IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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最近就職したので、執筆活動が疎かになっている若干不安なところもあるけど、書けるところまでは書けたので投稿します。………皆に楽しんで読んで欲しいなぁ! それでは!!


第95話 ───手を取るために

「…………………無理だぁ」

 

 

男 織斑一夏の情けない呻き。少し前までの決意や覚悟が見られないその声に、呆れはするが周りの皆も何も言えなかった。実際、自分達は一つの大きな障害に足踏みしているのだから。

 

────フェイスが送り込んだ暗号の解読に。

 

 

「………ダメだ。軍の暗号通信でも解読できん。これは一体、何を基にした暗号なんだ?」

 

「数式にも見えますが、所々に英文字の羅列もありますわね………」

 

「思い当たる部分も見つからない………正直これは本当に無理かも」

 

 

現役軍人であるラウラをしても、匙を投げるレベルの高度な暗号。あまりにも複雑過ぎてどうしようもない。さっきまでのやる気が失われる程に、大きな難問であった。

 

ふと、深く考え込んでいた鈴がある仮説を語る。

 

 

「もしかしてこれ、龍夜にしか分からないようにしてるんじゃない?」

 

「…………どういうことだ?」

 

「だって、フェイスってのは龍夜の事を煽ってたでしょ? アイツと対面して分かったけど、他人を利用することが得意なタイプ────少なくとも、龍夜の事を狙ってるのは確かだし。龍夜だけを誘き寄せる為に、アイツにしか分からない暗号にしたんじゃないの?」

 

 

────憎悪に囚われた龍夜が復讐に固執し、一人で向かうと理解した上で。きっとフェイスにとって、蒼青龍夜は都合が良いのだろう。なんせ殺した家族の事を口に出せば、怒り狂って周りが見えなくなるのだから。

 

 

「それが分かったからと言ってどうするつもりだ? 龍夜にしか分からないのならば、私達で解読のしようがない。このまま黙って、諦めることが最善だというのか!?」

 

「────その件に関してはご心配なく」

 

 

聞いたこともない声が、彼等の背後から響く。振り返った彼等の視線の先にいるのは、一人の少女だった。銀色の長い髪をした、物静かな少女。瞳を閉ざし、杖を携える彼女は、礼儀正しく一礼した。

 

 

「ッ!」

 

 

それに、いち早く反応したのはラウラ。ホルスターから抜き放ったナイフを手に、少女を制圧しようと迫る。だが次の瞬間、ラウラの動きがピタリと止められた。

 

────ラウラのナイフを握って止めた、下手人によって。

 

 

『■■■■■■■、■■■■』

 

「───手荒な真似は控えて下さい。我々は貴方達を害する為に来たのではありません─────と、彼は言っています」

 

 

ブンブン、と少女の言葉に頷くは────金属の人形。マネキンというよりも、特殊な合金による装甲を身に纏う戦闘機人のソレだ。妖しく光る眼光を宿すフェイスから発された声は、言葉ではなくノイズの如き雑音であった。

 

ナイフを受け止められたラウラ、咄嗟にそれを振り払う。自身の専用機を展開しようとしたところで、前に踏み出た千冬の制止を受ける。

 

 

「止せ、ボーデヴィッヒ。ソイツらは敵ではない」

 

「教官………! しかし」

 

「───束の使いだろう。手出しは無用だ、いいな?」

 

 

言われて、ラウラを含む警戒した皆が武装を解除した。杖を携えた少女は礼儀正しく、スカートの端を摘まみながら一礼する。それは、隣の機人も同じであった。

 

 

「お初にお目にかかります。私の名前はクロエ、クロエ・クロニクル。そして彼は────アルキメデス。訳合って喋ることが出来ない為、翻訳は私がさせていただきます」

 

『────■■■、■■■■■』

 

「………驚かせてしまいましたが、我々は敵対しに来たのではありません。束様のご命令により、貴方達の手助けに来ました─────と、彼は言っています」

 

