「相変わらずこんな物しか出せなくて悪いな…」
私の前に置かれたのはペットボトルのお茶…そんなに気にする様な事じゃ無いんですけどね…
「いえ、連絡も無しに突然来てしまった私が悪いので…」
「そう言ってくれると助かる…ルナを起こすにはまだ早いな…」
「あの…やっぱり私、一度帰りましょうか…?」
忙しい時に押し掛けて来てしまった上、重ねて迷惑をお掛けする訳には…
「……いや、それされると寧ろルナが落ち込むからな…お前の方で問題が無いのなら、逆にこのまま居てくれた方が助かる…」
「そうですか…」
「…さて、他に何か聞きたい事は有るか?」
「他、ですか…?そうですねぇ…」
改めて言われると、メインの事柄以外は特に無いんですよね…
「…あー…そう言えば、お前に話しておきたい事が有った…」
「話しておきたい事、ですか…?」
一体、何でしょうか…?
「…その前に聞きたいんだが…お前、今まで同胞の誰かを好きになった事は有るか?」
「…それは…恋愛感情を持った事が有るか、と言う意味ですか?」
「そうだ。」
「……いえ、私も初めての経験です…」
「異性に興味を持った事は?向こうの一般人や、あるいは組織の人間…もちろん、こっちに来てからでも良いが…」
「…それも、特に記憶に無いですね…」
改めて考えて見ても、市井の方々は守る対象としてしか見た事無いですし…組織の方はちょっと…こっちでは関わるのは学園の生徒と教師くらいで…まぁ、教師の方々からは明らかに遠巻きにされてますし…交流はほとんど無く…生徒からは時折声を掛けられますが…そう言う対象として見た事は無いですね……有るとすれば、年の離れた弟、妹の感覚でしょうか…
「そうか…言うつもりは無かったんだがな…実は私は…お前の事でテレサから相談された事が有ってな…」
「?…と言うと?」
「早い話がだ、お前の恋愛対象が同性なのは元々あいつにバレていた…と言う話だ…ま、お前に自覚が無いのも気付いていた様だがな…」
「え!?…じゃあ「いや…残念ながらお前の気持ちについては何も知らん筈だ…と言うか、お前がハッキリ自覚したのも今さっきじゃないのか?」…そう、ですね…」
尤もすんなり受け入れられた辺り…多分、その前からそうだったんでしょうけどね…
「尤も、本能的に察知してたのかも知れないけどな…」
「でも、どうして…私には自覚が無かったのに…」
「…オフィーリアがどう言う奴かは知ってるな?」
「それは…もちろん…」
向こうでは面識は有りませんでしたが、こっちでは同僚として接する事も有りましたし…やらかしについても大体聞いてますね…
「あいつはお前に、オフィーリアと同種の匂いを感じたそうでな…」
「……そう、ですか…」
「ショックか?」
「まぁ、それはもちろん…」
「…気休めになるかは分からんが…一応、お前が一途な奴だとは判断していたぞ…」
「……」
「ちなみに、テレーズが身体を得る前は一時期オフィーリアと身体の付き合いが有ったらしい…今でも、極たまに有るそうだがな…」
「…オフィーリアさんには今はテレーズさんが居ますし、テレサさんだって黒歌さんたちが居るのでは…?」
「…お前には理解出来無い話かも知れないが、私たちの間で一人限定なんてのは先ず無い…そもそも恋愛感情でそうなる事自体が既に稀な話だ…大体、テレサだってオフィーリアの人柄自体は嫌いだと言っていたしな…ま、それでも色々と複雑な感情を抱いている様だが…」
「……」
「大体、あいつ男の相手も居るしな…」
「爛れてますね…」
「嫌いになったか?」
「……不思議ですね…私、そう言われてもあの人を嫌いになれないみたいです…」
「ま、結局は妥協だ…元々あいつ自身にそう言う願望が無い様だし、あいつと付き合って行くなら割り切るしか無いだろうな…」
「そもそも…どうしてそんな話を貴女に…?」
「一応私が特別な訳でも無く、ミリアやジーンにも相談はした様だがな…一番関係性から遠い私からも意見を聞きたいとの事だったな…とは言え、私も別に清廉な訳でも無いんだがな…私も一応向こうでは身体だけの付き合いの相手は居たしな…その辺なら寧ろ、ミリアやジーンの方がまだ適任だと思ったな…恐らく、あいつらはそれが無いからな…」
「…意外と、誰かに相談するんですね…あの人…」
「一番肝心な事は何も言わないがな…ハァ…こっちはそれがメインじゃないと気付いてる事も察知出来てるだろうに…まぁ、あいつの性事情の事も十分に重い話だとは思うが。」
