IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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第75話 黒鴉の三銃士

「────着いたで。ここが自分らの拠点や」

 

 

関西弁が目立つ灰色の短髪の青年 フユキ・スイゲツの案内により、一夏たちは目的地となる場所に辿り着いた。その建物を目にした途端、全員が言葉を失って硬直する。

 

 

────ボロボロになった学校だった。ブルーシートや鉄板によって補強されたらしいが、それでも破壊の痕がよく目立つ。最早学舎としては機能しておらず、兵器や砲台が積み重なったその建物は一種の要塞と化していた。

 

到底、子供たちが通うような施設の有り様ではない。これでは人類最後の砦のような、形振り構わない覚悟に染まった状態ではないか。

 

 

「……………ふぅん」

 

 

その施設の前に、フユキは顎を擦っていた。何かを把握しているのだろうか、彼はブツブツと呟きを口にしていく。

 

 

「…………クロガネはおらんみたいやな。ならよし、アイツには悪いけど、事態がごちゃごちゃせんで済むわ」

 

 

フユキが指を鳴らす────合図を聞き取った何者かが、要塞の中で動く。封鎖された砦の壁が開き、橋となって要塞内部へと続く通路となる。「こっちや」と続けた彼に、一夏達は従っていく。

 

校舎の中も外装のようにボロついていた。壁紙が剥がれ、鉄パイプや柱などが露出する程の建物の中で、大勢の子供たちが生活しているのだ。

 

 

「─────」

 

 

霧山友華はその光景を静かに見つめていた。そして両目を閉ざし、沈黙を刻む。きっと、彼女にとって、教職者からすれば悲痛以外言葉に出来ない景色なのだろう。

 

こんなボロボロになった学舎で、彼等はずっと生きてきた。学ぶためではなく、生き残るために。武器や兵器を操り、子供達はそうやって今日まで生き永らえて来たのだ。

 

鈴音も、一夏も、彼女の様子を察し、何も言えなかった。そうやって歩いていく候補生たちの空気は重く沈んだものであったが、フユキは困ったように肩を竦めながら、ある扉の前で歩みを止めた。

 

 

「はい、お待たせ。ここに自分らの仲間がいるやけど…………ちょっと待ってな?」

 

 

扉をコッソリと開けて中を確認したフユキ。どうやら懸念していた相手───『クロガネ』なる人物はいなかったらしい。静かに安堵した彼は扉を開き、一夏達を中へと案内した。

 

 

「入るで、サクラ。お客さんも連れてきたでー」

 

「─────有り難う、お疲れ様。スイゲツ」

 

 

室内にいたのは、机の上で書類をまとめている少女だった。青い髪を綺麗に整えた美少女と呼ぶべき人物。ただ、普通の少女とは言い難い。

 

背中に接続された尻尾のようなマニピュレーターが、それを体現していた。まるで一本の腕のように器用に動いたそれは足元に落ちた書類の一枚をソッと持ち上げて、束ねられた紙の山の上に滑らせる。

 

よく見れば、彼女の背中────脊髄の部分には金属の脊髄らしきユニットが連結している。人体に埋め込まれた機械という、生々しくも恐ろしく感じる光景に表情を強張らせる候補生達。彼等の顔を見たサクラなる少女はにこやかに笑う。

 

 

「失礼しました。このようなものをお見せしてしまい、いつも便利だから多用してしまうもので────挨拶が遅れました。サクラ・レナーテと申します。『レイヴン・レギオン』の三銃士、『博愛』の代表者です」

 

 

「は、博愛?」

 

「あら、スイゲツから聞いていませんか?私たち『レイヴン・レギオン』は一つの声明を出しています。『人を憎まず、理不尽に抗う。博愛の心を忘れず、求めるは自由』。私達幹部は各々の意思を担うことで、その言葉を忘れないようにしているのです」

 

「あ、因みに自分は『自由』の代表者やでー」

 

 

組織を立ち上げた本質を忘れぬよう、二つ名として刻み込んだのだろう。三銃士ということはもう一人二つ名を刻んでいるのか。感心しているところで、一夏はある点に疑問を覚えた。

 

 

(ん?三人?それって可笑しくないか?)

