IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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第84話 継焔

「─────龍夜とラウラは? 何処に行ったか分かる?」

 

「さぁ?ラウラの方は織斑先生に報告って言ってたけど、龍夜は分からないわ。なんか、野暮用だって言ってた気がしたけど」

 

 

休憩室で待機していた一夏達。ふと崩壊した拠点の整備の手伝いをして帰ってきたシャルロットが、この中で不在である二人の仲間の存在を聞く。それに答えたのは鈴音だった。ソファに座ったまま天井を見上げる彼女に、シャルロットはそっかと納得する。

 

同じように部屋にいる候補生達、彼等の空気は薄暗いものだった。理由は明白、数時間前の戦闘で起きた悲劇─────加賀宮士の死が大きく関わっている。

 

 

特に、気に病んでいるのは一夏と箒の二人だ。IS候補生として選ばれ、仲間や家族を守るために戦うことを決意した一夏と箒は、人死には覚悟しているつもりだった。

 

だが、死ぬ直前まで家族のことを案じ、それだけの為に自爆しようとした加賀宮士。あまりにも悲惨な末路を遂げたアナグラムの青年の最期に、二人の心は大きく揺らいでいた。

 

 

他人を踏みにじるような悪人と戦うだけではない。自分達は敵と、同じように仲間を守るために戦う人間を相手にしているのだ。そして、そんな誰かを────自分達はまた殺すことになるのか。

 

 

「………なぁ、鈴」

 

「勘違いしないで。アイツを殺したのは、私自身の意志。やらなきゃ皆が死んでたから殺したの。責任感を負うんなら、余計なお世話よ」

 

「…………強いんだな」

 

「まぁね。伊達に軍に選ばれて、鍛えてきたんだから。これくらいの覚悟は当然のことよ」

 

 

技術的にも、精神的にも。

生半可な覚悟で戦場に出ていた自分達とは違い、彼女達は命を奪うことを理解した上で戦い続けてきた。自分も、彼女たちのように強くならねば、と思う。力よりも、己の心を。

 

 

「───ほいほーい、邪魔するでー」

 

 

そうやって扉を開けて入ってきたのは、フユキ・スイゲツだった、欠伸を噛み殺すような呑気な空気を漂わせながら現れた少年は持ってきたケースから色々な食事を取り出す。

 

 

「お客人で恩人の皆にメシ持ってきたでー。色々と疲れて思うところもあるやろうけど、まずは腹拵えした方がええやろ。美味しいモン喰って、気持ち切り替えな」

 

 

マイペースな雰囲気で、色々な料理を机の上に並べるフユキ。あ、ありがとう と答える一夏にフユキは、ええってことよ と笑った。その上で、食器を出しながら、口を開く。

 

 

「────気ぃ病まんくてもええで? 自分らは、今回の件を恨んどらんし、とっくに割り切っとる」

 

「………けど士は、仲間だったんだろ?」

 

「まぁな。けど、事情が事情やし。あの時の士は、ああした方が幸せやった。アイツはもう、死ぬ以外に救いはなかったんや」

 

「…………」

 

「淡白に見えるかいな? これなりに、自分でも割り切った方やで? ──────それより、一番思うところがあるんはそこの子やろ」

 

 

気にするな、と軽く笑うフユキ。かつての仲間が殺されにも関わらず、彼は自身の本心を押し殺しているように見えた。しかし、フユキは逆に一夏達────というよりも、特段平然としている鈴音に向き直り、そう告げた。

 

 

「そう? 悪いけど、そんなに気にしてないわよ。やれることをしたとは思ってるから」

 

「────キリちゃん先生の教え子なんやろ。複雑じゃないんか?」

 

「……………」

 

「え? キリちゃん先生って………」

 

「知らんの? キリちゃん先生、お前らと一緒に来てたやんか」

 

 

その話題が出た途端、沈黙する鈴音。誰のことを言っているのか分からない一夏達だったが、平然と話すフユキの言葉で彼が言う『キリちゃん先生』が、今回同行していた霧山先生であることを理解する。

