IS 蒼き宙の向こうへ   作:虚無の魔術師

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第98話 ────大切な仲間

「────アレが、エクスカリバーの神装」

 

 

明らかに変化した龍夜の姿に、一夏達は呆然とする。

ISの第二次形態移行(セカンド・シフト)とは明確に違う、さらなる進化の軌跡。先程まで負っていたはずの傷を完全に修復させ、肉体すら────厳密には髪の色まで変えてしまうほどのものだった。

 

だが、彼等はそれが見た目だけの変化ではないことは理解している。ハイパーセンサーでも感じ取れない程の、無限のエネルギーが一塊となっている────彼自身が、巨大なエネルギー炉心のように。

 

 

『エクスカリバーの覚醒、限定解除か────素晴らしい、それは予想外だ』

 

白銀の光を帯びる蒼青龍夜の姿に、IS ゼノス・バルハードを纏うフェイスが感嘆の声を漏らす。奴自身、感じ取ったのだろう。溢れんばかりのエネルギーを制御する、聖王の力の片鱗を。今まで以上の力を発揮した、龍夜の可能性を。

 

『────それで?』

 

その上で、フェイスは無機質な言葉を投げかける。

先程までの感情が嘘のように、機械らしい冷たい声で語りかけた。

 

『貴様が覚醒したのは想定外だが………先の質問の答えにはならん。たった一人で何が出来る、そう問うたはずだ。今度はその新しい力で私に打ち勝つ算段か?』

 

「お前こそ、何を勘違いしている」

 

『………何?』と、フェイスは戸惑いを顕に聞き返した。堂々とした龍夜はエクスカリバーを握り、勢いよく振り上げる。青白い光を纏う刃を、空へと掲げ────

 

 

「言ったはずだ────『俺達』、だと」

 

そう告げると共に、龍夜は聖剣を振り払った。虚空を斬る青白い閃光は────背後にいるセシリア達へと飛来し、彼女達を包み込む。味方に攻撃したのか、と目を疑ったフェイスは更に驚かされることになった。

 

『な────ッ!?』

 

「これは………」

 

光に包まれたセシリア達は、すぐに大きな変化に気付く。エネルギーが失われたはずの自分達のISのエネルギーが全快しているのだ。先程までに見られたエネルギーの減少も見られない、いや減ってはいるがすぐに補われていく。

 

 

「────フェイス。お前のその力は、領域内のISのエネルギーを奪うものだろう。そして、自分のものとして利用する────吸収、強奪か。思ったよりも小賢しい力だな」

 

『………貴様』

 

「だが、今の俺達には通じない。エクスカリバーは他のISにエネルギーを与えることが出来る。お前がどれだけ奪おうと、俺はその分エネルギーを補給させるだけだ」

 

 

白銀の輝きに包まれたセシリア達を尻目に、龍夜が平然と告げる。エクスカリバーによるエネルギー付与により、フェイスの領域越しの吸収は無意味と為す。どれだけ奪おうとも、無限に増え続けるエクスカリバーのエネルギーが彼女達のISのエナジーを補う。実質的に、フェイスの発動した『コード』は完全に無意味なものと化した。

 

 

『────それで?』

 

しかし、フェイスは揺るがない。機械的な余裕で己を包み込み、冷酷なまでに応じる。

 

『覚醒を遂げ、私のコードを無効化してみせた。その活躍には賞賛しよう────だが、それだけだろう?切り札の一つを潰した所で、お前達の刃などこのフェイスには届かない』

 

そうして、フェイスは新たな武装をコールした。無音と共に浮かび上がる銃火器を含めた武装の数々。それは一瞬にしてゼノス・バルハードへと装着されていき、巨大な鎧を纏うように大きさを増していく。

 

 

『これだけではない。私はあと数十に至る武装を用意している。こう見えても慎重なのでな………だが、今のこの機体に残された保険はあと一つだけだ。───此度のイレギュラーだけで、お前達が何処までやれるか、確かめさせて貰おうか』

 

「…………」

 

余裕に満ちた挑発に答えず、龍夜はフェイスの前へと向き直る。一夏と箒を蒼銀のオーラで包み、二人のISのエナジーを最大まで回復させた龍夜は静かに口を開いた。

 

 

「────俺一人ではアイツには勝てない」

 

