先ずは挨拶代わり…そんなつもりで繰り出した私の剣…それが起こした結果に、その場で凹みそうになる…
……デネブの剣の腕が錆び付いて無かったら、確実に私の首は飛んでいた…
絶好調と思っていた私の精神は…実際はアザゼルの言う通り不安定だったらしく、突きつけられた現実に文字通り目の前が暗くなりそうになる…駄目だ、気を抜くな…分かっていた筈だろう?そもそも私の剣の腕では…デネブには勝てない、と。
それに、だ…
(…さっきの打撃…篭手のお陰も有るとは思うが、それでも分かる…今の奴は、間違い無く徒手空拳も一定のレベルに有る…今はギリギリ私の方が上、と言った所か…)
「ペッ…」
口の中で異物感を感じ、中に有る物を取り敢えず地面に吐く…
(…歯が欠けたか…って、もう一本有るな…私は攻撃型とは言え、歯の一本や二本ならさすがに再生するかも知れんが…やはり少しショックでは有るな…ふむ、せっかくだ…コイツは残しておくか…あいつに、プレゼントしてやろう…)
思ってもみなかった一撃を食らったせいか、何処か茹だっていると言うか、夢見心地の私に向かって一直線にデネブが突っ込んで来る…
「…プッ!」
「!?」
(…ふむ、初めてする攻撃だが…中々どうして、上手く行く物だ…)
私の吐き出した歯は寸分違わず、デネブの左の眼球まで到達した…さすがに怯むデネブに向かって空いている距離を詰める…辿り着くと同時に…私は現在死角になっているデネブの顔の左側まで自分の右手を伸ばす…耳を掴み、デネブの頭を強引に下げた。
「ガッ…貴さ「お前も顔に食らっておけ」ハグッ…!」
上げた右膝をデネブの顔面に直撃させる……この感触…恐らく鼻が潰れたな…私の受けたダメージとは全く釣り合ってないだろうが…まぁ、お釣りって事にしておこう…
「グッ…!」
右手で鼻を押さえながら、デネブが私から下がろうとする…ふむ、それでは警戒が足らんな…私は左足でデネブに足払いをかけた。
「なっ…!?」
「足元注意…思わぬ攻撃を食らって、一度下がりたくなる気持ちは分からなくは無いがな…」
左足をそのまま上げ、デネブの腹を踏み付ける…このブーツは硬さは有るが、重さは無い…それでも私の体重は掛かるし…ブーツは金属製との事だから、何なら普通に痛い筈だ…
「くっ…」
「どうした?もう終わりか?」
「……ブフッ!」
「…んなっ!?お前!?」
鼻を押さえたまま倒れ込んだデネブが鼻から手を離し、私に向けて吐き出した物…それは恐らく鼻から流れていた血…くそっ…今度は私の視界が潰された…っ!しま…!
「…そんなに泥臭い戦いが好きか?」
「…がはっ!?」
デネブの腹に乗せられていた足が持ち上がり、その足が掴まれたのが見えなくても分かった…そして、直後に地面に頭から叩き付けられる…
「さすがにさっきの攻撃はお前の受けたダメージには釣り合わんな…お前が払い過ぎた分を今から返してやるよ。」
「っ!?」
私の身体が持ち上がった……いや、恐らくデネブが私の両足を掴んで持ち上げている…
「!…ぎいっ!?」
「これだけ勢い付けたら…きっと相当痛いんだろうな…ほらせっかくだ、もう一回行くぞ?」
今顔面に感じた痛みは…ひょっとして近くに有った太い木に顔から叩きつけられた時のものか!?…クッ…もう一回だと!?くそっ!冗談じゃない!何か、何か手は…!?
