普段家の中でも見ないはしゃぎっぷりを見せるクレアに気後れしつつ…歩調を少し早めながら山の中を歩く…
…最も、風情や情緒なんて物には普段は無縁と言える私でも時折聞こえる虫の声や鳥の囀り、小川のせせらぎ…視界に入るのもほぼ緑一色なんて状況に置かれればこうして感じ入る所はある…自然と口角は上がり、足取りも軽やか…仕舞いには鼻歌なんて物が出て来る始末だ…
気を多少抜いていたのは否定しない。とは言え…
「それ、何の歌?」そうクレアに聞かれて「…さぁな、何処で聞いたのかも思い出せんよ…」と…生返事に近いが返答もしたし、完全に緩んではいないつもりだった…
「…随分機嫌が良いわね。」
だから…横からそういきなり声をかけられて、私は反射的に後ろに飛んでしまった…
「いや…何でそんなに驚くのよ…」
「……何だお前か…突然声をかけるな…」
一瞬血の気が引いたが…視界に入って来た奴を認識して、私は一気に力が抜け、その場で座り込みそうになる…
「…ちょっと…!本当に何でそんな事になるのよ…」
件の人物、オフィーリアに腕を掴まれて何とか踏み止まる事が出来た…
「…お前が気配を消して声をかけるからだろう…」
「はぁ?気配なんて消してないわよ。さっきクレアにも声をかけたわよ?あんたが上の空だっただけでしょうが。」
「……本当か?」
「こんな下らない事で嘘ついてどうするのよ…てかそんなのは良いからちゃんと立ってくれる?重いのよ。」
「……悪かったな…」
近くの木に手を着き、曲げていた膝を伸ばし、何とか立ち上がった……膝が完全に笑っている…そもそも声で誰かはすぐ分かる筈なのに何でこんなに怯えたんだか…
「…お前はこんな所で何をしてたんだ?」
「何ってあんたたちと同じよ、散歩。」
「そうなのか?」
「何?私が山歩きしてたら可笑しい?」
「…別に可笑しくは…無いな…」
「…その言い方だと可笑しいと思ってるわよね?…ま、良いわ。ところで…」
「何だ…?」
「…いくら何でも気抜きすぎじゃない?昨夜警戒しろって言ったのはあんたでしょうが。」
「…お前はどうなんだ?一人で散歩なんてして「その言葉、そっくりそのまま返すわよ?」……」
「それに…あんたと違って私は一人…仮に何か起きても自己責任だし、実際…大抵の事は自分でどうにかして見せるわ。そもそもあんたはクレアを連れていたんだから一番気を抜いてたら駄目な筈でしょ?」
「……返す言葉も無いな…」
「ハァ…ねぇ、そもそもあんた…クレアとはぐれてたのも気付いてないでしょう?」
「何!?クレアは…クレアは何処にいるんだ!?」
「一旦落ち着きなさいよ、クレアなら向こうで待ってるわ…私はね、クレアにあんたがいないって聞いたから…こうして探しに来たわけ。」
「そう、だったのか…」
「ほら、さっさと行くわよ…全く、世話が焼けるわね。」
「…何で手を繋ごうとする…子供か、私は…」
「少なくともねぇ…同行した人間、それも子供とはぐれた事にも一切気付かず…仕方無く迎えに来てみたら肝心の本人は呑気に鼻歌歌いながら歩いてたなんて…幼稚園児以下のレベルじゃないかしら?」
「……」
確かに…改めて考えたら相当にヤバいな…
「だからこうして迷子のテレサちゃんのおててを繋いであげてるわけ。…それで?何か言いたい事は?」
「分かった…分かったよ…それならもうこれで良いから早く連れて行ってくれ…クレアを待たせてるんだろう?」
「そうそうそれで良いのよ、素直で助かるわ。じゃ、行きましょうか?」