アザゼルはしばらく電話先で沈黙を保っていたが…私が引き下がらないと言うのを悟ったのか、やがて深く息を吐いた後…再び声を出した。
『…分かったよ、本当の事を教えてやる…ああ、最初の検査の時点で…あいつの能力には気付いていたぜ?』
「やはりか…何故言わなかった?」
『その意味が無かったからだ、あの時点では…』
……まぁ、その言い分自体は…分からんでも無い。
「あの時点で…あいつの肉体成長スピードがあそこまで早いとは思っていなかった…そんな所か?」
『ああ、そうだ…だから…俺もまだ、話すには早いと思った…』
……アザゼル…コイツを無条件で信じるのは非常に危険、それは分かっている…だが、それでも…
「アザゼル、もう一つ聞かせてくれ…お前は、悪戯に争いの目を残す奴じゃない…少なくとも私は、そう信じている…」
『……』
「何故放置した?…お前なら、せめて能力の封印ぐらいは出来たんじゃないのか…?」
そうだ、この点だけはどうしても納得が行かない…先の時点で、この事を聞かなかった自分を殴り付けてやりたいとすら思う…
『ハァ……お前な、俺を某青いネコ型ロボットか何かだと勘違いしてねぇか?』
もし、私の考えてる事が事実なら…
「マリアはお前が創った様な物だろう?」
『馬鹿か…確かに母体で有るテレーズの身体を妊娠が可能な様に創ったのは俺だし、同性であるオフィーリアとヤッても妊娠する様に手も加えたがな…そもそも、オフィーリアの方は女性としての生殖能力がほとんど死んでいたから…そこをどうにかするのもかなり苦労したし、実際に妊娠するのだって…そこまで高い確率だと思ってなかったんだぜ?』
「……お前、それで子供が出来ると豪語したのか?」
『ケッ…そりゃ出来るって言うさ…何せ、"俺が"そうなる様に創ったんだからな……ただ、本当に出来るまでヤると思ってはいなかったがな…』
まぁ、オフィーリアの方がかなり積極的だったし…そうなるのは想像に難く無いが…しかし、そうなのか…
「じゃあアイツは…お前が二人の遺伝子を採取して創った、試験管ベビーとかじゃないのか? 」
『違ぇよ、アイツは…ちゃんと正規の手順を踏んで受精し、テレーズの子宮に着床した…正真正銘あの二人の実子だよ。確かに受精の際にオフィーリアの身体に手を加える必要は有ったが、それだけは間違いのねぇ事実だ……そして当然、アイツの能力も異常な成長スピードも…全部アイツの自前のモンさ…俺は、アイツ自身には一切何もしちゃいねぇ…それだけは、誓って言えるぜ。』
「……信じて良いんだな?」
『神器を植え付けたりとかは別にしてねぇ…まぁ、規格外になる所までは一応想定の範囲内だ…最も、せいぜいクソヤベェガキになるか…あるいは全く普通の子供になるか…の、二択まで想像してたぐらいだけどな。』
「……」
『…で、俺は隠してた事は話したぜ?これ以上何を聞きてぇ?』
……どう考えても、今はここでやめるべき…少なくとも、私の理性がそう告げている…だが、我ながら単純な奴だとは思うが…私はもう、アイツを放っておく事など出来無い…この短時間で私は既にクレアや黒歌たちとと同じくらい、アイツを大切に思ってしまった…だから…
(聞かねばなるまい…)
「アザゼル、アイツの成長スピードは本当に緩やかになるのか…?止まって、くれるのか…?」
『……気付いちまったか。』
「ここまで来てそこに思い至らない程…私は馬鹿では無いつもりなんでな。」
『……正直に言うぜ?俺にももう分からねぇよ…お前の危惧は分かってる…アイツがこのまま止まらず、一気に老化する可能性を考えてるな?』
「ああ……どうなんだ?」
『何度も言わせんな…分からねぇ…無責任って言われても仕方ねぇけどよ、本当に分からねぇんだよ…ただ、両親共に不老不死の存在から誕生したガキだ…さすがに何処かで止まると思うがな…』
「一気に年老いて死ぬよりはマシだが、それでも…私は不憫に感じる…出来れば、止まって欲しいんだかな…」
『…子供時代ってのは誰にとっても貴重な時間だものな…気持ちは、分かるぜ?』
アイツは大人びているが、確かにまだ子供だった…あのまま一気に歳を取るなど、容認したくない…何も知らない子供のままで居させられなかったクレアが身近に居るから…尚の事、そう考えてしまう…
『ただな…余計なお世話って可能性も有るぜ?気付いてんだろ?アイツ、肉体のスピードに追い付いてはいないがそれでも、知能の方も加速度的に上がって行ってるのをよ?』