「そら!」
「あー…アレ、ホントに痛そうね…」
「まぁ、あのやり方ではデネブを怒らせて当然だな…少しでも優位に立つとすぐ調子に乗るのがあいつの悪い癖だ…治ってなかったらしいな……ふむ、この世界ではこう言う時は確か…そうだ、くわばらくわばらとか言うんだったか?」
この言葉は…要は近くで起きている災害に巻き込まれない様に唱える魔除けの呪文で有るそうだ…基本的には、何らかの災難に見舞われている奴を見た時に自分はそうならない様にと唱える物らしい…
「ちょっと!?アレ良いの!?」
「格闘技の試合じゃないんだ…反則、とか言う戯言は通らんよ…と言うか、そんな事を言ったら最初に口の中に有った欠けた歯をデネブの顔に向かって飛ばしたあいつが既にアウトだしな……ところで黒歌?不便だろうし、手を退けてやれ…マリアは多分、目隠ししても何となく何が起きてるか分かるだろうしな…」
「黒歌お姉ちゃん…」
「っ…分かったにゃ…」
「…とは言え、ホントにこんなの見せて良いんでしょうか…」
「フローラ…そもそもこの場には、小猫はまだしも…クレアとアーシアも居るの忘れてないか?」
「あ!」
とは言え、いざ二人に視線を向ければ…どう見ても私たちのやり取りなんて耳にも入ってない…今この瞬間も、真剣にモニターを見詰めている……ちなみに、もちろん姫島朱乃もこの場に居たりするが…まぁ、あいつは良いか…さっきからずっと発言するタイミングが無くて、非常にもどかしそうにしてるのも見なかった事にする…私には関係無いからな。
「あー…にしてもデネブの奴、アレは本気でキレてるな…」
「……」
フローラはさっきから顔が険しい…ふむ。
「…こう言う戦いは見るのも嫌…」
「え…」
「図星だろ?」
そう、実は本当に目を背けたいのはフローラの方だったりするのだ…
「その…こう言うのはどうしても少し苦手です…」
「まぁ…普通の模擬戦ならまだしも、ほとんど殺し合いレベルの応酬してる…しかも味方の筈の戦士同士で…見てて、そりゃ気分は良くないよな…」
「とは言え、こう言う戦いも有る…私も少し、形を気にし過ぎるきらいは有るからな…色々、参考にはなる。」
ヘレンが語り、最後はミリアが締める…最も、ここまで聞いてもフローラにはまだ納得し難い様だがな…
「小綺麗なばかりが戦いじゃないのよ?ねぇ、お姫様?」
「!…そう言うの、やめてくれませんか…?」
オフィーリアとフローラ…この場で二人の睨み合いが始まる…正直二人の相性が悪いのはこうなる前から分かっていた…だから、用務員のシフトでも二人を同じ日にした事は無い。
……まぁ、それはそうと…この場で戦われるのはさすがに私も少し困るか…大体、オフィーリアの場合はそれを私やあいつに体験させられた側で…別にお前の専売特許では無いだろうに…
「やめろ…それとも、二人纏めて私が相手してやろうか?」
「っ…ハイハイ…分かったわよ…」
「私は…ちょっとやってみたいです…」
「…ふむ…良いぞ、今度な。」
私が殺気を飛ばせばオフィーリアは大人しくなる…それは分かっていた。最も…フローラは戦いたい、か…まぁ、フローラは元々ジャンキーの気は有った様だしな…ちなみに、私的にはやりたいと言うなら日を改めてくれれば特に問題は無い…何せ子供産んで、もう半年だ…全盛とはさすがに言い難いだろうが、とっくに体力もある程度戻っている…まぁ、ブランクも有るし…先ずは身体を慣らす必要は有るだろうが。
「ねぇ!?あいつ全然動かないんだけど!?」
「大丈夫だよ、テレサお姉ちゃんなら起きてるから。」
「!…え?」
「アレ、多分気絶したフリだから…」
その言葉通り、動かなくなったあいつの腹の上に座り、マウントポジションに入ったデネブの眼窩に自分の指を押し込むあいつの姿が画面に映る……本当に、この子は何処まで見えているんだろうな…