そして、学園祭当日。
一般的には解放されていない為、開始の花火などが上がることはない。だが、学園の生徒達の弾け度合いは花火に匹敵するほどに凄まじかった。
そのなかでも、二人の男子がメインとなる一年一組の『ご奉仕喫茶』は大盛況であった。女子達は楽しそうに動いている中、一夏と龍夜だけ死ぬ程忙しいわけだが。
「────いらっしゃいませ、お嬢様。まずは此方の席にお座りください」
穏やかな表情を浮かべ、胸に腕を添えた執事服の龍夜が丁寧な動作でお辞儀をする。段差に気を付けて、と手を差し出す龍夜にお客として招かれた女子の顔が真っ赤に沸騰する。
その後も、まるで本場の執事かのように対応していく龍夜。注文を聞き終え、一礼をしてから奥の雑務エリアへと入る。ふと呼吸をし、髪をかきあげていつもの調子に戻る。
「────以上が注文の内容だ。任せるぞ」
「オッケーイ! そっちも頑張ってねー!龍夜くん!」
「当然」
自信満々に告げ、僅かに休憩を行う龍夜。買っておいた飲み物を口に含んでいると、同じく休憩をしていたラウラと箒が此方を見ているのに気付いた。
「………何だ?」
「む、いや………その」
「意外だな、婿もこういうのが得意なのか。むしろ苦手というか、やる気がないと思っていたが…………」
接客の対応をするに代わり、準備期間中に練習をすることがあったが、まさかの龍夜本人は一発合格。あまりにも洗礼された立ち振舞いと動きには、貴族でありメイドや執事に関しても詳しいセシリアですら太鼓判を押すレベルであった。
「…………やるなら本気でやる。それが俺のモットーだ」
「な、なるほど………?」
「練習が始まる前から、動画や資料での勉強は済ませたからな。俺は自分が満足するやり方でやるタイプだ」
どうやら本人としては、どんな事も全身全霊尽くすということらしい。天才としての自負があるのか、或いは子供みたいなプライドからだろうか。それは彼本人しか知らない。
「龍夜くん! ご指名入ったよー! 三番席ーっ!」
「あい分かった、今行く」
呼び出しを受け、営業フェイスへと切り替える。仏頂面コンビで接客していた箒とラウラは互いの顔を見合い、ホントに意外だなぁ………と頷くのであった。
◇◆◇
IS学園の正面ゲート。招待されたであろう客が集まるその場所の前で、一人の男子がチケットを握り締めて笑いを堪えていた。
「ついに、ついにっ、ついにっ! 女の園、IS学園へと───来たぁぁぁぁぁぁあ !!!」
喜びを胸に、男
数日前、一夏から久々の連絡を受けた一夏は一人一つだけ発行できる招待券の存在を語り、弾を学園に招待したのだ。数少ない、未だ関係のある友人であるからこそ。
「…………はぁ、楽しそうだね。お兄」
その一方で、後ろを歩いていた少女 五反田蘭は溜め息を押し殺す。同じく、招待券によって招かれた弾の妹。いつもよりオシャレをしながらも、彼女は何処か上の空であった。
「楽しみに決まってるだろ!? 俺みたいな男にゃあ絶対に来れないような場所だぜ!」
「………まぁ、そうだよね。 ちょっと、空気吸ってくる」
興奮したように促す弾の勢いに着いていけないのか、人混みから離れていく蘭。そんな彼女の背中に掛ける言葉もなく、弾は先程までのテンションとは裏腹に髪をかきむしる。
「…………蘭」
弾の妹 蘭があそこまで気が沈んでいるのは、数か月前のある悲劇が起因している。正体不明のISによる◯◯駅での虐殺。その被害者百数人の中に、弾や蘭が良く知る少年がいた。
海里暁、行方不明だった彼が死亡したと断定された時は何かの間違いだと思った。しかし、断定された理由として───現場に残された肉片、もとい右腕の欠損具合から死体が消し飛んだと決められたらしい。
