IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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龍夜の過去の一辺が、少しだけ明らかになります。


第7話 幼馴染みの転校生

「というわけでっ!織斑くんクラス代表決定おめでとう!」

 

「おめでと~!」

 

 

ぱん、ぱんぱーん! というクラッカーの炸裂する音が立て続けに響く。パーティーに使われるであろうクラッカーの中身は周囲に撒き散らされ、祝われているにも関わらず浮かない顔の一夏へと舞い降りてきた。

 

 

夕食後の食堂。そこで行われていたのはクラス一同による一夏のクラス代表就任のお祝いパーティーだ。一クラス以上の人数が集まっている理由は、他のクラスの女子も混ざっているからだろう。

 

 

主役して盛り上げられてる一方で何処か腑に落ちない一夏の様子を、端から見ていた龍夜は薄々把握していた。彼としても、戦った三人の中で弱い自分が代表に選ばれたのを納得できていないのかもしれない。

 

 

まぁ、それでも興味ない、と龍夜は思っていた。ここで気にして心配する様子すら見せないのは、その行動自体必要がないと判断したからか。

 

 

同級生に紛れて一夏に取材を迫る上級生の姿が、視界に入る。困惑しながら取材に受け答えをする一夏に、憐れみの籠った呟きを漏らす。

 

 

「…………面倒なことになってるな」

 

「?どうかなされましたか?」

 

「いや、何でもない。…………それでだな」

 

 

隣の席に座るセシリアが気になったように此方を見てくるが、大したことでもないと応じる。

 

 

そうしてすぐに、机の上に並べたノートへと向き直る。ノートに書き記された文章を読みながら、龍夜はペンで付け足していく。

 

 

「俺がまず造るべきと思う武装は銃だな。《N.A(ナイト・アーマー)》、《A.B(アクセル・バースト)》、この二つのフォームに必要なのは遠距離攻撃手段。その為の銃の構造を、設計図として見たのがこれだ」

 

「…………これは─────まず、質問ですわ。この銃の大きさや形状からして、少し重すぎではありません?」

 

「単なる重機関銃じゃない、小型マグナムやライフルとしても使いたいからな。部品やパーツを可変式に組み立てておく。様々な種類の銃器を拡張領域に仕舞うのは、無駄の極みだ」

 

 

二人が話しているのは、新しいIS専用の武装の開発についてであった。

 

 

前に、龍夜のIS『プラチナ・キャリバー』は他の武装が存在しないと話しただろう。アレは事実であり、使用できる武器が粒子化させたり出来ないものばかりであるからだ。にも関わらず、武装を仕舞う拡張領域だけは普通に存在している。

 

 

長考の末に、龍夜は自分のISに使う新しい武器を造る事を決意した。他の企業に依頼したり、オーダーメイドを頼むという手もあるが、一個人に企業が尽力するとは思えない。何より、顔も知らない相手にISの情報を渡してまで武器を造って欲しいなんて、龍夜は考えたくもなかった。

 

だからこそ、自分で造った方が良い。………天才としてプライドが刺激されたという子供みたいな理由ではない。断じて。

 

 

その為に設計や思考を働かせていたら、一緒に夕食を取っていたセシリアもそれを知り、協力したいと申し出てくれたのだ。

 

断る理由もないか、と快く受け入れ、二人で互いの知識を出し合いながら設計を始めていたのだ。当初は女子達が興味深そうに見ていたが、ソワソワしながら話すセシリアを見て、満面の笑みを浮かべながら、パーティーへと向かっていった。

 

『完成したら見せて』、とも約束を取りつけられたのは頭が痛い話だが…………今気にすることではないだろう。

 

 

一段落出来たことで、龍夜は深い息を吐き出す。ある程度まとめられたノートを閉じ、セシリアへと声をかける。

 

 

「よし、設計の方はこれで良いだろう。微調整の方は此方でする」

 

「分かりましたわ………それはそうと、お聞きしたいことがあるのですけど」

 

「何だ?」

 

「その………銃の、色は決まってます?」

 

 

唐突の質問にも、龍夜は驚くことはなかった。すぐさま自分の脳内の情報をまとめあげ、的確に答える。

 

 

「………いや、決まってないな。後から決めるものかと考えてたしな」

 

「っ!なら青色にしてみませんか!?わたくしのオススメ、というわけではありませんが…………後々、色を決めるのに時間を使うのも面倒ですし………………どうでしょう!?」

 

 