「姉さんが………?」

 

 

クロエが頷くと、隣に立つ機人───アルキメデスが近くのモニターに触れる。その指から伸びるコードが機器に流れていくと共に、モニターの画面が一気に切り替わった。

 

 

『────んおー! 繋がったねー! 流石クーちゃんにメデルくん!相変わらずお仕事が早くて、束さん大助かりだよ!』

 

「滅相もありません、束様」

 

『─────■■■■』

 

 

画面に映るは、相も変わらず不思議の国のアリスのような姿をした美女 篠ノ之束だった。キーボードを叩いて作業中でありながら、クロエに微笑みかける余裕すらあるらしい。

 

恐らく、クロエと同じく謙遜したであろうアルキメデスが彼女と共に頭を下げる。もう、真面目だなぁ、と束は笑いながら、その視線を千冬へと向けた。

 

 

『やあやあ、ちーちゃん! 聞いたよ、大変だったみたいじゃん!連中に襲撃されるなんてね、最近妙に大人しいとは思ってたけど、まさかりゅーくんを狙ってたとは。流石の束さんも予想外、ホントに舐めたことしてくれるよね』

 

「………束、奴等のことを知ってるのか」

 

『知ってるも何も。束さんのこと襲ってきてるしね。まぁ、何年も退屈させてくれない奴等だよ。楽しませてくれる訳でもないけど』

 

 

ま、そんな奴等のことなんてどうでもいいよー、と束が切り換える。思うところがあるのは事実だが、殺意を抱くまでもないのだろう。ふと話題を変えた彼女は、唐突に切り出してきた。

 

 

『それより、困ってるみたいだね、ちーちゃん。束さんが手助けしてあげるよ!』

 

「………なんだと?」

 

『だぁかぁらぁ、その暗号を解いてあげるのー!束さんもりゅーくんを死なせたくないからねー!』

 

 

千冬が答える間も無く、モニターを展開する装置が微かに揺れた。一瞬にして、暗号のデータだけが抜き取られ、束の元へと送られたらしい。驚く一同だが、千冬はこういうことに慣れっこであるらしい。

 

束はその暗号を確認すると、両手をキーボードに添える。直後、その解析───解読作業へと掛かった。目にも止まらぬ速度で。

 

 

『フッフッフッ。成る程、これは確かに難解だね。けど天才の束さんに解けないものなんて無いのだよ!りゅーくんがこれを五分で解いたのならば、束さんは一分で解読しよーじゃないか!』

 

「束………お前がそこまでするのも、蒼青の為か?」

 

『────んもう、ちーちゃんのいけずぅ。分かってるクセに』

 

 

見たこともない反応に驚きながらも、千冬は「そうか」と短く納得した。泣かば困惑どころか呆然としている皆、主に箒が絶句していたが─────それも一瞬。

 

 

『はぁい、解読完了─────ここが暗号の示した場所だよ』

 

「ここは…………」

 

 

そう言って束はモニターに地図を提示する。世界地図として広げられた画面が一気に縮小され、暗号が指し示す先をピンポイントで補足する。

 

立ち尽くした誰もが、眼を疑う。そこは、IS学園の付近に浮かんでいた。──────実際には数十キロの距離があるのだが、それでもIS学園の領域付近にある場所。

 

 

立ち上がった時雨が、思わず口を開いた。その場所を知っているのか、ポツリと呟きを漏らす。

 

 

「───────封鎖区域『ロスト・ルート』」

 

 

 

◇◆◇

 

 

封鎖区域 ロスト・ルート。

かつて第三次世界大戦で無人機達の拠点として使われたその場所は、かつてIS学園の予定地として登録されていた巨大な人工島であった。

 

だが、その区域の調査の結果─────送り込まれた調査隊の反応がロスト。調査に関係した者の事故死が続いた事で、国連により封鎖された場所である。

 

