彼女が赤に染まるまで   作:龍崎操真

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ではこの後二人は幸せに暮らしました? んな訳ねぇだろ!な後編の始まりです。
どうぞ。


後編

 

 

 傷心と慰めの夜から明け、行くあてがないというラミカを住まわせる形で二人の共同生活が始まった。

 朝日に弱いというラミカは働きに出ているアリスのために掃除洗濯などの家事を行い、彼女を出迎える。

 そして、夕飯時になると帰宅したアリスは食事を摂り、ラミカはアイスココアを飲む。そうこうしている内に夜になるとラミカが求めるまま、一緒にベッドへと入り血を吸わせつつまぐわいながら一日を終えるのがお決まりの流れとなった。

 時折、ラミカがどこかへふらりと消える時もあったが、それでも必ず帰ってきてアリスのために尽くしてくれた。アリスもそれに応えるべく食事に気を使うようになったし、より一層仕事に励むようになった。

 悪くなっていく顔色を同僚や友達に心配される時もあったが、それでもラミカがいる生活はアリスにとって幸せ以外の何物でもなかった。

 

 ずっとこんな日々が続けば良いな……。

 

 幸せがずっと続く事を願うのは心を持つ者にとって自然な流れと言えよう。それが例え、人の摂理から外れたものだとしても幸福が続く事を求めるのはそれ自体は悪くない事だ。

 だが、運命はアリスの願いを許さなかった。

 

「えっ、ここを出ていく?」

 

 いつものようにベッドを共にした後のピロートークをしている最中の事だった。突如、ラミカは別れを告げた。いきなりの事にアリスはただ、聞き返すことでしか反応できなかった。

 

「ええ。今までお世話になったわ。ありがとう」

「ち、ちょっと待ってよラミィ! どうしていきなり!?」

 

 服を着て立ち去ろうとするラミカを追いかけてアリスが肩を掴んで引き止める。そのままアリスはラミカを向き直らせ、理由を問いただした。

 

「もしかしてわたし、なにかラミィを怒らせる事をしたの? だとしたら直すから言ってよ」

「いいえ」

「じゃあ、わたしの血が吸えなくなったの?」

「それも違うわ」

「ならなんで……!」

 

 もう心当たりが思いつかないアリスは目に涙を浮かべてラミカを問い詰めた。するとラミカは非常に深刻な面持ちでその理由を語り始めた。

 

「時々、私がいなくなる時あるでしょう? あれ、実は仲間の吸血鬼の集まりに参加して情報交換をするためにいなくなっていたの。で、今日もその集まりに出ていたのだけど……」

 

 そこまで話した所でラミカは口ごもってしまった。逡巡するように口元に手を当てるその表情は、この先を話して良いのか迷っているようだ、とアリスは感じた。

 やがて決心したラミカは忌々しいという心境を表情に滲ませながら続きを話し始める。

 

「仲間の一人が狩人を見つけたという情報を教えてくれたのよ」

「狩人?」

 

 聞き慣れない単語に首を傾げながらアリスが繰り返すとラミカは頷いた。

 

「ええ。私は首に賞金が懸けられた追われる身なのよ。こうしてる間にも私の足取りを辿って追いかけてくる奴がいるの」

「そんな……!? どうして……」

「この世界には吸血鬼(わたし)のようなのもいれば、それを狩る者もいるのよ」

 

 アリスの言葉に答えるラミカの表情は寂しげだ。

 なんとかできないだろうかとアリスはラミカに呼びかける。

 

「ねぇ、ラミィ。わたしに出来ることはないの? このまま何もできずに別れるなんて嫌だよ」

「そうね……あるにはあるけど……」

「ほんとに!? わたし、何でもするよ!」

「本当に?」

「うん!」

 

 自信満々に頷いて見せるアリス。ならばとラミカは自分の人指し指を噛み、流れる血を差し出した。

 

「私の血を飲んで」

「へ?」

「私の血を飲んでアリスも吸血鬼になるの」

 

 いきなり突きつけられた要求にアリスは思わず目を丸くした。無論、それは想定していたのでラミカは聞かれる前にその真意を口にする。

 

「仲間が教えてくれた情報によると、この街に来ている狩人は腕利きなの。私一人が逃げるだけだったらどうにかできるけど、ただの人間であるあなたを抱えながらでは厳しいわ」

 

 言外に足でまといだとアリスに言い渡すラミカは心苦しいといった表情だった。それだけで悩んで出した結論だというのが伺える。

 

「さぁ、どうするの? 私の血を飲んで人間である事を捨て私と一緒に逃げるか、それともこのまま私とお別れして普通の生活に戻るか。今、この場で選んでちょうだい」

 

