「あの…何かお手伝い出来る事は…」
「ふむ…申し訳無いが、見えない以上…お前に出来る事は無いな…」
「……そうですか。」
あれから全員朝食も食べ終わり、クレアとアーシアを送り出した後…私は何となく本のページを目で追いつつ…リビングでボーッとしていた。
「三年も見えないまま生活してたんだ、向こうでは何処に何が有るかも大体把握してたんだろうが…残念ながらお前はまだこの部屋の構造も良く分からんだろう?」
目が見えない奴に良く有るのが…自分の家や友人の家等…勝手知ったる場所はどれだけ広くても、記憶を頼りにほぼ杖要らずで移動出来ると言う事だ。だから本来で有れば私が教えれば普通にこの部屋で過ごせた……だろうな、ここが普通の構造のマンションの一室で有ればな…
「見えないからはっきり分からないだろうが、ここは部屋の中に階段が有ってな…危ないからウロウロしないでくれ、頼むから。」
教えれば部屋の何処に階段が有るかは覚えられるだろうが、正直何をするにしても一人で上られでもしたら足踏み外して落ちる予感しかしないからな…外階段と違って手摺りは有っても壁は無いから、手摺りから手が外れたら…最悪まともに受け身も取れないまま下の床まで真っ逆さまだ……一応下まで落下しても、この程度の高さなら半人半妖の身で死ぬ可能性は低いだろうが…もし怪我を治す為に無意識に妖力解放なんてされたら、多分こいつはそこから覚醒までまっしぐらだ…自覚の無いまま覚醒した奴を半覚醒の状態まで持って行くなど私には無理だ…
隣の部屋にテレーズは居るが、今のあいつに手伝わせる訳にも行くまい…まぁ、オフィーリアにも残って貰うべきだったのかも知れんがな…
「はい…すみません「一々謝るな…好きに寛いでくれてて良い」はい…」
それきり私の横に居たあいつは口を閉じる…ハァ…やはりやりにくい…暇なのは分かるし、こいつなりに私に気を使おうとしてるのも一応分かるんだがな…日中から寝室に篭ってろとも言い難いからここに残したが、失敗だったか…
そもそも…私がこうして仕事を休んで部屋に居るのもほとんどこいつに対する監視の意味合いが強い。元々…こいつに身の回りの世話なんてほぼ必要無い。何せこいつはトイレには行かないし、それ以前に食事もろくに取らないからな…
「そんなに暇なら付近を散歩でもするか?付き添いはしてやる。」
私を読んでいた本を閉じた。
「え…でも、本を読まれてたんじゃ…」
まぁ、音は聞こえるか…最も、邪魔をしてると分かるなら初めから声を掛けるな、と言う一言は何とか飲み込んだ…さすがにそれは意地が悪過ぎる…
「構わん…実は昨日夜更かしをしてしまってな、眠気でほとんど頭に入って来ないんだ…眠気覚ましにはちょうど良い……で、来るか?」
「その…ご迷惑で無ければ…」
……あ、そうだ。
「これから先、私や他の奴がお前に付いたりはするだろうが…それでも外を出歩くならやっぱり杖は要るよな?ついでに見に行くか?」
「え…でも…」
「何度も言うが、金銭面については別に気にするな…何だかんだ私は高給取りなんだよ。それに、無理なら無理だと初めから私は言うさ…」
「本当にすみま「しつこい、そろそろ謝罪以外を口にしてくれないか?」……ありがとうございます。」
……別に感謝の言葉を聞きたくてやってる訳じゃ無いが、それでも何度も謝られるよりは良い。私も多少、気持ちは楽になる…
「…と、忘れてた…出掛けるなら着替えないとな。」
こいつの今の格好は黒歌のパジャマのままだ…最もそうなると…
「どうだ?」
「えっと…大丈夫です。」
黒歌の服を勝手に出す訳にもいかん…かと言って例のシスター服はどうにも悪目立ちするだろうし、必然的に私の服を着せるしかない。指示を出したり手を貸したりしつつ…何とかルナを着替えさせてから少し考える…パッと見サイズこそ一応大丈夫そうなものの、何となくこいつに私のパーカー着せると違和感が有る…
「どうやら服も買った方が良さそうだな…」
そうなる気もしていたが…まぁ、要はこいつはジャージやパーカーとか…そう言ったラフな格好がどうも似合わないんだよな…実際、服を選ぶセンスなんて皆無だろうとハッキリ言い切れる私がそう感じるんだから…相当な物だ。
「えっと…向こうに戻ったら「要らんよ。と言うか、お前の所の教会…そこまで金有るのか?」……」
こいつの言いたい事を先読みして口にする……黙ってしまった…会話するにしろ何にしろ、黒歌にはやはり残って貰うべきだったかと考えるが、後の祭りだ…何ならオフィーリアでも良かっただろうがな…あいつも話題は色々豊富だろうし、服装選びのセンスだって良いからな…最も、あいつは大抵見返りを求めて来るだろうから面倒臭いのだが。
「さて、行くか?」
取り敢えず私の方は問題無い、このまま外には出られる…
「はい…あ。」
私はルナの手を軽く掴んだ。
「力が強かったら言ってくれ、あまりこう言うのは慣れてなくてな…」
別に手を繋ぐ、と言う経験が無い訳では無い…何ならクレアを始め、私の周りに居る連中は自然と私に要求して来るしな…ただ、目の見えない奴を誘導するなんてさすがにやった事は無い……筈だ…この世界に来る前の事は覚えてないし、来てすぐの頃の事もそれなりに曖昧にはなって来ているが。
「いえ、大丈夫です。」
「良し、じゃあ行くか。」
今更だが、大の大人がこうして手を繋いでいる姿も相当目立つのでは無いだろうか?まぁ、文句言っても仕方無いんだがな…