ヤケに張り切ったように捲し立てるセシリア。透き通る程の青い瞳を輝かせながら返答を待つ彼女に、龍夜は数秒の間、思考を高速で回転させる。

 

 

断るのは簡単だ。

しかし、その理由がない。武装のカラーに時間を掛けるのも面倒だし、そう論ずる彼女の意見を拒否するほどのメリットは存在しない。

 

────断言するが、それだけの理由だ。決して、目の前の少女が断った時にどう思ってしまうのかなど、考えてすらいない。そう、絶対に。

 

 

 

「あぁ、分かった。色は青にさせて貰おう、アドバイス助かる」

 

「────い、いえ!此方こそですわっ!!」

 

 

緊張していた表情を綻ばせ、喜びを一杯に示す淑女 セシリア。落ち着きを忘れそうな程に喜ぶ少女はコッソリと隠れるように、よし!と拳を握っている。

 

 

 

そんな彼女の真後ろで、龍夜が思ったのはただ一つ。

 

 

 

 

(……………分かりやす)

 

 

隠しきれてないセシリアへの呆れ。

彼女本人は自分の想いを誤魔化しているらしいのだが、こんなの端から見れば丸分かりである。そう思うと、全く別の疑問が頭に浮かぶ。

 

 

こんなに分かりやすいのに、織斑一夏は何故気付かないのだろうか。セシリアが自分に好意を向けているのは分かる───それが恋愛的な感情なのかは判定できないが───篠ノ之箒が一夏に向ける想いも同じように、特別な感情、恋心なのは確実だろう。

 

 

だが、悲しいことに一夏はそんな色事に鈍感なのだ。彼女とのやり取りを見た龍夜は全てを察し、同時に呆れ果てた。千冬に叩かれ過ぎて脳細胞が壊死し、色事関連を読み取る機能が失われたのだろう、等と言う失礼なことを考えていると。

 

 

 

「───それじゃあ、次は期待の新入生の中でも超新星の蒼青龍夜君にインタビューをしていきまーす!」

 

「……………どちら様ですか?」

 

 

突然、眼鏡をかけてきた女子生徒がそう切り出してくる。彼女の姿を捉えた瞬間、龍夜の眼から感情という色が消える。冷徹な瞳には、面倒を感じ取った倦怠感が滲み出していた。

 

 

対して、少女────制服の少しの違いからして二年生───は、名刺を差し出しながら名乗りを行う。

 

 

「あ、そうだった。私は二年の黛薫子(まゆずみかおるこ)。新聞部副部長やってまーす。そしてこれが名刺ね」

 

「………なるほど、分かりました。それでは後で確認しますので、あちらからお帰りください」

 

 

受け取った名刺を懐へと仕舞い、冷たい声音のまま出口を促す。冗談などではなく、本気でそうしている態度だ。

 

 

「それは無理ですね、何てったって私がここに来たのは織部君と君の取材をしに来たからねー!さぁ、織斑君は終わったから、コメントをお願いしまーす!」

 

「取材NGです、帰ってください」

 

「うぇーい冷たーい!そんなこと言わずに、少しで良いからさー!」

 

「取材NGだ、帰れ」

 

「余計に口悪くなった!?」

 

 

ヤケに態度の刺々しい龍夜に、彼と交流の多い者達は疑問を覚えた。基本的に初対面の人間と接する龍夜は感情を表に出さない、一夏も最初はそうであった。

 

だが、彼女に対しては服装や持ち物を見た瞬間に、顔色が僅かに変化したのだ。落ち着いたような上塗りの表面には、どこか苛立ちが溢れている。

 

 

だが、薫子も好奇心と新聞部副部長のプライドからか引くに引けないらしく、拒絶を示す龍夜に食い下がっている。

 

冷徹な仮面の下から隠しきれない苛立ちを抑え込み、龍夜はストレスの溜まったような息を吐き出す。諦めた彼はすぐに口を開いた。

 

 

 

「────入学したからには、学園最強を目指すつもりですので。強さに自信のある方はよろしく、と」

 

 

「おぉ!強気の発言だねぇ!これは編集無しでさせて貰うよ!」

 

 

好きにすればいい、と龍夜は目の前で興奮する彼女の前で立ち上がり、食堂から出ていった。途中気付いた一夏も視線を向けてきたが、何かを思うところがあったらしく一言も声をかけることはなかった。

 

 

 

 

校舎から離れた場所へと歩き、息を整えてから─────近くにあった、大型のゴミ箱を蹴り飛ばした。

 

 

 

ガァンッッ!!