 

 

「ですが、何故霧山先生が話に出てくるんです? 今回の件、あの人が関係しているとは…………」

 

「そりゃ、キリちゃん先生は元々ここで教師やってた訳だし、士もキリちゃん先生の教え子やからな」

 

「────え」

 

 

今度こそ、言葉を失う一同。彼女が昔から教師をしている話は聞いていたが、『隔絶区域(コードレス・エリア)』に居たことは初耳だった。────ただ一人、彼女と良く話していた鈴音を除いて。

 

同時に彼等は、鈴音が背負った重みを更に理解させられる。鈴音は自分が慕う恩師の教え子を殺したのだ。仕方なかったとはいえ、どんな顔で彼女と会えばいいのか。どんな態度で、霧山先生と向き合うべきなのか。

 

 

「───おう、フユキさん。ここに居たのか。お疲れ様です」

 

「ん、お前か。何してんねん。今客人の相手しとるんや、待っとけ…………………あ?」

 

 

ふと扉を開けて入ってきたレギオンの構成員。呑気な雰囲気の少年兵に手を払って部屋から出るように促すフユキは、ふと何かを思い出したように顔をしかめる。そのまま食事を運ぶ手を止め、仲間の少年に声をかける。

 

 

「おい、お前。仕事どしたんや」

 

「…………仕事? 終わったけど」

 

「アホか、まだ時間やないやろ。まさか、忘れたんやないやろな?」

 

 

フユキが言う仕事とは、九条アンナの監視だ。今現在、国連への引き渡しの為、レギオンが拘留する形になり、一部の信用に値するメンバーが交替で監視して、逃げ出さないように見張っているのだ。

 

少年がまだ交替の時間ではないのに出歩いていることに、フユキはサボりを疑うが、少年はこんな空気でも平然とした口で語り始める。

 

 

「あー、その事ね。さっき変わってくれたんだよ。私が代わりに見張っとくから、休んできなって!」

 

「………代わったぁ?一体誰が───」

 

「─────霧山先生だよ。ほら、あの人ならこの事知ってるし、安心だなーって」

 

 

なんやと? と、士が口を開きかけた次の瞬間────巨大な爆音が、一帯に響き渡った。

 

 

「なっ、なんだ今の!?」

 

「爆発や───けど、一体何が起こったんや! また敵襲かいな!?」

 

 

混乱しながらも、即座に動くフユキや仲間の少年。取り出した無線機で周囲との連絡を取り、少年に爆発の発生場所の特定を指示している。

 

エネルギーが回復したISをローエネルギーモードで起動するー同。展開したステイタスウインドウで爆発の発生源を捕捉しようとしたその時、ある高エネルギー反応を確認した。

 

それは、本来有り得ないものだった。

 

 

 

 

幻想武装(ファンタシス)─────サラマンダー!?」

 

 

先の戦いで自分達が倒し、結果的に殺すことになった少年の扱う幻想武装。同時に行方知らずとなっていたそれが起動したことに、戸惑いを隠せない一夏達。

 

 

しかし、その単語を聞いた二人────鈴音とフユキは全てを理解した。士の死後、周辺から消えたカオステクターを持ち出し、起動させたのが誰であるのかを。理解、出来てしまった。

 

 

◇◆◇

 

 

数分前。

内側から出ることの出来ないように操作された、人並みに充実とした客室。誰かを拘留するには些か相応しいとは言えないその部屋で、九条アンナは苛立ちを隠せずにいた。

 

 

「…………電話も持ってくなんて。脱走するとでも思ってるのかしら」

 

 

元より逃げ出す気などない。何故なら自分はすぐに社長として返り咲くのだから。今も尚、彼女の仲間────女性権利団体が動いてくれている。組織の力を利用してでも、九条アンナを無罪にしてくれるように取り入ってくれるはずだ。

 

彼女はそう信じている。何故なら自分が、女性権利団体という組織に貢献してきた幹部であり、彼女たちが最も大切に扱う同志────女性であるからだ。

 