国連は表向きな封鎖の理由として『違法な薬品や、人体に有害な物質の存在が疑われる』という名分にしている。だが、元よりIS学園の付近に位置することもあり、誰一人として近寄らないので、封鎖するまでもなかった。

 

 

だが、蒼青龍夜がここに来たのは、難解な暗号─────複数のネットワークの構築式に隠された暗号が指し示す場所であったからだ。

 

 

基地内部に踏み込んだ龍夜は、静かに廃墟のエリアを進んでいく。十年前から停止したばかりであろう機械の山。人間などが居たはずもないその場所は、博士が最期の砦の一つとして造った機械工場なのだろう。

 

ふと、複雑な機器の横を通り過ぎて先に進む。その足が開けたエリアへと着いた途端─────周囲から無数の無人機が起動し始めた。

 

 

「────ッ!!」

 

 

カサカサと増え出す無人機にエクスカリバーを構える龍夜────だがすぐに疑問を覚え、顔をしかめた。殺到していたはずの無人機は龍夜に近付こうとせず、此方の周りを囲んでいる。

 

直後、前方に居る無人機達が動き出した。それは、道を開けるような動作であった。背後の無人機たちも何かをしようという様子は見られず、無人機が波となって一本道を作っていた。

 

 

「此方を襲う気はない…………ヤツの意向か」

 

 

上等だ、と苛立ちのまま拳を握り締める。それに反応したエクスカリバーが微かに光を強めた。感情的になるな、と巫女も告げたいのだろう。分かっていると答え、龍夜は無人機達の道を進んでいく。

 

 

先に進んだ所で、エレベーターのような移動床があった。そこから移動して地下深くまで降り立った龍夜は────巨大な大広間に踏み込む。

 

 

「…………なんだ、ここは」

 

 

そこはまるで台座のような領域だった。無数の柱に囲まれ、何かを奉るように造られた神聖なる広間。だが、台座の上には在るべきモノが────奉られるべきモノが欠如していた。

 

自然と、龍夜は理解する。ここには何かが在ったのだと、それは既に、先に侵入した誰かに奪われていたのだ、と。

 

 

「─────ここに在ったものが何か、知りたいか?」

 

 

ふと、暗闇の中から声だけが響いた。忘れる訳がない、忘れられるはずがない声。自分から全てを奪い、憎しみだけを刻み込んだ、殺すべき仇。

 

龍夜はエクスカリバーを握り、暗闇の向こうに見える影へと叫んだ。

 

 

「────フェイスッ!!」

 

「ここに在ったのは『マスターピース』。ISの、ではない。お前を選んだそこの神装の、『マスターピース』なのだ」

 

 

仮面の男、フェイスは龍夜に見向きもせず、淡々と話していた。奉るべきモノを失い、ただ遺された台座に触れながら、もう片方の掌を見下ろす。

 

 

『炎のレーヴァテイン、水のトライデント、雷のミョルニル、風のイチイバル────そして、光のエクスカリバー。神装とは本来五つ、だが必要なのは四つの神装であり、エクスカリバーは番外の神装……………代替とも言える上位の神装とも呼べるモノだ』

 

「…………無駄話に付き合うつもりは」

 

『お前達が知る神装は五つだけだろうが、もう一つだけ八神博士はある神装を造っていた──────本来ならば、私もアレを手に入れようと考えていたが…………既に他の者に奪われてしまったのでね。仕方がなく、諦めたのさ』

 

 

そこまで聞いて、思わず手を止める。聞き流そうとした所で、情報を認識していた脳がある違和感を理解したのだ。眼を細め、龍夜は未だ背を向けるフェイスを睨む。

 

 

「…………お前のそのIS、ゼノス・バルハードは元々博士の物だろう」

 

『────既に故人の物だ。私がどう使おうと文句はないはずだ』

 

「ゼノスを強奪したくせに、何故『マスターピース』だけは諦めた? お前の事だ、仕方なく諦めた…………なんて理由ではないだろ」

 

