side out
汜水関の門が、軋みをあげながら開いていく。挑発を続けていた関羽はしめたとばかりに表情を一瞬緩ませるが、すぐにその顔を引き締め直す。
しかしその引き締め直された表情は、すぐに怪訝な物を見る表情にとって変わっていった。
それもそのはず、汜水関の門が開かれて出てきたのは、一度も見たことの無い妙な形をした金属製の塊であったからだ。
しかし、もしもこの場に北郷一刀が居たならば、彼はそれを指してこう言ったことだろう。
タイガー戦車、と。
不意に、キュラキュラと硬い何かが擦れ合うような音と空気を震わせる重低音と共に関羽の視線の先に存在していた金属の塊が前へと進み、門の外へとその全貌を表した。
丸みを帯びている所の無い鋭角的な全体像。鎖を巻き付けているかのような妙な形の車輪に、上部から伸びる筒。それが何かなどわからずに、関羽はそれを見極めようとそれを見つめていた。
不意に戦車の砲塔が回転し、関羽から若干逸れた場所に向く。訳がわからないままに関羽は武器を構え……そしてその行動に救われることとなった。
突然戦車の砲口が一瞬眩しく輝いたかと思った次の瞬間。関羽の真横を何かの群が高速で飛び、その中の一つが構えた青龍偃月刀に直撃して関羽の両手を致命的なほどに痺れさせた。
直後、前後から爆音が響き、そして兵達の悲鳴が関羽の耳に入る。
即座に何かが通り抜けていった側の背後を振り向くと、そこに並んでいた筈の兵の並びに、直線に近い扇状の空白地帯が目に入り、関羽はその場で何が起こったのかをほぼ正確に読み取った。
あの金属の塊から何かが飛び、隊列を組んでいた兵の大半を消し飛ばしていったのだろうと。
そして恐らくそれは石のようなもので、一発ではなく複数発同時に飛ばされていることも。
その証拠として……関羽は自らの得物である青龍偃月刀に視線を向ける。
そこには刃が半ばから粉砕し、無惨な姿を晒している自分の得物が収まっていた。
恐らく構えをとっていなかったら砕け散っていたのは自分だろうと感じながら、視線を戦車へと移す。
まるでそれを感じ取ったかのように戦車は再び動き始めた。
キュラキュラと何かが擦れるような耳につく音を立てながら、高速で近づいてくる戦車。先程の一撃もあり、殆どの兵が怖じ気づいているのを感じ、関羽は歯噛みをしながらも兵に撤退を命じた。
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戦車の中では、撤退していく敵軍を冷静に眺めている目があった。
「……戦車長、敵軍は予想通り、引き返していきます」
「そうか、ならば上策通りに進めるとしよう……砲手」
「了解」
砲手と呼ばれた男は、なんの感情も持たずに砲身に次の弾を込める。
来ているものは古びた革の鎧だが、戦車に装弾するその手つきは明らかに手慣れたもので、ぎこちなさの一つもない。
まるで、何年も続けた仕事を行っているか、あるいはそのためだけに洗脳でもされたかのような違和感を持たせるが、それについて言及しようとする者はこの場にいない。
「主砲、鉄鋼散弾。装填完了しました」
「副砲、近接散弾。装填完了しました」
「了解。……諸君、我々の任務は『恐怖を与えること』だ。ただし全力ではなく、力を半ばまで抑えてなお圧倒的な力の差を見せつけ……そして敗北しなければならない」
戦車長は同じ戦車に乗る仲間達の視線を一身に受けながら、ゆっくりと語り始めた。
その命令に異存は無い。その効果は理解できるし、自分達のように家族のいない者達が死に、それが自分達に優しさと慈しみを持って接してくれた董卓のためになるのならば喜んで死ににいく。
「戦車長。それは意味の無い言葉です。すでに我々は死に行く覚悟を決めております」
……どうやら、彼らの仲間も同じように考え、そしてこの場にいるようだった。
彼らは自らの故郷を護るためにここにいる。そのことを理解させられた戦車長は、帽子を深く被り直してから小さくなにかを呟く。
「……では、これより力半ばでの『殲滅戦』を開始する。操縦手、これより最大速度を35として考え……全速前進だ」
「了解。発進します」
こうして彼らの想いを乗せた戦車は、戦場に向けて進んでいくのだった。
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キュラキュラと動き続ける戦車は、去り行く劉備軍の殿に砲弾を放っては数を削っていく。
飛距離と方向に差のある散弾は、若干上方に向けて放たれるが故に広範囲に渡って兵の体を食い破る。
ある兵は頭を消し飛ばされ、またある兵は下半身だけを。別の兵は左右の半身を失い、丁度身体の中心に弾を食らった兵はぽっかりと大きな穴を開けてしまっている。
関羽は時折飛んでくる散弾を壊れた得物で弾いていくが、正面からは受けていないと言うのに次々に致命的な皹が入っていく。
そして関羽は走りながら、自分達の背後に控えている袁紹の軍に戦車をすり付けようと軍を二つに別れさせるべく指示を飛ばす。
その指示は狂乱している群衆の意識にするりと入り込み、見事に袁紹軍の眼前で真っ二つに別れて見せた。
猛進する戦車は遅れた劉備軍の兵を轢殺し、そしてそのまま袁紹の率いる軍へと突入していく。
そのついでとばかりに砲口を劉備軍の牙城旗に向け、主砲を撃ち込んだ。
かなりの距離があったはずだが、そんなものは関係無いとばかりに正確に命中させてへし折っていった。
……牙城旗とは、その将を表す、名と同じように大切なものだ。
それをへし折っていったにも関わらず、何事もなかったかのように袁紹軍へと進んでいくそれに、関羽は腸が煮えくり返る思いだったが、武器を失った自分では何もできることがないと理解しているために歯軋りをしながらも一度退却していく。
この後、関羽は再び戦車の前に立つことになるが……その結果どうなるかを知ることは神ならぬ関羽自身も知ることは無かった。