「くあっ…」
込み上げて来た欠伸を殺す事無く出し切り、軽く伸びをする…んー…さすがに少し睡眠が足りなかったかぁ?
「…随分リラックスしてるわね…」
「んー…まぁな。」
若干呆れた声を出している、 グレイフィアに緩く返事を返す…いや、そう目くじらを立てないで欲しいんだがな…
「…黒歌から話を聞いた限り、君にとっては決して楽しい戦いでは無いと…そう思っていたのだが、何とも余裕の雰囲気だね…」
「フッ…正直言うとな、楽しくないどころか…気を抜くと武者震いが止まらなくなりそうな程でな…」
悪くない…あと少しあと少しで…!
「今、私は絶好調だ…少なくとも半年前より、確実に私は…強い。」
「フッ…その様だね…」
「あー…それはそうと悪かったな…忙しいだろうに、面倒なお願いをしてしまってな…」
「構わないさ…彼女の事は間接的に聞いただけでは有るが、それでもずっと気に掛けていた…」
「お前はお前で、相変わらず余計な荷物を背負い込むのが好きだな…」
「それは、君に言われたくは無いかな…」
「ま、それはそうだろうな…」
っ…駄目だな、口が勝手に笑みの形を作る…抑えられん…
「あの…その顔、どうにかならないの…?凄く不気味なんだけど…」
「悪いなグレイフィア…私にも、どうしても止められないんだよ…私自身も気付いて無かったが、あの日、デネブとの試合の結果に私は納得していなかった…そして、今回私はリベンジしようと思っている…お前らには本音を言っておこう…正直、デネブが自棄になっているとか…ミリアやヘレン…そして、黒歌たち私の家族を含めて…あいつと交流の有る奴皆があいつの事で気を揉んでいるとか…今の私にはどうでも良い…ハッキリ言って、知った事じゃない。結局私はただ、もう一度あいつと戦いたかっただけなのさ…」
「…良いんじゃないかな?彼女は私の知る限り相当にプライドの高いタイプだ…寧ろ、変に同情される方が傷付くだろうしね…」
「かもな…ただ、それも今の私には関係無い…ぷっ…ククク…あー…楽しみだ……最後だ、他の奴には絶対に黙っていて欲しい…私は、あいつを殺す気は無い。だが、私自身はこの戦いで死んでも惜しくないと思ってしまっている…もし、私の首が宙を舞ったなら、それも結果と受け入れてしまえるだろうな…」
「…っ…テレサ、もう少し抑えられないかい?」
「ん?」
「殺気が漏れている…っ…正直、私も抑えが利かなくなるんだが…」
「クク…何なら本当にやるか、サーゼクス?」
座っていたソファから立ち上がり、テーブルを挟んで向かいに座るサーゼクスに手を伸ばす…っ…
「やめなさい…そろそろ、冗談が過ぎるわよ?」
グレイフィアが私の手を掴んだ…
「悪い、生憎冗談じゃ「冗談に、しておきなさい…私、貴女を殺したくないから」…ふぅ…分かった、今日はもう帰る…」
怖いな…グレイフィアから殺気を浴びせられて、少し頭が冷える…正直、このままだとグレイフィアにもうっかりケンカを売ってしまいかねない…
「手を離すわよ?変な動き、しないでね?」
「っ…早く離してくれないか?それとも、この場でやるか?」
「ハァ…普通の試合なら今度付き合っても良いけど…今の貴女とは絶対嫌よ…だって、殺し合いになるでしょ?」
「……何なら、性的な方でも全く構わないが?」
「…夫で有る私の目の前で人の妻を口説くとは…中々良い度胸じゃないか…?」
「っ…」
サーゼクスからも殺気が飛んで来る…駄目だ、そんな物ぶつけられたら我慢出来無くなるだろ…
「…何ならお前も混ざるか?もちろん、性的な方でも構わないぞ?」
「いい加減頭を冷やしなさい…貴女、今日ちょっと可笑しいわよ?」
グレイフィアの手が離れる…私はその手を掴んだ。
「っ…何のつもり?」
「前から思ってたんだが、綺麗な手だな…お前当主の妻で有る前にメイドだろ?やけに小綺麗にしてるじゃないか。」