 

険しい詰問に、フェイスは台座のボタンに触れた。台座と柱が音を立てて下へと消えていき、収納されていく。一気に空間が広がるこのエリアの中で、フェイスは空を見上げた。

 

 

『────戦争に勝つ者は、強い者ではない。戦況を乱し、流れを掴んだ者だけが勝者足る資格を得る』

 

 

無機質を通り越した冷たい言葉に、龍夜は身震いをした。この男が何を視ているのか、直感と共に確信する。

 

アレは未来を視ているのだ。数日や数年後などの話ではない、数百年や数千年─────それ以上の、人間の寿命など軽く過ぎ去る程の遠い未来を。

 

初めて、目の前のモノが人間ではないと疑ってしまった。人の皮を被った機械、モンスターのようなものではないかと、勘繰ってしまう。

 

 

『私の大望に必要なものは、力ではなく火種だ。私個人が幾ら力を得ていようと意味がない─────世界を混沌へと導く、起爆剤となる火種こそが必要不可欠なのだ』

 

「火種………」

 

 

その為に、動いてきたと言わんばかりの口調。実際にそうだと思わせる気迫とオーラを感じ取ってしまう。

 

 

「────俺の両親も、その為の死か」

 

『………まぁ、それもそうだ。あの二人の死は、少なからず世界に影響を与えた。ISを主体とした世界に、私の思い通りの社会へと変わっていくことに、誰一人として疑問を持たなかった。あの二人は、世を憂いていたのに』

 

 

鋭い眼光を向けた龍夜を、フェイスはようやく認識したらしい。のっぺらぼうのような仮面を此方に向け、ゆっくりと語り始めた。

 

 

『────死の間際、あの二人は実に感動的だった。私を前にしても、心配するのは互いの身さ。「私の事はいい、妻だけは殺させない」、「殺すならば私だけを殺せ」、ただの一般人と侮ってはいたが…………あの覚悟だけは実に評価に値した』

 

 

────挑発だ、それはよく分かっている。

声音に乗せられた心というものを踏みにじるような嘲りから、それを理解する。エクスカリバーの中にいるルフェも同じ気持ちらしい。剣の中からでも、少女の声が聞こえてくる。

 

だが、それすらも打ち消すような言葉をフェイスは口にした。

 

 

『殺される瞬間、互いを庇い合って何かを言っていたな。あの言葉は、何だったか。誰かの名前を、ひとしきり口にしていたのは覚えている─────百合、クロノ、零────龍夜、とな』

 

 

─────頭蓋が割れるかと思った。それ程までの激しい怒りと殺意が、龍夜の思考を塗り潰す。ただ、感情に呑まれて爆発しなかったのは、過ぎた怒りが返って思考を冷静に至らせた。

 

 

「………決着を付けよう、フェイス」

 

 

握り締めた聖剣を振るう。刀身に宿る光の鱗粉が舞う中、龍夜はプラチナ・キャリバーの装甲を構築していく。全身を纏う白銀のフレームに身を包み、エクスカリバーの剣先をフェイスへと向ける。

 

 

「お前を殺し、全てを終わらせる。今度こそ、俺の手で」

 

『この私を殺すか────面白い。やってみるがいい』

 

 

魔剣を翳し、フェイスは『ゼノス・バルハード』をその身に纏う。漆黒の装甲に赤紫の禍々しい光を宿した鎧。フルフェイスの単眼を妖しく輝かせ、此方へと魔剣を向ける。

 

 

そして────銀と黒が、衝突した。魔剣と聖剣、その激突が凄まじいエネルギーの爆裂を引き起こす。膨大な衝撃と奔流が、周囲に炸裂した。

 

 

◇◆◇

 

 

「っ!この反応────!」

 

 

海域を飛翔していく、複数の機影。先行していた一夏は始めとして、全員が特殊なエネルギー反応を感じ取った。龍夜とフェイスが衝突した、そうとしか判断のしようがない事だった。

