『────界滅神機 メルトグラム、目標地点に移送完了。これより起動と共に投棄、攻撃を開始させます』
「ご苦労様、貴方達はすぐに帰投しなさい。対センサージャミング発生装置を忘れないよう、外部の勢力に悟られないように気を付けなさい」
クインス社直属の私兵からの連絡を聞き終えた女社長 九条アンナは卓上で一息漏らす。目の前のパソコンでモニタリングされた『
「メルトグラム、出来れば使いたくはなかったけど、四の五の言ってられないわね。多少損害を被ろうとも、『
外国の辺境から発掘し、回収した界滅神機 メルトグラム。これを保有していたからこそ、クインスはある程度の横暴を許されていた。だが、もう少しすれば自分達の立場が大きく揺らいでしまう。
故に、彼女は事を大きくすることを選んだ。界滅神機によってあの地区を強奪し、もう一機の界滅神機さえ手に入れれば、今は『
「…………代表候補生の男二人も死ぬなら、組織の皆も喜ぶこと。ついでだから、アルスターも消しておこうかしら。そうよね、私に嘗めた態度を取る連中だもの。『
クスクス、と抑えていた笑みを隠すことなく、大声で笑い始める九条アンナ。最早自分の勝利を疑わぬ様子に、静かに立ち尽くしていた秘書も不要なことを口にしない。だが、笑い声に重ねるように、一言だけ呟く。
「────単純なヤツ」
女社長を言葉巧みに煽て、界滅神機を起動させた秘書の女性は嘲りと侮蔑を隠さない。此方を意識していない女社長の姿を、小馬鹿にするように見下ろすだけであった。
◇◆◇
「界滅神機、だって?」
龍夜の漏らした呟きを耳にした一夏が顔を上げる。複数のヘリに輸送されている大きな金属の塊。確かに普通とは違う、界滅神機と似たような禍々しい雰囲気を感じさせる。
だが、一夏はその事実を安易には受け止められなかった。他の界滅神機のように地下に眠っているのではなく、人の手で運ばれたようなあの機体は、間違いなく何者かの企みのようなものが窺える。
「ほ、本当になのか!?だって、界滅神機だぞ………あんなの、一体誰が動かせるって言うんだ!?」
「─────クインス・コーポレーション、奴等しかいないだろ。こんな状況でこんな真似をして、メリットのある奴等なんて」
実際に、それを証明するようにクインス社のヘリが界滅神機を運んでいるのだ。正直龍夜としても困惑が目立つ。あんなバレバレのヘリで輸送して、自分達の仕業だと気付かれていいのか、と。そもそも、気付かれたとしても殺せばいいとでも考えているのかもしれない。
────そんな中、吊るされた界滅神機が微かに動く。ヒト型といえど人に在らず。愚鈍な
円環に覆われたスフィアの真上に鎮座する四つの眼光。同時に輝いた深紅の瞳が、一斉に周囲の世界を認識する。覚醒と共に界滅神機は雄叫びのような不協和音と共に、全身を吊り上げるワイヤーを引き剥がし、引っ張られたヘリを空中で撃墜した。
【────────ッ】
己を吊るすワイヤーすらも消し飛ばし、界滅神機 メルトグラムは降臨する。機械的なその見た目とは無縁であるはずの、人類への憎悪を、世界全てに撒き散らしながら。
直後、あらゆる縛りから解き放たれたメルトグラムのリングが回転し始める。輝きを増幅させるコアの様子に、いち早く『エクスカリバー』の巫女 ルフェが咄嗟に反応する。
『───!高熱源反応、敵兵器に一点集中!演算機能により解析、高出力レーザー砲来ます!』
「ッ!ルフェ! 粒子変換バリアを展開!最大限の出力で、四重展開だ!」
『了解しました、マスター!』
IS形態を解除し、エクスカリバーを水面に突き立てる龍夜。一夏や鈴音、士を護るように立った彼の前方に半透明な粒子の防壁を複数展開する。
