深紅の世界で、サラマンダーが起き上がる。火竜が動くだけで、周囲の空間が灼熱により焦がされ、熔かされていく。天井も床も壁すらも、ドロドロに熔けた赤い液体の中でサラマンダーは空気を震動させる程の咆哮を響かせていた。
「────織斑先生、その女を任せました」
「分かった。………だが、蒼青。気を付けろよ」
「言われずとも」
サラマンダーの中身、IS学園の教師である霧山友華への躊躇が生じるとでも言いたいのか。余計なお世話だ、と冷徹に呟いた龍夜は大盾と剣を構え直し、目の前の火竜へ意識を集中させる。
『────ァ』
サラマンダーの六つの眼光が、龍夜の背後を見据える。織斑千冬が引きずる女性 九条アンナを認識したサラマンダー、友華の思考が熱を帯びる。
────殺すべき相手の姿に、理性が燃え尽きた焔竜が吼えた。
『────ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ ッ ! ! ! 』
熔岩のような高温の液体を撒き散らしながら、サラマンダーが腕を振り上げて飛び掛かる。その狙いが、九条アンナに向けられていることを察した龍夜は即座に形態変化に移行。
アクセルバーストフォームに切り替わったISを纏い、龍夜は『瞬時加速』よりも高速の────『超加速』による距離を縮める。此方を無視したサラマンダーの横っ腹に突撃し、そのまま突き飛ばす。
『───ッ!』
獲物、恨む相手への攻撃を遮られたサラマンダーが怒りの声を滲ませ、灼熱の
「思考も機能してない…………いや、憎悪に支配されているのか」
これもオブリビオンによる影響か。あんなに温厚で穏やかだった彼女から感じる憎悪と殺意に、龍夜は改めて幻想武装とオブリビオン、その二つの性質への畏怖を実感する。
背中の大型スラスターの出力を解放し、一瞬にして接近する龍夜。蒼光の刃を纏う銀剣 エクスカリバーによる高火力の一撃をサラマンダーに浴びせる。
胴体を切り裂かれた火竜が腕を振り上げ、指先から熱線を放射する。五指から放たれた業火の熱線が綺麗に並ぶ。並列に振るわれた五つの焔斬に、龍夜はスラスターに全てのエネルギーを注ぎ、回避に徹する。
触れるだけでシールドのエネルギーを一気に削り取る、超高火力の攻撃の数々。高温の熱量を纏うサラマンダー、オブリビオンによる強化された幻想武装の力は、龍夜からしても厄介と断言できるほどの代物へとなっていた。
────だが、倒せないわけではない。
そう判断した龍夜は、エクスカリバーにエネルギーを集中させ、光速を以て接近していく。雷光のように屈折していく彼の姿は超速のまま飛翔し、サラマンダーの背後へと到達する。
【OVER ENERGIE DISCHARGE!】
蒼き光の増した刃を、サラマンダーの背中へと振るう。この一撃で、霧山友華の幻想武装を破壊する。そうすれば、全てが終わる。冷静にそう考えた龍夜が光剣を振り抜こうとした、次の瞬間だった。
────いつもの彼女の姿が、教師として皆に笑顔を向ける友華の姿を幻視したことで、龍夜の思考が大きく揺らいだ。
「─────っ!!」
(何故、外した!? 今のを決めれば、サラマンダーを倒せたのに──────いや、そうか)
咄嗟の隙に、サラマンダーがその一撃を回避する。必殺の一撃が避けられたことに、龍夜は歯噛みする余裕もない。ただ躊躇してしまった己に、自分自身が彼女を撃破することで、殺してしまうかもしれないことに躊躇したことを自覚する。
(俺が、あの人を殺してしまう可能性を考えたからだな)
無意識にも、彼女を死なせたくないと感じた自分に呆れ混じりに笑う。アレだけ冷徹に振る舞っていたにも関わらず、肝心なところで躊躇してしまうとは。
そんな龍夜に、振り返ったサラマンダーが牙を剥く。全身で押し掛かるように突撃する焔竜に、龍夜はその場から離脱するために残存したエネルギーを使用する。
すんでの所で回避しきれた龍夜。しかし、目の前の火竜の胴体の傷口、そこを覆う黒い液体が蠢き、形を為していくのが見える。膨らんでいった黒い液体は────骨格だけで構成された、黒い竜の頭蓋へと変化した。
「アレは────レッドが扱っていた!?」
かつて相対したレッドが身体から生み出していた、黒い竜の東部を模したユニット。それに近い部位が現れたことに驚愕を隠せない龍夜の前で、黒い竜のユニットが口内に蓄えた光をレーザーとして放出した。
それをエクスカリバーで斬り弾く龍夜だが、その間にサラマンダーが距離を縮めて来ていた。此方に掴み掛かろうとする焔竜から逃れようと、スラスターからエネルギーを噴き出そうとして─────不発に終わる。
(ッ!? エネルギーがもう、不味────ッ!)
