IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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第四章 学園祭編
第87話 波乱前の一幕


「────だああっ!! 逃げんな!!」

 

「─────無理言うな」

 

 

九月三日、二学期初期となる最初の訓練は一組二組による合同の実戦であった。クラス代表である一夏と鈴のバトルは鈴の圧勝で終わったこともあり、調子づいた鈴が龍夜に勝負を挑んだのだ。

 

燃費と安定性を重視し開発された実戦機体───『甲龍』。基本的な動きでもエネルギーの消費が少ないそのISで、一夏と『白式』を翻弄した鈴だったが、今回ばかりは相手が悪かった。

 

 

────龍夜のIS、『プラチナ・キャリバー』はISの戦闘の前提を覆す機能────吸収と変換。ナイトアーマー形態固有の特殊武装 『銀光盾(プラテナ・シールド)』が鈴の放つ衝撃砲をエネルギーとして変換し、動力として取り込むのだ。

 

どれだけ撃ち込んでも、全て吸収されてしまう。業を煮やした鈴は衝撃砲を使わず、近接戦に持ち込む手法を選んだ。そんな彼女に対し、龍夜は逃げの一手に移行した。

 

近付こうとする鈴から距離を取り、無理矢理肉薄しようとも盾と剣という攻守揃った武装によって迎撃される。大盾で姿を隠し、斬撃を浴びせる戦闘スタイルに、鈴もダメージを覚悟するしかない。

 

そうやって特攻しようにも、龍夜は確実に動きを止められないように距離を離していく。焦れったいと吼える少女の声に、合理的に戦闘を進める龍夜は呆れたように呟いた。

 

 

「ええい! それなら、これはどう!?」

 

「─────」

 

 

そう言って、振り回すように《双天牙月》を投擲する。正面から大きく逸れ、ブーメランのように飛来する両刃の武装を、長剣によって打ち返す。

 

弾かれ、反対側に飛んでいった《双天牙月》を見届けていると、不意に手首が掴まれる。視覚外から肉薄してきた鈴が龍夜の右腕を掴んだのだ。

 

 

「今度こそ逃がさないわよ! 喰らえ、《龍咆》────」

 

「────逃げる? 違うな、お前が近付くことを待っていた」

 

 

そう告げる龍夜に怪訝そうにした鈴は、彼の纏うISが変化していくことに気付く。長剣、エクスカリバーの状態を確認すると、いつの間にか背中の方に装着されていた。

 

ナイトアーマー形態からもう一つの形態─────アクセルバーストに変形を終えた龍夜は、右腕を握り締める鈴の左腕を逆に掴む。何をする気か理解した彼女が抵抗するより先に、

 

 

「────少し飛ぶ。着いてこいよ」

 

 

─────超音速の速度で、飛翔を始めた。光の速さで、アリーナ全体を駆け巡っていくその光景は、目視では捉えることすら出来ない。ISのスーパーセンサーですら、知覚するのもやっと最高速度だ。

 

 

「──────ッッ!!!?」

 

 

信じられないと言わんばかりに、言葉にならない悲鳴をあげる鈴。ISは本来飛行が出来るようにされているが、あくまでも速度限界というものがある。

 

それに、Gや加速の負荷はISの防護機能で耐えられるが、それはあくまでも肉体的なものであり、内側の体内は大きく揺らされることになる。仕様やシステムを事前に切り替えれば、それすらも耐えられるだろう。しかし、戦闘機を越える速度で振り回され、鈴には最早マトモに反撃する余裕すらない。

 

 

─────そんな鈴を、超音速で飛び回る龍夜は容赦なく振り回す。アリーナのシールドバリアや床に叩きつけながら、無慈悲なまでに『甲龍』のシールドと鈴の意識を削り取っていく。

 

 

凄まじい勢いで地面に叩きつけられた鈴が地面に大の字になって動かない。震えた手を伸ばし、ギブアップを宣言したことで試合終了のアラームが鳴り響いた。

 

 

◇◆◇

 

 

「お前………エグいな」

 

「…………ああ、アレのことか」

 

 

前半の授業が終わった後、食堂で学食を取っていた一同。ふと龍夜と鈴の試合────もとい、一方的な蹂躙を思い出した一夏がそう切り出してきたのだ。

 

因みに、あの後鈴は露骨に物静かだった。振り回された時の状況を一夏や箒が問い掛けたらしいが、彼女曰く「洒落にならないわ、あんなの…………もう二度とあんな経験はしたくない」と、小さな声で呟いていた。流石に可哀相だと思った龍夜がスイーツを奢ると言うと、即座に立ち直って元気そうだった。現金なヤツだ、と素直に呆れる。