バリアを構築した直後、メルトグラムのコアが一段と光り輝く。強烈な閃光が視界を覆ったその瞬間、高出力のレーザー砲が龍夜達を襲った。
「─────っっ!!!」
膨大な熱波と閃光が、視界全てを呑み干す。超高火力の粒子砲の熱と破壊を展開されていた防壁が塞いでいたが、それすらも打ち破られる。砕け散ったバリアすら消し飛ばす熱量の光が、彼等もろとも一帯を吹き飛ばす。
少し離れた水のドームにいた箒達だが、水のドームが一気に崩れる。ただの水になって地に落ちたことでドームから解放された彼女達は戸惑いながらも、目の前の状況に言葉を失う。
焼け熔けた廃墟の町並み。そこにあった物全てを灰塵に帰す破壊光線の威力に絶句を隠せない一同。それは箒達だけではなく、戦闘をしていたアルスターのIS操縦者達も同じだった。
「っ!そうだ、一夏達は!?」
「…………ミナト様っ」
レーザー砲撃の射程に入っていた仲間達の事を思い出し、咄嗟に捜索する一同。だが、すぐに見つかった。レーザーにより焼き尽くされた一帯で唯一免れた所にいた一夏や龍夜達。防壁を突破されたにも関わらず、彼等が助かった理由は一つしかなかった。
「───流石に無茶し過ぎた、かな」
「ミナト……? 何の、つもりだ?」
「いやぁ、目の前で死なれるのは目覚めが悪いんでね。オレの心条に従っただけだ、気にするなよ」
アッサリと告げるミナトだが、彼は防壁を貫通してきた熱線を僅かに浴びている。皮膚が焼き焦がされた右腕を水で包み込みながら、余裕そうに口を開く。
そうしている間に、箒達が一夏や龍夜達と合流する。同時に相手の方も。シルフィ、ニカ、ネナが此方を警戒しながら、ミナトに声をかけた。
「どうする?ボス。………まだやるか?」
「────いや、帰るぞ。クインスがオレ達の出した条件を破った、こりゃ契約無視だ。それなら、連中の依頼を素直に聞く必要はないさ」
少女達はアッサリと、ミナトの指示に従った。そのまま背を向けようとするミナト達に、納得できない様子のラウラが声を荒らげる。
「待て!逃げる気か!?」
「…………まぁな。こっちは『
それじゃあ、さよならだ、とミナトはトライデントを振るう。槍先から溢れる水の軌跡が彼等の姿を包み込み、その姿を見えなくする。胎動するように膨張していた水の塊はミナト達を呑み込み、完全にその場から消え去った。
「…………逃げたか、どうする? 龍夜」
「───全員で物陰に隠れてからだ。手を貸せ、此方には重傷人がいる」
先程よりは落ち着いたが、士の苦しそうな様子は変わらない。その状態にいち早く反応した同胞であるゼヴォドであった。彼は駆け寄りながら士の肩を支え、一夏の後を追い掛け、物陰の裏へと移動する。
「………織斑先生との連絡は?」
「出来ない、回線も阻害されている。ここにいる皆には繋がるんだが………」
「ヤツが遠距離との回線を遮断しているらしいな。特殊な電磁波で構築した領域を展開していると見ていい」
端末や周囲の状況から、龍夜はそう結論付けた。恐らくあの界滅神機は自分で動くタイプではなく、あくまでも砲台型の兵器。機動力を補うために結界による防衛、連携の無効化を実現しているのだろう。
「全員、ISのエネルギーは?」
「…………半分は切っている。すまない、アルスターのIS操縦者に使い過ぎた」
無理もない、そう龍夜も判断している。まさかアルスターの直後に連戦するとは誰も思わないことだ。余力を残しておけるような相手でもないからこそ、尚更だ。
だからこそ、この場で取るべき最善の行動も既に決まっている。
カツンと、剣の先を突き立てる龍夜。蒼銀の剣 エクスカリバーが綺麗な音を反響させると共に蒼白い光の奔流が周囲へと広がった。光に包まれた一夏達は、自分達のISのエネルギーがほぼ全快していることに気付いた時には、龍夜の全身を纏っていた装甲が、光となって消失した直後だった。