 

口に出している余裕もない。一刻も早く向かわねば、と全員が加速していく。そうしている内に、目的地である場所へと辿り着いた。

 

 

「ここが、『ロスト・ルート』か………」

 

 

ゆっくりと速度を緩めた箒が険しい顔で眼前の人工島『ロスト・ルート』へと向き合う。

 

────全てが造り出された、廃墟の島。十年前の戦争から復興された様子もなく、荒廃しきっていた。だが、倒壊していた施設の内側からは異様な寒気を感じさせる。

 

 

人工島に降り立った彼等も、その冷たい空気を肌に感じる。人の侵入を拒絶するような死の風に思わず足を止めてしまう。だが、そんな恐怖に屈する訳にはいかない。

 

 

「龍夜はこの中に………」

 

「エネルギーの反応は地下から………よっぽど深い地下エリアでも隠してるみたいね。先に進まな─────散開!」

 

 

指揮をしていた楯無が何かに気付き、唐突に叫ぶ。全員が衝動的に飛び退いた瞬間、彼等の居た場所に光線が炸裂する。上空と暗闇から迫る二つのビーム。それを避けきったと同時に、此方を狙う二つの影の存在を認識した。

 

 

「あれは………サイレント・ゼフィルス!!」

 

「クローチェア・オスキュラス!────エヌ、いやノエルか!?」

 

「………ふん」

 

「ピンポーンっ! 大当たりぃ!」

 

 

空中に飛翔していた『サイレント・ゼフィルス』がゆっくりと降り立ち、影に包まれた暗闇が大きく歪み─────漆黒の機体 『クローチェア・オスキュラス』、二機のISが一夏達の前に立ち塞がる。

 

 

「やぁやぁ、兄弟! 急いでいるようじゃないか! 意中のお姫様でも助けなきゃいけないカンジ?」

 

「っ! ふざけんな! お前らの相手をしてる場合じゃあ無いんだ!! そこをどけぇ!!!」

 

「アハハッ! ごめんよ、ゴメン! 冗談言って悪かったよ!────蒼青龍夜のコトでしょ? アイツなら下に居るよん? フェイス様に遊ばれてるんだろうからね!」

 

 

ふざけた口調で語るノエル。『クローチェア・オスキュラス』のバイザーの下から覗く口元を大きく歪めて笑う。そこには、邪悪に染まった悪辣さが感じられる。

 

 

「でも大丈夫カナー? フェイス様、意外とバッサリと切り捨てる人だし! 期待外れだったらすぐに殺しちゃうかもね、ヒャー! コワイコワイ!」

 

「───!」

 

「おっと、駄目よん? フェイス様から言われてんのさ、ここから先には誰も通すなって。 そういうワケだし、足止め、させて貰いまーす! 全員、ね?」

 

「………そういうことだ。恨みはないが、纏めて潰してやろう」

 

 

ここから先は通さない、そんな圧力を放つノエルとエム。二人の少年少女を前に、一夏達は歯噛みし、楯無も顔をしかめるしかなかった。

 

ノエルとエム、『クローチェア・オスキュラス』と『サイレント・ゼフィルス』。この二つの敵は、無視できるような相手ではない。少なくとも、この場の全員でいかなければ、この二人を突破することは不可能に近い。

 

だがそれは、急いでいる彼等にとってはあまりにも難しい。短期決戦で打倒できる相手じゃないことは、誰もが理解していた。

 

 

ならばどうするべきか。そんな風に悩んでいた一夏達であったが───────、

 

 

 

 

 

 

 

「────ハハッ、面白そうじゃねぇか。じゃあ、俺達も交ぜてくれよ」

 

 

背後から、聞いたことのある声を耳にした。思わず振り返ると、物影から二つの人影が歩いてきていた。咄嗟に警戒する全員だったが、人影が光にさらされた事でその姿が露になる。

 

直後、一夏と箒が眼を見開いて驚愕した。

 

