師匠の額に縫い目がついてる   作:死滅回遊エンジョイ勢


原作:呪術廻戦
タグ:R-15 オリ主 残酷な描写 羂索 呪霊操術
呪霊操術を持っている系主人公が、額に縫い目ある系師匠に捕まって師弟関係を築く話。多分将来的に主人公の頭にも縫い目ができるでしょう

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随分昔に書いたまま放置していたやつを発見したので供養します。
羂索師匠系の話とか意外とないものですね。誰か書いて♡


師匠の額に縫い目がついてる

 弟切奏多にとって、呪霊とはそこにいる生物でしかなかった。

 

 この世界に生まれ落ちてからそれらはずっと視界の端に写り続けていた。これで少しでも見栄えがよければまだマシなのだが、呪霊という奴らはどいつもこいつも芸術センスが100万光年先にぶっ飛んだ芸術家がビール瓶片手に捏ね上げた様なビジュアルをしているのだ。端的に言って汚いポケモン。またはテクスチャがバグったデジモン。多分ウイルス種。普通にキモい。

 

 しかもその上、呪霊どもはこっちが見えている事に気がつくと喧嘩を売ってくる。気が付かなくても襲ってくる。なんだお前たちは? 新手のポケモントレーナーか? 

 と、そんな百害あって一利無しな存在でしかないそいつらの事を奏多はそれはもう蛇蝎の如く嫌っていた────という訳でもない。

 

 好きか嫌いかで言えば嫌いなのだが、大半の奴らは特に何かしてくる訳でもないので特に気にしていなかった。ただ、明らかにしっかりとした形を持っているものは積極的にこちらを害してくるので嫌いであったが。

 

 そんな奏多にも幼馴染がいる。幸いな事にとでも言うべきか、その幼馴染である彼女も『見える』タイプの人であった。もっとも彼女は見えるだけで、術式こそあるが非術師の脳であるが故に特殊な力を扱う事は出来ないのだが、それは今は関係ない事だ。

 

 

 

 

 

 

 そして、今、奏多が生きるか死ぬかの苦境に立たされている原因でもある。

 

 

 

 

 

 

 ハァ、と息を吐いて思考を整える。

 

 前には馬と人を合体させた様な姿をした化物。顔が馬で身体が半裸の人という逆ケンタウロスとでも言うべき呪霊だ。多分新種のウマ娘だろう。とんでもねぇイメ損だ。

 そして後ろには足を挫いて動けない幼馴染。戦う力もない癖に、このウマ娘呪霊に襲われていた子供を助けようと路地裏に飛び込んで足を挫いたお人好しの大間抜けだ。ちなみに子供は幼馴染を見捨てて逃げた。

 

 この状況になるまでを簡潔に説明しよう。

 

 奏多と幼馴染、2人でフラフラ遊んでいるとウマ娘呪霊に襲われている子供を発見。

 

 奏多「これもまた自然の定め。ほっておこう」

 

 幼馴染「馬鹿野郎、私は特に戦う力持ってないけど助けるぞおい!」

 

 幼馴染、ウマ娘呪霊に突撃&子供救出。

 

 子供「どけ、俺は被害者だぞ!」

 

 幼馴染、子供に突き飛ばされて足捻挫する。か弱い生き物すぎる。

 

 咄嗟に、3時のおやつにされそうな幼馴染の前に出て庇ってしまう。

 ↑

 今ココ! 

 

 帰りたい、と切実に奏多は願う。もうこのウマ男呪霊も幼馴染も放っておいて家帰っておやつ食べて寝たい。

 そもそも、こんな状況どうすればいいのだ。幼馴染を抱えてこのウマ娘呪霊から逃走なんてできっこないし、戦おうにも奏多は生まれてからこの8年間、喧嘩なんてしたことがない。大人はウマ男呪霊を見る事が出来ないので頼れない。

 もう、先程逃走した子供の様に幼馴染を生贄に捧げて自分1人逃げ出す以外に生き延びる道が見つからないじゃないか。結局、自分の命が1番大切なんだってそれよく言われてるから。もうゴールしちゃっていいですか? 