「────全員の機体のエネルギーを補充した。最大限まで補充出来たのは幸いだったが、これで少しの間戦えないな」
「………ど、どうして? 龍夜がそこまでする必要は」
「合理的に考えたまでだ。残り少ないエネルギーで全員が戦うより、エクスカリバーの現時点でのエネルギー全てを皆に渡すのが、最も最善の手段だ。…………それに、誰か一人はコイツを安全な場所に移動させる義務がある」
淡々と答える龍夜に、全員が意外だと感じていた。戦いから逃げるという訳ではなく、自分より他人を優先するような行動を示した事にだ。本人が意識しているのかどうかは分からないが、副作用により衰弱した士を背負い、一夏達に告げた。
「早く行け。メルトグラムは恐らく、また攻撃を始める。起動直後だからこそ、近くにいる俺達を狙ったが、ヤツは恐らくサクラ達を攻撃するだろう。彼女達の砲撃が始まる前に、お前達がヤツを止めろ」
「………分かった。頼んだぞ、龍夜」
「安心しろ、俺だって戦えない訳じゃない。コイツを休ませて、ある程度エネルギーを補充してからすぐに出る。その間、何かあれば俺に伝えろ。以上だ。後は任せるぞ」
それだけ言うと、戦場から離脱するように駆け出す龍夜。男一人を背負っているとは思えない程、身軽な動きで去っていく。
何より信頼できる龍夜がいなくなった現状だが、四の五の言ってはいられない。一夏達は完全に近い状態となったISと共に、界滅神機 メルトグラムへと向かっていく。
◇◆◇
静かに鎮座するメルトグラム。四本の槍のような脚を地上に突き刺した巨大兵器は、他にある四本の脚部ユニットを重ねるように展開する。内側の熱を増幅させたリングを回転させ、メルトグラムは先程と同じ高出力レーザーによる砲撃を始めようとしていた。
照準は、『
「────止めろぉっ!!」
目に見えて起こる虐殺を止めるべく、織斑一夏が突撃する。白き機体から噴き出したスラスターからの奔流に身を預け、瞬時加速によって数十メートルの距離を縮め、メルトグラムを破壊する為に刀を大きく振り上げた。
メルトグラムの装甲に一太刀を浴びせようとしたその瞬間、一夏の全身が叩きつけられた。いつの間にか、彼はすぐ近くの建物に吹き飛ばされたらしい。少なくとも、一夏の認識ではそうだった。
「っ!? 何だ、今何をされたんだ!?」
「ええい! 何をやっているのだ、一夏!」
咄嗟に飛翔してきた箒が、一夏の元へと駆け寄る。困惑しながらも問い詰めるような態度に疑問を覚えていると、その答えを彼女自身が話してくれた。
「バランスを崩したのかは知らないが、メルトグラムに攻撃も当てられんとは。疲労があるのは理解するが、あまり無理は─────」
「待ってくれ、箒。当てられなかった? ヤツが何かをしたんじゃないのか?」
「? 何を言っているのだ? 私から見れば、お前がバランスを崩したようにしか見えなかったが………」
ここに激突するまでは、一夏の意識はメルトグラムを捕捉していた。間違いなく距離を詰め、確実に一撃を浴びせられると判断できていたはずだったのだ。にも関わらず、端から見れば一夏が変な方向に突撃していったとの話だ。
明らかな違和感に頭を悩ませる一夏と彼を信じながらも何が起こったのか分からずじまいの箒。そんな二人の元に、
「────分かりましたよ。何が起こっていたのか」
「ゼヴォド! 何が起こったって、ヤツの能力なのか?」
「ええ。少し難儀な事なので、私達にも詳しくは理解できませんが…………」
降り立ったゼヴォドが話し始める。一夏と箒が戦線を離脱してから、何が起こったのか。メルトグラムへの集中攻撃を始めた一同であったが、そこで不可思議な現象の目の当たりすることになったのだ。
