IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

94 / 116
ここからが楽しみにしてたお話(作者談)


第93話 憎しみの閃光

────自分が周りと違う、そう自覚したのは小学生になったばかりの頃だった。他人と同じ環境にいてようやく、自分が他とは違う才能と頭脳を持っている、俗に言う天才だと自覚した。

 

ただ一つ、唯一違うことがあるとすれば─────蒼青龍夜はただの天才などではなかった。あらゆることに於いて特筆した才能を有する、他と隔絶した存在であったと。彼は、少しもしない内に理解した。

 

その結果、起きるのは顰蹙だ。子供たちは自分より格上である龍夜を気味悪がり、純粋さに従っていじめを始めた。何故そんな無意味なことをするのか、と子供ながら考えて、彼等が自分よりも明らかに劣った凡愚だと認識した。

 

 

大人はいじめをする子供を叱るが、何より龍夜のことも注意していた。理由は、いじめの原因になったのは君自身だから、他人と仲良くしなさい、との事だ。

 

本当に、理解が出来なかった。何故自分を敵視し、侮蔑する相手と仲良くしなければならないのか。教師や大人たちがそう言い始めた理由が、問題を大事にしない為の保身だと知り、彼は大人すらも自分より劣化した凡愚と理解を改める。

 

 

気付けば、彼は全てに無関心になっていた。いや、自分以外が有象無象にしか見えず、自分だけの世界に取り憑かれていたのだ。世界の誰よりも優れた天才である自分が他人と合わせて生きる理由などない。そんな感情と共に、彼は自身の世界に閉じ籠り、世界と向き合おうとしなかった。

 

 

────そんな彼の考えを変えたのは、他ならぬ彼の家族であった。

 

 

父は穏やかで優しかった。何も理解しようとしない大人たちとは違い、自分の才能を理解し、自分の考えを聞いた上で考えてくれた。彼等のように、押し付けようとしないで。

 

母は天然だが、それでも凛々しかった。ずっと他人を見ようとしない龍夜の考えを受け止めながらも、傲慢だった自分の心を少しずつ溶かしてくれたのだ。彼等のように、諦めようともせず。

 

長女は真面目で、少し騒がしかった。規律や正しいことを優先し、龍夜にルールを守ることを教え続けてきた。それはそうと、暑苦しいのは困っていたのだが。

 

義理の兄────長女の婚約者は寡黙で、大人しかった。いつも姉の隣にいて物静かだったが、何処か温かさを感じさせていた。きっと、父同様優しいのだろう。当初は他人ということもあり忌避していた龍夜も、すぐに心を許した。

 

────次女は誰よりも身勝手で、誰よりも強かった。外に出ようともしなかった龍夜を外に連れて、いつも楽しそうに笑っていた。ただ危なっかしかった姉を放ってはおけず、次第に龍夜の方が心配することが多かったのだが。

 

 

少なくとも、家族の存在が龍夜の心を覆っていた氷を溶かしていた。赤の他人、自分を理解しない凡愚は嫌いであったが、家族が心の中で大事な存在になったことに違いはなかった。

 

 

─────だが、ある日を境に全てを失った。ISの軍事利用に反対していた父と母は、考えに賛同していた外国のグループとの対談の際に襲撃され、殺された。黒いIS『魔王』の手によって。

 

遺体は残っていたが、葬式の後に国連によって回収された。返して欲しいという姉たちや義理の兄の願いも虚しく、父と母は埋葬することすら許されず、空っぽの棺桶を埋めることになった。

 

義理の兄と長女は、後に姿を消した。破棄されたパソコンのデータから、龍夜は二人が復讐を画策していたことを知ったが、次女である姉には黙った。姉を、悲しませたくなかったから。

 

姉は酷く落ち込み、龍夜が支えて二人で生活していた。だがある事件により、姉は両目を失明して寝たきりになった。心が壊れ、家族が生きていると思い込み必ず帰ってくると信じているのだ─────今も、空っぽになった笑顔のまま。

 

 

────かつて家族と共に過ごしていた家の中で、龍夜は初めて孤独と喪失を理解した。他人がいなくても生きている、というのは幻想だと知る。家族にまた会いたい、そんな思いも何度感じたことか。

 

 

ただ誰もいなくなった部屋の中で、閉じ籠っていた龍夜。絶望と後悔、悲しみは肥大化していき────世界への憎悪に変わっていた。

 

自分から全てを奪う世界なんていらない。全部壊れてしまえばいい、皆死んでしまえばいい。自分が、大切な家族が、幸せに生きられないのに、有象無象が何も知らず平和を謳歌しているのが許せない。