「龍夜………」

 

「身勝手なのは事実だ、軽蔑してくれもいい。だが、今だけは俺の我儘を聞いてくれ────俺と、一緒に戦ってくれるか」

 

顔を向けられないのは、罪悪感からだろう。拒絶した自分にこんな事を言う資格はない、と心の底から思っているのだ。だからこそ、彼の声には明らかな不安が込められているのだろう。

 

────それを理解したからこそ、一夏と箒はすぐに応えた。

 

 

「「ああ!!」」

 

気合の籠もった一声と共に二人が龍夜の横に並ぶ。ISを展開した二人は唖然とした様子で顔を見返す龍夜の目を見据え、笑みを浮かべた。当たり前なことを気にするな、とでも言うように。

 

 

「…………ありがとう」

 

小さな呟きも一瞬、表情を切り替えた龍夜がエクスカリバーを振るう。一夏と箒に並び立ち、対面するフェイスとの戦いへ挑むのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

『まずは、小手調べか』

 

そう告げたフェイスの背面ユニットが開閉する。砲筒から射出された無数の弾頭が空中で散開し────一瞬にして小型ミサイルの土砂降りの如く降り注ぐ。

 

クラスターミサイル。かつては日本全土を焼こうとした八神博士の破壊兵器には劣るとはいえ、その威力と破壊力は絶大。何より複数の炸裂により面を破壊し尽くすその性能はISのシールドを突破することに全力を注いだものとなっている。

 

フェイスが仕込んだ、対IS用武装の一つ。それが既に発動された今、回避することも防ぐことも叶わない。小手調べとは言ったが、フェイスはこれで龍夜達を追い込むつもりであった。

 

 

────だが、これに対し。対抗しようと飛び出した者がいた。眼帯を外し、『ヴォーダン・オージェ』を開放したラウラ・ボーデヴィッヒ。彼女は手を伸ばし、空から降り注ごうとするミサイル群にAICを発動した。

 

正気か、というのがフェイスの反応だった。彼女の持つAICの情報は正確に把握している。慣性停止能力、相手の動きを強制的に止めるその力の対象はあくまでも一つだけに限られる。それ故にこのクラスターミサイルの雨相手を防ぎ切ることは不可能、明らかに場違い────はずだった。

 

 

だが、次の瞬間。

ラウラのAICが発動した瞬間、空中でミサイル群が静止した。全ての小型ミサイルが、ほぼ一斉に。

 

 

『────な、何ッ!?』

 

予想したはずの景色とは違う事実に、フェイスは愕然とした。混乱したフェイスはバイザーから収集される情報を高速で演算しながら、焦りを見せる。

 

 

(馬鹿な────そんな馬鹿な!ラウラ・ボーデヴィッヒ、シュヴァルツェア・レーゲンにあんな機能はなかったはずだ!数時間前の戦闘の時も、データに明確な変化は見られなかった!一体何が起きている!?)

 

 

狼狽しながらも、フェイスの動きは素早いものだった。ミサイルポッドに内蔵されたミサイルを補給しながら、再び追撃を始めようとする。────だが、そんなフェイスに切り込む影があった。

 

「余所見、してんじゃないわよ!」

 

『邪魔だ────ッ!?』

 

見向きもせず鈴の青竜刀を回避したフェイスに、衝撃砲が叩き込まれる。それだけは良かった。問題は、衝撃砲の威力と速度。何倍にも出力が向上したその一撃に、ゼノス・バルハードは回避すら間に合わず直撃を受ける。

 

仰け反ったフェイスが魔剣を振るい、武装による砲火を放とうとするが、彼女の前に飛び出したシャルロットのショットガンにより撃ち防がれる。素早い割り込みに、フェイスの対抗手段が容易く潰されていく。

 

 

『ッ!貴様等────!』

 

(やはり、今まで補足した『甲龍』のデータを大きく上回っている………まさか、この状況下でISの出力が上昇させているというのか?ISの性能を引き出すほどの精神的な同調が、二人に起きているなど有り得ない──────いや)

 

 

まさか、とフェイスはある予想へと至った。その瞬間、追撃を繰り出していた鈴とシャルロットが距離を取ったかと思うと、四基のビットがゼノス・バルハードを包囲した。

 