「────攻撃が当たらない、というより、ねじ曲げられてるように見えましたね。砲撃や銃撃も防がれている訳ではなく、いなされているようです」
あらゆる遠距離攻撃が屈折させられ、接近しようとすれば方向感覚を狂わされる。どんな攻撃をも防ぐシールドを展開されるよりタチが悪い、理解不能の事実にセシリア達は戸惑いながらも必死に攻撃を繰り返していた。それでも、メルトグラムに攻撃が届くことはない。意図も容易く、全ての攻撃がズラされてしまう。
打つ手なし。そんな状況下に自分達は在る、とゼヴォドは説明した。ならばどうするべきか、兎に角対処しなければと頭を回そうとした一夏は、思わず顔を上げた。そして即座に、個人回線を繋げる。
「龍夜っ! 少しいいか!?」
『────一夏か、何かあったか?』
「少し、いや本気で困ってるんだ! メルトグラムに攻撃が当たらないんだが、どうすればいいと思う!?」
『………落ち着け。まずは詳しく説明しろ』
淡々としながらも、此方の様子を気遣う龍夜の声に、落ち着きを取り戻した一夏は彼の言う通り、明確に説明を始めた。メルトグラムへの攻撃が届かない事実を聞いた龍夜は、静かながらも思案に暮れた。
『────瞬時加速をズラされ、狙撃も銃撃すらもねじ曲げられる…………成る程、ヤツが砲台に徹するのも理解できる。それだけの力があれば、わざわざ動かずとも敵への警戒は必要ない』
「…………何か分かったのか?」
『恐らく、その話が正しければ、ヤツを護る力の正体『ベクトル』だ』
ベクトル? と聞き返す一夏に龍夜は分かりやすく話す。力の向きや量、速度等を含めた概念。つまるところ、人間が認識できない物質やエネルギーの流れ、それを指し示す記号の一つだと。
『何らかの手段を用いて接触した銃弾やレーザーのベクトル、力の向きをねじ曲げ、軌道を反らす。一夏が全く別の方向に激突したのも、方向感覚を狂わされながらベクトルを変えられたんだろうな』
「それって、ラウラのAICに近いヤツなのか?」
『恐らく、な。だが、少なくともメルトグラムの砲台としての機能を考えれば、結界として展開している可能性もあり得る。全方位、あらゆる方向からの攻撃にも対応できるようにしているはずだ』
「それではっ、完全に打つ手無しと言うことか!?」
『いや、それは早計だ。ヤツもあれだけ巨大な兵器と言えど、エネルギーを必要している兵器だ。全方位のベクトルに作用する武装を、常時展開するなど、エネルギーが直ぐに枯渇するはずだ。
…………話は逸れるが、ヤツが砲撃を始める瞬間、リングが回転しただろう。複数の円環全てに高エネルギー反応を感じたが、レーザーを放射したのはコアからだ。恐らく、あの円環は回転によってエネルギーを加速させ、増幅させる機構だ。砲撃の際にエネルギーを増幅させるということは、ヤツがエネルギーの過剰消耗を危惧したという意思が見え隠れしている』
ベクトル作用武装とあの高出力レーザー砲。どれもエネルギーを多量に消費する燃費の悪い武装のはずだ。それを多用すれば、無尽蔵のコアを有してもエネルギーの供給が間に合わない。
だからこそ、少量のエネルギーの増幅させる機構を備えているのだ。それがあれば、燃費の悪い武装を多用しても消耗を補うことが叶う。
『ベクトル兵装の事だが、対処は既に考えられている。武装自体は円環の外側に取り付けられているはずだ。ヤツもエネルギーの消費を防ぐため、攻撃の行われない瞬間にベクトル作用結界を停止しているはずだ。それならば、ヤツがわざと結界を停止させるように仕向け、合間を狙って攻撃すればいい。……………ヤツが俺達の出会ってきた界滅神機のような、自我を有した人工知能ならば厳しいだろうが、アレはクインス社の保有している兵器だ。プログラムされただけの頭脳ならば、抜け穴を穿つことは容易い』