 

 

そう思った彼は、ISを造ろうとした。自分の憎悪に従い、世界を滅ぼせるカミを造ろうとしたのだ。だが、ダメだった。彼にはコアの作り方が分からなかった。何をしようにもどうにも出来ず、彼は怒りと苛立ちを周りの物に当たり散らし、自身の胸に秘めた憎悪を爆発させていた。

 

 

ふと彼は、壊れたパソコンに映されたデータの目にする。義理の兄と長女が探し出した、仇の存在を。

 

 

「……………こいつが、父さんと母さんを」

 

 

監視カメラに映し出された黒い影を前にした龍夜は、嗤う。何でこんなことを忘れていたのか。世界への復讐なんて、家族が喜ぶわけない。きっと家族は、両親は、そんな自分を怒るだろう。

 

なら、この怒りと憎しみを誰に向けるべきなのか。その答えに至った時、彼は心の底から納得した。

 

 

 

「─────ころしてやる」

 

 

蒼青龍夜は、復讐を決意した。この悪魔を、自分から全てを奪った黒いIS、それを駆る者を絶対に殺す、と。たとえ何年経とうと、己の人生を使い潰してでも、復讐を果たすと。

 

少年の心に打ち込まれた決意は、揺るぐことはない。それは彼が今を生きようとする動力源であり、前を見続ける理由なのだから。

 

 

 

 

 

蒼青龍夜は生きた。復讐の為、強さを求め続けた。ISの適性を見出だされ、学園に招かれた時も、彼は復讐の為に強くなることを良しとした。

 

 

だが、そんな彼の決意が微かに揺らいだ────学園で出会い、共に戦った仲間たちの存在だ。彼等との日常が、悪くないと思い始め、龍夜は復讐以外を考えるようになった。

 

 

 

 

────いつか復讐を遂げたら、今度は彼等と共に前を見てみよう。心の中に秘めた小さな思いは、怨敵を目の当たりにしたことで溢れ出た憎悪に塗りつぶされた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

「────おまえ、だな」

 

 

ボソリ、と龍夜は口にする。ふと、隣に並んでいた一夏は聞いたこともない声に耳を疑い、振り返る。そして、今度こそ絶句した。

 

 

「おまえが、とうさんと、かあさんを───」

 

 

今まで見たこともない、激しい怒りと憎悪に支配された龍夜の顔。溢れんばかりの激情を抑え込もうとして、限界を迎えそうなその姿に、気付いた全員が息を呑む。

 

十年、ずっと溜め込んできた憎悪と殺意。両親の仇を前にしたことで、龍夜の胸に秘めた感情は一気に爆発した。

 

 

「─────おぉまえがァあ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!!!」

 

 

怒号、或いは咆哮。喉を引き裂かんばかりの声と共に、龍夜は飛び出した。背中のスラスターを最大出力で、光速を越え─────一筋の光となって、フェイスへと突撃した。

 

 

『…………フッ、出力が上がったか。面白い』

 

 

だが、フェイスの声に焦りはない。背中に展開した四本の大型アームをビームを収束し、シールドを形成していた。直後シールドを分解し、アームの先から伸ばしたビームブレードで龍夜を斬り払う。

 

吹き飛ばされた龍夜は空中で動きを止め、直後にスラスターを噴かし、再び飛翔───いや、飛来していく。

 

 

「オォオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!」

 

 

怒号を響かせながら、突撃する龍夜にいつもの冷静さは感じられない。怒りに、憎しみに支配されているのだ。今の彼には、フェイスを殺すことしか頭にない。何もかも、見えていないのだ。

 

 

「───いけないっ! 皆! 龍夜くんの援護を! 彼に無茶をさせないで!」

 

『そうはいかん────貴様らの相手はコレだ』

 

 

恐れていた展開に、即座に動いたのは楯無。唖然としていた一夏たちに強く呼び掛け、援護に向かおうとする。無論、フェイスはそれを許さなかった。

 

激昂する龍夜の猛攻をいなしながら、掌を向ける。すると、何処からともなく二手二足の無人兵器が飛来してくる。暗号による通信を行う無人機たちは、数によって連携しながら一夏たちへと襲いかかる。

 

 

「邪魔だ! どけよっ!」

 

 

左腕の『雪羅』のクローモードによる刃が、無人機の一機を撃破する。しかし、一機破壊した途端に、三体以上の無人機が溢れんばかりに殺到していく。確実に殺そうとはせず、彼等の足を止めるように数に任せて押し返そうとしていた。

 

 