「…メイドだけど、私は妻でも有る…磨くのは当然よ…と言うか、今の貴女…見た目が崩れて来てるわ…」
「ん?」
「成程…今の君は内側の気は充実してるが、確かに見た目は明らかに傷んでいる…食事と睡眠、相当削ってるね?」
隠していたものを指摘されて、さすがに今度こそ冷静になる…
「っ…余計な物を削ぎ落としてるだけさ…私は、これでもデネブを信じている…あいつが全盛期の力を取り戻す為に努力するなら、私もそれに応えないとならん…」
「……今すぐ生活サイクル戻しなさい…それは本当の強さじゃないわ。デネブがそうなるより先に、貴女本当に壊れるわよ?」
「私の勝手だ…私はな、本当にこの戦いで終わってしまっても惜しくないんだよ。」
この半年…特に大きな事件は何も無かった…まるでそれまでが嘘の様に…そしてその分、日常がとても忙しかった…そして、私はそこに飲まれて行った…
「見届けてくれ…全てを捨てた私の強さをだ…」
この半年間で、確かに私は変わったのだろう…少なくとも、一々些細な事で取り乱す事は無くなった…精神的余裕と心の強さを得た…だが、それでデネブに勝つ事など出来無い。あいつの力は、1体1で戦った私が一番良く分かっている…あいつに勝つには、日常生活から培った精神的な余裕と心の強さは確実に余分なのだ…
「もう残り半月を切った…もっと仕上げないとならん…」
もちろん当初は、普通に強さを磨く気でいた…少なくとも、こんなやり方をするつもりは無かった…ただ、安定した状況での鍛錬は…見事に私を鈍らせた…駄目なんだ…デネブに勝つなら、それでは駄目なんだ…
「サーゼクス…三日後にまた会いに来る…」
「っ!待ちなさいテレサ「追ってはいけない!」サーゼクス様、何故…」
「彼女の目を見て分かった…もう彼女は私たちが何を言っても止まらない…私たちに出来るのは、最早見届ける事だけだろう…」
「ウゲェェ……あー…胃も可笑しくなってるな…」
帰ろうとしたのに、吐き気が止まらなくなってそのまま屋敷のトイレに駆け込む…我ながら、何とも締まらんな…
「っ…しつこいな。」
携帯が鳴る…電源は、切った筈なんだがな…今回、私は繋がりに関して物理的に絶ってはいない…それでは意味が無いからだ…あいつらを追手と仮定し、逃げ回り自分をひたすらに追い込む…私はボタンを押した。
「もしも『テレサ!お前、今何処に』…うるさいな、サーゼクスの屋敷さ…もう帰るがな。」
以前、こっちに来た際にサーゼクスとグレイフィアに急ぎの仕事が入って帰れなくなった事が有った…だから、私が一人でも帰れる様に今では魔法陣がそのままだ…
『迎えに行くから、そこで「ミリア、私は待たないぞ?」っ!確かに私はデネブの事を頼んだがな、そこまで自分を追い込めとは言ってないぞ!?』
「仕方無いだろ、こうでもしないとあいつには勝てないからな…あいつも、今…削って、研ぎ澄ましてる最中だろ?なら、こっちもそうしないとな…」
『それであいつに勝って、一体何の意味が有るんだ!?』
「意味なんか知らん…ミリア、もう私の中で趣旨が変わってるのさ…私とデネブが戦って、それでデネブが前を向けるかどうか…そんな事はもう知らん……いや、本当は初めからどうでも良かったんだろうさ…」
二週間だ…たった二週間…あの日、たまたま出会ったデネブに私は圧倒された…本気で、恐怖した…そして悟った…普通に鍛えた所で、こいつには絶対勝てないと。
……最も何も怖かっただけじゃない…同時に思った…あいつと同じ領域に私も行ってみたいと…そして、どちらが強いのか…試してみたいと。
「時間が勿体無い…もう切るぞ?」
『おい!話はまだ「じゃあな」……』
「ふぅ…静かになったか…」
取り敢えずまた電源を切っておこう…しかし、確かに電源は一度切った筈なんだがな…まぁ、良い…急がないと、ミリアや他の奴が来てしまう…