「…フローラ?」
その日、わざわざホテルの一室までやって来たそいつを見て私は困惑していた…
「一応こっちに来てるとは聞いてたんですけど、さすがにホテルに泊まるくらいまでしか予想は出来ませんし…テレーズさんにもホテルの場所と部屋番号こそ聞けましたが……正直、今日部屋に居てくれて助かりました…」
「…まぁ、今回は名目上仕事とは言え…シスターとしての業務は現状全部ルナの奴に任せてるからな…とは言え、お前はとにかく運が良かった…こうしてホテルに泊まるのは仕方無いにしても、ルームサービスはさすがに高く着くと言うあいつの方針で今回の様に海外まで来ても私たちは自炊が基本だ…あいつが普通の人間とほぼ同じ量の食事が可能になり、私も半覚醒した事でまともな量の食事が必要になるからな…ふぅ……少々前置きが長くなったが、私はそろそろ買い出しに行くつもりだったんだ…」
「その、あまり長く話は出来無い、と?」
「…察しが良くて助かる、もうちょっとしたら…ルナがこの部屋に戻って来るだろうからな…」
…一応最初に用向きは聞いたが、今も相変わらず私は戸惑っている…"組織の目"の役目を負っていた私は基本、向こうではほとんどの戦士と交流は無かった…当然、当時はフローラと面識は無い…私がこっちに来てからもフローラがこの世界に来た頃なんて、私の方はしばらくゴタゴタしてたし…その後何とか落ち着いてからも、存外早く向こうに帰る目処が着いた為も有り…結局フローラとは今日までろくに会話もした記憶は無い……まぁ、実はそれ以外のメンツとは意外と話す機会が有ったりしたんだがな…(どっちみち、フローラの方もしばらくは色々有ったしな…私やルナに構ってる暇は元々無かっただろうが)
「…で、まぁ…テレサの事についてだったか?」
「はい…」
「…昨日テレーズに会った時に聞いたが、お前もうテレーズに色々テレサについて話を聞いてるんだろう?今更…私にあいつの事で何を聞きたい?少なくとも今は、お前の方があいつの事について詳しい筈だ…」
「…ガラテアさんは、何も聞かされて無いんですか?」
…私を知る者は基本、呼び捨てして来るのが主だから敬称付けて呼ばれるのはどうもむず痒い…敬語使われるのもどうも合わん……まぁ、一応ルナもそうなんだが(敬語こそ一応姉と言う事になってる私相手でも未だ無くならないが、最近は良い意味で生意気にはなった…初めは私の前でもそれなりに緊張していたから、それを思えば本当に良い傾向だな)
「…ま、別に言っても良いか…他に守るものが有る奴にはあいつの事情に踏み込むのは厳しいと言われてな…私もさすがにルナ以上に、あいつの事を優先出来るかと聞かれたらそれ以上何も言えんさ…その分、今まで通り普通の友人でいてやるとは決めたがな…」
「そうですか…」
「…ああ、脱線してしまったな…それで、結局私に何を聞きたい?さっきも言った様に、今はあいつの事ならお前の方が良く分かると思うが?」
「その…私はもう、踏み込むと決めた筈なんですが…」
「……冷静になったら尻込みしてしまった、か?」
「はい…恥ずかしながら…」
「ふぅ…やれやれ…思った以上に重たいものを背負ってるらしいな、あいつは…」
「え…何故「お前のその反応を見たら何となくな…大体、本当に大した事の無い悩みだったらお前だってこんな所にわざわざ来ずに…さっさとあいつの所に行ってるだろう?」…確かに、そうですね…」
…まぁ自分で勝手に複雑にしているだけで、傍から見たらやはり大した事の無い悩み…と言うのは良く有る話だ…とは言え、それでも当人は本気で悩んでいるなら安易に一般論からのアドバイスもするべきでは無い…慎重になって当然と言えば当然だ。
「ま、私がこの場でお前からあいつの事について聞くのはルール違反も良い所だろうし…聞かない以上は、私からも半端にこうすれば良い的なアドバイスは当然出来無いな。」
「……」
「ふぅ…と言っても、お前もうどうせ…本当はどうするかは決めてるんだろう?」
「え…?」
「私はお前と大して付き合いが有る訳じゃないがな…それでも、今のお前見てたら何となく分かるさ…」
「……」
「要するにお前は、ただ…私に背中を押して欲しいだけなんだろう?」
「そう、ですね「無理だな」っ…」
「それは確実に私の約目じゃない…それなら、もっと相応しい奴が居ると思うが?」
「そうかも知れませんね…」
「ハァ…分かってるのに何で私の所に来た?」
「…聞かせて欲しいんです…貴女から見た、テレサさんはどんな人なのか…」
「それがお前が動く切っ掛けになると?」
「…それは、分かりません…でも、聞いてみたくなったんです…」
「ふ~む…」
私自身、別にそこまで悩む話じゃない…ただ私から見たあいつの印象を話す事、それ自体は特に問題は無い…ただなぁ…
「まぁ、一言で言うなら簡単だ…あいつは個人主義者の多い戦士達の中でも珍しい…と言うか、度し難い程の…言ってしまえば最早病的なレベルのお人好しだ…しかもタチが悪い事に本人はろくに自覚が無い……ま、お前から見た印象とそう変わらんだろう?」
「そうですね…私も、そう感じてます…」
「…じゃあ、今の話だけでは当然切っ掛けにはならない訳だな?」
「それは…」
「ハァ…お前が聞きたいのは、そんな事じゃないんじゃないか?」
「……」
「お前は…結局当時、私とあいつがどう言う関わり方をしたのか…それを聞きたいんだ……違うか?」
「…その、分かりません…」
…いや、どう考えても他に答えが無いだろ…色々な事に自覚が欠けていると言う点で…あいつとこいつは良く似ている…
……ま、話す事自体は特に構わない…ルナも、今更嫌がりはしないだろう。
「ふぅ…お前、今日この後時間有るか?」
「え?えっと…特に予定は有りませんが「飯、付き合えよ」…え?そんな、ご迷惑なんじゃ…」
「少なくともルナは気にしないし、私も気にしない…まぁ、買い出しは付き合って貰わないとならないがな。話の代価と思えば安いものだろう?」
「それは、もちろん構いませんけど…」
「決まりだ、では行こうか?」
「え…今からですか?」
「さっき言ったろう?もうすぐあいつが帰って来てしまうだろうからな…近くにスーパーは有るが、さすがにそろそろ出ないと準備が間に合わん…」
「…成程…分かりました、じゃあ…行きましょうか。」