IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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第96話 届かない

「─────クソッ!何だよ、コイツら!」

 

 

シルディとイルザにあの場を任せ、先に進んだ一夏達。ISの加速のまま通路を突き進んだ彼等の前に立ち塞がったのは─────大量に配備された無人機であった。

 

無人機達は地下へと降り立った一夏らを視認した直後に、起動を始めた。彼等の存在を敵と判断して一斉に攻撃を始めるのも、その直後だったのだ。

 

 

「見たこともない無人機! 新型のようだが………!」

 

「それにしては! 少しばかり手強いですわね!」

 

 

その無人機『ファントム』は、従来の無人機とは違うモノであった。八神博士の提示した理論兼技術───人工知能による制御、その論理を大きく見直し────フェイス本人が改修したのだ。

 

無人機のコアを小型の端末とし、端末からネットワークに接続させる。そして、コア・ユニットが電脳を通じて操っている。人工知能がネットワークを共有した、言語を不要とした連携とは違う。そもそも、一つのシステムが無人機という無数の器を操っているのだから────無数の意識を共有する群体とは訳が違う。

 

 

「皆! 下がって!」

 

 

増え続ける無人機に追い込まれていく全員。楯無が叫ぶと、一夏達は咄嗟に下がった。各々、目の前の敵機への牽制を行いながら、一気に後退していく。

 

ガシャガシャガシャ!! と、機体を揺らしながら殺到する『ファントム』の軍勢────楯無は眼前に伸ばした手で、指を鳴らす。その直後、事前に周囲へと散布されたアクア・ナノマシンが一斉に爆裂する。ほぼ不意打ちの一撃に、『ファントム』は回避すら許されず、直撃した全ての機体が機能停止することになった。

 

 

だがしかし、そんな楯無の秘策を無視するように────後続の『ファントム』が残骸を乗り越えて距離を縮めていく。感情すらない無機質な機体は、開発者であるフェイスの命令『侵入者の足止め』の為に動き続ける。

 

圧倒的な物量に押し返されそうになった─────瞬間、

 

 

 

 

「ッ! 背後から高エネルギー反応!────避けて!!」

 

 

その反応をいち早く察知したシャルロットが叫ぶと、背後の通路から凄まじい閃光が炸裂する。慌てて飛び退いた一夏や箒の目の前を突き抜けた極太のレーザーは『ファントム』の群体を一気に抉り、吹き飛ばした。

 

 

────そして、『ソレ』は暗闇の向こうから此方へと駆け抜けてきた。深紅の装甲に身を包んだ、禍々しいナニかが一夏達の前に降り立つ。

 

 

駆動鎧のように、全身にフレームを纏うその姿はISに近いようで遠い。装甲の隙間から露出する無数のケーブルやコードが、IS以上に兵器としての雰囲気を漂わせている。ハイパセンサーで生体反応を感知していなければ、無人機のソレではないかと疑ってしまう程に、目の前の存在から生きた人間の気配がしなかった。

 

 

「なによ、コイツ…………」

 

「────レッドくん?」

 

 

突如現れた相手に警戒を緩めない鈴たちだったが、ふと気付いた楯無の様子に反応する。彼女だけではない、ラウラもセシリアも知っているようだ。思わず、一夏も気になって口を開いた。

 

 

「知ってるんですか? 楯無先輩」

 

「ルクーゼンブルクで一緒に戦った子よ。アレックス社長と学園祭に来てるのは知ってたけど…………助けに来てくれたの?」

 

『……………』

 

 

当の本人────レッドは驚く程無口であった。声帯が機能していないが、言語機能がない訳ではない。その気になれば話すことなど容易いはずだが、彼は異様な程に見向きもしなかった。

 

ただ目の前を見据え、告げる。

 

 

『─────先に、行け』

 

 

直後、レッドは持ち上げた大型ライフルから最大出力の砲撃を放つ。前方に炸裂したエネルギー砲が、集まろうとした『ファントム』の軍勢を再度消し飛ばす。

 

無人機が織り成す壁に開けられた大穴に銃口を向け、レッドは静かに促す。極力言葉を発することなく、先の言葉を繰り返すように。

 

