IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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第79話 アルスターの進攻

「────あのISは」

 

 

レイヴン・レギオン(R.R.)』本部にて、状況を観測していた一同の空気に緊張が走る。襲撃者 ミナトの援軍として現れた三人の少女、彼女達が身に纏うISの存在。それの正体にいち早く気付いたのは、千冬だった。

 

 

「………知っているんですか?千冬さん」

 

「────『ランスロット』、『メガロ・ダイバー』、『メガロ・バッシャー』。国連の一部機関が開発し、頓挫したはずのIS計画の機体だ」

 

 

ISの新型開発計画。そのメインプランとして組み込まれていた代表格の三体。空中戦を想定しているはずのIS、その本来の使い方を見直し、水上及び水中戦に対応させた機体。

 

水中移動用の可変機構を有する砲撃特化タイプ 『メガロ・ダイバー』、水中移動用の可変機構を有する近接特化タイプ『メガロ・バッシャー』、水中というステージを利用した複雑な戦闘を実行できる『メガロ・シリーズ』の最新鋭の機体。

 

そして、二体がサポートする想定で開発された水上戦闘に順応し、遠近に対応したバランス型の機体 『ランスロット』。

 

 

その三体だけが、唯一計画上で実戦仕様にまで至った機体であり、頓挫したことで封印処置に施されたISであった。

 

 

「計画が頓挫した後、保管されていた三つの機体は強奪された。奴等がそれを奪ったと考えるのが普通だが…………」

 

「? 何や、織斑さん。気になることでもあるん?」

 

「────考えてみろ。奴等は傭兵として活動している連中だ。強奪なんて、悪評の出ることなどを進んでするか?」

 

 

傭兵稼業は信用を大事にする。それと同時に、相手をキチンと選ぶこともする。敵対してはならない勢力を相手にして、一夜で破滅する一団もあるからこそ、安易に敵を作ることには気を付けなければならない。

 

 

「じゃあ、あのISを強奪したのは他の組織で、彼等はISを受け取っただけ、という可能性もあると?」

 

「………そうだな。そう考えると、安易に動くワケにはいかん」

 

 

何より、ミナトは依頼と口にした。『レイヴン・レギオン』を含む子供達を『隔絶区域(コードレス・エリア)』から追い払う────或いは殺せ、と誰かから雇われたのだろう。

 

恐らくは、クインス・コーポレーションからと考えるのが普通だ。その企業が『隔絶区域(コードレス・エリア)』に何度も襲撃を仕掛けていたことからしても、思い至るのも当然だろう。

 

(────或いは、奴等がわざと奪わせた。という可能性も無くはないか)

 

 

国連という組織にいる敵が、戦力として引き渡した可能性も無くはない。彼等が傭兵団アルスターの裏から援護しているのであるとすれば、不用意に動くことは全面戦争になることを意味する。

 

ただ見守ることしか出来ない。その状況に千冬は歯噛みするしかなかった。同じように、それ以上に悔しそうな友華の様子に気付かず。

 

 

◇◆◇

 

 

「────絶技!ニライカナイ!」

 

 

トライデントを回しながら告げると、ミナトの足元から大量の水が噴き出す。噴水、なんてものではない。大津波のように荒れ狂う水流が辺り一帯を制圧していく。

 

その波が、一夏達へと迫り来る。

 

 

「っ!不味い!皆、逃げ────」

 

 

叫ぶのも間に合わず、全員が津波に呑まれる。咄嗟に離脱しようとするが、まるで全身を締め上げるように拘束されてしまい、波によって各々が引き離されてしまう。

 

 

「───一夏!無事だな!?」

 

「あ、あ………何とか。ISがなきゃ、溺れてた」

 

 

波から飛び出した一夏と龍夜が一息漏らす。安堵しようとした所で、波の中から一回り大きな蜥蜴────『サラマンダー』を纏った士が、鈴音を連れて現れた。

 

 

『ガハッ!ゴホッ!………クソ、サラマンダーの身体が濡れちまった。これじゃあ焔も熱も安易に出せねェ』

 

