IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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数ヶ月ぶりの更新…………筆が進まんかったとです………申し訳ない………申し訳ない………良ければ、良ければ読んでください…………


第97話 伸ばす手、その先────

───一方、地上にて。

 

火花が散る。

金属の衝突による音が、連鎖する。建物の残骸を破壊しながら激突する二つの影────織斑ノエルの『クローチェア・オスキュラス』とシルディ・アナグラムの伝説幻装 『機鋼龍帝 バハムート』が、激戦を繰り広げていた。

 

 

「ハハハッ! やるじゃん!思ったより歯応えがあって嬉しいねぇ!」

 

「────それはどうも」

 

 

軽口を叩く二人だが、戦況は先程から変わらない。大型のブレードランスの斬撃を右腕の装甲で受け止め、代わりに左の豪腕を勢いよく放つ。しかしノエルはそれをいち早く察知していたのか、凄まじい反応速度で回避する。

 

クルリ、と身を翻したノエルは胸元を見せつける。心臓の部分に備えられた大型の砲口が光を収束させたかと思えば、一気にレーザーを放射した。不意打ちとは思えない破壊光線を直接浴びるシルディ─────だが、その歩みは止まらない。

 

 

「────ッ!!」

 

「ハハハッ………マジかよ」

 

 

ノエルが乾いたような笑いを漏らすのも、無理はない。レーザーを浴びているにも関わらず、シルディはそのまま全力疾走で迫る。装甲が焼かれても尚、その足は止まらない。

 

一切の躊躇もなく、突撃したシルディの拳が砲弾のように叩き込まれた。回避不可能と判断した時には、鋭い一発を顔面に打ち込まれ、吹き飛ばされていた。

 

廃墟の壁をぶち抜いて、残骸に転げ落ちたノエル。死んだように倒れていた少年は、笑い声を響かせると同時に、勢いよく跳ね起きた。

 

 

「ハハハッ!────クソ痛ぇ! バイザーが一撃で壊れちゃったじゃん! IS無しの生身だったら、頭蓋骨ごと潰れてたね! コレ!」

 

「………これでも倒れないか。割と本気だったんだが」

 

 

笑顔で答えるノエルに、シルディは拳を握り締めていた。やはりIS、完全には圧倒できる相手ではない。何より、ノエルのセンスは人並外れたものだ。アナグラムでも屈指の実力であるシルディと拮抗しているのだ。此方としても、油断などしていたら、返り討ちにされてしまうことだろう。

 

 

「そんなワケだし、俺も本気でやりますか!────ソードビット! フルオープン!」

 

 

全身を広げ、叫ぶノエル。呼応するかのように、『クローチェア・オスキュラス』の装甲が分離し、ビットとして浮遊し始める。刃を展開したソードビットが妖しく輝いていく。

 

シルディはそれを前に深呼吸をする。同時に胸元のリアクターを最大まで稼働させ、深紅の粒子を全身のスラスターから漏れ出させる。両拳を握り締め、彼は堂々と告げた。

 

 

「────来い」

 

 

◇◆◇

 

 

そして、上空。雲が漂う程の高度の空域で、閃光と火花が炸裂する。同時に、爆炎を突き抜けたサイレント・ゼフィルスが飛翔していく。身体を捻って振り返ったエムはエネルギーマルチライフル『スターブレイカー』の銃口を向けようとするが、敵の姿はない。

 

真上に滞空していると気付いた時には、黄金の不死鳥から無数の熱源反応が放たれていた。

 

────青空を覆い尽くす、小型ミサイルの雨。己をロックオンしたそれらの飛来を理解したエムの動きは早かった。全てのビットを制御し、精密な射撃でミサイルの雨を全て撃墜していく。

 

「おお、ナイス! 褒めてやる───ぜッ!」

 

愉快に笑う声がしたかと思えば、直近まで迫ってきたイルザがエムの背中を蹴り飛ばす。スラスターの噴射で動きを止めたエムは即座にビットを操り、ほぼ同時にレーザーを撃ち込んだ。

 

しかしイルザは堂々と腕を組んだまま、背中に展開された四枚の機械翼を操る。折り畳まれた翼がイルザを包み込むようにすると、金の装甲がビットのレーザーを容易く弾く。

 