言葉を失った弾とは違い、蘭は酷く落ち込んでいた。部屋に閉じ籠もり、泣きじゃくる彼女の様子は弾や家族からしても見てられないものだった。
無理もない、蘭は暁を密かに想っていたのだ。ずっと好きだった人が訳も分からず死んだと言われて、思春期の子供が受け入れられるようなものではない。ただでさえ蘭は、暁の事をずっと好きだったのだから。
「…………一夏に悪いよなぁ。折角招待券発行して貰ったのに」
本来ならば一人一枚しか発行できない招待券だが、一夏が弾と蘭、二人分を送ることが出来たのは理由があったらしい。学園で出来た友人が、譲ってくれたとの事だ。
弾は知らない話だが、一夏から詳しい事情を聴いた龍夜が招待券を譲ったのだ。龍夜自身、招待する相手がいないから、せめて落ち込んでいる蘭に使ってやれ、と彼にしては珍しい善意だった。
祖父や母からも、快く送り出されたのに関わらずだ。あんな風に落ち込んだままの蘭が、どうしたら現気になってくれるのか。そう思って歩いていると、ふと真後ろから声をかけられた。
「───ム!そこの人!少しいいか!?」
「は、はい!?─────ッ!?」
不意に声をかけられ、背筋を伸ばした弾は慌てて振り返る。背後にいたのは、弾より明らかに小さい少女だった。金髪と碧眼から、恐らく外国人だろう。そこは良い、弾が驚かされたのは少女の服装であった。
黒っぽい布に身を包んだ姿。個性的とも呼べるその姿は、弾の記憶では忍者のそれではないかと思う。彼女は唖然としている弾を見上げ、堂々と胸を張る。
「やはり、日本人だな!会いたかった! いや、会えて良かった!私としても色々と教えて欲しいことが山程あったんだ!」
「え、あ、ちょっと………悪いけど、近いと言いますか………」
「────この国に来てからシノビやサムライを見ないのだが、彼等は己の姿を隠して生活しているのか!? だとしたら、どうすれば会えるのか教えて欲しい! 私も彼等に弟子入りしたいんだ! だからどうか──────フギャっ」
弾の呼吸が停止しかねない程接近してくる外人の少女。その内、弾が羞恥のあまり爆発しかねないと思ったその時、真後ろから振り下ろされた手刀が少女を止めた。
「迷惑をかけるな、メリッサ」
「あ、兄上………しかし、私としても日本に来ることは初めてだし」
「────ソルティー、リーラ。任せた」
「はーい、お兄様♪」
「じゃ、行きましょうねー、メリッサちゃーん」
兄上と呼ばれた、サングラスの目立つ金髪外人の男性が手を叩くと、背後から現れた少女二人がメリッサと呼ばれた忍者娘を拉致していく。
片言で何かを喚く少女が人混みの中に消えたかと思えば、金髪外人の男性が弾に向き直り、頭を下げた。
「すまない、うちの妹が迷惑を掛けた。君の名前は?」
「えっーと、五反田弾ですけど…………」
「…………五反田、弾か。名前は覚えておこう。後で菓子折りを送りたい。住所に関して教えてくれるか?」
いやー、と困ったように呟く弾はキッパリと断り切れる余裕もない。遠慮はするが、外人の男性は「そうはいかない」と食い下がる。結果、弾が諦めて住所を教えることになった。
その数日後、数万もする高級お菓子が届けられ気を失うことになるのは遠い話。その前、男性と別れた後に運命の出会いをすることも、今の弾には知る止しもなかった。
◇◆◇
「…………はぁ」
人混みから抜けようとしていた蘭は、あまりの人の波に深い息を吐き出す。これでは満足に落ち着くことも出来ない。何とか抜けるように歩いていく彼女は、人の隙間から現れた人影に頭を打ち付けた。
「あぅ………っ!?」
普通ではない硬さに思わずよろける。バランスを崩し、真後ろに転けそうになった蘭だったが、ふと自分の手首が掴まれた。
『…………大丈夫か?』