「………つまり、ヤツがベクトル作用兵装を中断する瞬間を狙うか、兵装を展開させ続けて一気に消費させる。ということでしょうか」
『そうだな。狙つべきはさっき話した、ベクトル作用装置の方だ。アレを少しでも壊せば、メルトグラムは強力な結界を展開することが出来なくなる。そこが狙い目だ』
◇◆◇
通信を切った後、龍夜は一息つく。離れたエリアで士を寝かせた彼はエクスカリバーのエネルギーがまだ回復できていないことに若干焦りを覚える。
「────『レイグライダー』、上からモニタリングしてくれ」
少しでも観測しようと、龍夜はサポートガジェットの一つを起動させる。小型のエイらしき機械が上空に飛翔し、遠くで起きている戦闘の光景をカメラで捉え、その映像を龍夜の元に送る。
僅かに状況を理解した龍夜は、僅かに顔をしかめた。自分がメルトグラムの結界の突破口を教えたことは上手くいっている。しかし、一夏達の戦況は宜しくないらしい。
「…………ベクトル作用装置は壊したみたいだな。ひとまず攻撃は届くみたいだが……………不味いな」
無論、一夏達は追い込まれているわけではない。むしろ大して動けないメルトグラムに一方的に攻撃を繰り出せている。幸いなことに、ヤツの攻撃手段は砲撃しかない。あれだけのレーザーならば簡単に避けられる。
では、何が不味いのか。それは誰もが理解できることだった。
「────火力が足りない。今のアイツらではメルトグラムを一撃で仕留める程の火力が、パワーがない。この状況を打破できる程の切り札が、誰の手にも無い」
実際に彼等の中で唯一高火力を出せるのは、界滅神機を破壊できる程の一撃を放てるのも、龍夜だけである。その自分が戦線離脱している今が致命的だ。復帰しようにも、今あるエネルギーの残量では一撃しか放てない。
黙って見ていることしか出来ないのか、そう歯噛みしていた龍夜であったが、突如声が聞こえてきた。
「────火力が、パワーが足りねェか………?」
振り返ると、さっきまで意識朦朧としていたはずの加賀宮士が目を覚ましていた。息も絶え絶えといった様子には変わりない。暴走したウロボロス・ナノマシンに身体を蝕まれている青年は、好機を見出だしたように笑っていた。
「それなら、考えがあるぜ…………俺なら、ヤツをぶち抜く火力を出せる」
「…………考えて物を言え。怪我人か重病人かは分からなあが、今も弱っているお前を戦わせる訳にはいかない。第一、お前の幻想武装でヤツにダメージを与えられると、本気で思ってるのか?」
「─────耳が痛ぇな。その通り、かもしれねェ。確かに、無理かもな。……………今のままじゃあ、なッ」
「何?」
冷酷に告げる龍夜の言葉を否定した士は、胸元から何かを取り出した幻想武装を展開するためのカオステクター。そして、もう一つ。何らかのクリスタルを接合させた端末を取り出したのだ。
「俺じゃあ勝てねぇなら、方法はある────命を賭けりゃあ、それなりに強くなれる、だろうぜっ」
『オブリビオン!』
「────ッ!」
オブリビオンと音を出した端末に、メモリアルチップを装填する。虹色の結晶が更なる輝きを増し、サラマンダーのメモリアルチップに何らかの細工をして、放出する。深紅のチップは、虹色に書き換えられた赤のチップへと変化していた。
何故だかそれを認識した瞬間、龍夜はその虹色に禍々しさを感じてならなかった。だからこそ、咄嗟にカオステクターにチップを差し込もうとする士の腕を止めたのだ。
「…………お前は、それでいいのか」
「何が、だよ」
「命を賭けるだと、それが本当ならお前は死ぬつもりで戦うのか!? そこまでする意味が、お前にはあるのか!?」