バサッ!と翼を最大限まで広げれば、翼の先から無数のマルチミサイルが放射され、エムへと飛来していく。咄嗟にビーム射撃で撃ち落とす彼女に向け、イルザは可変する装甲から飛び出す巡航ミサイルを放った。

 

「ふん、この程度で───ッ!?」

 

「この程度!なワケないだろーよッ!!」

シールドビットにより防御したエムの眼前に、イルザが迫る。滑空形態に移行した翼による飛翔は音すら置き去りし、藍色の機体へと肉薄する。銃剣で切り捨てようとしたエムの眼の前で、グルン!とイルザが身を捩る。

 

回転と共に刃のような黄金の翼が振るわれた。それは的確にエムのマルチライフルの銃剣の部分だけを、紙細工を相手にしているように切断する。同時に、その斬撃はサイレント・ゼフィルスのシールドへと直撃し、大きくエネルギーを減少させていた。

 

衝撃に揺らされたエムは狙撃しようとして、自身の腕が押し出されたことに気付く。脚を乗せ、無闇に動かせないように牽制するイルザ。余裕そうに鼻を鳴らす彼の表情に、エムはドス黒い殺意を覚えた。

 

「その顔で──────私を見下すな!!」

強引に押し退け、ライフルからレーザーを撃ち込むエム。至近距離からの光線にイルザは回避すらせず、機械翼を以て受け止める。その直後、エムは勝利を確信した禍々しい笑みを浮かべた。

 

 

────光が、炸裂する。鮮やかな閃光、イルザの背後に移動していたビットから放たれたビームが無防備なイルザを撃ち抜く。より正確には、彼の頭────顔を抉り飛ばしたのだ。

 

今度こそ、笑みを深めるエム。勝利を確信した彼女は自身をここまで追い詰めたイルザを消し飛ばそうと、銃口を向けようとした。

 

「終わりだ、格下!」

 

「―――と!思うかァ!?」

 

────その瞬間、顔半分を抉られたイルザの目がエムを捉える。数秒動きを止めた彼女は、イルザの手から撃ち込まれた小型ミサイルを受け、爆発に呑まれる。

 

「ぐっ!?―――貴様!!」

 

「はははッ! 不死鳥がァ、頭消し飛んだ程度で死ぬか!? そういうことだろーよ!」

 

エムの眼の前で、顔半分を欠損したイルザは笑う。抉られた部分からは血が噴き出すことはなく、代わりに突如発火した炎が傷口を包み込む。

 

金色の炎は傷を焼くのではなく、癒やしていく。イルザが自信満々に笑みを深めた時には、抉られた部分は元通りに修復されていた。不死鳥フェニックスの固有能力、不死性。文字通り死ぬことのない不死の力は、イルザの意識が折れるまで絶えることはない。

 

―――そして、死への恐怖。苦痛というものが欠落しているイルザが折れることなど、絶対に有り得ない。

 

 

「もう終わりか?そんなら少しエンジン上げていくが、構わねぇよなぁ?」

 

「勝手に吼えていろ。貴様が何であろうと、勝つのは私だけだ」

 

「……………」

 

相対する二人は今度こそ、全力で殺し合うのだろう。先程までとは違う、本格的な戦闘。学生などでは到底追い付くことの出来ない、死の香りが漂っている。

 

「ああ、いや。映画で良く見るヤツだなって。こういう時、偉そうに口走るヤツは小っ恥ずかしく負けるのは定石、ってのは知ってたか?」

 

「……………貴様」

 

「ま、安心しろ。お前が負ける理由はそんなチンケなもんじゃねぇ。このイルザ様が相手なんだ。他の連中への負けた言い訳には十分過ぎるだろーぜッ!!」

 

 

直後、業火を纏った獄鳥と藍色の蝶が凄まじい勢いで上空を飛翔していく。見る人によれば、蒼空に描かれた鮮やかな軌跡の中、二つの影が殺意を衝突させていた。

 

 

◇◆◇

 

 

「────何とか、間に合った!」

 

 

そう叫んだ一夏だが、本当にギリギリだった。この広場に着いた直後、フェイスに殺されそうになった龍夜を見て、限界まで加速して割り込めた。多少の無茶はしたが、助けられたので良しとする。

 

刃を受け止める一夏だが、何故か片腕だけで十分だった。自分の力だけではない、白式からの力が影響しているのだ。困惑はない。白式が力を貸してくれている、それだけ分かれば充分だから。

