IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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第92話 虚数の黒/沈黙の蝶

「─────ッ!!」

 

「ハッハァ!」

 

 

突撃してきた『クローチェア・オスキュラス』が槍状のブレードを振るう。迫り来る黒の機体の斬撃に、全員が回避行動を取る。

 

ビームの刃を飛ばし、辺り一帯を吹き飛ばす。演劇のセットを斬り裂く強力な斬撃に息を呑む一同。そんな彼等を見据え、ノエルはクイクイと指を動かす。

 

 

「来なよ────全員でさ」

 

 

その挑発に、乗ることにした。一瞬で飛び出したのは一夏と箒。此方を侮るように笑うノエルの鼻を明かそうと連携で追い詰めようとする。だが、左右から各々放つ一撃はノエルのブレードランスと豪腕によって止められた。

 

 

「っ! その腕、まさか───!」

 

「ピンポーン! 兄弟の『雪羅』を基にしたんだぜ? 兄弟のオソロなんだ、喜んでくれる?」

 

 

言いながら、ノエルは自身の左腕────『ディアゼール・アームドギア』を一夏へと向ける。重装甲を纏う左腕の掌から、高出力のレーザーが撃ち出された。何とか咄嗟に回避した一夏だが、続け様にノエルの逆間接による蹴りが叩き込まれる。

 

 

「一夏! 貴様ァ!」

 

「おっ、ガールフレンド? 悪いけど、キミとは本気でやれないのよね。事情でさ」

 

 

言うと共に、ノエルは箒の二刀流の剣戟を押し止め、がら空きになった胴に、両肩の収束レーザーを叩き込んだ。装甲を削り取る光線を浴び、箒は近くの壁へと吹き飛ばされた。

 

 

 

「────下がって! ここは私が!」

 

「────ッ!」

 

 

『ミステリアス・レイディ』を纏う楯無と『プラチナ・キャリバー』《ナイトアーマー》を纏う龍夜。二人がほぼ同時にノエルへと肉薄した。黒い装甲の隙間から、ノエルは悦楽の笑みを崩さない。

 

 

「ハハッ! 二人がかりとか卑怯だねぇ! 俺ちゃん相手に、余裕とかないカンジ!?」

 

「そうねぇ、君はただものじゃなさそうだからね!」

 

「…………この女と協力するのは癪だが、お前はここで潰す」

 

 

直後、楯無と龍夜は攻撃を始める。盾を構えながら長剣の突きや払いを繰り返す龍夜に、ノエルは盾と剣を各々の武器と腕で押し退け、胸に内蔵された穴から高出力のレーザーを放つ。

 

至近距離からの不意打ちに対応できないはずの龍夜だったが、背後から楯無に掴まれ引っ張られたことでギリギリレーザーを回避した。そのまま放り投げられ、楯無はノエルと打ち合う。

 

 

(────クソッ! 庇われた………この、俺が)

 

「このまま、引き下がれるか!!」

 

 

叫んだ龍夜は、再び前に出る。胸から放つレーザー砲を受けそうになる楯無を守り、エネルギーを吸収する龍夜。彼の動きに楯無は僅かに驚いた様子だった。

 

 

「あら? 助けてくれたの? おねーさん、感激しちゃった」

 

「うるさい…………アンタは、強いだろ」

 

「まぁ、君よりね」

 

 

キッパリと言ってのける楯無。不機嫌そうに口を閉ざす龍夜だったが、沈黙した後に重い口を開いた。

 

 

「───なら、俺に合わせろ。格上のアンタになら、それくらい余裕だろ」

 

「……………そうね、おねーさんがエスコートしてあげるわ。だから、好きにやってちょうだい」

 

 

ふん、と龍夜は視線すら向けない。直後、彼は盾を前に付き出してノエルへと迫る。ノエルはまるで軽快な動きで盾による突進を避け、龍夜が次に繰り出した長剣の刺突すらも受け止めた。

 

そのまま隙だらけの龍夜を狙おうとしたノエルを、楯無の『蒼流旋』が狙う。咄嗟にブレードランスで迎撃しようとするが、龍夜はそれを盾により阻害。迫るランスを止められず、ノエルは自身の顔を覆うバイザーに傷を受けることになった。

 

 

「────ヒュッー! やるねぇ! じゃ、こっちも久々に暴れちゃうかぁ!!」

 

(ッ!コイツ! また動きが────まだ本気じゃないのか!?)