さっきの必殺の一撃を外したのが、大きな失敗だった。それに気付いた時には、サラマンダーが豪腕を以て龍夜の身体と腕を掴んできたのだ。拘束から逃れようとした瞬間、龍夜は自身の身に起きた変化を理解する。
「ッ!? がァアアアアア! ! ! ? 」
ジュゥゥゥゥ!! と、触れた部分が熱で焼かれていく感覚を理解する。熱い、痛い。熱い、熱い、熱い────胸元と手首に集中する激しい灼熱に、龍夜は溜まらず絶叫を吐き出す。
思考が、定まらない。あまりの痛みに、何も聞こえない。電脳越しに叫ぶラミリアとルフェの悲鳴も、正確に認識できない。唇を噛み締めた部分から血が滲んだ涎を滴しながら、龍夜は腹の底から絞り出すように叫んだ。
「─────な、めるなァッ!!!」
エクスカリバーの束で、サラマンダーの胴体を殴り付ける。それによって押し込まれたトリガー、必殺技の発動のスイッチが起動し、銀剣の刀身に残存するエネルギーが集中する。
【OVER ENERGIE DISCHARGE!】
「ライトニングッ! ツイン、ブレイクゥ!!」
光刃を二度振るい、自身を拘束する腕を切り裂く。熱の鎧をぶち抜く光の斬撃を浴び、サラマンダーが思わず手を離す。その場に崩れ落ちた龍夜に、火竜は怒りの唸り声をあげながら歩み寄る。
─────だが、数発の閃光がサラマンダーの歩みを止めた。それは上空に飛翔したセシリアの狙撃によるものだった。同時に、複数の機影がサラマンダーの前に飛び出していく。
「おおおおっ!!」
「でえあああっ!!」
「一夏! 箒! 二人とも出張り過ぎだってのよ!」
「シャルロット! 手を貸せ!───セシリア! ヤツの視界を潰せ!」
『分かりましたわ!』
突如、現れた一夏達がサラマンダーの動きを撹乱した瞬間、サラマンダーの足元に狙撃をすることで視界を遮る。その合間を狙い、全員は負傷した龍夜を連れて一時離脱するのだった。
廃墟の影に隠れ、安堵する一同。しかし彼等は、龍夜の状態を見るや否や、顔色を変える。
「龍夜! お前、それ………」
「…………俺としたことが、油断したな………だが、軽度だ。安心しろ………」
装甲をぶち抜いた、火傷の痕。手首や胸元に刻まれた痛々しく焼かれた肌の状態。その有り様に皆が言葉を失うのは無理もなかった。そんな彼等に龍夜は平然と接する。───彼等が知るべき事実は、これ以上に重いものだからだ。
「気にするな………それよりも、話がある」
「話って!こんな状態で何を─────」
「サラマンダーの中身は────霧山先生だ」
今度こそ、一夏達は絶句してしまった。いや、理解を拒絶していたのかもしれない。
「何、言ってんだよ………霧山先生が、サラマンダーを?」
「…………理由なら、分かるだろ。あの人は、教え子の仇を討つつもりだ。子供達を苦しめる大人を、排除することで」
「………ッ!」
心当たりしかなかっただろう。
彼女がかつてこの地にあった学校で教師をして、多くの子供達を大切に想っていたのなら、九条アンナを筆頭とした大人達のやり方を容認出来ない、許さないはずだ。
彼女がどれだけ優しく、どれだけ生徒思いなのかは分かっている。だからこそ、霧山友華の憎悪を、子供達を食い物にする大人への怨嗟を、理解するしかなかった。