 

と、盛大な音を響かせ、ゴミ箱が凹む。蹴り上げた脚に痛みは感じない。だからこそ、内側から沸き上がる苛立ちを抑え込むことが出来ない。

 

コンクリートの壁を手の甲で殴り、無理矢理痛みを引き出す。皮膚に傷はないが、少しは骨に響いてきた。ビリビリと、鈍い痛みを感じさせながら震える手を見下ろし、龍夜は不愉快そうに吐き捨てた。

 

 

「─────クソ」

 

 

感情の整理が出来ない。

痛みで和らいではいたが、それでも落ち着かないムシャクシャした気持ちに従い、髪をかきむしってしまう。

 

 

学園に入学してからは平静を保つ事を重視していたのに、一ヶ月近くでこの有り様だ。過去の事や家族の事で感情的になるのは龍夜自身が認知してる通り、悪い癖だ。今回は何とか抑え込めたが、このような事がまたあるというのは想像したくもない。

 

 

二度と忘れないように、自分を見失わないように、心に刻み込んだ過去が、龍夜の心を沸騰させる。眼窩の奥に染み着いた光景が、憎悪という感情を滾らせる。

 

 

今にも沸き上がる激情を抑えきれず────深く握った拳を叩きつけようとした瞬間、

 

 

 

 

 

 

「────龍夜さんっ」

 

「……ッ、セシリアか」

 

 

真後ろからの声に、すぐには振り返らなかった。代わりに振り下ろそうとした拳をだらりと垂らし、集中させていた力を抜いていく。

 

 

振り返り、心配の眼差しを向けてくれるセシリアを見た。自分に対する不安や疑念といった感情は見られず、どこまでも龍夜を気に掛けた感情が浮かんでいる。

 

 

額に滲んでいた冷や汗を拭い、息を整えた龍夜は、一言口にした。

 

 

「………イヤな所を見せたな」

 

「いえ、そんな事ありませんわ────先輩方と何かあったんですか?」

 

 

セシリアの率直な疑問に、龍夜は首を横に振るう。

 

 

 

「先輩達は嫌いじゃない。取材に良い思い出が無いだけだ」

 

 

より正確には、取材をしてくるマスコミにだ。個人的に、龍夜はマスコミが大嫌いだ。その呟きの後の言葉は、紡がれなかった。

 

 

真実の代弁者。

自分等をそう謳う偽善者────ですらない彼等は、家族を失った自分達に群がってきた。

 

 

両親の死に隠された、真実を、と口にして。

 

 

 

 

それはたった一つの不自然な点から発生した可能性であった。

 

 

両親は新型ISの長距離狙撃実験の余波に巻き込まれたとのこと。有り得ない、と当時の龍夜は思った。両親はその時間帯にその実験施設とはかけ離れた外国の子会社と契約の話し合いをしていた。実際にその時間に会議をすると、龍夜達に伝えてくれていたのだ。

 

 

様々な不審な点から、陰謀説が世間に提示された。それから、心の弱った姉を支えて生活しようとしていた幼い龍夜が見たのは──────自分達に群がってくるカメラとマイクの数々だった。

 

 

 

『───ご両親がISの事故に巻き込まれた件について!お話を聞かせてください!』

 

 

『ご両親はISの兵器としての運用に反対意見を持っていたというのは事実ですか!?』

 

 

『お二人や貴方達の近くに、何か不審な事があったなら教えてください!』

 

 

『これは陰謀かもしれない!君達の家族が殺されたなら!真実を解き明かさなければいけない!君達も!それは理解できるでしょう!?』

 

 

家族の死を受け入れられず、心が弱った姉や自分に、そう宣ってきたマスコミが群がってきた。自分達に欲しかったのは、家族を失った事実を受け止め、落ち着かせてくれる程の時間が欲しかった。なのに、奴等はそんな事など関係ないというように自分達に家族の事を教えるように迫ってきた。

 

 

あまりのショックとトラウマに精神的に追い詰められ泣き叫ぶ姉を抱え、龍夜は家の中へと駆け込んだ。姉を悲しませたにも関わらず、逃げないでください、事実を皆さんに伝えてください、とほざく奴等には憎悪すら覚えた。

 

 

その怒りは、今も消えない。きっとこれからも衰えるとは思えないだろう。自分自身も、ずっと根に持ち続けてやると決意はしている。

 

 

 

────だが、彼等もクズなりは勘が鋭いとは思う。

 

 

