この旅館…開発し、道は開けているとは言え…一応山の奥の方にある…こうして貸し切りにして、仮に一人一部屋で割り当てても相当数の空き部屋が出るくらいには建物自体が大きい…その割に格安なのは立地条件の問題なのだろう…と、思っていたのだが…
「…こうなって来るとそれすらも誘いに思えて来てしまうな…最も、ヘレンは一応宿泊料金の安い所を基準に無作為に選んだ筈なのだが…それとも、あの時点で何らかの精神操作でも受けていたのか…?」
ヘレンも馬鹿じゃない、可能性は低い……とは、正直言い難い。ヘレンが馬鹿じゃなかったとしても妖力による身体強化以外の特別な能力の無い、私たちクレイモアはそういう術との相性ははっきり言って宜しくない…少なくともかけられてしまえばそう簡単に解くのは難しい…
「チッ…面倒臭い…ゴチャゴチャ考えるのは私の趣味じゃないな。」
原作に関わると決めてから…少しでも上手く立ち回ろうと原作知識を駆使し、そうする事によって逆に起こる不測の事態に備えて色々考えを巡らせた事もあったが…その原作知識も当に失われた今、はっきりしている事は何が起きたとしても結局素の私のまま相対するしか無い、という事だ…ま、そもそもこの一件が原作と関係ある話なのかも分からんがな…
「ヘレンがそういう状態なら元々懸念するだけ無駄だ、明日色々釘は指すだろうが、仮に問題が起きたとしても全て叩き潰せばいい。」
何せヘレンを抜きにしたとしても戦力過多なぐらい戦える面子が揃っているのだ…一人は本気を出せば私より強いしな…それにしても…
「やはり私は脳筋なんだな…」
テレーズも脳筋な様で実際はアレで頭の回転は早い方だ。そもそも私が持っていた知識を読み取り、戸惑い無くすぐ自分の物にする辺りあいつは異常だ…本人は否定していた様だが…やはりあいつは一種の天才なのだろう。
「さて…方針も決まったな…」
携帯を取り出す…ふむ…時間も遅めだが、緊急事態だしな…
「…もしもし…オフィーリアか?」
この場に戦える面子を呼び出して、今後の方針を伝えておくとしよう…
「うわ…何その面倒臭い話…」
話を聞いたオフィーリアが、心底嫌そうな顔をする…
「そう言われてもな、事実なんだから仕方無いだろうが…大体、お前は何で来たんだ?テレーズの世話をしていれば巻き込まれずに済んだだろう?」
「…ふぅ。本人体調悪いせいもあって…逆にあんまり干渉されるの嫌がるのよ…だからあいつらが旅行行くなら一緒に行って来いって…言われちゃってね。」
「…ま、来たからには手伝って貰うぞ…何、今日これから問題が起こる事は無いだろうし、滞在日数も短いんだから結局何も起こらない可能性の方が高い筈だ。」
「フラグに聞こえるわよ?」
……そう言葉を零す黒歌はスルーさせて貰う事にする。
「しかし…本当にヘレンを呼ばなくて良いのか…?」
「…デネブ、ヘレンが本当に操られてるかは別にしてだ…警戒しろ、と言ったら…あいつの場合どうなる?」
「……」
黙ってしまったデネブの代わりにミリアが答えた。
「ヘレンの場合、恐らくどうしても顔に出てしまうな…」
「ああ。良くも悪くも素直だからな、あいつは…」
戦闘時はデネブと協力して搦手も使って来るのに、どうしてあいつはああも隠し事が苦手なのか…
「…で、結局の所…最優先護衛対象はクレアとアーシア・アルジェント…それに、塔城小猫で良いのか?」
微妙に脱線しそうになった話をデネブが軌道修正して来る…ああ…話が早くて助かる…
「そうなるな、小猫はある程度の実力は有るが、まだ未熟だしな…残り二人は人間だ…戦闘能力についても論議するまでも無い。」
とは言え、この話には一つ問題がある…
「…私たちにとっては身内だが、お前らにはそもそも無関係な話だし、身分も堕天使預かりだからな…コレは私からの個人的な依頼、と言う事にさせて貰おう。」
縁こそ出来たが、こういう問題はなあなあで済ませる訳には行かない。こういうのを後で放置すると後々もっと大きな問題になったりするのだ…きっちりしておく方が良い。
「それは…つまりお前が報酬を出す、と言う事か。」
「そういう事だデネブ。ヘレンにも帰ってから私から事情は説明するし、報酬も渡そう…異論は有るか?」
「「……」」
沈黙…つまり反論は無し…いや、額は応相談にはなるが報酬は出すんだからこの場で文句を言われても困るんだがな…
「ちょっと待って。」
そう考えていたら身内から反論が出た。
「何だ黒歌?何か意見が有るのか?」
「文句が有るに決まってるでしょ?何であんたが報酬を出すのよ?」
「依頼するのは私だからな。」
「私だって三人の家族よ、そもそも…白音は本来私の妹なんだけど?」
「…分かったよ、なら半々で「私も出すよ☆」…ハァ…なら、セラフォルー…お前も含めて三等「私も出しますわ」お前は駄目だ朱乃…大体お前まだ学生だろう?個人収入は有るんだろうが、お前からは取れない。」
「言っとくけど私は出さないわよ?その代わり、手は貸してあげる。」
「ああ、それで十分だ…そもそもこれから先何かと色々入り用になるお前からは取れないさ…」
さて、話は纏まったな…
「…それじゃあ解散と行くか…全員バラバラに帰る事になるが、行きで見つからなかったからと言って…帰りに気を抜いて見つかる様なヘマはするなよ?」