「だが、急ぐ事は無い筈だ…まだ生まれたばかりの子供で有るなら、そのまま子供のままで居たら良い…そう思うのは私の……いや、大人のワガママだと思うか?」
『いんや、お前は間違ってねぇよ…俺だってその方が良いと思ってる…こうして関わっちまったらな、放っておくなんてのは出来ねぇさ……ただ現状、出来る事は何もねぇ。そもそも、原因も分からねぇんだよ…俺だって、どうにかなるならそうしてやりてぇって思うぜ?』
「本当に全く分からないのか…?」
『……一つ、仮説で良いなら…思い当たる事は有る…』
「それは?」
『…アイツが、自分の意思で早く大人になろうとしている…』
「…つまり、成長スピードに関しては…実はアイツが始めから自分で制御出来ていて…自ら、早くしていると?」
『実はアイツの身体をいくら調べてもな、細胞分裂のスピードが異常に早い理由が…科学的に全く、説明が出来ねぇんだよ…当たり前だが、特殊能力がどうのとか不老不死の血を引いているとか言うのとは…コレは全く別の話だ…そもそも、お前ら半人半妖の老化スピードは人間とそう変わらねぇんだろ?』
「恐らくな…まぁ、人間より少し老化スピードが遅いと言う所じゃないか?…と言うか、一定年齢で肉体の老化がほぼ完全に止まる訳だから何とも言えんが…」
戦士候補の奴は大抵、幼少期に組織に拾われている筈だ…その後、すぐ妖魔の血肉を身体に取り入れるのか…それとも間を置くのかは知らないが…で、血肉が身体に完全に馴染んでから訓練をしているのは確実…手術後、すぐに亡くなる奴もいるだろうがそれは間違いが無い筈だ…そして、馴染んだ後は全盛期の十代後半から二十代前半まではちゃんと肉体が成長している筈……まぁ、この辺の説明はクレイモア原作でもそこまでやってなかった気がするが…
『まぁ、とにかくだ…誕生要因の中には成長スピードが早くなる原因が無いんだよ…何度も言うが、コレは普通…特殊能力とは別の話だ…先天的に能力を持ってたって、そこは間違いねぇ…ま、例外は有るんだがな…』
「……つまり理由が有るとすれば…アイツは透視以外にも肉体の成長スピードを自分で調整出来る能力を持っており、それを…今この瞬間もフルに使用している…?」
『アイツ、普段妙に昼寝の時間が長いらしいな…仮に能力を絶えず使用してるなら、当然体力…あるいは、それ以外の何かを使用している筈だ…全く代償のねぇ力なんて、普通は存在しねぇからな…』
「何故、そこまでして…」
『それは結局アイツにしか分からねぇな…と、慌てんなよ?こいつは…あくまで俺の仮説でしかねぇからな…』
「…だが、辻褄は合う…」
『俺はあくまで、一番可能性の高い事を言ってるだけだ…ただ、そうだとして…全く理由が思い浮かばねぇ訳じゃねぇ…』
「…一体、どんな理由が有ると…」
『…守り、支える為…誰をかは、俺も何とも言えねぇがな…』
「守る?」
『子供ってのは、結局何処まで行っても守られる前提の存在だろ?力も弱いしな…ただ、当人自身に守りたいモンが有んならそれでは都合が悪いだろ?なら、強くなりたいと思うのは当然だ……そして、その一番の近道は…』
「肉体を急速に成長させる事…」
『…実はそう考えると説明の付く事がまだ有る…お前らの肉体は必ず全盛期で老化が止まり、ずっとそのままなんだろ?なら、何があろうと全盛期の状態を保とうとする訳だ…そこで質問だ、お前が仮に今突然、半人半妖の身体のまま子供の姿に…まぁ、普通は先ず有り得ない話だが逆行したとする……どうなると思う?』
「…戦士として最高のパフォーマンスを発揮させる為、その場で急激な肉体成長と加速度的な老化現象が起こる…そう言いたいのか?」
『まぁ、その辺は実際にそうならないと確かめらんねぇ事では有るがな…ただ、アイツの身体にそう言う現象が起きてる可能性が有るって話だ…』
……いや、別の問題が出て来たんだが…
「それでは能力では無く、アイツの身体がアイツの意志と関係無く成長を促してる可能性が出て来ないか?」
『そのパターンも有り得るな…どっちみち、証明出来ねぇ話だが…まぁ、そうだった場合…アイツ自身にも止めようが無いって話になるが…』
「……本当に他に方法は無いのか?アイツが、自分でやってるから…説得してやめさせる…それ以外に、防ぐ方法は無いのか…?」
『そうだ…もし、アイツが自分でやってる訳じゃねぇなら…俺たちには結局どうする事も出来ねぇって話だ…』
「何て事だ…!」
無力感に苛まれてしまう…私は、何もアイツにしてやれないのか…!?