「だが、きっと無理だ。あの人が使ってる幻想武装は、オブリビオンの力に汚染されてる…………あれを使い続けたら、霧山先生も、死ぬことになるかもしれない」
「────そんな……! 何とか出来ないの!?」
「………一夏の零落白夜なら、幻想武装を強制的に破壊できる。だが、あの状態のサラマンダーに当てられるかどうか………」
つまり、何とかするにはサラマンダーを弱らせる必要がある。この中で最も強力な火力を誇る龍夜は火傷が酷く、前線に出れる状態ではない。
ならば、誰が前線に出るのか────一夏は当然駄目だ。トドメを決めるのは一夏でなければならないからこそ、彼は待機していなければならない。
「────私がやるわ」
そんな最中、たった一人。声を挙げたのは、覚悟を決めた顔で気を引き締めた鈴であった。
◇◆◇
敵を見失ったサラマンダー・オブリビオンは、燃え盛る廃墟の中を歩いていく。世界が焔に呑まれていく。サラマンダーが発した灼熱が、周囲の物体に発火し、あらゆる物を熔解させていく。
『────ア、アア…………』
虹色の光を宿す火竜は、何処かを目指していた。九条アンナ、織斑千冬に連れられて逃げたあの女を殺す。場所は分からない、ならば燃やせばいい。探せばいいだけだ。 そう判断したサラマンダー・オブリビオン────霧山友華には理性など残っていない。
憎しみの炎に思考を焼かれた彼女には、子供達を苦しめた大人を殺すことしか頭にない。光に群がる虫のように、塗り潰された思考の中で、友華は憎い相手を追い回すことしか出来ないのだ。
そんな火竜の歩みを止めたのは、爆炎の音の中響く声であった。
「────先生」
ピクリ、とサラマンダーが震える。目の前に立つ少女、鈴の姿を目の当たりにした火竜が、呻くような声を漏らす。理性を失ったはずの女性は、幻想武装の中で絞り出すような声を口にする。
『…………鈴、ちゃん………』
「もういいでしょ、先生。その鎧を脱いで、帰って来てよ。皆、心配しているだから」
『────』
彼女の理性は、それだけで正常に戻った。数ヵ月と言えど、大切に思っていた教え子。ISに身を包んだ鈴を眼にした友華は正気を取り戻し、敵意を消失させる。
けれど、鈴が差し出した手を取ることは、彼女の願いに答えるなかった。
『───ダメ、だ。ダメなんだよ』
「…………」
『私は、もう戻れない………私は教師に成りたかったんじゃない。子供達を、彼等を助ける大人に成りたかったんだ………だから、私は教師に憧れて、教師に成りたかった』
霧山友華は、己の原点を語る。子供達を教え導き、時には生きる希望を持てない子供を救う、教師というものに憧れを持っていた。
自分も、多くの子供を助けたい。彼等に未来を見据えるように教えていきたい。そう願い、教師として子供達を育ててきた彼女に待っていたのは─────残酷すぎる景色だった。
『でも、私には救えなかった…………ナツハも、あの子達も────士すらも。子供達が苦しんで死んだのに、助けられなかった私に、教師である資格なんてない……………私は、苦しむんだ。あの子達以上の苦しみを味わって、子供を踏み台にする大人達を皆殺しにして─────私は、死ぬんだ』
大切に思っていた教え子達の死に続いた、士の死。護るべき、救うべき子供が絶望しながら死に行く姿を見て、彼女の心の芯は砕け散ったのだ。
