「フローラ…その…来てくれたのはありがたいが、何でそいつが居る…?」
「それが…私の部屋の前に立ってまして、テレサさんのお見舞いに行くと言ったら付いて行くって聞かなくて…」
「……」
あれから大体一時間程経っただろうか…漸くやって来たフローラには何故かおまけがくっ付いていた…銀髪銀眼の小柄なその姿…ちょうどクレイモアを小さくした様なそいつ…
「マリア…どうした?私をじっと見て…」
別にこいつが来た事に文句は無い…と言うより、フローラと二人きりより遥かにマシだ…ただ、無表情且つ…無言で私を見詰めてるだけだから非常に居心地は悪い……ふむ、何か私に用でも有るのか?
「……フローラ、どうもこいつは私に用が有るらしい…来て貰って早々悪いんだが…」
「分かりました…そう言う事なら部屋の外で待ってます…マリアちゃん?私は外に居ますから、何か有ったら呼んでくださいね?」
「うん。」
フローラが部屋を出て行く…さて…
「…で、結局何か用か…悪いが、遊びたいとかなら「やっと、ちゃんと会えた」ん?」
「ずっとテレサお姉ちゃんに会いたかった…」
「私に?「……」っ!…どう、した…?」
一瞬…マリアの動きを見失った…ドアの前にいたマリアが気付けば私のベッドの横に居り、そのまま私に向かって飛び込んで来た…この状態の私が受け止められたのは最早、奇跡に近いかも知れん…
「テレサお姉ちゃんとお話したかった…!」
「…っ…私と話したいなら、今までいくらでもチャンスは有っただろ…?」
「ううん…二人で話したかった…」
「私は…お前について何も分からん…それとも、母親と勘違いしてるのか…?」
私とテレーズは、顔はそっくりそのまま同じだ…
「ううん…テレーズお母さんは関係無い…私は…テレサお姉ちゃんと話したかったの…」
痛…!腕がもう限界だ…!
「分かった…話ならいくらでも聞いてやるから…下ろしても良いか「や!」…そう言われてもな…」
いや、何でこんなに懐かれてるんだ…?正直、全く分からん…今までこいつとは…ろくに話した事も無いんだが…
「痛…!すまん…本当に勘弁してくれ…話は聞いてやる…だから、一旦下りてくれ…!」
「うー…分かった…」
マリアを何とか床に下ろす…くっ…腕が震えている…
「…痛むの?」
「っ…ああ、少しな「ごめんなさい」…いや、気にするな…」
正直、テレーズとオフィーリアにまともな躾が出来る様には思えないが…何処と無く育ちの良さみたいのを感じる…
「それで…私と何の話がしたいんだ…?」
「う~ん…色々!」
「色々…」
漠然とし過ぎてて分からん……あ。
「ちょうど良い、私もお前に聞きたい事が有った。」
「うん、何?」
こいつに感じていた違和感…それに、私は今気が付いた…こいつが何者なのか、この場で確認しよう…
「お前は…私とデネブの戦いを見ていた…それで、解説をしていただろう?」
「うん…」
「…まぁ、お前が解説してた事自体は別に良い…どうして色々分かったのか、聞いても無駄なんだろ?」
「うん…だって、分かったから…」
……明らかに言葉が足りないが、要は…"何となく"分かったと言う事だろう…ただ、それでは納得の行かない点が一つ有る…
「お前自身に、戦闘面の知識が有ると言うのは別に良い…実際は知識と言うよりお前の想像力が豊かと考える方が妥当だ…だが、お前は言ったそうだな?デネブの剣が下手になってると?」
「うん、言ったよ。」
「…何故、デネブの剣の腕が落ちたと分かった?お前は…ああなる前のデネブの剣を見た事が無い筈だ…」
そう、ここだ…この部分だけは絶対に可笑しいのだ…デネブの元の剣を見た事が無ければ、下手になったとは判断出来無い…
「だって…見てたから。」
「見てた?お前はこの世界で生を受けたのは半年前だ…あの戦いの前に、デネブの戦ってる姿を見た事は無い筈だ…」
この世界でデネブが戦ったのは二回…どちらも私が相手だ…ほぼ全盛期だったろう一度目の時…その時、こいつはまだ産まれてもいなかった…
「私は…全部見てたから…テレーズお母さんのお腹の中で。」
「……お前、あの時既に意識が有ったのか?」
「うん…お腹の中で、全部見てた。」
……改めて思う…こいつは普通の子供では無い…そして、これから先も普通には生きられないだろうと……いや、まだ可笑しいな…
「そうなると、テレーズの腹しか目に入らなかった筈だが?」
「ううん…ちゃんと外の様子…見えてたよ?」
そう言えばミリアが…こいつは目隠しした状態であいつらから逃げ切ったと言っていたな…まさか…!