それと同時に、煌めく閃光。ビットから照射されるレーザーが一斉にフェイスへと迫る。その光の雨を回避しながら、フェイスは片腕に展開した大型の砲身を纏い、上空で飛翔していたセシリアとブルー・ティアーズへと照準を向ける。

 

そして、二つの閃光が衝突する。セシリアのライフルから放たれたビームと、フェイスが放った対ビーム兵器用の実物砲弾。空中で炸裂した弾頭は────青い光によって、撃ち抜かれた。

 

 

『成程────そういうことか』

 

何かを理解したらしく、フェイスの声だけが響く。ビームに焼かれた追加装甲をパージしながら、龍夜を静かに見据えた。

 

『ISの性能を向上させる領域、いや仕様か。エクスカリバーの基礎能力、全く以て厄介な力だな』

 

「………厄介なのはお前も同じだ」

 

神装 エクスカリバー、固有能力『聖王光域(アルト・エストライト)』。その能力は自身のエネルギーを味方に与えるものであり、それがISや他の兵器である場合その機体性能を向上させるというもの。

 

少女たちのISに纏う青白い光こそが、エクスカリバーのもたらす『聖王』の力の一端であり、この状態のISは通常時の数倍の出力と性能を発揮する。何よりエネルギーの消費も『聖王』の無尽蔵のエネルギーにより補われているため、消耗を狙うことはできない。

 

 

『────理解した。おおまか、厄介な力だ────だが、それだけだ』

 

ビームに焼かれた追加装甲を踏み抜いたゼノス・バルハード、その背中が膨れ上がる。量子領域から引き出した武装を更に纏い、フェイスは武装の鎧を構築していった。

 

 

『タネが分かればなんてことはない。所詮は一人でなければ何も出来ない、他人に固執した程度の力。そんなものでは、このフェイスには届かない』

 

「────届くさ。この力は」

 

淡々としたフェイスに対し、静かに告げる龍夜。その直後、フェイスは横から迫る水流の螺旋を防いだ。不意打ちを受け止めたフェイスは視線をずらし、下手人を睥睨する。

 

『無駄だ、更識楯無。エクスカリバーの力で強化された貴様といえど、あくまでも予想の範疇。このシールドを突破することは不可能────』

 

「本当に、そう思うかしら?」

 

 

不敵に笑う楯無の言葉にフェイスが訝しんだ、その瞬間。展開したシールドに亀裂が走る。は?と思わず目を向けたフェイスの目の前でシールドが粉々に砕け散り、《蒼流旋》の矛先がゼノス・バルハードの装甲に突き立てられた。

 

 

────ドガガガガガッッ!!!

 

『な、何ィ……ッ!?』

 

「この力は────貴様みたいな奴に測りきれるものじゃない」

 

水のドリルランスの直撃を受け、ゼノス・バルハードが吹き飛ぶ。漆黒の装甲に大きな傷が出来たことに驚く以上に、フェイスは別の事実に戸惑っていた。

 

エクスカリバーによる性能を引き上げる効果、そのデータは既に取っていた。にも関わらず、先程の『ミステリアス・レイディ』の出力はさっきまでのデータ以上のものとなっていた。

 

 

『まさか、際限なく出力を引き出しているのか………!?私が予想するよりも、更なる上の力を────!』

 

「ようやく崩れたわね、その余裕。────後は譲るわ、龍夜くん」

 

「────感謝する」

 

 

ザッ! と、白銀の神装に身を包む龍夜が前に出る。蒼色に染まった髪を束ね、聖騎士のような姿の鎧を纏った彼は手にした蒼銀の剣を振るい、甚大なダメージを受けたフェイスに向けて口を開いた。

 

 

「終わりだ、フェイス」

 

『………終わりだと?この私を、完全に追い込んだつもりか?笑わせる、拒絶したはずの仲間に縋り寄って、随分自信を取り戻したようだな』

 

「………大切なものを自覚しただけだ。お前には、理解できまい」

 

『理解する価値などない、そんなもの』

 

 

対面する二人の言葉に強い感情は無かった。だが、二人の中にある想いや理念は決して同じではない。二人が感じているものには、決定的な乖離が存在していた。

 

 

『仲間?絆?そんなものが何になる………そんな繋がりを持てば、世界は変えられるのか?人類の業を背負い、宿命を果たせるのか?物証もない、単なる言葉でしか表せぬちっぽけな代物が何になるというのだ』

