IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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SEEDFREEDOMで好きになったキャラはいるけど、ブラックナイトのシュラとイングリットが好きになった。

あの二人やブラックナイト達が幸せになれる世界は無いんですかね………(儚い夢)ただし、ロリババは除く。


第83話 残火

加賀宮士(かがみやつかさ)は、孤児────『放逐孤児(ホームレス・チルドレン)』であった。母親から愛されることもなく、父親からは虐待された果てに、二人から棄てられたのだ。

 

彼自身、それを気にすることはなかった。ゴミのように扱ってきた両親の事など、最初から愛してはいなかったのだろう。放浪する最中、彼は他の孤児たち同様、『隔絶区域(コードレス・エリア)』と呼ばれる廃墟の区域に流れ着いた。

 

 

そして、自分と同じ、棄てられた子供達で構成された『学校』が、彼にとって本当の家となった。居場所もなく、親もない子供達。最初は距離を置いていた士も、その場所に安らぎを覚えるのもすぐの話だった。

 

そして、彼が『学校』に着いて数ヶ月。教室の中で士は、一人の女教師と話していた。

 

 

『────ねぇ、士。また赤点だっただろう?』

 

『………先生』

 

『勉分からない所があるなら言ってくれたら良いけど、君の場合はそうじゃないだろう? 何か、悩みでも?』

 

 

心配そうに声をかける彼女に、士は椅子に全身を預ける。ギィギィ、と椅子を傾けながら、己の中の本心を口にした。

 

 

『勉強とか、頑張ってどうするんすか?』

 

『………士?』

 

『社会に出て、どうすんすか。頑張ったって意味ないでしょ。俺達みたいな、居場所のない子供が。どうせ爪弾きにされるだけでしょ。…………外の連中の事なんか、考えなくても分かる』

 

 

少し前、最年少の子供達が区域の外に出たことがあった。士はその一人を保護するために向かって─────泣きじゃくる少女を、士が探していた子供を見つけた。何があったのか聞くと、イジメられたらしい。

 

禁止された区域にいる子供だから、バイ菌を持ってる。そう言われ、何人もの子供に石を投げられ、水を浴びせられた、と。それを知った士は激怒し、その子供を見つけ出し問い詰めた。

 

泣き出した子供の親が現れ、事情を聴くと────近くにあった棒で士の頭を殴打した。その大人は子供を抱き抱えながら、『汚い子供が、ウチの子に話しかけるな』と宣ったのだ。

 

 

親のいない孤児、封鎖された区域に住む子供。そんな理由で迫害されている。その事実を理解した士は、大声で泣く少女を宥めながら『学校』へと帰った。外にいた大人達は、そんな自分達を気味悪いものを見るような眼で、ヒソヒソと悪意ある囁きをしていた。

 

 

だからこそ、士は自分達以外の大人を────『学校』の教師以外の、『隔絶区域(コードレス・エリア)』の外全てを、忌避することにした。彼等が自分達の存在を嫌悪するなら、自分達も嫌悪する。

 

故に、勉強なんてする意味はない。卒業すれば、社会に出られるように先生たちが頑張ってくれるらしいが、士は外に出たいとは思わなかった。あんな、自分達のことをゴミのように見る連中と、同じ空気を吸いたくはない。彼等のような成りたくはない。自分の家は、あくまでもこの『学校』だけだと。

 

 

『────おーっす、キリ先生ー、士ー! おはよー!』

 

『ナツちゃんかー。相変わらず元気だねー』

 

 

そんな風に考えていると、補習室に一人の少女が入ってくる。活発的な笑顔と両手を大きく振って現れた少女に、先生は同じく笑いながら応え、士は額を覆った包帯に振れながら頭を抱える。

 

 

『士ー、また先生のこと困らせてるなぁー?』

 

『………うるせぇ、ナツハ。お前には関係ないだろ』

 

『あるよ!だって私達は家族だからね! 困った時は、お互い様ってね!』

 

『…………ふんッ』

 

 

クロガネ・ナツハ。士と同年代の少女であり、この学校でも最年長の一人だ。同時に、士の恋人でもある子だった。

 

 

彼女は天真爛漫でありながら、多くに慕われるカリスマと優しさを持ち合わせていた。マイペースな雰囲気で他人の悩みや心に立ち入りながらも、傷を開くような真似をせず、穏やかに相手と向き合う。そんな彼女の優しさは多くの子供達のトラウマを癒し、笑顔を取り戻させた─────加賀宮士も、その一人だった。