何より、組織のメンバー達が自分を見捨てるという選択肢はない。彼女は、女性権利団体を大きくするために、多くの不正や汚職を揉み消してきたのだ。自分を見捨てるということは、その情報をバラされてもいいと言っているようなものだ。

 

だから、待っていればすぐに助けは来る。公的にも、裏側のやり方であっても。彼女はそう信じながら、部屋に用意されていた紅茶を飲み、直後に顔をしかめた。

 

 

「味が薄いわね。あんな低劣な連中には、こんな物しか用意できないのかしら」

 

 

吐き捨てるように告げる彼女の顔が、更に険しくなる。何故自分がこんな目に遭っているのか、それを思い出し苛立ちを強めているのだ。無論、自分のせいだとは微塵も感じていない。

 

悪いのは、あの子供達だと疑って迷わない。自分が彼等を襲い、多くの子供を犠牲にしたことも、界滅神機を使って殺そうとした事への反省すらない。女尊男卑、というより政治の社会で他人を食い物にしてきた彼女からすれば、弱い立場にいる子供達の方が、自分の邪魔をする彼等の方が悪いのだから。

 

 

「…………アイツらはもう勝ちを確信しているけど、私はまだ諦めない。彼等に正攻法で勝てないのなら、人質を使えばいい。………幸い、マトモに戦えない子供が何人かいるみたいだし」

 

 

自分を助けに来たのが武装した兵士なら、何人か拐わせるか。と今になってそんな事を考える九条アンナ。下手したらレギオンのメンバー達にリンチにされても可笑しくないことを、さも平然と考える彼女の後ろで、閉ざされた扉のロックが解除された。

 

 

「………あら、来たのね。遅かったじゃない」

 

 

彼女はそれを、自分を助けに来た相手だと信じて疑わなかった。ようやく振り返った彼女は、ゆっくりと開いた扉の隙間から飛んできたものに気が付かなかった。

 

それは、彼女の首に突き刺さった。小さな針の付いたカプセルだった。何らかの液体が入っていたようだが、今は少ししか残ってない。それを引き抜いた途端、九条アンナの視界が大きく揺れた。

 

 

「──あ、あえっ、────!?」

 

 

誰だ、と声に出そうとして、言葉が出なかった。舌が回らない。全身の筋肉が痙攣しているのか、マトモに立ち上がることも出来ない。ふらつきながらも何とか逃げようとする彼女の脚が、突如伸びてきた脚に払われた。

 

バランスを崩し、横転する。起き上がろうとした彼女の手を、扉から出てきた何者かが踏みつけ────顔を上げた九条アンナの顔を蹴り飛ばした。

 

 

「あがっ、ぶぇ……っ」

 

「────ああ、遅かっただろうな。だがようやく、お前を殺す死神が来たぞ」

 

 

部屋に入ってきた何者かはそれだけ言うと、部屋の扉をロックし、悶える彼女を見下ろした。左手にはナイフを、右手に拳銃を握り、何者かは明確な殺意を以て九条アンナを睥睨していた。

 

鼻から噴き出した血を抑えようとする彼女の髪を引っ張り、その人物は彼女の顔に視線を合わせた。

 

 

「お前は私を覚えているか? 九条アンナ」

 

「う、ぅ………っ!?」

 

「覚えていないだろうな、お前みたいなヤツは。だが、私は覚えている。お前があの時、彼等に向けた視線も、彼等へ吐き捨てた言葉も、全てを覚えている」

 

 

何者かが誰なのか、九条アンナには思い出せなかった。彼女には知る由もないが、大勢の人間に恨まれていることは事実だ。たとえ思い出せたとしても、その中の一人だけをすぐに把握することなど、難しいだろう。

 

 

「薬の効果で会話くらいは出来るはずだ…………答えろ、全てお前が指示したんだろう。数年前から始まった、クインス社の末端による子供の拉致監禁、拷問の果ての殺害─────彼等のリーダーだったクロガネ・ナツハを誘拐し、爆弾を埋め込んだのも、お前の仕業だろう」