 

「………お前は」

 

『貴様もそうだろう?蒼青龍夜、家族を殺した私への報復の為にここまで生きてきたはずだ。他人との繋がりも、自分の夢も捨て去り────だが、肝心な所で貴様は全てを捨てきれなかった。だから、この私には届かないのだ』

 

「当たり前だ。龍夜は、お前とは違う」

 

 

そう言ったのは、隣に並び立った一夏であった。明らかに見下してきたフェイスの発言に耐えかね、強い反発と敵意を以て言葉を返した一夏に、フェイスは静かに笑う。吐き捨てるように、嘲り笑うように。

 

 

『ああ、違うとも。私に仲間など、不要なものはない。それを断ち切れず、絆された程度の者と一緒にされても困る。家族を殺され、己の生き方まで捨てたはずの復讐を留まるような半端者など、私と同じであるはずがない』

 

「っ!貴様っ!」

 

挑発に満ちたその言葉に、一夏と箒が噛み付いた。そんな二人の友人を龍夜は手で制した。本来であれば感情的になっているはずの彼自身が、剣を携えて宿敵に向き合う。

 

 

「終わりにしよう、お前との因縁を」

 

『奇遇だな。私もそろそろ退屈になった所だ』

 

 

瞬間─────蒼青龍夜とフェイス、二人の振るい刃が衝突した。紫のエネルギーを纏う魔剣を手に、ゼノス・バルハードが龍夜へと斬りかかる。エクスカリバーと共に出現させたシールドで防ぎながら攻勢に出る龍夜だが、フェイスの動きは的確に攻撃の手段を潰していく。

 

 

『どうした?貴様の言う絆とやらの力は、こんなものか?そんなもので、この私は殺せないぞ?』

 

「………クッ!」

 

「龍夜!」

 

圧倒され始めた龍夜の援護に出る一夏。フェイスは見向きもせず、背中から伸ばしたサブアームに武装を展開する。向けられた機関銃の銃口から放たれた弾丸の嵐が、距離を詰めようとした『白式』の動きを抑え、その瞬間を狙ったグレネードキャノンの一撃が一夏を吹き飛ばした。

 

 

「一夏!おのれ!」

 

『………無駄だ。お前達の研鑽など、この私の足元にも及ばん』

 

 

切り込んできた箒の斬撃もフェイスは意識してないかの如く、回避する。そのまま龍夜のシールドを蹴り、背後に飛んだゼノス・バルハードへの追撃に向かう箒。地面に着地したフェイスは地面に剣を突き立て、彼女の眼前へと瓦礫を飛ばす。

 

その瓦礫を切り払った箒、彼女の目の前にゼノス・バルハードは肉薄していた。しかも、背中に展開したキャノン砲二門を向け、咄嗟に身構えた彼女に砲火を叩き込む。

 

 

「っ!無事か!箒!」

 

「平気だ………それよりも、二人とも。聞いて欲しいことがある」

 

「…………なんだ」

 

咄嗟に弾かれた箒を一夏が受け止める。そのまま前に飛び出そうと龍夜は箒の言葉に足を止め、目の前への警戒を緩めず問い掛ける。箒は一瞬迷ったようだが、自身の感じたある事実を語るのだった。

 

 

「これは予想だが…………ヤツは私の意識を読んでいる」

 

「………アイツが?けど、どうして?」

 

「分からない。だが、一つだけは確かなことがある。ヤツが私の意識を見ているように、私もヤツの意識が見える………僅かにだが」

 

「────共鳴反応か。何故か知りたいところだが、そんなことを気にしている余裕は無さそうだな」

 

向き直ると、フェイスが余裕そうに肩を竦めていた。話は終わりか、と言わんばかりの態度には此方を小馬鹿にしたものが感じられる。ムカつくヤツだ、と吐き捨てた龍夜は二人に目配せをすると、

 

 

「────好きに動け。バックアップは俺に任せろ」

 

「………ああ!」

 

「分かった!任せるぜ!」

 

笑みを零す三人。龍夜の言葉、その意味を理解した二人は即座に武器を手に、フェイスの方へと飛び出した。

 

 

『何度やっても無駄だ────』

 