「────あるに、決まってんだろ」
断言した士の声音には、芯があった。今まで感じたことのない強さに満ちた言葉。
「『
「─────ッ!!」
同胞達の為に、共に生きた家族のために命を捨てようとする士の覚悟に、龍夜は言葉も出なかった。彼自身も命を賭けることに抵抗はない、だがそれは復讐に限る。もし、仲間のために命を張れるかと聞かれれば、龍夜は間違いなく迷うだろう。
仲間が大切な訳ではない。だが、簡単に捨てられるものではない。何より、命よりも優先するものがあるからこそ、躊躇してしまうのだ。だからこそ、目の前の青年の覚悟に絶句した。
同時に、その覚悟を止められるとも考えていなかった。最早彼には目の前の青年を見送ることしか出来ない。
「…………加賀宮士、だったか」
「? 何だよ」
「死ぬなよ。お前には、その仲間が待ってくれてるんだろ」
「─────」
青年は答えない。
笑顔を崩すことなく好戦的に笑った士は、メモリアルチップをカオステクターへと差し込む。次の瞬間、全身から膨大な炎を噴き出し、彼は幻想武装でその身を纏った。
◇◆◇
「────クソッ!止まれ!止まれよ!」
ベクトル作用装置を破壊した後、メルトグラムへの攻撃を続ける一夏達。しかし、メルトグラムの装甲は強固になっており、あらゆる攻撃を通さない。それを理解してか、或いは外部からの命令を受けたのか、メルトグラムは一夏達を無視し、サクラ達
「ダメです!これ以上攻撃しても、メルトグラムはこっちを意識しない!」
「だからと言って何もしない訳にはいかんだろう! 教官や彼等を見殺しにすることになる!」
「何とかしないと!装甲だけでも破らないと!」
焦るゼヴォドや少女達を他所に、メルトグラムはレーザー砲撃の準備に入る。倍増させると共に放射するためのエネルギーを、破壊光線として一気に解放する勢いを見せていた。
絶望しかけていた一同だったが、突如熱源反応が生じる。反応は真後ろから、振り返った彼等のすぐ近くを白熱の閃光が過ぎ去った。
【ッッ!!?】
その熱線はメルトグラムに直撃すると共に、防御に特化した重装甲を一瞬で融解させた。砲撃に使用していた部分すらも消し飛ばされ、メルトグラムは砲撃を中断せざるを得ない。
困惑しているのは全員もだった。今の攻撃が何なのか分からない、そんな風に混乱していると、先程の攻撃の主と思われる存在が廃墟の群棲をぶち抜きながら、姿を現す。
『グゥガアアアァァァァァァァァアアアアアアアアアアアッッ!!!!』
「アレは、サラマンダー!?」
加賀宮士の幻想武装 サラマンダーに似た何か。しかし、具体的に何かが違う。複数の腕を生やし、全身に虹色の光の軌跡を刻むその姿は、異質に近い状態でもある。
そして、目を見張るのはその火力。サラマンダーの放つ熱線は、かつて対峙した時以上に変化していた。再び放たされた溶解熱線がメルトグラムの脚部ユニットをけしとばしたことが、それをよく物語っている。
何が起きているのか、困惑を隠せない一夏達であったが、ただ一人だけが何かを理解する。士と同じ組織のメンバーであるゼヴォドは、彼が何をしたのかを悟り、青ざめた。
「士、まさか────『オブリビオン』を使ったのか!?」
「オブリビオン? 何だよそれは!?」
「…………我々が保有する第三の
「ッ!何でそんなものを、アイツに渡してたんだ!そんな危険なもの、使わせる訳にはいかなかっただろ!?」
「ッ! 我々はテロリストです!世界と戦うためには命を賭けなければならない時がある!皆覚悟はある!私とて、死ぬ覚悟は出来ている! ISや国に勝つためには、未熟な我々は命すら使わなければならないんですっ!!」