「────ッ! が、アアアッッ!!!」

 

 

フェイスに追撃、食らい付く龍夜。彼の戦い方に、何時ものような慎重さや正確さはない。怒りのままに刃を振るい、周りが見えていない。

 

ゼノス・バルハードが背中から展開したアームクローの斬撃。それを浴びても龍夜は止まらない。指のように伸びるアームクローを掴み、力ずくで叩っ斬る。そのまま、がら空きとなったゼノス・バルハードへと斬りかかっていく。

 

バルハードが右手に握る魔剣でエクスカリバーの一太刀を受け止める。刃の衝突の中、フェイスは激しい怒りに震える龍夜に囁く。

 

 

『────やれやれ、直球だな。私がそんなに憎いか?』

 

「当たり前だ! お前が父さんと母さんを殺したこと! 俺は忘れてない! お前が、俺から全てを奪ったんだ!!」

 

『…………親、か。悪いが、一つだけ言っておこう』

 

 

魔剣を振り払い、フェイスは静かに考え込む。その上で淡々と、龍夜の怒りを刺激するようなことを口走る。

 

 

『どれのことか、教えてくれるか? 生憎、殺した人間は沢山いる。ソイツらのことなど、一々記憶していないのでね』

 

「ッ!────貴様ァ!!」

 

『………ああ、冗談だ。少しは和ませようと思ったが、無論覚えているさ。蒼青竜だろう? 私が直接殺した相手の事だ、忘れるはずもない』

 

 

笑っているように見える仕草だが、その声に感情はない。侮蔑も嘲笑も、あるのは冷酷なまでの通達。機械そのものであるかのように、フェイスは受け答えする。

 

拳を握り締める龍夜は、怒りを抑え込みながら問い詰めた。自分の両親があの日、無慈悲に命を奪われた理由を、知るために。

 

 

「何故だ! 何故、二人を殺した!? あの二人が、父さんと母さんが殺される理由が、何処にあった!?」

 

『────あの時のことか。理由があるとすれば二つ。一つは、幹部たちの命令だ。彼女たちはISによる時代の変革、ISの価値を兵器として捉えていた。……………あの時代の最中、流れに逆らったあの二人を疎ましく思うのは、仕方なかろう?』

 

 

両親は、ISの軍事転用に反対していた。

それは実の息子である龍夜が焦がれたISを、人殺しの兵器にさせないの為である。だが、それを望まぬ者達は邪魔な意見を封殺することを選んだ。反対を示す者を、消していくことで。

 

それだけでも、龍夜からすれば納得は出来ない。あの優しい二人が、死ぬ理由にはならないと。歯軋りのまま、思い直す。

 

だが、フェイスは言葉を続ける。もう一つの理由を、明かしてないからだ。

 

 

『────二つ目、私個人の私的な理由だが────お前が、その理由になる』

 

「………なに?」

 

『お前は天才だ。篠ノ之束と同等の資質を持ち得ながら、何物にも影響されていない究極の原石────そのお前の才能に興味が湧いた。だからこそ、その価値を活かす為にお前の両親を殺したのさ』

 

 

フェイスの声は無機質ながら、不自然なまでに辺りに響いていた。戦っている最中の一夏たちも、その言葉を耳にしてしまう。手を止めて言葉を失う者もいれば、そんな理由でと困惑する者もいる。

 

 

龍夜自身も、絶句していた。

まさか、思いもしなかったのだ。両親を殺した理由が事務でありながら、その程度の理由であることを。

 

───自分の才能を、表に引っ張り出す。それだけの理由で、大切に思っていた自分の両親を殺すことを決意したのか、と。

 

 

『結果は充分だった。目に見えて良好─────両親を失い、復讐に燃えたお前は憎しみのままに、世界を破滅に導く「壊滅」を造り出した。…………その為に、お前の親を殺した。私としては、それだけの理由だ』

 

「──────お前、は」

 

『正直な話、あの二人を殺す必要はなかった。…………家族であれば、誰でも良かったからな。貴様を置いていった二人でも─────貴様が大事にしていた、寝たきりの姉でもな』

 

 

最早、それ以上の言葉は必要なかった。

 

周囲から隔絶し、無音となった世界で龍夜は────己の血管が、堪忍袋自体が張り裂けるような、音を耳にする。

 

その直後に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────殺してやる ッ ッ !!!!!!」

 

 

殺気が、溢れ出す。

プラチナ・キャリバーの全身から、膨大なエネルギーが放出される。スラスター、エネルギーブレードも、まるで爆発するかのように光を増大させていく。

 