そう宣言したフェイスの背後から展開されたユニットから、無数のミサイルが射出され、二人に降り注ぐ。爆煙の中をくぐり抜けた『白式』と『紅椿』、一夏と箒が左右からフェイスへと突撃していく。

 

そんな二人の攻撃をいなし、反撃を叩き込もうとしたフェイス。雪片弐型を振り下ろした一夏の一撃を押し返し、ガラ空きとなった胴体にキャノン砲を零距離でぶちかまそうとした瞬間。

 

────龍夜が一夏の腕を掴み、そのまま引き寄せて前に飛び出した。突然の行動に驚くフェイスの構えたキャノン砲を盾で受け止め、誘爆させる。

 

 

『………ッ!』

 

砲身が吹き飛び使い物にならなくなった武装をパージした瞬間、龍夜は地面を踏み抜き、一夏を掴んだ腕を大きく動かす。その意図に気付いた一夏は勢いに身を任せフェイスの胸元へと近付き、雪羅のクローアームから展開したビームクローを放つ。

 

不意打ちの一撃にフェイスは対処しきれず、咄嗟に前に出したシールドも分解され、胸元の装甲に傷を与えられる。

 

 

(馬鹿な、なんだこの動き────まさか、思考していない!?この二人、戦術ではなく本能で────不味い、このままでは対応に時間が────)

 

「余所見はさせん!」

 

『────邪魔だッ!!』

 

感情的に吼えるフェイスに、箒は身動ぎしない。むしろフェイスの動揺と焦りを感じ取ったのだろう。一切緩むはずのない攻撃を捌き切り、僅かに出来た隙を射抜くように『穿千』を放つ。防御しきれず体勢を崩したゼノス・バルハードの動きを、見逃しはしなかった。

 

「今だ!二人とも!」

 

『ッ!?』

 

その呼び声にフェイスが反応し振り向くと、盾に身を隠した龍夜が突貫してきていた。姿は見えない。判別できるのは、彼が保持していたシールドのみ。

 

(背後から身を隠し、攻撃を悟らせぬ気か!────ならば、隙を用意してやる!)

 

敢えて魔剣を振り上げ、身構える。盾に身を隠した一夏が何処から飛び出し、どんな攻撃を繰り出すかのパターンを補足する。合計数千通り。全ての対処法を浮かべ、フェイスはシールドに向かって刃を振り下ろした。

 

そのシールドが魔剣を弾いた直後────後ろの影が動いた。

 

 

『────なッ』

 

その影を見て、フェイスの思考が大いに乱される。シールドから覗いた影、それはシールドを手にしながらもう片方の腕からビームクローを展開した────織斑一夏であったからだ。

 

「おおおおおおおおッ!!!」

 

『────ッ!!?』

 

ギャリギャリギャリッ!!、と五本に伸びたビームの刃がゼノス・バルハードを切り裂く。全身に迫る光刃に対応しきれず、フェイスは全身に展開した武装や装甲が切り裂かれるのを実感しながら、最後の力を込めて一夏を押し退けようと魔剣を振るおうとする。

 

その瞬間、一夏が叫んだ。

 

 

「龍夜ぁ!いけぇッ!!」

 

「────ああ」

 

 

短い呟きが、空から聞こえる。顔を上げたフェイスは、上空に飛び上がった龍夜の存在に気付く。彼が手にした二つの刀剣を目の当たりにし、彼等の戦術をようやく理解した。

 

(雪片…………奴等、自分の武器を)

 

『お、のれぇええええええええッ!!!』

 

無機質な魔王が、感情のままに吼えた。全身から吹き出す紫色のエネルギーによって一夏を吹き飛ばし、そのオーラを魔剣に纏わせる。そのまま上空から降り立つ龍夜への迎撃へと動く。

 

その動きに気付いた龍夜が右手にあったエクスカリバーを投擲する。その銀剣を弾き飛ばし、フェイスはそのまま龍夜へと斬りかかる。迫る魔剣に龍夜は────一夏から託された雪片弐型を両手で握り、振るった。

 

 

 

────バキィンッ、と。

漆黒の魔剣が根本から砕け散る。周辺に突き刺さった刀剣の欠片に目を取られたゼノス・バルハードに雪片のビームソードの斬撃が浴びせられる。

 

 

「これが、俺の──────」

 