 

 

身体を低くしたノエルの動きが、更に加速する。楯無と龍夜の連携にすら対応してくる青年に、龍夜は少なからずの焦りを感じる。

 

猛攻を繰り出そうとしたノエルだったが、突如背中に強い衝撃を受けた。背後に移動していた鈴が、衝撃砲を放ったのだ。

 

 

「私たちだっていんのに! 舐められたもんね!」

 

「────ナメてんだぜ? こう見えて」

 

 

キヒッ! とノエルは不気味に笑う。次の瞬間、彼の腰部のワイヤーが音を立てて外れる。尻尾のように伸びたワイヤークローが、凄まじい音を立てて鈴を吹き飛ばす。

 

 

「鈴!」

 

 

叫び、助けに向かおうとするシャルロット。しかし、鈴を壁に助けつけたワイヤークローは次の標的をシャルロットへと固定したらしい。カチカチ、と爪を開閉し、床を滑るように移動して始める。

 

シャルロットも、両手に召還したアサルトライフルを乱射し、テールクローを迎撃する。だが、テールクローはもろともせず接近する。

 

 

「────止まれ!!」

 

 

だが、ラウラが発動したAICによりテールクローは動きを停止する。ギリギリ、顔の直前で動きを止めたテールクローにシャルロットとラウラも互いに安堵した。

 

 

 

「────シャルロットちゃん! 逃げて!!」

 

「────ラウラ! 離れろ!!」

 

 

直後に響くのは、楯無と龍夜の叫び。それを認識した瞬間、ラウラの隣にいたシャルロットが地面に叩きつけられた。凄まじい速度、『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』で詰めたノエルの『ディアゼール・アームドギア』に掴まれ、そのまま地面に押し込まれたのだ。

 

 

「ヒヒ! 余所見ちゃんだねぇ」

 

「シャルロットっ!───貴様ぁ!!」

 

「────キミのことだよ? 眼帯ちゃん」

 

 

瞬間、リボルバーカノンを向けようとしたラウラ。彼女を狙ったのは、AICから解き放たれたテールクローであった。三本の爪がラウラの腕を掴み、上空へと飛び上がり、そのまま近くの壁へと叩きつけるように振り回した。

 

 

「…………ダメだよねぇ。マジになっちゃあ、俺みたいなヤツ相手に隙見せたら、容赦なく狙っちゃうんだぜ?」

 

「────その手を、離せぇ!!!」

 

 

シャルロットを掴み、ケラケラと笑うノエルに飛来する影。吹き飛ばされたはずの一夏が、雪羅のアームクローを展開して突撃する。ノエルは口を引き裂きながら、『ディアゼール・アームドギア』のビームクローを展開、相殺した。

 

 

「アハハッ! なァにマジになってんの!? やられるヤツが悪いんだよ!? 世の中常に弱肉強食ッ! 傷つけられたくなきゃ、より強く、より凶悪にならなきゃ!」

 

『─────一夏! 抑えろ!!』

 

 

ノエルの嘲笑と共に、個人回線から繋がった龍夜の怒号。視界の隅でエネルギーライフル『ライトニング・レイザー』を構える龍夜の姿を確認した一夏は友人の言葉に従い、ノエルへと食らい付く。

 

 

「────エネルギー回路接続、銃身最大展開、粒子加速循環機構ロック解除、フレーム固定────出力二層限界、解放!」

 