「…成程な…お前、目隠ししても外の状態が見えてるんだな?」
「うん、見えるよ。」
透視能力…最早、クレイモアとは何の関係も無いだろう特殊能力…ああ…駄目だ…こいつが普通に生きる未来が見えて来ない…殺す必要が有るとも思えないが…こいつは、この世界で普通の子供としては絶対に生きられない…
「何故、その能力を私に話した?」
「?…聞かれたから。」
「っ…」
こいつは、それを可笑しい事だとは思っていない…
「そう、か…話を逸らして悪かったな…改めて聞こう…どうして、私と話したいと思ったんだ?」
「…あの時、デネブお姉ちゃんとテレサお姉ちゃんが戦うのを見てた…」
「それは…お前がテレーズの腹の中に居た時…最初に私とデネブが戦った時の話だな?」
「うん…それで、どうして戦ってるのか…分からなかった…」
「どうして、とは?」
「だって…あの時は絶対…デネブお姉ちゃんの方がテレサお姉ちゃんより強かった…多分、テレサお姉ちゃんはそれに気付いてた…それなのに、どうして戦うのか…分からなかった…」
「……それをわざわざ聞きに?」
「うん。どうして?どうしてテレサお姉ちゃんは戦ったの?」
「ふむ…無謀だと、そう思ったか?」
……言ってからしまったと思う…こいつにこんな難しい言葉が分かる訳が…
「うん、分からなかった…そして、怖かった…」
……要らぬ心配だったか…こいつは、私の言った事が理解出来ている…怖かった、か…意味の分からない行動を取ってる奴が怖い…まぁ、歳不相応だとは思うが…子供らしい反応とも言えるか…
「怖かったか…なら、何で会いに来た?私が…怖いんだろう?」
「うん…でも、テレサお姉ちゃんが勝った…どう考えても勝てる見込みが無いのに勝てた…その理由を聞いてみたかったし、それに…」
「それに?」
「あの時のテレサお姉ちゃん…凄くカッコ良く見えた…!」
「っ…」
マリアの言葉が私の心に響いたのが分かる…全く取り繕わない素直な賛辞…こんなに嬉しいものなんだな…こいつに依存したデネブの気持ちは分からなくもない…こいつは、クレア以上に甘い毒だ…
「…ふぅ…で、理由か?」
「うん…教えて?」
「ふむ…正直に言えば、私にも分からん…あの時デネブが降参しなければ…私は確実に負けていた…無様にな。」
…とは言え、こいつのその憧憬は勘違いだ…私に、その賛辞を受け取る資格は無い。
「そうなんだ…」
「ああ、そうだ…今回も、私はデネブに勝てていたとは思えん…それが正直な感想だ……幻滅したか?」
「ううん…何でかは分からないけど…やっぱりテレサお姉ちゃんはカッコ良いと思う。」
「っ…そう、か…」
こいつは…一々、私の心を的確に撃ち抜いて来るな…
「デネブの事は…どう思う?最近、一緒に居たと聞いてるぞ?」
「デネブお姉ちゃん?う~ん……分かんない!」
「…分からない相手と一緒に居るのか?」
「だって…デネブお姉ちゃん、あのままだと壊れちゃうから。」
「……」
こいつは…ま、ハッキリはしたな…こいつは良くも悪くも能力が突出し、頭も良いが…やはり子供だ…そして、確かに良い子なんだろうな……少し屈折してもいるが…
「…後、話したい事は無いか?」
「無いけど…えっと…」
「何だ?」
「今日一緒に居ても良い?」
「ふむ…別に構わないぞ?」
「ホント!?」
「ただし…私は動けない…そして、身体が滅茶苦茶痛い…だから、遊んだりも出来無いが…それでも良いか?」
「うん!大丈夫!」
……何が大丈夫なのか分からんが、本人が良いなら良いか…
「良し、じゃあフローラを呼んで来てくれないか?」
「うん!分かった!」
出て行くマリアの後ろ姿を見ながら思う…あいつは、確かに子供らしさはあまり無い…と言うか、好き嫌いが異様にハッキリしてるだけなんだろう…私を含めて、心の開ける奴相手なら…子供らしい無邪気さが顔を出す…まぁ、それは良いんだが…
(……将来的に不安過ぎる…何より、あいつは明らかにテレーズに懐いていない…)
親より、親に顔の似ているだけの私を慕ってるのはどうなんだろうか…まぁ、そもそもあの二人が普通に母親やってる姿も想像出来無いんだが…
(ま、今はまだ…何処まで行っても子供…軌道修正はいくらでも出来るか…)
最も、親には全くと言って良い程…懐いてないからな…私がやるしかないのか…ハァ…やれやれ…また、厄介事を背負う事になりそうだ…