 

「わたっ、わたしはしら────ッ」

 

「ここまできて言い訳するのか。ならいい。思い出したなら何時でも教えてくれ。お前の気が変わるまで、私はお前を苦しめるだけだ」

 

 

その人物が向ける冷たい目に、九条アンナは初めて恐怖に身を震わせる。生まれてからずっと自分が他人を食い物にする、他人より上の立場にいた彼女には、到底感じたことのない感情。ただ震えていることを九条アンナのプライドが許さなかった。

 

────そんな彼女の誇りは、躊躇なく痛め付けてくる何者かへの恐怖で消え去った。

 

 

「…………気が済んだか?」

 

 

つまらなさそうに嘆息を漏らし、血に濡れたナイフのグリップを下ろす。呆れたような視線の先では、鼻や口を血と鼻水で汚し、両手を前に出して震え泣く女性がそこにいた。

 

 

「そ、そうでしゅ………私が、全部、命令………しまじたっ。わだっ、しが、そうしろって………指示っ、して────」

 

「………たかがこれだけで音を上げるとは、呆れたな。お前が殺してきた子供達は、これ以上の苦しみを味わったのに」

 

 

数発の殴打で、自身のプライドが折られた九条アンナの自白に、その人物は軽蔑に近い視線を向けながら、拳銃を向ける。

 

殺す訳ではない、まだ。彼女には死ぬ直前苦しみを与えるつもりだ。急所を外して、苦痛だけを刻み付けていく。

 

 

「やめ、やめっ───ゆるして」

 

「────赦しは私ではない。お前が殺してきた、あの子達に向けて言え」

 

 

まずは手始めに足だ。そう考え、拳銃の銃口を向け、引き金に掛けた指に力を込める。その光景を頭に浮かべた人物の目の前で、

 

 

 

 

 

 

────カァン!! と、突如飛来した物体が拳銃を横から弾き飛ばした。

 

 

「────ッ!?」

 

 

無理矢理拳銃を弾き飛ばされ、痛む手を抑えながら飛び退く。何者かはすぐに空中に浮かぶ飛来物、エイのような小さな機械────サポートガジェットだった。それの存在を知ると、その人物は心当たりがあるらしく目を見開く。

 

 

「これは………!まさか!」

 

「─────何とか間に合ったが、危なかったな」

 

 

ロックされた扉を解除し、二人が入ってくる。飛行していたサポートガジェット『レイグライダー』を回収する龍夜。そして、彼の隣に立つ黒スーツの女性────織斑千冬。彼女は目の前に立つ何者かを見据え、静かに口を開く。

 

 

 

「手を引け、霧山…………いや、友華」

 

「……………」

 

 

言われた謎の人物────霧山友華。ふと、足元に弾かれた拳銃を即座に回収する。瞬間、弾かれたように距離を縮める千冬に向かってナイフを飛ばし、彼女がそれを受け止める合間に、未だ動けない九条アンナに向けて拳銃を突き付けた。

 

 

「………銃を下ろせ、友華。その件だけは不問してやる」

 

「その件だけは、ね。まるで私が他にも何かしたみたいな言い方じゃないか」

 

「実際に、しただろう? お前は」

 

 

心底呆れたように、溜め息を吐き出す千冬。何を分かった事を、と彼女との距離感を実感しながらの発言。しかし、これだけは提示しなければならない。千冬は前々から共有していた事実を、口にする。

 

 

「────アナグラムに協力し、内通していたスパイ。それはお前だった訳だ」

 

 

沈黙で答える友華。静かに笑った彼女は拳銃を持ち上げ、肩を竦める。その立ち振舞いは、自分に掛けられた疑惑を否定するどころか、肯定するものにしか見えない。

 

 

「…………なんで、分かったのかな?」

 

「───少し前に、アナグラムに情報が流れた件があったろう。クラスマッチの騒動の際、シルディが持ち去ったUSB、それをお前が仕込んだのも、証拠として取れている」

 