 

腰の装甲に取り付けられたレール装置に最大展開したエネルギーライフルの接続回路を装着する。腹に押し込み、固定されは『ライトニングレイザー』から持ち上げられた二本のレバーを握り、龍夜はそのライフルの銃口をノエルへと固定する。

 

 

「っ! 狙う気なのは分かってるんだよね────!?」

 

「逃がすかっ!」

 

「ちぃ! 邪魔でぇ!」

 

 

迎え討とうと身構えるクローチェア・オスキュラス。だが、白式がそれを許さぬ追撃を繰り返す。バイザーの下から覗くノエルの口が、僅かに歪む。本気で鬱陶しいと思っているようなその様子に、龍夜は引き金を引く。

 

 

『─────離れろ! 一夏!!』

 

 

瞬間、クローチェア・オスキュラスを蹴り飛ばした一夏が瞬時加速で緊急離脱する。バランスを崩した漆黒の機体に、龍夜のエネルギーライフルの砲撃が撃ち込まれた。

 

 

 

───────ッッ!!!

 

 

爆音と共に、放たれたのは巨大なエネルギーの奔流。ライフルから放たれたとは思えない、超高火力の閃光。地面に踏み込んだ龍夜の身体を大きく仰け反らせる程の反動を有したレーザー砲は、反対側の壁に巨大な大穴を開けることになった。

 

絶大なエネルギーの光に消えたクローチェア・オスキュラス。命中したと思ったが、どうやらそう簡単にはいかないらしい。

 

 

「いやー、危ない危ない。今のは危なかったよねー!」

 

 

ガラガラ、と瓦礫の中から姿を現すノエル。クローチェア・オスキュラスに傷はない。恐らくギリギリで回避をしたらしい。避けられたことに歯噛みする一夏たちだが、龍夜は直前に認識した違和感を感じ取っていた。

 

 

(………アイツ、直前で避けた。俺のレーザー砲を、受けようとしていたのか? 避けたのは威力が強すぎるから、では受けようとした理由はなんだ?)

 

 

思案する龍夜に気付いたのか、ノエルは飛び掛かるように龍夜の方に狙いを定める。だがその直後に、飛来したレーザーを咄嗟に回避した。

 

 

「───くっ! やはり素早いですわね!」

 

 

言うや否や、遠方から狙うセシリアは狙撃を再会する。クローチェア・オスキュラスの動きを止めるように、何発も撃ち込んでいく。

 

 

「───キヒッ!」

 

「ッ! 止めろ、セシリア! ソイツにレーザーを当てるな!」

 

 

待っていた、と言わんばかりに笑うノエルに、龍夜は違和感の正体を完全に理解する。龍夜の叫びに気付き、咄嗟に引き金を引こうとした指を止めるセシリアだが、手遅れであった。

 

既に放たれたレーザー、本来であれば威嚇射撃、相手の動きを牽制させる為だけの狙撃。クローチェア・オスキュラスは何故か、それを正面から受けようと滑り込む。

 

翼のように背中に展開した、六枚のミラーバインダー。その一枚にセシリアの放ったレーザーが接触する。防御されて弾かれるのではなく、光の粒子は吸い込まれるようにミラーディフェンダーへと消えた。

 

 

「吸収、した?」

 

「違う!これは────反射だ!!」

 

「大・正・解ッ!!!」

 

 

高揚したように叫ぶノエル。次の瞬間、クローチェア・オスキュラスの背中のミラーディフェンダーから閃光が放射された。ほぼ綺麗に、セシリアへと放たれるレーザーを、飛び込んだ龍夜が『銀光盾』により受け止める。

 

 

「…………さっきから可笑しかった。俺のレーザー砲をギリギリ回避したのは、反射を狙ってのことだな? 違うか?」

 