 

その隙間を塞ぐように、無人機たちが殺到していく。だがレッドはそれを許さないように砲撃を繰り返す。その肩が膨れ上がったかと思えば、赤黒い液体を撒き散らしながら、もう一本の腕が生えた────。

 

五本の指を有する手の形が崩れ、別物へと変わる。四枚のバインダーを開いたソレはスピーカーらしく、キィィン………!という高音を周囲へと拡散する。

 

 

『───!────?───!?』

 

 

音を、高周波を浴びた『ファントム』は小刻みに震えると、爆散していく。前方に位置する無人機が殆ど消し飛ばされたことで、通路を塞ぐ障害は一気に減少した。溢れ出る『ファントム』が道を塞ごうとしている今しか、先に進むことは出来ない。

 

 

「っ! 皆!ここを彼に預けて、先に行くわよ!」

 

 

咄嗟に判断した楯無に続いて、皆が動く。同じように続いた一夏はふと足を止め、無言で『ファントム』を排除していくレッドに声をかけた。

 

 

「────悪い、助かった!」

 

『……………』

 

 

それだけ言って離れた一夏は────レッドがピクリと反応したことに気付かない。仲間達を追って先に行く一夏の背中を僅かに見たレッドは空いた手を伸ばそうとして、静かに下ろした。

 

 

『──────』

 

 

言葉では形容できない感情を秘め、レッドは集まり出す『ファントム』の軍勢へと大型ライフルを構える。彼の纏うアサルト・キラーは更なる変化を繰り返し、『ファントム』の殲滅を成し遂げようとするのだった。

 

 

行き場のない感情────怒りをぶちまけるように、レッドは声にならない咆哮を響かせる。

 

 

 

◇◆◇

 

 

────全てを捨て去った。その為に、決別したのだ。

 

蒼青龍夜は復讐以外を優先するつもりはない。だからこそ、自分の復讐を成し遂げる為に、仲間を否定した。呼び止める彼等の手を払い除け、ここまで来たのだ。

 

 

これで良かった、これで良いのだ。龍夜は自身の選択を間違っているとは思っていない。ずっとこの為に生きてきたのだ。

 

 

正直に言うと、蒼青龍夜はあらゆるものが嫌いだった。自分や家族以外の全部が─────家族が消え、最後に残された姉すら傷つけられたあの日から、彼は世界という領域を拒絶し、閉じ籠った。

 

全てが、嫌いだった。姉を傷つけた加害者達もも、保身を優先する加害者達の家族も、家族の死すらネタにするマスコミも、自分達の事を勝手に同情する身勝手な奴等も。家族がいなくなっても、何事もなく変わらない世界────その全てが大嫌いだったのだ。

 

 

大嫌いなこの世界で、全てが憎かったこの世界で生きてこれたのは復讐の為以外に他ならない。その為に、八つ当たりのように憎悪を振り撒くことを止めたのだ。これだけは譲れない、止める訳にはいかない。────かつて望んだ、世界の破滅を諦めたのだから、それだけは成し遂げなければならないと誓った。

 

 

だからこそ、あの決別は正しかった────はずだ。

 

 

(────何でだ)

 

 

────はず、なのに。

 

 

(何で出力が出ない………何で最大限の力を解放できない!? あの時は、あの時は出来たはずだ!!)

 

 

フェイスと戦い始めて、龍夜はエクスカリバーの出力不足────自分自身の不調に気付いた。コア・ユニットたるエクスカリバーに不備はないことは、内に宿るルフェが確認済みだ。

 

ならば、何が足りないのか。何故本来のエクスカリバーの性能を引き出せないのか。

 

 

────迷っている、のか?

