「ルナは寝ているが…まぁ、この方面の話は別にあいつを交えてする必要も無いからな…」
「…私たちの事、ルナさんに話してないんですか?」
「一応ある程度なら話してるさ…とは言え、元々感覚的に完全な一般人であるコイツには想像も付かない世界の話だし…確認した事は無いが、本当に多少理解出来た程度だろうな…そもそも、今私たちが居るこの世界でさえ既に普通とは言い難い…さすがに、もうキャパオーバーだろう…」
「私たちの世界でさえ、悪魔や天使なんてほぼほぼ架空の存在扱いでしたね…」
「信心深い奴はさすがにこっちより多かったが、少なくとも実際に身近な存在として捉えてる奴は誰も居なかっただろうな……仮に神が実在していたのだとしたら…何とも、残酷な世界を創ったものだが…」
「……」
「…すまんな、今は関係無い話だった…で、お前がこっちに来た日の事だったか?」
「ええ…」
「ふむ…実を言うとな、さっきもチラッと言ったが…私も、切っ掛けそのものは良く分からないんだ…」
確かにそんな感じの事を言っていましたね…しかし…
「?…分からない、と言うのは…?」
「先ず、昼間に私が表に出ていた理由だがな…そこからもう分からない…どう言う訳か、あの日はルナが突然意識を失ったんだ…」
「意識を?」
「あの日…目を覚ました私に分かったのは、今がまだ午後に入ったばかりで…私が眠っている間、表に出ていた筈のルナの記憶が何故か急に途切れている事…そして、恐らく駒王町圏内では有るんだろうが…かなり遠い場所から妖気を感じる、と言う事だけだった…ちなみに、次の日の朝までルナは眠ったままだった様だな…当然テレサが聞いたそうだし…分離した後にルナに私もその時の事を確認したが…ルナは結局意識を失う直前の事を何も覚えていなかった…まぁ、私が話を聞いたのは結構後になってだったし…余計に思い出せなかっただろうがな…」
「…突然意識を失う、と言うのは…さすがに何か、病気を疑った方が良いのでは…?」
「まぁそうなんだが…と言ってもな、あの時ルナはあくまで私の身体の中に居た…この場合、そこを疑わないといけないのは自動的に私の方になるが…結局分離前もこうして分かれてからも、その時以外特別異常は起きていない…ルナの方もここ最近は多少無茶をする事は有るが、倒れたりした事は無い。ま、言ってしまえば完全にあの時初めて起きた事態だったんだよ…まぁ、今思えばルナはテレサに出会って…そこから大して間を置かず慌ただしく移動…タイミング的には、お前たちが来たのも本当にそれからすぐの事だ…あいつはどうやらテレサの妖気を感じ取れていた様だし、加えて…あの時は妖気持ちがテレサを除いても更に四人も居た…ついでに言うと、ルナの方は妖気を圧…一種のプレッシャーとして受け取っていた様だし…帰ってからもテレーズが居る…で、漸く少し慣れて来た辺りで新たに立て続けに三人分の妖気だ…改めて考えたら、精神的に負荷が掛かってそのまま気絶しても何ら可笑しくないとも言えるかもな…そして、その時の事を忘れてても不思議は無いかも知れん…」
「…タイミングが、悪かったんですね…」
「そう気にするな…この世界に来たのは元々お前たちの意思じゃない様だし、何より…ルナ自身は当時の事はろくに覚えてない…と言うか、あの頃一番大変だったのはテレサだろうしな…」
「!…そう言えば、あの時テレサさんは立ってるのも儘ならなかったんですよね…」
「…私はあの場に居なかったから実際に見てはいないが、そうらしいな…で、何とか部屋に戻ればそのまま家族の反対を押し切り…付き添いにミリアを置いてお前たちに個別の聞き取りだからな…寧ろ、良くあいつそんな状態で倒れなかったな…」
「ホント、私たち皆…テレサさんに頭が上がりませんね…」
「そうだな…かと言って、あいつは基本…恩を返すチャンスすらくれないからな……ハァ…何か改めて、ムカついて来たな…」