「まぁね。俺のこれ、『ミラージュ・メイデン』はビーム兵器を反射できる面白いモノなんだけど、まぁ限度があってね。さっきの砲撃みたいな威力のヤツは無理なのよねー、これが」

 

「なら、簡単だ。ビーム兵器を使わず、お前を叩き潰す。恐らく、お前が反射できるのは飛び道具くらい。それを使わずに全員で相手すれば、流石のお前も厳しいだろ」

 

「────んー、それにしても。もうそろ五分だねぇ」

 

 

追い詰められているはずなのに、ノエルの余裕は揺るがない。それは自身の実力を未だに信じている、のもあるのだろう。だが、それ以上の自信を感じてならない。

 

かと思えば、右手の武装を地面に突き立て、大声で空へと叫び始めた。

 

 

 

 

「────おぉーーーい! もうそろ時間だし、そろそろ一緒にやろーよぉーーっ! エムゥーーーーッ!!」

 

「っ!? 機体反応だと!?」

 

 

エムの声に応えるように、上空から凄まじい速度でナニかが迫る。超高速の飛翔で落下してくるそれはアリーナのシールドをぶち破り、一気に速度を軽減させる。

 

深い蒼色が目立つ、蝶のような機体。背中の大型スラスターから羽のようなエネルギーを放射するそのISを駆るのは、この場の誰よりも幼い少女に見えた。その姿を目の当たりにしたセシリアは、信じられないと言葉を失う。

 

 

「アレは、『サイレント・ゼフィルス』!?」

 

 

セシリアの扱う『ブルー・ティアーズ』、その試作二号機であり、彼女の戦闘データを基礎として開発された、最新鋭の機体。最近、イギリス本国で情報統制がされていると思っていたが、何故その機体がここにあるのか。

 

そんな疑問に答える前に、『サイレント・ゼフィルス』は『クローチェア・オスキュラス』へと寄り添う。嬉しそうに口元を緩めるノエルに、ゼフィルスを纏う少女は澄んだ声で告げる。

 

 

「────情けないな、エヌ。私が出れば早く終わったものを。一人でやらせろ、なんて言うからだ」

 

「エヘヘ、そうかもね。でも最初から本気だと面白くねーじゃん。折角の相手なんだから、もう少し楽しまないと、ね?」

 

「…………それも、そうだな」

 

 

エムと呼ばれた少女は、ノエルの言葉に静かに頷く。隣に立つように並ぶエムの視線がふと、一夏へと固定される。凄まじい殺気を向けながら睨むエムを抱き締めながら、ノエルは一夏へと声をかけた。

 

 

「やぁやぁ、兄弟。紹介してあげるよ! 俺の妹、エムって言うんだ! どう? 可愛いでしょ!?」

 

「…………妹?」

 

「止めろ、煩わしい」

 

 

撫でながらすり寄るノエルに、エムは力ずくで引き剥がす。「あぁん、いけずぅ」と押し退けられたノエルの言葉を無視しながら、エムはふと一夏を見据える。

 

 

「─────織斑一夏」

 

 

その名を呼ばれた一夏は、息を呑んだ。そんな一夏の前で、エムは飛翔し、手元に呼び出したライフルを手にする。傍らでやれやれ、と肩を竦めるノエルと並び、ライフルを深く構えた。

 

 

「私達兄妹の為に、ここで死ね」

 

 

直後、ライフルの銃口から最大出力のレーザーが噴き出す。躊躇など一切感じさせない、無慈悲な一撃が一夏の目の前に迫るのだった。

 

 

「────一夏ッ!!」

 

 

そんな彼を守ったのは、龍夜であった。前に出て盾によって、エムの放ったレーザーを吸収する。

 

 

「悪い!助かった!」

 

「気にするな。 それより、聞きたいことがある」

 

 

動きを止め、龍夜は一夏へと語り掛ける。幸いなことに追撃はない。ライフルの射撃を行ったエムは何故だかノエルに止められていた。その様子を尻目に、龍夜は怪訝そうに問い掛ける。