命を無下にした物の存在に怒りを示す一夏だが、胸ぐらを持ち上げられたゼヴォドは強い姿勢で言い返した。世界を変えるという宿願を果たすのは容易ではない。だからこそ、命を掛けるという手段も必要なのだ。
それでも納得できる話ではない。口元を噛み締める一夏を呼び止めたのは、この場にいないはずの相手だった。
「────止せ、一夏。ソイツらにはソイツらなりの覚悟がある。そこに口を出す訳にはいかない」
「龍夜!?離れてたんじゃ─────」
「アイツが飛び出していったんでな、話は変わった。俺がヤツを仕留める。俺を乗せていけ」
「わ、分かった。けど、ISを纏わなくて良いのか───イテッ」
「エネルギーが足りないんだ。ヤツのコアを破壊するためにも、無駄に消費したくはない。分かったら、早く連れていけ。時間を無駄には出来ない」
軽く手刀を浴びせ、困った様子の一夏の背中を借りる龍夜。メルトグラムの真上まで飛翔した二人は、メルトグラムへの執拗に攻撃するサラマンダーを見下ろす。
『─────ッ!!!!』
猛獣のように、理性を失い暴れるサラマンダー。オブリビオンの力で限界まで力を引き出された蜥蜴はその熱を以て、メルトグラムの装甲やリングを破壊し、コアへと近付く。
脚部ユニットがそれを阻止するように、サラマンダーを蹴り飛ばし、腕を切り落としたりもする。だが、サラマンダーは灼熱の炎から腕を生やし、がむしゃらにメルトグラムの装甲や武装を破壊し、コアにまで接近した。
球体型のコアを掴み、灼熱の熱線を浴びせようとするサラマンダー。しかし制御されたメルトグラムのコア残ったエネルギーを利用して最後の抵抗を─────不意打ちのレーザー砲で、サラマンダーの両腕を消し飛ばす。
腕を失い、転倒するサラマンダー。メルトグラムのコアは残った装甲をかき集め、何とか形を変えようとする。兵器として使命を果たそうとするメルトグラムは、磁力のように引き寄せた残骸を纏おうとしていた。
だがそれを、龍夜は見逃さなかった。
「──────終わりだ、メルトグラム」
振り上げたエクスカリバーを、メルトグラムのコアへと叩きつける。蒼銀の剣は銃弾すら弾くコアの表面を砕き、中枢を容易く貫いた。
それだけでは終わらず、エクスカリバーの、残存エネルギーを全て放出する。コアの内側から放射したエネルギーはメルトグラムのコアにトドメを差すに等しかった。
地上に落下するメルトグラムのコアとその残骸。コアの上でエクスカリバーの防護機能によって保護された龍夜は、エネルギーが完全に消滅したエクスカリバーの刀身を軽く撫でる。
良くやってくれた、と労うように。ジャミングが途絶え、戻った通信を繋げ、状況の報告を求める千冬やサクラ達に、龍夜は端的に告げた。
「此方、蒼青龍夜。メルトグラム、撃破完了。繰り返す………」
◇◆◇
「────S.S(エスツー)より報告。予定通り、『雛』が『女王』の切り札を潰した。想定したプランの進行は順調。これよりOと合流、『火種』を作る準備に掛かる」
遠くから観測していた一人の男が、静かに無線のスイッチを切る。墜落されたであろうクインス・コーポレーションのヘリの残骸に足を掛けていた男はそこから降りると、周囲の死体に突き刺していた日本刀を背中と腰の鞘へと戻す。
辛うじて息のあるクインス社の兵士にトドメを差し、男はある情報の入ったメモリーを兵士のポケットに入れ、その場を後にする。
後に起こる混乱、世界を揺るがす大きな騒乱の一因となる『火種』が、間もなく始まろうとしていた。
あんだけ重要そうな雰囲気出してたのにもう終わったメルトグラム戦。まぁ、この章の中盤ぐらいですからね。あまり尺も使えなかったんです。ここからがこの章の本番と言ってもいいところですから。
次回 『火種』