噴き出すエネルギーに、装甲がピシピシと悲鳴を上げる。神装 エクスカリバーの力を活かす為のIS、その通常形態でも耐えきれないエネルギーが、最大限まで解放され、引き出されている。

 

血走った眼をカッと見開き、フェイスを補足する。失明しようとも構わない、そんな覚悟と気迫を感じさせる強い憎悪が龍夜の身体から吹き出している。歯を噛み砕く程噛み締め、龍夜は目の前の敵を─────殺すべき敵を睨む。

 

 

『………力が増したか。いいぞ、来い。その憎悪、私に向けるがい──────』

 

 

余裕と共に口にした言葉は、途切れる。

光速となって迫った龍夜の拳が、ゼノス・バルハードのバイザーを、打ち抜いた。速度と重量を伴った拳を受け、フェイスは壁に衝突し、突き破っていく。

 

 

「────ッ、────ッ」

 

 

バチバチッ! と、尋常ではないエネルギーの放出量に空気がが圧迫され、火花が散る。呼吸している龍夜の首筋には血管が浮かび上がっており、軋らせた歯を剥き出しにしてギリギリと唸っている。

 

直後、龍夜は言葉にならない絶叫────咆哮を轟かせた。溜め込んできたであろう、怒りと憎しみを撒き散らすように。吐き出された怨恨は、それでも収まらない。あの男を、殺さない限り。

 

 

「──────ォォォォオアアァァァァァァァァァァ ッ ッ !!!!!」

 

 

飛沫したエネルギーが、共振する。神装 エクスカリバーとして力が引き出されている。そう理解した一夏たちも目を疑う現象。龍夜の心に、エクスカリバーが共鳴している。誰もが、そう認識した。

 

 

─────最中、フェイスの吹き飛ばされた向こうから、アームクローが伸びる。爪のように最大限展開されたビームブレードは、龍夜には届かない。

 

たった一振の、エネルギーの刃で斬り払った。それだけで、アームクローが全て両断される。完全に破壊されたアームクローを分離し、砂塵の向こうから逃れようとするフェイスに、純白の閃光が食らい付く。

 

 

『───っ! 私を、捉えるか』

 

「アアアアアアアアアァァァァァァァァァァッ!!!!」

 

 

その場に倒れたフェイスを踏みつけ、龍夜はエクスカリバーから手を離す。そのまま、無防備な顔面を装甲ごと殴り飛ばす。無論、ダメージはない。それでも構わず、龍夜は叫びながらフェイスを殴り続けた。

 

 

「返せ! 返せっ! 返せッ!! 俺の、俺の家族を! 俺の家族を返せぇぇえええええええええッ!!!!」

 

『─────ふ』

 

「────何が可笑しいッ!!!」

 

 

金属音の響く中、激昂のままに拳を振るう龍夜。フェイスの嘲笑の理由を問い詰める龍夜に、フェイスは言葉を紡ぐ。

 

 

『────“可笑しいだろう。お前はそういうヤツではないからな”』

 

「……………………………あ?」

 

 

思わず、龍夜は動きを止めた。恐らくはISに仕込んでいた発声機でも使用したのだろう。だが、そんなことはどうでもいい。龍夜の聞いたその声は、彼が知ってる人物の声と瓜二つであったのだ。

 

 

「なんで、お前が…………その声を────百合姉さんの、声、を」

 

『────私の事を嗅ぎ回る虫が何匹か居てな。確か、あの声の本人も私を探していた…………今思えば、その女も蒼青という名前だった覚えがある─────まぁ、アレも殺したのだが』

 

 

怒りに満ちていた顔が、一気に崩れてた。見せたこともないような、絶望に満ちた顔。弱々しく震える彼の瞳が、突き付けられた事実を否定しようとする。

 

そうしなければ、耐えられない。そんな風に、龍夜は頭を振るう。振り払うように、必死に言い聞かせる。

 

 

「………うそ、だ。そんな、はず」

 

『知らなかったのか、流石に驚いたな。国連の奴等、偽装でもしたか? なら教えてやろう。あの女がどんな風に死んだのか。一緒にいた男が、どんな顔をしてアレを連れて逃げていたのか。最初からつまびらかに────』

 

「あ…………あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛─────ッッ!!!!」

 

 

許容限界の絶望に頭を抱え、ついに発狂したように叫ぶ。破顔した顔のまま龍夜は近くに突き立てたエクスカリバーを掴んだ。

 

瞬間、吹き荒れるエネルギーの奔流。膨大な光の刃を最大限まで形成したエクスカリバーの一太刀を、一切の迷いなくフェイスへと放つ────斬るのではなく、叩き潰すように。

