IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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一時間遅れたけど投稿できたからセーフ(アウト)


第6話 銀剣の秘密

「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット。試しに飛んでみろ」

 

 

四月の下旬。

 

ほのかな暖かさが失くなり、丁度いい気候が続くこの頃。今現在の授業は教室ではなく、学園のグラウンドで行われていた。

 

 

全員がIS専用のスーツを着ており、千冬の前で列を成して並んでいた。一夏も龍夜も、後ろの方にだが女子達に挟まれるような位置にいる。

 

 

千冬に言われた一夏は、自らの右腕に装着してある白いガントレットに目線を下ろす。両目を伏せ、集中している様子を見せる。

 

 

そして────一瞬で一夏の全身を白いIS、『白式』が纏われていた。

 

 

同じように、セシリアはアッサリと『ブルー・ティアーズ』を展開させた。流石は代表候補生、と感心する龍夜に千冬がチラリと視線を向けた後に、言う。

 

 

「蒼青、お前も展開はしておけ」

 

「はい、了解です」

 

 

【───承認】

 

 

専用器を収納するケースが粒子から小型の端末へと変換され、代わりに空間に浮かぶ『プラチナ・キャリバー』の柄を掴み取る。

 

 

指先に馴染む感覚を確かめながら、背中の接合部へ鞘を固定させる。

 

 

CONNECT(コネクト)ON(オン)

 

 

カシャン! と頑丈に受け止める固定具を背中に感じながら、龍夜は柄にあるトリガーを引きながら────剣を鞘から抜き放つ。

 

 

一瞬で、黒いスーツに白銀の装甲が展開される。身軽さや露出で言えば、女子のISに負けない程の装甲の少なさ。対して、背中の大型バインダーは妖精の羽と形容できるものだが、大きさが比例していない。

 

 

「よし、飛べ」

 

言われた直後、セシリアはスラスター噴かし、急上昇していく。その姿はみるみる内に上空へと飛んでいく。

 

一方、一夏も続くが、その動きは遅い。普通に考えるならまぁまぁだが、隣のセシリアとは格差があり過ぎた。

 

 

千冬から、叱咤が入るようであった。スペックで言えば、『白式』はセシリアの『ブルー・ティアーズ』を越え、龍夜の『プラチナ・キャリバー』に追い縋る性能だ。現に、代表戦の時はその性能で龍夜を一時期苦戦に追い込んだほどである。

 

 

だが、千冬の言う通り、一夏が『白式』を使いこなせていないのも事実。飛ぶという感覚を表現できないのだろう。

 

 

「蒼青、次はお前の番だ」

 

 

空を、一夏達を見上げていた龍夜に千冬からの声が掛かる。

 

 

「了解です…………速度は?」

 

「織斑達より速くていい。だが、やり過ぎるなよ」

 

 

短く応じ、背中のバインダーに格納された大型スラスターにエネルギーを収束させる。前回の試合のようなトップクラスの加速ではない。ある程度制限した速度を────一気に放つ。

 

 

飛び立ってから数秒、一瞬で一夏とセシリアのいる高度へと辿り着いた。

 

 

「流石ですわ、龍夜さん。織斑さんも、今すぐとは言いませんから少しずつ慣れさせる方がいいですわね」

 

「そうだよなぁ………けど空を飛ぶ感覚ってのが思い付かないんだよ」

 

 

感嘆するようなセシリアに言われ、一夏も困ったように頭をかく。確かに二本脚で歩いて生活している人間にパワードスーツによる飛行なんて早々適応できないだろう。

 

 

自分にとっての飛行方法なんて、一夏からしたら難しい話だとは思う。だが、経験として染み込ませれば早い筈だ。

 

 

そんな二人の話を聞いていた龍夜だが、全く別のことが頭に浮かび上がる。

 

 

(セシリアも変わったみたいだな)

 

 

あの代表戦以降、セシリアの態度は目に見えて軟化した。昔の貴族のような、自分等を見下してくる態度は消え、同じクラスメイトとも元気に接しているのだ。

 

 

────ただ一人、龍夜だけは他とは態度が違った。

 

 

他の女子に呼び掛けられ食事を取っている時は積極的に隣に座り、しどろもどろになりながらも話をした事もある。他のクラスメイトは違う感じだが、龍夜は不満に思うこともなく、普通に受け入れていた。