仰け反ったフェイスが反撃の手段を探る。だが間に合わない。雪片を握っていた龍夜は虚空へと手を伸ばし、その掌にエクスカリバーが収まる。神装による自律行動、持ち主の手に収まった聖剣は今まで以上輝きを宿す。

 

二振りの剣を手にした龍夜はフェイスへと、ゼノス・バルハードへと踏み込む。全ての武器を失った魔王の胸元に滑り込み、叫んだ。

 

「俺達の!力だッ!!!」

 

 

そして、交差する斬撃。

雪片とエクスカリバー、二つの剣の十字斬がゼノス・バルハードの胴体を────コアを、切り裂いた。

 

 

『ば、馬鹿な……この、私が────』

 

エネルギーの粒子が噴き出す中、よろけたゼノス・バルハード。自身の敗北を自覚できぬのか、唖然とした声が漏れる。グラリ、と揺れた魔王の体は地面に倒れることもなく────足場のない暗闇の向こうへと落ちていった。

 

 

◇◆◇

 

 

「はぁ………っ、はぁ………っ」

 

「…………終わった、のか?」

 

「エネルギーの反応はない………これで、奴を殺した………殺したんだな」

 

深い暗闇の穴を覗いていた龍夜が、力なく答える。脱力感に満ちたその声から、彼が抜け落ちたように元気を失くしていることが分かる。復讐に身を費やしていたからこそ、その願いが叶ったという実感が沸かないのだろう。

 

ようやくそれを噛み締めた青年は、掌を見下ろしたまま呟いた。

 

 

「ああ、これが復讐か………なんだ、こんなものだったのか」

 

「…………龍夜」

 

「こんなものの為に、俺は全てを捨てようとしていたのか。何も見えてなかったんだな、俺は………」

 

 

きっと、満足すると思っていた。そう信じていた。

だからこそ、仇を討ったはずなのに満たされない胸の内が空虚な事実を理解させる。かつての自分ならば、きっと喜んでいただろう。大切なものを知り、それに絆されたからこそ、素直に満足することができなかったのだ。

 

哀愁の漂う程に落ち込んだ彼に、二人の少女が歩み寄った。

 

 

「帰りましょう、龍夜さん。IS学園に」

 

「…………」

 

「ここに居た所で、何もならないだろう。教官や理事長に頭を下げ、早く戻るぞ」

 

「ああ………そう、だな」

 

セシリアとラウラ、二人に呼びかけられた龍夜がゆっくりと頷く。二人が差し出した手を取ろうと動いた────、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ハ、ハ

 

 

 

「────っ!?」

 

「?龍夜さん?」

 

微かに聞こえた声に、歩みを止めて振り返る。当然、暗闇や静寂しか広がっていない。だが、確かに感じ取っていた。箒も、その声にいち早く気付いたらしく、周囲への警戒を剥き出しにしていた。

 

だからこそ、二人だけは『ソレ』の存在を感知できた。

 

 

「全員!構えろ!」

 

「な、何だよ……何が────」

 

「まだ────まだ終わっていない!!」

 

 

直後、黒い光の柱が暗闇を引き裂き顕現した。

禍々しく、黒き輝く閃光。人を狂わせる程の漆黒に染まった常闇の光。輝きとは正反対の虚無に包まれたソレが、エネルギーを吸い上げていく。

 

『────ハハハッ、褒めてやるぞ、候補生諸君』

 

黒い光の柱の奥から聞こえる、フェイスの声。その声音には純粋な歓喜が込められている。無機質さを持ち、人間的な感情を秘めながら。

 

『お前達の力は、素晴らしい。この私を、ゼノス・バルハードをここまで追い詰めてくれた。感謝しよう────お陰で完全に掌握することが出来た。この私の予測を超えた、想定通りの結果だ』

 

柱となっていた光が、一気に吸い込まれていく。エネルギーと共に、構築された光の球体が繭のように胎動を始める。内側のISが中で、別のモノへと明確な変化を始めていた。

 

 

「一体、何なの!?何が起きてんのよ………!?」

 

「そ、そんな────馬鹿な」

 

「龍夜!?アレが何か分かるのか!?」

 

「………お前等は、分からないのか?」

 

喉を震わせながら問い掛ける龍夜。彼は、全員がソレを知っていた。一度その光景を試合として見たことがあった。いや、そうでなくても、誰もが体験したことがあるはずだ。

 