 

 

『────その力、白騎士か。初期化されても尚、この私を阻むとは─────鬱陶しいな』

 

「…………っ!」

 

 

あまりにも無関心なその視線に、背筋が凍る。だが、その視線が一夏ではなく、白式に向けられていることは良く理解していた。無視されているようで腹立たしいが、そんなことは気にしていられない。

 

 

「っ!」

 

 

ヴォン! と、フェイスは魔剣を振るう。エネルギーを放つ刃が衝突し合う中、青白い粒子と赤黒い粒子が舞い散る。大振りなフェイスの斬撃を回避し、受け止め────僅かな隙を狙い、滑り込むように一太刀を浴びせる。

 

 

『────浅はかな』

 

 

それを待っていたのであろうフェイスは淡々と呟く。背中の装甲が射出されたワイヤーが一夏の手首に絡まり、強引に引き寄せる。

 

斬った体勢から回避も抵抗も出来ず、引っ張られた一夏の目の前でゼノス・バルハードの背中が大きく割れる。分離した装甲はカニの鋏、昆虫の前脚のように一夏を左右から押し潰そうと迫った。

 

 

「させるかッ!」

 

 

それを阻止したのは、同じように現れた────篠ノ之箒と紅椿。深紅の機体を身に纏う彼女は両手の刀剣でワイヤーを斬り、展開装甲から伸ばした光の刃でゼノス・バルハードの背中の武装を切り裂いた。

 

そんな彼女の強襲を理解したフェイスは顔色を変えず、何処からか取り出したライフルを構える。見向きもせず向けられた銃口から放たれた大規模なレーザーを、箒は見事に回避した。

 

 

「そう簡単には当たらない! 貴様の攻撃など!」

 

『────知覚したか、私の動き。私の意思を』

 

 

だが、とフェイスは真後ろに向けて漆黒の剣を振るう。見向きもせず、背後に回り込んだ箒の刀剣を受け止めた。両手の刃を重ねて押し返そうとする箒を嘲笑うように、フェイスは身体を動かし、彼女へと向き合った。

 

 

『残念だったな。私の存在を知覚できるのは、お前だけではない。────この私も、同じだ』

 

「ッ!なんだ、貴様! 貴様は何を知っている!? 貴様は私の、何を────!」

 

『さぁな…………同じ存在、かもしれないな』

 

「ッ!───戯けたことを!!」

 

 

小馬鹿にするような言葉に怒りを露にする箒。だが、完全に我を忘れることはなかった。蹴り飛ばし、後方にいる一夏達の元へと退避する。フェイスは挑発に乗りきらなかったことに驚いたようで『…………ほう』と感心していた。

 

そんな彼が動こうとした途端、AICによる停止結界に身体を拘束される。ラウラが捉えた隙を逃さず、セシリアや鈴、シャルロットが遠距離武装を使用し、ゼノス・バルハードを高火力で呑み込む。

 

爆炎の中、集中砲火が収まったかと思えば蒸し暑い空気が漂う。楯無が掌を上げて握り締めると同時に、空中の水分に散布されたアクア・ナノマシンが熱を高め、爆発を引き起こした。今度こそ、爆発に呑まれた漆黒の影は見えなくなった。

 

 

「………やったのか?」

 

「これだけで倒せるなら、蒼青くんは負けてないわ」

 

 

警戒しながらも、僅かな可能性に期待する一夏。だが楯無を主とした殆どの候補生が油断もせず、フェイスの生存を確信していた。きっと、傷一つなく余裕で立ち尽くしていることだろう。

 

しかし、彼女たちは追撃を始めようとはしない。次なる行動に身構えている楯無やラウラがフェイスを警戒している間、他の皆が地面に転がされていた龍夜の元へと駆け寄る。

 

そして────喉を詰まらせた。

 

 

「龍夜! 大丈夫か…………っ!!」

 

「こんな生身で………なんて無茶を!」

 

 

ISを解除されるほどのダメージを浮けたのか、その身体には小さな傷も多い。何より、地面に縫い込むように深く突き刺さったエクスカリバーの刀身。白銀の刃は龍夜に両手すらも貫いており、剣と皮膚の間からは大量の赤が溢れていた。

 

 

「まずはこれを抜かないと────いっ!?」

 

 