相手は、男───と呼んで良いのかも分からない。全身の殆どを機械で包んでおり、生身の部分は露出しているのかも分からない。顔の部分すら、フェイスバイザーとマスクによって完全に覆われている。
蘭が言葉を失ったのは、自身の手を掴んだ相手の手の冷たさ。義手だろうか、生身の温かさは愚か、何処かぎこちない。腕どころか、全身の動きが異様に不釣り合いだった。
まるで、手足を欠損し義手義足で動いたばかりの人間のような、不慣れさを感じて仕方ない。
『人混みの中でボーッとしているのは危険だ。ぼ───オレだったから、良かったけど』
「ご、ごめんなさいっ! ちょっと、考え事してて!」
『大丈夫、怪我がなくて良かった』
合成音声とはいえ、穏やかで丁寧な言葉遣いには蘭も心を許しかけていた。だが、それだけではない。何か、蘭が安心してしまう空気が、相手から感じられる。
それは、彼女が何度も感じてきたものと似ている────。
「あの…………何処かで、会ったことありませんか?」
『……………』
不意に、蘭はそう聞いてしまう。その不思議な人物と話して感じる、親近感。顔も知らない他人と話していると思えない安心感から、そう口走っていた。
だが、相手は深く沈黙してから首を横に振る。
『悪いけど、君とは初対面だ。多分、人違いじゃないか』
「………ですね。すみません、変なこと聞いて………」
『────大丈夫。オレも同じことはある、辛い時は特にね』
そう言い、その人物はソッと蘭の頭に手を置く。軽く撫でるように、相手は機械的な音声とは思えない優しい声で諭した。
『あまり、深く考えないようにするべきだ。気に病み過ぎると、その内君自身が壊れてしまうから』
「…………はい」
彼は、蘭がどうして落ち込んでいるのかも察していたのだろう。知り合ったばかりの人に気を遣わせてしまった、と蘭は深く考える。だが、そこで彼女は自分が兄を置いて来たことを思い出す。
「あっ、ごめんなさい! 待たせてる人いるんで、早く行かないと!」
『そうか、じゃあ気を付けて。お兄さんに迷惑かけないようにね』
「はい!ありがとうございます!」
優しい人だ、と蘭はさっきまでの悩みも消し飛んだように笑顔で手を振る。ふと、名前だけでも聞こうと振り返るが、そこに彼の姿はない。早く兄である弾の元に戻ろうと思った蘭は、そこで疑問に思った。
「あれ………? お兄のこと話したっけ?」
◇◆◇
「────レッドか。何をしていた?」
『………少し、用があっただけだ。問題はない』
そうか、と金髪の男性は納得する。レッド、そう呼ばれた青年と複数人の少女を連れ、IS学園のゲートへと立ち入る。一般、というより招待されている人達とは違い、彼等の対応するのは学園の教師達であった。
「────すみません。立ち入りの前に確認させて頂きます────招待状を」
言われるや否や、男性が後ろに手を出す。背後に立つ女性が即座に封筒を取り出し、男性へと手渡す。今度はそれを教師へと差し出し、受け取った教師は一礼した。
「確認しました。アレックス・エレクトロニクス社長。お手数お掛けしました」
「構わない。今回の催し、我々としても参加させて貰っている立場だからな」
サングラスを掛けた男性 アレックス・エレクトロニクスは、訳合ってIS学園に招かれていた。とある事情とはいえ、世界情勢一位の企業のトップである彼の参入は、表向きには明かされていない。
「そちらの方、身分証を確認しても宜しいでしょうか? 後、顔の方も拝見させて貰います」
「────彼は客人のような立場だ。身分証は提示するが、顔を確認する必要もないだろう」
「そういう訳にはいきません。規則ですので」