 

大人達への、自分達以外の全てへの嫌悪も侮蔑も、彼女の優しさによって和らいでいった。次第に士は彼女に惹かれ、最終的に、恋人となることになった。

 

 

『────俺は、頑張る』

 

『頑張って、誰よりも偉くなって、皆が笑って暮らせるような世界に変えて見せる! ナツハやモミジ、サクラにフユキも、皆が幸せになれる世界に!!』

 

 

 

 

そうして抱いた大きな夢─────それが空虚な理想であったことは、数年後の夏に知らされた。

 

クインス・コーポレーションの介入。兵器が眠った『隔絶区域(コードレス・エリア)』を欲しがった彼等は定期的に学校の襲撃を繰り返した。クインスに手を貸す議員の策略により、大人達が遠ざけられ、信用していた先生ですら居なくならざるを得なかったある日のことだった。

 

 

『士さん! ナツハさんが!』

 

 

子供達を引っ張っていた年長組のナツハが、クインスの兵士達に拉致されたと聞き、士は皆と一緒に救出に向かった。建物の中に一人、拘束されていた彼女を救い出し、本拠地に帰還したその時、意識を失っていたナツハが目を醒ました。

 

 

『────ダメ!触らないで!』

 

 

だが、彼女は意識が覚醒した瞬間、背を向けて走り出した。突然の行動に呆然とする仲間を放置し、士は彼女の名を叫び、追い掛けた。拠点の外にまで着くと、ナツハは脚を止める。

 

 

『…………帰ろう、ナツハ。皆心配してる、一緒に行こう』

 

『──────つか、さ』

 

 

振り返った彼女は、何時ものような笑顔で応えた。そんな彼女の顔に、士は違和感を即座に感じる。何時ものような微笑みさが無く、ただ悲哀と諦念に満ちたものが彼女の笑みから溢れている。そして、笑みを刻んだまま、彼女は口を開いた。

 

 

『─────────』

 

 

何かを言った直後─────彼女の頭が爆散した。目の前で頭が吹き飛んだナツハの身体はふと、揺れて倒れ込む。唖然としたまま士は彼女の死体に寄り添い────ようやく事実を理解し、発狂することしか出来なかった。

 

 

後日、士は真実を知った。ナツハの頭の中には爆弾が仕込まれており、それがクインスの策略であることも。彼女の死を悲しむ余裕もなく、クインス社は自分達を躊躇無く攻撃してきた。

 

隔絶区域(コードレス・エリア)』の子供達には人権が通じない。だから殺してもいい。そう認識するように、痛めつけられて殺される子供もいた。────広間に吊るされたまだ幼い子供の亡骸を前に、士は溜め込んできた思いが爆発した。

 

 

『─────殺す』

 

 

武器を積んだ装甲車でクインス社の拠点に乗り込み、全員殺した。子供達を殺した兵士達は瀕死にした上でガソリンを浴びせ、火達磨にした。それだけして、基地の人間全員殺したところで士は冷静になった。

 

 

『…………俺は』

 

 

人を殺した。怒りと憎悪に任せて、何十人も殺した。こんな血に濡れた人間に、仲間達と共にいる資格はない。そう理解した士は短く謝り、皆の元から姿を消した。

 

 

そして、数年後。加賀宮士は世界を変えるという夢を果たすため、アナグラムへと加入した。与えられた幻想武装を手に、彼はアナグラムの戦士として戦い続けた。

 

その過程で─────士は自身の命が残り少ないことを悟った。幻想武装を無理矢理使い続けた副作用。命の磨耗、生命力の消費。あと残り少ない命をどうするか、既に決まりきっていた。

 

 

『─────モミジを、弟たちを守って』

 

 

死ぬ直前、ナツハが遺した願い。それを叶えるために、士は皆の為に命を使うことにした。置いていった義弟や仲間たちを、大人たちの悪意から守るために。

 

 

加賀宮士は、己を燃やし尽くすことを決意していた。とっくの昔から。

 

 

◇◆◇

 

 

 

「────ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ ッ ! ! !」

 

 

爆炎の中から立ち上がった加賀宮士。意識を失ったにも関わらず、彼は最後の力を振り絞って覚醒したのだ。

 

 

「アレだけやって、まだ立ち上がるのか………!?」

 

 