 

 

「…………そんな、馬鹿な」

 

 

渦巻く感情を、否定する。自身の太股を強く殴打する、痛みによって思考を最適化させようとする。この戦いに不要な感情を、削り落とそうと必死に頭を振った。

 

 

「今更、迷うものか………今更躊躇うものか………! 俺自身の選択だ! 俺自身が、望んだんだ!!」

 

 

そうでなければ、自分は揺らいでしまう。全てを捨て去るという覚悟が、折れてしまう。そう感じたからこそ、龍夜には退くことも止まることも出来ない。

 

既に、自分は選んだ後だ。その先の結末に、たたらを踏んではいられない。

 

 

 

『─────独り言は、終わったか』

 

 

忘れもしない、不愉快な声が響く。目の前に立つフェイスは剣を地面に突き立て、此方を睥睨していた。全身を覆う漆黒の装甲には、大した傷もない。

 

戦いが始まって数分。明確に過ぎ去った時の中で、龍夜はフェイスに有効打を与えられずにいた。龍夜自身の気の迷いが、エクスカリバーの出力を低下させ────この戦いを混迷させているのだ。

 

 

『少々遊んでやったが…………期待外れだな。時間を掛ける余裕もない、そろそろ終わらせてやろう』

 

「────言っていろ。舐めたことが言えないよう、その口を仮面ごと叩き斬ってやる」

 

 

エクスカリバーを振るい、龍夜は『プラチナ・キャリバー』を再構築する。既にエネルギーは最大限までチャージした、後は全力で圧倒するだけだ。

 

アクセル・バースト。四枚の大型ブーストスラスターによる超加速が特徴的な形態を纏い、龍夜は踏み込んだ。クラウチングスタートのように、背中のスラスターにエネルギーを集中させ、

 

 

(エネルギー全てを使う! 今後の事は考えるな! ヤツを殺す! ただこの一点に、全てを使いきって見せる!!)

 

「──────ッ!!」

 

 

──────そして、蒼白の流星が駆けた。秒を越えた速度の機体が一筋の光となって、弾ける。僅か二秒にして、龍夜の姿は見えなくなる。代わりに、このエリア全体に蒼光が反響と屈折を繰り返し、目にも止まらぬ速度で飛び回っていた。

 

最大出力の超加速による高速飛翔を、フェイスは捉えきれない。恐らく、通常のISの限界速度を優に越えてる。彼のISが特別、そのコアがISの上位存在であるからか。

 

────違う、とフェイスは静かに判断した。これだけの力を引き出せたのも、蒼青龍夜の技術と実力、努力の賜物であるはずだ。彼の貪欲なまでの強さへの渇望、フェイスへの復讐心が─────ここまで彼を強くさせたのだ。

 

 

(惜しいな)

 

心の中で、フェイスは思う。感情を揺らすこともなく、ただ冷淡に、無機質に。

 

 

(この才能、この実力─────殺すには惜しい)

 

『────だが、これもプランだ。今更計画の変更は認められない』

 

 

直後、三百六十度から蒼光がフェイスを襲った。音速な光となった『プラチナ・キャリバー』、掠るだけでも大ダメージは免れない砲弾のような白銀の機体。周囲を駆け巡る蒼銀に、フェイスは身動ぎもしない。

 

足元や装甲を斬られようと、動かない。不動の姿勢で、フェイスは魔剣を握り締めて、待ち構える。正面から、叩き潰しに来るであろう龍夜の存在を。

 

 

「──────ッッ!!」

 

 

その姿勢に苛立ちでも覚えたのか、龍夜は超加速のまま飛び込む。一筋の光となりながら、エクスカリバーにエネルギーを送り込み、蒼いエネルギーの奔流を宿す。光の刃を手にし、加速と共に─────フェイスの背中へと突っ込む。

 

 

『背中を狙う…………当てが外れたか』

 

 

淡々と口にしたフェイスは、振り返り様に魔剣で斬り払う。背後まで迫り、刃を振り上げていた蒼青龍夜の胴体を、綺麗に切り捨てた。──────その瞬間、フェイスは余りにも軽い切れ味と同時に理解を見せる。

 

 

『………成程、残像────後ろ、いや前か』

 

「オオオオオォォォオオオオッッ!!!」

 

 

残像を先に動かしたことで、フェイスは不動の姿勢を崩した。壁に着地し、様子を伺っていた龍夜はフェイスが気付いた時には飛び出していた。

 

爆発するように、壁を吹き飛ばし─────背中の翼からエネルギーを放出しながら、加速、加速────加速し続ける。全てを使い尽くす最大出力、今までの全てを越える速度と手にする光刃の輝きから、フェイスはそう察知した。