 

 

先の声明と二人の二つ名からして、本来二つ名は四人分ある。だとすれば、あと一人足りない。彼女は自分達幹部、と口にしていた。その言葉が正しければこの組織のリーダーの可能性は低い。もう一人、欠員となった幹部がいるのだろうか。

 

 

「お話した通り、我々は国連と正式な取引によって自治権と自由の獲得に近付きました。…………ですが国連内部から情報が漏れたようです。皆様が来る直前にも『クインス』による攻撃が発生しました」

 

「……………」

 

「取引の日まで四日間、皆様には『隔絶区域(コードレス・エリア)』に居ていただきたい。IS学園の存在があれば、『クインス』も無闇に攻撃を行わないはずです。皆様を巻き込んで申し訳ありません。…………私達も選択肢がないのです。──────ですので、どうか」

 

深く一礼を示すサクラとフユキ。二人にとっても苦渋の決断だったのだろう。そうでもしなければ、自分達は仲間を失うだけだから。

 

彼女たちの要求に、一夏たちは言葉を発することはない。しかし彼等の考えはたった一つ、同じ答えであった。

 

 

「心配こそ不要です。我々はその為に来たのですから」

 

「────ありがとうございます。それでは、皆様の案内を────」

 

 

千冬と対面したサクラが優しい笑顔で話していると、突然扉が開け放たれた。強引に入ってきた誰かを目にしたサクラは僅かに反応を示し、フユキは「うわ出た」と厄介な相手を見るような反応を浮かべる。部屋の中へと入ってきたのは、人とは言い難い姿のモノだった。

 

 

ガシャン、という金属音が響く。両脚に接続された補助歩行装置の機動音であった。身体を防護服のようなパーカーで包み込み、口を機械的なマスクで覆い、片眼には三つの複眼レンズがリボルバーのように装填されたセンサーユニットを装着している─────まだ幼い少年だった。

 

歳にしては十二、三歳程。両腕の先は五本の指のある手ではなく、複数の鉄の塊を融合させた銃器である。何より恐ろしいのは、濁りきった片眼が此方に向ける憎悪に満ちた視線だ。

 

 

『─────フユキ、サクラ。ソイツらは何だ』

 

「………客人や。分かったら止めや、その目。味方してくれる奴等に向けるもんでもないで、クロガネ────紹介するわ、コイツはクロガネ。戦い担当の幹部、『抵抗』の代表者や」

 

 

彼が幹部の一人、クロガネらしい。『抵抗』と戦いを任されていることから、戦闘力はこの『隔絶区域(コードレス・エリア)』内でも随一なのだろう。だが、疑問もある。これだけ人体を損なっているのは、戦闘による影響なのか。

 

 

『成程、話に聞いていた増援か。馬鹿馬鹿しい、そんなものに頼るとは。あの人の意思を忘れたのか、サクラ』

 

「………モミジ。あの人の願いを果たすのなら、我々が意地を通す訳にはいかないのです。仲間達を助けることこそが最善。彼等と協力しなければ、多くの仲間が傷付きます」

 

『────惰弱。外部の人間の手助けなど不要、俺達は俺達の手で奴等を打ち倒す。その過程で死ぬのならば、同志たちも本望だ』

 

「…………まだ小さな子達も、そうやって特攻させる気ですか」

 

『俺達の痛みも、信念も知らない赤の他人に縋るくらいならば、百倍マシだろう。無論、アイツらが死ぬ必要はない。俺が全て殺すからだ』

 

 

大人しくも冷静に嗜めようとするサクラだが、『レイヴン』の最終兵器 クロガネ・モミジの意思を揺るがすことは出来ない。濁りきった憎悪と殺意はコンクリートのように凝り固まっていた。

 

 