信じられないと、龍夜を息を呑んだ。幻想武装解除のダメージを受けたのに、それでも再起する士の存在に驚きを隠せなかった。明らかに予測した範囲を超えている。加賀宮士は意思の力だけで動いているのだ。

 

 

「ア、ア゛あ…………ごッ」

 

 

ふと、蹲った士が大量の血を吐いた。ビチャビチャと撒き散らされ、瞬時に沸騰する血の池。明確に尋常ではない程の血液を吐き出す士は危険な状態だ。もう既に、死にかけに近い。そう理解したのか、或いは理解した上で、士は叫んだ。

 

 

 

「………おまえ、─────お前、だけはッ!!」

 

 

そして、走り出した。全身の力を任せて、地面を蹴り、前へと走る。突然の行動に思考を取られた龍夜だが、すぐに彼の狙いに気付く。

 

 

「────逃げろ!織斑先生! 狙いは社長だ!ヤツを殺す気だ!」

 

 

九条アンナ、クインス社の社長である彼女が居なくならない限り、『隔絶区域(コードレス・エリア)』は狙われ続ける。ならば、彼女を殺す他無い。今度こそ、確実に。

 

 

ISで飛翔し距離を詰めようとした龍夜は、エネルギー切れであることに歯噛みする。少しで止めようと、一夏や箒と共に走り出す。その目の前で、士の身体に変化が起きていた。

 

 

ボゴッ! ボゴォッ!! と、肉体の一部が膨張する。 同時に赤熱し始める肉体。異常な程に上昇していく体内の温度と熱。ハイパーセンサーで見えたその反応は、一つの可能性を示唆している。

 

 

「────まさか、自爆する気か!?」

 

「ッ!?」

 

 

倒れた場所からそう理解したラウラの一声に、鈴音は息を飲み込む。ISによる瞬時加速でも間に合わない。ならどうするべきか。ふと周りを見渡した鈴音はある物に手を伸ばした。

 

 

「クソッ!アイツの方が早い!追い付けない!」

 

「箒!紅椿のエネルギーを分けてくれ!何とか瞬時加速をすれば─────!」

 

「無理だ!間に合わん! そんなことしていれば、手遅れになる!」

 

 

龍夜達も全速力で向かうが、あと少し足りない。膨大な熱を溜め込んだ士には届かない。千冬もサクラやフユキに避難を呼び掛け、腰を抜かした九条アンナを連れて避難しようとしている。

 

だが、そんな彼女たちの元に、士が近付く。体内に蓄積した熱を暴発させ、自分ごと全ての元凶の女を抹殺しようと迫る。

 

 

「────死ィ、ねぇェーーーーーーーッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、士の胸を青い光が貫通した。セシリアのスターライトMarkⅢ、それを使用した鈴音による狙撃が命中したのだ。

 

 

「─────が、ッ?」

 

 

胸に同化していたカオステクターが大きく吹き飛ばされる。ピシッ、とヒビの入ったメモリアルチップ。力を与えていた物が離れたことで、士の身体から熱が消えていく。

 

同時に、ポタポタと血が溢れ落ちる。胸元にポッカリと開いた穴は、彼の肉体からカオステクターを引き剥がすと同時に、心臓を消し飛ばしていた。

 

 

「────ぁ、ァ…………」

 

 

ボタボタと溢れる血を止めること無く、士が歩き出す。ヨロヨロと彼は前へと進む。立ち止まった千冬や九条アンナ、そしてサクラやフユキの方に、手を伸ばしながら。

 

 

「───お、れ………みんな、まも………やくそ───」

 

「……………っ」

 

「いの、ち………かけ、まも………れ───ごめ」

 

 

ゴボッ!! と、今まで以上の血を吐く士。ビチャビチャと溢れる血の洪水の中に崩れ落ちる。最後の最後まで手を伸ばしながら、彼は血の池の中で涙を流す。

 

 

「────な、ツ………は」

 

 

恋人との約束を、家族の幸せを望んだ少年は今絶命した。大量の血の中で、哀しそうな顔のままで。

 

 

「…………」

 

 

暴走した士を止められた、という点では喜ぶべきなのだろう。しかし、誰も声に出して喜ぶことは出来なかった。だって、目の前で人が死んだ────いや、自分達の手で殺したのだから。

 

 

「………………つかさ?」

 

 

ふと、震えた声が響く。振り返ると、唖然としたシルディがそこに立っていた。今辿り着いたばかりなのか、息が荒かった青年は、近くで倒れている少年の姿を見るや否や、息を吸うことも忘れた。