『まぁ、今はな…』
「……アザゼル?」
『この俺が、そんな問題いつまでも放置する訳ねぇだろ。俺が黙っていたのは結局…まだ解決法が見付かって無かっただけだ…探してるに決まってるだろ、今もな。』
「アザゼル『大体、そこまで問題が有んのか?』…何?」
『高々二十代そこそこの知能持ったくらいで何が大人だよ…俺もお前も、一体いくつだと思ってる?そんなんで一人前語るなんざ、それこそ百年早ぇっての。』
確かに、そうだったな…
『いっそ、嫌ってくらい甘やかしてやりゃ良いのさ…見た目や中身がどうだろうと…所詮、相手はまだまだ知識も経験も浅いケツの青いガキみてぇなもんなんだからな。』
「前向きだな、お前は…」
『お前が相変わらずネガティブ過ぎんだよ…昔からちっとも変わりゃしねぇ…』
「これでも、少しは変わったと思ってるんだがな…」
『何処がだよ…まぁ、慎重なのは悪い事じゃねぇとも思うけどな…』
「…で、マリアの事…任せて良いのか?」
『言い方は悪いが、肉体の成長スピードが異常なんてのは俺に言わせりゃそれは"ただの病気"だ…こうして関わった以上、治そうとする事は有れど放置は絶対にしねぇよ…本人の意志だって言うなら尚、ふざけんなって言うさ…絶対にそんな能力封印してやる…俺はな、子供が子供らしく緩やかに且つ、健やかに成長して行くのを見るのは嫌いじゃねぇし…実際そうなるべきだと思っている…そこを捻じ曲げるなんて本人が望んでても許されねぇし、そもそも俺が絶対許さねぇ…舐めてんじゃねぇ…ガキはガキらしく、素直に生きてたら良いんだよ。』
「傲慢な言い分だな…だが、嫌いでは無い…」
何より、私も同意する…
『チッ…年甲斐も無く熱くなっちまったぜ…で、もう切って良いか?俺は忙しいんだ……あ、取り敢えず今の話は…』
「分かってるさ、まだ誰にも言わない…」
テレーズはともかく、今…マリアの周りはコイツを含んで皆お人好しばかりだ…こんな話聞いたら、私より遥かに大騒ぎするのが目に見えてる…
『頼むぜ?じゃあ、切るぞ?』
「ああ……アザゼル?」
『ん?』
「…アイツを…マリアを、助けてやってくれ…」
『…任せろ。頼まれるまでも無くそいつは俺の仕事だ…大船に乗った気で居な。』
「…ありがとう、お前と話せて良かった…」
『ヘッ…礼はお前との時間で手を打ってやるよ。』
「フッ…良いとも、こんな身体で良ければ好きなだけ貪れば良いさ…」
今、私はとても機嫌が良い…こんな言葉も、口を吐いて出て来てしまうくらいには…
『おう、楽しみにしてるぜ…じゃあな。』
電話が切られ、私も携帯を机の上に置いた……アイツがあそこまで言い切ったのだ…失敗は無い…時間は掛かるかも知れないが、必ず成功する筈だ……なら、私のすべき事は…
「成功を"祈る"事…まぁ、願いを叶えてくれそうな神はとっくに死んでる上…神を敬うなど反吐が出るとすら思うが…祈る相手は居なくても祈るだけなら結局タダだしな…私はいつも何でも一人でやろうとしてしまうし、偶には…他力本願も悪くは無いか…」
自分が無力と感じるのは最早日常的とも言えてしまうが…今回はそれでも良いとすら思う…と言うか、今回はアイツが本気で動くと決めてる以上…私の出る幕はそもそも無いだろう…
「さて…」
いい加減時間も遅い…寝るべきか…とは言え、今私は少々目が冴えてしまっている…いざ寝ようとおもっても、な……ん?
「良いぞ、入って来い…」
ノックの音が聞こえたので返事をする…こんな時間に誰が?
「…まだ起きてたの?」
部屋に入って来たのはグレイフィアだった。
「お前こそ…いや、お前ら悪魔はこの時間には寝ないか…」
「まぁね……貴女は寝ないと駄目よ?」
「そうしたいんだがな…と言うか、どうしたこんな時間に?」
「…部屋の近くを通り掛かったら、貴女が起きてるのが分かったから、ね…」
……しれっと言ってるが、それは…
「……お前も妖気感知出来る様になったのか?」
「…多分、私たち悪魔はコツが分かれば皆出来るかも知れないわね。最も、私もサーゼクス様にやり方を聞いてたから出来た訳だし…実際にやったのも、今日が初めてだけど。」
「まぁ、本来は必要無い能力だからな…」
この世界に妖魔を含む妖気持ちは数える程しか居ないからな……最も今の所、この世界に妖魔は居ないんだがな…ふむ。
「…ま、時間が有るなら少し…話でも付き合ってくれないか?」
「…心細いとか寂しいとか、そう言う話?」
「……そうかも知れんな…」
実際に指摘されると、そうで有る気がして来る…さっきの出来事はまだ私の心に影を落としているらしい…アザゼルに任せる…アイツに任せれば問題無い…そう思った、筈なのだがな…
「…そんな不安そうな顔されたら断れないわね…分かったわ、少しなら…付き合ってあげるわ。」
「……ありがとう。」
本当に私は友人に恵まれているな…普段、中々意識はしないがな…