【悲報】私ちゃん転生したっぽいけどこの世界ってばディストピア臭がぷんぷんストリーム!   作:鬼百合ぴょんぴょん丸

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第八話 やっぱこの世界ってばディストピア臭がぷんぷんストリーム!!

 

 

 

 ケーキ様による糖分の誓いを果たした我らシトシー義姉妹は、苛烈なシュガー紛争の只中へと飛び込む事となった。

 秘密裏に取り引きされる飴玉達。「おれんじ味といちご味の交換レートは今どないなっとる?」「あなたってみるく味派なの? おこちゃまね」

 一度知れば二度と元には戻れないケーキ欠乏による深刻な禁断症状。「ケェェキィィイイイッ!!」

 

 日々錬成される幼女達の体力と戦闘技能により、戦場は日々激化の一途を辿っていた。

 

 そしてついに、長きに渡り一強であり過ぎた我ら「しーちゃん連隊」は、他部隊からの徹底的なマークによる消耗を余儀なくされていた。

 正面からの短期決戦では分が悪いと見た他部隊の幼女達は、あろうことかゲリラ戦をしかけてきたのだ。

 

 脳筋主戦力である私ちゃんとは真っ向勝負せずに、不意打ち、潜伏、挟撃と森林エリアにおいて悪魔の如き戦法を駆使していた。

 そして恐ろしい事に、このバトルにおいて禁則事項はないのだ。環境を利用した罠なども仕掛けてあり、もうとっくに遊びの範疇を超越している。

 気分は非対称戦に参加する一兵卒。ここは地獄の二丁目。三度の飯よりシュガーこそが尊ばれる。

 

 だが装備、人員共に同じであるなら、こちらもまたそれに対応すればいいだけのこと。

 ゲリラにはゲリラである。泥沼の抗争の始まりであった。 

 

 ちなみに支給された謎ネックレスが超技術による致命傷判定を行っており、ピカピカ光ったらすぐさま死体にならねばならない。

 ゾンビ行為はNGであり、審判ロボのジャッジによっては仲間を対象に死の宣告を下され、冥府へと道連れにされてしまう事になる。なので潔く死ぬが良き。介錯はフヨウラ!

 

 普段の生活であまり実感することはないが、ロボを筆頭に色々謎な技術が随所に光っている。隠す気が一切なさそうな超技術に驚くのは、私のような変な記憶持ちくらいだ。

 他の幼女達は新しい玩具が出たとばかりにキャッキャッしてる。

 

 最近では私ちゃんも何が出てきても驚かなくなってしまった。私の中にある記憶がただの時代遅れな代物というだけかも知れないと、元々の使えなさ加減に拍車が掛かっている。

 

 そんな私ちゃんの脳味噌加減はともかく、最近の幼女ボディは異常とかそういう次元をとうに超えており、生半可な衝撃では傷を負わないようになっていた。

 なんだか物理法則さんが息をしてない気がする。

 

 やっぱりこの世界はおかしいと記憶が悲鳴を上げているが、そんなすぐに解決できない疑問など戦いの前にはただの雑音でしかなかった。

 

 森林エリアでのチームバトル戦。

 私は敵のアンブッシュ幼女の気配を察知、すぐさま先制攻撃を行う。

 

「シッ!」

 

 そこそこ固いゴム弾を私のハンドパワー(物理)で投擲、幼女が出しちゃダメな剛速球はしかし、鼠の如き俊敏さで飛び出た敵幼女に回避されてしまう。

 だがしかし、もとより飛び道具で安易に仕留められるなどとは思っていない。

 小柄で敏捷性が高く、目も勘も良い我が同胞幼女達を仕留めるには、生半可な攻撃は牽制にすらならなかった。

 

 短剣を手にしたアサシンスタイルの幼女が地を這う様な低姿勢で疾走してくる。

 それを迎え討とうする私だったが、更に背後から迫る風切り音を感知。囮、挟撃、新手の接近、そこまで察した瞬間、反射的に私は回避行動を取る。

 

 その場で棒立ちになるのは最悪の一手であり、また安易な逃走はより大きな敗北を招く。

 なので私は背後を無視して正面の敵へと突進する。死中にこそ活あり。チェストでごわす!