「士………!? 鈴音も一緒に!?」

 

「コイツが近くにいたから捕まってきたのよ。お陰で波に流されずに済んだけど─────何なのよ、ここ」

 

 

鈴音に言われ、周りを見ると────そこは巨大な水のドームのような場所だった。さっき生み出した津波の際に造り出したのだろうか。ハイパーセンサーには箒達の反応は離れた場所にある。恐らく、このドームは他にも二つ存在しているらしい。

 

 

水のドームを破ろうかと考えていると、真後ろの方から声が響いてきた。

 

 

「────四人か。オレの相手にゃあ丁度いいかもな」

 

 

水のドームの中央に立つ人影、ミナトが胡座をかいて此方を見据えていた。トライデントを両肩に乗せて快活に笑う青年に、四人が一気に身構える。

 

 

「ミナト!」

 

「ようこそ、オレ達の戦場へ。余計な邪魔立てをさせないように、ちゃんと分けておいてやったぜ」

 

 

◇◆◇

 

 

「───っ、ここは?」

 

「どうやら、あの津波で流されてしまったみたいですね」

 

 

水で覆われたドームの中に居ることに気付いた箒とゼヴォド。仲間達の反応はすぐ近くにある。恐らく、他の水のドームに閉じ込められたのだろう。

 

 

「────ニライカナイの波は意思を持つ大波。相手を倒すためではなく、分断させることに特化した技」

 

 

天井や壁、足元すら水で覆われたドームの水面に、一人の少女が立っていた。透明な装甲に身を纏う、女騎士のような姿のIS。それを扱う少女 シルフィが水面の上で歩き出していた。

 

 

「分断したのは、貴方達を各個で相手するため。ミナト様の邪魔となる敵性因子を排除する為に、複数のエリアに貴方達を移動させたのです。ミナト様は」

 

「………お前は、ミナトの仲間か?」

 

「仲間、ええ。その通り。私達はミナト様の同志であり、忠誠を尽くすナイト。傭兵団 アルスターの邪魔となる障害を打ち滅ぼす、高潔なる騎士」

 

 

両手に備えたシールドとブレードを振るい、シルフィは自身の顔を隠しフルフェイスバイザーを展開した。水面に踏み出しながら、少女騎士が口を開く。

 

 

「相手をしましょう。この私、シルフィ・ローレライと『ランスロット』が」

 

 

有無を言わさず、火蓋だけが切られた。水面を引き裂き、突撃してきた透明な機影を、箒が迎え撃つ。二刀を重ねた防御でランスロットのブレードを受け止め、正面から力を乗せて弾き返す。

 

押し退けられたシルフィに追撃の刃を放つ箒だが、彼女が前に出したシールドによって防ぐと同時に表面で滑らせて、そのまま軌道を大きくずらす。

 

 

「なっ!?………くッ!」

 

 

バランスを崩した箒に一撃を浴びせようと刃を振るうシルフィ。しかし彼女の手首を、突然伸びてきたワイヤーが縛り、攻撃の手を止める。

 

 

「タイマンならば手出しはしませんが、今の私達は協力関係ですので。そう簡単にやらせはしませんよ」

 

 

箒が離れたその瞬間、ゼヴォドは胸元のカバープレートが左右に開く。内蔵されていたスピーカーが凄まじい高音を増幅し、収束し、一気に解放する。

 

収束された音波の砲撃。不可視の塊による攻撃を、シルフィは盾によって防ぐ。表面に降れる直前に────音の砲弾は一瞬にして弾かれ、消滅した。

 

 

「ッ………今のは?」

 

 

その一瞬の変化に疑問を浮かべたゼヴォドに、ワイヤーを引きちぎったシルフィが斬りかかる。何とか水面を滑りながら回避するゼヴォド。追撃を繰り出そうとする彼女の斬撃を、割り込んできた箒の一閃が受け止めた。

 

シルフィの刀剣を打ち返そうと力を込める箒は、そこで刀剣に生じた違和感に思考を取られる。

 

 

(剣に………触れられないだと?)