 

 

「…………お前、兄弟なんていたのか?」

 

「いや、知らないんだ………あの二人は本当に、俺の兄弟なのか?」

 

「……………その様子だと、ホントに知らなさそうだな。だが奴等は、お前と仲良くする気は無いらしい」

 

 

ここからでも聞こえる物騒な内容に、龍夜は顔をしかめながら反応を示していた。一方で、兄妹二人はワイワイと話し合っている。

 

 

「ダメだよぉ、エム。メインディッシュから狙うなんて、他の奴等もいるんだから、ちゃんとそいつらから片付けないと」

 

「………ふん、雑魚の相手など興味はない」

 

「じゃ!勝負しよ! どれだけ相手を倒したかでさ!蒼青龍夜と楯無は3点で!その他のオマケが1点! 点数の高い方が織斑一夏を殺すってことで!」

 

「─────そうだな。まずは邪魔な雑魚から片付けよう」

 

「エヘヘヘ! もし俺が勝ったら一緒にお風呂入ろーよ! 兄妹仲良く、ネ?」

 

「…………私が勝ったら、そういうことは控えろ。せめてこういう場ではな」

 

「へへッ、リョーカイ! そんじゃ、やるよぉ!!」

 

 

内容としては舐めきっているとしか思えない言葉だが、さっきやり合った身としてはその発言に嘘を感じられない。恐らく彼等は本気でこの場誰よりも強い。

 

 

突如、二つの機影が飛び出した。その一機、サイレント・ゼフィルスが狙うのは此方────厳密には、龍夜の方であった。

 

 

「邪魔だ、雑魚が」

 

「なっ────くそ!?」

 

 

突撃したゼフィルスに蹴り飛ばされる一夏。そのまま遠くに離されたかと思えば、追撃は来ない。サイレント・ゼフィルスを駆るエムは龍夜を見下ろし、口を開く。

 

 

「お前が、蒼青龍夜だな?」

 

「………見て分からないのか? お前のISのハイパセンサーは不調か? いや、目の方が節穴らしいな?」

 

「────今から相手をしてやる。精々、他の雑魚同様無様を晒すなよ」

 

「ハッ、格下みたいな発言を………無様を晒すのはどちらだ?」

 

 

瞬間、挑発を無視するようにエムは躊躇なく引き金を引く。ライフルから放たれた閃光、高火力のビームを盾で受ける。無論、光の粒子はエネルギーとして取り込まれる。その様子を見届けたエムは、ほぉと感心したように笑う。

 

 

「よくやる────これならどうだ?」

 

 

続けて、一射。ビームが垂直に迫る。何を考えているのか、盾を構えてビームを受け止めようとした龍夜だったが、次に信じられないものを目にした。

 

 

「────なッ」

 

 

垂直に飛来したはずのビームが、盾に触れる前に曲がったのだ。弧を描いて捻れたビームは盾を綺麗に避け、龍夜の死角から迫り来る。

 

踏み込み、盾から抜き放った長剣でビームを切り弾く。今度はギリギリだったからか、さっきのような現象は起きなかった。だが、龍夜は知っている。ビーム兵器を意図的に曲げられる技術を。

 

 

(───『偏向射撃(フレキシブル)』! コイツ、セシリア以上のBT適性を………!)