 

 だが、それは出来ない。ここで彼女を見捨てて置いていく選択肢など取れるはずがない。

 

 弟切奏多は善人として区分される人間ではない。危なくなったら自分の命を優先するし、割とロクデナシの思考回路を持っていたりする。無理矢理区分するなら悪よりの中庸といったところだ。

 

 けれども、ここで幼馴染を見捨てて逃げておいて安眠できるほど悪人にもなり切れないのだ。

 

 そんな中途半端な彼は、取り敢えずウマ男に対抗する為に拳を握って仮面ライダーや戦隊モノでよく見る様なファイティングポーズを取る。

 

『め"る"め"る"め"る"う"う"う"ぅ"ぅ"ぅ"ぁぁぁああ!!!』

 

 ウマ男呪霊が雄叫びを上げて突っ込んでくる。幸いな事に奏多と呪霊の距離が近いが故に大したスピードはない。だが、顔がキモい。ウマ面で涎を撒き散らしながら歯茎むき出しで飛び掛かってくるのだ。しかも口臭が臭い。最悪のアンハッピーセットである。

 

 あまりのキモさに顔を背けたくなる衝動を押し殺し、本能的に身体から湧き上がる力を両手に集める。そして、呪霊を見つめたまま青い光を放つ拳を呪霊の顔面に突き刺さる様に思いっきり突き出した。

 

 ────インパクトの瞬間、彼の拳から黒い火花が飛び散った。

 

 黒い女神は微笑む相手を選ばない。たとえそれが、呪術のじゅの字も知らない様な子供であってもだ。

 

『黒閃』

 呪術師たちの間でその様に呼ばれているこの現象は、打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪み。威力は通常の平均で通常の2.5乗であり、“黒閃”を狙って出せる術師は存在しない。

 だがしかし、“黒閃”を経験した者とそうでない者とでは呪力の核心との距離に天と地程の差があると言われている。

 

 つまり、奏多のパンチの威力が1でない限り凄まじい火力を生み出すという事だ。

 

 所詮子供、と侮っていた相手に受けたまさかの超火力にウマ男呪霊は驚愕する間もなく祓われてしまった。精々3級程度の実力しかなかったのも瞬殺の要因の一つだろう。

 初手黒閃をぶち込んだ当の奏多本人には何が起こったのかさっぱり理解できていないのだが。

 

 そして後に残ったのは奏多の手に残る黒い球体のみ。

 

 奏多は知っている。今、自分の手の中にあるこれが一体どういう物なのか。そしてこれからどうするべきかも。

 

 術式の覚醒は大体4から6歳に起こるものだ。しかし、奏多の術式は特別で呪霊を取り込まなければ効力を発揮しない。幸か不幸か、今この時になるまで奏多は呪霊と関わってこなかった。故に奏多は自身の身に刻まれた術式を理解していないのだ。

 

 ──呪霊操術──

 

 無数にある術式の中でも特に格の高い術式の一つ。調伏した呪霊を取り込むことでその呪霊を操る事のできる術式だ。ある程度術師としてのレベルが上がれば、低級呪霊なら弱らせる必要もなく即調伏できる様にもなる。さらに付け加えるなら、他人が弱らせた呪霊を横取り調伏してもなんの問題もない。

 

 呪霊を取り込み、そいつを使ってさらに等級の高い呪霊を取り込む。それの繰り返し。この様にして、呪霊がこの世に存在する限り際限なく手札を増やす事のできる術式、それが呪霊操術だ。

 無限の拡張性を持つ術式と言い換えても構わないだろう。

 

 要するに当たりオブ当たり術式であり、生得術式ガチャSSRなのだ。まぁ、当然それ相応のデメリットもある訳だが。

 

 奏多はチラリと呪霊玉を一瞥すると、それをポケットの中に突っ込んだ。まだこれを取り込むつもりはない。それより先に幼馴染を連れて帰ることが急務であるからだ。決してこの明らかに不衛生極まりない呪霊玉を呑み込むこと逃げたわけではない。

 

「ほら、帰ろう。立てる?」

 

「ごめん、無理っぽい」

 

 奏多の問い掛けに幼馴染はふるふると首を振って否定する。仕方ない、と嘆息し彼はえいやっ! と一声あげて彼女を背負って帰路についた。普通なら重くて仕方ないが、呪力操作を身につけた彼にとってはその程度なんの問題もない。ましてや黒閃を決めた今、呪力の核心を掴み普段より確実に上手く扱えているほどだ。

 

「こうなる事は目に見えてたんだからさ。もう辞めなよ、人を助けにいくの」

 

 えっちらおっちら道を歩く中、奏多は彼女に言葉を投げ掛ける。次は助けられないかも知れないぞ、と言外に滲ませるも果たして伝わっているのだろうか。

 

「うん、そうだね。でもやっぱり襲われている人を見かけたら助けにいっちゃうよ。人が死ぬのは悲しい事だもん」

 

「それで君が死んだら意味ないでしょ。命の順列ってのはさ、自分の命が1番なんだよ。次に家族。余裕があったら他人。自分の命を投げ出して他人を助けるなんて馬鹿馬鹿しいよ。君が死んだら悲しむ人が大勢いるんだぜ?」