その心の隙間、絶望に満ちた空虚に入り込んだのが、自棄に近い覚悟を有した復讐心。小さな火種が、あらゆる感情や記憶を薪として、一気に強く、深く燃え滾っている。
『…………それに、手遅れなんだ…………私は、可笑しくなってる。視界に映る皆が、憎く見える────鈴ちゃんのことを、殺さなきゃって─────士の仇だって、思っちゃってるんだ』
嫌がるように否定する友華。自分の教え子を、大切な生徒を殺したくない。そう告げる彼女の意思とは裏腹に、渦巻く憎悪は増幅していく。
『この力が、流れてくる力が、全てを憎めって、叫ぶんだよ……………全てを燃やして、焼き尽くせって。士の望んだように、何もかも焔に還せって─────あの子がそんなこと望むはずがない、きっと私は壊れてるんだ。だから、私は死ななきゃいけないんだ…………あの女を、コロして』
ガタガタ、とサラマンダーの身体が小刻みに震える。視線が定まらない六つの瞳からは黒い液体が流れ出し始める。狂気に、胸の内から溢れる憎悪の炎に思考が蝕まれている証拠だった。
『私、ワタ───私が────あの子達────仇、ヲ』
「…………ま、仕方ないか」
明らかに異常な光景に、鈴は深い溜め息を吐き出す。一瞬、心の底から悲しそうな眼をしたかと思えば────気を引き締め、強い覚悟を感じさせる表情へと切り替えた。
「いくわよ、先生────叩きのめしてでも助け出すから。覚悟してよね」
『殺、ス───殺す殺す殺ス殺su、kill、kill、kill、kill、killkillkillkill─────!!』
怨恨に満ちた殺意を放ち、サラマンダーは蒸気を噴きながら牙を剥く。振り上げられた剛腕が地面を砕き、一際大きな爆発を引き起こす。
それが────今回の騒乱、『
◇◆◇
異様な熱気が充満した廃墟群。無数のビルの残骸、倒壊した建物を掻い潜り、『甲龍』を駆る鈴は両肩に浮遊する衝撃砲を放つ。
衝撃を砲弾とした一撃は、サラマンダーの胴体に響く。しかし、それだけである。即座に顔を上げた火竜が口の中に溜め込んだ1000℃を越える灼熱が、極太の熱線として放たれた。
天に届き、空を引き裂くオレンジの閃光。絶対防御があるからと言って油断できない。人体は愚か、金属の装甲すら消し飛ばす火力だ。スラスターの加速により回避した鈴は、即座に『
懐に飛び込んだ鈴はサラマンダーの腹を蹴り付ける。仰け反った火竜に追撃をしようとした鈴は────即座に熱線を展開した腕が振り上げられたことに気付き、一瞬で背後に回る。
─────やぁ、君の担任になる霧山友華だ。宜しく頼むよ。
青竜刀による一太刀を浴びせた瞬間、脳裏に蘇るのは過去の記憶。一抹の、一つの小さな夢のように、一瞬だけ過ぎ去る記憶。穏やかに微笑む、凛々しい女性の姿に、鈴は揺らぐ心を無理矢理抑え込む。
『…………私、は』
猛攻を繰り出すサラマンダーが、か細い声を漏らす。うわ言のような、正気ではない独り言なのだろう。
『私は、先生として………子供達の、笑顔を、幸せを、守ル────何として、も。何があっても、あの子達が笑える、居場所だけは────』
─────はは、相変わらず元気だね。その調子で、クラス代表として頑張るんだよ?