 

 

シルフィの扱う長剣。それを二刀で止めたと思っていたが、箒の二刀もシルフィの長剣も直接触れることなく制止している。押し込もうにも、得物の合間に出来た空間が縮まることはない。それどころか、強い力の反発により二つの刀が押し返されそうであった。

 

 

「────ふんッ!」

 

「なっ、しま────」

 

 

謎の力と、シルフィの力が重なり、箒を吹き飛ばす一撃となる。勢いよくバランスを崩し、後退した箒にシルフィの鋭い蹴りが炸裂する。横転した箒の上に飛び上がったシルフィが長剣を振り上げ、勢いよく叩き下ろす。

 

 

────ザンッ!!! と、足元の水すらも切り裂いたその一撃は箒と『紅椿』を削る────ことはなかった。

 

 

「…………」

 

静かに見下ろすシルフィの斬撃は大きくずれていた。箒を狙ったはずの一撃は彼女に命中することなく、彼女のいない虚空と水面だけを穿っている。

 

顔を動かすと、少し離れた場所でゼヴォドが箒を支えながら立っていた。彼の能力、そして自分に起きている違和感から逆算し、シルフィはその攻撃の正体を理解した。

 

 

「音、ですか。思考や意識に作用する特殊な音で、私に一種の幻覚を見せた、と」

 

「…………たったそれだけで気付けるようなものではないと思っていたのですが、私もまだまだ未熟みたいですね」

 

 

困ったように肩を竦めるゼヴォド。たった数秒の仕掛けで、自分の能力を看破されると、少しやりづらい。自分の能力に対策されてしまえば、簡単に完封されてしまう。ゼヴォドはそう思う程に自分の実力を低く、正確に把握していた。

 

そんな最中、肩を並べた二人は小さな声で語り合う。

 

 

「気付いたか、ゼヴォド」

 

「………彼女のIS、ですか?」

 

「シルフィ、奴の武装は何か可笑しい。盾に攻撃しても受け止められるどころか殆どが逸らされる。剣は不可視の何かを纏っているのか触れることは出来ない。先程の攻撃を見た限り、あの何かを含めた攻撃範囲になっているはずだ」

 

「能力も不明、武装の正体も不明───不利なのは此方ですね。下手に動けばやられるかもしれませんよ」

 

 

シルフィと彼女の機体 『ランスロット』。その能力も強さも計り知れない。分かるのはただ一つ、油断すれば一瞬で敗北するという事実のみ。

 

しかし、不利に近い戦況の中、二人の顔に諦めというものは見られなかった。

 

 

「…………箒さん。貴方は好きに動いてください」

 

「ゼヴォド? 何をするつもりだ?」

 

「────これより私は、貴方の援護と彼女への攻撃に力を注ぎます。我がセイレーン、屈指の大技───『音界奏歌精唱』を」

 

 

バイオリンを弾く弓らしき剣を水面に立て、ゼヴォドが背中の翼を展開し、無数の弦となるワイヤーを周囲一帯に殺到させる。

 

水面を伝い、水のドーム全体に張り巡らされたワイヤーの結界。それが完全に構成される直前、ゼヴォドは箒に告げた。

 

 

「この結界の起点は貴方。貴方をベースとした領域全体に私の演奏に合わせた攻撃を放ちます。………無論、貴方をベースにすると言えど、一つのミスをカバー出来る訳ではない。意味はお分かりですね?」

 

 

静かな言葉に含まれた意味、それは彼女への忠告ともなる暗号だった。ゼヴォドの操る結界、その中での攻撃のパターンを見極めて、利用しろと言うのだ。

 

簡単な話ではない。要約すれば、初見で楽譜なしの演奏を実現しろというものに近い。普通ならば不可能だが、そこで素直に従うほど、彼女は弱気ではなかった。

 

 

「────言われずとも。そちらこそ、演奏を間違えないようにな」

 

「………フッ、誰に言っているんですか」

 