 

 

何故かだか分からないが、セシリアの期待と喜びに満ちた顔を見ると断ることも出来ない。効率的にも無駄なことをしない、等と言おうにも言えない。

 

ラミリアに相談すると、彼女は『私知ってる!青春ってヤツだよ!マスターにもきっと春が来るんだ!』と騒いで話にならない。

 

 

だが、龍夜に分かるのは───セシリアが自分に良い感情、他とは違う特別な感情を抱いているということ。

 

 

 

(慣れないな………家族以外から、あんな風に接されるなんて)

 

 

自分以外の他人から善意だけの感情なんて見たこともない。龍夜の見てきた人間は、誰もが良い奴等ですらなかった、むしろその逆。悪意や敵意、そんなものに満ち溢れたような醜い連中ばかりだった。

 

 

別に、セシリアの抱く特別な感情とやらが、苦手なわけでも分からないわけでもない。ただ慣れないだけだ。どれだけISを使いこなせても、今すぐ慣れるのは難しいと思う。

 

 

「オルコット、蒼青、急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から十センチだ。織斑も二人に続け」

 

 

「了解です。では織斑さん、お先に」

 

「一夏も気を付けてやれよ」

 

 

言って、龍夜とセシリアは共に地上へと降りていく。隣にいるセシリアはチラリと此方を見ると慌てたように顔を反らした。視界の隅に顔を真っ赤に染めたセシリアの様子が見えたので、龍夜も察したように開きかけた口を閉ざす。

 

 

最初に降りるセシリアは完全停止を終え、課題をクリアしたらしい。次に降りる龍夜も地表との距離を縮めていく。背中の大型スラスターの力を緩め、代わりに両手首と両足の装甲に組み込まれた小型スラスターからそれぞれ一定のエネルギーを放出する。

 

 

最初は揺らいでいたが、ピタリ、と動きはその場で停止した。計算を兼ねた結果、十センチピッタリであった。千冬からのクリアを貰い、クラスメイトからの歓声とセシリアからの称賛を受け、その場から離れていく。

 

 

(さて、次は一夏の番か───────)

 

 

そんな考えと共に真上にいるであろうクラスメイトに視線を向けようとした途端、

 

 

 

 

────ズドォォンッ!!!

 

 

白い隕石が降ってきた、いや隕石ではなく『白式』を装着した一夏であるのは明白だった。

 

 

「馬鹿者。誰が地上に激突しろと言った。グラウンドに穴を開けてどうする」

 

「………すみません」

 

 

クラスメイト達のクスクス笑いに心に大ダメージを負った一夏は姿勢制御をし直して、地面から離れる。そんないかにも瀕死の一夏に、箒が腕を組んで待ち構えていた。

 

 

 

「情けないぞ、一夏。昨日私が教えてやっただろう」

 

 

………アレかぁ、と思い出す。

偶々一夏にISについて説明する箒の様子を見た龍夜は、その知識を拝謁(盗み見)しようと思って耳を傾けると、

 

 

『ぐっ、として…………どんっ、とする感覚だ』

 

『…………』

 

『これに関しては────ずかーん、といった具合だ』

 

 

『……………っ、………(深呼吸)』

 

 

あまりにも絶望的な状況に龍夜は笑うしかなかった。途中、箒から死角の方にいた龍夜に気付いた一夏が視線で助けを求めたが、龍夜としても関わりたくもなかったのでその場に買ったばかりの炭酸飲料の缶(自販機で100円、未開封)をお供えしてから去っていった。

 

それにしても、いかに天才を自負する龍夜でもあの擬音ばかりの説明は流石に意味不明だった。いや、内容を理解できないわけではない。かろうじては可能だ。天才(自称)の龍夜であっても、“かろうじて”という点が実に恐ろしい。

 

 

箒は説明する力を身に付けた方が良いかもな、なんて他人事に思っていると千冬が一夏の前へと立つ。

 

 

「織斑、武装を展開しろ。それくらいは自在にできるようになっただろう」

 

 

「は、はあ」

 

 

「返事は『はい』だ」

 

 

「は、はいっ」

 

 

「よし。でははじめろ」

 

 

人のいない事を確認してから一夏は右腕を前に突き出し、掌に意識を集中させる。

 

そして、右手から光が放出されていき、形を成していくと刀状の武器─────『雪片弐型』が握られていた。

 