 

 

「でも、やっぱり強いんだな、龍夜は…………俺も、どうやったら勝てるんだ?」

 

「─────全体的に動きが単調、後はエネルギーの問題だな」

 

「…………うっ」

 

 

バッサリと切り捨てる龍夜の発言に、ガックシと項垂れる男 織斑一夏。何度か勝てることはあるが、訓練などでは容易く対策されて撃沈することが多い。本人の練度もあるが、一夏の専用機にも問題がある。

 

 

「それにしても………何で白式はこんなに燃費が悪いんだ? 『雪羅』は兎も角、初期の状態でも追加武装もないし………」

 

「確かに、それはそうだな。第四世代として区分されるはずなのに、武装が致命的過ぎる。────最初の戦いの時も武装が雪片だけ、これでは剣士向けではないか」

 

「────そもそも、白式が拒絶してるのかもな」

 

「………白式が、拒絶?」

 

 

困惑する一夏たちに、龍夜は過去のニュースの一つを抜擢し、スマホに掲示して、皆に見せる。そこに乗せられた内容に、誰もが反応を示す。

 

 

「何これ………数年前の、実験?」

 

「────倉持技研での、新型ISの起動実験…………失敗、ISの拒絶反応により暴走……………テストパイロットが重傷を負う、事態に─────これって」

 

「これが影響で新型ISは封印処分に科され、技研の奥で眠ってたらしい─────もう分かっただろうが、これは白式だ。最も束さんがそれを見つけ出して、再開発したみたいだが」

 

 

大規模な事故だったらしい。実験の場として利用された区画は破壊され、テストパイロットの少女は瀕死に近しい状態になったとのこと。情報統制がされたのか、テストパイロットの方は実名報道すらされず、写真には血塗れになった少女が担架に乗せられたものが見て取れる。

 

 

「…………どうして、暴走なんて」

 

「さぁな。現実として、白式に意思があるのは事実だ。白式が装備を拒む以上、マトモな武装は取り付けられないだろう」

 

 

だからこそ、倉持技研は白式を封印凍結したのだろう。ISという兵器として開発したものが、何らかの意思を持っているなど笑える話ではない。

 

 

「現時点で残された手段は、エネルギーパックを装備するくらいか」

 

「エネルギーパックって………装備できないんじゃないのか?」

 

「白式が後付けの武装と認識するならな。白式とて、やたら無闇に拒絶してるとは思えない。エネルギー関連の問題を緩和させる要素なら、取り込むかもしれないぞ」

 

 

ISの武装として取り込むのではなく、展開時のみ取り付ける限定装備として利用すればいい。一々戦闘の際に装備するのは面倒だろうが、申請すればそのくらいの問題は解決できるかもしれない。

 

 

「後はまぁ、箒と組むのがベストか。無尽蔵にエネルギーを生み出せる『絢爛舞踏』はお前と白式を活かす能力としてこれ以上のものはない」

 

「───う、うむ! 龍夜の言う通りだ! 私ならば、お前の力になることも────」

 

「…………最も、能力の発動条件が分からない以上、望んだタイミングで発動出来ないのが一番の懸念点だが」

 

 

自信満々に答えた箒は、バッサリと切り捨てた龍夜の発言を受け、静かに崩れ落ちる。彼女のIS 『紅椿』のワンオフアビリティ 『絢爛舞踏』は未だ発動条件が掴めない。

 

発動できる場合と、出来ない場合の予測が難しい。いくらエネルギーを回復できると言っても、どうやって発動するか分からない以上、無闇に頼れるものではない。

 

 

「話は逸れたな。動きが単調とは言ったが………」

 

「タッグマッチの時よりかはマシだが、まだまだ甘い所は多い。接近しようとする動きが察知しやすいな」

 

「………返す言葉もない」

 

「──────へぇ? アンタ、それだけ?」

 

 

ビクッ、と全員が────特に一夏が身体を震わせる。真後ろから聞こえてきた鋭い気迫の籠った声。気のせいだと、風の音だと縋るように振り返った一夏は─────自身の背後に立っていた女性、陸奥に思わず声を上げた。

 

 

「げぇっ!? 阿修羅ぁ!?」

 

「数日もしたら口の効き方も忘れるもんかしら。別に良いけど、まだ婚期真っ盛りの女に阿修羅って言い方はどうなの? 私の機嫌が悪かったら三枚下ろしにしてたけど」

 