レッドのバイザーを外すように求める教師に、アレックスは顔をしかめながら拒否する。だが、彼女たちも譲ろうとはしなかった。半ば苛立ちを隠さないアレックスだが、レッドは前に出ると、自身の顔を覆うバイザーを両手で外した。
「───ッ」
「…………うっ」
直後、バイザーによって隠された顔を見た教師たちの顔が青ざめる。その下にあった顔は、酷い有り様であった。少なくとも、何人かが気分を害する程には。
『お見苦しいものを見せました。自分は少し前に、事故で重傷を負った身です。この声も、発声が出来ない為のものです』
「…………失礼ですが、その顔も?」
『はい、エレクトロニクス機社の実験………最先端の治療のため、同行させて貰っています。失礼ながら、手足も欠損して義腕義脚を使用してますので………』
淡々と説明するレッドに、言葉を失う教師陣。しかし、ずっと腕を組んでいたアレックスが不機嫌そうにしながら、軽く咳き込む。
「…………もう良いだろう? 彼は我が会社のテストに協力してくれた人間だ。あまり、人目に晒したくはない」
「はっ、はい! 大変失礼な真似を! どうぞ此方へ!」
ゲートを通される一同。不機嫌を隠そうともしないアレックス、バイザーを顔に装着し直すレッド。そんな事も気にせず、呑気に世間話しているアレックスの妹達。
アレックスはレッドに何か目配せをしながら、学園内へと入っていく。
◇◆◇
「………………」
「……………」
午後の部に入り、部による出し物の披露会が行われている中、一夏と龍夜は無言で着替えていた。突然現れた楯無から演劇に参加して欲しい(尚、拒否権もなく無理矢理参加させられてる訳だが)と言われ、渡された衣装を身体に通していた。
「───二人ともー、サイズとかどうー?」
「えぇ、まぁ………」
「ピッタリだな────どうせ身体測定の情報でも取ったんだろ」
何でここまでピッタリのサイズなのか、と想っていた一夏の疑問は、隣で愚痴る龍夜によって答え合わせされた。正解♪と扇子を開く彼女に、二人とも反論する余力すらない。
「………でも、シンデレラだっけか。これならマトモになりそうだよなぁ」
「────馬鹿言うな、あの女主催だぞ。どうせロクなことにならん」
「うーん、手厳しい」
クスクスと笑う楯無だが、龍夜は最初から信用してないし、一夏の方も不安しかない。一夏達が参加するのは、生徒会主催の観客参加型演劇『シンデレラ』────記憶が正しければシンデレラにそんな要素はなかったと思う。
「はい、二人とも。王冠」
「は、はぁ………」
「なによ、嬉しそうじゃないわね。シンデレラ役の方がよかった?」
「なワケあるか………ったく、何が面白いんだか」
呆れながらシンプルな小道具らしい王冠を頭に乗せる一夏と龍夜。その瞬間、楯無がクスリと笑ったのは気のせいではないだろう。どうせ何かあるんだろうな、と考える。
急かされるまま二人は舞台袖へと移動する。楯無の呼び声と共に、ブザーが鳴り響いて一気に暗転した。ここら辺はちゃんとしているらしい。
「………おぉ、やっぱり舞台はちゃんとしてるみたいだな」
「────馬鹿言うな、重要なのは中身だ。………頼むから面倒な事にはなるなよ……」
ヒソヒソと話しながら、アリーナ全体に構築されたセットのエリアへと向かう。二人が、鮮やかな城の舞台に辿り着いたその時、楯無の声がスピーカーから響いてきた。
『────むかしむかしあるところに、シンデレラという少女がいました』
「…………面倒なことって、考えすぎだろ? シンデレラなんだから、変な事にはならないんじゃないか?」
「────俺の記憶だと王子は二人もいらなかったはずだがな」
あれ? とここで一夏も気付き始めたらしい。しかし、時既に遅し。