─────特訓か、こんな時間まで一人で大変だね………うん、どうせなら私も付き合おう。生徒の悩みに応えるのが教師の務めだからね。
「────先生ってば、本当に優しいのね」
鈴は知っている。自分の担任が、霧山友華が教師を志した理由も、教師足らんとする理由すらも。そんな彼女がこうなってしまったのは、身勝手な大人達のせいに違いはない。
何も彼女だけが悪くないとは言わない。スパイとしての行いは裁かれるべきだろうし、今回の暴走も止めなければならないのは事実だ。
─────だからこそ、鈴は揺れ動きかけた心を落ち着かせた。今までにない集中力と、失敗は許されないという覚悟。この二つが重なり、今まで以上のコンディションを引き出した鈴は自身の感じる周囲がいつもより遅く感じられた。
「────もっと、動けるでしょ、私! もっといけるでしょ、
『──────』
「こういう時の為に、強さを求めたんじゃない! 私達の先生を止めて、連れ戻すわよっ!!」
───何故だか分からないが、風のような声が聞こえた気がした。己と愛機を振るい立たせるような気合いの入った一声に応じるような、芯の強い言葉。
────任せろ
共に在るような声と共に、鈴はニカッと笑い、全力でサラマンダーの前へと飛び込む。意識のない火竜は此方に向かう鈴と甲龍にロックオンし、全身に高熱の鎧を纏いながら襲いかかる。
だが、サラマンダーの猛攻に対し、鈴の動きは軽々しく、舞っているかのようなだった。灼熱に全身を防護したサラマンダーの攻撃を回避し、その大きな隙を狙い澄ましたような連撃。
触れることの出来ない高温のアーマーには、周囲の残骸を拾い上げ、投擲していく。灼熱のバリアで破砕、熔解する瓦礫だが、飛来する速度だけは押し殺せず────サラマンダーの全身に衝撃を与え続ける。
『────ッ!』
頭部に響いた衝撃により、展開されていた超高温のプロテクトは焼失する。よろけたサラマンダーの隙を逃さず、両手を地面に掛けた鈴は爆発的な跳躍と飛翔により、急接近していく。
サラマンダーの頭部に向かって、そのまま握り締めた拳を打ち込む。横転したサラマンダーの多数の腕が掌から熱線を放つ直前に、青竜刀の一閃で全ての隠し腕を斬り払う。
その隙に起き上がったサラマンダーが、口内に熱を蓄積させる。至近距離からの熱線攻撃。それを防ぐ手立てはない。逃げれば今度こそ近付くことすら出来なくなる。
「────逃げるかってのぉ!!」
────だからこそ、彼女は退くことなく前へと突き進んだ。充填される熱量に恐れることなく突撃し、自身の両肩に浮く衝撃砲『龍咆』を掴み─────サラマンダーの口へと押し込んだ。
直後、ほぼ同時に互いの攻撃が衝突する。しかし、撃ち込まれた衝撃が熱線を押し返し、口内の内側で勢い良く炸裂。及び、爆散させた。
『──────ァッ!!?』
至近距離、相手に直接放つ最大出力の衝撃砲。これにはサラマンダーも無傷では済まず、先程から熱線を放ってきた口は頭部を含めて大きく破損していた。しかし、それは鈴も同じ。彼女が押し込んだ『龍咆』は許容範囲限界のダメージを受け、爆発と共に墜落した────最早この戦いでは使い物にはならないだろうが、それで充分だった。
ダンッ! と、鈴は青竜刀を空に放り投げ、頭部を失ったサラマンダーに掴みかかる。必死に暴れる火竜の腕を強引に引きちぎり、今度こそ胸元のプレートに手を掛けた鈴は両手に力を込め、引き剥がそうとしたのだ。
「────ぉおおおおおおおおおらぁぁぁああああああッッ!!!!」
バギン!! と、サラマンダーの装甲を抉じ開ける。その内側に、彼女はいた。黒い液体で構築されたケーブルのようなものを全身に突き刺し、虹色の光のラインを放つ友華が眠っている。
意識のないが無事である彼女の姿に僅かに安堵する鈴。しかし次の瞬間、炎を噴き出し、腕を再生させたサラマンダーが鈴の首を掴んだのだ。
「ぐっ!コイツ…………先生を取られるのがそんなにイヤな訳!?」