 

平然と、呑気そうな言葉で告げる陸奥。物騒な発言が見て取れるのは、彼女本人の気質が深く起因していることだろう。

 

日本の代表候補生の一員となった織斑一夏。そんな彼の師匠として理事長が抜擢した人物。それが陸奥という女性であるのだが、彼女は誰から見ても厳しい鬼教官のような人だった。

 

 

「それよりさ、アンタ何あの試合」

 

「え、見てたんすか………?」

 

「偶々ね。アンタがボコられてるとこまで、ちゃんと見させて貰ったわよ。─────アタシの扱きから一週間、随分と腑抜けたみたいね」

 

 

ズゴゴゴ、と怒気のようなオーラを放ちながら一夏の頭を掴む陸奥。そんな彼女の気に当てられたのか、一夏はガクガクと身震いさせていた。いつも気丈に食い付くヒロインズすら沈黙を、こういう事態でも無情な龍夜は知らぬ存ぜぬを貫き通している。

 

 

「────午後の授業、私も付くわ。今度こそマトモに動けるように、ビシバシぶちのめすから」

 

「う、うす………」

 

「あ? うす?」

 

「はい………ホントにすんません」

 

 

数時間後、ボコボコにされることが確定した一夏は力なく項垂れるしかなかった。相当叩きのめされたのだろう、心なしか達観に近い感じが見て取れる。

 

宣言を終えた陸奥がいなくなった後、箒や龍夜達は何処か優しく接するのだった。同情に近い優しさに、一夏は何とも言えず、数時間後の未来を思い浮かべ、溜め息を吐くしかなかった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

イギリス北部、国家機密とされる大規模基地。陸空海、三つの分野が特筆した軍隊により形成されたその基地は、イギリスでも有数を誇る戦力が集められており、イギリスという国でも重要な兵器を管理する場所だった。

 

堅牢にして鉄壁、中世の要塞の如く聳え立つ軍事基地は、今現在────未知の襲撃を受けていた。

 

 

「な、何だ!この機体は───無人機か!?」

 

「どこの勢力だ!? これだけの無人機を投入して、戦争ものだぞ!?」

 

「本国に救援要請を─────通信障害!? ダメです!繋がりません!!」

 

 

周囲から黒煙を上げる軍事基地。統率の取れた軍は、即座に対応に急いだ。本来であれば、襲撃への対応は迅速なものであり、軍部に携わる者であれば称賛できる程に手早く動いていた。

 

問題は、相手が人間の上をいく無人機であったことだろうか。

 

 

『────』

 

 

カチカチ、と暗号による通信を行うは無人機の軍勢。二手二足、ヒト型の特徴を有しながら大きく歪んだ異形のマシーン。跳躍を活かし、変則的な動きでレーザー砲を放ち、防衛兵器や戦闘機などを破壊していく。

 

そんな中、一機の無人機────一際大きな飛行ドローンが火の海へと染まった基地に降り立つ。空中で変形し、ヒト型のような形態になったそれは、格納した腕の中に抱き抱えたものを─────少女を地面に下ろした。

 

 

「…………フン、呆れたものだ。『ファントム』だけで制圧できるとはな」

 

 

そう告げ、少女は歩き出す。無人機が暴れる戦場で、飛び交う銃弾に臆することなく。背後にヒト型の無人機を従えながら、厳重なシェルターで塞がれた扉の前へと辿り着く。

 

暗証番号を打ち込まねば開くことはない鋼鉄な扉。それを静かに撫でた少女は、後方の無人機へ一言。

 

 

「────壊せ」

 

 

直後、轟音と共にシェルターはぶち抜かれた。爆薬すら通さない鋼鉄の壁を強引に破壊した腕部のバズーカから大型の薬莢を飛ばし、無人機は開いた大穴を抉じ開け、少女の道を用意する。

 

 

「私は『標的』を手に入れる。それまでに生き残りを潰せ、『サーペンテール』」

 

 

少女の命令に従うように、『サーペンテール』と呼ばれた無人機は可変し、戦闘機のような形態へと移行。空中に飛翔した青紫の影は直後に軍事基地の施設の大半にレーザー砲撃を開始し、爆炎と共に周囲を破壊し尽くす。

 

悲鳴と爆発が響く中、その光景に笑みを深めた少女は施設の中へと消え行く。基地の人間に、その存在を諭せることなく。

 

 

 

 

「────急ぎなさい! 一刻も早く、あの場所を守らなければ!」

 