『否、最早それは名前ではない。幾多の舞踏会をくぐり抜け、群がる敵兵をなぎ倒し、あらゆる障害を打ち砕く。灰塵を纏うことさえ厭わぬ、地上最強の乙女達。彼女らを呼ぶに相応しい称号────それこそが「
「「…………は?」」
どこぞの
『今宵もまた、血に飢えたシンデレラたちの夜が始まる。二人の王子の冠に隠された隣国の軍事機密を狙い、舞踏会という死地に少女たちが舞い踊る!!』
瞬間、硬直した二人を狙う影が飛び込んでくる。咄嗟に一夏を蹴り飛ばして回避する龍夜。反射的に避けられたことに舌打ちを漏らす人影────白い生地に銀の装飾の為されたドレスを纏う鈴がそこにいた。
「その王冠寄越せぇぇっ!!!」
「─────ッ!」
暗殺者のような気迫を放ち、突貫する鈴。龍夜は近くに設置されたテーブルへと歩み寄る。並べられたトレーを手にするや否や、ブーメランのように投擲した。
しかし、鈴はそれを蹴り飛ばして弾く。豪快に脚を振り上げる彼女に、パンツが見えるだろ! と慌てる一夏だったが、スパッツを履いているので気にする必要はない。
そのまま空中でドレスの下から複数の刃物を抜き放つ鈴。中国の手裏剣こと、飛刀を数発投擲してくる。
臆することなくテーブルの上に並ぶフォークやナイフを掴み、撃ち落とすように放つ。その隙を狙うように振り下ろされたかかと落としを前に構えた腕で防御する。受け止めた脚を掴み、そのまま叩きつけるように振るった龍夜だったが、鈴は空中で回転し、綺麗に着地した。
「────ハッ!相変わらずやるじゃないの!」
「………お前こそ、見違えたぞ」
目の前で対立する鈴を見据えていると、「のわぁっ!?」 という情けない悲鳴を聞く。龍夜が視線をずらすと、一夏が頭を下げて遮蔽物へと滑り込むのが見えた。彼が隠れた直後、壁に一つの穴が刻まれる。恐らく、痕からして間違いなく銃弾だ。
(音からして、狙撃。音と火花がなかったのを見るに、サイレンサーを施したライフルを使ってるな。そんな狙撃をするヤツは…………)
「…………セシリアか」
厄介だな、と龍夜は目を細めるのだった。勿論、苦戦するという意味ではなく、面倒だなという意味で。
◇◆◇
「…………逃げられましたわね」
空になった薬莢を落としながら、セシリアはスナイパーライフルを次弾装填する。舞台端の屋根に転がっていた彼女は、標的である一夏の王冠を手にするため、次の場所へと移動する。
女子グループだけに知らされた、ある秘密。それは『王冠をゲットした子は、二人各々との同室同居の権利を与える』というもの。当然唖然としていた一同だったが、楯無の生徒会長権限の話を聞き、やる気に満ち溢れていた。
そして、セシリアと鈴は密かに同盟を結んでいた。その内容は『互いの意中の相手(鈴の場合は一夏、セシリアの場合は龍夜)の王冠を手に入れる』という、二人ともWin-Winである密約を。
理由は単純明快。セシリアがどれだけ狙おうと、龍夜の王冠を取ることは出来ない。他の皆と手を組もうとも、苦戦を強いられるのは当然。何より手に入れたとしても、奪い合いになりかねない。ならばセシリアの最善は敵を一人でも減らし、自分に利があるように動く。
(負けられませんわ────何故なら! 龍夜さんが、あの生徒会長と同居させられているのですから!)
今回の演劇に於いて、セシリアが異様なまでにやる気───一人勝ちを狙わずに同盟を結ぶほど、勝ちに貪欲である理由が、それであった。
自分の意中の青年が、先輩である楯無と同居している。初めてその事実を知ったセシリアの絶望と怒りは計り知れない。必ずあの魔王(セシリア目線)の魔の手から、龍夜を救い出さねば────!! と、強い正義感を胸に息巻いていた。
(そして!私が勝ち、あの生徒会長から龍夜さんを引き離し──────今度は私が! 龍夜さんと一緒に!! 同じベッドで! 一時の夜を!!)
