あんまりゆっくり歩いていてもただ逃げられるだけだと三歩目辺りで気付いたので、じりじりと少しずつ加速していく。
初めはゆっくりと歩く程度だった速度はいつしか早歩きになり、人が走る程度になり、馬の全速力ほどになってもまだ上がる。
体感でおよそ時速で100キロメートルほどになったところで加速をやめて、すぐ近くの兵の群れに突撃した。
常に下から上に切り上げを行うことによって、俺の前の雑兵は蛋白質でできている血袋に変わっていく。
それが上に吹き飛ばされて辺りに血の雨が降るが、一切合切を無視して前へと進む。
途中で何人か将らしき人間も同じようにしてやったが、手応えが無さすぎる。この程度の奴が将で大丈夫なのか?
将としての力は戦う力だが……まあ、実際には用兵が上手いって言う適性もあるが、明らかにかなりの筋肉を積んでいてその実力ってのは……。
……やっぱりこの世界だと女が強いんだな。どうでもいいけど。
そう言うわけで真っ直ぐ真っ直ぐ(流石に100キロだと打ち上がるより体に当たる方が早いから速度は落としたが)進んでいく。このままなら30分もしないうちに袁紹のところま―――
急停止しながら頭を下げ、同時に金剛爆斧を水平に振り回す。
すると周囲の兵はまとめて吹き飛び、まるで決闘場のような空白地が生まれる。
兵が落ちてくると同時に、見事に俺を狙っていた矢に貫かれた馬も落ちてくる。
「……ふむ。華雄は猪だと聞いていたのだが」
そう言いながら出てきたのは、水色の髪をしたチャイナ服の女。手には弓を持ち、その弓につがえる矢は馬を貫いているそれと同じだ。
「……さて、貴様は何者だ?」
ちなみにこれで名乗らなかったら俺はこいつを『鬼太郎《きたろう》』と呼ぶ準備がある。
こっちの姿の名前は知っているようなので名乗り上げはしないが、俺は向こうさんの名前を知らないから聞いてみたんだが……返ってきたのは無言で弓を引く姿。つまり、俺がこいつを鬼太郎と呼ぶことが決定したわけだな。
……あと、ついでにこいつが敵だってことも。
「華琳様の命令だ。ここで死んでもらうぞ」
「できるのか?」
「無論だ」
随分と自信家のようだが、あまり誉められたものじゃないな。
ただ、こうやって話している間に後ろに一人配置しているのはいい手だと思わなくもない。頑張りました、ってところかね。
……しかしながら、若干練度が足りない。それさえ足りていれば触れることくらいはできたかもしれないが、いくらなんでも足りなさすぎる。
とりあえず俺は自分の気配を薄くしながら、相手の首の後ろにだけ気配を叩きつける。イライラのせいで殺気混じりになっているが、これからやることを考えれば特に問題はないはずだ。
その結果、突然背後に殺気と気配が現れたのを感じたったらしい鬼太郎は、とっさに背後に振り返ってしまった。
そうして隙ができたのを確認して、俺は金剛爆斧を鬼太郎の頭に叩きつけるべく振り下ろす。
「秋蘭っ!」
しかし、それは残念ながら新手……長い黒髪をオールバックにした赤いチャイナの女。気配がどこか馬鹿っぽ
「貴様……秋蘭を斬りつけるとは、私が斬れると知っての無礼かコノヤロー!」
……訂正。馬鹿『っぽい』んじゃなく、こいつは正真正銘の馬鹿だ。もしかしたら俺とのファーストコンタクト時のちょろータムより酷いかもしれない。
「……いや、意味がわからないぞ姉者」
「何っ!? 一生懸命考えたのに!」
「……じゃあ、スマン」
「『じゃあ』!?」
…なんだろうなこの漫才。見てて面白いけど、時間がないこちらとしてはさっさと抜けていきたいんだがな。
どうやらまた数人こっちに向かってきてるようだし、それに関の方にも軍が来てるし。
……とは言え、負ける気はしないけどな。華雄としての戦術領域の戦闘も、陳宮としての関を守る戦いも。
何故なら、陳宮の方には便利道具が二つほどあるし、こっちはこっちで傷つけられる方が難しい状態だからだ。
……とりあえず、さっさとこいつら片付けて先に進ませてもらおうか。
無言で近付き、金剛爆斧を振るう。それに気付いた真ん中分けのデコ娘が剣を楯にして防ぐが、無理矢理押し切る。
鬼太郎から矢が飛んでくるが首を傾けたり左手で横から払ったりして避ける。この矢よりセシリーのレーザーの方が万倍早いので、避けるも落とすも余裕綽々という意味で大した違いはない。
「ぐぅっ……」
「……まあ、中々だな。さっきのよりは手応えがあるぞ。主に自慢するといい」
さっきのあいつは俺が挑発したせいで冷静さを欠いていたから本来の実力では無いが、そんなことは俺には関係無い。ただ、俺は基本的に自分が一番楽な戦い方をするというだけだ。
その点こいつも怒らせた方がやりやすそうではあるが、鬼太郎がいるからすぐに鎮静してしまうだろう。戦う知将は厄介だな。
頭のいい奴を騙すのは簡単で、馬鹿を騙すのはそこそこ簡単で、豚を騙すのはできなくはないけど難しく、大天災を騙すのはほんと無理。
そう考えると軍師や知将を騙すのはそれなりに簡単なんだが、馬鹿がいるから話が難しくなる。ああ面倒臭い。馬鹿は知将とか軍師の盲点を真っ直ぐ突いてきて、言われて意識すると軍師とかは自分が騙されている原因に気付いたりすることが多いからな。これだから馬鹿の相手は面倒なんだ。
……あー、助っ人来ちゃった。ナース服みたいな服の二股の槍持った水色の髪の女と、頭にソフトクリーム的な形をくっつけているモーニングスター持ちのちっちゃい娘さん。十字槍のポニテさんと金色の大剣と大槌を持った二人組。刃がぐにゃぐにゃした矛を持ったちっちゃい娘と、拳士・ドリラー・メガネの三人。それに銀髪に褐色の弓使いと褐色黒髪の日本刀使い。鬼太郎と赤デコ娘と合わせて13人。ほっといたらまだ増えるなこれは。
……まあ、さっさと終わらせとくか。手抜きはしてやるから、生き延びたら渾名をつけてやるとしよう。