 

「遅い。0.5秒で出せるようになれ…………オルコット、武装を展開しろ」

 

「はい」

 

応じたセシリアが左手を横へと突き出す。一瞬の光が弾けたと思えば、彼女の手には『スターライトmkⅢ』が展開されていた。チラリと視線を送っただけでセーフティーが解除され、すぐにも射撃に移れる状態へとなる。

 

 

 

「さすがだな、代表候補生。しかし問題もある………蒼青、分かるか」

 

 

「狙撃銃を展開した銃口の先が右に向いている───戦闘中、横から前へと戻すのに時間がかかる。照準を向けるのも時間がいるから、ロスが大きい」

 

 

「っ、それは────」

 

 

自分の挙げた点にセシリアは反論しようにも出来ず、顔を俯かせる。チラリ、と千冬を見る龍夜。だが、まだ此方に鋭い目を向けてくる千冬に、彼は深くため息を吐いて続ける。

 

 

 

「逆に言えば、それさえ直せば射撃までの時間も早くなる。それだけの余裕があれば相手の動きをいち早く捉えることも難しいことじゃない。充分に強さを引き出せるチャンスになる」

 

「!分かりました!必ず直して見せますので!」

 

 

………ますます分からない。

自分にとって嫌な点を突いてきた相手にここまで純粋に応じてくれるのか。自分の知る馬鹿な奴等なら、煩く喚くだけだから新鮮な感じと言えば新鮮だ。

 

 

「オルコット、次は近接用の武装を展開しろ」

 

「………えっ。あ、は、はい!」

 

 

ボーッとしていたセシリアは突然の呼び掛けに慌てて反応し、スターライトmkⅢを粒子変換させ、近接用の武器を展開しようとするが────

 

 

「くっ………」

 

「まだか?」

 

「す、すぐです─────あぁ、もう!『インターセプター』」

 

 

名を叫び、近接用の武器であるショートブレードを呼び出す。しかしセシリアの顔は自信どころか、悔しさに満たされていた。

 

 

確か、武器の名前をコールするのは初心者のやり方と記憶している。セシリアは近接武器の展開に不馴れらしい、使わないとタカを括っているからか。

 

 

無論、その様子に見かねた千冬からの言葉が投げ掛けられる。

 

 

「何秒掛かっている。実戦で敵に待ってもらうつもりか?」

 

「じっ、実戦では近接の間合いに入らせません!ですからなんら問題はありませんわ!」

 

「そうか?蒼青のISに圧倒され、懐まで近付かれていたのは私の見間違いだったか?」

 

「…………う、それは」

 

 

セシリアにとって千冬からの指摘は否定できない事実として受け入れているらしく、口ごもるしかなかった。その事実を作った一因である龍夜は興味すらのか、耳にすら入っていない。

 

 

それから、他の生徒達も武装の展開を実行していく。各々辛辣にも的確なアドバイスを与える千冬に、ふと何かに気付いたセシリアが手を挙げた。

 

 

 

「織斑先生、質問があります」

 

「何だ、オルコット」

 

「龍夜さんの武装展開はなさらないんですか?」

 

 

その発言にクラスメイト達も一斉に龍夜へと視線を向けていく。それはそうだ、既にクラスメイトの大半は武装展開の確認は終えている。

 

 

なのに龍夜が呼ばれる様子は一向にない。本人も、それを当然と言うように黙っているばかりだ。気に掛けていたセシリアが胃を決して聞こうと考えたのだろう。

 

 

そんな疑問に、千冬は淡々と答えた。

 

 

 

「いや、蒼青に必要はない。…………いや、しようがない、と言うべきか」

 

 

含んだ言い方にその意味を問おうとしたセシリアだが、その直後に授業終了を知らせる鐘が鳴り響いた。

 

 

「時間だな。今日の授業はここまでだ。織斑、グラウンドを片付けておけよ」

 

 

………え? と硬直する一夏。

そう言うや否や立ち去っていく千冬やクラスメイト達。箒もセシリアも同じように、戻っていった。

 

 

一人で片付けるのか、と呆然とする一夏だったが、光明と呼ぶべき相手の姿が見えた。ISを解除しようとする龍夜だった。

 

 

何とか頼めないか、試行錯誤していると────突然、回線が繋がった。それはISを解除する手を止めた龍夜からだった。

 

