着替えて私の所に戻って来たお二人ですが…取り敢えず私はガラテアさんのほうに視線を向ける事にしました。
「…確かに、来客に見せるには些かラフ過ぎる格好では有りますが…この後寝るので有れば特別、変な格好と言う訳では無いのでは?」
二人が着ているのはシンプルなデザインのパジャマ…ちなみに、ルナさんが緑色で…ガラテアさんが同じデザインで、色はグレー…特に嫌がる様な格好には思えないのですが……ちなみに、私も眠る時はそんなに変わらない感じの格好だったりしますね…
「……ルナと身体を共にしていた頃からこうなんだが…私は、何となく落ち着かなくてな…」
「かと言って放っておくと姉さんは外出用の服でそのまま寝てしまったり、何なら…本当に裸で寝ますからね…ウチは教会ですから外の人が泊まる事もたまに有りますし、さすがに…そのままって訳には行きませんから…」
あー…さっきのアレ、冗談じゃ無かったんですねぇ…
「…動き易くは有るが、何か有った時に対応しにくいからな。」
「いや、何かって…そっちはそんなに治安悪いんですか?」
「可も無く不可も無く…と、言った所でしょうか…まぁ、この国の治安とはとても比べられませんけどね…とは言え、姉さんは身近で本当に何か起きたとしてもあまり動いて貰いたくないです…確実に、過剰防衛になりますから…」
確かに私たちは人外ですからね…相手が単なる泥棒や不審者相手だと素手で相対しても確実に大怪我を負わせてしまうでしょう…仮に相手が武器を持っていたとしてもそれは過剰になるでしょうね……と言うか、最悪相手は死んでしまうかも知れませんね…
「お前に何か有っても動くなと?」
「…特別大きくも無い教会に盗みに入る人は、そうは居ませんよ……と、脱線してしまいましたね…それで、フローラさんは私たちとテレサさんの間に有った事について聞きたいんでしたっけ?」
「あ、はい…詳しくお願い出来ますか?」
「…ええ、電話でも言いましたが…それは構いません…尤も、何処から話すべきでしょうか…」
「多少簡略化しても良いんじゃないか?フローラ、お前もある程度ならあいつから聞いてるんだろ?」
「…ええ、少しですが…えっと…確か、テレサさんが旅行に行った先でルナさんと出会ったんですよね…?」
「はい、そうです…」
「…そもそも、そこから不思議なんですけど…ルナさんは故郷の…イギリス領に居たんですよね?何故、日本国内の旅行に行ったテレサさんと出会ったんですか?…いや、こうして頻繁にこの国を含む外国に行く様になったのは割と最近の話とも聞いてるので…」
「あー…そっからなのか…アイツは報告が雑なんだな…」
「あの時はほとんど雑談の延長の様なものでしたし、私も…そこまで詳しくは聞いてなくて…」
「…つまり、最初から聞きたいと言う事ですか?」
「ええ…お願い出来ますか?」
「…えっと…姉さん、一応私から話した方が良いですか?」
「そうだな…そもそも、分離前はテレサと一番関わってるのもお前の方だ…私も又聞きで、具体的には知らん…と言うか、この分だと出会いの話からいきなりしてもかえってややこしくなりそうだな…」
「…じゃあ、本当にテレサさんと出会う前…私の始まりの辺りから話した方が良さそうですね…分かりました……と言っても、そこからだと私もそんなに話せる事は無いんですよね…」
「え?」
「何だ…それもあいつから聞いてないのか?ルナは、そもそも記憶喪失だ…恐らく、その状態であちらこちら…食事もろくに摂れない状態且つ…自我を含めた自分の全てが曖昧なまま、あの町で彷徨ってた所をそこの教会に務めていた夫婦に拾われた所がルナの記憶のスタートだからな…」
「…記憶喪失なのはもちろん聞いてましたけど…そんなに、酷かったんですか?」
「ええ…今の両親に助けられる前の事は本当に何も…」
「ちなみに言うと、その頃の事は私も曖昧だ…既に目覚めていたのかもハッキリしない…今思えば、身体は私の物だからな…良く覚醒しなかったと思う…とは言え、あの時点で極限レベルに衰弱してたのは確実だろうから…もし、あの時助けられなかったら…本当に覚醒していただろうな…ルナは自分の身体の事について本当に何も知らなかったしな…」
嘗てのテレサさん以上に危険な状態だったんですね…
「…助けられてから、朦朧としつつも与えられた食事はちゃんと摂っていたみたいです…まぁ、固形物は無理ですし…かと言って流動食や水ですら残すのでお二人に心配を掛けてしまった様ですが…それでも、何とか一週間程で…私は目を覚ましました。」
「その間、ガラテアさんは表に出る事は無く…」
「…こいつが拾われてからテレサに会うまで二年程有るが…さっきも言った通り、少なくとも最初の一年は私は目覚めた記憶は無いな…まぁ、目覚めてても結局私が覚えて無いだけかも知れないが…」
「…ルナさんが目覚めてからの事は…?」
「何と言うか、目覚めてからも私もすぐ回復したとは言えません…その、便宜上記憶喪失とは言いましたが…もっと複雑な状態でして…」
「複雑…?」