 

 

『───浅はか』

 

 

そんな龍夜の一撃すら、フェイスは軽々と避ける。当たるように見せかけて、ギリギリで届かない。必死かつ全力で攻撃する龍夜を嘲笑うかのような、悪辣さが滲み出ていた。

 

ゆっくりと立ち上がる龍夜は、エクスカリバーを引き摺りながら近付いていく。殺意を剥き出しにして迫る彼の姿には気圧されるものがある。だが、その直後。

 

 

 

「ぐぅっ!? がああアアアアッ!!」

 

 

バチバチ! と発声したプラズマが龍夜の身体に走る。肉体を突き刺すような痛みによって、龍夜は悶え苦しみ、その場に崩れ落ちた。

 

 

『マスター……!セーフティが発動してます! これ以上、怒りを身を任せては────!』

 

 

『神装』エクスカリバーに篠ノ之束が施したセーフティ。憎悪に支配されることで発動するプログラムを防ぐため、暴走を止めるために束が仕掛けた封印だ。無論、それは龍夜の身を案じた為のものだ。

 

だが、セーフティによってこれ以上の力が引き出せない。それは非常に困る。もっと、力が必要なのだ。この場では、圧倒的な力が。

 

 

しかし、フェイスは言葉を紡いでいく。龍夜の怒りに火を注ぎ、追い詰めるように。

 

 

『どうした? その程度か、お前の怒りは。憎しみは。だとすれば期待外れだ』

 

「────黙、れッ」

 

『此方も手を尽くした訳だが、彼等も無駄死にだったか。もっと怒らせるにはどうするか────寝たきりのお前の姉を殺してやろうか。今度は亡骸を用意してやろう、特別に』

 

 

アリーナに、言葉にならない咆哮が反響する。セーフティが掛けられている中、全身に伝わるプラズマを浴びながら龍夜は前に踏み込む。

 

その眼は、激しい光を伴っていた。限界を超えた殺意を宿し、蒼青龍夜はこの世のものとは思えない、地獄の如くの声を発する。

 

 

「────殺す」

 

『………』

 

「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す…………殺す! 殺す! 殺すッ! 殺してやるぅッッ!!!!」

 

 

怒号に応ずるように、束が掛けたセーフティが弾け飛ぶ。白銀の装甲が禍々しい黒へと変質し、龍夜の身体を纏う機体が変貌していこうとしていた。

 

 

『っ!マスター!駄目!これ以上は、貴方自身が呑まれてしまいますっ!』

 

『ご主人様! ご主人様!! りゅーくん!! お願いだよ! 止まって!!』

 

「─────────ッッ!!!!」

 

 

エクスカリバーの巫女、人工知能の妖精の二人が、必死に呼び掛ける。だが、その声は正気を失った龍夜を止めるには至らない。変質を始めようとするエクスカリバー、その聖剣のコアが禍々しい黒へと染まろうとしていく。

 

 

『────そうだ。もっと怒れ、もっと憎め。お前のその激情が、「神装」に組み込まれた「AVENGER SYSTEM」の発動に至る。私の為に、全ての怨嗟を向けるがいい。

 

 

 

 

お前はその為に生まれてきたのだ。私の為に、全てを失え』

 

 

そう告げ、受け入れるように笑うフェイス。ふと、彼が右手を伸ばす。龍夜とは別の場所、足止めの為に放った無人機────それらが沈黙したことを、フェイスは既に気付いていた。

 

 

──────無人機をぶち抜き、ランスを手にした楯無が突貫する。スラスターの加速に身を任せた楯無は凄まじい推進によって、ゼノス・バルハードを貫こうと力が強まる。

 

だが、漆黒の機体が突き出した掌からバリアが展開され、槍を受け止めた。フェイスは顔を向け、感情の籠らない声で語る。

 

 

『────良いところだ。邪魔をするな、更識の現当主』

 

「そういうわけにはいかないわ。彼は私の後輩だからね────ラウラちゃん!」

 

 

叫んだ楯無に、ラウラが動く。彼女はシュヴァルツェア・レーゲンのAICを放ち、その動きを拘束した────フェイスではなく、禍々しい鎧に身を纏おうとする、龍夜を。

 

 

「邪魔を────するなァ!! 」

 

「っ! 馬鹿な、これ程の力を────抑えきれんっ!?」

 

 

バキバキ、と黒い機体が変形していき、龍夜が吼える。その身体が少しずつ動きつつある事実に、ラウラは即座に眼帯を外し、『ヴォーダン・オージェ』を解き放つ。最大限に放ったAICで龍夜の身体を縛るが、怨恨に駆られる龍夜は無理矢理でも突破しようと抵抗する。