「でも、私がスパイと確信した証拠は? 君達の事だ、他にも理由はあるんだろう?」

 

「─────貴方が優しいからだ。霧山先生」

 

 

そう告げた龍夜は冷徹ながら、複雑そうな感情を隠しきれない。スパイと信じきるには充分とは言えない理由だが、加賀宮士、彼女の教え子がアナグラムに所属する事を知ったことで納得できた。

 

 

─────テロリストとしての道を選んだ教え子を見捨てられず、力を貸すしかなかったのだろ。何故なら彼女は一度、自分の教え子達を見捨てた────見捨てざるを得ない立場にあったのだから。

 

 

「………やれやれ、私には似合わないことだったのかね。こんな簡単にバレるなんて」

 

「分かったら銃を捨てろ。お前には無用のものだ。教師が本来、持つべき物ではないだろう?」

 

「そうかもね─────だが、これを捨てる前に、スパイとして裁かれる前に、やるべきことがある」

 

 

困ったように笑いながら、友華は手にした拳銃を九条アンナへと構え直す。彼女のやろうとすることに気付いた千冬は鋭い声でそれを止めようとする。

 

 

「止めろ!友華!」

 

「この女は反省してない。きっと裁かれても、罪を償った後も、平然と弱い子供達を踏みにじる。その前に、私が殺さなきゃいけない─────あの子達の仇を討たなきゃいけないんだ。先生である、私が」

 

「教師であるお前が! 人殺しをして堕ちた姿を、子供達が望むと思うのか!?」

 

 

ピタッ、と銃口を向ける手が止まる。微かに震えた友華は静かに、穏やかな声で語り始めた。

 

 

「…………私は、ここから離れた教師の中でも、最後の一人だった」

 

「………」

 

「最後まで、私は諦めたくなかった。だからこそ、ここから離れることになった後も、子供達の安全だけは守りたくて、クインス・コーポレーションに、この女社長直接頼み込んだんだ。…………そしたら、コイツは何て言ったと思う? 子供達の事を、何て言ったと思う?」

 

 

彼女は、霧山友華はあの時の事を忘れたことはない。あの日、九条アンナの元で嘆願したことを。子供達だけには手を出さないで欲しい、と。そんな彼女の願いを、九条アンナは花で笑ったのだ。嘲笑と、傲慢満ちた言葉と共に。

 

 

「────『人権の無い子供なんて、守る必要もない。それなら全員殺した方が楽に決まっている。そもそも誰からも必要とされない子供が、私達の仕事の邪魔をするだけで、死んで当然』。この女は、私の前でそう言ったんだ! あの土地の子供達は、政府が見放した孤児だから殺しても問題ないって! ゴミを掃除するんだから、社会からは感謝されるって!!紅茶を啜りながら、そうのたまったのさ!!」

 

 

腕を振り回し、怒りのままに叫ぶ友華。彼女は今にも銃弾を浴びせかねない程、激昂していた。自分が味わった屈辱以上に、彼女の言い放った言葉。子供達をゴミとしか見ていない彼女のやり方が許せないのだ。

 

かつて学校から離れた後を、友華は何も知らなかった。子供達の何人かがクインス社によって殺されたこと、自分の教え子の一人だったナツハが殺され────復讐に狂った士が人殺しを為した果てにテロリストに成ったこと────彼自身が、自分の夢を捨てたことも。

 

全て後から知った友華は激しい絶望と後悔に身を費やし、遂にはアナグラムの、士の協力者としてスパイをすることにした。無論、本気でテロに荷担した訳ではない。アナグラムとは、無闇に生徒を殺したり傷付けたりしないで欲しいと約束を結んでいた。────幸い、シルディ達はその約束を破ることはなかった。

 

 

だが、全てが無意味になった。現場に駆け付けた友華の目の前で、士は死んだ。悶え苦しみながらも、自分達の敵を葬ろうとした結果、自分が教えてきた学生達によって止められ、最終的に息絶えた。

