「……何で毎回最初に私の所に来る?」
「何だ、気に入らないか?」
「別にそうは言ってないがな…」
マンションの一室…私は一人の来客を迎えていた。
床に胡座をかく女の前に有るテーブルに、茶を入れた湯呑みを置く…
「全く…素直にテレサに会いに行けば良いだろうに…」
「お前に挨拶も無しと言う訳にも行かないさ…私とルナにとっては、お前も恩人だからな…テレーズ。」
「…何度も言うが、お前たちに道を示したのはテレサでルナを身体から出したのは黒歌、そして…ルナの身体を作ったのはアザゼルだ…加えて言うと、お前たちの偽造パスポートを用意し…穏便に国に帰れる様に色々奔走したのはサーゼクスとグレイフィア…あの頃お前たちの世話をしてたのだってテレサと黒歌にセラフォルー…それからクレアとアーシアに子猫……ふぅ…何処に私の存在が有る?」
「毎回思うが、お前それ混乱しないのか?」
「何がだ「テレサは、本来お前の名だろう?」…もちろん、想い入れは有ったがな…それでも、あいつに託してやりたいと思ったのさ…あいつは、そうでもしないとこの世界に居場所を見つけられなさそうだったしな…ま、それとは別に…そうしてやるのに躊躇いが無くなる程には気に入った、と言うのも有るが。」
…不思議と…コイツにはあまり隠し事をする気にならない…あいつは元より、他の奴相手なら言わない様な事でも…自然と口をついて出て来てしまう…その癖、不快感は感じない…本当に可笑しな奴だ…
「…まぁ、お前が良いなら別に良いがな「そうやっていつも、他人の事ばかり気にしてて疲れないか?」これでも元はシスターだ、毎回人の悩みを聞くのが仕事みたいなものだったからな…今更、特別それで感じる苦労は無いさ…」
「そうか…で「お前も恩人と呼ぶ理由か?何度も言っているがな…最初に私たちの事に気付いてくれたのはお前だからな」…あいつなら…私が何も言わなくても何れ気付いただろうし、何よりあの日…普通にお前が表に出て来ただろう?」
「それは所詮結果論だな…まぁ、立場が似てた以上…あの日私が表に出て来なかったとしても奴が自分で気付く、と言う事には同意するが。」
「…ふぅ…この話は不毛だ…さてと、本題は?わざわざ一人で来たんだ…今回は私に用が有るんだろう?と言うか…良く毎回の様に安くない飛行機代払ってこっちに来れるな?あいつが心配なのは分かるが…少し度が過ぎてないか?」
「…正直、少ししつこいかも知れんとは自分でも思うがな…あの気質だ、心配にもなるだろう?」
「ハァ…あいつのアレは毎回単なる自業自得のパターンが大半だ…大体、一度関わっただけの奴の事情にポンポン首突っ込むのが悪い。」
「…まぁ、その点に同意はするが…面倒とか言いながらも私たちの事に関しても散々奔走してくれたし、そのお陰で私はこうして生きているんだから何も言えんがな…」
そう言ってガラテアが湯呑みを掴み、中の茶を啜る…
「ふぅ……いや、脱線してるんだが…」
「…そうだったな…それで?何の用だ?」
「あいつは…結局何を悩んでるんだ?」
堪えきれずに溜め息を吐いた…ハァ…コイツもか…
「どうした?」
「…いや…直近でフローラの奴にも、あいつの悩みについて問い質されたばかりでな…全く、あいつの家族は誰も聞きに来ないと言うのに…」
「…そうなのか?」
「…まぁ、あいつらはもう聞きたくはないだろうな。思う所は有るが、気持ちは分からんでも無い。」
「しかし…だからと言って、このままにしてても良いのか?」
「結局答えを出すのはあいつ自身だ…とは言え、自分の事そっちのけで…他人の事ばかり気にしてる内はいつまで経っても答えは出ないだろうがな…」
悩みの内容そのものは誰が聞いても単純かも知れんが、悩み方は誰が見ても深刻なそれ…とは言え、奴自身が本気で答えを出す気が無い上にそこを棚に上げて他人の世話ばかり焼く…まぁ、あいつの周りに色々抱えてる奴ばかり集まって来てしまう事に関しては…最早運が悪いとしか言えん…それでも必要以上に世話を焼く事に関してはどうにかしろ、と言いたいが…
