微睡みの中、微かだが物音が聞こえ…意識が覚醒して行くのが分かる…次いで、聞こえて来た"音"は今度はハッキリ耳に届いた…目を開く…ッ…
「テレサ?…入るわよ……あら、もしかして寝てた…?」
「…いや、ちょうど今起きた所だ…」
あの後…思いの外頭痛と吐き気が酷く、中々寝付けず…少し前に漸く寝に入ったと言う記憶が有る…寝入る直前…時計は見なかったから何とも言えないが…実際に寝れたのはせいぜい二時間弱程度ではないだろうか…?
「…何か、調子も悪そうね…そろそろ夕飯だから食べるか聞きに来たんだけど…どうする?やめとく?」
「……いや、貰おうか…あ、少し量を減らしてくれると助かるな…」
頭痛は今も多少残っているが、吐き気はもう消えている…何とか食べる事は出来るだろう…
「そう…分かったわ……ところで…」
「ん…?」
「ライザーと何か有った…?」
「…抽象的な質問だな…何か、とは?」
「実はライザーが帰る時会ってね、貴女の様子については何も言わなかったけど…何か複雑そうな顔してたし…こうして来てみたら貴女も調子が悪そうだしね…」
「……ふぅ…別にライザーが私に何かした訳じゃないさ…そうだな、お前今…時間有るか?」
改めてマリアの事をどうするか…この場で私が一人で決める事では無い…既にさっき、そう結論は出しているが…それでもこうして落ち着けた今…どうせならまだ誰かに意見を聞いてみたい…グレイフィアには子供がいるからな…私の知る限り、唯一…身近で現役の"母親"として意見を出せるこの女にも一つ、どうせなら話を聞いてみたい…
「…基本、私は暇じゃないわよ。…でもま、そんな状態の貴女をこのまま放置する気にもなれないし…良いわ、何か悩みが有るなら話してみなさい。」
「…すまんな。」
「そう…マリアの事はこっちでも気に掛けてたけどね…」
「……」
話し終えてから、人選ミスだったのでは無いかと気付く…と言うのも、最近薄れて来てほとんどうろ覚え状態のハイスクールDxDの原作記憶が頭を過ぎったからだ…
確か…グレイフィアは普段はあくまでサーゼクスの従者としてのスタンスを崩す事が無く、実の息子のミリキャスに関してもあくまで仕える主の息子として接していて…基本的に屋敷の中ですら母親として振る舞う事は無かった筈…
「ま、母親としての私の意見を聞きたいと言われてもね…私は基本、ミリキャスに普通の母親として接する事は無いから…何とも言い難いわね…」
「そう、だよな「何て、少し前までの私ならそう言うんだろうけどね?」…ん?」
「少なくとも今は、屋敷の中でなら……出来る範囲にはなるけど…親子の時間を取るようにしてるわ…まぁ、忙しくてあんまり時間を作ってあげられない事も多いし…あの子が今、どう思ってるかは聞けてないけどね…」
「そう、なのか「まぁ、そうするようになったのは…クレアに言われたからだけど」…クレアに、か?」
「彼女、ミリキャスから私の事でずっと色々相談を受けてたそうなの…で、もう一年くらいになるかしらね…あの日、彼女がセラフォルーを頼ってこの屋敷にやって来たの…セラフォルー以外には誰にも何も知らせずにね…」
「……」
まぁ、正直…クレアならやりそうでは有る…あいつは慎重な様で、たまに笑えない行動力を発揮する事が有るからな…
「突然連絡も無しにやって来たクレアに驚く私たちをスルーして、クレアが口を開いて……まぁ、その…怒られちゃったのよね…」
「……あいつが怒ったのか?」
「ええ、あの子があんなに怒るのを…私は初めて見たわ…」
それはまた…私の知る限り、クレアが本気で怒った事は無い…あいつの場合、普通の子供なら怒る様な事でも流してしまうからな…
「…普通の子供から言われる様な事なら私も、申し訳無いけどまともに聞かなかったと思う…でも、母親の居ないあの子に…母親の大事さとか、子供の気持ちとか色々言われたら、ね…癇癪ならまだしも…言ってる事には正当性も有ったし…何より『ミリキャスは…もう自分に母親は居ないと思い込もうとしてるよ』…ショックだった…そんな風に言われちゃったら、私も考える気になるわ…と言うか一番決定的だったのは『まだ小さい内から一杯我慢を溜め込んで、ミリキャスが道を踏み外したら…そんな風に考えた事無いの?』…そうなのよね、本当に居ないならまだしも…あの子の母親は私で、一緒に暮らしてるのよね…」
「クレアにとってはミリキャスは弟の様なものだろうからな…まぁ、怒るのは当然と言えば当然、か…」
「そうね、ミリキャスも彼女を慕ってる…まぁ、最近はその…」
「…好きなんだろう?」
「ええ…そうみたい…」
グレイフィアからしたら不安の種かも知れんが、私は…それこそクレアが良ければ好きにすれば良いと私は思うがな…とは言え、黒歌やセラフォルー辺りからは物言いが有りそうだし…何よりどうも、最近はギャスパーの方にもその節が有る様だからな…
「…まぁ脱線したけど、"今の私"が"母親"としてこの状況に意見を言うなら…ライザーの意見は確かに尤もな部分は有るとは思う…確かに貴女はマリアの叔母…テレーズとオフィーリアが無理なら、貴女が彼女を引き取るのが筋だと思う…でも、私に言わせれば…基本的には貴女は静観すべきね。」
「…ほう?」
「いや、ハッキリ言うけど貴女…当初やらかしてた私以上に、確実に母親なんて向いてないもの…と言うか、実際の親で有る二人が匙を投げてる様な難しい子…貴女本当に育てて行く自信有る…?」
「…ふぅ…有る訳無いだろ。と言うか、普通の子供の相手だって無理だ。」
「じゃ、はなから前提から崩れてるわね…まぁ、別に貴女がどうこうしなくたって…黒歌やセラフォルーの二人だけでもどうにかなると思うけど。」
「…結局の所、どう転ぶにしても私は…そもそも変に母親振らない方が良いと言う事か?」
「言っちゃアレだけど…貴女の場合、正直…オフィーリアより色々子供の教育には悪いと思うけど?」
「…そんなにか?」
さすがにそれは心外なんだが…
「良い歳して家出して、散々周りに迷惑掛ける人に母親なんて務まると思う?」
「……」
改めて言われると…何も反論出来んな…
「ま、とにかく…私がグダグダ考えても無駄って事だな?」
「ええ…大体、オフィーリアの方はともかく…テレーズの方もずっとこのままでいる事は無いんじゃない?」
「…そう思うか?」
「まだお腹の大きかった頃の彼女の浮かべていた笑顔…覚えてるでしょ?あれは"母親の顔"よ」
「…適当な様で、私が思っている以上にテレーズには母親の自覚が有ると…?」
「ええ、恐らくだけど…だから、何とかなるんじゃないかしらね…」
「……ならなかったら?」
「その時はその時…何ならこっちで引き取っても良いけど?」
「…本気か?」
「彼女に関しては普通に人間側で育てるのは難しいだろうし、何かやらかす可能性も考えたら…こっちに居て貰った方が安心だからね…ま、そっちで引き取るならそれが一番良いと思うけど。」
「…ハァ…ま、分かったよ…少し様子を見るさ…」
「そっ…じゃあ食事、持って来るわね?」
「ああ……悪かったな、面倒な話を…」
「今更ね…気にしないで良いわ。」