 

◇◆◇

 

 

「────セシリア!シャルロット!」

 

 

他の水のドーム内で生じた爆発。漂う爆煙から離脱したラウラがドーム内へと送られた仲間の名を叫ぶ。少し離れた方で、二人は爆発から逃げていたらしい。それに気付き安堵したラウラだったが、突如可愛らしい声だけが響き渡る。

 

 

「おいおい! アタシをシカトかよ、先輩!」

 

 

直後、爆煙を突き破ってトゲで覆われた鉄球が勢いよく飛んでくる。直進して飛来したその武器にいち早く反応したラウラは身体をずらし、ギリギリで鉄球の回避に成功した。

 

その直後、鉄球の付いたアーム────否、尻尾のユニットを戻した赤紫の機体 『メガロ・バッシャー』を駆る少女 ニカが迫る。

 

好戦的な声と共に突撃する彼女は猛牛のように全身を任せた突進を繰り出す。ただの突進と違うのは、彼女が背中や駆動部に搭載したスラスターを解放した瞬間的な加速を発動していること。それと同時に赤紫色の機体を覆うように展開された、無数の刃とトゲという凶器に包まれた姿であること、だろう。

 

触れただけであらゆるものを切り裂き、破壊することに最適化した超近接特化型のIS。その恐ろしさに気付いているからこそ、ラウラは彼女の動きを止める最適の手段に応じる。

 

 

「────っ!身体が────アンタの能力だな!」

 

「その通り、とだけ言っておこう」

 

 

手を向けただけで静止した『メガロ・バッシャー』。その機体を纏う少女がギラギラとした眼を向ける中、ラウラは冷静に答えながら、大口径リボルバーカノンの照準を彼女へと向ける。正面から確実に、一撃を叩き込もうとした瞬間、彼女の前に見知った機影が飛び込んできた。

 

 

「ッ!シャルロット!?何を────」

 

 

ラウラが言う前に、物理シールドを展開したシャルロットが何らかの砲撃を防ぐ。それは、未だ消えなかった爆発の煙の中にいた青紫の機体 『メガロ・ダイバー』の主砲による攻撃であった。

 

 

「………砲撃、失敗。迎撃、開始」

 

 

無機質に語る少女 ネナが上半身を覆うように可変していた装甲ユニットを背中に移動させる。顔を隠すフェイスバイザーを押し上げ、彼女は水面の直上を飛翔する。

 

クローアームを開き、右アームに内蔵された機関砲を乱射する。周囲にばらまかれた弾丸の雨は、身動きを取れないラウラにAICの停止結界を中断させるには充分だった。

 

 

「クッ!しまった!AICが───」

 

「隙を見せたな先輩お二方! アタシのバッシャーにブッ壊れなァ!」

 

 

AICが解除されたその瞬間を待っていたと言わんばかりに、『メガロ・バッシャー』が全身の刃とトゲを展開し、突貫する。ハリネズミのようなトゲの両腕を伸ばし、シャルロットとラウラの二人の顔を掴み、切り裂こうと迫る。

 

だが、何かに気付いたニカは弾けるように飛び退いた。そんな彼女に、数発の閃光が炸裂した。回避行動に移ったことが幸いだったか、装甲を掠る程度の傷であったが。

 

 

「避けれられないように狙いましたが…………やり手みたいですわね」

 

 

回避を見越して狙撃したセシリアは自分の実力不足を悔やむと同時に、相手の少女の実力を純粋に称賛する。あの一瞬でセシリアの狙いを全て把握し、実際に避けきったあの少女のセンスは普通ではない。代表候補生クラスと言っても遜色ないかもしれない。

 

 

「───回避、失敗。感覚、鈍化」

 

「へッ!ただ掠っただけだゼ!むしろまだまだ肩慣らしだっての!」

 

「………目的、時間。本気、撃退」

 

「ん、ああ、もうそんな時間か。まぁ依頼だししゃあないか」

 

 