「彼女の言う通りだ。お前たちは全員で数千人。戦えるのは数百人────もし『クインス』が兵力を総動員させたら、幾ら『レイヴン』でも対応できないぞ」

 

『────お前とは話してない。部外者は黙ってろ』

 

 

吐き捨てるように無視した少年に、一夏とラウラもカッとなった。何て態度を取るんだ、と怒りを滲ませる二人は千冬に無言で制止される。

 

続けて、千冬は口を開く。無視されたことすら気にしていないように、淡々と語る。

 

 

「生憎だが、私たちは部外者とは言い難い。彼女と上の協定により、この地区を護り通す為にここにいる。少なくとも、お前たちを害する敵でも、傍観者でもない」

 

『減らず口を………ッ!どうせお前らがここに来たのは、地下で造られている兵器が目当てだろ!利益欲しさが見え透いているんだよ!ずっと俺達を助けようともせず、無視してきたクセに─────とっとと俺達の家から出ていけ!』

 

 

怒り任せに怒鳴ったクロガネが腕と連結した銃器の先を千冬へと差し向ける。ゾッとして立ち塞がろうとする候補生たちの目の前で、クロガネは躊躇いなく引き金を引いた。

 

 

ドバァンッ!!!

 

銃口から、爆発が炸裂する。炸裂弾と言うものだろうか、人間に撃てば肉体が木っ端微塵になるほどの威力。それを躊躇なく放ったのは、その少年の憎悪と殺意が本物だと証明していた。

 

────しかし、銃口を向けられた千冬には怪我は一つもない。腕を組んだまま平然と直立する彼女を庇うように、ISを展開した一夏が爆発を受け止めたのだ。

 

 

「────千冬姉に、何してたんだ」

 

 

無傷の姉を後ろに庇い、一夏はクロガネを睨む。この少年が外部の人間を毛嫌いしているのは目に見えて理解できる。だが、自分の姉に攻撃すること自体は見逃せない。

 

一夏の言葉を聞いてハッとしたクロガネ。冷静になったように沈黙した彼は、軽く頭を下げる。

 

 

『………感情的になった、今のは悪かった。だが、俺は意見を曲げるつもりはない。これは警告だ、大人しくここから立ち去れ。さもなくば、実力行使で追い出してやる』

 

「そういうわけにはいかない。俺達だって覚悟してここに来てるんだ」

 

『────警告はした』

 

 

再び銃口を向けようとするクロガネ。再び攻撃されることに身構える一夏や他の候補生たち。しかし、実際にクロガネの腕の先から爆発が炸裂することはなかった。

 

 

「待てや、お前ら。ここで喧嘩する気かいな」

 

 

腕の先に連結した銃器に手を置いて、今にもやり合おうとするクロガネを嗜めるフユキ。止めてくれるのか、と考えていたが、彼は一夏たちの方を尻目に、とんでもない提案をして来た。

 

 

「どうせ喧嘩するなら、近くのアリーナでやったらどうや?彼処なら好き勝手に暴れても構わんやろし…………それでええやろ、クロガネ」

 

『…………ならもう一つ、要求をしてやる。あと二人、三人で来い。三人まとめて俺一人で叩き潰してやる』

 

「そうか。なら此方で選抜させて貰う─────織斑、篠ノ之、蒼青、お前達が行け」

 

 

呆気に取られる箒が何か言いたげであったが、一夏本人はやる気に満ち溢れているらしく「おうっ!」と活気良く頷いていた。自分が巻き込まれたことに文句すら言えず、龍夜は諦めたように嘆息するしかなかった。

 

 

◇◆◇

 

 

数時間後、人気のない巨大なアリーナに一夏たちは集められた。厳密には三人。ISを展開した彼等はゲートから内部へと踏み込んでいく。

 

その光景を、セシリアや鈴音たち、千冬にサクラ達はモニター越しに見ていた。

 

 

「…………見てることしか出来ないなんて、暇ね」

 