「…そう言う事をしたくなるのは…」
「経験は無くても何となく分かるだろ?要は、現状から逃避したいから私たちは一番お手軽な快楽に逃げるのさ…享楽に浸っている間、その瞬間だけは悩みや負の感情…何もかも消える…終わった後は、どうせ虚しさしか残らないがな…同性同士で何かが生まれる訳も無い…そうでなくても私たちに妊娠は無い…そもそも、現状に絶望しているのに恋愛感情を抱ける訳も無いから更に最悪だ…終わった後、そのまま前触れ無くお互い剣を取っての斬り合いになって…そこから相打ちでどっちも死んだなんて例も聞いた事が有るしな…まぁ、当人たちがそれで良いならそれはそれで幸せだとも思うがな…」
「本当に不思議ですね…テレサさんは、私たちと生まれも違うのに…」
「あいつからすれば、悪魔や天使との共通点は結局長寿な事以外無いからな…そりゃ、色々悩むだろうさ…寧ろ、向こうからこっちに来た私たちの方は結構解放されている様に感じるな…何せ、毎回問題起こしてるのは結局オフィーリアだけだろ?……尤も、最近デネブが暴発したみたいだが…」
「…私は、どうしたら…」
「結局同じさ…あいつの悩みをどうにか出来無い以上…勝手に離れて行かない様、しがみついて…無理矢理繋ぎ止めるしか無い…まさか、私たちの業がそんな事に使えるとは思わなかったが…」
「そもそも、こっちでは同性で交わる必要無いんですよね…」
快楽だけしか逃避する方法が無いと考える程、状況が逼迫してませんし…と言うか、そもそも逃げる必要が無い様な…
「悪魔と人間どころか、悪魔同士でも子供が出来にくい…それは、相手が私たちに変わっても然りだ…残るのは虚しさばかりになるのは同じだな…ただ、そもそもあいつは普通の家族愛や友愛を向けてもやんわりとだが…拒絶するからな…度し難いのは、あいつはそもそも寂しがり屋で実は嫌な訳でも無い癖に逃げる事だ…だったら、どんな手を使っても捕まえるしか無い…全く、向こうで見た奴とそっくりだよあいつは…生まれが違うのを気にしている節は有るが…突き詰めれば結果、同じなのにな…嫌ってないなら逃げる必要なんて無い…何故か、周りが何回言っても理解しない様だがな…同じ時間を生きれない訳じゃないんだ…あいつは良く、自分と分けて長命種と呼ぶし…私もさっき種族が違うとは言ったが…悪魔だって結局殺されるか、自殺でもしない限りほぼ死なないと言う話だ…クレアたちは無理でも黒歌たちとは生きている時間を共有する事が出来る…実は離れる必要など、最初から無い。あいつがそれに気付くだけで、今の悩みからは間違い無くある程度解放される筈だ…ついでに言えば、毎日の様に身体を求められると言う悩みは完全に消えるな…あいつが消えないと確約すれば、連中がそこに執着する理由も無くなる……ハァ…本当にどうしようも無い奴だ…」
一気に喋り切り、自分の前に有ったペットボトルを掴み、中身を一気飲みしたガラテアさんが一息吐いたところで私は声を掛けた。
「…えっと…結構溜め込んでました…?」
「…ふぅ…そりゃあ、な…あいつ、肝心な所は何も言わないし…何なら、相談に来た割にこっちが意見してやっても聞いてるんだかどうだか…こっちの問題は実質もう、消滅した様なものだし…悩みくらい、いくらでも聞いてやると言うのにな…」
「…と言うか、ほぼほぼ…テレサさんの悩みの内容に気付いてませんか…?」
「…これが全部じゃないだろうがな…と言うかあいつは…言ってしまえば向こうに居た頃の私たちの姿、そのものだ…そりゃ分かるさ…もちろん、ミリアやジーンも気付いているだろう…だが、何も言ってくれないなら結局こちらから掛けられる言葉は何も無い…まぁ、さっきも言った通り…意見してやってもろくに聞かず、勝手に自己完結して堂々巡りに戻るのも目に見えてるがな……ハァ…全く、どうしようも無いな…本当に。」
「…どうにか、出来無いんでしょうか…私たちに出来る事は本当に何も…」
「…ま、そこでお前だ…」
「?…私ですか?」
「どうせ、家族がもう一人くらい増えたって今更だ…あいつは友人だってあいつなりに大事には思っているだろうが、家族の方が比重は上だろう…なら、後は同胞のお前があいつらの中に加わったら磐石になる…種族間の違いで悩んでるのは確実な以上…お前ともそう言う関係になるなら、そもそもそんな下らない事で悩む必要無いだろ?」