 

期待して伺う内容は、

 

 

 

 

 

 

 

『自業自得だ、諦めろ』

 

 

 

希望を切り捨てる無慈悲な言葉だった。

背中から鞘ごと剣を抜き、ケースへと収納する龍夜の姿を呆然と見つめる一夏。

 

 

確かにそれはそうだ、と素直に受け入れる。無駄なことをしている暇もない。すぐさまグラウンドの修復に動き出した一夏であった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

放課後の整備室。

単なる部品などの整備室ではない、ここはIS専用の整備室だ。主に使うのは教師や整備科の人間、そして自分のISを扱う代表候補生だけである。

 

 

その一室─────千冬に頼み込んで作って貰った龍夜専用の整備室。お世辞にも広いとも言えないが、さほど狭いと言うわけでもないし、作業には十分だった。

 

 

組み上げられた台座の機器に、鞘に仕舞われた銀剣 『プラチナ・キャリバー』を配備していた。ケーブルを表面に固定させ、龍夜は機器とUSBメモリと繋げたパソコンのキーボードをひたすらに叩き続けていた。

 

 

無言に包まれる室内。

キーボードの叩いていく音だけが響く一室だが、その異質な静寂に龍夜の呟きが浸透する。

 

 

「…………やはり、原理的に合わない。剣と鞘、何故こんな形状のISにしたのか、整合性を確かめようにも、厳重なプロテクトを突破できない。基本的に人間が作ったシステムなら僅かな隙もある筈だが………」

 

 

ブツブツ、と画面に展開される数式とグラフなどを見渡し、計算の結果に納得がいかないであろう龍夜は独り言を口にし続けている。

 

 

彼が行っているのは自らのISの調整、解析であった。調整の方を行おうとした矢先、このISの疑問点に気付いた龍夜はすぐさま解析へと移り、それにのめり込んでいた。

 

 

最初は好奇心だった。このISの全貌を満足するまで調べ尽くしてやろう、なんて軽い衝動に従っていただけだ。大方、興味深い事実を知ることが出来たが、問題はその最奥。

 

 

重要と呼ぶべきシステムの最深部が、厳重なほどの防御プロテクトに囲まれていた。難なく解除できると踏んだ龍夜だが、失敗した。それが自分の好奇心を更に刺激させ、その奥を解き明かしてやろうと執着することになったのだ。

 

 

 

だが、結果は満足できるものではなかった。プロテクトは突破すら出来ず、意味不明な単語しか回収できなかった。

 

 

 

「『救滅の五神姫』…………検索にも引っ掛からないか」

 

 

それらしき情報は何一つない。

検索欄に提示されるのはゲームや創作物の名前などそればかりだ。無論、重要な単語なのは分かる。しかし意味が分からないのなら、成果があるとは言えない。

 

 

 

それよりも気になるのは、もう一つの単語の方だ。

 

 

 

 

ピンポーン!

 

 

───しかし、そんな思考を遮るように個室の外側に配置されたベルが鳴らされた。キーボードを叩く手を止め、龍夜は重い扉を見る。

 

 

この個室は基本的に他人が簡単に入れないようになっている。最初ドアに設置されているカードキーを抜き取り、内側から施錠すれば、内側の人間が開ける以外では入ることも出来ない。

 

専用機のデータを抜き取る事件が一度学園であったらしく、その対策として専用機の調整をする際にはこのような個室で作業するように決められている。

 

 

扉に内蔵されているカメラを見ると、そこにいるのはセシリアであった。一人ではない、一夏や箒も着いているらしい。驚くよりも反応するよりも先に、龍夜はロックを解除して扉を開け、外にいる三人に声をかけた。

 

 

 

「…………待たせて悪かったな、それで?何か用か?」

 

「よ、用というのは………あ、そうでした!織斑さんや篠ノ之さんが龍夜さんに聞きたいことがあるらしく、わたくしが連れてきただけですわ!」

 

「え?着いてきて欲しいって言ったのはセシリア────痛ッ!?」

 

「いや、何。その通りだ、少し気になる事があったからな。案内を頼んでいたんだ」

 

「────なるほど、そういう事か」

 

 

背中を叩かれ、困惑する一夏。そんな彼に険しい眼を向けている箒の話に、龍夜は表面上の納得を見せた。余計なことを言おうとした一夏を止めた箒の様子からして、これはそういう事なのだろう。