 

 

「士、士! しっかりしろ、おい!! 」

 

 

亡骸へと駆け寄り、必死に身体を揺するシルディ。同じ意思の元に集い、共に戦ってきた仲間の名を呼び続ける。だが、それでも声は返ってこない。青年は文字通り、命の全てを燃やし尽くしたのだから。

 

次第に、シルディの声が小さくなる。数秒の合間に、全てを理解したのだ。悲哀に満ちた青年の開ききった眼に手を添え、静かに瞼を優しく下げた。ゆっくりと立ち上がり、ギギギと振り返った。

 

 

「─────お前か」

 

 

ヒッ、と睨まれた九条アンナは再び腰を抜かす。おぞましい程に煮え滾った殺気を、ただ一心に向けられているのだ。恐怖するのも無理はない。

 

呪詛のように低い声を響かせ、歩み寄るシルディは腕輪に装備したエンシェントテクターを起動し、伝説幻装(エンシェントレガリア) バハムートを展開し、その身に纏う。

 

 

「────お前が、士を! 追い詰めたんだなッ!?」

 

 

────彼の生い立ち、士が『隔絶区域(コードレス・エリア)』を大切に想う経緯を知っていたシルディは、彼女こそが士の死の元凶だと理解していた。

 

大人達の身勝手で理不尽なやり方で、仲間を喪った。そう認識したシルディは凄まじい怒気を放ち、己の全身を黒鉄の装甲で覆いながら、歩み寄っていく。

 

 

黒紅の粒子を噴き出しながら近付くシルディの歩みが、突如止まる。それは、九条アンナを庇うように前に出た千冬。彼女を護るように並ぶ─────シルディの凶行を止めるために立ち塞がる、一夏達を目にしたからだ。

 

 

「…………止めろ、シルディ」

 

「────どけ」

 

「無理だ、どけない。今のお前を、通す訳にはいかない」

 

 

ビキッ、とシルディの拳を握る力が増した。龍の頭部を模すフェイスギアが、怒りに震え歯軋りをしているようにも見える。ゆっくりと力む腕を下ろしたシルディは、静かな口調で語り出した。

 

 

「お前達が、士を殺したことを恨んではない」

 

「……………」

 

「それが、戦いというものだ。既に覚悟は出来ている。命の取り合いを、戦いを選んだのは俺達の方だ。殺す覚悟もあるのなら、殺される覚悟もある。仲間を殺される覚悟もだ。

 

 

 

 

─────だが、その女だけは生かして置けない」

 

 

指を突き付け、シルディは吼える。仲間を死に追い込んだ全ての元凶を見据え、煮え滾る憎悪を向けながら。

 

 

「その女は、自分の欲望の為だけに大勢の人間を犠牲にしてきた。女性権利団体という組織に所属しているのも、女性が優れているという考えではなく、ただ美味しい思いをしたいだけの俗人だ。─────ソイツみたいな人間が、子供達のような弱者を食い物にして、本来幸せになるべき人々を踏みにじって───────オレ達みたいな人間を、生み出してきた! 八神博士(父さん)を悪魔にして、その技術や成果だけを利用した!!」

 

 

あらゆる悲劇と理不尽を赦せぬ者 シルディ・アナグラムとして、悲劇と理不尽の果てに全てを奪われた八神三琴として、彼は弾劾する。彼女のような大人の存在を、彼等のような存在に利用されてきたこの世界を。

 

 

「他人を利用し、傷付けて! 苦しむ様を嘲笑って!自分だけ安全な場所で、利益だけを貪って満足しているような、ソイツみたいな連中が! オレ達が倒すべき、世界の敵なんだ!!」

 

「─────お前の話が本当なら、殺すべきじゃない。そういう大人だからこそ裁かなきゃ、何も変わらないだろ」

 

「その法だって、大人達の味方だろうが!!────ドラグーンッ!!」

 

 

握り締めた拳を振り下ろした直後、シルディの背後に複数の機影が現れる。数十メートルの巨体を揺るがす機龍 ドラグーン。クラッシュ、ストライカー、ブラスター、三体の機龍がシルディの背後に並び、堂々と立ち尽くす。

 

 

「───これ以上邪魔をするなら、容赦はしない。たとえ、友であるお前達でも!」

 

「────シルディっ!」

 

 