まずはと、エクスカリバーを引き抜こうと手を伸ばすシャルロットだが、束に触れた瞬間に火花が生じる。咄嗟に手を離したシャルロットは未だに痛む手を抑えながら、困惑を隠せない。

 

 

「何、今の!?」

 

「………エクスカリバーの、神装の機能だ。龍夜以外の人間が触れれば拒絶すると聞いていたが、まさかこれだけでも弾かれるとは」

 

「ハァ!? 助けるだけじゃない! ホント、融通が利かないわね!」

 

 

不動のエクスカリバーに文句を漏らす鈴だが、当然剣が応えることはない。自分の周りで右往左往する仲間たちに気付いたのか、龍夜は静かに呟いた。

 

「………お前ら、なんで……」

 

「なんでって、決まってるだろ!? 助けに────」

 

「────なんで、ここに来た」

 

震えたその声に、思わず全員が振り向く。地面に爪を立て、涙の枯れた真っ赤な目に絶望を映し、龍夜は俯いていた。その言葉にあるのは、明確な拒絶であった。

 

あの時と同じ、それ以上の強い拒絶を込めて、龍夜は声音を震わせる。

 

「もう、俺とは………関係ないだろ」

 

「ッ! そんなの、俺達はお前を助けようと────」

 

「助けなんて、求めてない………っ!」

 

強情だった。

だが、ただ拒絶したいだけではないことは明白だ。それは、大きく揺らいでいる彼の瞳がよく物語っている。少なくとも、その場の全員が理解することが出来たくらいには。

 

 

 

『──────とんだ邪魔が入ったな』

 

爆煙を振り払い、無傷のゼノス・バルハードが姿を現す。平然としたフェイスの声に、一夏たちは身構える。対照的に、フェイスは戦闘態勢を取らず、落ち着いた様子で一夏たちを睥睨し、「…………ふむ」と思案していた。

 

 

『君達が良ければ、少しだけ話を聞きたい────どうやってここまで来た?』

 

「…………俺達に力を貸してくれた奴等がいたんでな」

 

『シルディ・アナグラムとイルザ、か? それを認知している。私が聞きたいのは、そんな話ではない』

 

 

フェイスの口調には、全てを見通しているような余裕がなかった。当初は困惑していた一同を見据えながら、フェイスは自身が持つある疑念を問い掛ける。

 

『この区域に通ずるリフトがあったはずだ。アレは私の配置した無人機により封鎖、破壊していたはずだが…………思ったより踏破するのが早かったのでな。アレをどう踏破してきた?』

 

「…………さぁ。私達が来た時には全滅してたけど。仲違いでもしたんじゃない?」

 

『全滅だと? そんな馬鹿な─────』

 

 

否定を口にしたフェイスの言葉は、すぐに途絶えた。それが嘘ではないと、何らかの方法で確認したのだろう。仮面に浮かんできた驚きという感情に蓋をし、フェイスは淡々と口を開く。

 

『まぁいい。お前達に構っている余裕はない………()()を置いて去れ、であれば見逃してやる』

 

「ソレ、だと………っ!?」

 

両手を貫かれた龍夜を、フェイスはそう呼んだ。まるでモノのように、部品としてしか見ないその態度に、一夏はおろかその場の全員が怒りを覚える。

 

口を噤んだ全員だが、少しして答えが返ってきた。

 

「………断る」

 

「何?」

 

「断る。俺達は、仲間を見捨てたりしない。お前なんかに、龍夜は渡さない!!」

 

 

ピクリと、倒れ伏した龍夜の身体が震えた。フム、と全員の強い決意の宿った表情を見通したフェイスが肩を竦める。少年少女を見るその目は、理解できないものを見るような呆れに染まっていた。

 

 

『では仕方ない。力ずくで、お前達を排除するとしよう────』

 

両手を広げるフェイス。直後、彼の操る無人機が巨大ホールへと殺到する。その数は二十か三十、一斉に集まった亡霊(ファントム)の名を冠する無人機が、モノアイを一気に輝かせた。

 

指揮者たるフェイスがその腕を振るった瞬間、配備された無人機が一斉に動き出す。それに応えたのは身構えていた一夏や箒──────以外の全員だった。

 

 

「皆!?」

 

「行って!二人とも!無人機は僕たちが引き受けるから!その間に!」

 