 

「お前は───イルザっ!?」

 

「シルディも………! どういうことだ!?」

 

「どういうこと、か。 見て分からねぇか?」

 

 

沈黙を貫き通すシルディ、その横でイルザが笑みを浮かべながら問い掛ける。アナグラムの正規メンバー、その中でも最強と呼ばれる男とリーダー格の二人だった。堂々と歩み寄ってくる彼等に武器を構えようとする鈴やセシリア達を────一夏と箒は手で制した。

 

何をするのか、と言わんばかりの眼を向ける彼女たちであったが、すぐに意図を理解する。シルディとイルザは一夏達に近付き、その横を通り過ぎたのだ。

 

 

「………えっ!?」

 

「────何の真似だ?」

 

「分からねぇなら教えてやる───ここは俺達が引き受けてやるって話だぜ!!」

 

 

ザッ! と、シルディとイルザの二人は一夏達の前に立った。目の前の二つの機体、二つのISと対峙するように。

 

突然現れた二人の行動に、今度こそ混乱する一同。一際冷静である楯無も、どういうつもりかと疑問を隠しきれない。困惑する一夏と箒に、シルディが見向きもせずに告げた。

 

 

「─────少し前、篠ノ之博士からコンタクトを受けた。君達の救援を頼みたい、と」

 

「っ、姉さんが!?」

 

「………オレとしては、必要なことをしたまでだ。これはあくまでも、博士との取引。………無人機の開発に協力してくれることを引き換えにしたものだ。その為に、オレ達は来た」

 

 

あくまでも、それだけだ。と冷徹に吐き捨てるシルディ。それもそうだ、と二人は納得した。つい最近、シルディとは対立した。彼の仲間である士を死なせ、その原因を庇ったことで、シルディは敵意を以て一夏達との決別を口にしていた。

 

そんな彼が助けに来るなど、烏滸がましい妄想にも程がある。だが、何も言えずに口を閉ざす一夏と箒、沈黙するシルディを尻目に、イルザはカラカラと笑っていた。

 

 

「ハッ!冷たいこと言うなよ、シルディ! 友を助けに行きたいって疼いてたのはお前だろ? 複雑なんだろうが、今回だけは素直になってやれよ!」

 

「…………イルザ」

 

 

言わないで欲しかったと、非難の目を向けるシルディ。そんな青年の視線にイルザは軽く肩を竦めて、誤魔化そうとする。諦めたように嘆息したシルディは居心地が悪そうに一夏と箒を見ながら、言葉を紡いだ。

 

 

「───あの二人をオレ達が相手する。だから、早く行け」

 

「…………良いのか?」

 

「仲間を────友を助けるんだろう? なら迷ってる暇はないはずだ。この場をオレ達に任せて、友を救え」

 

 

そう言って、シルディとイルザは体を覆うコートを脱ぎ捨てる。ピッチリとした戦闘用スーツを纏う二人の青年はゆっくりと歩きながら、語らい合う。

 

目の前の敵を前にしても、彼等に緊張はない。それは自分達の実力、『最強』たる自負があるからか。

 

 

「さぁて、シルディ! どっちを相手する?」

 

「…………黒いのを引き受ける。その代わり、飛んでるヤツは頼む─────ああ言う手合いは、少し厳しいからな」

 

「へッ! 良いぜ、良いさ! 任されちまったなぁオイ! そんじゃあ、さっさとやるとしますかァ!!」

 

「────ああ!」

 

 

直後、シルディとイルザは各々のアイテムを取り出した。シルディは銀色の、イルザは黄金、相反する二つのアイテム─────『エンシェントテクスター』を握り、起動させる。

 

 

────【エンシェント】!!

