あれから更に二時間程経過しただろうか…ルナは予想より少し遅めの時間に部屋を出て来た。
「えっと…皆さんは…?」
「ん?…実はこの家の連中の大半は割と朝は早い方でな、もう飯食って仕事に行ったんだ。」
「……そう、ですか。」
……ルナの少し硬い表情を見ながら思う…まぁ、さすがに早いと気付くか。最も、ある程度遠くの会社に電車で通うサラリーマンなら…寧ろ少し遅いとも言える時間でも有るんだがな…
「一応、朝飯はお前の体質に合わせて少な目にしたが…大丈夫か?」
「ええと…正直に言うと、十分過ぎる程です…」
「そうか…ま、多かったら別に残しても良い。」
「え…でも…」
「気にするな。どっちみち、またお前の口に入る物だからな。」
どうせこいつも半覚醒前の私と体質はそう変わらん筈だ…固形物はほとんど食べられないのは分かっている…要するに、今こいつの分はスープとパンしか出してないんだから取っておくのは容易なのだ。
「そう言う事なら…」
「この程度で多いなら、こっちは経済的負担はほぼ無きに等しい。……ま、とにかく全く気にする必要は無いと言う話だ。」
と言うか、今はこの中では私の方が最も食べる量が多いのは皮肉だな…元々、クレアとアーシアは少食だからな…それでも、さすがに二人はルナよりは食べるだろうが。
「はい…」
……そう言っても気にするよな…いや…私の言い方が悪いのも分かってるから、ジト目を向けるのをやめてくれ…アーシア。
「ほら、ルナお姉ちゃん…食べよ?」
「……そうですね、じゃあ…」
ルナが両手を胸の前で組み、口から祈りの言葉を紡いで行く……まぁ、あいつらと違って私は聞かされても特にダメージは無いが…退屈には感じるな…最も予想してたよりは短く、数分程であいつの口は閉じ…両手を下ろした。
「えっと…すみません、お待たせして…」
「いや、良い…私とクレアは別にお前の信仰を妨げる気は無いからな…もっと言えば、ここに居るアーシアはシスター見習いだ……最も教義は違うだろうから、話もあまり合わないかも知れないが。」
「え?そうなんですか?」
「ええ…ただ、今は私は務めてる教会は有りませんし…ほとんど普通の学生と変わりませんけどね…それと、一つ良いですか?」
「何でしょうか?」
「……私とここに居るお二人は問題無いですが、他の方々はその…宗教関連の話は苦手なのでそこだけ気を使って貰えたらな、と。」
……私から言うつもりだったんがな、アーシアに言わせてしまったか…
「あー…すまんな、さっきも言った様に私とクレアは気にしないんだが…他の連中はどうもな…」
「あ、いえ…日本人の方はそうだと聞いた事が有りますし、そう言う事でしたら…」
あいつらにとっては苦手どころか、ほとんど命に関わるレベルだろうがな…
「……まぁ、どうしてもそっち方面で気になる事が有ったらアーシアに相談してくれ。私とクレアは苦手って程では無いが、特に神を信仰するつもりも無くてな…」
「いえ、本当に大丈夫ですから…どっちにしても私、今は聖書を持ってないですし…」
……あ、そうか…こいつはほとんど着の身着のままこっちに来たから、それも当然所持してないよな。
「日常的に目が見えないってなると、当然点字印刷の聖書か…そうだな、出版社とか具体的な教義の内容を教えてくれればそれくらいこっちで用意してやろう。」
「え…でもそんな「気にするな、しばらくは向こうに帰れないんだ…お前には無いと困るだろう?」でも…」
渋る気持ちも分からないでも無い。聖書は普通の本屋でも探せば見つける事は出来るが、何せ値段は決して安くは無い……ましてや、製作に手間のかかる点字印刷ともなれば…その値段もさらに跳ね上がる事だろう。
「気にするな、こっちもちょっとした伝手が有るから…多少安く手に入れられるだろう。」
……嘘だがな。まぁ、ミカエルに頭下げれば本当にタダで手に入るかも知れんが…正直、死んでも御免だ…
「……本当ですか?」
「ああ、だから気にするな。」
と言うか、宗教に興味が無いと言ってるのに宗教関係者に伝手が有ると言うのをこいつは怪しいと思わないのだろうか…騙されてくれた方がこっちも気が楽だが。
「その…何から何まで「気にするな」でも「何度も言わせないでくれ」あの「腹減ってるんだ、もう良いだろ?」はい…」
別に実際はそこまで空腹では無いが…正直このやり取り続けるのが面倒だからな……分かってる、分かってるから二人してそんなにジト目を向けるな…全く、やりにくいな…