結局、最後には反董卓連合は退いていった。ずっと戦っているわけにはいかないし、華雄(正確には俺)が強すぎて勝てないと言う理由もある。
何人かの将をリタイアさせたし、数人の君主もついでに殺しておいた。名高い相手じゃないが、それでも自分達に近い人間が殺されて漸く自分も死ぬ可能性があると言う事に気が付いたんだろう。
お陰で俺は恋ちゃんの待つ洛陽の恋ちゃん宅に戻って、また日がな一日のんびりと眠っては時々起き出して恋ちゃんのご飯を作ったりする日常に戻っているんだから構いやしないが。
……そうそう、恋ちゃんのことだが……どうやら暫くの付き合いで恋ちゃんもまた異常人の仲間入りを果たしているらしい。身体能力に特化しているようだが、それで代謝がよくなりすぎて、まさに食べても食べても食べたりないと言う状況になっているようだ。
ちゃんと加減をすれば効率よく動けるようだから困ってはいないが、調練とかで本気で動くと大変な事になる。
それがわかったからあまり本気で動くような事は無くなったようだが、それでも恋ちゃんが常識外に大食いなのは変わりない。毎日毎日食事の準備がたいへんだが……それなりに楽しんではいる。
……野菜とか食材系が武器認定されてなかったら確実に破産してたと思うが。
ちなみに、作りやすい食材は冷凍本マグロとネギ。大根とニンジンと牛蒡等の根菜(芋含む)。それに水と冷凍食品全般。作りづらいのは蒟蒻とか白玉など。白玉粉だったら空気中にいい感じにばらまいて火をつければ粉塵爆発を起こせるから作りやすいんだけどな。
まあ、恋ちゃんは大体のものは美味しく食べてくれるから作り甲斐はあるんだけどな。
「……もきゅもきゅ……銀、おかわり」
「ちょっと待ってな~」
全く、食うの早いなぁ……。
「あははは……ごめんなさい」
「月ちゃんが謝ることじゃないって。それに、忙しいし大変だけどそれなりに楽しいしやり甲斐もある。睡眠時間もたっぷりとれる、かなりいい職場だし」
恋ちゃんに食事を作っていると、こうして時々月ちゃんが来て手伝ってくれたりもする。君主様なのに料理が上手くて家庭的。実に優良物件だと思う。
……ただ、その場合は面倒な姑が一緒に付いてくるだろうけど。
しばぱぱぱぱっと手を動かして料理を作る。全速力じゃないが一般人からすれば目にも止まらぬ速度であるだろう速度に、月ちゃんは悠々とついてくる。癒し系人外と言えばかんちゃんと同じタイプだが、かんちゃんを色々な意味でマイルドにすると月ちゃんになりそうな気がする。
……かんちゃんって怒ると怖いからなぁ……それは俺の周りの全員に言えることだけど、ほんとに怖いからなぁ…………数万数十万のミサイルの雨を全部マニュアルで操作して降らせるからなぁ……。
……ちなみにかんちゃんの天敵はなのちゃん。常時広域に振り撒かれる衝撃でミサイルが即座に誘爆するから。
そんなかんちゃんにちょっと似ている月ちゃんだけど、月ちゃん自身はそこまで強くない。精々ISに乗った俺に出会ったばかりの頃のちょろータムくらいだろう。それよりちょっと弱いかもしれない。
……中学三年夏休みが終わってすぐの頃の蘭ちゃんくらいかな? 重力と常識の鎖から漸く解き放たれたばかりの蘭ちゃんくらい。
…………それなのに、あの腹黒陰険冷血眼鏡は常識なんて物に囚われたまま、月ちゃんまで常識の檻の中に引きずり込もうとする。そんなに自由にするのが嫌かね。
俺なら好きな相手には自由に幸せになってもらいたいがね。
……セシリーの場合は自分から俺に支配されたいと言ってきたからノーカンと言うことにしといてくれ。色々面倒だし、なに言っても無駄だったからもう諦めた。
……ああ、できたできた。ほんとに毎日仮設厨房がフル回転だな。
そう思いながらできたての酢豚を持って恋ちゃんの居る最早食堂的な場所になっている居間に行ったら、見慣れた顔が一つ二つ三つ四つ。どうやらまたたかりに来たらしい。
「やっほー、また来たで~」
「とりあえず青椒肉絲を頼む。肉多目でな」
酒を片手に上機嫌な霞ちゃんはともかくとして、華雄の方はもう少し遠慮ってもんを
「銀~!ツマミちょーらいツマミ!あのゲソとかいうのれええよー」
訂正する。霞ちゃんの方も少しは遠慮しろ。
なんとなくいらっと来たので、ゲソは出さずに塩茹でした枝豆とエビマヨを出しておいた。
が、霞ちゃんは全く気にすること無く枝豆をツマミに酒を飲む速度が加速した。エビマヨの方は恋ちゃんが二秒で片付けた。
「青椒肉絲はまだか?」
「まだだよ」
……ほんと、少しは遠慮を知れ。材料はいくらでも出せるが手間がかかるんだぞコラ。次からは金取ってやろうか?
まあ、金をもらったところで使う宛なんか無いから貰うだけ無駄なんだが。
とりあえず青椒肉絲を作る。肉多目と言われたので肉を多目にしてやる。
まあ、肉だよ? 確かに肉だよ? 黒い子山羊の……では流石に無いが、蛙の。
実は蛙の肉って鶏肉っぽくて結構美味かったりする。あまり好かれてないようだが、食えないどころかむしろ美味い。
本来は青椒肉絲に使う肉と言えば牛肉なんだが、そこら辺は気にしないでくれ。どうせそこまで変わりゃしない。売り物にしてるわけでも無し、自由に作るくらいは許されるだろ。
「……で、ちっちゃい娘さんと腹黒陰険冷血眼鏡は何でここに?」
「ちっちゃい娘さんはやめるのです!ねねには陳宮という立派な名前があるのですぞ!」
「鍼灸?」
「陳宮ですぞ!間違えるなです!」
いや、わざとだけどな。陳宮だったら二音ずつで覚えられるし。
「また美味しいのを食べさせてもらおうと思ってね。……ところで、その呼び方ってなんとかならない?」
なるけどしない。する気も無い。だけど料理は作る。
「………………なにこれ」
「鮪の目玉。見た目は悪いが結構美味いぞ」
ちゃんと下味もつけてるし、ついでに体にも良いしな。
そう言っても腹黒陰険冷血眼鏡は暫く手をつけなかったが、意を決したようにぱくりとまるごと口に放り込んだ。
「……あ、ほんろら……ふぇっほうほいひい……」
口の中でコロコロと舐め転がしているらしく、右のほっぺが膨らんだり左のほっぺが膨らんだりしている。
……相手は腹黒陰険冷血眼鏡なのに、ちょっと和んでしまった。
「……ひょこうろころなんらけろ、こんかひろころれひはひかにおくころがれきはわ」
「そうかい。まあ、精々反乱起こされないように気を付けな」
「……何で今ので通じるですか? 普通今のじゃわからないですぞ?」
「普通じゃなければ通じるだろ」
「納得です。流石はねねを武官にまで仕立て上げてくれやがっただけのことは」
「銀……おかわり…………」
嫌味の途中で陳宮の台詞は恋ちゃんにぶったぎられた。わざとじゃないにしろナイスだ恋ちゃん。
……とまあ、そんな感じで俺は日々を過ごしている。忙しくも中々楽しい、昔を思い出す生活だ。