 

 

「さぁ!舞い上がれェ─────不死鳥(フェニックス)ッ!!」

 

「…………君臨せよ!─────龍王(バハムート)ォッ!!」

 

 

ザッ! と、起動音声と重ねるように腕輪に装着したエンシェントテクスターを空へと掲げる二人。そして、彼等の声に応えるように─────炎の鳥と鋼の龍が飛来する。

 

天井を突き破り飛来した炎の鳥が、劫火の翼を大きく広げると────包み込むように、イルザの体を覆う。

 

鋼鉄の飛龍がシルディの真上で静止し、装甲を分離させていく。剥がれ落ちるように装甲はシルディの全身に装着されていき────間接部や装甲と装甲の隙間を、ボルトが固定していく。

 

 

─────ほぼ同時に、シルディとイルザの身体を包む装甲が完成する。劫火の鱗粉を散らす、金色の鎧に包まれ────巨大な翼を展開するイルザ。まるで再生したばかりのように、炎を周囲へと撒き散らす。

 

そして、その隣で────光沢を宿す金属に身を纏うはシルディ。深紅の如く鮮やかな粒子を放出しながら、龍王の鎧を装着するシルディはゆっくりと立ち上がる。

 

 

「シルディ・アナグラム! これより進撃する!!」

 

 

宣言したシルディは深く踏み込み─────地面を蹴り、前へと跳んだ。凄まじい速度で距離を縮めたシルディはそのスピードを乗せた拳を、ノエルへと叩き込む。

 

あまりの速度に追い付けなかったであろうノエルは吹き飛ばされていく。何度もバウンドしながら、空中で回転して着地する。戦意を滾らせて笑うノエルはバイザーで顔を覆い、臨戦態勢へと入る。

 

シルディはそのまま、『クローチェア・オスキュラス』へと突貫する。鋼鉄の拳と大型のブレードの衝突によって、二人は本格的に戦い始めた。

 

 

「行くわよ、皆。彼の善意、無視するわけにはいかないわ」

 

「…………分かりました」

 

「─────逃すか」

 

 

先に進もうとする彼等を見逃さず、レーザーライフルを構えるエム。その照準を一夏へと向け、最大出力の閃光で焼き尽くそうとするが─────その銃身を掴まれた。

 

 

「っ!?」

 

「悪いな。アイツらには手を出させねぇよ。 この俺がいる限りはな」

 

 

狙撃を邪魔されたことに機嫌を悪くしたのか、エムは躊躇なく銃身の先に取り付けられた銃剣を振るう。肉を切り裂くはずの刃は、イルザの操る黄金の翼によって容易く防がれた。

 

僅かに退いたエムは、目の前の男を睨む。悟ったのだ、余りにも余裕に満ちたその態度から────イルザが手加減していることに。

 

自分が手加減される程の弱者だと言われているようで、エムは更に不愉快になった。

 

 

「………貴様ッ」

 

「なんだ、キレんなよ。そんなに殺したけりゃ、俺を倒してから追えば良い話だぜ─────ま、無理だろうけどな」

 

「────殺す」

 

 

増幅する殺意を向けられても尚、イルザは笑みを緩めていく。人としての欠落────味覚に痛覚、悲しみという感情を損なった人形であったイルザにとって、闘争こそが唯一己の心を奮い起たせる遊戯である。

 

だから彼は戦いを好む、自分に向けられた殺意や敵意も、心地が良い。その殺意が刻む傷こそが、イルザに欠落した感情を、空っぽな部分を満たしてくれる気がするからだ。

 

 

戦闘狂と言うには大きく歪み、狂人と言うには理性を保っている彼は、まごうことなきバトルジャンキーなのだ。

 

 

「───へへッ、ヤル気満々で良いねェ! こっちは久々の戦いにウズウズしてんだ! 消化不良で終わらせんなよォ!!」

 

 

舞い上がった黄金の不死鳥が、四枚の翼を大きく広げる。灼焔の熱気を撒き散らすイルザに、エムはライフルを構えて飛翔する。

 

 

────空へと飛来する二つの光。黄金の鳥と藍色の蝶が、青空の上で死闘を繰り広げる─────

 

 

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