その後は私の見る限りでは特に何事も起こらず夜は明けた。寝たフリをして警戒を続けたものの、何者かが部屋に忍んで来る事も無ければ、部屋がいきなり吹っ飛ぶなどと言う考えうる限りの最悪のパターンももちろん起きていない…寧ろ、元気ではあっても普段大人しく、手のかからないクレアが興奮して中々寝ない事の方が問題だったくらいだ…
……遊園地は元より、屋内遊戯施設などに連れて行ってもはしゃぎ過ぎると周囲の人間に迷惑がかかる、と無意識にブレーキがかかってしまうのだろうクレアが、だ。実質、家族である私たちしかいなかったからだろうな…問題とは言ったが、寧ろ同部屋に割り当たった私や黒歌…小猫は微笑ましく見守ってたくらいだ…最も深夜を過ぎる頃にはさっさと寝る様に促したがな…
……で、翌朝…
「観光を、と思ったけど…この辺何にも無いわね…」
「何せモロに山の中だからな…下まで降りれば色々ある様だが…お前も行くか?」
よっぽど楽しみだったのか…普段より遅く寝た筈のクレアは既に起きて嬉々として出かける用意をしている…まだ朝食も来てないんだがな…
「…白音もまだ寝てるし、留守番してるにゃ。あんた達もあんまり遠くまで行かないで散歩程度にしておいた方が良いと思うにゃ。」
「…朝食もまだだしその方が良いか…それなら二人で少し出かけて来る。」
一般的に旅館の朝食は午前八時くらいの所が多いと聞くが、ここもその様だ…まだ一時間近くある…下に降りて観光するにはちと時間が足りないが、山の中を少し歩く程度なら十分過ぎる程だ…良い感じに腹も空いて来るだろうしな。
「おや?お出かけでございますか?」
旅館の仲居らしき女と廊下で遭遇し、思わず動揺してしまった…成程。改めて見てみれば気配自体明らかに人のそれでは無いし、それどころか私の知っている人外のどの種族とも纏っている雰囲気が違う…
「…ええ、ちょっとこの子と散歩に…朝食までには戻りますから…」
「分かりました。…この山は似た様な木があったり目印になる様な物も少ないので、指定されたルートから絶対に外れないように気を付けてくださいね?」
「ええ、それでは…」
「行ってきます!」
二人でその女とすれ違う瞬間…
「……夜はあまり出歩かない方が良いですよ…?この山…遭難する方も多いので…」
「っ!?」
そう耳元で声がし、思わず振り向くと…女はこちらに背を向け、向こうに歩いて行く所だった…
「テレサ?どうしたの?」
「……いや…何でもない。行こうか、クレア?」
「うん!」
……この旅館の連中…私の思った以上に厄介な奴らかも知れんな…