『こ、殺ス、コロス、コロス………殺、して。殺して────私、を』
「先生に! そんなふざけたこと言わせんじゃないわよッ!! このクソトカゲ!」
そんな中、再生したもう片方の腕が此方を狙い始めた。掌に高熱を発しながら迫る腕を────鈴は正面から受け止める。
装甲を貫通する灼熱。肌に届く高温。自身の腕が焼かれる恐怖など最初からなかった。在るのは怒り。彼女に憎悪という炎を植え付けた、この幻想武装────オブリビオンと呼ばれる力への強い怒り。
優しかった彼女に、先生である資格はないと追い詰め、復讐の道に走らせようとした存在。自分の恩師をコアとして利用したモノへの激しい怒りを胸に、鈴は咆哮を轟かせる。
そして、上空に移動した『龍咆』による砲撃を放つ。狙いはただ一つ、空中で落下しようとする青竜刀。真上から届く衝撃に乗せられ、超速で落下する青竜刀の刃は─────高熱を発する腕を肩から切断した。
『────ッ!?』
「オオオオオオオオッッ!!!」
腹の底から響かせる咆哮。此方の首を圧迫する腕を引き剥がし、鈴はそのまま両腕で掴み─────強引に引きちぎった。
押し倒したサラマンダーの胴体に取り込まれた友華に手を伸ばし、引き剥がそうと力を込める。ブチブチ、と千切れるケーブル。それに呼応するように、サラマンダーは再生しながら、暴れ始める。
だが、鈴が諦めることはない。全力で、全ての力を込めて─────友華を、サラマンダーから引き剥がした。
『──────ァッ!!?!!!?』
聞いたことのない、異音に満ちた声で叫ぶ火竜。コアを失い、崩れるはずの怪物は───それでも鈴を、友華を見据え、動き出す。生体コアたる人間を、適合者を取り戻すために、崩れ行く黒い泥のようなもので肉体を構築し、巨大な口を形成した。
口の中に熱を、最大級の灼熱を収束させるサラマンダー。外敵を殺し、主を取り戻すことしか頭にない怪物。形もなく蠢く異形の前で、先生を抱き抱えた鈴は静かに笑った。
『───コ、ロ…………ス』
「…………やれることはやったわ。後は、任せてもいい?」
「─────ああ、任せろ」
瞬間、白い光に染まった斬撃がサラマンダーを斬り伏せる。全てを、鈴の覚悟を見届けた一夏によるトドメの一撃。エネルギーを消失させる『零落白夜』の一太刀は幻想武装すら破壊し、消し飛ばす。
今度こそ、サラマンダーは灰の如く崩れていった。最後の最後、まるで意思を持ったかのように手を伸ばしていた。静かに眠る友華に、彼女を求めるように。
「……………ぅ」
小さな声が漏れる。鈴はその声を聞くや否や、抱き抱えていた友華へと視線を向ける。弱々しい動きで眼を開いた彼女は、意識を朦朧とさせる。
「先生、宣言通り助けたわよ」
「…………みたい、だね」
堂々と宣言する鈴に、何処か抜け落ちたように空虚な声で語る友華。己の憎悪を増幅された影響か、彼女には何時ものような穏やかさは感じられない。
だが、彼女は戦っている最中の記憶はあったのかもしれない。意識を失う瞬間、彼女は僅かに微笑みながら、鈴に告げたのだ。
「……強くなったね、鈴ちゃん」
気丈な鈴にしては…………そうかもね、と穏やかに答える。集まってくる仲間を見てから、鈴は意識のない先生の手に触れ、握るのだった。
こうして、『
この章もそろそろ終わりになります。憎しみや炎という、一つのテーマから考えた話でした。いやー、憎しみの炎というものですし、少なくとも全部が全部ハッピーでは終われないんだよなぁって考えてました。
霧山先生としては自分が守れなかった子供達の復讐をして、自分も苦しんで死にたいと感じてました。だからあのまま幻想武装使ってたら士みたいに全てを燃やして死ぬことになるはずでした。
鈴は自分の担任であり、色々と世話になった友華を止める役割として最後の戦いの主役として選ばせて貰いました。鈴ちゃんってば男前なところあるからね、自分で先生を止めたいと思うはずでしょうし。
次回もお楽しみにして下さいませ。それでは!