────かつて、ISに乗ったばかりの青年が同じような経験をしたことがあるからこそ、ソレを見ていた龍夜は目の前の出来事と同じであることに気付いていたのだ。

 

 

「ゼノス・バルハード、あのISは────今まで、初期設定だったんだ」

 

「な────それじゃあ、まさか!」

 

奴のIS(ゼノス・バルハード)は今、一次移行(ファースト・シフト)に至った。今でとは違う、本来の奴の専用機となったんだ!」

 

 

パキンッ! と、光の球体の表面が破砕する。

赤紫のエネルギーを吸い込んだソレは、鮮やかに輝く漆黒のフォルムを更に禍々しくした姿をしていた。

 

全身の鎧は更に刺々しく鋭さを増し、触れるモノ全てを切り裂くような狂気と悪意に満ちた形状。魔王と呼ばれた二つ名を体現するような、威圧感を漂わせる様相。

 

エネルギーを吸い上げた瞬間、背中から四枚の翼が外套のように展開される。そして、顔面のフルフェイスや全身に刻まれた黒い紋様から覗く妖しい瞳。合計七つのモノアイを全身から覗かせたそのIS、ゼノス・バルハードを纏うフェイスは自身の手を広げ、握り締めた。

 

 

『────フフ、フフフッ。身体が、手足が異様なまでに軽い。これが、完全に私に順応したゼノス・バルハード。全てのISの原点である王の力────あと少しで、私の理想は叶ったも同然』

 

敵意に染まった視線に気づいたフェイスが龍夜達を見下ろす。内側で笑みを含んだであろう魔王が両腕を広げ、余裕のままに語り掛ける。

 

 

『褒めてやろう、諸君。お前達はやはり、私の期待通り────私の予想を超え、この私の役に立ってくれた。お陰で数年、十年は掛かるはずだった計画に大きな進歩が芽生えた。本当に、ありがとう。

 

 

 

────お前達はどこまでいっても、私の為の道具に過ぎないのだ』

 

「く、そォ────!」

 

利用されていた。その事実への悔しさよりも、目の前の敵への警戒が勝る。この場の全員が理解していた。今の自分達では、マトモに相手にはならないのだと。

 

『さて、君達。私のISはようやく一次移行(ファースト・シフト)に昇華したのだが、やはり完全にモノにするのは手間が掛かる────また、私の為に役に立ってくれるか?』

 

 

地面に降り立った『魔王』が手を広げ、そう問い掛ける。逃れられない、逃さないという強い意志を向けながら、フェイスが新たに変化した魔剣を振るおうとした────次の瞬間。

 

 

 

「────残念ながら」

 

 

コツン、と地面を叩く音が一つ。それと同時に、世界が塗り替えられたように変化した。その一瞬、何かが龍夜たちの姿を捉えたのを目視したフェイスは目の前に立つ少女へと向き直る。

 

 

「彼等に手出しはさせません」

 

『貴様は────ああ、覚えているぞ。「月の落とし子(ローレライ)」の失敗作、廃棄された人形。………今はミレニアムの、篠ノ之束の手駒だったか。あの女も、消耗品の再利用は得意と見える』

 

「────ッ!」

 

剥き出しとなった怒りに従い、少女 クロエは目を見開いた。

閉ざされた両目は黒く染まり、金色に染まった眼光がフェイスを見据える。その怒りに呼応するように歪む景色の中、少女が冷静に杖を携えたまま告げた。

 

 

「これ以上、貴方の思い通りにはさせる訳にはいきません。何より、彼等の中には我が主の大切な人が居ますので」

 

『フッ、大切な人か。果たしてどちらの方かな?』

 

「どちらも、です」

 

キッパリと告げる彼女の姿が影のように透け始めた。逃げられる、そう判断したフェイスは彼女の首を掴もうと腕を伸ばす。だが、距離を縮めて伸ばした掌は────虚空を掠めた。

 

そこでフェイスはようやく、自分の周りに誰もいないことに気付く。同時に、少女が出現してから数十分も経過していることに。

 

 

『…………逃された、か。時間間隔を狂わされたな、既に奴等はIS学園の内に逃げたようだな。

 

 

 

だがまぁいい。目当ての力を手に入れた。深追いは止め、これで良しとしようか』

 