機械的に話すネナに、ニカが嘆息する。セシリア達よりも年下、中学生近くの少女達が向き直り、力を抜きながら語り始めた。

 

 

「────なぁ、アンタら。アタシ達のISって、どういうものか知ってるっけ」

 

「…………」

 

「アタシのIS『メガロ・バッシャー』、ネナのIS『メガロ・ダイバー』。この二機は水中で戦闘出来るように開発したんだって。…………確か、ユグドラシルの攻略に使うためだっけか。ま、そんな話は置いといて。アタシが、何言いたいか分かる? 先輩達は」

 

ニヤニヤと話すニカの言葉に、一瞬だけ思案するセシリア達。誰よりも先に気付いたラウラが表情に示す。彼女が口にしようとした時にセシリアもシャルロットも理解したが、もう遅い。

 

 

「ッ!?まさか───!」

 

「ハッ!気付いたか!そのまさか、だゼ!!────『メガロ・バッシャー』 潜速形態!」

 

「…………当機、可変、変形」

 

 

二つのISが、目の前で変形した。少女の身体を可変したISの装甲が包み込む。青紫の機体はエイとカニを融合したような姿へと、赤紫の機体は全身に刃を搭載したサメのような姿へと、変形を終える。

 

空中で変化した二機は、足元の水のフィールドへと飛び込んだ。即座にレールカノンの一撃を放とうとしたラウラの前で、二つの機影が水のドームの壁や天井を凄まじい速度で推進していく。

 

 

(馬鹿な!?速すぎる!ハイパーセンサーで捉えられるが、動きの方が間に合わん!)

 

 

認識できても、AICや攻撃の照準で捉えられない。水のドームを潜行する二機の速度は通常のIS以上の速度を保有しており、水中という限定された場でのみ発揮される『メガロ・シリーズ』の真価であった。

 

それ故に、トライデントとの相性は凄まじい。周囲を海に変える程の水を操れる『神装』の力があるからこそ、彼女達は誰にも負けない強さを発揮してこれた。そして今も、その強さは無類のものとして、セシリアとシャルロット、ラウラを圧倒していた。

 

 

「うッ!?」

 

「シャルロットさん!!」

 

 

水のドームを駆け巡る機影の一つ、『メガロ・ダイバー』が死角からの砲撃を行う。咄嗟に物理シールドを構えたシャルロットだったが、主砲から放たれたのは実弾ではなくレーザー。

 

弾を切り替えていたことに気付いた時には間に合わない。盾を上空に投げ捨てたシャルロットに、シールドを溶かしたレーザーの残滓が接触する。肩部の装甲を貫通する熱を浴びた仲間に、セシリアはいち早く迎撃に躍り出る。仲間の身を案じるからこそ、瞬間的に。

 

 

「お行きなさい! ブルー・ティアーズ!」

 

 

己の機体と同一の武装、六機の────厳密には四機のビットがセシリアの周りを飛翔する。彼女の意思を感じ取るように動き回り、砲撃を行った『メガロ・ダイバー』を一斉掃射する。

 

 

「───────」

 

 

だが、そのビームの雨を『メガロ・ダイバー』は信じられない速度で回避し、潜行していく。イルカやサメのような水中の移動速度に唖然としたセシリアだったが、すぐさま冷静に思考を働かせる。彼女の頭の中には、既に『メガロ・ダイバー』を撃破する作戦が浮かんでいた。

 

 

(確かに、動きは素早い。ですが、狙い撃ちは出来るはず。回避不可能な状態へ、彼女が避け得るパターンを『ブルー・ティアーズ』で、速度から逆算した地点を私が狙撃すれば……………)

 

 

実際、セシリアはハイパーセンサーにより観測した速度から彼女の移動先を逆算し、そちらにライフルを構える。同時に『ブルー・ティアーズ』を操り、彼女が逃げられないように追い立てる。

 

端から見れば完璧であった。しかし、焦りと正確性を求めたあまり、セシリアの思考から一つの存在が消えかけていた。敵は一人ではない。もう一人いた敵IS操縦者が、姿を消したことに気付いた─────直後。