 

 

 

『一撃必殺、素晴らしい案だな────では、対処してみせよう』

 

 

フェイスの纏う『ゼノス・バルハード』、その背中のフレームが開く。内側から出現したサブアームがフェイスの前にシールドを展開する。ビームと実体、二つの特性と二つの防御を実現した武装に、龍夜の顔が険しくなった。

 

 

『貴様の全力、無事ではいられないが────この盾があれば、直撃は免れる。…………それを耐えきれば、私の勝ちは確定する──────っ!? これは!』

 

 

背後から直撃した攻撃に、不動であったフェイスの余裕が崩れた。反応した時には、手遅れだった。エネルギーを収束させたレーザーを受け、フェイスは顔を持ち上げる。フェイスバイザーの単眼が一気に動き、向こう側を凝視する。

 

 

『アレは─────見たこともない、新兵器か』

 

 

物影に隠すように置かれたライフル────『ライトニング・レイザー』の銃口が此方に向けられていた。オート、或いは遠隔操作だろう。大したものだ、と思わずフェイスは感心してしまう。

 

だが、それも一瞬。すぐさま迫る龍夜に向き合う。サブアームのシールドを展開しようとして────先程のダメージで、アームは火花と爆発を起こして機能停止した。

 

 

『っ、先の攻撃が────しまっ───!?』

 

 

大きな隙を見せてしまったフェイスに、龍夜の脚が炸裂する。速度を乗せ、弾丸と化した勢いで放たれた蹴りは装甲越しとはいえ、フェイスの肉体にダメージを叩き込む。

 

ビキ、と装甲に亀裂が走る。フェイスの機体、その装甲を覆うシールドを突き破る程の威力。見えない顔が、大きく歪むのを龍夜は幻視した。

 

 

【OVER ENERGIE DISCHARGE!】

 

「終わりだ! フェイス!!」

 

 

膨大なエネルギーを蓄積させた光刃が、ゼノス・バルハードの胴体へと斬り込まれる。魔剣で防ごうとしたフェイスの意図すら凌駕し、滑り込められた光の剣が漆黒の装甲を深く切り裂く。

 

 

『ば、馬鹿な────私が、こんな───!!』

 

「ライトニング!────オーバー・ブレイクッ!!」

 

 

押し込まれたエクスカリバーの刃が、フェイスの胴体に斬撃を刻んだ。斬撃として残る青白い光、エネルギーが膨れ上がったかと思えば─────強烈な爆発を引き起こした。

 

純粋なエネルギーを利用した必殺の一撃。流石の破壊力に、フェイスは耐えきらなかったらしい。漆黒のIS ゼノス・バルハードは火花を散らして沈黙した。

 

これで全てが終わった。マトモに戦えないであろうフェイスを見据えた龍夜は、静かに歩み寄る。ユラユラと、幽鬼のように。

 

 

『…………まさか、ここまでやるとはな………感心したぞ』

 

「言いたいことは、それだけか」

 

 

動けないフェイスを見下ろし、龍夜はエクスカリバーを引き摺る。火花を散らす聖剣を握り締め、龍夜は再びエネルギーをチャージし始める。

 

顔を上げることしか出来ないゼノス・バルハードに、光刃を向ける。剣先の喉元に突き立て、何時でも切り裂くつもりで告げた。恐ろしく冷えたと同時に、復讐の熱を宿した言葉を。

 

 

「父さんと母さん、百合姉さんたちに詫びろ。俺の家族に、赦しを乞え」

 

『…………死人に言っても無駄だろう』

 

「─────なら、あの世で償え。地獄で苦しんでからな」

 

 

この期に及んで煽るフェイスに、今すぐトドメを差したい衝動に駆られる。だが、もう我慢する必要はない。止める仲間も、邪魔者もいない。怨敵はすぐ目の前に──────ようやく、積年の恨みを晴らせるのだ。

 

長かった。この十年間、ずっと憎しみを絶やすことはなかった。全てを失ってまでここに来たことに悔いはない。────ただ一つを除いて。

 

 