龍夜を、と告げるのは無言の眼差し。皆を置いてはいけないと、叫び返しそうになった一夏を箒が止める。彼女の真剣な表情を見た一夏は悔しそうに唇を噛み締め、龍夜の方へと向かう。

 

 

────だが、

 

 

『──────させんよ』

 

飛翔する白式の背後を、迫った鉤爪が突き立てられる。手から伸びたワイヤークローを振り上げ、一夏を引き寄せたフェイスはそのまま勢いよく振り回し、少し離れた壁へと叩きつける。

 

「一夏っ!」と叫ぶ箒に、フェイスが斬りかかる。何とか受け止めた少女を冷たく見下ろし、ゼノス・バルハードは魔剣に力を込めた。

 

『この舞台を用意するのに手間を掛けた。そう簡単に幕を下ろす訳にはいかないのでな、付き合って貰おう』

 

余裕そうに告げるフェイスに箒と再起した一夏が激突する。そんな彼等が必死に戦う景色を前に、龍夜は俯いたまま指に力を入れる。

 

 

「…………やめろ」

 

ビキッ、とアスファルトを掻く指先に血が滲む。絞り出すような声は、戦闘の音によって届かない。だからこそ、龍夜は血を吐き出すように、大声で叫んだ。

 

 

「もういい………やめろ──────やめろ! もう、手を出すな!! これは俺の、俺だけの復讐だ!! 俺が、殺さなきゃ意味がないんだッ!!」

 

 

顔を上げられない。彼等の顔を見ることは出来ない。自分の都合で切り捨てたことへの罪悪感もあるが、今はそれ以上の理由がある。

 

────惨めだった。天才だの自負しておきながら、こうして這うことしか出来ない自分が。家族の仇も討てず、拒絶したはずの仲間達に救われる、自分の弱さが。

 

 

「助けなんて必要ない!俺は、一人でやれる!一人で戦える!独りで生きていける!そうやって生きてきたんだ!だからもう、放っておいてくれッ!!」

 

こうして生きていること自体、許せなかった。今すぐ死んでしまいたいくらい、惨めで愚かな自分に──────反吐が止まらなかった。

 

抑え切れない両親の仇への憎悪と、自己嫌悪の感情に染まり、龍夜は叫ぶ。もう、相手をするなと。自分なんか放って、学園に戻れ、と。己の弱みを隠し、敵意を向けさせるように言葉を紡ぐのだった。

 

 

 

「──────龍夜!!」

 

ふと、一夏が声を上げた。

龍夜の言葉に怒りを向けた────のではない。その声音に敵意は更々なく、まるで呼び掛けるように口を開く。諦めかけていた龍夜の思考を揺らす、言葉を投げ掛けた。

 

 

「俺さ、ずっとお前に憧れてたんだ!」

 

「…………は?」

 

「IS学園に来てから、お前に出会った時…………最初は嫌なヤツだと思ってたけど、ずっと前を見て進もうとする姿がカッコよくてさ。いつかお前みたいに皆を守れるようになりたいって、何度も思ってた!」

 

 

目はフェイスを見据え、見向きもしない。だが、一夏の放つ言葉は龍夜に向けられている。剣戟の中、一夏は真後ろにいる青年へ自身の思いを告げるのだった。

 

 

「────確かに、お前の気持ちは俺には分からない。だから、ごめん! 何も知らないのに、お前のこと分かった気でいた!俺だって、千冬姉や親父が殺されたら、きっと皆の言葉を聞かないかもしれない!

 

 

けど、その時はぶん殴ってでも止めてくれ!俺だって、お前のことを見捨てたりはしないからッ!!」

 

 

瞳や顔が見れなくても、その言葉に乗せられた強い意志と思いは感じ取れる。だからこそ、龍夜は俯くしかなかった。口を閉ざし、更に強く噛み締める彼の耳に、誰かの声が届いた。

 

 

「────怒りや憎しみに囚われるな、とは私には言えない」

 

フェイスの斬撃を受け止め、箒は刀剣で切り返す。そうしながらも、彼女は前を見据えながら語る。後方にいる龍夜へと、告げる。

 

「私や一夏も、お前も人だ。人ならば怒るし、誰かを憎むだろう。私だって、奴を許せない。………だが、お前はお前自身が思うよりも強い男だ。自分自身を追い詰めるな、たった一人で全てを背負い込むな」

 

