「あの…聞いても良いですか?」
「まぁ、急にあんな事聞かされて…聞きたい気持ちは分かるが、な…」
何だかんだ、こうしてこいつと出会ってからの半年間…当人の気質、それから…戦いを捨てざるを得なくなり、唐突に目標も…文字通り何もかも無くなったこいつが、これからの自分を納得させる為掲げてしまったそのお題目…それ故か、私にいくら邪険にされ様と…普段鬱々としている私の様子を見て来たのがフローラだ…そんなこいつが、あんな事を聞かされれば…色々聞きたいのは当然だろう…
「色々聞きたい事は有りますけど…取り敢えず一つに集約する事にします…時間が止まってるって、一体、どう言う事ですか?」
「……それな…ふぅ…正直に言おう、フローラ…私は今、お前を信用している…だから、私の言える事を話す…」
「言える事…?」
「私は以前、この世界に来たばかりの事を良く覚えていない…お前やジーン…それからイレーネの前でそう語ったな…?」
「ええ、聞きました…」
「実を言うとな、本当に私には過去の多くが無いのさ…」
「え…?」
「私は過去の大半の記憶を、文字通り失っているんだ…だから、いつも過去を誰かに聞かれてもはぐらかしてたのさ…」
「失ってるって、何で…?」
「サーゼクス…」
「え…」
「全てを知りたければ、あいつに聞け…私の残ってる数少ない記憶に…答えはあいつが知っていると有る…」
「……ふぅ…そこまでで、何となく分かりました…」
「…何?」
「確か、サーゼクスさんやグレイフィアさんは都合の悪い記憶を消せるとお聞きしました…貴女は多分、お二人…あるいはサーゼクスさんに、当時の記憶のいくつかを消されている…」
「ふぅ…そうだ、恐らくな…そして…私も覚えてない事だからこれまた推論になってしまうが…それを望んだのは、多分私自身だ…あいつらは…私がそうしてくれ、とでも言わん限り…そんな事はしない。」
私は…サーゼクス、グレイフィアに対してある程度の信頼を抱いている…その上で、思う…仮にあの二人がそんな事をするとすれば、私が…望む以外には無いと…
「そうですか…でも、テレサさんは…何故そんな事を…?」
「分からん…そこら辺は私にもさっぱりだ…それに、消すにしても全てを消されてる訳じゃない…私は明らかに、過去の記憶が中途半端に残っている…普通私が記憶を消すなら、全て消すのを選ぶだろうにな…」
実際、未だ残っている記憶が…今の私を悩ませる原因の一つになっている…元は人間の、それも"男"だったと言う記憶…少なくともこれだけでも消していれば、私は…ここまで悩み続ける事は無かった筈だ…だが、そこを中途半端に残している…
「あの二人も、さすがにピンポイントに都合の悪い記憶だけを纏めて消す、と言うのは不可能だ…下手をすると、単なる記憶喪失では無く…廃人が出来上がるリスクが有る程…記憶の消去とは難しく、繊細な作業になるらしい…」
「…なら、本当に何故そんな事を…理由を聞いてみた事は無いんですか?」
「ああ、無い…あの二人が、特にサーゼクスがそんな事をするなら…それ相応の理由が必ず有る筈だ…そう思う程には…私はあいつを信頼している…だから、聞いた事は今まで一度だって無い。」
「…テレサさん?」
「何だ?」
「…可笑しいと思いませんか?」
「…何がだ?」
「以前、サーゼクスさんとは長い付き合いだと言ってましたよね?」
「そうだな、覚えてない事も多いが…あいつとは、相当古い付き合いなのは間違い無い…」
少なくとも、あいつがグレイフィアと知り合う前からの付き合いなのは確かだ…そして、当初…あいつが私に対して恋愛的なアプローチを掛けていた頃が有ったのは…確かに覚えている…
「貴女は過去の多くを覚えてない…なのに、どうして…貴女はサーゼクスさんをそこまで信じられるんですか…?」
「……ふぅ…お前、あいつを疑ってるのか?」
「そりゃ、信じてるテレサさんには悪いですが疑いますよ…だって…貴女の記憶を消したのはサーゼクスさんなんですよ?…そして、記憶の操作が出来ると言うなら考えてもしまいます…消すだけでは無く、自分に都合の良い記憶を植え付ける事も出来るんじゃないかって…」
「…ふむ、そうだな…それは当然考えないとならない事だな…だが、それでも…私は、あいつを信じている…」
「何故、ですか…?」
「朧気に残る記憶の中…確かに有るんだよ…友人の様な、家族の様な…一周回ってただの腐れ縁の様な…そう言う深い付き合いをあいつとした記憶がな…」
「…それが…後から植え付けられた物じゃないって、どうして言い切れるんですか…?」
「さてな、結局は…どっちでも良いのかも分からん…それが後から植え付けられた物だとしても…あいつと居て、私が苦しんだ覚えも無いからな…だったら、それが偽りでも…私は、構わない。」
「……納得出来ません…」
「そうだろうな…」
「…一つ、良いですか…?」
「何だ…?」
「…その事を、これから私がサーゼクスさんに問い質しても構いませんよね?」
「…ああ、構わん…お前にはもう、その権利は有る…好きにしたら良い…ただ、今日はやめとけ。」
「何故…あ。」
私は部屋の隅を指差した。
「相変わらずそこで寝ているガキを、家に帰してやれるのはお前だけだからな…」
デネブが帰ってすぐ…再び眠りに付いたマリア…身体の動かせない私は連れて行くのは無理だし…それから、仕事の忙しいサーゼクスやグレイフィアも論外…
「頼んで良いよな?あいつの事を?」
「ハァ…そうですよね、分かりました…今日はやめます……あ、すっかり忘れてました…ご飯貰って来ますね?」
「ああ、頼む…」
フローラが慌てて部屋を出て行くのを…私は黙って見送った…