「そうですわね。ですが、実力的には龍夜さんが選ばれるのは必然─────出来ることなら、私もお供したかったですけど」

 

「それに関しては、まぁ同感」

 

 

この場は拠点の一室。一夏たちが居るアリーナ周囲は戦闘の余波も懸念して誰も近付けずに、離れた場所で観戦するようにしているらしい。

 

IS学園のように、アリーナにシールドは存在しないため無理はないだろう。

 

 

「まぁまぁ、二人とも。気持ちは分かるよ、恋する乙女としては好きな相手の隣に出来るだけ居たいもんね?」

 

「─────っ!?」

 

「………からかってやるなよ、霧山先生」

 

「すまないね、若者の青春は見ていて飽きないからね。悪かったとは反省しているよ」

 

 

クスクスと笑う友華に、千冬は嘆息する。山田先生のように真面目すぎるのも難点だが、彼女のように不真面目過ぎるのも面倒くさい。

 

そんな風に話している千冬から目を離したラウラ。彼女はヤケに冷たい顔でモニターを見下ろすフユキに声をかけた。

 

 

「────フユキ・スイゲツ」

 

「なーんや?」

 

「何故、決闘を行うように仕向けた?恐らく、お前自身の考えであり、サクラ・レナーテや組織の方針でもないだろう」

 

 

ラウラの言葉に、周囲の空気が凍りつく。驚きを隠せないセシリアたち、平然としている千冬に友華、サクラの視線がフユキへと集中する。

 

意識されることが苦手なのか、嘆息したフユキは観念したように話し出した。

 

 

「…………理由の一つは、クロガネや他の奴等にお前らを認めさせるためや」

 

「…………」

 

「お前ら分かっとるか知らへんけど─────実際、『レイヴン』の大半はお前らのこと認めとらへんねん。そんな状態で強引にお前らを受け入れさせたら、クロガネ含む一部の奴等が暴れ始めるからな。一度でも戦って結果見せりゃ、他の奴等も黙るやろ」

 

 

子供だけで構成された組織だからこそ、感情的な爆発による暴走の可能性が有り得る。組織の幹部であるクロガネと戦い、一夏たちの実力を見せれば、外野から見ているメンバーも納得せざるを得ないはずだ。

 

それだけ彼の意図は納得できた。しかし、もう一つ理由があったらしい。

 

 

「ほんで、二つ目の理由は─────お前らを試すためや」

 

「試す?何で今更………」

 

「お前らやサクラには悪いけど────自分も、お前らを信用はしとらん」

 

 

キッパリと断言したフユキ、彼の目には露骨な警戒が宿っていた。何人かが耳を疑っているのを理解したのか、呆れたようにフユキが肩を竦める。

 

 

「当然やろ。お前らが『クインス』の刺客やないからって、素直に背中預けられるわけあらへん。少なくとも、クロガネを納得させるまでは─────自分が信用するわけにはいかんのや」

 

 

『レイヴン』の幹部としての、年長者としての自覚。その一人である彼は他の二人のように偏った意見を選ぶことなど出来なかった。サクラのように外部の人間を信頼せず、クロガネのように外部の人間を敵視しない。

 

本当の意味で、彼が中立に位置する幹部なのだと、理解させられた。

 

 

「それは分かったけど………一夏と戦うだけで良かったんじゃないかな」

 

「………あん?何言うとんねん。一人じゃ相手にならんやろーが」

 

「そっちこそ何言ってるのよ。ISよ? あの………クロガネってのがどんな武器を使っても、ISに太刀打ち出来るわけないじゃない」

 

「─────そら普通の人間の話やろ」

 

 

どうやら、彼等の間で齟齬が起きているらしい。しかしシャルロットと鈴音の疑問、IS操縦者を三人も同時に相手して大丈夫なのかという心配。それはISという兵器の強さを実感している候補生たちだからこその懸念なのだ。

 