 

 

「聞きたいこと、か。都合が良かった。俺もお前達の意見を聞きたいところだった。………ま、わざわざ来てくれたんだ。質問は受け付ける、何についてだ?」

 

 

三人のような仕込み椅子を奥から引き出し、用意した龍夜は作業用の椅子に腰掛けて彼等の用件を聞く。一夏と箒、二人は互いの顔を見るように、口を開いた。

 

 

「ISの野外授業、覚えているか?」

 

「………あの時か、把握してるが」

 

「武装展開の際、千冬姉が言ってただろ?龍夜には必要がない、そもそもしようがない、ってさ。どういう意味かって思ってたんだ」

 

 

龍夜は深く吐いた一息の後に、告げた。

 

 

 

「言葉通りの意味だ。俺に展開も収納する武装は何一つない」

 

 

 

 

「……………え?」

 

 

アッサリと、そう言ってのけた龍夜の発言に唖然とする三人。それほどまでに、龍夜の言っていることは異様であった。

 

 

 

ISには、複数の武装が存在している。様々な状況に適応できるように、大型銃やミサイル、近接用の武器が特別な空間に格納され、状況に応じて操縦者の意思により展開される。

 

 

だが、龍夜の主要装備────フォームごとに大剣や長剣に変形する剣や、エネルギーを吸収していく『銀光盾』は格納不能な武器。剣と鞘から分離及び変形する機構を用いるため、拡張領域に格納はできないということになる。

 

 

 

「───少し都合がいい、これを見ろ」

 

 

そんな三人に、龍夜はパソコンの画面を覗き込む。画面いっぱいに並ぶ文字の羅列は一瞬で読む気を削ぐ程の量である。怪訝そうな一夏が疑問の声をあげる前に、龍夜が口を開いた。

 

 

「基本のプログラムになんら問題はない。それ以外のものは全て手が付けられていない。手を加えれば今以上の力を発揮するだろうが、逆に言えば今の状態は完全じゃないことになる」

 

「つまり、どういう事だ?」

 

 

意図が読めない。何が言いたいのか、そう思い疑問をそのまま口にした一夏は、更に信じられないことを聞くことになった。

 

 

 

 

 

「『プラチナ・キャリバー』、これは未完成のISだ。しかも送られてきた時期的に、わざと未完成にしたんだ」

 

 

空気が、止まったようであった。

やはり差程重要だと思っていない龍夜、その声に真剣さなど感じられない。しかし一夏や箒、セシリアからすればどれだけの事実かはよく分かった。

 

 

わざと未完成にした、それはつまり龍夜への専用機を作る宣言した張本人────篠ノ之束が手を抜いたという可能性が出てくる。幾ら何でもそれは無いだろう、そうセシリアは困惑しながら思わざるを得ない。

 

だが、一夏と箒は否定するどころか有り得るかもしれないとまで思っていた。一夏も初めて箒の姉である篠ノ之束と会った時は変人としか思っていなかったが、彼女がどれだけ性格が悪いかったのかはよく分かっている。

 

 

───だが、昔姉である千冬から聞いた話では少しだけ良くなったと聞いていた。何とあの束が認める程の人が現れたらしく、まだ学生だった束や千冬からも親しみと信頼を込めて『先生』と慕われていたらしい。興味本位でその人の名前を聞こうとしたが、彼女からはいつもはぐらかされていた。

 

 

話は戻すが、軟化したのはしたそうだが、それでも自分以外の人間に対しての態度はまぁまぁ酷いらしい。だからこそ、束なら未完成のISを嫌がらせで送る可能性も否定できなかった。

 

 

一夏はチラリ、と俯き出した龍夜に視線を向けた。

顔は見えず、感情というものが伺えない。しかし、全身を小刻みに震わせている事だけが分かった。

 

 

いつも平静を保つ彼でも、ショックが大きいのだろう。心配した一夏が彼の背中へと手を伸ばそうとするが、

 

 

 

 

 

 

「────面白い」

 

 

ボソリ、と呟いた言葉に、思わず手が止まる。

一瞬ショックにうちひしがれている、そう判断していた一夏は自分の考えを改めた。

 

 

 

───笑っていた。

自分の顔を隠すように覆っていた手の奥で、彼は今まで見せたこともないような戦意と興奮に満ちた笑みを浮かべていた。

 