「その癖、抱え込むだけでろくに相談もしないがな…何の為の人脈なのかと聞きたい所だ…ミリアなんて、傍から見れば親友と言って相違無いが…全く相談しようともしてないからな。」
ちなみに、実はミリアにもそれと無くあいつの悩みの内容を聞かれた事が有る……まぁ、あの時はあいつの方でゴタゴタしてたから…先ずは自分の事をどうにかしろと言って下がらせたが。……と言うか、フローラ程真剣に聞いて来ない限りは…私もそもそも何も言う気は無かったが。
「筋金入りなんだな…」
「大体において…一時期私も身体を共にしてた事も有り、あいつの思考も流れて来たから知ってる事も多いが…基本、あいつは私にも肝心な所は何も言わん。そもそもにおいてその頃だって全ての本音を聞けた訳じゃない…本当に抱えてるものに関しては完全に隠し切ったからな…こうして付き合いの長くなった今でさえ、あいつの考え全てについては理解不能だ……いや、最近は特に何を考えてるか分からん…」
「…お前でも分からないと?」
「ああ…これもフローラに言ったが、あいつは行き当たりばったりで生きてる様で実は違う…いつも色々考え過ぎなくらい考えて生きている…そして一人だけで考えて、考え抜いた末に取る行動が周りから見たら考え無しの暴走に見えると言うのが良く有るパターンだからな…」
一体、何をどう考えたらそうなるのか?そう聞きたくなる様な事をいつもあいつはやらかす…本当に…あいつの事を心配する連中には同情するよ…私は距離を置いて正解だった……と言うか、あいつの周りに居る連中も私から見たら大概だ…ほとんどの場合視野狭窄に陥っている…先ずは落ち着かなければ、あいつの暴走の理由など見えて来ないと言うのに…
「オマケに普段は安定してる様に見えるから、尚タチが悪い…一見まともな状態に見えても、また…何か大それた事を考えてるんじゃないか…私は、いつもそう思ってしまうな…」
「尚の事、理解者が必要なんじゃないか?」
「だろうな…ま、私には無理だ…だからフローラに丸投げした…フローラのあのしつこさなら、あいつが根負けする可能性は有る…」
「家族では理解者になれないか「家族だからこそ言えない事は…残念ながら有る…お前なんて、今ちょうど実感してるんじゃないか?」…確かにな。」
そもそも種族が違う以上、価値観や考え方も異なって来る以上…完全な理解者になるのは難しい…お互い譲り合う形で家族にはなれても…理解し合う事は出来無い…
「あいつには何でも相談出来る仲間が必要だ…家族にも言えない悩みを打ち明けられる友人がな「一人で無くても良いだろう?」…お前、自分の家族以上にあいつを優先出来るか?」
「!…そうか、それがフローラを選んだ理由か?」
「とにかくしつこく、粘り強く…何より…且つ、失うものが元々何も無い奴…だから、フローラに任せようと思ったのさ…他に守らないといけないものが有る奴に、あいつの事情に踏み込むのは難しい…」
「ふむ…私では、厳しいか…」
「お前は自分の家族を大事にするんだな…そもそも、お前はあまりこっちに来るのも良くない…ろくでもない奴に目を付けられたら、最悪家族には二度と会えなくなるぞ?」
コイツはあくまで"人"として生きるべきだ…少なくとも私は、そう思っている…結局は、押し付けかも知れんがな…
「ふぅ……分かったよ、大人しくしてるさ「ま、そうだな」…ん?」
「普通の友人にはなれるさ…あいつには、一々地雷を踏んで来ない気楽な…そう言う存在も必要だ。」
「…なら、これからもあいつには"友人"として接して行くとしよう…」
「そうしてくれ。」
「…さてと、そろそろ行く…」
「これからあいつの所か?」
「ああ……なに、余計な事は言わないさ…じゃあ、またな。」
「ああ。」