何故なら彼等の宣う言葉が本当─────両親は事故ではなく、殺されたのだから。

 

 

 

 

沈黙を貫く龍夜は、チラリとセシリアに目線を向ける。何も言わない彼女に、龍夜の方からきいた。

 

 

 

「────聞かないのか?」

 

「嫌な話なのでしたら、無理に聞きませんわ」

 

「………助かる」

 

 

軽く話をしたからか、さっきまで激情に満ちていた心が今ではそんなものを感じさせない程に落ち着いていた。セシリアに軽い感謝を述べ、寮へと行く道を歩いていく。

 

 

その間龍夜は異変に気付かなかった────ケースの中に格納された聖剣の変化に。

 

 

 

キィィィィン、妖しく光る聖剣の宝玉。聖剣という名に反するような禍々しい光を灯らせていたが、落ち着いていく龍夜の心に連動するように、静かに光を薄くさせていく。

 

 

次第に聖剣の光は、何事もなかったかのように、完全に機能を停止させるのだった。密かに眠りにつくように。

 

 

 

◇◆◇

 

 

あれから翌日。

 

 

「転校生?今の時期にか?」

 

 

朝、教室に入ってきた一夏はクラスメイト達からの話を聞き、そう首を傾けた。

 

 

今はまだ四月だ。転校生が来るにしては早すぎる時期だろう。しかもIS学園は基本的に転入は難しいと聞いていた。国からの推薦がなければ無理という話からするに、

 

 

「なんでも、中国の代表候補生なんだってさ」

 

「へー、中国か。転校生なんて珍しいな、龍夜」

 

「………そうでもない」

 

 

突然話を振られたことに嫌な顔をせず(逆に面倒そうな顔はしてるが)龍夜はスマホを弄りながら答える。

 

 

「ここはIS学園。謂わばISや学校に関してはトップクラスの施設だ。自分達の代表をアピールする為に候補生を転校させるらしい、今回もそれの一貫だろう」

 

「だけどさぁ、珍しいんじゃないか?転校生って」

 

「………男のIS操縦者である俺達の方がよっぽど珍しいだろ」

 

 

ぶっきらぼうに言い切る龍夜に、確かにと納得する一夏。よくよく思えば、自分達の方が極めてレアな存在とも言えるだろう。いや、まぁ、どちらが珍しいかと競うつもりはないが、龍夜からしたら自分達自体が珍しいんだから転校生でいちいち騒ぐな、とでも言いたいんだろう。

 

 

ふと、一夏達の話に聞き耳を軽く立てていた龍夜も、何かを思い出した。色々とやることが多くてすっかり忘れていた。

 

 

「あぁ、そうだ。一夏」

 

「ん、何だよ?」

 

凰鈴音(ファンリンイン)という娘がよろしく、と言ってたぞ」

 

 

それを聞いた瞬間、一夏は驚いたように目を見開く。やはり知っているのか、そう思ったが、彼の顔は何処か不安そうなものに染まっていた。

 

 

「凰………?いや、知ってはいるんだが………本人かどうか分からないしな…………何か特徴とか覚えていないか?」

 

「ツインテール、小柄、絶壁、八重歯、距離感が近い」

 

「………?」

 

 

龍夜が的確に挙げすぎた特徴のせいで返って誰か分からなくなった一夏。本人も反応の鈍い一夏に怪訝そうな顔をしている。まぁだがこれ以上言っても何だから諦めることにした。伝えて欲しいことは伝えたし、大した問題じゃないだろう。

 

 

次第に話は転校生から次のクラス対抗戦についての話になった。この上なく一夏を応援する声ばかりだが、彼女達の目的は優勝の際に貰える学食デザートの半年フリーパスであった。

 

フリーパス、学食デザート。そんな言葉に釣られたのか、意識を完全に遮断していた龍夜が再び周囲に意識を接続する。

 

 

「…………デザート、か」

 

 

その言葉を舌で転がし、喉の奥へと流し込む。正直、デザートが好きかと言われれば答えたくはない。だが、デザートを求める理由はある。感情に従ったものではなく、合理的な理由が。

 

 

デザートの大半に含まれる糖分は脳の働きを良くさせる効果がある。(自称)天才である自分は最近新しい武器の開発のために頭脳を動かしていることが多いので、甘いものを求めることが多い。

 

昨日の夜はアイデアを考えながらケーキを一人で食べていたが、部屋に戻ってきたルームメイトの簪がジッと見つめていたので、半分差し上げた。これは完全に関係ない余談だ。

 