しかし、フユキはそれを理解した上で確信していた。IS操縦者だろうと三人いなければ勝てない、と。クロガネはたった一人に打ち負かされる程弱くないのだ、と。

 

 

「お前ら見たやろ、クロガネの姿」

 

「覚えていますわ………あの姿のこと、知っているのですか?」

 

「知ってるも何も、アイツは自分でああ成ったんやで。戦う為にな。自分らも似たようなもんやけど、アイツほど弄ったヤツはおらへん」

 

 

補助装置もなければまともに歩けず、片眼のセンサーで外部の探知を行う程の有り様。

 

 

「『生体コネクト』って知っとる?人体と機械を繋げることで、間接的な操作を行わないで機械を操ることが出来る機能や」

 

「…………うん、知ってる。でも、それは禁止されているはずだよ」

 

「─────非人道、かつ強力やからな。国連が正規で禁止しているのは人命を軽視しているって話やなくて、兵器と融合した生体ユニットを量産できるからやろ。だから、禁止せなアカンかったわけや」

 

 

だが、禁止している国連も秘密裏に使用していたりもする。あまりにも、使いやすくて強力だからだ。人間一人を改造すれば、機械を容易く操れるエースを一人作り出せるのだから、無理もない。

 

手で操縦桿を握る必要もなく、脳波や意思によって機体や武装を動かせる。それこそが『生体コネクト』の利点。しかし欠点も、明確に存在していた。

 

機械とコネクトするということは、人体の機能が一時的に途絶えることなる。『生体コネクト』によるリンクを深めれば、肉体の操作がおぼつかなくなる。機械を操ることに脳や神経が慣れていくごとに、自身の肉体がまともに動かなくなるのだ。

 

 

「アイツは身体の大半の機能を失っとる。両足で歩けんし、手なんて動かせんし、片眼は見えん─────アイツは、それを気にせんかった。両手を切って武器を繋げて、片眼を抉ってセンサーを埋め込んだ。生体コネクト以上に、敵を倒す執念が強いねん、アイツは」

 

「─────何故、奴はそこまでする」

 

「…………何もないから、全部失ったからや」

 

 

いや、全てを失った。今、クロガネにあるのはこの『隔絶区域(コードレス・エリア)』という自分達の家のみ。そこを守り通す為だけに、あの少年は機械との接続を躊躇なく繰り返した。

 

いずれは、人の形を失くすかもしれない。それでも、彼は気にしないことだろう。

 

 

「知らんなら教えたるわ。何もない奴は強いんやで。死も恐れんしな」

 

 

◇◆◇

 

 

その直後、アリーナ上空に黒い影が現れた。ISを展開した一夏に箒、龍夜がそれを見上げた直後に、相手からの通信が生じる。

 

 

『─────待たせたな』

 

クロガネ・モミジ。

あの少年は、黒鉄の機体の中枢に添えられていた。大型の翼と背中に装着された飛行ユニット、両腕の先を接続したリングの形をした帯状のユニット。そのリングの外部に連結した、複数の武装ユニット。

 

それ以上の鉄の塊を繋ぎ合わせた機体。直立しながらもユニットと接続したことで固定されたままのクロガネ・モミジは一夏たちを見下ろしていた。

 

 

『お前らが負けたら、大人しくここから立ち去って貰う。それでいいな?』

 

「いいぜ。その代わり、俺達が勝ったら大人しく認めて貰うからな」

 

『好きにしろ────俺が負けることなど有り得ないからな』

 

 

決闘の開始の火蓋は、クロガネが引いた。

ガシャン!! という重機音を響かせ、自分の顔を大きなバイザーで覆った彼は、リングに連結した巨大なビーム砲を腕に嵌める。クロガネはそれを軽々と持ち上げると、一夏たち目掛けて撃ち込んできた。

 

 

放たれった光熱のビームは回避行動を取った三人は当たらない。しかし、アリーナの地面を融解させ、熔解させていく程の被害を与えていた。ISによる絶対防御ならばあの光熱が届くことはないが、それでも忘れてはならない。