 

 

「殺す! 殺す! 殺してやる! 殺してやるぞ!! フェイスゥゥウウウウウッッ!!!!」

 

「─────ああああああああっ!!」

 

 

悲鳴を上げるように、迫る一太刀。それは周りの見えていなかった龍夜には防ぎきれず、胴に切り込まれた。零落白夜を発動した、雪片弐型の一撃を。織斑一夏の斬撃を受けたと、彼が理解したのは遅れてだった。

 

 

「なに、を────」

 

「………ごめん、龍夜。でも、今は止まってくれ!」

 

 

直後、零落白夜の一閃が龍夜のエクスカリバーのシールドを一気に削り取る。はぼゼロになったことで、エクスカリバーは変形直前に、身体を纏う装甲を消滅させることになった。

 

エネルギーの爆発と共に、吹き飛ぶ龍夜。そんな彼を、セシリアが受け止めた。気を失っているようだが、それで良かった。今の龍夜を、戦わせるわけにはいかないのだから。

 

 

『…………白式か、全く厄介なものだ。白騎士の残骸が、今になって私の邪魔をするとはな』

 

「────お前は、何でこんなことをする? 龍夜を追い詰めて、何がしたい?」

 

『答える謂れはないな、織斑一夏。私は常に、プランの為に動く。アレは、そうだな………そのプランの一つに過ぎん』

 

 

フェイスは不機嫌そうに動くが、その本心は分からない。顔が見えない以上、本当に怒っているのかすら分からない。あまりにも、不気味なものを感じさせていた。

 

だが、それでも一夏は叫ぶ。友を苦しめた目の前の敵に、強い怒りを叫んだ。

 

 

「それが理由で! お前は龍夜の家族を殺したのか!? 暁も、そんな理由で─────!」

 

『暁………海里、暁の事か。ああ、そういう話だったか………無論、アレもプランの一つだ。最終的に生まれるであろうモノの価値など、貴様には理解できないだろうがな』

 

 

そんな一夏の声すらも、フェイスには微塵にも響いていないらしい。あくまでも罪悪感すら感じさせない目の前の男が、同じ人間なのか疑う。─────ISを動かしている、地球外生命体と言われても納得してしまう程の、命への冷たさがそこにあった。

 

 

『さて、貴様らのお陰で私のプランの一つが潰れた………まぁ、所詮はサブプランに過ぎない。私の目的に然して必要性はないが、少しばかり面倒だ─────少し、選り取りしておこう』

 

 

立ち上がったフェイスは魔剣を握り直す。横に構えた魔剣を輝かせたかと思えば、ゼノス・バルハード中に新たな武装が展開される。

 

即座に発射された、無数のミサイルを回避する一同。煙からいち早く飛び出したラウラがフェイスへと迫る。左腕のプラズマ手刀を伸ばし、フェイスの仮面へと押し込もうとした。

 

 

だが、ゼノス・バルバードの背中から新たなモノが姿を見せる。複数の間接を有したサブアーム、不意打ちのように現れたそれはラウラの頭を掴んだ。

 

 

『────この程度か、遺伝子強化体』

 

「………なに?」

 

『貴様を生み落とす為に、どれだけの試作型を使い捨てたことか。お前こそ、私の理想に近しい形の一つだ。その価値を落とすなよ、消耗品の姉たちの為にも』

 

 

右腕に装着したカニの鋏のようなフレームが向けられる。やはり左右にバックリと開いた装甲の下には複数の砲口が搭載されていた。そこからレーザーが放たれる直前に、背後から飛び込んだシャルロットが距離を詰めてきた。

 

見えているか、フェイスは即座に対処しようと右腕のフレームを動かそうとして─────ピタリと動かなかった。拘束されたラウラのAICであることを理解した彼に、懐へと潜り込んだシャルロットの六九口径パイルバンカー 『灰色の鱗殻(グレースケール)』の重撃が炸裂した。

 

 

────だが、しかし。

 

 

『───効かないな』

 

 

杭が撃ち込まれたバルハードの胸元には、即座に展開させたシールドが用意されていた。パイルバンカーの重撃を防いだことで破砕したシールドを無視し、隙だらけとなったシャルロットの首を掴むフェイス。

 

彼はサブアームで掴んでいたラウラを放り投げ、魔剣を握り直す。首を持ち上げながら、魔王は口を開いた。

 

 

『シャルロット・デュノア………憐れなものだ。親のせいでお前は妾の子という罪を課せられた────存在自体が、罪な娘よ』

 

「…………確かにそうかもね。それでも、貴方に憐れまれるつもりはないよ」

 

『フム、それもそうか。…………あぁ、一つだけ。思い出した』

 

 

─────アイザック・デュノアを前にしても、同じことが言えるか?