…………前言撤回。露骨な欲望があることは、否定しない。
◇◆◇
「─────来い!エクスカリバー!」
鈴の猛攻から逃げていた龍夜は、観客からの拍手と歓声を無視し、虚空へと手を伸ばす。更衣室に用意していたケースから出てきた銀剣が独りでに飛び出し、凄まじい速度で此方へと向かう。
そのまま目の前まで飛んで来た銀剣 エクスカリバーを掴み、鈴の投げた飛刀を弾き落とす。
「ハァ!? ちょっと、アンタ!ISは無しでしょ!?」
「エクスカリバーは厳密にはISじゃない! 展開しないで武器として扱えばセーフ、だろ!? 生徒会長!!」
『────ブッブー、名前で呼んでくれないと答えませーん』
「楯無ィ!!さっさと答えろぉ!!!」
からかってくるスピーカーの声に、本気になって怒鳴る龍夜。武器もなく追い回される訳にはいかない、と彼なりに真剣な言い分だろう。だが、楯無としては龍夜の言い分は悪くなかったらしい。
『そうねぇ………まぁ展開しないなら武器として使っていいわ。 女の子を傷付けないように、気を付けてね♪』
「………決まりだな」
形勢逆転、と微かに微笑む龍夜。鈴音一人なら余裕だと、どうやって気絶させようか考えていると────不意に気配が増える。一夏かと思った龍夜だったが、そんな甘い現実はないと理解させられた。
「────見つけたぞ、龍夜!」
「婿には悪いが、王冠は貰うぞ」
「………………」
一対一のはずが、敵が二人増えた。ドレス姿の箒とラウラ、箒は両手に真剣の日本刀を握っており、ラウラの両手には各々別々のナイフが備えられている。いくら龍夜と言えど、武器持ち三人は厳しい。というか、対処できたとしても押しきられる可能性が高い。
一秒の間、数百通りの思考を巡らせる。自分が生き残る最善の方法。それを思い浮かべた龍夜は、躊躇なくその手段を選ぶことにした。
「─────一夏を売るから見逃してくれ」
「勝手に!俺をっ!引き渡すなっ!!」
背後から転がるように飛び込んできた一夏が、真っ青になりながら掴みかかる。冗談だ、と実は本気だった龍夜が軽くいなしていると、鈴が飛刀を飛ばしてくる。
咄嗟に受け止めようとした龍夜だったが、前に飛び込んできた影が飛刀を何らかの盾で弾いた。その姿を目の当たりした、二人は目を見開いた。
「シャルロットか………すまない、助けられた」
「しゃ、シャル、………助かった………」
「大丈夫だよ。その代わり、その王冠くれないかな?」
えへ、と笑うシャルロットに互いに顔を見合わせる二人。別にいいか、と思う男子二人を他所に、『
「ええい! シャルロット! 抜け駆けはさせ────ラウラ!?」
「悪いな、シャルロットとは取引をしていたのでな。邪魔はしないで貰おう」
「クッ! 手を組むとは、それでもシンデレラか! 女たる者、小細工無しで正々堂々やるものだろう!」
「……………(文句言おうとしたけど、自分も密かに手を組んでいたので何も言えない鈴)」
騒がしい女子達を無視して、王冠を外そうとする王子二人。しかしその時、待ってましたと言わんばかりのアナウンスが入る。
『王子様にとって国とは全て。その重要機密が隠された王冠を失うと──────自責の念によって電撃が炸裂します』
「………は?」
「はい?」
唖然とする二人。しかし、そんなこと言ってる間に腕が動いて、王冠を外していた。次の瞬間だった。
「ぎゃああああああっ!!?」
「ヴヴヴヴヴヴヴヴッッ!!!?」
バリバリバリ!! と二人の青年に炸裂する雷光。ギャグみたいな感じで全身に感電した二人は悲鳴を上げながら崩れ落ちる。
「う、うわーっ!? 二人とも大丈夫!?」
「な、なな………なんじゃこりゃ」
「ヴ、ヴヴ…………この電撃、まさか……」