最悪に近い状況だった。万全のシルディと、彼が操るドラグーンが揃った完璧に近い状態。対して今現在、龍夜たちは疲弊しきっている。ISのエネルギーも残り少ない。そんな状態で、シルディ・アナグラム相手に勝てるとは到底思えない。

 

だが、臨戦態勢であったシルディを止めたのは────前に出てきたゼヴォドの一声であった。

 

 

「お止めください!シルディ様!」

 

「っ!ゼヴォド、何故止める! オレはアナグラムのリーダーとして、アイツの無念を─────」

 

「────士の家族を、この戦いに巻き込むおつもりですか!?」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、シルディの心が大きく揺らいだ。怒りに支配され、冷静さを失っていた彼の激情を止めるには十分すぎる言葉だった。

 

数秒の沈黙があった。拳を握り締め、躊躇したシルディは静かに拳を下ろし─────伝説幻装を解除した。やり場のない怒りを溜め込み、シルディは背を向けて歩き出した。

 

 

「………帰るぞ、ゼヴォド」

 

「畏まりました────シルディ様、士は」

 

「このまま残す。アイツだってきっと、ここで眠りたいはずだ」

 

 

ゼヴォドを連れ、離れていくシルディ。静かに武器を下ろした一夏と箒、安堵した二人にシルディが突如声をかける。

 

 

「─────オレはもう、お前達と分かり合えるとは思わない」

 

「…………っ」

 

「お前達は現体勢を内側から変えようと、オレ達は現体勢を武力で破壊しようとしている。方針が違うからこそ、オレ達の志は同じでも、歩み道は違う。次会った時は何時ものように敵として、だろう。

 

 

…………次こそは、一切の容赦はしない」

 

 

冷徹な覚悟を秘めた双眼を受け、一夏と箒は言葉を返せない。だが、シルディは自分の意思を伝えて満足したのだろう。ドラグーン達に乗り、シルディとゼヴォドはその場から立ち去っていく。

 

 

やるべきことは果たした。にも関わらず、少年少女達の心は晴れない。心に暗い影が射したまま、彼等は雲に包まれた空を見上げることしか出来なかった。

 

 

◇◆◇

 

 

「────ボス!言われた数の量、回収しました!」

 

「おうよー。ごくろーさん」

 

 

クインス・コーポレーション本社。あらゆる重要機密、そして資金を保管するべき建物、多数の警備によって護られていたそのエリアは社長無き今──────傭兵団『アルスター』の手に堕ちた。

 

ヘルメットに武装を備えた女子達、戦闘員は破壊された金庫の中から無数の札束を運び出していた。無論、強盗と言うには事情が事情だ。…………厳密には、仕方のない徴収ということになる。

 

 

クインス社の依頼を受け、『隔絶区域(コードレス・エリア)』を襲撃したミナト達『アルスター』であったが、作戦の最中、クインス社が送り込んだ界滅神機の乱入もあり、ミナト達は戦線から離脱した。

 

そしてすぐさま、クインス社に糾弾の声明を送ったが、九条アンナは必死な言い訳を繰り返し、挙げ句の果てには此方の責任だと言い始めた。その態度に業を煮やしたアルスターはミナトの決定の元、約束されていた報酬、その倍の違約金を請求し──────これを無視されたことで、遂に武力行使へと出た。

 

 

本社を襲撃し、金庫から目的の資金を簒奪し終えた。後は撤退、という訳にはいかない。実を言うとミナトは襲撃の際、ある人物から依頼を受けていた。

 

 

「─────お見事です。時間にして1分05秒。世界でも有数とされるクインス・コーポレーションが有する堅牢とされた防衛システムを、こうも簡単に陥落させるとは」

 

 

カン、と地面を叩く軽い音。それと共に、異形のヒトガタが姿を現す。紺のスーツにネクタイ、如何にも紳士的な服装をした人物。片手に添えた杖を手に、リズム良く地面を叩いている。

 

そして、顔を覆い隠す程に被った帽子。帽子の下、襟の上には顔は見えず、空虚の黒しか見えない。或いは顔など存在しないかのように、伯爵のような人物は声高らかに言葉を弾ませる。

 

 

「────目的のモノは手に入れた、クインスもこのザマだ。これでアンタの望み通りになるな」

 

「それは違います。これは、計画の立案者たる彼の描いたキャンパス。私が望んだのはその先、彼の理想の行く末を観察することです」

 

