!どうして誰も彼も、千冬姉を殺そうとするんだよ!?」
怒り任せの発言。
自分の姉が、ここまでの殺意を向けられなければならない理由に、一夏は怨み言を吐き捨てるしかなかった。あくまでも、単なる独り言だ。まさか、答えが返ってくるとは思っていなかった。
【────理由ならばある。奴は、私の翼を斬った!私を敗北させた!何より、奴は──────あの御方を、創造主を、八神博士を裏切った!】
「…………は?」
【奴は大恩ある創造主を、恩師を裏切り、恩師が与えた技術で完成したISで我等に牙を剥いた!そして、奴は創造主を死に追いやったのだ!あの御方の教え子という身でありながら!!】
「千冬姉が…………八神博士の、弟子? そんなこと、一度も────」
【許さぬ!赦さぬ!赦されぬッ!だからこそ、私は決意したのだ!たとえどれだけ生き永らえようと、誰に利用されようとも、織斑千冬だけは殺すと! それこそが、エクスシアの名を賜りし、我が存在意義!あの御方の敵を、人類を殺し尽くす大義も果たすためにも! 織斑千冬を、白騎士を正面から打ち倒さねばならん!!】
狂気に染まったエクスシアの声に、一夏の力が僅かに緩まる。その隙は大きく、刃と刃の衝突という均衡が一瞬にして覆った。
仰け反った一夏の腕を、エクスシアのクローアームが掴む。妄執に満ちた天使は片方のクローアームから光の刃を展開し、
【────貴様を殺せば、織斑千冬は白騎士に戻るはずだ!実の弟である貴様を!】
「──────ッ」
【その首、その命! 白騎士の再臨の為に貰い受ける!!】
織斑一夏の心臓を、ISごと貫くように振りかざした。
多分自分が思い浮かぶ人でなしキャラでも、親指で数えられるレベルに入るド畜生な海里浩介。息子の暁が臆病かつ気弱になったのは、この父親が原因です。