『ああ! なんということでしょう! 二人の王子様の国を思う心はそうまでも重いのか。しかし、私たちには見守ることしかできません。 なんということでしょう!』
二回も言わんくていい、とツッコミを漏らす一夏。しかし不思議な電撃ではある。炸裂した感じはあるのだが、威力の割には肉体的なダメージは酷くない。真っ黒焦げになって煙は上げているが、身体に怪我などがないのは流石に可笑しい。
「────ああ、そうか。ようやく思い出した!」
「龍夜!? 何を思い出したんだ!?」
「あぁ、アレはあの時─────」
時間を少し、いや三日ほど遡る────
『ねー、龍夜くん。少しいいかしら?』
『…………何か?』
『ちょっと小道具が欲しくってね、どうしても龍夜くんの力を借りたいんだけど………』
『────買えば良いだろ、俺に頼るな。忙しい』
『………そうね、迷惑かけたわ。流石龍夜くんでも無理かしら、痛みだけを与えて肉体に傷を与えない電撃を浴びせられるお仕置きとかに使える道具が欲しかったんだけど。天才の龍夜くんでも、そんな道具を作るのは無理みたいよねー!』
『………………はぁ?(プライドを刺激された怒りの声)』
『ごめんね、無理だったなら諦めるわ。私も君に難題を押し付け過ぎたみたい…………無理よね、小道具の一つを造るなんて』
『─────────ハァーーーーーッッ!!? お前お前お前お前お前オマエーーーッ!!俺のことを誰だと思ってる!? 俺のことを何だと思ってる!? 無理だと、難題だと!? この天才の俺に、小道具を造るのが、無理だと言ったか!! そんなワケあるかァ!! 造ってやるわ! その痛みだけを与えて肉体に傷を与えない電撃を浴びせられる装置の一つや二つ、片手間で完成させてやる!!』
『ホント!? なら良かったわ! 明日には欲しいけど、天才だから出来るわよね?』
『舐めるな!200%の性能の代物を開発してやるから! 俺の才能に身震いしろ!!』
そして、現在に至る────。
「─────ということだ」
「…………お前じゃん。メイドインお前じゃん。本当に何してんの?なんてモノ造ってくれてんの?」
「───俺をコケにしたあの女が悪い」
事実を知っても耳を疑う一夏の疑問に対しても、龍夜はあくまでも悪いとは思ってないらしい。まぁ、利用されただけというのは理解したが、少しは反省くらいして欲しい。
「まぁ、龍夜が造ったんなら話は早いな…………さっさと停止させてくれよ」
「……………あん? 停止だと?」
「うん、停止装置だけど………………ないの? 造ってない?」
「……………………………………必要なかっただけだ」
絞り出すような言い訳に、一夏は全てを察する。その上で頭を抱え、己の思いを吐き出した。
「お前…………お前! お前って! ホントにアホだな!?」
「アホぉ!? この俺が!? 天才の間違いだろ!?ていうか、バカに言われたくないわ!!」
「あの楯無さんだぞ!? 悪用するに決まってるだろ!?っていうか、開発者なら安全装置くらいつけろ! 頭にブレーキないのか!?頭束さんか!?」
「天才がぁ!他のことなんか一々気にするかァ!! あと頭束さんとか言うな! 頭可笑しいって言いたいのか貴様! 普通に褒め言葉だろうが!!悪口みたいに聞こえてくるから止めろ!」
ギャーギャー! と言い合う男子二人に、アナウンスの声が盛り上がってきたと言わんばかりに捲し立てる。
『さあさあ! ただいまから────フリーエントリー組の参加です! みなさん、王子様の王冠目指して頑張ってください!』
「………はぁっ!?」
「………なにっ!?」