 

「それでもそれは目の前の人を見捨てる理由にならないよ。その人が死んだら悲しむ人がいるんだから」

 

「十分理由になるし。お前、僕がいなきゃ絶対早死にするよ。……ほい、着いた」

 

 幼馴染の家に到着して扉を開ける。そして背中にひっつき虫の如く取り付く彼女をひょいっと玄関先に下ろした。ここから先は知らない。病院には彼女個人で行ってもらいたい。

 

「じゃーね、もう無茶しないでよ」

 

「うん! 助けてくれてありがとう!」

 

 バイバイと手を振る彼女を背に家へと向かう。そんな中、ポケットに呪霊玉を入れっぱなしにしていた事を思い出した。

 

 どうしようこれ、と本気で悩む。この呪霊玉はそこら辺に捨てても大丈夫だろうか。奏多の術式は「呑め」と告げているが、明らかに色合いとか見た目とかが口に入れていいものじゃない。しかもこれはつい先ほどまでウマ男だった物なのだ。衛生面的にも良くないに決まってる。せめて火を通してからじゃないと安心できない。

 

 だが、いつまでもこんなものを持っている訳にはいかない。仕方ないと覚悟を決め呪霊玉を口に運ぶ。そして、勢いに任せてその呪いの塊を一息に呑み込んだ。

 

 ──瞬間、奏多の脳内に冒涜的な味わいが迸る。

 

「まっっっっず!!!」

 

 吐いた。

 流石に8歳の子供には刺激が強すぎる味だったらしい。呪いの塊である呪霊からできたものなんだからさもありなん。ゲロを拭き取った雑巾の様な味と評されるそれは、奏多に言わせるならば公衆トイレの便座の様な味だ。味の感じ方にも個人差があるのだろうが、どちらも酷い味ということには変わりない。

 

「うえっ、うえっ」

 

 まだ奏多はえづいている。先ほど飲み込んだ呪霊玉を吐き出そうとしているが、既に呪霊操術に取り込まれてしまっている。飲み込んだ玉は別に胃に溜まる訳ではない為、吐き出してももう取り出す事は出来ない。

 

「うええぇ……。気持ち悪……」

 

 吐き気と戦いながら奏多自身も感じていることだが、奏多の身体は既に以前の物とは違っていた。黒閃を決めたことによって呪力の核心を得た彼はよくわからない力だと持て余していた以前とは異なり、かなりの高精度で自身の内側から湧き上がる力を制御できる様になっていた。

 加えて、今の彼は呪霊操術の使い方もまた理解しようとしている。

 

 身体の内側から先程取り込んだウマ男呪霊を召喚する。何故か唇を突き出してキスを求める様なポーズで出てきた。キモい。

 野生の頃とは打って変わって大人しいそれに違和感を覚えるも、出して入れてを繰り返す事で呪霊操術の使い方を感覚で掴んでいく。

 

「これは……超能力か……」

 

 エスパー少年奏多の誕生である。タイプ的にゴーストじゃね? というツッコミはなしだ。

 

 何回か実験する事で奏多は大まかに自身に刻まれた術式を理解した。

 要するに、お化けを倒してボールにして食う。そのあと食ったお化けを下僕にできる。それだけの事なのだ。

 

 奏多は少し興奮していた。先程のウマ男呪霊との戦闘も要因の一つだが、こんなファンタジーな超能力が発現したのだ。このくらいのお年頃の子はとにかく使ってみたくなる。

 

 そこら辺にいる雑魚呪霊をウマ男呪霊を使って祓う。そして呪霊玉にして呑み込む。また雑魚呪霊を見つけて呑み込む。それを家に帰るまで寄り道しながら続けていた。

 

 控えめに言って調子に乗っていたのだ。まぁ、だれだってアニメや漫画に出てくる様な特殊な力に目覚めたらテンションが上がる。老若男女問わず誰にだってある様なそれだけの事。

 

 

 

 

 

 

 だからこそ目をつけられた。

 

 

 

 

 

「やぁ、はじめまして。君は面白い術式を持っているね。私に見せてくれないかい?」

 

 帰り道、呪霊玉の不味さを我慢しつつ呪霊を取り込みながら帰っていた奏多に声を掛けた不審者は、銀髪目隠しの最強GLGではなく、好みの女を聞いてくる特級術師でもなく、

 

 

 

 

 

 

 額に縫い目のある男だった。




原作より昔の話を想定していたのでまだ五条や夏油は高専入りしてないです

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