そう呟いたフェイスは足元に剣を突き立てる。発生した空間の亀裂に落ち、魔王は完全にその場所から姿を消した。

 

 

◇◆◇

 

「────何とか、逃げ切れましたね」

 

フェイスの意識が覚醒する数分前、IS学園の人工島の浜に降り立った少女は、ISを解除して一息つく一夏たち────彼等をあの場から連れ出した自分の仲間に声を掛ける。

 

 

「お疲れ様です、アルキメデス。これで私たちの仕事は終わりです」

 

『────■■■、■■■■■。■■■■』

 

「ええ、帰りましょう。………その前に、一つだけ」

 

 

そう言うと、彼女は一夏たちの方へと歩いていく。ただ一人だけ、彼女のことを知らない龍夜の前で止まったクロエは深く一礼した。

 

 

「はじめまして、蒼青龍夜さま。私の名はクロエ、クロエ・クロニクルです。束様から貴方のお話は聞かせていただいております」

 

「………蒼青、龍夜だ。束さんが俺のことを気にしてくれるのは、個人的に嬉しいが………今は喜べる気分じゃあないな。それで?俺に何の用だ」

 

「────連絡先を確認したいのですが、宜しいでしょうか?」

 

「………………ん?」

 

その言葉に全員が戸惑うことになった。何かを察知したセシリアやラウラが不満を顕にして噛み付こうとしたが、事態をややこしくたくない一夏や箒、鈴にシャルロットが宥めて落ち着いた。

 

目を閉ざした彼女に携帯を弄らせる訳にもいかず、龍夜は彼女の伝えた番号を記録することにした。

 

 

「その番号に掛けていただければ、束様にお繋げすることが出来ます。何か要件があれば、そちらにお願いします」

 

「………意図は分からないが、了解した。俺が感謝していた、と伝えてくれ」

 

「承知しました。束様に伝言はお伝えします、それでは」

 

 

そう言って、少女は隣にいたアルキメデスと共に姿を消す。それを見届けた龍夜は黄昏れるように、空を見上げていた。

 

 

「────」

 

「おい、どうしたんだ?龍夜………っ!?」

 

意を決したように振り返った龍夜に呆気を取られたのも束の間、彼は深く頭を下げていた。プライドの高い彼にとって建前のようなものではない、本心からの行動であった。

 

 

「────すまなかった、皆。俺は、どうしようもなく弱かった。俺一人では、何も出来なかった。何も変えられなかった。それなのに、お前達を拒絶して、受け入れなかった………お前達は、俺を諦めなかったのに」

 

俺だけが、仲間を信じることを諦めていた、と後悔に近しい感情を吐露する。顔を上げた龍夜はグチャグチャに混じった感情の籠もった目を伏せ、ただ頭を下げた。

 

そんな風に立ち尽くしていた龍夜の前に歩み出る一夏。彼は笑みを浮かべ、握った拳を龍夜の胸元に優しく押し当てた。

 

 

「当たり前だろ、龍夜。お前は────大切な仲間なんだ」

 

「…………大切な、仲間」

 

「帰ろうぜ。千冬姉も、時雨理事長も、皆が待ってるんだ。もしもの時は、俺も一緒に謝ってやるからさ。俺達の、IS学園に」

 

「…………あぁ、分かった」

 

 

その場にいる全員、一夏、箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、楯無。少年少女の顔を見た龍夜は強張った表情を破顔させ、穏やかな笑みを零した。

 

一夏が緩めた拳、その手を取って────本心を自覚した少年は言った。

 

 

「────ありがとう、皆」

 

────俺にはまだ、大切な仲間がいたんだ。

 

 

 

第98話 『奇跡の果ての』────大切な仲間




次回で今回の章は終わりになります。

さて、今回の話でフェイスのIS ゼノス・バルハードが初期設定であったことが判明しました。理由としては、ゼノス・バルハード自体がフェイスを認めていなかった。正確にはISコアが拒絶していた為、フェイスも掌握できなかったわけです。

ですが今回の戦いでISコアのプロテクトが一時的に解けた為、フェイスはその瞬間ハッキングしてゼノス・バルハードを完全掌握。完全にISを支配した、ということになります。

能力を使用せず、武器ばかり使用していたのは、初期設定の状態であったからです。
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