『…………茶番だな』

 

穏やかでありながら芯のある言葉を告げる箒。そんな光景を目の当たりにしていたフェイスは、無機質な嘲りを零す。少年少女達の繋ぐ絆というものを理解した上で、心の底からの嘲笑を向ける。

 

その行いは、目の前で接敵している二人の目を鋭くさせ、剣戟のペースを上げるには充分だった。

 

一夏と箒、二人の言葉を受けた龍夜は────それでも、揺らいでいる。常時冷静かつ合理的に判断する復讐者はいない、今そこにいるのは強靭なまでの心が折れかけた、弱々しい青年であった。

 

 

「────勘違いしないでよね」

 

目の前で、『ファントム』と激戦を繰り広げる鈴が呟く。未だ迷い揺れている龍夜に届くようなその声は、若干の呆れを内包していた。

 

「別にあたしは!あんたのやり方悪いって思ってないから!あの高慢なクソ野郎、ぶちのめせばいいでしょ!あたしだって殺すって考えもした訳だし!」

 

「………鈴」

 

「たださぁ、気に入らない訳────あんたの勝ち逃げされるのがさ!散々負かされたんだから、絶対リベンジするって決めてんの!それなのに勝手に戦って一人で死なれても、全ッ然嬉しくないのよ!」

 

そう言いながら、鈴は『甲龍』の衝撃砲でファントムを吹き飛ばす。砕けて破壊された残骸を踏みつけ、殺到する無人機を撃ち抜いたのは────カバーするように前に出たシャルロットの放つ散弾であった。

 

「ふふ、僕も同じ気持ちって言いたいけど………それ以上に、友達を見捨てたくは無いんだ」

 

「………シャル、ロット」

 

「でも、僕も怒ってるんだよ?ラミリアを置いていって、あの子凄い泣いてたんだから………だから、ちゃんと謝ってあげてよ。僕はそれだけで充分だからさ」

 

それだけ言って、シャルロットは「任せたよ」と誰かに呼び掛ける。距離を取った彼女を追うように動いた二体のファントム、その一体が砲撃によって撃ち抜かれ────残った一体が縫い付けられたかのように静止する。

 

そんな無人機を光刃で仕留めた、黒いIS。シュヴァルツェア・レーゲンを纏うラウラは背後に転がる龍夜へと語る。

 

 

「────私は、お前の復讐を肯定しよう」

 

「ラウラ………」

 

「だが、その代わり私にも手伝わせろ。お前の隣で、お前と共に戦っていこう。それが私、ラウラ・ボーデヴィッヒの心からの望みだ。────一蓮托生、それが夫婦というものだろう?」

 

直後、他の無人機を貫く閃光が眼前を過ぎる。四基のビットによるレーザーで、変則的な動きを取るファントムを撃破したセシリアは、ライフルを構えながら口を開く。

 

 

「龍夜さん────わたくしも、ラウラさんと同じ思いです」

 

群がるファントムを撃ち抜きながら、セシリアは己の想いを打ち明ける。炸裂するビームに装甲が焼かれながらも、彼女は前を見据えて戦う。背後にいる、大切な人を守る為に。

 

「家族を殺され、その尊厳を冒涜され────復讐を生きる理由にした貴方の想い、想像することすら出来ません。ですが、その想いを受け止めることは出来ます。ご助力することは出来るはずです。ですが、約束してくださいまし──────己を軽視しない、と。たとえ貴方はどうでもよくても、わたくしや皆様が悲しみますわ」

 

「セシリア………俺は…………俺はッ────」

 

揺れ動く心に戸惑う龍夜。

それでも踏み切れないのは、拒絶してしまった罪悪感と後悔からか。それでも、あと少しで傾きかねない状態であることは、誰しもが理解していた。

 

 

 

『お遊びはここまでだ』

 

────その光景に、フェイスはそう告げた。感情が欠片も見られないその声は、人間のものには思えない。ただ機械的に宣言したフェイスは手を上げ、残存する十機の無人機を制御する。

 

『これ以上、子供の茶番に付き合う道理はない────これを使うまでもないと考えていたが、隠しておくものでもない。早急に制圧させてもらおう』

 

斬りかかる一夏と箒を押し返したフェイスが、十体のファントムはホール全体へと飛ばす。陣形を成すように壁に張り付き、点滅を繰り返す。

 