 

「……………」

 

 

驚愕を隠しきれない龍夜に、エムは口元を深く歪める。余裕から生じた嘲りだろう。自分が上の立場にいると言う確信、自分よりも弱い相手を一方的に追い詰められることへの喜びと愉悦。

 

龍夜は盾と剣を静かに構え直す。視線の先でサイレント・ゼフィルスが空に舞う。複数のビットを展開し、龍夜への一斉攻撃を始めようとしていた。

 

 

「────龍夜さん!」

 

 

だが、そのビットの一機が撃ち落とされる。飛翔してきたセシリアによる援護だ。その一撃に顔を歪め、舌打ちを吐き捨てるエム、彼女の意識が逸れたことを逃さない。

 

 

「─────セシリア、援護任せた。ビットを撃ち落とせ」

 

「龍夜さん?…………いえ、分かりました。やってみせます」

 

「ああ、信じる。俺も、ヤツに意識を向けさせない」

 

 

鞘を背中に固着させ、『プラチナ・キャリバー』の装甲を変形させる。攻撃特化の形態、《アクセルバースト》と変化したISに身を預け、龍夜は超加速のまま突き進む。一抹の光と化しながら、サイレント・ゼフィルスへと飛翔するのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

「アッハッハッ! 俺相手に六人とか! 戦力の分担下手すぎじゃなぁーい!?」

 

「これでいいのよ! あっちの子より、貴方の方が強くて厄介だから!」

 

「フフッ! 勘が良いね! 大当たり!」

 

 

一方で、ノエルと交戦する楯無。拮抗状態になっているように見えるが、ノエルは割り込んで来る一夏たちにも淡々と対処している。

 

ISを操る彼の動きは四次元的な、獣に近い衝動的なものに見えて、理知を隠しているものだ。不用意に気を抜けば、ノエルは全員を全滅させることも可能な実力者である。

 

 

「フッ! これじゃあジリ貧だねぇ────それなら、もっと面白くしてあげるよ! へェーイ! エムゥ! お願ぁーーい!!」

 

 

ふざけながら、大声で叫ぶノエル。少し離れた場所で、超高機動の戦いを繰り広げていたエムは溜め息を隠さず、飛翔したまま此方へと狙撃を数発放ってきた。

 

慌てて避けたり、防ごうとした一夏だが、楯無だけはその狙いを理解し、思わず焦りを覚える。ビームが撃ち込まれたのは自分達にではない。

 

 

「─────キヒッ」

 

 

堂々と待ち構えていたノエル、彼の展開した六枚のミラーディフェンダーに全てのビームが吸い込まれたのだ。心の底から面白そうに笑うノエルの背後のミラーディフェンダーが静かに動くと共に、鏡面から吸収されたビームがそれ以上の威力で放射された。

 

 

「っ!アイツ、味方にわざと攻撃させて───!」

 

「そう! だから相性良いのよねー、俺達! そしてぇ、更なるダメ押し! ─────ソードビット! オープン!!」

 

 

全身を広げたノエル。その一部分、肩や腰部のフレームから破片らしきものが分離した。鋭い刃を展開したビット。ビームを放ったりミサイルのようなものではなく、相手を切り裂く近接攻撃を有したビット兵器。それらの凶器が、ノエルの全身から分離した後、即座に全員の元へと飛来していく。

 

計12機のソードビットが、空間を制圧するように飛び回る。マトモに攻撃に転じられない、不用意に歩みを止めれば此方を狙ってくるソードビットに切り刻まれる。逃げることしか出来ない状況に一夏たちは歯噛みし、ノエルは大笑いを響かせる。

 

 

「アハハハッ!! さっきまでの威勢は何処ちゃん!? もうそろ本気で終わらせても────────ん?」

 

 

直後、ピタリと動きを止めるノエル。怪訝そうな顔からすぐに「あー、マジかー」と溜め息を漏らす。そんな彼の意思に連動するようにソードビットは鳴りを潜め、即座にノエルの元へと戻る。

 

 

「────エムぅーー、帰るよぉーーーっ! もう時間だってさぁーーー!」

 

「…………チッ、つまらん」

 

 

エムなる少女は途端に不機嫌になりながら、ノエルの元へと寄っていく。そんな状況に、一夏は思わず声を張り上げる。

 

 

「逃げるって言うか………? こんなことして、学園祭の邪魔をして、やるだけやって、尻尾巻いて逃げるのかッ!?」

 