「感謝の言葉すら適当に流しますし、だからと言ってしつこく言おうものなら…終いにはくどいとか、そう言うの面倒臭いとか言い始めますからね…」
「オフィーリアは長い付き合いの様だし、デネブはあの性格で…ジーンはタイプ的に多少近い物が有る様だからそれなりに上手く付き合って行けた様だが…ヘレンなんて凄かったらしいぞ…」
「?…凄い?」
「ヘレンはアレで結構義理堅い所が有るが、短気な奴らしくてな…以前、今お前が言った様な事を言われてブチ切れて殴り掛かった事が有るらしい…」
「それで…どうなったんですか?」
「…ヘレンはその時だいぶ酒が入ってたらしくてな…すぐ組み敷かれて…更に絞め落とされ、そこから布団で簀巻きにされてな…そのまま自分の部屋に蹴り込まれたそうだ……ちなみにそれからヘレンは、あいつと二人きりで酒を飲むのはやめたらしい…止めてくれる奴が居ないとまた同じ目に遭うとな…」
「漫画みたいな話ですね…」
それは何ともまぁ…まぁ、あの人基本…怒らせると誰に対しても容赦が無いですしね…ま、私の知る限り…滅多に怒らないですけど。
「『あの時はあたしも悪かったとは思うけど…正直、マジで怖かった…』…私にその時の事を話してくれたヘレンは、最後にそう言っていたな…」
自業自得と言えばそうなんでしょうね…
「……あー…また脱線したか、とにかくあの日の事で私が分かるのはこのくらいだ…後は、あいつが起きてからの方が良いな……ちなみに、お前の方は体調は大丈夫か?」
「ええ…ま、私は半覚醒はしてませんし…普通に人外のままなので…」
「…それは別に疲れないって事にはならないと思うがな…」
「大丈夫ですよ、本当に…」
と言うか、私もう…立ち止まってる場合じゃないですから…こうして自分の気持ちに気付いてしまった今…早く、それを告げる資格が欲しい所です…まぁ、焦ったって仕方無いですし…何より、テレサさんが私の気持ちに応えてくれるかもまだ分かりませんが…でもせめて、テレサさんの事を支えてあげられるように…その為には、どうしてもあの人の事を知りたい…抱えてる物を共有したい…
「…なぁ?」
「!…はい?」
「……お前、私が分からないと思うのか?」
「?…何の事でしょう?」
「…惚れたか?」
「!…え?」
「あいつに、惚れたか?」
「!…どう、して…?」
「何…別に、私たちの間じゃ特に珍しい話じゃないからな…性別がどうのとかもう今更だしな……ふぅ…あいつ、ライバルは相当多いぞ?まぁ…あいつは朴念仁の上、結構鈍感な所も有るしな…その分、全員上手い事やってる様だがな…」
「……」
「…ふぅ…一つ良いか?」
「何でしょうか?」
「それも脆いあいつを支える一つの手段だろうし…今の状態のお前を見る限り、諦めろと言っても多分無駄なんだろう…まぁ、そもそも私がグダグダ言う権利は無いし…私自身は現状あいつに恋愛感情は無いから…特に何か言うつもりは元々無いが、そうだな…もし本気であいつを落としたいなら、有効なのは妥協と搦手だろうな。」
「…つまり?」
「独り占めでは無く…先ずはあいつを囲ってる連中に話をすべき、と言う事だ…まぁ、恐らく相当苦労するだろうが…ストレートに行くよりは結果、上手く行く確率は高いと思うぞ?」
「あー…もしかして、黒歌さんたちが…?」
「お前はどうやら気付かなかった様だが、あいつらそもそも全然隠す気無いしな…ちなみに、ルナももう知ってる…」
「…ルナさんは…その…」
「安心しろ…ルナもその気は無い様だ…と言うか、あいつはあいつで…最近向こうで好きな奴出来た様だしな…」
「そうなんですか…」
「ふぅ…余計な事を言ってしまったな……さて、茶のお代わりは要るか?」
「…そうですね、貰えますか?」
「そうか、なら少し待ってろ…」