喧嘩の手を止め、顔を上げる一夏と龍夜。先程から聞こえる地鳴りのような轟音に耳を済ませると、視線の先に数十人のシンデレラがいた。現在進行形で数を増している、端から見れば某バトル漫画の劇場版の敵(量産型)みたいな圧倒的な数になってきている。
「織斑くん、大人しくしなさい!」
「王冠を我が手に!───そして龍夜くんも!」
「────逃げるぞ一夏!流石に笑えない!」
「え、ちょっと! 二人とも!? 困るよ!」
「すまん、シャル!後でお返しするから!」
こうして、無数のシンデレラとの逃走劇が始まった。観客参加型の意味がようやく理解できたことに、嬉しさもない。二人は追ってくる全てから逃げることしか頭にないのだから。
◇◆◇
『────それでは、現状を通達する』
学生たちが心から楽しむ学園祭の最中、エイツは廊下を静かに闊歩していた。耳に嵌め込んだイヤホンから響く千冬の声は、淡々と事実を告げる。
『数分前、IS学園に非正規ルートで侵入した存在が確認されている。確認できる侵入者は三人、奴等は学園内で何らかの工作を行うつもりだと窺える……………お前たちには侵入者の制圧を頼みたい』
「────侵入者か。この状況を利用するのは当然の思考だが、無法の代価は支払わせるべきだな」
『全くだ。学生たちの楽しみを邪魔する愚か者どもを捕らえてこい。気持ちは分かるが、殺すなよ』
了解、とエイツは小さく答える。彼の視線の先にいるのは黒い衣服に身を包んだ怪しい人間。人混みの中に隠れながら動くその人物を捉えたエイツは人の波に乗りながら、相手との距離を詰める。
怪しい人物が此方に気付くよりも先に、エイツはその首に腕を回し、物影へと引き寄せる。バギッ! と首を捻り、一瞬で意識を落とす。
(────? なんだ、この感覚)
人間相手とは少し違う違和感。それに気付いたエイツは怪しい人物の顔を覗く。一般的な女性の顔、だがそこにある僅かな変化に気付いたエイツは彼女の顔に手を掛ける。
案の定、シリコンによる偽装だった。一肌を模倣した人工皮膚を引きちぎったエイツは、その下の顔を認識し、目の色を変える。
「────此方、エイツ。標的を無力化。同時に報告がある」
『どうした、エイツ』
「侵入者は人間ではない。人間の姿に模造された無人機だ」
『…………長門や陸奥からの報告を受けた。お前の報告と同じ、機械のようだな。だが、センサーは何故人間だと反応した?』
学園内に展開された高性能センサーは登録されてない未知の反応を補足する最新鋭の装置だ。当然、機械と人間の区別も可能である。そんなセンサーが、『侵入者は三人』と観測したのだ。
では高性能センサーが補足した生体反応は、一体何だったのか。
『まだ侵入者が潜んでいるかもしれん。無力化した無人機を回収し、オペレーションルームに集まれ』
「…………了解」
直後、アラームのような点滅音が響く。エイツは現在の時間が14:30であることを理解すると同時に、アラーム音が無力化した無人機から響いていることに気付く。
元軍人であるエイツは、即座に理解した。目の前の無人機の本来の用途、内側に組み込まれたモノの存在を。
「───全員!屈め!!」
人気のない物影から、廊下にまで響く怒声。少しでも被害を防ぐために、点滅する無人機を奥へと押し込もうとするエイツ。
次の瞬間、無人機が内側から弾ける。小型炉心を暴走させた爆発が、周囲に衝撃となって炸裂した。
────一発だけではない。まるで連鎖するように、IS学園の校舎で多数の爆発が発生する。それは的確に侵入者に対処しようとした強化人間の大人達を襲い、学園全体を大きな混乱に導く。それこそが、侵入者たち─────外敵の目論見であった。
─────火蓋は切った。暴れろ、亡霊達よ───
その宣言と共に、