「えっと…私とテレサさんは同性なんですが…」
「ん?今更か?さっきも言っただろう、それこそ一番些細な話なんだよ……好きなんだろう?」
「それは…はい…」
「何だ、頼りない返事だな…大体において、あいつはヘレンから恋愛相談を良く受けるらしいが…平たく言えばあいつからの意見は気にせず邁進しろ、だぞ?人に言えて、自分は出来無いとか有り得ないだろ?」
「…えっと…その話、私が聞いても良かったんでしょうか…?」
「そもそも、私は離れた所で生活してるんだからあいつらとそれ程深い交流が有る訳でも無い…にも関わらず、私に言ったんだから今更だ……ちなみにヘレンが好きなのは、何と人間の男らしいぞ?」
「…あー…その状況でそんなアドバイスしてるなら、自分が実践出来無いとかとても言えませんよね…」
「ま、それでもそう言うのがあいつだがな…と、また脱線してるか…」
「…結局、私がすべきなのは…」
「あいつを連中の輪に加わって一緒に囲ってしまえ、自分の身体でも何でも…使える物は使って…何が何でもあのバカを繋ぎ止めろ、だな。」
「…最低な意見ですね…」
「お前、そう言いながら満更でも無さそうだぞ?」
「そう見えます?」
「…お前今、満面の笑み浮かべてるぞ?その顔なら多分、大抵の男は落ちるだろうな。」
「…ふぅ…嫌ですよ、だって私は…」
「同性にして同胞の…あのバカが好きなんだろ?」
「ええ…私は、あの人が大好きです…」
今ならハッキリと、そう言えます…
「結論は出たな…どうする?あいつに気持ちを告げに行くか?」
「…いえ、もう少しお二人から話を聞きたいです…遠回りだとしても…」
「ふむ…何故だ?」
「出遅れてるのは分かってます…さっさと動かないと余計に大変になるのも…それでも私は、少しでもリードしたいんですよ…フフ…結構私、独占欲強かったみたいで…」
「なら、あいつらと戦争になるな。」
「無闇に争うつもりは無いですよ…でも、私はあの人と同じ種族なんです…生まれは違っても…私の方が彼女を理解出来る…そう言う優越感は、やっぱり持ちたいんですよ…」
「…私たちから話を聞くのもその一環だと?」
「ええ、私は…貴女たちを利用させて貰います……汚いやり方だと思いますか…?」
「…いや、それであのバカが救われるならそれも良いさ…言っただろう?使える物は何でも使え、と。良いとも、私の出来る事なら何でも協力してやる…」
「…ありがとうございます…あ…どうせなら、ガラテアさんも乗りませんか?」
「……いや、友人としてならともかく…あんなウジウジした奴恋人にするのは御免だな…有るとしても、身体だけの付き合いで十分だ…と言うか、せっかく異世界に来たんだから私だって普通の恋愛がしたいね。」
「残念です「残念って顔はしてないぞ?」…だって、本当はこれ以上ライバル増えるの嫌なんですよ…私一人で彼女を支えるのが難しいのは確かですけど…」
「その割に、顔に独占したいって書いてあるぞ?やれやれ…一緒になって囲えと、言ったんだがな…やはり、お前とあいつらで争う以外無い様だな…」
「……いえ、争いには絶対なりませんよ?」
「ん?「テレサさんは…どうせ私を選びますから」…良いな、頼りないと言ったが撤回だ…今のお前は、滅茶苦茶頼もしい…」
「初めてなんです…初めて、こんなに誰かを好きになったんです…他の人に渡したくなんて有りません…絶対、私が手に入れるんです…テレサさんを…と言うか、渡せる訳無いじゃないですか…優柔不断な相手に合わせて、妥協して…協定結んで囲ってるだけの人たちに。私は、彼女の全てが欲しいんです…」
「クク…これからあいつは大変だな…」
「……」
「そんな顔するな…お前は自分の思う通りに進めば良い…いっそ、監禁するくらいでも良いんじゃないか?そうでもしないと、あいつは理解しないだろうしな。」
「…検討しましょうかね…まぁ、ゆっくりやって行きますよ…時間は、たっぷり有りますし。」
「…変に時間掛け過ぎて、足元すくわれない様にな?」
「分かってます、ライバルは本当に多いですからね…何より、これからどんどん増えるかも知れませんしね…」
「あー…有りそうだな…」
「取り敢えず、最初は彼女の身近な男性陣から彼女を引き離す方法を考えますよ…さすがに、そちらは看過出来無いので…」
「…ま、お前の好きにすれば良い…」
「ええ。」