 

量産型のISを纏う隊員三人と、十数人の武装した兵士を従え、IS部隊の隊長である女性は基地の通路を走り抜ける。ISによる隔壁の破壊で目的地まで突っ切るという方法もあるが、軍人として精練された彼女たちにはそんな選択肢の余地はない。

 

 

「隊長!前線の防衛ラインの援護をするべきでは!?」

 

「────無理ね、既に基地全体は機能してないわ!重要なのは、本国に輸送する予定の『実験機』を護り通すことよ! この日を狙ったってことは、連中の狙いは『新型の実験機』に違いないはず!」

 

 

彼女の予想は間違いではなかった。襲撃した勢力の目的は、この基地に輸送された新型ISの実験機である。イギリスが研究の果てに開発した新型、その情報を何故襲撃者が掴んでいるのか。そんなことを気にしている暇はない。

 

イギリスの最新鋭機を強奪される、それだけは絶対に避けるべき事態であった。

 

 

「っ!? 止まりなさい!」

 

 

隊長が呼び止めると、全員が一気に武器を構える。通路の先にある区画の一つ、新型の実験機に繋がる通路を塞ぐ防衛ラインが配置されたそのエリアは─────既に瓦解していた。

 

防衛用の無人機は全滅し、同行していた軍人達の大半は一方的に蹂躙されている。見た限り、死んだ者はいない。全員が軽傷か重傷で気絶させられている。

 

 

 

「───う、ぁ……」

 

「っ! 怪我人が───!」

 

 

ISを纏う女隊員が、負傷した軍人の元へと駆け寄る。隊長が呼び止めようとするが、それよりも先に介抱を始める女隊員を囲むように陣形を構えるように指示した。

 

手足を折られ、息絶え絶えとなった軍人が、ふと声を漏らす。上を見上げながら、何かを恐れるように。

 

 

「あ───悪魔、だ」

 

「………何?」

 

「き、気付かなかった………俺達は、警戒してたんだ。なのに、急に…………仲間が吹き飛ばされて────何か、黒い悪魔が、俺の腕を掴んで────」

 

ふと、何かを思い出したように軍人が暴れ出す。腕と脚の間接を砕かれているため、マトモに動くことも出来ない。しかし彼は必死に叫ぶ。仲間達に、危機を伝えようとする。

 

 

「に、逃げろ!早く逃げろぉ!!」

 

「きゃ───ちょっと!? どうしたの!?」

 

「悪魔が来る! 俺は囮だ! 俺を使って、誘い出すのが目的なんだァ!!」

 

 

瞬間、円形になって身構えていた女性隊員の一人が咄嗟に叫ぶ。身に纏っていたISのハイパーセンサーによる知覚を切り替えた途端、一つの反応を捉えたのだ。

 

 

「隊長ッ!高熱源反応!────真上です!!」

 

「っ!総員、散開せよ!!」

 

 

飛び退いた軍人達とISを纏う隊長と隊員二人。負傷者の軍人と彼の介抱をしていた女性隊員は、上空から飛来した何かに襲われる。

 

衝撃と共に舞う煙塵。ユラリ、と煙の中に浮かぶ影が見える。しかし、煙が晴れてみた先には誰もいない。だが、センサーによる熱反応では何かの反応を、ISの存在を感知していた。

 

 

「ステルス機! コイツがこの防衛ラインを襲撃したのか!?」

 

「先に進まずに待ち構えていたみたいだが………好都合だ。ここで撃破するぞ」

 

ふと、透明なISが動く。目視では認識できないナニカが、近くに倒れていた隊員───ISのシールドで何とか保護された女性の頭を掴む。そうやって持ち上げたナニカは、彼女を前に突き出した。

 

 

『……………』

 

「………うぅ」

 

「ティーシェッ! アイツ、ティーシェの奴を!!」

 

 

ステルス機能を無力化する拡散弾頭を打ち込もうとしたが、仲間を人質にするような敵に動きを止めるしかない。その盾にして逃げるつもりかと考えたが─────ステルス機は彼女を勢い良く放り投げてきた。

 

 

「なっ!?」

 

 

咄嗟に受け止めた次の瞬間、ステルス機は凄まじい速度で何かを振るった。大きく薙ぎ払われた一撃に、思考するよりも先に上へと飛び上がる。だが、不可視の攻撃に対応できなかった歩兵と部隊員は一斉に巻き込まれることになった。

 