 床を汚す血がアリスへ選択を迫る。このままだとラミカは自分の元を去ってしまう。が、一緒にいるためには今までの生活を捨てなければならない。

 悩むなと言う方が無理な話だろう。

 どうするべきか決めあぐねているアリス。その様子を眺めるラミカの心は申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。

 

「こんな事になってごめんなさい。いつかこうなるって分かっていたはずなのに......」

 

 やはり決められる訳ないかと手を引っ込めたラミカはアリスに背を向け、独りで出ていこうと決心した。

 だが、アリスは「待って!」と再びラミカを呼び止めた。

 

「わたし、なるよ。吸血鬼に」

「え.......?」

 

 てっきり、また一人にする事を批難されると思っていたラミカは、アリスの意外な答えに呆けた声を出した。

 

「言葉の意味が分かって言っているの? あなた、人間を辞めなくちゃいけないのよ?」

「うん。良いよ。ラミィのためなら」

「そんな.......!? どうして......」

 

 迷いなく化け物になると言ってのけるアリスにラミカは困惑した。するとアリスは引っ込めたラミカの手を握り、まっすぐに目を見つめて訴えた。

 

「だってラミィ、寂しそうな表情(カオ)しているんだもん」

「なっ.......!? それだけで!?」

「うん。初めて会った夜、一人で泣いてたわたしの前にラミィが現れた時にきっとこうなる事が決まっていたんだよ。それに、もう後戻りできないって言ったでしょ?」

 

 アリスはゆっくりと手を口に近付けつつ、ラミカに微笑みを向けた。その表情は、もうあなたさえいればそれで良いと言うような穏やかな微笑みだった。

 

「私がずっとそばにいるから」

 

 血が流れ出る人差し指をアリスは舌で舐めた。そのまま口に含むと深く咥え込む。いつも自分がされるようにアリスはラミカの血を吸い、時にはアイスキャンディーを舐めるように指先を(ねぶ)っていく。

 くすぐったさに身を捩りながらも、ラミカはアリスが自分の要求を受け入れてくれた喜びを噛み締めていた。

 今までラミカと関係を持った女は全員、死んでいる。

 理由は至って単純。求めていたのはラミカという快楽だけで、人間である事を辞めてまで一緒に来てくれる者なんて誰一人としていなかったのだ。

 その度に怒りのまま相手を吸うことで葬り、独りで生きていこうとしたが吸血鬼の本能と孤独ゆえの寂しさがラミカを次の女へと駆り立てたのだ。

 でもそんな時間は今日で終わりだ。自分の血を飲んで人間を辞めてくれた愛しい人を前に、ラミカは歓迎した。

 

「これであなたも吸血鬼。私のいる世界へ足を踏み入れたのよ」

「うん。そうだね」

 

 お互いに見つめ合う二人の吸血姫。

 月明かりに照らされた部屋で二人は永遠の愛を誓うように口付けを交わした。

 

 

 

 次の夜、ラミカはキングス・クロス駅の駅舎の前で一人佇んでいた。

 理由はもちろんアリスを待っているためだ。ここを離れる前にやる事があるとアリスが言うのでここで待ち合わせをしようと約束し、現在に至る。

 ぼーっと夜空を見上げたまま待ちぼうけしているとアリスが約束通りに現れる。

 ハグでアリスを迎えるラミカだったがふと鼻をすんと鳴らした。

 

「あら? この匂い......」

「あ、分かる?」

 

 バツが悪そうにアリスは笑ってラミカの考えている事を正解だと答える。するとラミカは仕方ないと言った表情で微笑みを返した。

 

「アリスの事を捨てた奴の血を吸い尽くしてきたのね」

「うん。わたしの事をコケにした報いを受けさせて来た」

「そう。で、感想はどうだったのかしら?」

「男の血ってまっずいね。とても飲めた物じゃなかった。でも......」

「でも?」

 

 まだ続きがあるような口振りにラミカは期待の眼差しでアリスを見つめた。数秒黙りこくった後、やがて晴れ晴れとした表情でアリスはその続きを口にした。

 

「スッキリした。これでもう思い残す事はないよ」

「良かったわ。それじゃあ行きましょうか」

「うん」

 

 差し出された手を握り、アリスはラミカに引かれるまま闇の中へと歩き出す。離れないように指を絡めてしっかりと手を固く繋いでいた。

 

「ねぇラミィ。わたし達、ずっと一緒だよね?」

「ええ。死がふたりを分かつまで.......なんてね」

「なにそれ。わたし達、死ねないでしょ」

「ふふ、そうね」

 

 笑い合いながら一緒に歩く二人の影が夜の闇へと溶け込んでいく。

 その夜、再び一人の女性が姿を消し、一週間後に死体で発見された。カラカラに干からびたその遺体の首筋には左右両方に小さな穴が開いていた……。




二作とも真っ当な幸せとは言えないエンドになってしまいましたね……。
幸せエンドを期待した皆様ごめんよ……。
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