 

その発言に凍り付いたシャルロットに、フェイスは魔剣を振り払う。自然な動きで彼女の首を狙おうとした刃は、間に入ってきた少女によって受け止められた。

 

直後に放たれた衝撃が、フェイスの手からシャルロットを離す。振り返り、無機質な仮面越しの視線が少女────鈴を捉えた。

 

 

『中国代表候補生 凰鈴音────候補生としては完成されているが、私としては興味が湧かないな。何故なら他の奴等とは違い、お前を揺らがせる手段が無いからだ。お前には、成長を見込める転機がない』

 

「………言ってくれるじゃない。挑発のつもりなら無駄よ。アンタの面をぶん殴る気しかないし」

 

『そうだな────日本にいる元父親を殺せば、少しは見込みが増すか?』

 

「────ッ」

 

『やはり子供だな………思ったよりも、感情を抑えられんらしい』

 

 

僅かに揺らいだ鈴に、フェイスは右腕の武装───『ハウスター・セル』を一斉掃射する。元々は複数の敵を攻撃するために開発され、途中で処分されたモノをフェイスが再利用したものである。放たれた複数のビームは回避の可能性を潰すように、鈴を無数の爆発に巻き込む。

 

爆風から吹き飛んでいく鈴を含め、周囲の爆撃を繰り出そうとしたフェイスに閃光が飛来する。それらのビームをヒラリと回避したフェイスの視線が、上空から狙撃してきたセシリアに向けられる。

 

静かな一声が、ハイパーセンサーによって彼女の耳へと届いた。

 

 

『──────あの二人のように、私に逆らうか。血の繋がりは侮れんな、セシリア・オルコット』

 

「っ!? 貴方は─────!?」

 

 

事故で死んだはずの両親。まるで関係があるとでも言わんばかりの口振りに、セシリアの意識が大きく揺れる。戸惑った彼女に狙いを定めたフェイスだが、放とうとした『ハウスター・セル』にランスの一突きが叩き込まれる。

 

 

「セシリアちゃん! そいつの言葉に乗っちゃダメよ!」

 

 

タン! と踏み込んできた楯無。彼女の駆る《ミステリアス・レイディ》に、フェイスは無言からの斬撃を放つ。ナノマシンによる水のバリアを展開した楯無に、フェイスは『ハウスター・セル』を開閉し、そのハサミで楯無を掴もうとしていく。

 

それが開かれた瞬間、ランスを横に構えて『ハウスター・セル』の鋏が閉じるのを防ぐ。一瞬でランスを構え直し、鋏の内側に内蔵したガトリングの弾丸を直接撃ち込んだ。

 

轟音と共に、『ハウスター・セル』が爆散する。使い物にならなくなった武装を放り捨てたフェイスは、楯無へと語り掛けた。

 

 

『全く、お前たちも相変わらず面倒だな。更識』

 

「…………フェイス、亡国機業の王。貴方のような存在は、見逃すことはできない。ここで私達が!」

 

『同じ台詞、聞いたことがあるな────私が殺した更識も、同じことを口にしていたな。死ぬ最期まで、その眼を向けていた』

 

 

暗部を生きる者として、フェイスは嘲りを乗せて告げる。そんな彼の言葉に、一瞬だけ思案してしまう楯無。心当たりがあったのだろう、その隙に斬撃を浴びせようとするフェイスに─────織斑一夏が迎撃する。

 

 

(なんだ…………この感覚)

 

 

ふと、思う。今のは一夏は、自分で思うよりも身軽だった。いつも戦う時よりも早く身体が動く。いつもより、深く踏み込める。魔剣を振るうフェイスに一太刀を浴びせられた自分の成長に自分自身で唖然としていると、フェイスは余裕を明らかに崩した。

 

 

『────ああ、やはりか。やはりお前たちが、私の邪魔をしてくれるな! 織斑!!』

 

 

怒りでも余裕でもなく、高揚したのだろうか。一夏を、いや、誰かを見ての発言だ。その眼が捉えているのは、一夏ではない誰かの事だ。その誰かへの感情が何なのか、一夏には察することは出来ない。

 

無機質な内側から感じる狂気だけは少なくとも理解できた。引き下がった一夏へと追撃を繰り出そうと、ゆっくりと歩み寄るフェイス─────その身体が大きく揺れた。

 