だが、今は脳裏に浮かぶ仲間達の事は消し去る。今、この時の為に決別した彼等の事を思う資格などない。蒼青龍夜には、憎悪しか相応しくない。怒りと憎しみで、彼等を棄てたのだから。

 

 

「…………終わりだッ」

 

 

両手で握り締め、エクスカリバーを振り上げる。残存するエネルギー全てを蓄積させた光の刃を解放し、龍夜は叫んだ。腹の中に溜め込んだ憎悪と怨恨、全てを爆発させる。

 

 

 

「─────死ね!! フェイスゥッ!!!」

 

 

フェイスの頭蓋を叩き割るかの如く、蒼青龍夜は蒼銀の剣を放つ。振り下ろされた必殺の刃は断頭台のギロチンのように、フェイスへと振り下ろされる──────

 

 

 

 

 

 

 

─────だが、その刃が叩き斬ることは叶わなかった。

 

 

 

「───…………なっ、にぃッ……!?」

 

 

振り下ろそうとした刃を止めるように、何かのワイヤーが絡んでいた。それは凄まじい力でエクスカリバーを静止させていた、フェイスの眼前で。

 

あと少しで殺せたことに苛立ちを覚える間も無く、龍夜は特別製のワイヤーが伸びた先へ視線を向けた。巨大なホールの壁、無数の層で構築された柱から伸びたワイヤーを放ったのは人でない─────機械であった。

 

 

「無人機………だとッ!?」

 

 

それも一体ではない。気付いた時にはホール全体の壁に、無数の無人機が張り巡らされていた。数にして、二十を越える。恐らく、フェイスが倒れるまでずっと隠れていたのだろう。

 

意識が揺らいだ龍夜だったが、すぐに冷静になる。咄嗟に目の前のフェイスにトドメを刺そうと動いたが、無人機は龍夜を拘束するためにワイヤーを撃ち込み始めた。

 

 

「っ!────!!」

 

 

剣を押し込もうとする龍夜だが、四方八歩から放たれるワイヤーに身体を縛り上げられる。強引に腕を縛るワイヤーを引き剥がそうとするが、脚を巻き上げられ、バランスを崩す。離せ、と必死に叫ぶ龍夜。だが、抵抗は出来ない。全てのエネルギーを先の戦いで使い切ってしまったからだ。

 

 

「クソ───クソ!!」

 

 

雁字搦めにされ、完全に無力化された龍夜は怒りのままに暴れる。だが、四方から拘束するワイヤーの拘束力に、マトモに動けない。何とか抵抗しようとする龍夜の前で、沈黙したゼノス・バルハードに数体の無人機が歩み寄る。

 

 

『─────』

 

 

直後、妖しく光るゼノス・バルハードのモノアイ。それと同時に装甲の隙間からケーブルが伸び始める。触手のようにうねったケーブルが、無人機達を突き刺し─────エネルギーを吸い始めた。

 

それだけではない。他の無人機がエネルギーの吸われた無人機のパーツを使い、ゼノス・バルハードの補強を始めていた。虫のように群がっていたのも一瞬────ワラワラと離れ始めたと時には、ゼノス・バルハードが再起動していた。

 

 

『…………残念だったな。貴様の全力は、私の計算内だ』

 

「っ!」

 

『感情的に、目先の復讐に囚われた。本来の貴様であれば、もう少し私の事を警戒していただろう。………だがしなかった、出来なかった。家族の仇である私への復讐心が、貴様に敗北をもたらしたのだ────』

 

 

そして、動けなくなった龍夜にフェイスは魔剣を構える。禍々しいエネルギーとオーラを纏う剣の一振は、エネルギーを大きく消耗していた『プラチナ・キャリバー』を破壊した。

 

 

「が、あああぁぁぁああ────ッッ!!!」

 

 

爆発と共に、吹き飛ばされる龍夜。エクスカリバーも弾き飛ばされ、床に叩きつけられるように龍夜は転がった。口の端から溢れる赤い液体は、口の中を切っただけでは済んでいない証だ。

 

静かに歩み寄るフェイスは、その視線をエクスカリバーへと向けた。しゃがみこみ、銀剣を掴もうと手を伸ばす。柄を握ろうとしたその手は、エクスカリバーから放たれたプラズマに弾かれた。