 

 

ザバァッ!! と、足元の水面から伸びたアームがセシリアを水中に引きずり込もうとする。咄嗟に、反射的にアームを狙撃したセシリアは、自分が選択を間違えたことを改めて理解した。

 

 

「─────アハッ!」

 

 

してやったりと、溶けて壊れたアームを分離させた機影が水面から飛び上がる。ヒト型ではなく、変形機構を扱った水中移動形態。上下に開いた装甲の内側には無数の刃やトゲを展開するその様は、獲物に食らいつくサメのようなものであり、人間一人を口に含めるほど大きなものだった。

 

セシリアに牙を剥いた『メガロ・バッシャー』の奇襲。その顎が『ブルー・ティアーズ』を噛み砕く────ことにはならなかった。

 

 

「ら、ラウラさんっ!」

 

「…………ッ!」

 

 

噛みつかんとした『メガロ・バッシャー』の顎の前に、瞬時加速で割り込んだラウラ。一瞬の合間に上下の牙に手を掛け、全身の力を込めて顎が閉じぬように押し上げる。

 

無理矢理開かれた『メガロ・バッシャー』咥内に、リボルバーカノンを直接押し当てる。そのままゼロ距離からの砲撃で、機体をぶち抜こうとした。

 

 

だが、そんなラウラの背後に衝撃が走る。それは離れた場所でシャルロットと交戦していたはずの『メガロ・ダイバー』の放ったミサイル。目の前の相手を無視し、弾幕を突破して放たれた小型ミサイルは体勢を立て直そうとしたセシリアではなく、『メガロ・バッシャー』を止めていたラウラだけをロックオンしていたのだ。

 

 

「馬鹿、な!私だけを、最初から!?」

 

(ッ!マズ────)

 

 

慌てて意識を目の前に戻したラウラの前で、『メガロ・バッシャー』はリボルバーカノンに牙を突き立てた。口の中でガリガリと、純粋な破壊を伴う力で押し潰す。

 

サメのような形態の『メガロ・バッシャー』が内蔵していたはずの腕を伸ばす。トゲやエッジだらけの両腕は、そのままラウラを掴み、餌にしようとする。だが、セシリアが狙撃しようとする動きに気付き、空中で横回転しながら水中へと潜行した。

 

 

「ラウラさん!お怪我は!?」

 

「大丈夫だ………だが、最悪だ。カノンを喰われた。私としたことが、しくじったな」

 

 

水中を泳ぐ二つの機影。その一つが口に含んでいた黒い鉄の砲身を躊躇なく噛み砕いた。本国への報告について少し頭に過らせたラウラだったが、今気にすることではないと考えを後にする。

 

姿を捉えられない速度で潜行する『メガロ・ダイバー』と『メガロ・バッシャー』。それに対応するべく、セシリアとシャルロットとラウラは、自分達の背中を預けるように一点に移動する。せめても抵抗、或いは連携を見て、『メガロ・バッシャー』を操るニカが面白そうに笑った。

 

 

「───へぇ、土壇場での連携か。ンなもんで、アタシ達のコンビネーションに勝てるとでも思ってんのか?」

 

「…………」

 

「良いぜ!付き合ってやるよ、先輩サマ方!でもすぐに分かるだろうゼ! アタシ達のコンビネーションには、相手にすらならねぇってことに!!」

 

 

自信に満ちた声。負けを疑わぬ余裕。それが子供特有の力に驕った慢心ではなく、実力を伴った培われたものだということに間違いはない。

 

それは無機質で淡々とした少女 ネナも同一であった。二人の少女達は純粋な勝負ではなく、本気の戦いに勝つ気でしかないのだ。

 

 

「………先手、必勝。一方、蹂躙」

 

「その通ォーり!無敵かつ究極のォ、アタシ達の連携は絶対だ!この領域内で、アンタらという獲物を狩り尽くしてやるゼェ!!」

 

 

◇◆◇

 

 

