「取り敢えず確認するが、あくまで記憶の共有はお前が『ルナ』の記憶を見れるだけで…ルナの方はお前の存在すら知らないんだな?」
「ああ。」
「……本人はそれで違和感を感じてないのか?」
「この世界に来てから三年…あいつが自分の事を不思議がった事は私の知る限りでは一度も無いな…」
「生理が来なかったり、食事の量が極端に少ないのはまだ有り得るが…トイレにも行く必要が無いんだろう?」
「あいつはな、何故か自分がそうで有るのは普通の事だと思ってるんだよ。私としても理由はさっぱりだ…例の牧師夫婦はそこら辺全く追求して来ないしな……良く考えたら、私も聞かれないのを良い事に自分の事をろくに話してないから余計厄介な事になってる気もするが。」
「お前の存在も一応認知はしてる訳か。まぁ、それでも私たちの事を一般人に説明した所で理解を得られる筈も無いがな…」
「しかし…この世界にはある意味、我々以上の化け物がゴロゴロ居るんだろ?」
……本当に神話級の怪物がわんさかな。こいつからしたら、カルチャーショック極まれりと言った所か。
「そうだな、この世界でも上位の連中には逆立ちしたって勝てないだろうよ…言ってしまえば、私たちなど上澄みの連中からしたら吐いて捨てるレベルでしか無いと言う事だ……少しは気が楽だろ?」
向こうだと、絶えず暴走の危険が有るにも関わらず…それでもクレイモアは人類に対しての脅威で有る妖魔にほぼ唯一対抗出来る存在だからな…だが、この世界には元々妖魔自体が居らず…私たちに戦いを強要する組織も存在しない、そんなお役目を背負う必要が無い。
「どうだかな…上に立つに値する性格なのか?」
「ふっ…まさか。大半が破綻者に決まってるだろ。」
サーゼクスの様な話の分かる連中などごく稀だ…私が未だに天使陣営と和解出来無い理由の一つだな。
「上に居る奴らからしたら下に居るのは虫ケラ以下…そもそも視界にすら入らんだろうな。」
「とんでもない世界に来てしまったな…」
「最も、お前には関係無い話だがな…」
「ん…そうなのか?」
「この世界に来てからも三年も人間の振りして生きて来たんだ、今更人外共と積極的に関わる理由も有るまい?」
「……確かにな。」
ガラテアは自らの意思で戦いを捨てた…クレアたちと違い、組織と戦う道も選ぼうとはしなかった。覚醒者、鮮血のアガサさえ居なければあのままあの町で人として生きていただろう……まぁ、それでも何れ正体はバレていただろうがな。
「だからな、お前はこれからの事だけ考えたら良いんだ…今の生活は不便でも、この世界の事は嫌ってないんだろう?」
「愛着は有るがな。」
「……親に甘える気分はどうだ?」
「そんなにガキじゃないさ…最も向こうは、ルナは元より私の事も娘として扱ってくれているがな……そうだな、悪い気はしない。」
「なら、そう生きれば良い。」
「いや、帰って良いのか?」
「……」
さっさと国に帰してやりたいが、帰せないんだよな…
「肉体の主導権が完全にお前に有るか、ルナの方が自分の身体の事をきちんと把握してるなら問題無かったんだがな…お前の方から伝えられないのか?」
第三者で有る私たちから伝えてもあまりに現実感の薄い話になる…本人は自分の事を人間だと信じてる訳だしな…
「無理だ…何度か試したが、私の呼び掛けがあいつに届いた事は無い。私が眠っている間あいつが目覚め、あいつが眠ると私が目覚める…ただそれだけの関係性だな。」
当時の私とテレーズの関係性はいわば鏡…幸い向かい合う事は出来たし、今では完全に別の存在になった。
……だが、ルナとガラテア…話を聞く限りこの二人は最早コインの裏表…お互いの姿を見る事は出来無い。
「黒歌、分離出来ると思うか?」
私はここまで黙って話を聞いていた黒歌に水を向けた。
「多分出来るにゃ、でも…」
「ルナの方の影響が計り知れないか?」
「最悪、自我が崩壊するかも…」
「……そんなにか?」
「だって…今まで"そうである"状態で生きて来た訳だから…」
「私としては…あいつを消したくないな。」
「半身にも愛着が湧いたか?」
「三年も同じ肉体に同居してればな。ま、妹みたいな物さ…」
もちろん消すとなれば、私としても寝覚めは悪い。
「記憶を消すか?」
「元々記憶喪失の子にゃんでしょ?これ以上何を消すって言うにゃ?」
「そもそも何でそんな状態なんだ?何か心当たりは無いのか?」
「さぁな…私にもあいつの分かる事しか分からん…」
「……と言う事は、更に空白の時間が有ると?」
「少なくとも私がこの世界で目覚めた時には既にあいつと身体を共有していた…当初知らない奴の記憶が頭の中に有って、面食らったのはこっちだ…おまけに、どうにかしようにも昼間は私も何も出来無いしな。」
「長時間は起きてられないのか?」
「遅くても夜明け前には私も眠ってしまうな…加えて言うと、あいつが夜起きていたら私は出て来れない。」
「成程、だから昨夜私が会ったのはルナだったと…と言うか、あの後ルナに睡眠を取らせたんだが?」
「それなんだがな、何故かあいつが寝てても私が出て来れない時が有るんだ…」
……まさか。
「段々出て来れない時の方が多くなってるとか言わないか?」
「鋭いな。」
これは、早急に手を打たないと不味いかも知れんな…
「もしかして、少しずつ食われて行ってる…?」
「恐らくな…」
このままだとガラテアの方が先に消える…
「やはり、そうなるか…」
「今お前に消えられては困るな…ルナでは間違い無く抑えられず、覚醒してしまう。」
やはり、無理にでも分離するしか無さそうだ…
「ガラテア、まだ起きてられるか?」
「……正直…今日はもうそろそろキツいが、何をすれば良いんだ?」
「妹へのビデオレターを撮るのさ。」
私は携帯のカメラを起動する……さて、先ずはルナに自分の身体の状態を知って貰う所からだな…受け止め切れるか分からんが、それでも受け入れて貰わないと困る…全く、どうして最近はこう厄介事ばかり舞い込むのか…この一件が無事に済んだら、本当にお祓いに行くべきかも知れんな…