 

ともかく、龍夜としても学食デザートのフリーパスは無視できない。むしろ頭脳を使うことが多いこれからの事を考えれば、貰えるという話には無関心という訳にはいかない。

 

 

「今のところ専用機を持ってるクラス代表って一組と四組だけだから、余裕だよ」

 

他の女子の言葉に合わせて、そういう言葉が聞こえてからすぐに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────その情報、古いよ」

 

 

このクラス内で一回も聞いたことのない声が響き渡った。一夏達が声のした方に視線を向けると、片膝を立て、ドアにもたれかかったツインテールの少女がいた。

 

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

 

「鈴……? お前、鈴か?」

 

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

 

ふっ、と小さな笑みを浮かべる。トレンドマークのツインテールが軽く左右に揺れる。

 

 

 

「何格好付けてるんだ? すげえ似合わないぞ」

 

 

「んなっ!? なんてこと言うのよ、アンタは!」

 

 

開口一番の一夏の発言に、鈴音は普通に憤慨していた。まぁ、良い雰囲気出してたのにそれを突っ込まれれば、言いたいことはあるだろう。それも失礼なことなら、余計にキレたくなる筈だ。

 

 

「おい」

 

 

「なによ!?」

 

 

あ、馬鹿、とその光景を見ていた龍夜と一夏が思う。なんせ鈴音に真後ろから声をかけたのは虎ならぬ鬼なのだから。

 

 

 

バシンッ! と、少女の頭部へ出席簿が振り下ろされる。男二人とクラス全員が顔を反らす。あまりにも痛々しい音だが、何時もより音の張りが小さい。どうやら手加減はされてるらしい。

 

 

「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」

 

「ち、千冬さん……」

 

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」

 

「す、すみません……」

 

 

先程までの元気さは鳴りを潜め、目に見えて怯える鈴。どうやら一夏の話を聞くに、昔から千冬の事が苦手らしい。パワーバランスが格上だからとか。

 

 

「………あらら、言わんこっちゃない」

 

教室のドアから覗き込んだ二組担任 霧山友華もその現状に呆れたような口振りに反して笑みを浮かべていた。どうやらもうすぐSHRだから鈴を連れ戻しに来たようだ。

 

 

「またあとで来るからね! 逃げないでよ、一夏!」

 

「はいはい、帰るよ凰ちゃん。織斑センセの雷がまた落ちるよ」

 

「………お前も落とされたいか?」

 

「勘弁勘弁。それじゃあ一組の皆、バイバーイ」

 

 

一夏に対して色々と叫ぶ鈴を連れて、手を振りながら二組へと戻る友華。彼女達が消えたから数秒後、一夏にどういうことだと箒や他のクラスメイト達が問い詰め、全員千冬にぶっ叩かれるという珍事が発生した。

 

 

 

◇◆◇

 

 

それから数日が経ち。

 

 

「………よし、これでいいか」

 

 

寮の外にある自販機から、二本の飲み物を買う。一つは炭酸飲料で、もう一つはカフェラテだ。無論一人で飲む訳ではなく、同居人の簪の為の分だ。………弁明のために話すが、パシられている訳ではない。

 

 

同室で過ごし、数週間。最初は互いに不干渉(必要な会話をするだけ)であったが、最近は彼女とも話をする事が増えてきた。そのお陰で、彼女の人柄も大体は分かった。

 

 

ただ最近は夜遅くまでパソコンで何らかの作業をしているのがよく見られる。龍夜としても本人の意思だから止めるつもりはないが、少しぐらい休憩をさせた方がいいと思っている。その為に、暖かいカフェラテを差し入れとして渡そうと思っていたのだ。

 

 

廊下を歩く最中も、考えを続ける。

 

 

「…………アレ、確かISだったな」

 

 

簪の作業の合間、視界の端に入ってきたのはISのプログラムの羅列であった。所々が未完成で、直したところが多い。基礎的なものからして、彼女は一人でアレを───ISのプログラムを造ってることになる。

 

 

(簪も代表候補生だったな。確か、倉持技研が開発に携わっていた気がするが─────)

 

 

一人で考えていると、思い出した事実があった。倉持技研、そこは確か一夏のIS『白式』を開発した会社だった気がする。結局は途中で束が完成させたらしいが…………。

 

 

スマホで倉持技研について検索をしてみる。詳しく調べてみると、倉持技研の公式情報にその主な理由が載っていた。

 

 

 