 

これは知っている。

相手の強さに圧倒され、追い込まれた時の戦士が見せる笑顔に似てる。

 

 

 

「実に面白い。俺にこのISを完成させろ、それが貴女から俺への挑戦、いや試練か。天才を自称した俺に、最強のISへと進化させる程の実力と才能があるか、とでも考えているんだろ?天災 篠ノ之束!!」

 

 

バァン! と机を叩き、立ち上がった青年が叫んだ。見つめる先は天井だが、彼が見ているのはその先───空だ。同時に、彼が思い浮かべる天才にして天災と呼ぶべき人物。

 

 

普段の様子からは感じられないであろう高揚を爆発させ、感情剥き出しのその姿は─────冷徹な仮面の奥にある、彼の本来の姿のかもしれない。

 

 

 

「それはそうだ!貴女からすれば有象無象の一人であり、赤の他人である俺に専用機を与える理由がない!────良いだろう!それなら見せてやる!俺の才能も実力も!そこいらの凡愚とは違うという事を!そこいらのISなんぞとは格の違う!正真正銘、唯一無二にして最強の機体をな!!俺が貴女に劣らない天才である事を、思い知らしめしようじゃないか!!」

 

 

 

『あーあ、マスターまたはしゃいでるよ。皆が近くにいるのに』

 

「………龍夜ってこんなとこがあるのか?」

 

『自分の知らないものとか、才能を刺激されるとこうなるのがマスターの悪癖なんだよ。それに、よりによって憧れの篠ノ之束ってヒトの事になると派手になるんだよ!』

 

「あ、憧れ…………?あの人が?」

 

 

スマホから出てきた途端に呆れる電子妖精 ラミリアの言葉に、箒は理解できないという様子だった。篠ノ之束がどんな人間であるのかは身内である箒にもよく分からない。だが、好きではないのは事実であった。

 

 

だからこそ、あんな姉を慕う彼の考えが当初は理解すら出来なかった。

 

 

 

『まぁ、マスターにもそれなりの理由があるから。嫌な人に憧れてるからってマスターを嫌わないでね!─────ほら、マスター!皆がいるんだから落ち着いてよー!』

 

 

そう言うや否や興奮している龍夜へと大声でそう伝えるラミリア。それだけ落ち着くかと思ったが、ラミリアの声を聞いた瞬間彼は目に見えて硬直する。

 

 

深い一息を吐き、前髪を払った龍夜が申し訳なさそうに一夏達へと向き直る。

 

 

「……………悪い、つい周りを見失っていた。さっきのは、なるべく忘れて欲しい」

 

「いえ、仕方がありませんわ。憧れの人に並びたいというのはわたくしも同じですので。龍夜さんの気持ちには共感できますわ」

 

 

頭を振る龍夜に、普通に励ますセシリア。アレは憧れの人に並びたいと思ってるより、眼に物見せてやるといった自信の現れではないかと思う一夏だった。

 

 

 

 

 

 

 

そして数分後、まだ龍夜へと話したいであろうセシリアを一夏と箒が連れて個室から出ていった。龍夜は静かに、『プラチナ・キャリバー』を見下ろす。

 

 

 

一夏達が離れて良かった、と思う。

この事実はまだ一夏達にも話せない。千冬にも、誰にも話す事はできてない。

 

 

「この剣自体はISじゃない、厳密にはこの鞘だ」

 

 

それ自体は大した疑問ではない。

 

問題は、剣の方だ。この事実の方がより重大なものであることを理解させた。

 

 

鞘に収まる剣はISではない。ISの専用武装ですらない。そもそも、この剣はISとは全く別の代物であった。

 

 

分かることは、この剣がISのコアのように無尽蔵にエネルギーを生成していること。そして、この剣がどれだけ解析しても全貌の見えない────ブラックボックスであること。

 

 

 

「なら、ISですらないこの剣は何なんだろうな」

 

 

その答えが最後まで出ることはなかった。結局、諦めた龍夜は『プラチナ・キャリバー』をケースへと収納し、整備室から出ていくことにした。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「ふうん、ここがそうなんだ………」

 

真夜中。

ほぼ暗くなったIS学園の正面ゲート前に立った小柄な少女が呟いた。パンパンに詰まったボストンバッグを片手に、もう片方の手に一切れの紙を見る。

 