「私がまともに目覚めてからも、こいつの記憶を全部読み取れた訳じゃないから知らなかったんだがな…こいつの場合、良く有る記憶喪失の様にエピソード記憶だけじゃなく…実は意味記憶もかなり飛んでたからな…お陰で、こいつが自分の身体の事に疑問を持たない理由もある程度納得出来たよ…」
「…つまり、人としての常識が全く分からなかったと?」
「実は最初の内は言葉もろくに話せなかったんですよね…そもそも、母国語が英語だったのかも分かりませんが…と言うか、何とか意思疎通が出来る様になってからも両親が気を使って…私に対して違和感を感じてもあまり指摘しなかったと聞きました…」
「…そんな状態で、シスターに…?」
「…生来の気質なんでしょうか…最終的に何故か、何もしないで食事だけして部屋に篭ってるのが落ち着かなくなりまして…だから、何かお二人の仕事を手伝わせて欲しいと自分から…当初は恩返しのつもりも無かったです…今は、両親に感謝してますけどね。」
「私は初め、状況にかなり戸惑いは有ったがな…疑問は有る、何より…面倒な事になった…確かにそうも思った…それでも、こいつの記憶を見ていく内にこいつと一緒にやって行くのも悪くないかと思った…加えて、私の方は初めから拾ってくれた二人に対して恩を感じた…拾われた時は私では無くても、助けられたのは確かだ…そりゃ情も湧く…それに、あの二人は後から出て来た私の事も普通に受け入れてくれたからな…ルナ共々、娘として扱うと言ってくれたのも正直…少し嬉しくも感じた…だから、この状況を深刻視するのはやめた…多少不自由だなとも感じたが…夜には私は自由に動けるからな…昼間はルナの生活が有るからあちこち出掛けたりは出来無いが、それでもここは間違い無く私の居たあの世界とは違う完全な異世界…追っ手を気にする事無く送る充実した生活……間違い無く、私の様な化け物に与えられるには過ぎたる物だったしな…」
「ガラテアさん…」
幸せ、だったんですね…
「尤も、初めは良かったんだがな…私が夜に行動出来る様になって半年程で、違和感を感じ始めた…」
「?…違和感ですか?」
「両親に助けられてから一年と半年…私自身、本格的に家の仕事に関わる様になりましたし…その、今思えば何故不思議に思わなかったのか分からないんですが…あまり眠らなくても良かったので、両親が眠ってからも眠らずに仕事をする様になったんです…それも原因の一つかと思うんですが…」
「お前が眠っててもそうなったからな…お前のせいじゃないさ…」
「…ですが…」
「何度も言ったろう?気にしなくて良い…少なくとも、今はこうして分かれた事で私は自由の身だからな…」
空気を読んで何も言わないべき…そう思ったのですが…私は、"ソレ"を口に出してしまいました…
「…つまり、ガラテアさんが出て来れなくなったんですか?」
「…ああ。基本、それまでは毎回こいつの眠りが深くなった時に私が出て来ていたんだがな…ある日を境に、私は中々目覚められなくなったんだ…いや、本当に戸惑ったよ…とは言え、消えるのが私の運命だと言うならそれも良いか…とも、最終的に思ったんだがな…っ…ルナ?」
「…私は、嫌です…そもそも、姉さんの身体じゃないですか…どうして、姉さんが消えないといけないんですか…?」
「ふぅ…私は、お前に消えて欲しくなかった…ただ、それだけの話だ…」
「っ…」
似ている…テレーズさんに…詳しく聞いた事は無いですが…確か、テレサさんとテレーズさんも一時期身体を共有していた筈…そして、テレーズさんも自分が消えるべきだと思っていたと…
「……もう、居なくなりませんよね…?」
「…ああ。私は、少なくとも今の生活が気に入っているんでな。」
「良かった……っ…すみません、続きを話しますね…?」
「ゆっくりで良いですよ…お茶でも入れますか?」
「お客様にそんな事させられません。私が入れて来ま「ルナ、ここはお前の家じゃないぞ?」…あ。」
「飲み物なら私が持って来るさ…フローラ、何か希望は有るか?」
「…特に希望は無いですかね…」
「…ルナ、お前は?」
「私も何でも良いです…」
「ハァ…まぁ、どっちみち茶しか無いがな…分かったよ…」
寝室に居る私とルナさんを残してガラテアさんは奥に……いや、今のルナさんと二人きりにされても…
「すみません…驚かせてしまいましたか?」
「あ、いえ…あの、ルナさん?」
「何でしょう?」
「…ガラテアさんが好きなんですね。」
「ええ。姉として、慕っています…」
「ケンカとかは…?」
「…あの性格ですから、無いとは言い難いですけど…それでも、本気で嫌った事は有りません。」
「…取り敢えずこれ、良ければ使ってください。」
私はポケットからハンカチを取り出した。
「え…?」
「…気付いて無いんですね…貴女、今泣いてますよ…」
「…あ。」
「…どうぞ。」
「…ありがとうございます…」
「話の続きは…落ち着いてからで良いですから…」
「はい…。」
お二人と似ているのに、そこまで仲が良いとは言えないテレサさんとテレーズさん…でも、きっとお二人もお互いに想い有っている…この二人を見ていて私は不思議と、そう信じたくなった…