『倉持技研責任者 倉持徹氏は織斑一夏の専用機「白式」の解析・武装開発を開始すると決定。それに伴い、代表候補生 更識簪と共同開発を行っていた「打鉄弐式」の進行計画を無期限凍結を宣言。再開の目処は不明────』

 

 

(なるほど………簪を切り捨てた訳か)

 

 

要するに、世界的に注目されている一夏のISに人力を注ぐために、簪との約束を反故にしたのだろう。代表候補生一人よりも、男性IS操縦者の価値を優先させた────面白くない話だ。

 

 

(倉持………そう言えばアイツらとは商売をしたな。俺の造ったアレ、どうなってんだろうな)

 

 

かつて自分が造り、未完成として売りさばいたアレ。今現在、どのような扱いになっているのか気になっている所はある。………まぁ、それほど期待はしてないが。

 

 

 

 

そんな事を軽く考えながら廊下を歩いていく龍夜。しかしそんな彼だが、少しだけ意識が周りに向いてなかった。

 

 

廊下の角から飛び出してきた人影に、対応すらできなかったのだから。

 

 

「………ッ!?」

 

 

それに気付いたのは、目の前まで来た時だった。慌てて足を止めるが、動きまでは止められない。相手も自分に気付いたが、やはり遅かったらしい。

 

 

二人がぶつかり、後ろへと倒れ込む。胴体に直撃を受けた龍夜のダメージは予想よりも大きい。しかし苦しむ程のものではない。幸いなことに、相手も自分も顔を打ち付けることはなかった。

 

 

それよりも、心配なのは相手の状態であった。

 

 

「…………鈴?」

 

「────ッ」

 

 

凰鈴音、龍夜とぶつかったのは彼女であった。

正直の話、彼女とはそこまでの交流があるという訳ではない。食堂で少し話をしたくらいだ。距離感の近い彼女を見て分かったのは、一夏の幼馴染み(なんかファーストは箒、セカンドは暁なる人物なので彼女がサードらしい)であることと、一夏に恋をしていることぐらいだろう。

 

 

だが、今の彼女の様子が変なことはすぐに分かった。

 

 

無邪気な笑顔が似合うような顔には複雑な感情が渦巻き、眼は潤んでいる。その顔は今にも泣き出しそうなのを抑え込んだいるのがよく分かる。龍夜には具体的には分からないが、彼女にとって大事ではない何かがあったのだろう。

 

 

 

────おそらく、一夏が原因だろう。

あの馬鹿ならば、余計なことを口にして逆鱗に触れたなんてことは有り得る。だが、見た限り気の強い彼女がここまで取り乱すなんて、一体何があったのか。

 

 

倒れていた鈴は顔を振り上げ、唖然とする。

涙の滲んだ瞳が相手の存在を認知しても、思考がうまく回らなかったのだろう。

 

 

だが、ハッとした彼女が慌てて立ち上がる。自分の顔を伏せ、この場から立ち去ろうと持っていたボストンバッグを掴み、駆け出そうとする──────彼女の空いた手を掴んだ。

 

 

「待て」

 

「な、何よ!離してっ!」

 

 

強気な声をあげて、手を振り払おうとする鈴。何時もの声とは違い、不安定な感情が込み上げているのが分かる。龍夜にすら顔を見られたくないのか、別の方に顔を向けている。

 

 

なら、単刀直入に言うか。

そう思った龍夜は勢いに任せて離れようとする鈴へ、小さな声で告げた。

 

 

「────屋上、この時間なら人はいない。居たとしても、長居する奴は滅多にいない」

 

「…………」

 

「何があったかは聞かないでおく。誰かに見られる前に行くなら、少し奥の階段の方が早い」

 

 

それだけ言い手を離すと、黙って彼女は廊下の奥へと走っていった。助言通り、この近くにある階段の、奥の階段を使っていくのを目視してから、龍夜は溜め息を吐く。

 

 

 

 

そして────ぶつかった事で地面に転がった飲み物を、自分が飲むつもりだった炭酸飲料を手に取り、さっきよりも深い溜め息を吐き出した。




龍夜「今まで感情をさらけ出す事はなかったのに…………」

感情が、ねぇ?(苦笑い)


龍夜さんの過去、取材(マスコミ)が嫌いな理由。家族の死を陰謀論のネタにしたいマスコミ達の粘着。精神的に疲弊していたお姉さんを集団で囲み、心の傷を抉って泣かせました。なので龍夜さんも普通に毛嫌いしてます。

次回もよろしくお願いします!それでは!
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