「そうかい。ならとっとと依頼を終わらせるか」

 

「ええ、貴方が望むのなら、そうさせて頂きます────目的のモノ」

 

 

ほいっ、とミナトがポケットから取り出したICチップを放り投げる。静かに前に出した手でチップを受け取ると、紳士的な男は自身の顔のある闇の中へと入れる。その直後、紳士的な男は「フム」と顔を上げた。

 

 

「確認しました。私達が求めていたモノで間違いありませんね。────それでは、報酬の支払いをさせていただきます」

 

 

男は杖をカツンと鳴らした。たったそれだけで、全てが終わった。

 

 

「────振り込み完了です。一応、確認をお願いします」

 

「…………サラから振り込みされてるのを確認した。これで依頼完了だな。そろそろ、オレ達も帰らせて貰うぜ」

 

「おや、もう帰るのですか?」

 

「オレ達も傭兵、非公式なんでね。この件で指名手配されるかもしれないから、不用意に外に出てられねーのさ」

 

「難儀な立場ですね。貴方が望むのなら、私達が庇護することも出来ます。多少、いえ大々的に動けるようになりますが?」

 

「─────トライデントを、アスナを調べさせるのが条件だろ? 幾らアンタが相手でも、それだけは御免だね」

 

 

それは残念、と心から思ってなさそうな声で答える男。ミナトは部下達を引き連れ、一瞬にして姿を消す。その人物は彼が消えた後、崩壊したクインス社の本部を尻目に、闇の中へと消えていった。

 

 

◇◆◇

 

騒動が一段落着いた後、事後処理に明け暮れていた一同。その中で外部からの連絡を一早く認識した千冬が、口を開く。

 

 

「────先程、クインス社の本部が何者かの襲撃を受けた」

 

「……この状況を望んだ、外部の企業でしょうか」

 

「どうだろうな。奴等はアルスターという傭兵団を裏切ったらしい。奴等による報復行為という線も外せん」

 

 

周辺の捜索を終え、報告の役割を率先して受けたラウラはその事実に驚きながらも、複雑そうな顔を隠せない。アレだけ好き勝手してきたクインス社も、これで致命的なダメージを背負わされた。余計なことをしなければ、何とか建て直せたかもしれないのに。

 

 

「九条アンナ、ヤツは、クインス社はこれからどうなるのでしょう」

 

「まず、クインス・コーポレーションの解体は間違いないだろう。これだけの不祥事を起こせば、国連による決議も既に決まったようなものだ。あの女社長も、殺人未遂等の容疑で裁判になるだろう…………女性権利団体はヤツを護ろうとするだろうな。なんせ自分達の仲間である以上に、団体の存続に関わる情報を持っているんだから」

 

 

因みに、九条アンナは様々な策謀や人命を軽視した悪辣な作戦もあり、国連から捕縛命令が下されている。その命令により、現在は部屋に拘留している。

 

………その部屋の場所を知っているのは、千冬や友華、レギオンのリーダーであるサクラ、フユキのみだ。理由としては、レギオンのメンバー達の怨恨による私刑を危険視してのこと。彼等からすれば、今まで自分達を殺そうとしてきた、仲間を傷付けた全ての元凶なのだ。彼女を生きて捕えていることを知れば、即座に殺しに行く者も少なくはない。

 

国連が正式に彼女の身柄を引き取りに来るまでの間、一日は拘留しておかなければならない。だが、これに関しては然したる問題ではない。

 

 

「───ボーデヴィッヒ。報告の方を頼む」

 

「はっ、はい! 先程まで皆と一緒に周辺の捜索を終えましたが─────、

 

 

 

 

 

 

 

……………加賀宮士が使用していたカオステクターとメモリアルチップ。この二つだけは、何処にも見つかりませんでした」

 

 

そうか、と千冬は短く答える。静かに口を閉ざした彼女の瞳は何かを理解したように、鋭く光りながらも────僅かな悲哀を込めていた。

 




地獄みたいな世界。士が九条アンナに向けた殺意は怒りや憎しみではなく、仲間達を守るという使命感の為。まぁ自分の命を燃やし尽くしてまで自爆しようとしたのも、結局は失敗したんですけども。

因みに加賀宮士が最初の搭乗時、元気そうな振る舞いをしていたのは『先生』や『ナツハ』のロール。昔二人に元気に振る舞ったらどう? と言われたことを気にしていたから、自分なりに元気に振る舞っていた、ということです。





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