「────ハハッ、良いね。流石はオレの大切な家族だ。代表候補生相手にも上手くやれてるようで何よりだ」

 

 

二つのドームで起きてる戦闘の様子に、ミナトは仲間である少女達の優勢を疑ってはいなかった。自分が最も信用する懐刀であり、『傭兵団アルスター』の最高戦力達。直に彼女たちが勝利してくるだろうと、余裕を隠さない。

 

そんな彼の背後で、一夏や龍夜達は水面に伏していた。いや、完全には倒れてない。だが、辛うじて立ち上がれていると見える程に、彼等の負ったダメージは想像以上のものだったのだ。

 

 

「まだ、俺達は立てるぜ………ッ!余所見してんじゃ、ねぇよっ!」

 

「余所見、そうか? もう既にお前ら終わりみたいなもんだろ? オレの絶技を何発受けたと思ってるんだ」

 

 

余裕そうに顎を擦るミナトの言葉に、一夏も悔しそうに口を噛むことしか出来ない。その通りだ。ミナトは本気で相手すると言わんばかりに、大技を連発してきた。大量の水を叩きつけたり、複数の大渦で引き寄せ、水を帯びた槍で叩ききったりと。

 

先程までの善戦が嘘のように、ミナトは一夏達を追い込んでいた。

 

 

(まだ、瞬時加速は出来る。ギリギリ零落白夜を打ち込めば、勝てるかもしれねぇ────だけど)

 

 

未だ諦めない一夏だが、ふと隣を見る。『プラチナ・キャリバー』の鎧に包まれた龍夜、呼吸を押し殺す彼の様子に全てを理解できていた。

 

(────ダメだ。龍夜は、さっきから俺達を助けるために絶技を何発も受けてる。絶対防御はあっても、ダメージは貫通してるかもしれない。下手したら、次の攻撃でやられる)

 

 

一夏や鈴音、士が辛うじて立ち上がれるのは、龍夜のサポートがあってこそだ。彼に庇われたり、押し飛ばされたりしたことで、一夏達は何とか戦えるまで余力を残している。

 

だが、龍夜は限界をひたすらに隠している。勝機となる一夏達を最後まで残そうと考えているのだろう、龍夜本人もそう考えていた。─────ただ一つ、彼の本心は違うのだが。

 

 

緊張した空気が、周囲に漂う。

時間は掛けられない。何とか短期決戦でミナトを撃破しなければならない。これ以上龍夜に無理をさせず、全員でヤツ一人を突破する手段を考えなければならない。

 

何とか勝機を見出だそうとする四人。そんな彼等の覚悟を揺るがす一言が、ミナトの口から響く。

 

 

 

 

「─────止めだ」

 

 

平然と、肩を竦めるミナト。何てことない、心底つまらなさそうに答えた彼はトライデントを肩に担ぎながら、言葉を続ける。

 

 

「これ以上、無意味な小競り合いをする気はないんでな。オレ達も仕事なんだ。遊ぶのは止めて、そろそろ真面目にやらせてもらうぜ」

 

「今まで、遊んでたって言いたいのかッ!?」

 

「遊ぶぅ? 違うぜ、こっちも真剣にやったんだぜ?…………ま、この手段はオレの主義じゃねぇんだが、主義ばかりで依頼を果たせなきゃ意味がねぇ。オレ達なりに、アンタらに配慮したやり方で追い出させてもらうぜ」

 

 

依頼、つまりは『隔絶区域(コードレス・エリア)』で生きる子供達を追い出せと言うことだったはず。その為に行うやり方とは何なのか。

 

それは無線機を取り出したミナトの言葉が物語っていた。

 

 

「─────母艦 アトランティス・アビスに告ぐ。予定時間により、A地点からD地点への砲撃を開始せよ。砲撃の間隔は五分ごと。以上」

 

 

淡々とした命令と共に、市販の無線機を踏み潰す。青ざめた一夏の前で、彼は両手を広げながら笑みを向ける。

 

 

