side out
戦車は金色の鎧で統一されている袁紹軍の兵を踏み潰しながら、副砲から何十と言う近接散弾をばら蒔き続けている。
たった一台の戦車によってもたらされた被害は既に二千を越え、未だにその数を着々と増やし続けている。
そんな中で武将や兵から何百何千と言う数の矢を浴びせかけられ、轢殺されながらも突き出された剣や槍がその戦車を襲う。
その中には十分に武将と呼ばれるだけの武を誇り、ただの鉄であれば自らの武器を使って砕いたり切り裂いたりして見せる者も居たが、その戦車の装甲には若干の傷をつけることも叶わなかった。
それもそのはず。この戦車は形は普通のタイガー戦車だが、材質があからさまに違っている。
通常の鉄鋼板ならば切り裂けた可能性はあるが、このタイガー戦車は一夏の『千の顔を持つ英雄』によって一から作られている特別製。とある世界にて無類無敵とまで呼ばれた宝具が、英霊として世界に召し上げられた際に更に強化されたと言う、存在自体が反則とも言える物。大した気や魔力すら纏っていない鉄の塊がいくらぶつかってきた所で壊れるものではない。
……しかし、それはあくまでも戦車の状態が万全であった場合の話であり、なんらかの原因で一部でも不調になってしまえば、そこから勝利の目を拾い上げていくのが人間という存在だ。
例えばそれは整備不良であったり、動かす人間の操作ミスであったり……キャタピラに何度も差し込まれた剣による行動妨害であったりと、実に様々だ。
何度もキャタピラに剣を咬まされているうちに、戦車の左のキャタピラの動きが悪くなってきていた。
これは、自らの命を省みずに何度も挑戦を続けた勇者達の思いの結果となるのだろう。それを成功させるのに、いったいいくつの屍を作り上げてきたのか……。
散っていった勇者達の想いを胸に、諸侯の将は立ち上がった。
劉備軍からは槍を代えた関羽と趙雲、張飛の三人が。曹操軍からは夏候姉妹と親衛隊の許緒が。袁術配下である孫策からは、孫策自身と黄蓋が。袁紹からは二枚看板の文醜と顔良の二人が。
このままあの鉄の塊一つに(お飾りとはいえ)総大将を討ち取られてしまうと後々色々と面倒だし、この場で貸しを作っておくのはけして悪いことではないから……と言った打算的な者も居るが、できる限り味方の命を救いたいと思ってこの戦いに参加した者もいる。
そしてあの戦車に対抗する方法は、既に孫策と黄蓋からもたらされていた。
それは、武器に気を纏わせて攻撃の威力を増し、そして一ヶ所を集中して狙い続けると言うもの。意識して気を扱える者は孫策と黄蓋、そしてこの場にいない楽進くらいなものだが、それでも気すら使うことができずにいる一般兵よりはずっとマシだと言えるだろう。
「それで、それができればあの化物をなんとかできるのか?」
「一応傷付けることくらいはできるって言うのはわかってるわよ? ほら、見にくいけどあの長い筒の右側に傷がついているでしょ?」
そう言って孫策が指し示した場所には、僅かな傷がついている戦車の砲塔があった。
それはほんの僅かな傷ではあるが、今の諸侯軍にとっては唯一とも言える光だった。
「……わかった。それでは気を扱えない私達があれの気を引く。隙を見てあれを仕留めてくれ」
関羽を初めとした数人が、若干軌道を歪めながらも迫ってくる戦車に向き直る。今まであれの動きを見ていてわかっていることは、あの長い筒の向いている方向にしか初めの大威力攻撃はできないと言うことと、側面からも正面の物ほど強くはないが飛び道具を撃てること。そしてあれは常識外れに頑丈で、傷付けることができるのは気を使って強化された攻撃のみだと言うこと。
「多分だけど、一番装甲が薄いのは前のところに付いてる横に長い四角の中と、中々難しいだろうけどあの筒の中ね」
「……根拠は?」
「勘よ」
ふふん、と笑いながら答えた孫策に、関羽はやれやれとため息をついた。
(とは言え、どこを狙うかを決めていたわけではないし……構わんか)
それ以前に、決め手には孫策と黄蓋くらいしかならないのだが……関羽はその事には何も言わないでおく。
「劉備玄徳が臣、関雲長……参る!」
「張翼徳、行くのだっ!」
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「戦車長。左の履帯に何かが詰まったらしく、動作に異常があります」
「弾薬が殆ど残っていません。自爆用を除けば5度斉射すれば完全に無くなります」
「敵陣から兵が引き、武将だけが集まり始めました。どうやら決戦に出るようです」
次々に飛び込んでくる良くない報告に、戦車長と呼ばれている男は目を閉じた。
戦果は兵を一万と少し、凡将を十数人。名将と言われるものは仕留めてこそいないが、重傷を負わせたのが数人。戦果としては十分だと言える。
狙い通りに諸侯軍にこの戦車の強さと恐怖を刻み付けることには成功し、そして相手の意識の中の戦車の情報を下方修正させることにも成功している。命じられた戦果としては、十分だ。
目の前には十人ばかりの将。名将猛将勇将ばかりを集めたそれらに、恐らくこの戦車は敗北することになるだろう。
相手はどうやったのかはわからないがこの戦車を傷付け、壊す方法を持っているようだし、それ以前に手数が足りなさすぎる。
弾薬が足りない。燃料が足りない。いくらこの戦車を動かす腕があっても、戦車が動かなくなっては意味が無い。
この戦車は強いが、私たち自身は強くもなんともない一兵士だ。目の前に並ぶ絢爛たる将達に勝てるとは思えない。
「……ですが、まだ最後の時には至りません。こいつが全てを吐き出して、最後に一花咲かすとき……それが我等の『最期』です」
「戦車長!我等の最期をあの恥知らずの侵略者共に見せ付けてやりましょうや!」
「……ああ。そうだな」
戦車長は再び帽子を深く被り直し、前を向く。
「……砲手」
「へい!」
戦車長の言葉に、照準の前に座っているいかつい顔をした男が返す。
「……副砲手」
「はい」
戦車長の言葉に、副砲の前で弾を持っていたやせ型の男が返す。
「……装填手」
「はい」
戦車長の言葉に、主砲の弾を運んでいた小柄な男が返す。
「……操縦手」
「はい」
戦車長の言葉に、運転席に座っていた髭面の男が返す。
全員の顔を順に見て、それから戦車長は口を開く。
「戦車長として、最期に命じる。…………私と共に、ここで死んでくれ」
その言葉に戦車長意外の男達は顔を見合わせ、それから笑顔で口を揃えて言った。
「了解!」
……この十数分後。孫策達を中心とする将に翻弄されながらも、たった一台で万を越える兵を殺した戦車は最期に夏候惇の左腕と張飛の右足の膝から下、関羽と黄蓋の武器を道連れに爆散し、果てた。