「────フフ、まぁ俺達はね。でも、もっと面白くなるよ。今からネ─────兄弟も、楽しみにしててねーん」

 

 

一瞬、龍夜を一瞥したノエルはクスクスと笑いを溢す。そのままサイレント・ゼフィルスに背中を持ち上げられ、浮かび上がったクローチェア・オスキュラス。またねー! と手を振るノエルは、超速で飛び立ち、空の彼方へと消え去っていった。

 

 

「………くそっ! なんだよ、何がしたいんだ! あいつら!」

 

「……………」

 

 

怒りを隠せない一夏に、龍夜は声も掛けられなかった。ただ、さっきのノエルの発言だけが心に残っている。

 

楽しみに、まるでこれから何か起こっているのか分かっているような言い方だった。龍夜にとって無視できない何かが、起こるというのだろうか。

 

 

「…………しょうがいないわ。皆が無事なだけ、儲けものよ。皆、怪我はない?」

 

「と、特には………箒も大丈夫か?……………箒?」

 

 

返事が来ないことに不思議そうな一夏だったが、すぐ近くにいた箒はバランスを崩したように膝をついていた。慌てて駆け寄る一夏だが、箒は頭を両手で抑えながら、苦しそうに呻いている。

 

 

「───な、なんだ………頭、が…………何か、見える………なんだ、この景色は─────」

 

「大丈夫か!? 箒! しっかりしろ! 今、安全な場所に───!」

 

「────待て、待ってくれ………一夏! 見えるんだ、見覚えがある、通路を…………歩いている…………ここに、誰か近付いている───!」

 

 

その言葉に、耳を疑う一同。箒には、何かが見えているらしい。誰かが見覚えのある、学園の通路を通っている景色が。戸惑う一夏を押し退け、箒は展開した刀を振り上げて叫んだ。

 

 

「────そこにいるのは誰だ! 姿を現せ!」

 

 

その声に、観念したのか。ふと、箒が刀を向けた先の出入口から、人影が現れた。あまりにも異様な、味方とは到底思えない者が。

 

 

「─────私を感じるか。想定よりも成長しているようだな、篠ノ之箒」

 

 

それは、仮面で顔を覆い隠した男であった。灰色のコートに身を包み、身体の全てをひた隠しにした、間違いなく不審な男。顔を覆う仮面には模様すらなく、感情らしきものも感じられない、冷徹さだけが醸し出されている。

 

 

「初めまして、という言葉は不要か? お前たちは、私を知っているのだから」

 

「……………なんだと?」

 

「───そうだったな。この姿で現れるのは初めてだったか」

 

 

男はそう言うと、虚空に手を伸ばす。何もない空間に伸ばされた掌には、いつの間にか特徴的な黒い大剣が在った。黒い装甲に包まれ、赤紫色の妖しい光を宿す禍々しい武具が。

 

仮面の男はその魔剣を持ち上げ、刀身に指を掛ける。そして、淡々とした声で告げた。

 

 

「──────覚醒」

 

 

瞬間、魔剣が音を立てて装甲を解き放った。内側から吹き飛ばされるように舞う黒い装甲、それらは仮面の男の全身を包み込んでいく。赤紫色のエネルギーがその身体に流れていったかと思えば、一気に凝縮し─────人の形へと、再構築された。

 

 

そして、外套を翻し────漆黒の機体は顔を上げる。見覚えるのある、不気味な形相。ひび割れた隙間から覗く単眼が特徴的な、フルフェイスのバイザーを露にした。

 

 

「────────お前、は」

 

「…………初めまして、IS学園代表候補生諸君。

 

 

 

 

 

 

 

私はフェイス。テロ組織『亡国機業(ファントム・タスク)』を率いる者であり、お前達が『魔王』と呼ぶ者だ」

 

 

ゼノス・バルハード。多くの命を奪ってきた正体不明のIS、それが今、彼等の前に降臨した。

 

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