私がそれに気付けたのはほとんど偶然に近い…いよいよ明日帰宅、と言う事になり…名残惜しいのか今夜も興奮し、中々寝ようとしないクレアを宥め、漸く寝かし付けた後…黒歌、小猫と共に床に入る……どうせ明日帰る、と言う事も有り最早私も気を抜いていた筈なのにどうにも寝付かれない(今思えば、予兆の様な物は感じ取っていたのかも知れん…)
仕方無く夕刻の様にテラス席に腰掛け、暗闇に包まれる外を見詰めていた時、有る物を感じ取った。
「……妖気?」
本当に極微弱で微かなソレ…最早気の所為とも思えたそれを私は無視出来無かった…
「……近いな。」
目を閉じ、集中して感じ取ってみれば間違い無くそれは慣れ親しんだ……ん?
「クレイモア?」
妖魔でも無ければ覚醒者でも無い…それは間違い無く同胞の、クレイモアの妖気……念の為探ってみるが私以外…例の四人の妖気はちゃんと部屋の中に有る…こいつは、誰だ?
「行ってみるしか無いか…」
少なくともいつかのオフィーリアの様な誘いでは無いだろう。ただこのまま放置、と言う訳にも行くまい。
……気付けば妖気は段々遠ざかりつつ有る…急いだ方が良さそうだ。…あいつらには、声を掛けなくて良いか…少なくとも今の所、向こうに戦闘の意思は無さそうだしな…
そして、私は山道を進み、辿り着いた先で一人の女と出会った…シスター服を纏ったその女…直接の面識こそ無いし、後ろ姿では有ったが…私はそいつが誰だかすぐに分かった。
「……ガラテア?」
「?」
そうだな、こいつの事を忘れていた…あの二人以外…こいつも確かにクレアに多大な影響を与えた存在だった…こうして、私はいつ会えるか分からないと言っていた新たなクレイモアに出会ってしまった…ハァ…やはり厄介事になった…複数の傷が付き、閉じられた目蓋が特徴的な顔を困惑に染めたその女を見て…私はそう思った。
『記憶喪失だぁ!?』
「ああ、恐らくな…」
私を警戒するガラテアらしきその女を何とか宥め、従業員に見付からない様…慎重に部屋まで連れて来てからしばらく後…私は取り敢えずアザゼルに電話を掛けていた。
「本人はイギリス、と言うか…イングランド南西部の港町ライに有る教会の牧師夫妻の一人娘…ルナと名乗ってる。」
どうやら当人は妖力解放の仕方すら覚えてない癖に、感知は無意識にしてるらしく…それなりの大きさである私の妖力に本能的にビビってしまった様で、あいつから色々聞き出すのに本当に時間が掛かった…異変を感じてクレアたちが起きて来てくれなかったら、朝になってもろくに話を聞けなかったかも知れん…
「最も、当然ながら実の娘じゃない…本人は三年前に夫妻に右も左も分からぬまま町をさまよっていた所を拾われる前の事は本当に何も覚えていないそうだ……もちろん、自分が人間じゃない事も分かってない。」
『そいつが嘘を付いてる可能性は?』
私はクレイモア原作でのガラテアの性格を思い出す…
「……正直無くは無いが、あの姿が全部演技だったら私はあいつを舞台女優にでも推薦するさ。」
『成程な…』
「全く苦労したよ、本人はここが日本だと言う事も分かってなくてな…始めはパニックを起こしてずっと英語で色々捲し立てていたからな…」
まぁ、幸い私には意味は分かったし…会話も成立したのだがな…ただ…
「何とかここが何処か説明したら、今度はまた困惑されてな…何でも本人は自分の家である教会で、ついさっきまで仕事をしている最中だったそうだからな……最も、三日前の話だが。」
『あ?どう言うこった?』
「どうもこうも無い…あいつが教会で仕事をしていたのは三日前…それで気が付いたら別の国、しかも三日後の未来に居たって事さ。」
何ともデタラメな話だ…本来なら、私も信じられないが…ああまで取り乱されてはな…
『主よ…!主よ…!ああ…!主よ…!』
『おっ、おい…!?』
私も英語は分かるが、一応日本語は話せるとの事で油断してればコレだ…その場に蹲り、躊躇無く…土の上に顔を擦り付け…祈りを捧げるあいつを落ち着かせるのに本当に苦労した…少なくとも原作で見たガラテアの姿はそこには無かった…ただ、不幸な事に巻き込まれただけの女がそこに居た…
『ま、話は分かった…で、何でサーゼクスじゃなくて俺だ?』
携帯越しにアザゼルの言葉が届き、私の意識が現在に戻って来る…まぁ、確かに私が保護したのであれば…サーゼクスに先に連絡するのが筋だろう。
「住民登録やら、戸籍やら…海外のその辺の事情は知らんがな…見た目こそ日本人では無いとは言え…突然見知らぬ女が町に現れて、一悶着も無くその辺どうにか出来るとは思えん…で、拾ったのが牧師夫妻なら…お前が一枚噛んでないかと思ったんだが、その様子だと何も知らん様だな。」
『ああ、俺は何も知らねぇな…てか、教会ならミカエルに聞いた方が早ぇんじゃねぇのか?番号知ってんだろ?』
……確かにあの会談の後、一方的に教えられたがな…
「……私が天使と話をしたいと思うか?」
『要は、俺に聞けってか。』
「良いだろ、今は一応同盟も組んでる事だしな。」
『まぁ、良いけどよ…けど、多分あいつも知らねぇんじゃねぇか?』
「まぁ、知らないだろうな…と言うかガラテアの方も…どうも悪魔や堕天使がこの世界で普通に人間社会に溶け込んで生活してるのも知らんっぽいしな…その夫妻はどうか知らんが。」
『……取り敢えずそいつは元の場所に返してやりゃ良いんじゃねぇのか?別に向こうへの渡航費くらいは出せるんだろ?』
ま、別に出してやっても構わないがな…あいつはあいつで向こうに生活基盤が有るんだしな…ただ…
「出会ってしまったからな…」
『あ?』
「あいつは、今は表面上落ち着いてはいるんだがな…私に会った事がどうも刺激になってしまったらしくてな…」
『……まさか、記憶が戻るかも知れねぇのか?』
……話が早くて助かる。
「戻るのが向こうに返してからにしろ、今にしろ…クレイモアとしての記憶なんて今のあいつには劇薬にしかならん…思い出さない方が良いんだが、あれでは目が離せん。」
『つっても多分向こうは今も探してんじゃねぇのか?三年も家族として生活してたんなら…』
家族、か…
「ふぅ…どっちみち正式な渡航は今は無理だ…扱い上、今のあいつは密入国者だぞ…気が付いたら外国に居ましたなんて、誰が信じる?」
『あー…まぁ、そうなるか…』
「境遇には同情するがな…問題は山積みだよ、全く…」
一体誰の仕業だ?本当に面倒な事をしてくれる…取り敢えず、あの糞神には改めて色々問い質したい所だがな…
『ま、とにかくさっさとサーゼクスに連絡しろよ。俺はミカエルにも一応聞いてみるからよ…』
「ああ、頼む……あー…悪かったな、夜中に…」
『今更だ、気にすんな。』
アザゼルとの通話が終了し、私は携帯をポケットにしまう……ハァ…本当に溜め息ばかり出る旅行だったな…さて。
「……」
山の中を歩き、旅館まで戻る事にする…ハァ…部屋に戻りたくないな……歩きながら考える…サーゼクスへの連絡は、朝になってからで良いか…全く、旅行になんて来るんじゃなかったよ…本当に。