魔剣を突き立て、フェイスは両腕を広げる。顔を覆うバイザーの内側に展開される一文を、堂々と告げるのだった。

 

 

 

『疑似領域、仮想展開────コード・マゼンタ、発令』

 

 

瞬間、空間が大きく変わる。

薄暗い光に覆われたホールが一気に赤紫色へと染まった。ゾワリ、と身震いする程の異変。塗り潰されたように変化した空間の中で、次なる異変が起きた。

 

 

────一夏達のIS、そのコアが赤紫色に点滅したかと思えば一気に墜落した。出力が低下────いや、まるで何かに吸われたように、減少していく。

 

「くっ………!? 何だこれは!?」

 

「ISの力が、エネルギーが奪われてる………!?」

 

「まさか、あれがゼノス・バルハードの力というの!?」

 

『────否』

 

地に叩き伏せられたセシリア達を見下ろし、フェイスは冷たい言葉を吐き出す。赤紫色に包まれた世界を統べる王のような、漆黒のISは赤紫色の光を宿しながら歩き出した。

 

『これこそ、王が振るう力────その一欠片。八神宗二と篠ノ之束が密かに用意した、悪意に抗う為のシステムの一端。………皮肉なものだ、そのコードの大半が悪しき者に渡っているのだからな』

 

「何を、言ってんのよ────ッ!」

 

『理解などする必要はない。貴様等には到底理解出来ない世界の話だ………………む』

 

魔剣を手に、力を失ったISと共に押し伏せられたセシリア達へ近付こうとしたフェイス。その興味が、別の誰かへと向けられる。苦しい表情ながら何とか立ち上がった、一夏と箒に。

 

『………ああ、そういえば忘れていた。お前達は特別だったな。道理で効果が薄い訳だ』

 

「偉そうなこと言って、いいのかよ………まだ、俺達は戦えるぜ……っ!」

 

『強がるな。効果が薄いとはいえ、効いていない訳ではあるまい。大半の力を奪われた状態で、この私の相手をするか?万全の状態でも、マトモに相手にならん貴様等が?────滑稽極まるな』

 

無機質な嘲笑と共に、漆黒の魔王が猛威を振るう。

数倍も肥大化、いや膨大化した紫の斬撃に一夏や箒は防ごうとして、押し返される。

 

だが、それだけでは終わらない。紫色の刃を受けた一夏と箒、二人のISからエネルギーが消失し、光となって消えた。それを見下ろしたフェイスは静かに歩み寄る。魔剣を片手に、握り締めて。

 

 

『────想定通り………いや、期待未満の結果だな』

 

「くっ………!おのれ………!」

 

『安心しろ。貴様らは殺さん────だが、不穏因子は潰させて貰う』

 

 

掌を向けたかと思えば、ISを解除された一夏の身体が紫色の瘴気に包まれ、無理矢理浮かばされる。持ち上げられた一夏の身体を固定したフェイスは、その手首に装着された────待機状態の『白式』を冷たく見下ろす。

 

「一夏!………くそっ、身体が!」

 

「っ!────白式を、どうする気だ!?」

 

『貴様のISに、さしたる興味はない。だが、残滓を捨て置くのは何かと面倒なのでな。物のついでだ、貴様と共に叩き潰しておこう』

 

魔剣を構えるフェイスが狙うのは待機状態の『白式』。冷たい眼差しと剣先はそれだけを見据えており、それ以外のものを見向きすらしていない。────目的の為であれば、一夏の腕を切り落とすことすら厭わない、誰もがそう感じ取っていた。

 

 

『終わりだ、死ね─────旧時代(過去)の亡霊』

 

 

少女達の叫び声が響く中、勝利を確信したゼノス・バルハードが魔剣を振り下ろす。紫色のエネルギーを帯びた刃が、拘束された一夏の腕ごと『白式』を破壊せんと迫る────

 

 

 

 

「────あああァァっっ!!!」

 

────その刃を、白銀の剣が受け止める。

張り裂けんばかりの絶叫と共に、一夏の前に現れた人影がフェイスの振り下ろした魔剣を受け止めた。同じように、青いエネルギーを纏う剣を以て。

 

「………龍夜……?」

 

「…………最悪、だ」

 