地面に着地すると同時に、足元に転がったロケット砲を手に取る。装填された拡散弾頭を打ち込み、散弾を周囲に巻き散らすと、ステルスを消したISが装甲で受け止めた。

 

 

─────その姿は悪魔に近しい異形で間違いなかった。全身が漆黒の金属のフレームで覆われており、脚部は逆間接という従来のISには転用されていない技術を使われている。

 

本来顔がある胴体の上は分厚い装甲が展開されており、装甲と装甲の合間からギョロッと覗くモノアイが妖しく輝いている。背中には何枚の翼に思える半透明なプレートが接続されており、腰から軽装甲とワイヤーで構成されたテールクローが意思を持ったように蠢いていた。

 

 

『─────』

 

「………見たこともない機体ね。何処の国だか知らないけど、この基地を狙うってことはそれ相応の覚悟はあるのかしら?」

 

『───』

 

 

無言で、黒いISが動く。テールクローが付近の壁を────壁面に並ぶパイプを切り裂き、蒸気を放出させる。白い霧が辺りに充満する中、黒い機体は霧の中へと溶け込むように下がっていった。

 

 

「っ!待ちなさい!」

 

 

その機体を追撃するようにショートブレードを展開し突撃した女隊長だが、既に襲撃者の影も形もない。逃げられた、と近くの仲間に呼び掛けようとするが─────

 

 

「────きゃあっ!?」

 

「た、隊長! 応援を────がッ!?」

 

「何処だ!? 一体どれが敵なんだ!?」

 

 

残った部下達は、白い霧の向こうで一方的に狩られていた。ステルス機の攻撃を受けていることに気付いた彼女はいち早く助けねば、と前に出ようとして足を止める。

 

錯乱した声は疑心暗鬼に満ちており、完全に見える距離までいなければ相手を信用しないはずだ。きっと残された者達は霧の向こうに見える影が敵のものかと疑っていることだろう。

 

最悪だ、と歯噛みする。だがそれでも思考放棄もせず、彼女は即座に勝利を掴み取る方法を思案する。立った数秒で勝算を見抜いた隊長は霧の中を動き、錯乱しながら周りに叫ぶ部下を視界に入れる。

 

静かに、ビームライフルを構えていた。部下を狙っているのではない。彼を狙い、強襲するであろう黒いISを狙撃するために。

 

 

そうやって狙い済ましていた彼女は、目の前にいた部下が吹き飛ばされた瞬間───────背後に振り返り、迫ってきていた黒い影に向かって狙撃を放った。

 

 

『─────!』

 

 

霧の向こうで、驚いたように影が揺れた。既に、隊長は理解していた。襲撃者が自分の作戦に気付いていることを、部下を狙っていたのは密かに動かしていたテールクローの方であることを。

 

だからこそ、女隊長は自身の背後を狙うであろうことを確信していた。黒い影にビームが当たったことを疑わず、勝利を信じきっていた。

 

 

─────故に、霧の向こうから飛来したビームに対応しきれなかった。シールドを削り取り、エネルギーを消滅させた一撃に理解が追い付かず、隊長はそのまま吹き飛ばされる。

 

 

『────』

 

 

黒い機体 『クローチェア・オスキュラス』は白い煙の中でゆっくりと身体を上げる。既に全滅した部隊に意識を向けることなく、ステルスを発動しながら別の部隊の殲滅へと動くのだった。

 

 

 

 

それから数分後。火の海に呑まれた基地の一つ、大規模な施設が内側から爆裂した。燃え盛る焔の中から、藍色の蝶が飛び立つ。

 

イギリスが開発し、運用段階までに至っていた実験機。BT二号機 『サイレント・ゼフィルス』。それを身に纏った少女は何処かへと通信を飛ばす。

 

 

「────目標は手に入れた。これよりエヌと共に帰投する」

 

『────確認した。証拠は残すな、好きにやれ。エム』

 

 

途端に撤退し始める無人機。全ての無人機が放たれたことを確認し、上からの指示を受けた少女は─────装備したビームライフルで、基地の全てを焼き払った。爆炎と共に燃え上がる軍事基地を、嘲笑と共に見下ろし、空の彼方へと飛翔していくのだった。

 




原作にはない『サイレント・ゼフィルス』の強奪劇。ここら辺情報ないし、こんな感じで強奪されたのかなーって自分なりに解釈させていただきました。

まぁイギリス本国が強奪の一件を秘匿してるとこも踏まえると、国の面子とか色々の事情があるんだろうなぁ…………オマケに3号機も強奪されてると知った時は流石に吹いたけども。

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