ゼノス・バルハード。無機質な全身装甲のISが、不調を起こしたように点滅する。装甲の隙間の光のラインが怪しく光り始め、手足が小刻みに震え出す。

 

だが、その変化も一瞬。ゆっくりと顔を動かしたフェイスは、自身の掌を見下ろし、呟く。

 

 

『─────時間切れか。少し力を過ぎたようだ』

 

 

今更逃げるのか、と言うことすら出来ない。そんな余力はもうない。連戦続けもあって、彼等にはもうこれ以上戦える力が残ってないのだ。

 

ただ睨むことしか出来ない皆を睥睨し、フェイスは魔剣を振るう。その直後、空間が裂け────開く。大きく割れた空間の亀裂に向かい、フェイスは歩いていく。

 

 

『………今は退こう。次に会うことを楽しみにしているといい』

 

 

そして、暗黒の魔王が亀裂の中へと消えていった。本当にこの場から離れたらしい、一同が今度こそ安堵の呼吸を漏らす。本当に、ようやく戦いが終わったのだ、と。

 

 

石ころを蹴る音が聞こえ、振り返った一夏たちは立ち上がっていた龍夜に気付いた。フラフラ、とよろけながら歩み寄る龍夜に、一夏は心配そうに声をかけた。

 

 

「…………一夏」

 

「龍夜、大丈夫────」

 

 

────直後、龍夜は躊躇なく一夏を殴った。ISを解除していなかったから、ダメージはない。それでも、一夏はよろけてしまった。血が滲んだその拳が、あまりにも痛々しかった。

 

 

「なんで、邪魔をした………?」

 

「…………龍夜」

 

「答えろ! 何で俺の邪魔をした!? あと少しだった、あと少しだったんだ!! アイツに近付けた! アイツに届いたんだ!! あと少しで、俺は─────ヤツを、殺せるところまで近付いたのにッ!!」

 

 

感情的に叫ぶ龍夜に、何も言えなくなってしまう。いつも冷静で常に助言などをしてくれる、頼り甲斐のある友人が、ここまで感情に動くところは見たこともない。

 

シールドが発動しているとはいえ、龍夜は一夏の胸ぐらを掴んで感情を爆発させていた。咄嗟に、ラウラと鈴が取り押さえて引き剥がす。ISを纏う二人に生身では勝てない、或いは感情を吐き出したことで落ち着いたのか、龍夜はそれ以上叫ぶことはなかった。

 

一悶着あったところで、深く沈んだ空気の中、回線に通信が入る。

 

 

『────聞こえるか、更識』

 

「はい、織斑先生。通信は復旧したみたいですね」

 

『…………学園に侵入した敵は全て撤退した。これより学園は処理に入る。織斑を含め代表候補生と共に、今すぐ理事長の所に集まれ。以上だ』

 

 

落ち着いてはいるが、張り詰めたような千冬の声。この状況がまだ完全に片付いた訳ではない、そんな雰囲気を感じさせる険しさがあった。

 

ふと、二人が手を離したことで解放された龍夜。彼は近くに転がっていたエクスカリバーを手に、此方を見向きもせず立ち去る。

 

 

「……………」

 

 

周囲全てを拒絶する強い憎悪を滲ませ、蒼青龍夜は前に進む。自分が冷静ではないことを理解した上で、彼は憎悪という火を燃やすのだった。

 

 

────かつてまで胸に秘めた思いすらも燃やし、蒼青龍夜は憎しみを糧に進む。たとえ、その過程で全てを失おうとも────その先で、自分が死ぬことになっても。

 




龍夜としてはようやく出会えた復讐の相手、生涯会えるかも分からない相手だからこそ、殺すことに執着していた。勝てないことすら忘れる程に。

そして、一夏が龍夜に攻撃(零落白夜の一撃)を浴びせたのは、暴走しかけた龍夜を止めるために。一度暴走させた結果があるからなのと、楯無の指示もあっての行動。

当の本人は頭に血が上っているので、助けられたというよりも先に邪魔をされたという怒りをぶつけた訳です。(そもそも、龍夜の前提として優先するのがフェイスを殺すことであり、自分の命など最初から考えてないからこそ、助けられたことを邪魔だと認識してる)


家族を(寝たきりの姉を除いて)殺した敵との対面、教えられた事実によって、更なる憎悪を深める龍夜。仲間たちの声すら届かないほどに怒り狂った彼が、果たしてどのような選択をするのか。


次回『拒絶、そして───』、次回もお楽しみにくださいませ! それでは!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。