 

「えーと、受付ってどこにあるんだっけ」

 

 

『本校舎一階総合事務受付』、とだけ書かれた紙に苛立ったようにポケットへと押し込む。それだけで、少女の大雑把さが目に見えていた。

 

 

その苛立ちも、分からないものではないと思う。IS学園の構造自体も分からないのに、場所の名前だけ出されても困る。説明や、案内する人間がいないのだから、彼女一人でその場所へと向かわなければならない。

 

 

―――ったく、出迎えがないとは聞いてたけど、ちょっと不親切過ぎるんじゃない? 政府の連中にしたって、異国に十五歳の女子を放り込むとか、なんか思うところないわけ?

 

 

そう思っていた少女は周りを見渡す。それらしき場所は見つからなかったが────代わりに幸運だった。

 

 

校舎の近くに、人が歩いているのだ。暗闇で姿までは見えないが、学園の人間で間違いはなかった。

 

 

「あの、ちょっといい?」

 

 

「…………何だ?」

 

 

振り返ってきた相手の姿を見て、少女は驚愕に包まれた。なんせ相手は男だったのだ。黒髪に、冷えたような眼が特徴的なその顔と体格は男としか思えないものだ。

 

 

すぐさま、その顔が初めて見たものではないと気付いた。

 

 

「あ!アンタ、話しに聞いた二人目!?」

 

「あぁ、その通りだ」

 

 

あっけらかんと言う青年に、少女はへぇ?と感心したようであった。ISを男が使えるようになれば、力を持ったと威張り散らす輩も現れると思っていたが、彼も違うらしい。

 

多少評価した、まぁそれでも多少ではあるが。

 

 

 

 

 

「おや、君達。こんな所で何をしているんだい?」

 

 

そう言って校舎の影から、女性教師───霧山友華が此方の様子に気付いたのか、近寄りながら声をかけてきた。あ、教師か、と呟いた少女の近くで龍夜は目つきを鋭くさせた。

 

 

彼女は少し前から校舎の影に隠れていた、タイミングを見計らい此方に接触を伺ってきた。そう疑う龍夜は、霧山先生へと質問を投げ掛ける。

 

 

「霧山先生こそ、そちらで何をなされていたんですか?校舎の裏で」

 

「家族に連絡を掛けていたのさ。心配性の弟分がいるからね、可愛いもんだよ。君達にも出来ることなら会わせてあげたいもんだ。………おや、中国から来ると聞いた娘じゃないか。もう来ていたんだね」

 

 

怪訝そうな視線を向ける龍夜の話を反らすように、少女へと声をかける霧山。

 

 

「あの、『本校舎一階総合事務受付』ってトコに行きたいんですど」

 

「手続きの件か。私が案内しよう、仮にも教師だからね。───そういうことだから、君も早く寮に戻るんだよ、蒼青少年」

 

 

軽く手を払う霧山先生に、不安と疑惑を拭えないのか少しだけ眼力を緩める。何かを隠しているのは事実だが、連絡していたのは確かだろう。

 

 

言われた通りにするか、と寮へと戻ろうとする龍夜に、少女が近寄ってきた。話したい事があると霧山先生に言ったらしく、すぐさま言葉を掛けてきた。

 

 

 

「私は凰鈴音(ファン・リンイン)。アンタ、蒼青龍夜でしょ。どう呼べばいいの?」

 

「好きに呼べばいい」

 

「じゃ、好きに呼ばせてもらうから、よろしくね、龍夜。あ、そうだ。もし織斑一夏と知り合いなら私がよろしく言ってたって伝えといてくれる?」

 

「………分かった、やっておく」

 

 

元気に手を振りながら霧山に着いていく鈴音の姿を見送り、寮に戻ろうと背を向ける龍夜。その時、織斑一夏の名前が出たことを思い出し、これから起こる事を考え、面倒そうな溜め息を吐く。

 

 




龍夜がハジけるのは天才特有の感性。どちらかというとてぇんさい物理学者を連想させてもらえれば。


憧れている篠ノ之束本人と対面した時、どんな顔するんだろうな。龍夜は束さんを過大評価してるからね、性格的にも(黒い笑み)


『プラチナ・キャリバー』がISなんなのか、別のものなのか。まだまだ謎ばかりです。
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