弱々しい声で、龍夜はそう絞り出す。

エクスカリバーを握る手から大量の血が流れ出していた。掌に突き刺さっていたのを、力ずくで引き剥がしたのであろう。痛々しいその傷は、見るに堪えない程凄惨であった。

 

「………俺は、一人で良かった………独りで、戦えた」

 

「お前………まだっ」

 

「だって、そうさ。俺は、特別なんだ。誰とも違う、他の誰かよりも優れた天才だから……独りで、やっていけるって、そう思ってた────なのに、なんで………」

 

ポタリと、雫が落ちる。

破顔した鉄面皮は消え、あらゆる感情が溢れ落ちる。瞳から流れる涙と共に、蒼青龍夜は言葉を漏らすことしか、出来なかった。

 

 

「なんで、お前らは俺を見捨てない………何故、俺はそれを、嬉しく思うんだ………」

 

それは、疑問ではない。

龍夜自身、その言葉の意味を理解していた。彼等が、自分を大切な仲間として見てくれていること────龍夜自身も、一夏達を唯一無二の大切な仲間だと認識しているからだ、と。

 

 

『────それで? 言いたいことはそれだけか?』

 

「………っ」

 

『復讐に身を費やしたかと思えば、簡単に絆され────次は何を胸に戦う?想いの力、とやらか?…………たった一人で、何が出来る?』

 

赤紫色に塗り替えられた世界を背に、ゼノス・バルハードが睥睨する。魔剣を片手に堂々と立つフェイスに、龍夜は強い言葉で否定した。

 

「────一人じゃない」

 

『………何?』

 

「今の俺は、たった一人じゃない………俺みたいな奴を支えてくれる、掛け替えのない大切な仲間がいる!」

 

血に濡れた手で蒼銀の剣を握り締め、龍夜は顔を上げる。瞳から零れた涙を拭い、彼は強い激情を宿した瞳で前を見据える。

 

憎しみ、ではない。ただ一つの決意を秘め、少年は横に裂けた両手で聖剣を構える。

 

 

「────聖王、抜剣!」

 

 

その一声に、聖剣が共鳴する。

刀身が、剣そのものが光り輝く。白銀に染まる閃光の中で、蒼青龍夜は己の手にする聖剣を掲げ、その真名を告げた。

 

 

「エクスカリバーッ!!」

 

 

直後、純白な光の奔流が世界を染め上げた。赤紫色に支配されたはずの領域が塗り上げられたことに、フェイスは戸惑う様子もなく、片手に出現させたビームライフルを構え、龍夜へ撃ち込む。

 

────その光線は、一振りの斬撃によって霧散した。その刃により周囲を覆い尽くしていた閃光は鳴りを潜め、変化を遂げた姿を見せる。

 

 

より白く染まった銀の軽装に身を包む────鎧ではなく必要部分にだけ展開した装甲を纏うように。背中からは蒼色のエネルギーで構築されたリングを展開し、同じように布のような光翼を五枚伸ばす。

 

銀色の長剣は装甲を大きく展開し、内側のエネルギーを放出させ、青白い光を刃のように構築させていた。

 

 

変化は、それだけでは留まらない。

龍夜の額には左右に展開したユニットが装着され、それと同時に黒髪はその色を純粋なまでの蒼へと変える。鮮やかな色への変化と共に、髪は腰まで伸びたかと思えば────一本へと結い上げられる。

 

 

この姿は、『白銀の聖剣』のものではない。厳密には、ISのコアとして利用されていた『エクスカリバー』、その展開された力の一端、神装である。

 

他の神装とは違い、完成しなかったエクスカリバーには扱えないはずだった。だが、龍夜の決意と覚悟に呼応したエクスカリバーの妖精『ルフェ』がそれに応え、顕現させた限定神装。

 

 

────少年少女達の呼び掛けと、それに応えた少年によって紡がれた、一時的な奇跡であった。

 

 

「────フェイス!これ以上、お前の好きにさせる訳にはいかない!俺が、『俺達』が!ここでお前を倒す!!」

 

 

 

第97話 伸ばす手、その先────『紡いだ奇跡』




どうせなら百話にやるべきだった………という考えは無かったことにする()

プライドと心がグチャクチャにへし折れた龍夜が、一度は拒絶した一夏達に手を差し伸べられ、心の底から彼らの事が大切だと口に出すことができたというお話です。


次回、少年少女達の反撃開始。次回もよろしくお願いします!
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