 

 とはいえスピードはあちらの方が乗っている。武器も長物の私に対して、向こうは取り回しの良い短剣タイプ。

 まともにぶつかったら私ちゃんのパワーを活かし切ることは出来ず、その間に私は致命傷を受けてしまうだろう。 

 

 私は主武装である腕の長さほどのゴム棒を、下から掬い上げるようにして振り抜いた。

 しかし力の乗り切らなかったそれはステップ一つで軽く回避され、逆に私の足は止まってしまう。

 

 背後からの気配も濃厚になり、短剣幼女の口端が孤を描く。

 狩るか狩られるか、状況は私の圧倒的な不利。相手は勝利を確信した事だろう。

 

 だが私の足はただ止まったわけではない。次の動作の為に留まったのだ。

 しゃがむような低い体勢から全ての勢いと筋力を解放させ、私は直上へと跳んだ。その高さはおおよそ十メートルほど。マンションなら三階程はある高さだ。

 

 脳筋幼女たる私ちゃんの身体能力は同胞の中でも頭一つ抜けている。

 とはいえ同胞達も八メートルくらいは余裕で跳ねられるので、そこまで大した差ではない。

 

 私に釣られて跳ぼうとする短剣幼女を、背後から迫っていたもう一人の挟撃幼女が制止する。

 私が逃げた空は掴まる枝も足場もないただの虚空であり、救いの糸なき袋小路。

 

 意味のない跳躍、罠に嵌った愚かな獲物の最後の悪足掻き。

 そんな考えなしの跳躍をしたアホの狩り方を、敵の幼女達は身体で覚えていた。

 

 着地の際にどうしても生じる僅かな硬直。衝撃を吸収したその刹那に刈り取る為、二人の幼女が武器を構える。

 そしてそれこそが、私の望んだ最大の好機でもあった。

 

「――シト!!」

 

 飛来した二つの矢が襲撃者を襲う。もちろん先端はゴムっぽい何かである。

 

「きゃー!?」「ちょっ!?」

 

 死角になっていた挟撃幼女の方は倒せたものの、僅かに視界に捉えていたのか短剣幼女の方は飛来した矢を切り払い、バク転で距離をとった。アイエエ!? ニンジャ!? ニンジャ幼女ナンデ!?

 

 だがその間に着地していた私はその衝撃を撃鉄にし、第三の矢となって残敵を仕留めに掛かる。イヤーッ!

 

 矢が飛来した方向、向かって来る私、短剣幼女は素早く位置取りを計算すると、覚悟を決めたのか私ちゃんを迎え撃つ体勢に入った。

 そしてタイマンならば、私ちゃんこそが現在最強である!

 

「うらぁあああああっ!!」

 

 速力と筋力と遠心力と衝撃力とついでに幼女パワーが織り成すパワーの原石。それを繊細な技術で武の結晶へと昇華させる。

 時にシスターやロボ達から助言を貰い、得物をぶんぶん振り回してきた私の一撃は、短剣幼女の得物を弾き、その身体をズバッと打ち抜いたのであった。

 

「ぐわぁああっ!!」

 

 ナムアミダブツ! スピードも戦ジツも見事なワザマエだったが、貴様にはまだまだパワーが足りなかった。インガオホー! オタッシャデー!

 そしてこれが相手チーム最後の幼女だったので、今回の戦いは私達「しーちゃん連隊」の勝利である。

 

「やったね! しーちゃん!」

「シトもナーイス! タイミングが最の高だった!」

 

 私を囮にアンブッシュしていたシトが姿を現す。

 そこにかつてあった卑屈さはなく、我が相棒に相応しい自信を備えていた。

 

 私達の連携は日々の戦いで練磨されていた。そんなシトに手には弓が握られている。

 弓はぶっちゃけ不人気な武器だった。理由は簡単で、相手幼女を倒せないからだ。

 よほどの近距離でもなければ見てからの回避、あるいは打ち払い余裕の幼女達にとって、弓は複雑で手間ばかり掛かる割に効果の薄い玩具でしかなかった。

 

 的当て遊びでなら大人気だが、今現在行っているシュガー戦争は遊びではない。

 確実に相手に勝てるガチ装備こそがシュガー廃人達に求められていた。

 

 そんな訳で素早い幼女達に人気なのは短剣二刀流スタイルであり、後は好みの長さの近接武器を各自愛用している。

 私ちゃんは割と節操無しなので色々変えたりしていたのだが、最近ではパワーを生かせる長めの物を仕様していた。

 

 そしてシトもまた色々と試行錯誤していたのだがその結果、彼女に一番合っていたのは弓であると判明したのだ。

 シトは近接戦が苦手だ。できないわけではないし年齢を考えれば十分過ぎると思うのだが、周りの幼女達と比べると明らかに劣ってしまっている。

 

 それは一見短所に思えるが、よくよく観察すると長所でもあった。

 彼女は悩みがちだが、それは裏を返せば考えを深く巡らせる事ができるとも言い換えられる。

 そしてシトは目が良かった。視力もそうだが観察力が優れている。その為他人よりも視覚から取得する情報量が多く、それ故に刹那の判断を苦手としていた。その為刹那の判断を要求される前衛ではなく、場を俯瞰できる後衛としての距離ならば、その才を十全に生かす事ができた。