「さ、これで連中は逃げるしかなくなった訳だ。A地点から順番に、最終的には連中の拠点を砲撃する────連中に連絡したらどうだ? 早く逃げないと砲撃に巻き込まれて死ぬって」

 

「正気かよ、テメェ!! あそこの人達は何も悪いことしてねぇんだぞ! それに、まだ小さい子供だっているんだぞ!!」

 

「だから逃げる機会を与えてるんだぜ、オレは。………少なくとも、ここの連中を皆殺しにしようとした『クインス』の奴等よりは、ちょっとだけ温情だと思うがな」

 

 

怒りに吼える一夏の言葉すら、届いていない。いや、理解しても尚無視するのだろう。彼だって、生きるために戦っているのだから。

 

更に怒鳴ろうとする一夏だったが、ふと後ろから震えた声を聞いた。凄まじい熱と怒りを溜め込んだ、呪詛のような声を。

 

 

「………ざけんな」

 

「……士?」

 

「ここは、俺達の………世界から追い立てられた、俺達の家なんだぞ。皆で苦労して生きてきて、必死に過ごしてきた─────ナツが、護った場所なんだ。そこを棄てて生きるのが、温情だと?

 

 

 

 

─────何処までテメェらは!俺達から奪えば気が済むんだよォオオオオオオオオッ!!!」

 

 

絶叫し、士が走り出す。幻想武装 『サラマンダー』を展開した士の身体が、鋼鉄の大蜥蜴へと変化する。全身から熱を、蒸気を噴き出し、加賀宮士は自分達の居場所を、『隔絶区域(コードレス・エリア)』を奪おうとする者に突貫していく。

 

止めろ、と誰かが叫ぶ。その声は士には届かない。憤怒という激情、灼熱の炎に支配された彼の脳には、あらゆる理不尽を強いる全てを焼き尽くすことしか、頭にないのだ。

 

 

「─────『焔熱の剣(ヒラルガ)』ァァアアアアアアアアッッ!!!」

 

 

片腕から噴射した灼熱の火柱を、ミナトに振り下ろす。鋼鉄を切る所か、溶解させる程の灼熱の刃。人ならば火傷どころか溶けて消え去る一撃は──────トライデントによって容易く消し飛ばされた。

 

 

「…………気持ちは分かるぜ。理不尽だと思うよな、許せないだろうさ。だが、悪いな」

 

「───ッ!」

 

「この世は全て弱肉強食。恨むなら、こんな世界にした奴等を恨みな─────絶技『ウェイブ・スプラッシュ』」

 

 

激流の渦を纏った長槍による斬撃、それは意図も容易く数倍の体躯を有する『サラマンダー』の装甲を切り裂き、幻想武装を崩壊させた。

 

 

「が、ばッ─────ぐ、ググ………ゥ」

 

 

幻想武装を破壊され、吹き飛ばされた士が悶え苦しむ。薬品に頼ってまで幻想武装を扱っていた彼に、受けたダメージ以上の激痛がフィードバックしているのだ。幻想武装の力を引き出すための副作用により、今彼は全身を引き裂かれるような痛みに襲われている。

 

 

「士っ! おい! 」

 

「アンタ! しっかりしなさいよ! 」

 

 

一夏と鈴音が駆け寄るが、士は認識できてないのか苦しそうな呻き声を漏らすだけだった。その状況にミナトが複雑そうな顔をしていると────何かに気付いたように、顔を上げた。そして、顔を歪める。

 

 

「─────どういうことだ、クインスの連中。話が違うぞ」

 

 

同時に、龍夜はそれを感じ取っていた。

ミナトが意識したものを、『隔絶区域(コードレス・エリア)』に近付く巨大な影。クインス社と思われる複数のヘリに吊るされた、大型兵器の影。その存在を、ハイパーセンサーで補足した瞬間、龍夜も唖然とした様子で呟くことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

「……………界滅神機、だと」

 

 




────大人ってクソだな。そう思わせる展開。クリスマスとは到底思えないよね!!! (ポケ戦と一部の特撮から目を反らして)



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