 

それが機能するのは絶対防御が作用するほどのエネルギーが残っていることが前提。下手にシールドエネルギーを削ってしまえば、あの一撃を防げずに終わる。相手の攻撃をエネルギー変換出来る龍夜以外には、回避以外の選択肢はない。

 

 

「────うおおおっ!」

 

 

左右から放たれる高出力のビーム砲撃の雨を掻い潜っていく一夏。瞬時加速を多用しているとはいえ、あそこまで機敏に動けるようになったのは彼の努力の賜物だろう。一瞬にして上空のクロガネの元へと接近した一夏は────彼の手にあるビーム砲だけを破壊しようと、《雪片弐型》で斬りかかる。

 

 

────だがその直後、ブレードの刃は彼の目の前で金属音を鳴らして停止した。電磁場のような防壁、クロガネと機体を包み込む半透明なシールドが覆われているのだ。

 

 

「コイツも、シールドを持っているのか!?」

 

『────プロテクト・アーマーだ。覚えておけ』

 

 

通信越しに告げたクロガネが、左腕をビーム砲から離し、別のユニットへと嵌め込んだ。持ち上げられた大型のクローアームを展開し、二本の爪を開いて迫る。

 

しかし、その攻撃の寸前、割り込んできた箒が刀によってクローの開閉を止める。受け止められたことにクロガネはいち早く対応を切り替え、ビーム砲を至近距離の箒へと突き立て、放出した。

 

────一瞬、動きに遅れた箒が吹き飛ばされる。距離を縮めてきた龍夜が彼女の肩部ユニットを掴み、後ろへと投げ飛ばしたのだ。そして、直線に迫る光熱のビームを盾によって受け止めた。

 

弾かれた閃光がエネルギーへと変換され、『プラチナ・キャリバー』のエネルギーとして吸収されていく。各々動いてくる三人に、クロガネは腹立たしいと不満を吐き捨てる。

 

 

『────鬱陶しい!まとめて消し飛ばしてやる!』

 

 

ユニットの一つ、ミサイルコンテナが展開する。そこから放たれるマルチミサイルの雨あられ。補足固定(ロックオン)機能まで搭載されているのか、飛び回るミサイルは生きているかの如く動き回っている。

 

全てを撃墜していく三人。彼等がミサイルの弾幕を払い除けた時には、クロガネと機体の姿は消滅していた。

 

 

「アイツは何処に消えた!?」

 

「────どうやら新しい武装を継ぎ合わせたらしい」

 

 

離れた場所で、ソレは再び姿を現した。新たな武装ユニットを搭載した機体に最早クロガネの姿は見えない。二つの翼と二つのフィンプロペラを有したそれは、まるで一種の怪鳥のようだった。

 

 

『…………良い気分だな、「八咫烏(ヤタガラス)」。翼の先まで動かしやすい』

 

 

通信に、クロガネの声が響いてくる。恍惚とした声音には、此方を意識する余裕すら感じられない。ふと、通信を聞いている一夏たちに気付いたクロガネが、殺意と憎悪────それ以上に楽しそうな声で告げた。

 

 

『────気を付けろよ。ここからは加減が出来ない、殺される覚悟はいいか?』

 

 




『八咫烏』

クロガネ・モミジが操る武装兵器。元々は八神博士が遺した地下工場が開発した無人機だったが、彼が扱える用として調整されている。

性能を落とさぬように、生体コネクトによる操縦機能を採用しており、クロガネ・モミジはこれを多用している。

本来は一つの兵器であったが、複数のユニットへと分離及び解体されており、彼はそのユニットを各々接続して戦う。


『生体コネクト』

機械と人を繋げる、悪魔の技術。かつて一夏たちに撃破され、回収された界滅神機から採取された。操縦桿や電気信号を使わず、操縦者の脳波によって操ることが出来る為、普通よりも能力が向上する。

代償も大きく、人体の機能が損なわれる。最悪の場合、部位の欠損などにも至る。

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