 

 肉体性能に比べて頭の回転が速いからこそ、空回りしてドジと呼ばれる事になっていたのだろう。

 今では精神的に落ち着く事もできその能力を活かせる環境を整えた事で、彼女は強力な戦力となっていた。

 

「あー、やられちゃったなー。しーちゃん強すぎー」

 

 先程ぶちのめした短剣幼女のノノちゃんが、頭に葉っぱを付けながら復帰してくる。

 ロボによる終了の笛が鳴り、死体だった幼女達が蘇生してきたのだ。正にデウスエクスマキナ。

 そしてノノちゃんの他にも我がチームメイトのララ達もぞろぞろと集結し、それぞれ感想を述べていく。

 

「最後のやつ受け流してからの反撃ーって思ったんだけど、そのまま持ってかれちゃったよー。相変わらずの馬鹿力だよねー」

「最初にしーちゃん落とせなかったのは失敗だったよねー」

「でも前回の時、あっさり落とし穴に引っかかってたのは思わず笑っちゃったよね」

 

 なにわろとんねん(半ギレ)。くっそ巧妙な場所に落とし穴作った奴が悪いってあれは。我ながらシュールストロングな光景過ぎて黒歴史入り不可避。

 その時は私ちゃんを欠いたままでも結構粘っていたのだが、結局チームは敗北してしまった。

 なので今回はリベンジ成功の意味合いもあった。敗北の味は勝利でしか濯げないのだ。

 

 それぞれの反省点を指摘し合ったり、良かった点を考察していく。

 元は私ちゃんが適当に始めた事だったが、なんだか習慣になってしまっていた。今では他のチームも真似している。こういうとこが普通じゃないのだけど、今更過ぎてもう麻痺している。

 

 そしてキル数こそ控え目なものの、生存率とサポート率の高いシトの最近の活躍は特に目を見張るものがあった。 

 

「これからも背中はお願いね、シト」

「うんっ、任せてしーちゃん!」

 

 高まる相棒感に、私ちゃんのテンションも上がる。

 

 すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を。

 風……なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、私達のほうに。

 

 シトも頑張ってるし、私ちゃんも頑張らないと。

 

 最近のここはゲリラ養成所みたいな感じがしないでもないけど、何だかんだ言って平和だし、とりあえず問題なさそうなのでヨシッ!

 

 

 

 

 

 

 そう思ってた時期が、私にもありました……。

 

 それは私ちゃん達が五歳になった年始めのケーキパーティーが終わる時の事。

 閉会の挨拶と共に、シスターマリーから重大なお知らせが告げられた。

 

「これからみんなにセヘル適合を飛躍的に高めてくれるデバイスをプレゼントしますねー。ゲンニのみんなはこれから下級ガラドの間引きが主なお仕事になりまーす」

 

 相変わらずのニコニコ笑顔で、くっそ不穏かつ意味不明な寝言を聞かされた。

 

 待って待って待って。お願いだからちょい待ち。タイムです。

 本当に寝言なら良かったのだけど、突如飛び交う専門用語。いや私ちゃんも意味はわかるよ? 勉強の時間に教えてくれたやつでしょ?

 

 セヘルってのはあれでしょ? 魔力的なあれっぽいセヘルって謎元素。正直神話的なアガペー的なあれそれだと思ってたんだけど実在してたのん? 時に猛毒だったり奇跡の粒子だったりで中々イミフな超元素だったからスルーしてたんだけど。わけがわからないよ。

 

 で、それへの適合を高めるデバイス? 魔法少女のステッキ的なあれってこと? この時点で字面がもうやばやばのやば。

 そしてゲンニって御伽噺に出て来る妖精さん的な存在じゃなかった? つまり私ら幼女達は妖精だった……ってコト!?

 

「ゲンニとは私達セヘナ適合を遺伝的に高めた人類種の一つですねー。セヘナ人種とも言いますが純人の方々はもう殆ど残っていないので、現在の主力人種でもありますよー」

 

 質問した私ちゃんに、シスターがにっこにっこで教えてくれるが逆に怖い。

 これアレかな? 「今まで教えてきたでしょ? 馬鹿なの死ぬの?」って意味の笑顔? こっわ。

 

 なんなのこのシスター。やっぱりポンコツ黒幕サイコ女神(錯乱)だったの?

 シスターマリーは私ちゃんのママになってくれたかも知れない飴ちゃんくれる女神だと信じてたのに! そりゃあ最初からめちゃくちゃ怪しかったけどさぁっ!!

 

 薄々感じてたけど! やっぱこの世界ってばディストピア臭がぷんぷんストリーム!!

 

 

 

 

 

 


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