 

 

『…………エクスカリバー、適合者以外を拒絶するか。この状態では私には扱えんな。だが、使いようはある』

 

 

ゼノス・バルハードの背中から展開したサブアームがエクスカリバーを持ち上げた。機械のアームであるからこそ、エクスカリバーのプラズマでは弾けないのか。銀の聖剣を手にし、フェイスは転がった龍夜へと歩み寄る。

 

 

「う、がっ────ク、ソ」

 

『────返すぞ』

 

 

ザンッ! と、エクスカリバーの刃を地面に突き立てるフェイス。その刃は地面だけではなく、龍の掌を軽々と貫いた。肉と、骨も。

 

 

「ガ、アアアアアアアアアァァァァァァッッ!!!」

 

 

掌から響いてくる激痛に、龍夜の思考が焼き切れそうになった。喉の奥から吐き出される張り裂けんばかりの絶叫に、理性を失いそうになる。杭を打ち付けるように、突き立てられたエクスカリバー。刀身を輝かせる剣を見上げることしか出来ない龍夜の頭が、突如踏みつけられた。

 

 

『────無様、実に無様なものだ』

 

 

嘲りの言葉を向けるフェイス。心の底からの嘲笑に、龍夜は気が狂いそうになる。あと少しだった。あと少しだったのに。自分の全ては、届かないのか。────天才なのに、家族の復讐すら為せないのか。

 

自己嫌悪と憎悪で、思考が纏まらない。悔しさと絶望のあまり、龍夜は瞳から涙を溢していた。ここまでしても、無力な自分への、何を為せない男への軽蔑を胸に。

 

 

『仲間を捨てても、未来を捨てても、貴様の刃は、私には届かない。────お前の全ては、その程度。私を殺すに値しないと言う訳だ』

 

「…………ッ!」

 

『後悔のまま、死ぬがいい。家族の無念を晴らせず、無駄死にをする己の無力さ、無能さ、無意味さを恥じて───あの家族のように』

 

「─────黙れ」

 

 

顔だけを上げ、龍夜はフェイスを睨む。その眼光に、最早理性などなかった。怨嗟に染まった、獣の瞳。復讐の憎悪に囚われた彼の瞳には、目の前の敵への恨みと憎悪しかなかった。

 

 

「俺は─────お前を許さないッ!」

 

『…………』

 

「殺した所で!俺は止まらない!必ずお前を追い続ける!お前を殺すまでずっとだ!! 一生逃げ回れると思うな! お前の身体をズタズタに引き裂いて、その仮面を奥の顔を引きずり出す!! それまで、俺はお前を憎み続けてやるッ!!」

 

 

涙を流しながら、そう吼える龍夜。血涙すら流しかねないその眼は、フェイスの顔を見据えていた。本当に、呪いだけで動き続ける亡霊に成り果てる程の復讐心が見られる。

 

 

一人の青年の、全てを燃やし尽くす程の憎悪を────フェイスは鼻で笑った。

 

 

 

『ならば───死んで呪っていろ。亡霊のように』

 

 

頭から足を離し、フェイスは魔剣を振り上げる。まるで断頭台のギロチンの如く、持ち上げられた刃は躊躇なく振るわれた。その刃が己の命を削り取る、それを理解しても目を瞑ることなく龍夜はフェイスを睨み続ける。

 

 

────死ぬくらいなら、呪詛を残してやると言わんばかりの殺意。最早、蒼青龍夜にはそれしかなかった。それしか残されていないのだ。

 

 

 

 

 

 

──────だが、フェイスの放った斬撃が、龍夜の命を奪うことはなかった。

 

 

滑り込むように、迫る白い光。真っ白な雪のようなISが、龍夜の前にあった。その機体は凄まじい速度で滑り込み、フェイスの魔剣を受け止めたのだ。

 

 

「……………え、」

 

『─────ほう』

 

 

龍夜は信じられないように唖然とし、フェイスは興味を向けて静かに笑う。そんな二人の前に立ち塞がったのは───白式を纏う、織斑一夏であった。

 

 

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