 

掠れた声で泣き叫んだ彼女は、復讐を決意した。大切な子供達を苦しめ、殺し、大切な教え子を死に追いやった九条アンナを。あの人でなしに子供達が受けてきた以上の苦しみを与えて、惨めに殺してやる、と。

 

 

「たとえあの子達が望まなくても、私はこの女を殺す!それが殺されたあの子達に対する、何も出来なかった私がすべき、贖罪なんだ!!」

 

 

両手で握った拳銃の引き金を引く────瞬間、龍夜が操作したガジェット『レイグライダー』が突貫する。銃弾が飛び出すよりも先に飛翔した『レイグライダー』の翼、刃のように展開されたブレードが拳銃の銃身を切り捨てた。

 

 

「───ッ!」

 

「良くやった、蒼青………もういいだろう。諦めろ、友華」

 

「………諦めろ、だって?」

 

 

破壊された拳銃とナイフを放り捨てる友華。フラフラと揺れる彼女の姿は幽鬼のそれであった。千冬から掛けられた言葉を理解した途端、彼女は笑い始める。腹の底から込み上げるような笑い。それは自暴自棄に近い、一種の決意を秘めた意思があった。

 

 

「諦めろ、諦めろだって!? 苦しんできた子供達や教え子達を救えなかった、この私に!? あの子達に報いることすら、私に許されないのか!?」

 

「…………」

 

「私は、どうなってもいい。子供達の為であればこの命──────喜んで棄てるよ」

 

 

彼女が取り出したのは、行方不明になっていた加賀宮士のカオステクター。そして同じように見つからなかったメモリアルチップを握り締め、呟く。

 

 

「────士、私に力を貸してくれ。皆を、あの子達を守り通せる力を!!」

 

「っ!まさか────止めろ!友華!」

 

「あらゆる悪を、あの子達を脅かす敵を焼き尽くす煉獄の炎を!私の命を薪として、与えてくれッ!!」

 

 

叫ぶ千冬の前で、友華はメモリアルチップをカオステクターに差し込んだ。そして、オブリビオンの力に汚染されたカオステクターを、自身の胸へと装着した。

 

 

「─────あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ ッ ! ! ! 」

 

 

直後、友華は悶え苦しみ始める。カオステクターによるウロボロス・ナノマシンの注入、オブリビオンの力による肉体の侵食。二つのエネルギーが身体を蝕むごとに、激痛となって全身に響いていく。

 

頭を抱えて悶えていた友華。ふと、彼女がゆっくりと顔を上げる。飄々とした雰囲気は消え去り、殺気立った彼女の顔に虹色の光のラインが走る。

 

悲鳴のような絶叫を響かせる彼女の全身が、黒い液体に呑まれる。万能の物質 ウロボロス・ナノマシンが彼女の肉体を覆う幻想の鎧を、構築していく。

 

 

灼熱の空気が、部屋の中に充満する。

千冬の前に出た龍夜は、静かにISを、『プラチナ・キャリバー』を展開する。目の前で蠢く炎の塊への警戒を緩めない。

 

 

『────ア、アアアア………ッ!!』

 

 

幻想武装 サラマンダー。

灰色の金属で全身を覆った顔のない竜。全身に熱を放出し、背中のボイラーから煙を吐き出す炎竜が、更に変化を遂げる。

 

頭部ユニットである金属のプレートが左右に解離し、内側から本当の顔が露になった。妖しく発光する六つの眼光。下顎を二つに割りながら、サラマンダーは自身の熱と炎を撒き散らし、咆哮を響かせた。

 

 

────己の命を燃やし尽くしてでも、子供達を害するものを排除するという強い覚悟を胸に。死んだばかりの教え子と同じように。

 




残火継焔、残った火を継いで大きな焔にするという意味で書いてました。加賀宮士が遺した幻想武装(サラマンダー)を先生である友華が継ぐ、というストーリーの内容を暗示してました。

うーん、クソ()

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